説明

高用量のウルソデオキシコール酸で非アルコール性脂肪性肝炎を治療する方法

本発明は、高用量のウルソデオキシコール酸(UDCA)又はその薬学的に許容可能な塩をこのような治療を必要とする患者に投与することによって、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を治療するための方法に関し、患者は治療中に血糖特性の顕著な改善を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2009年3月17日付けの米国仮特許出願第61/160,955号の利益を主張し、引用によって本明細書中に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本発明は高用量のウルソデオキシコール酸(UDCA)をそれを必要とする患者に投与することによって、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
肝はヒト身体の中で最大の器官であり、右上腹部上部に位置する。この器官は非常に複雑かつ特異的であり、重大で生化学的な多くの機能を担う。臨床上の肝機能は身体からの毒素の除去とエネルギー蓄積及び血液凝固に関するタンパク質の製造とを含む。肝は更にミネラル、ビタミン、及びグリコーゲンの形態であり、エネルギーを提供するのに多量に代謝されるグルコースを貯蔵することに関与し、更には赤血球を代謝し、血流において特定の代謝副産物を分解する役割を担う。
【0004】
NASHは多くの場合線維症で特徴づけられる慢性肝疾患の形態である。NASHは時に肝硬変及び肝細胞癌に進行し、一部の患者では肝移植が必要となる。NASHに罹患している患者は一般的には、脂肪沈着物、組織変性、炎症、細胞変性、肝硬変、遊離脂肪酸の上昇、及び他のこのような異常を受ける。NASHは過剰なアルコール摂取に匹敵するが、アルコールの乱用がない肝における組織学的変化の発生に関連する。大滴性脂肪肝及び小滴性脂肪肝、小葉及び門脈の炎症、ならびに場合によっては線維症及び肝硬変でのマロリー体はNASHを特徴づける。NASHは更に通常、高脂血症、高血糖症、肥満症、及びII型糖尿病と関連づけられる。肥満症はNASHを併発する最も一般的な生理学的状態であり、約70%以上のNASHの罹患者は肥満症の臨床上の診断を示す。NASH患者における肥満症の範囲は一般的には、脂肪肝の量と相関し、かつ非インスリン依存性糖尿病と関連しない傾向にある。しかしながら、非インスリン依存性糖尿病によって、脂肪性肝炎の罹患率は、患者がインスリンを要する場合に特に増加する。死亡前の患者における体重減少で脂肪肝が緩和するように思えないが、若干逆説的には、死亡前に体重減少した肥満の患者は事実上脂肪性肝炎の頻度が高くなりうる。この疾患は30歳未満の患者にはほとんど発生しないが、50歳代及び60歳代の患者に特に流行している。脂肪性肝炎及び炎症によって特徴づけられる他の臨床上の状態は、過剰な絶食、空腸回腸バイパス、高カロリー輸液(total parental nutrition)、慢性C型肝炎、ウィルソン病、ならびにコルチコステロイド、カルシウムチャネル遮断薬、高用量の合成エストロゲン、メトトレキサート、及びアミオダロン由来といった薬剤副作用を含む。
【0005】
NASHの病因は未知であるが、脂肪肝の度合と線維症の度合との間に相関が存在するように思われる。例えば、「Wanlessら,Hepatology,12,1106(1990)」参照。更に、NASHは異なる多くの遺伝子の相互作用及び生活習慣の要因で生じうる。ミトコンドリアの機能障害、酸化ストレス、及び代謝制御不全(metabolic deregulation)は総て、脂肪性肝炎の病因と関連している。現時点ではNASHの疑いのある患者の初期診断は疲労及び右上腹部の不快感である。肝腫大は90パーセントのケースに見られる。超音波検査は現行では、肝の脂肪浸潤の最良の検出方法である。肝細胞性の遊離脂肪酸の上昇によって、膜の損傷が更なる炎症、胆汁うっ滞の可能性、及び細胞内小器官の機能障害とともに生じる。細胞死及び線維症は持続的な炎症を伴い、肝硬変は損傷が続いた場合に生じる。脂肪性肝炎は今日、末期の肝疾患の重大な原因と考えられており、突発性肝硬変の未知数の原因となりうる。「Powellら,Hepatology,11,74(1990)」参照。不幸なことに、肝硬変が確立した時点で、唯一の利用可能な治療法は同所性肝移植となる。
【0006】
NASH患者は特徴的には、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT又はAST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT又はALT)のレベルといった血清アミノトランスフェラーゼのレベルが標準ないし高くなる。ASATのレベルはNASHの患者においてはALATのレベルよりも高くなりうる。γグルタミルトランスペプチダーゼ(γ−GT)のレベルは一般的には更に、NASH患者で上昇している。
【0007】
NASHに関連する疾患(例えば、肥満症及びII型糖尿病)の罹患率は増加しているため、NASHの罹患率は更に増加すると予測される。従って、この疾患は米国ならびに他国において新興の公的な問題となっている。現時点では、NASHに対する定評のある治療法はない。この疾患は大部分の肥満患者、又は代謝疾患若しくは糖尿病の患者に影響を与えるため、体重調節及び糖尿病の処置はNASHを治療する試みの中で用いられ、肝状態を改善する際に短期間の有効性を示している。しかしながら、これらの治療はその使用に付随する副作用又は困難性無しではなされない。従って、長期間の肝保護療法を提供する特性が良好で安全な薬理学的治療のニーズが未対処のままである。
【発明の概要】
【0008】
UDCA(ウルソジオールとしても既知)は天然の親水性胆汁酸である。UDCAはヒト胆汁において微少量、特定種のクマの胆汁で多量に検出される。UDCAは水に実質的に不溶であるが、腸液に可溶な結晶状粒子を含み、苦味のある白色粉末である。UDCAはエタノール及び氷酢酸に易溶であり、クロロホルムに微溶であり、エーテルに難溶であり、事実上水に不溶である。UDCAは原発性胆汁性肝硬変の患者の治療用にURSO250(登録商標)及びURSO Forte(登録商標)との商標の下で市販されている。UDCAは更に、胆嚢結石症の患者用に、あるいは肥満患者が急速な体重減少を受けた場合の胆石形成の予防用にActigall(登録商標)との商標の下で市販されている。
【0009】
UDCAは肝保護性(heptaprotective)の特性(抗アポトーシス性、抗酸化性、細胞膜の安定化)、及び免疫調節性の特性で既知である。UDCAは特定の慢性肝疾患に有効であると分かっており、肝機能を改善すること(Festiら,Curr Clin Pharmacol2(2):155−77(2007年5月))、及び疎水性で強い毒性の胆汁酸が低減すること(Angulo,Cur Gastroenterol Rep4(1):37−44(2002年2月))が知られていた。
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
13ないし15mg/kg/日のUDCAで1年の治療を受けたNASH患者の小さな予備調査において、UDCAが肝酵素及び脂肪肝のレベルを改善するが、線維症又は炎症は変化しないことが発見された。Laurinら,Hepatology23(6):1464−67(1996年6月)。別の調査においては、13ないし15mg/kg/日のUDCAでの2年の治療の有効性を、NASHの患者で無作為なプラシーボ対照試験において評価した。Lindorら,Hepatology39(3):770−78(2004年5月)。Lindorの調査ではUDCA群とプラシーボ群との間に差異が示されなかった。近年では、Georgescuによる非盲検試験及び「Georgescu,J Gastrointestin Liver Dis16(1):39−46(2007年3月)」は、NASHの患者におけるペントキシフィリン、ロサルタン、アトルバスタチン(astorvastatin)、及びUDCAの作用を評価し、15mg/kg/日のUDCAの治療群でALAT及びγ−GTのレベルは有意に低下するが、脂肪肝、壊死性炎症、又は線維症の改善がないことを実証した。上述の調査の総てが13ないし15mg/kg/日の用量で行われており、いずれもNASHでの十分で有効な療法としてUDCAを構築していなかった。
【0011】
患者が、原発性胆汁性肝硬変(van Hoogstratenら,Aliment Pharmacol Ther12(19):965−71(1998年10月))、原発性硬化性胆管炎(PSC)(Harnoisら,Am J Gastroenterol96(5):1558−62(2001年5月);Mitchellら,Gastroenterology 121(4):900−07(2001年10月))、及び妊娠での良性の肝内胆汁うっ滞(Mazzellaら,Hepatology33(3):504−08(2001年5月))、ならびに嚢胞性線維症(van de Meebergら,Scand J Gastroenterol32(4):369−73(1997年4月))に罹患した場合にUDCAとの用量反応相関があることを報告している。しかしながら、成人のPSC患者における28ないし30mg/kg/日のUDCAの更に近年の完全な調査が、患者の予後及び生存に対するUDCAの作用を評価するために行われ、UDCAは高頻度の重大な有害事象及び全体的な予後不良と関連づけることができ、ひいてはPSCにおけるUDCAで得られる生物学的改善を上回りうると結論づけている。
【0012】
この調査において、PSCの成人患者は異なる7の米国医療センターでプラシーボに対する28ないし30mg/kg/日のUDCAの無作為な二重盲検対照試験に登録された。特に、150名のPSCの成人患者は2002年ないし2005年の間に登録され、最大6年間UDCA又はプラシーボで治療された。患者は治療前及び5年で肝生検及び胆管造影を受けた。通常の肝検査は3月ごとに行われた。患者は1年ごとに評価され、内視鏡検査は2年と5年に行われた。主要な予後の測定は肝代償不全の発生、胆管癌、肝移植又は死亡であった。
【0013】
この調査は、副作用による無益性及び懸念性のため、データ及び安全性モニタリング委員会(Data Safety and Monitoring Board)の勧告で終了した。登録時に、UDCA(n=76)及びプラシーボ(n=74)の群は性別、年齢、疾病の期間、血清のASAT及びアルカリホスファターゼ(AP)のレベル、肝組織診断、ならびにMayo risk scoreついては同様であった。治療中に、ASAT及びAPのレベルが低減し、低減の量はUDCAでプラシーボ群より大きかった(p<0.01)。調査の最後では、プラシーボでは17名の患者のみ(23%)であったのに対し、UDCAでは28名の患者(37%)が事前に設定した臨床上の評価項目の1つに到達した。基準の階層化特性(Mayo risk score、食道胃静脈瘤の存在、及び病理組織段階)について調整した場合、主要な評価項目(すなわち、死亡、肝移植、肝移植に関し最小に列挙した判断基準、食道静脈瘤及び/又は胃静脈瘤、あるいは胆管癌)のリスクはUDCAの患者についてはプラシーボの患者よりも2.2倍大きく(p=0.011)、死亡又は移植については、調整した相対リスクは3.3(p=0.029)であった。主要な評価項目に到達するリスクは年齢、性、又は大腸炎の存在の差異によって変化しない。重大な有害事象はプラシーボ治療群よりもUDCAで一般的であった(43%に対して61%:p=0.03)。基準となるMayo risk scoreは最初の生検における肝硬変の存在といった予後不良と強く相関するが、これらの作用は治療群の間で相異していない。
【0014】
この調査は、28ないし30mg/kg/日のUDCAでの治療がPSCにおける血清の肝検査の改善と関連するが、長期間の治療は生存を改善せずに、高頻度の重大な有害事象及び予後不良と関連すると結論づけた。
【0015】
本発明はNASH患者に対する新規の治療措置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、体重1kgにつき1日に約28ないし35mgの用量のウルソデオキシコール酸(UDCA)又はその薬学的に許容可能な塩をそれを必要とする患者に投与することによって、NASHを治療する方法に関する。一実施形態においては、患者における線維症のレベル及び/又は肝炎のレベルが治療前のレベルと比較して低減する。別の実施形態においては、患者の血糖指数は治療期間中、実質的に安定して推移する。好適な治療期間は3月、6月、9月、12月、2年、3年、4年、5年等、及び5年超を含んでもよい。一実施形態においては、患者は更にII型糖尿病に罹患している。別の実施形態においては、本方法は更に、チアゾリジンジオンといった抗糖尿病薬の投与を具える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、NASH患者が実施例2に示すように1年を超えて30mg/kg/日のUDCAを受ける場合の時間に対するALATのレベル(IU/L)の平均値を示すグラフである。
【図2】図2は、NASH患者が実施例2に示すように1年を超えて30mg/kg/日のUDCAを受ける場合の基準に対するALATのレベルの平均値の変化を示すグラフである。
【図3】図3は、NASH患者が実施例2に示すように1年を超えて30mg/kg/日のUDCAを受ける場合の時間に対するASATのレベル(IU/L)の平均値を示すグラフである。
【図4】図4は、NASH患者が実施例2に示すように1年を超えて30mg/kg/日のUDCAを受ける場合の基準に対するASATのレベルの平均値の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、NASH患者が実施例2に示すように1年を超えて30mg/kg/日のUDCAを受ける場合の時間に対するγ−GTのレベル(IU/L)の平均値を示すグラフである。
【図6】図6は、NASH患者が実施例2に示すように1年を超えて30mg/kg/日のUDCAを受ける場合の基準に対するγ−GTのレベルの平均値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、28ないし35mg/kg/日のUDCAを投与することによって、NASHを治療する方法に関する。本方法は例えば、アミノトランスフェラーゼのレベル(例えば、ALAT及びASAT)の低減、γ−GTのレベルの低減、線維症の低減、及び炎症の低減を含む顕著な利益を患者に提供する。更には、28ないし35mg/kg/日のUDCAによって、本方法によって治療されるNASH患者に対する血糖指数が顕著に改善する。特に、本発明による28ないし35mg/kg/日のUDCAで治療したNASH患者は血糖レベル、インスリンレベル、及びHbAlcレベルが安定する一方、プラシーボで治療したNASH患者は経時的に血糖レベル、インスリンレベル、及びHbAlcレベルが増加した。これは驚くべき、かつ非常に有益な本発明の効果である。
【0019】
UDCAの化学名は3α,7β−ジヒドロキシ−5β−コラン−24−酸である。UDCAの分子構造は以下の通りである:

【0020】
本発明によると、UDCAはその塩形態で単独投与しても、あるいはその薬学的に許容可能な塩として投与してもよい。総ての提供した重量は他に特定されない限りにおいては、遊離酸の当量に基づいている。本発明は更に、単回又は複数回のいずれかの用量において、UDCA又はその薬学的に許容可能な塩を1以上の薬学的に許容可能な担体、賦形剤、希釈剤、及び/又は添加剤と組合わせた医薬製剤を含む。このような医薬製剤は当該技術分野の当業者に既知の従来技術によって調製してもよい。
【0021】
本発明においては、UDCAの一般的な用量は体重1kgにつき1日に約28ないし35mg(mg/kg/日)の範囲であり、好適には約28ないし30mg/kg/日であり、更に好適には約30mg/kg/日である。その薬用量は単回用量として投与してもよく、1日に2ないし6用量、好適には1日に2ないし4用量といった1以上の容量に分割してもよい。好適にはUDCAの薬用量は、朝方及び夕方に毎日投与される。正確な薬用量は投与の頻度及び方法、性別、年齢、体重、治療すべき対象の一般的な状態、治療すべき状態の性質及び重篤度、現行で治療すべき任意の合併症の存在、ならびに当該技術分野の当業者に明確な他の因子に依存する。好適にはUDCAの薬用量は食物とともに投与される。
【0022】
本発明の医薬組成物は他の活性成分、例えばビタミンEといった栄養剤、スルホニル尿素といった抗糖尿病薬(例えば、トルブタミド、アセトヘキサミド、トラザミド、クロルプロパミド、グリピジド、グリブリド、グリメピリド、及びグリクラジド)、メグリチニド(例えば、レパグリニド及びナテグリニド)、ビグアナイド(例えば、メトホルミン)、αグルコシダーゼ阻害薬(例えば、ミグリトール及びアカルボース)、グルカゴン様ペプチド(GLP)のアナログ及びアゴニスト(例えば、GLP−1、エクセナチド、エキセンディン−4、及びリラグルチド)、DPP−4阻害薬(例えば、ビルダグリプチン及びシタグリプチン)、アミリンのアナログ、PPARα及び/又はγリガンド(例えば、aleglitazar)、ナトリウム依存性グルコース輸送体1(SGLT−1)阻害薬、フルクトース1,6−ビスホスファターゼ(FBPase)阻害薬、チアゾリジンジオン(ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、及び他のグリタゾンを含む)、インスリン、ならびに他の治療薬を含むように調合してもよい。好適な薬学的に許容可能な担体、賦形剤、希釈剤、及び/又は添加剤は例えば、溶剤、充填剤、溶解剤、希釈剤、界面活性剤、着色剤、保存剤、崩壊剤、流動促進剤、潤滑剤、香味剤、結合剤、及び湿潤剤を含む。
【0023】
本発明の医薬組成物は経口、直腸内、経鼻、肺内、局所(頬側及び舌下を含む)、経皮、嚢内、腹腔内、腟内(vaginal)、及び非経口(皮下、筋肉内、くも膜下腔内、静脈内、皮内を含む)経路といった任意の好適な経路によって投与してもよく、経口経路が好適である。好適な経路は対象の一般的な状態及び年齢、ならびに治療すべき状態の性質に依存する。
【0024】
本発明の医薬組成物はカプセル、錠剤、粉末、及び顆粒といった固体剤形、ならびに液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ、及びエリキシル剤といった液体剤形で経口投与用に調合してもよい。必要に応じて、固体剤形は腸溶コーティングといったコーティング剤で調製してもよく、その他の場合は当該技術分野で公知の方法により活性成分の放出を制御又は持続するように調合してもよい。
【0025】
[実施例]
本発明は次いで以下の実施例によって記載される。明細書中のこれら及び他の実施例の使用はどの程度にしても例示のみであり、決して本発明あるいは任意の例示的な形態の範囲及び意味を限定しない。同様に、本発明は本明細書中に記載の任意の特定の好適な実施形態に限定されない。実際に本発明の変更及び変形は本明細書を読んだ時点で当該技術分野の当業者に自明となり、その精神及び範囲から逸脱することなくなされうる。従って、本発明は特許請求の範囲が権利付与する全範囲の等価物とともに、特許請求の範囲の用語によってのみ限定されるべきである。
【実施例1】
【0026】
《実施例1:UDCA製剤》
本発明の医薬組成物のある実施例は以下の不活性成分:結晶セルロース、ポビドン、グリコール酸デンプンナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、エチルセルロース、セバシン酸ジブチル、カルナウバろう、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、PEG3350、PEG8000、セチルアルコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及び過酸化水素;と組合わせた250mgのUDCA(又は、500mgのUDCA)を含む。この医薬組成物は経口投与用にフィルムコート錠として調合してもよい。
【実施例2】
【0027】
《実施例2:NASHを治療するための28ないし35mg/kg/日のUDCAの臨床的調査》
多施設無作為二重盲検式のプラシーボ対照調査は、NASH、ALAT、及び/又はASATが50IU/Lを超えることが組織学的に証明された患者における、28ないし35mg/kg/日のUDCAの有効性及び耐容性を試験するために行われた。総数120名の患者が12月間、UDCAかプラシーボのいずれかを受けるように計画された。治療薬は食事とともに投与された。調査の間、肝の生化学的特徴、耐容性及び副作用は定期的にモニタリングされた。調査の間、体重過剰で肥満の患者は低カロリー食に従うことによって体重減少させて、特定レベルの身体活動性を維持するように奨励した。患者が摂取する、関連する医学的状態用の治療薬は認可されていた。12月の最後に、患者は最後の調査評価を経て、調査治療は停止した。
【0028】
〈調査の母集団〉
試験対象患者基準:患者の年齢は18歳を超えること;NASHと適合性のある肝生検:過去18月間の肝細胞の膨張及び/又は肝小葉の壊死と関連する20%を超える脂肪肝の存在;スクリーニング来診時の50IU/Lを超えるALAT又はASATのレベル(過去12月でトランスアミナーゼのレベルが少なくとも3上昇している)。
【0029】
試験対象外の患者基準:肝生検は過去18月間前になされていること;過去12月間のトランスアミナーゼの正常値が1回程度であること;患者が過去12月間にUDCAによって治療されていること;肝生検の時点とスクリーニングの時点との間に15%を超えて体重減少したこと;女性については1日に20gを超える、あるいは男性については1日に30gを超えるアルコールを消費していること;慢性B型肝炎又は慢性C型肝炎、C282Yの変異に対する同型接合性に関連する血清フェリチンの増加、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、十分に裏付けのある自己免疫性肝炎(特異的自己抗体、高ガンマグロブリン血症(hpergammaglobulinaemia)、組織学的適合性のあるもの)、α1アンチトリプシン欠損症、ウィルソン病、HIV感染症といった肝炎の他の原因の存在;NASHの副因:長期間のアミオダロン誘発型NASH、コルチコステロイド療法(corticotherapy)、過去2年以内の肥満症の外科手術、Tamoxifen(登録商標)での治療;B型小児肝硬変又はC型小児肝硬変;肝癌の存在;ロシグリタゾン(rosilitazone)又はピオグリタゾンで現在治療していること、あるいは過去3年の肝生検時に治療したこと;スクリーニング前の過去6月にビタミンEで治療したこと;妊娠中又は授乳期の女性;中央検査室で読み出すのに無効な組織診断のスライド。
【0030】
中止の判断基準:対象は理由があってもなくても、かつ更なる治療に不利益なく調査を中止するのは自由であった。患者は事前調査の評価後であるが、任意の調査投薬を受ける前に治療中止した患者は離脱者と見なされないが、データベースに含まれなかった。本調査に含まれ、少なくとも1の用量の調査投薬を受けた患者はデータベースに含まれ、無事な母集団の一部と見なされた。本調査に含まれ、調査投薬の投与を受け、かつ少なくとも1の事後基準となる評価が利用可能な患者は包括解析(ITT)母集団の一部として分析した。任意の主要なプロトコル違反なく調査を完了したITT母集団由来の患者はプロトコル群(PP)母集団の一部として分析した。
【0031】
離脱者は特に以下の理由のために生じた:患者が試験対象/試験対象外の患者基準の違反に含まれたこと;患者が個人的理由(引越し、時間がない等)のために参加の中止を選択したこと;後援者が有害事象後に患者の治療を中止したこと;調査者又は後援者が顕著なプロトコル違反のために患者の治療を中止したこと;患者が調査中に禁止した薬剤を用いたこと;患者が即時型の医学的条件を発生するか、患者の継続した関与を損ない、調査を中止させる外科的手段を要求したこと。
【0032】
調査治療は以下の例で停止された:肝トランスアミナーゼの事前調査のレベルの5倍の増加(非代償性肝硬変の稀な場合を除いてUDCAと関連する肝毒性の報告はない。通常NASHにおける肝トランスアミナーゼの変動が存在し、事前調査レベルからの3倍の増加ではなく5倍の増加のみが調査投薬の休止を要求する);皮膚のアレルギー反応の発生。
【0033】
主要な評価項目:主要な評価項目は12月での基準に対するALATにおける割合の変化であった。副次的な評価項目は:12月での基準に対するASATにおける割合の変化;12月での基準に対するγ−GTにおける割合の変化;12月での正規化したALATでの部数の割合;12月での正規化したASATでの部数の割合;線維症指数における変化(FibroTest);炎症指数における変化(Actitest);内臓脂肪症候群のマーカーにおける変化;及び安全性;を含んだ。
【0034】
FibroTestは肝線維症を定量的に推定する非侵襲性血液試験であり、線維症の新興を予測するのに用いることができる。ActiTestは壊死及び炎症の度合を測定することによって、肝疾患の活性度を評価するのに用いられる非侵襲性血液試験である。
【0035】
患者の人口統計は表1にまとめている。
【0036】
【表1】

【0037】
内臓脂肪症候群のマーカーは表2にまとめている。
【0038】
【表2】

【0039】
治療:UDCAは30mg/kg/日の用量で提供され、食事とともに2の分割した用量で1回は朝方に、1回は夕方に摂取された。プラシーボ錠(活性化合物のない賦形剤)はUDCAの錠剤と同様に見えるように調製されて、二重盲検性を保証する。プラシーボ錠は更に、UDCAの錠剤と同一の分割した用量で摂取された。
【0040】
方法−治療群への患者の指定、用量の選択、及び各々の患者に対する投薬のタイミング:患者は1:1(活性:プラシーボ)の比率に無作為化された。プラシーボの使用は検査の二重盲検性を保証できた。推測的な階層化は計画されなかった。無作為化は4のブロックであった(2はUDCA用、2はプラシーボ用)。そのラベルのように、薬剤は食物とともに2ないし4の分割した用量で投与されなければならない。本調査においては、用いられた用量は30mg/kg/日であり、各々の患者に対する用量は患者の体重に依存した。
【0041】
有効性及び安全性:有効性の評価は血清トランスアミナーゼレベルの測定ならびに線維症の血清マーカーを含んだ。血清トランスアミナーゼが上昇し、肝生検がNASHを示す(肝の膨張及び/又は小葉内の壊死と関連する20%を超える脂肪肝(Bruntら,Am J Gastroenterol94(9):2467−74(1999年9月)の)患者は調査の対象となった。肝生検は安定した代謝状態の(直近の体重減少がなく、直近の(過去6月内に)メトホルミン、スルホンアミド、又はインスリンでの抗糖尿病治療がない)患者において18月未満で始めるべきである。肝生検の4の最初のスライド及び/又は6の盲検の(すなわち、呈色のない)スライドが病理学者によって調査された。均一に集中化したスライドの読取りのために、後者は組織学的組み入れ基準の確定のためにヘマトキシリン・エオシン染色、Hemalun Sirius Red染色、及びPerls染色によって呈色された。インフォームドコンセントの署名及び確証的な組織診断の後にのみ、血液検査が行われた。
【0042】
肝線維症の非侵襲性測定はFibroTest及びActiTestの評点の算出とともにアポリポタンパク質A1、総ビリルビン量、γ−GT、α2ミクログロブリン、ハプトグロブリン、及びALATの血清レベルを測定することによってなされた。ヒアルロン酸、糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)、及びトランスフェリンの測定は更にLaineら,Hepatology39(6):1639−46(2004年6月)によって行われた。インスリン耐性はグルコースレベル及び空腹時血糖を考慮した、単純化したHomeostasis Model Assessment(HOMA−IR)を用いて生物学的に測定された。インスリン耐性の臨床的な評価は胴囲測定(内臓脂肪症と関連するため)、及び肥満度指数(BMI)=体重(kg)/身長(m)の算出に基づいた。
【0043】
結果:表3ないし7参照。
【0044】
《表3:12月での基準に対する平均値の変化(総ての対象)》
【表3】

【0045】
血糖症(内臓脂肪症候群)に対する作用:血糖はプラシーボ群で増加したが、UDCA治療群で安定に維持された。これは統計学的に有意な差異となった(p=0.023)。血中インスリンは12月でUDCA治療群において低くなった(p=0.038)。HbAlcは6及び12月でUDCA治療群において低くなった(p<0.05)
【0046】
《表4:12月での基準に対する平均値の変化》
【表4】

【0047】
肝酵素の作用:基準となるALATからの変化の割合は3、6、及び9月で顕著であり、最大の作用は3月で見られた。基準となるASATからの変化の割合は3、6、9及び12月で顕著であり、最大の作用は3月で見られた。γ−GTにおける基準からの変化の割合は6及び12月で顕著であり、最大の作用は6月で見られた。
【0048】
《表5:線維症に対する個別の作用》
【表5】

【0049】
《表6:基準に対するFibroTest(線維症に対する作用)の変化》
【表6】

【0050】
表6に示したように、UDCA治療群における患者(ITT及びPPの双方の母集団)はプラシーボ群における患者と比較すると線維症のレベルにおいて有意な改善を示した。
【0051】
《表7:基準に対するActiTest(肝炎に対する作用)の変化》
【表7】

【0052】
表7に示したように、UDCA治療群における患者(ITT及びPPの双方の母集団)はプラシーボ群における患者と比較すると肝炎のレベルにおいて有意な改善を示した。
【0053】
安全性の結果:消化器系(GI)の症状(下痢、腹痛、運動性の問題)はプラシーボ群よりもUDCA治療群で高頻度(3倍以下)であった。RUQの疼痛及び無力症はプラシーボ群よりもUDCA治療群において開始時に蔓延(2倍以下)したが、差異は3月で消えている。
【0054】
まとめ:総数で126名の患者(64名のプラシーボ及び62名のUDCA)が本調査で登録された(ITT母集団)。75%が男性であり、平均年齢(±標準偏差(SD))が49.7±11.5歳であり、BMI(±SD)が30.9±5.1kg/mであった。内臓脂肪症候群、高血圧、及びII型糖尿病はそれぞれ40%、32%、及び35%の患者に存在した。12月後、ALATはそれぞれ、プラシーボ群で−2±35%であるのと比較して、UDCA治療群では−28±55%(平均値±SD)だけ低減した(p=0.003)。UDCA治療群についての血清ASAT及びγ−GTのレベルの平均値(±SD)の低減はそれぞれ−8±59%、及び−51±28%であり、プラシーボと比較すると、プラシーボではこれらの因子はそれぞれ+9±37%(p<0.001)及び+19±48%(p<0.001)だけ増加していた。総ての結果はPP母集団において確認された。無力症及び右上腹部痛(RUQP)はプラシーボ群よりもUDCA治療群で基準時に高頻度に報告された。この差異は治療の間(3月)で迅速に消えた。インスリン耐性、線維症、炎症、及びアポトーシスの血清マーカーにおける変化が報告されている。UDCA治療群はプラシーボ群よりも、軽度な下痢、腹痛、及び消化管運動障害を受けた。
【0055】
結論:この無作為対照試験はNASH患者における28ないし35mg/kg/日のUDCA治療に対する有意かつ顕著な生化学的応答を実証し、無力症及びRUQPの徴候が改善し、顕著な安全性の懸念がないことを示唆した。
【0056】
本明細書中に引用及び/又は記載の総ての文献は、各々の文献が引用によって別個に組み込まれたが如く、その全体及び同一の範囲が引用によって本明細書中に組み込まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を治療するための方法であって、体重1kgにつき1日に約28ないし35mgの用量のウルソデオキシコール酸(UDCA)又はその薬学的に許容可能な塩をそれを必要とする患者に投与するステップを具え、本方法によって、前記患者における線維症のレベル及び/又は肝炎のレベルが治療前のレベルと比較して低減することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記用量が体重1kgにつき1日に約28ないし30mgであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記用量が1日1回の薬用量として投与されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記用量が1日に2ないし4の分割した薬用量で投与されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記患者の血糖指数が該治療期間中、実質的に安定して推移することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、該治療が少なくとも6月の間、提供されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記治療が少なくとも12月の間、提供されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、前記UDCAが食物とともに投与されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法において、前記UDCAが朝方及び夕方に毎日投与されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法において、前記患者がII型糖尿病に罹患していることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法が、抗糖尿病薬を投与するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記抗糖尿病薬がチアゾリジンジオンであることを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−520866(P2012−520866A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500328(P2012−500328)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000551
【国際公開番号】WO2010/106420
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(500287857)アプタリス・ファーマ・カナダ・インコーポレイテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】Aptalis Pharma Canada Inc.
【Fターム(参考)】