説明

高発現遺伝子由来のcDNAクローンの含有率を低減させたcDNAライブラリーの作製方法

【課題】高発現遺伝子由来のcDNAクローンの含有率を低減させたcDNAライブラリーを効率的に作製する方法を提供すること。
【解決手段】オリゴdTを有する二本鎖DNAプライマーを用いてmRNAを鋳型にしてcDNAライブラリーを作製方法において、高発現している標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素によるcDNA伸長反応を阻止する特性のあるプローブを共存させることによって、cDNAライブラリー中の高発現遺伝子由来cDNAクローンの割合を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はcDNAライブラリーを作製する方法であって、発現頻度が高い遺伝子由来のcDNAクローンの含有率を低減したcDNAライブラリーの作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲノムプロジェクトによって、ヒト、マウス、イネ、線虫、酵母などさまざまな生物のゲノムDNAの全長配列がほぼ決定された。ポストゲノム時代を迎えた今、生命現象における各遺伝子の役割をマクロに捉えるために遺伝子群の動態を調べる研究が進んでおり、全遺伝子を網羅的に解析する技術が必要とされている。
【0003】
ヒトの体を構成している細胞は、約2.2万種の遺伝子がコードされたゲノムを持ち、細胞型に応じて数万種類の遺伝子が発現していると考えられている(非特許文献1を参照)。このような遺伝子の発現を網羅的に調べることは、生命現象を解明する上だけでなく、遺伝子情報を基にした医薬品の開発をする上で重要となってきている。特に遺伝子がコードしている蛋白質の一次構造に関する情報を網羅的に、かつ詳細に解析するためにはmRNAに相補的なDNA、すなわちcDNA(complementary DNA)を取得する必要がある。
【0004】
遺伝子は、その発現量から大きく3クラスに分類される。細胞当たり12,000コピー以上の高発現遺伝子群、約300コピーの中発現遺伝子群、そして15コピー程度しか発現していない低発現遺伝子群である(非特許文献2を参照)。このような発現量の異なるmRNAの混合物を鋳型にして、cDNAライブラリーを作製した場合、cDNAライブラリーに含まれる低発現遺伝子クローンの含有率は、高発現遺伝子の含有率に比べ3桁以上小さい。したがって、cDNAライブラリーに含まれるcDNAクローンを部分塩基配列解析によって網羅的に解析しようとすると、高発現遺伝子由来のクローンを重複してシーケンシングすることになり、無駄な作業が必要となる。細胞内で発現している多くの遺伝子は低発現遺伝子であるので、このような高発現遺伝子クローンの割合を低減する方法が開発されている。
【0005】
一つの方法は、高発現遺伝子cDNAの自己会合を利用するものである。まずmRNAから二本鎖cDNAを作製してこれを変性することによって一本鎖にする。次いでアニール反応を行い、再会合によって得られた二本鎖cDNA及び一本鎖のまま残っているcDNAの混合物から、一本鎖cDNAをハイドロキシアパタイトに吸着させて回収する。この操作を数回繰り返して、一本鎖cDNAを回収してこれをクローニングするものである。即ち、高発現遺伝子ではその一本鎖cDNAが多く存在することから、アニール反応で二本鎖になる確率が高いが、低発現遺伝子ではその一本鎖cDNAの含有率が低いことから、会合頻度が低いため一本鎖のままで存在することになる。この時会合しなかった低発現遺伝子由来の一本鎖cDNAを回収するという方法である(特許文献1を参照)。
【0006】
もう一つは、mRNAとのハイブリダイゼーションによる方法である。すなわち、既存の高発現遺伝子cDNAからmRNAを転写してこれをビオチン化し、次いで対象とする一本鎖cDNAライブラリーとハイブリダイズする。アビジンを固定化した磁気粒子と反応して、当該ビオチン化mRNAと結合したcDNAを除き、当該粒子と結合しないcDNAを回収してこれをクローニングすることで、低発現遺伝子のクローンを取得するものである(特許文献2を参照)。
【0007】
これらの方法により低発現遺伝子の含有率を高めたcDNAライブリーを作製できるが、mRNAからcDNAライブリーの調製後に、高発現遺伝子のcDNAを除く工程を付加することになり、通常のcDNAライブラリー作製法よりも工程数が多くなる。また、低発現遺伝子のcDNAも非特異的に損失することでその収率が低下する問題も発生する。
【0008】
これ対して、mRNAを鋳型にして第一鎖cDNAを合成する工程において高発現遺伝子の第一鎖cDNAの合成を抑える方法が提案されている。即ち、mRNAからオリゴdTプライマー及び逆転写酵素により第一鎖cDNAを合成する工程において、高発現遺伝子のmRNAの3’末端付近と特異的に結合するプローブを共存させることで、第一鎖cDNAの合成を停止させ、プローブが結合した部分のmRNAをRNaseH処理によって分解する方法である(特許文献3を参照)。しかし、逆転写酵素には、転写の際、結合したプローブを排除する活性があるため、mRNAの任意の場所に結合するプローブを用いた場合、第一鎖cDNAの合成を阻止することはできないと考えられる。上記文献では、mRNAの3’末端付近に結合するプローブを使用している。
【0009】
いずれの方法を用いた場合にも、一本鎖cDNAを二本鎖cDNAにしたのち、適当なベクターに組み込む工程が必要である。その過程で低発現遺伝子cDNAクローンの損失が起こるため、低発現遺伝子の完全長cDNAクローンを効率よく取得することは困難であった。そこで、高発現遺伝子の含有率が低いcDNAライブラリーを、効率的にかつ少ない工程数で作製する方法が望まれている。
【0010】
【非特許文献1】International Human Genome Sequencing Consortium ,2004, Nature 432, 931-945
【非特許文献2】David J. Bertioli .,et al. , Nucleic Acids Research,1995,Vol.23,No.21, 4520-4523
【特許文献1】特開平4-108385号公報
【特許文献2】特開2000-325080号公報
【特許文献3】特開2000-37193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、細胞等に由来するmRNA中の単一又は複数の高発現遺伝子由来cDNAの含有率を低減させたcDNAライブラリーを効率的に作製する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、国際公開第WO2004/087916号パンフレットに記載されている二本鎖DNAプライマーを用いたcDNA合成を行う際、核酸試料中に存在する高発現の標的遺伝子に対するプローブを第一鎖cDNAの伸長反応の際に共存させて用いて第一鎖cDNAの伸長反応を阻害し、この遺伝子に由来するmRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体の閉環反応を阻害させることで、標的遺伝子のcDNAクローンの含有率を低下させることができることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち本発明は、高発現遺伝子である標的遺伝子のmRNAに由来するcDNAの含有率を低減したcDNAライブラリーを作製する工程を提供する。
【0013】
本発明は、一例として、標的遺伝子由来のcDNAクローンの含有率を低減したcDNAライブラリーを作製する方法であって、
(i)5’端にキャップ構造を有するmRNAを含むRNA混合物に、二本鎖DNAプライマーをアニールし、さらに前記標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害する少なくとも1つのプローブをアニールする工程、
(ii)二本鎖DNAプライマーから逆転写酵素により第一鎖cDNAを合成してmRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体を調製する工程、及び
(iii)mRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体のcDNAを含むDNA鎖の3’端と5’端を、リガーゼを用いて連結し環状化する工程、
を含むことを特徴とする方法を提供する。標的遺伝子としては、高発現遺伝子を用いることができ、標的遺伝子は遺伝子データベースに基づいて選択することができる。
【0014】
工程(i)のキャップ構造を有するmRNAは、例えば細胞抽出物中に含まれる。用いる二本鎖DNAプライマーのプライマー配列は、例えばキャップ構造を有するmRNAのポリ(A)配列に相補的な配列を含む。また、リガーゼとしては、例えばT4RNAリガーゼを用いることができる。
【0015】
上記方法の工程(ii)と工程(iii)の間に、工程(ii')mRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体を制限酵素で切断することにより、二本鎖DNAプライマーの端部に5’突出末端又は平滑末端を生成する工程、を含んでいてもよい。
【0016】
また、上記方法の工程(iii)の後にさらに工程(iv)mRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体のRNA鎖をDNA鎖に置換する工程、を含んでいてもよい。
【0017】
また、上記方法においては、二本鎖DNAプライマーは、複製オリジン、又は複製オリジンとcDNA発現用プロモーターを含んでいてもよい。標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害するプローブは、例えば、標的遺伝子の部分配列の相補配列の融解温度(Tm値)より2℃以上高い非天然型核酸を含有するオリゴヌクレオチドであり、また5’端側から連続する2塩基以上が非天然型核酸で構成されるオリゴヌクレオチドである。ここで、非天然型核酸としては、ロックド核酸(Locked Nucleic Acid)、ポリアミド核酸(Polyamide Nucleic Acid)又は架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid)を用いることができる。標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害するプローブは、それぞれ別の種類の標的遺伝子のmRNAを対象としてもよい。
【0018】
さらに、本発明は、一例として、mRNA配列に対して相補的な配列を有するプローブであって、その3’末端は逆転写酵素による伸長反応の開始点とならないよう修飾された構造を有し、かつ5’末端より連続した2塩基以上を非天然型核酸とし、かつプローブ全体の塩基配列のTm値が天然型のみの核酸で構成される塩基配列のTm値より2℃以上高くなるよう設計されたオリゴヌクレオチドからなるプローブを提供する。
【0019】
該プローブは、例えば、標的遺伝子由来のcDNAクローンの含有率を低減したcDNAライブラリーを作製するために用いられる、標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害するプローブである。
【0020】
さらに、本発明は、一例として、上記のプローブ、二本鎖DNAプライマー、逆転写酵素、並びにT4RNAリガーゼを含むcDNAライブラリー製造試薬キットを提供する。
【0021】
なお、本発明において、「二本鎖DNAプライマー」とは、二本鎖DNAの片方のDNA鎖の3’端が突出しており、この突出した部分の塩基配列(プライマー配列)が、鋳型mRNA配列に相補的な塩基配列を有するものを言う。この突出した部分は、鋳型mRNAにハイブリダイズし、逆転写酵素による第一鎖cDNA合成時のプライマーとして働く。cDNAの合成を目的とする場合には、突出した部分の配列が30〜70個のオリゴdTからなる二本鎖DNAプライマーを用いる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、標的遺伝子のmRNAに由来するcDNAの含有率を低減させたcDNAライブラリーを従来の方法に比べ少ない工程数で提供できる。高発現遺伝子を標的遺伝子とすれば、作製したcDNAクローンに於ける低発現遺伝子の含有率が相対的に高くなるので、低発現遺伝子の完全な遺伝子情報を効率的に得ることができる。さらに、従来法では困難であった極微量な発現遺伝子のcDNAのクローン化も行えるようになる。これらの低発現量遺伝子は、疾患の遺伝子診断や医薬品開発のための標的遺伝子として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の標的遺伝子由来cDNAクローンの含有率を低減したcDNAライブラリーは、国際公開第WO2004/087916号パンフレットに記載されている二本鎖DNAプライマーを用いたcDNA合成方法を用いてcDNAライブラリーを作製するときに、特定の標的遺伝子由来cDNAの含有率を低減させる。該cDNA合成方法は、mRNAのキャップ構造に隣接するヌクレオチドからの連続配列を有するcDNAを合成する方法であり、数μgオーダーの全RNAを出発材料とすることができる。また、PCRを使用せずにcDNAを合成することができ、少ない工程でcDNAを合成することができる。さらに転写開始点ヌクレオチドからの連続配列を有することが保証された完全なmRNAの5’端のキャップ構造付加部位から3’端のポリ(A)テールまでの全長に対応する塩基配列を有する完全長cDNAを90%以上の高収率で合成することができるという特徴を有する。
【0024】
mRNA供試料としては、真核生物の細胞から単離した全RNAを使用できる。また、当該全RNAからオリゴdT結合担体により精製したポリA構造を持つmRNAを使用しても良い。これらmRNAを含む供試料は分解の少ないものが望ましい。即ち、当該RNAサンプルには、5‘末端にキャップ構造、3’末端にポリAを有する完全なmRNAが含まれていることが望ましい。本発明における「キャップ構造を有するmRNAを含むRNA混合物」は、実質的にキャップ構造を有するmRNAのみからなるものであってもよく、その他にキャップ構造を有しないmRNA等を含んでいてもよい。
【0025】
cDNAライブラリー中のcDNAクローンの含有率を低減させる標的遺伝子としては、任意の遺伝子を選択することができるが、従来の方法では困難であった、低発現遺伝子を多く含有するcDNAライブラリーを作製するという観点から、高発現遺伝子が好ましい。ここで、高発現遺伝子とは、発現量が高くてmRNA試料中に多くそのmRNAが含まれている遺伝子をいう。高発現遺伝子は、例えば細胞あたり約12,000コピー以上存在する遺伝子をいい、さらに約300コピー以上存在する遺伝子を含めることもある。高発現遺伝子は、所謂ハウスキーピング遺伝子又はハウスホールディング遺伝子として知られているものが多い。ハウスキーピング遺伝子は、どの細胞でも恒常的に発現しており、細胞の生存に必要なタンパク質(構成タンパク質やエネルギー代謝系の酵素、タンパク質合成、DNA複製、細胞分裂などの機構に関与する遺伝子など)をコードしている遺伝子が多くを占めている。
【0026】
具体的には、グリセルアルデヒドー3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、β―アクチン、リボソームタンパク質、ヒストン、ホスホリパーゼ、トラスンフェリンレセプター、HPRT1、RNA合成酵素などの遺伝子が知られている。これらのハウスキーピング遺伝子を標的遺伝子として選択することができる。特定の細胞を用いる場合には、その細胞で特異的な遺伝子が高発現している場合もあり、細胞により高発現遺伝子の数や種類は異なっている。このような特定の細胞で特異的に高発現している遺伝子として、例えば、肝臓細胞におけるアルブミン、Major Urinary Proteinの遺伝子などが挙げられる。これらの高発現遺伝子は既存の遺伝子に関する公開データベースを利用することで選抜できる。例えば、ヒトやマウスの各組織毎の発現遺伝子データベースBodymap(http://bodymap.ims,u-tokyo.ac.jp)を利用することで、組織毎に高発現遺伝子の情報を得ることができる。また、既存データベースに情報がない場合、EST解析法、SAGE法、DNAアレイ法などの遺伝子の発現情報を得る方法により、用いるmRNAサンプル中の遺伝子発現量を知ることができる。これらのデータに基づいて、遺伝子の発現量毎に順番付けしたリストを作成して、除去すべき高発現遺伝子候補を選択すると良い。対象となる標的遺伝子は、2種類以上の複数となる場合が多い。例えば、上記のデータベースに基づく情報に基づいて、発現量の多い順に、2〜10個、2〜50個、2〜100個、2〜数百個、2〜1000個、2〜数千個あるいはさらに多い数の範囲で標的遺伝子を選択すればよい。
【0027】
本発明の方法により、高発現遺伝子の含有率を低減させたcDNAライブラリーを製造することができる。すなわち、細胞当たりのコピー数が約12,000コピー以下の遺伝子、好ましくは細胞当たりのコピー数が約300コピー以下の遺伝子の含有率が向上したcDNAライブラリーを製造することができる。
【0028】
標的遺伝子のmRNAに結合するプローブは、逆転写酵素が該mRNA鎖上において5‘末端方向に合成する第一鎖cDNAの伸長をブロックする特性を有するものである。
【0029】
当該プローブは、下記特徴を有する。
(1) 基本構造
当該プローブの基本構造は、標的遺伝子のmRNA配列の部分配列に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドであり、その3’末端は逆転写酵素による伸長反応の開始点とならないように、修飾される。例えば、水酸基を欠くジデオキシリボ核酸(ddNTP)や3’末端の塩基の水酸基をビオチンなどの化合物と結合させた構造を有する。
【0030】
(2) 結合の位置
プローブが相補的に結合する標的遺伝子のmRNAの塩基配列は、対象とする遺伝子の配列の実データや公開データベースによる塩基配列情報を基に設計する。その際、一つの遺伝子座から、プロモーターの違い、スプライシングの違い、ポリ(A)付加部位の違いなどにより、複数の転写産物バリアントが生成することが知られているので、プローブの結合部位を各バリアントに共通の領域に設定するのが好ましい。
【0031】
(3) 相補鎖塩基配列の塩基長
相補鎖塩基配列の塩基長は、標的遺伝子のmRNAに安定に結合できる長さとし特に限定するものでないが、20〜50塩基、好ましくは20〜40塩基、さらに好ましくは20〜35塩基である。
【0032】
(4) 非天然型核酸の導入
非天然型核酸とは、天然の核酸が有しない構造を有する核酸をいい、天然に存在しない構造の塩基を有する。本発明においては、プローブに1つ又は複数の天然の核酸に存在しない塩基を導入する場合、非天然型核酸を導入するという。本発明のプローブは、非天然型核酸を含有するオリゴヌクレオチドである。
【0033】
プローブへ非天然型核酸を導入する場合、当該プローブのTm値を、標的配列の部分配列に相補的な塩基配列であって天然型の核酸で構成される塩基配列のTm値より2℃以上高くなるようにするのが好ましい。また、Tm値はより高い方が好ましい。また、プローブのTm値は工程(ii)の第一鎖cDNAを合成する温度より高い温度でなければならない。天然型の核酸で構成される塩基配列のTm値は、公知の方法で算出することができる。プローブをこのように設計することにより、プローブが一旦標的遺伝子のmRNAにアニールした後、プローブは容易に分離しないので、伸長反応の抑制効果が大きくなる。非天然型の核酸としては、mRNAと相補的に結合するものであればいかなるものでも良いが、ポリアミド核酸(Polyamide Nucleic Acid)やロックド核酸(Locked Nucleic Acid)、架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid、BNA)などが好ましく用いられる。ここで、ポリアミド核酸とは、中性アミド主鎖結合を含有するDNA類似体である(Nielsenら、Science 254: 1497, 1991等)。ロックド核酸とは、フラノース環の2’及び4’位にO-メチレン(オキシ-LNA)、S-メチレン(チオ-LNA)、又はNH2-メチレン成分(アミノ-LNA)が結合している二環核酸類似体である。架橋化核酸とは、天然核酸分子を架橋構造化した人工の合成核酸である(特開平10-195098号公報等)。ロックド核酸(Locked Nucleic Acid)を利用する場合、Niels Tolstrup等の報告を参照して天然型と非天然型の混合におけるTm値の予測をすることができる(Niels Tolstrup, et al., Nucleic Acid Research, 2003, 31, 3758-3762)。非天然型核酸を導入する場合、当該プローブの5’末端より2塩基以上を非天然型核酸とすることが好ましく、3塩基以上がさらに好ましい。また、導入する非天然型核酸は連続していることが好ましい。導入する非天然型核酸の数の上限値は限定されないが、好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下である。
【0034】
これら天然型と非天然型で構成されるプローブは、常法により化学合成することができる。使用する当該プローブは、通常の精製度にて利用できる。
【0035】
プローブは、対象となる標的遺伝子が複数存在する場合は、その全部に対応するように複数用いる。用いるプローブの総数は、少なくとも対象となる標的遺伝子の種類の数と同じであり、一つの標的遺伝子に対して、部分配列の位置違いで複数のプローブを用いてもよい。
【0036】
本発明の工程を図1に従い説明する。
工程(i)においては、標的遺伝子のmRNA(A)、非標的遺伝子mRNA(B)を含有するサンプルRNAに対して標的遺伝子のmRNA(A)に結合するプローブ(C)及びオリゴdTを有する二本鎖DNAプライマー(D)をアニールさせる。これにより、当該プローブ(C)と二本鎖DNAプライマー(D)とが結合した標的遺伝子のmRNA(E)及び二本鎖DNAプライマー(D)の結合した非標的遺伝子のmRNA(F)が生成される。当該サンプルRNA量は、1μg未満でもcDNAの合成は可能であるが、好ましくは1μg以上を使用すると良い。標的遺伝子は単一又は2種以上で使用できるので、上記特徴を有するプローブ(C)を標的遺伝子の数に応じて必要数作製する。当該プローブ(C)の使用量は、mRNA(A)、(B)の50〜100倍量(モル比)とするのが好ましいが、特に限定するものではない。また、上記二本鎖DNAプライマー(D)におけるプライマー配列を構成する連続するdTの数は、30〜70個が好ましい。二本鎖DNAプライマー(D)は、特に限定するものでないが、複製オリジン、又は複製オリジンとcDNA発現用プロモーターを含むものでも良い。二本鎖DNAプライマーには当該cDNAの使用目的に応じて予め制限酵素サイトを導入しても良い。アニールの温度は、プローブ(C)のTm値を基準に決めればよく、プローブ(C)のTm値より低くする。
【0037】
プローブの設計、アニール条件は、標的遺伝子の種類により適宜設定することができる。
【0038】
工程(ii)ではプローブ(C)と二本鎖DNAプライマー(D)とが結合した標的遺伝子のmRNA(E)及び二本鎖DNAプライマー(D)の結合した非標的遺伝子のmRNA(F)に逆転写酵素を作用させて、mRNAの3’末端から5’末端の方向に相補的な第一鎖cDNAを合成する。逆転写酵素としては、内在性のRNaseH活性を無くしたものが好ましい。プローブ(C)と二本鎖DNAプライマー(D)とが結合した標的遺伝子のmRNA(E)の場合、第一鎖cDNAの伸長はプローブの手前で停止するためmRNAの5’端に到達しない不完全なmRNA/DNAヘテロデュプレックス(G)となる。一方、二本鎖DNAプライマー(D)の結合した非標的遺伝子のmRNA(F)からは、5’末端まで相補鎖DNAが完全に合成されたmRNA/DNAヘテロデュプレックス(H)になる。したがって、非標的遺伝子のmRNAからのみの第一鎖cDNAが合成される。工程(ii)では、mRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体が形成される。この連結体では、mRNA/cDNAヘテロデュプレックスのcDNA鎖の一端と二本鎖DNAプライマーの片側鎖の一端が連結している。またこの工程(ii)で生成されるmRNA/cDNAヘテロデュプレックスのcDNAは、キャップ構造を有するmRNAに相補的で、かつ3’端にdC又は5’-dC(dA)n-3’を付加したキャップ連続cDNAであるか、又はキャップ構造を有しないmRNAに由来するキャップ非連続cDNAである。
【0039】
工程(ii’)ではmRNA/DNAヘテロデュプレックスと連結している二本鎖DNAプライマーの他端を制限酵素切断によって平滑末端化、好ましくは、5’突出末端とする。この場合、予め二本鎖DNAプライマーの末端領域に制限酵素サイトを具備させることが必要である。なお、この工程は省略することもできるが、これを実施することによって、cDNAライブラリーに含まれるベクターのみからなるバックグラウンドを大幅に低減することができる。
【0040】
工程(iii)では二本鎖DNAプライマーの他端を平滑末端化あるいは5’突出末端化したmRNA/DNAヘテロデュプレックス連結二本鎖DNAプライマーをリガーゼにより環状化させる。リガーゼとしては各種のDNAリガーゼ又はRNAリガーゼを使用することができるが、T4RNAリガーゼを使用するのが好ましい。第一鎖cDNAがmRNAの5’端まで伸長している完全な非標的遺伝子のmRNA/DNAヘテロデュプレックス(H)は、リガーゼにより環状化するが、第一鎖cDNAの伸長が途中で停止した不完全な標的遺伝子のmRNA/DNAヘテロデュプレックス(G)は環状化しない。
【0041】
工程(iv)では、環状化した非標的遺伝子のmRNA/DNAヘテロデュプレックス(H)において、mRNA鎖をRNaseHにより分解し、さらにDNAポリメラーゼ及びDNAリガーゼにより当該のRNA鎖をDNA鎖に置換する。これにより、非標的遺伝子のcDNA(J)が合成される。
【0042】
二本鎖DNAプライマー(D)が、複製オリジン及び薬剤耐性遺伝子を含むものであれば、工程(v)として大腸菌などに形質転換して、in vivo反応にてRNA鎖をDNA鎖に置換しても良い。
【0043】
得られた非標的遺伝子の二本鎖cDNAを、ベクターにクローニングしてもよい。例えば、二本鎖DNA部分に備えられた制限酵素部位で切断後、プラスミドベクターやファージベクターなどに挿入すればよい。この際、二本鎖DNAプライマーとしてベクタープライマーを用いることにより、他のベクターへの挿入工程を省略することができる。ベクタープライマーは、例えば、環状ベクターDNAを適当なクローニングサイトで制限切断し、その3’端にmRNAの一部配列に相補的なプライマー配列を連結して3’突出末端とすることによって作製することができる。
【0044】
上記のcDNAライブラリーを作製する方法により得られたcDNAライブラリーは、標的遺伝子由来のcDNAクローンの含有率が低下している。個々の標的遺伝子由来cDNAクローンの含有率は、標的遺伝子のcDNAのクローン数と全cDNAのクローン数の比で2%以下、好ましくは1%以下である。また、標的遺伝子に対するプローブを添加した場合に対する標的遺伝子クローン数の減少率は、60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。標的遺伝子が高発現遺伝子の場合、前記cDNAライブラリーは低発現遺伝子由来のcDNAを主に含む。なお、該cDNAライブラリーは、キャップ連続cDNAを含むクローンを60%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上という極めて高い確率で保有する。
【0045】
cDNAライブラリーを作製するためのキットは、標的遺伝子にアニールする本発明のプローブとその他cDNAを合成するための試薬類を含む。cDNAを合成するための試薬類としては、二本鎖DNAプライマー、逆転写酵素、T4 RNAリガーゼ等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
次に実施例により発明を具体的に説明する。この発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なおDNAの組換えに関する基本操作及び酵素反応は、文献(Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning - A Laboratory Manual, Cold spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989)に従った。制限酵素及び各種修飾酵素は特に記載の無い場合には宝酒造社製のものを用いた。各酵素反応の緩衝液組成、並びに反応条件は付属の説明書に従った。
【0047】
[実施例1]
プローブ結合によるcDNA伸長反応の抑制
(1)標的遺伝子の決定
実験効果の確認が容易である発現量の多い遺伝子を標的遺伝子とするために、以下の実験を行った。マウスのオスとメスの肝臓から取得した全RNA各10μg、pGCAP10ベクタープライマー(国際公開第W02004/087916号パンフレット)300ngを用いてcDNA合成を行い、cDNAクローンを取得した。作製方法は国際公開第W02004/087916号パンフレットの記載に従った。取得したcDNAクローンの5’端塩基配列解析を行った。配列決定ができたオス肝臓由来の3,217クローン、メス肝臓由来の2,325クローンについて、GenBankの核酸データベースを用いてBLAST検索を行った。その結果、取得したオス肝臓由来のcDNAクローンで最も重複が見られた遺伝子はMajor Urinary Protein 2(MUP2)遺伝子213クローン(6.6%)、メス肝臓由来のcDNAクローンではAlbumin1(Alb1)遺伝子174クローン(7.5%)であった(図2)。これらの結果から、標的遺伝子をAlb1遺伝子とMUP 2遺伝子に決定した。
【0048】
(2)mRNAの調製
pGCAP10ベクターのcDNAクローニング部位の上流にはT7RNAポリメラーゼプロモーターが、また下流にはNotI部位が存在する。そこで、取得したAlb1遺伝子、MUP2遺伝子のcDNAクローンをNot I消化により直鎖状にした後、これを鋳型にしてT7RNAポリメラーゼを用いるインビトロ転写キット(Ambion社製)を用いてmRNAを調製した。
【0049】
(3)プローブの設計
cDNA合成反応である逆転写反応を途中で止めるためのプローブを設計した。
プローブの配列としては標的遺伝子mRNAの翻訳領域の配列を採用した。また、非天然型核酸として、プローブの配列中に架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid、BNA)を配置した。ただ、逆転写反応やその他の伸長反応を止める用途として、BNAやPNAなどの特殊核酸を使用した実施例や詳細情報が無いため、BNAの個数を1〜5個の範囲で変えて検討した。また、プローブが伸長反応のためのプライマーとして機能しないように3’末端はビオチンで修飾した。設計したプローブの配列は図3の通りである。図3中の配列において、小文字が架橋化核酸を示す。Alb1-0、Mup-0で表わされる配列は、天然型の核酸である。配列表の配列番号1、2及び3は、Alb1-0、Mup2-0及びMup2-1の配列を表わしている。また、プローブの合成は株式会社ジーンデザインに依頼した。
【0050】
(4)反応抑制効果の検証
前記(3)で作製したプローブを用いて逆転写反応の反応抑制効果を調べた。Alb1 mRNAを鋳型にする場合にはAlb1の名称をもつプローブを、MUP2 mRNAを鋳型にする場合にはMUP2の名称をもつプローブを添加して、それぞれ別々にcDNA合成を行った。反応溶液はmRNA 500ng, poly dT20 primer 100pmol, dNTP 10nmol, 前記(3)プローブ100pmolを混合し合計13μlの溶液を調製した。コントロールとして、前記(3)プローブを含まない反応溶液を調製した。この反応溶液を65℃5分保温、氷上で2分急冷し、SuperScript II RNase H- 逆転写酵素(インビトロジェン社製)200U、付属している反応バッファー4μl、DTT 100nmol、リボヌクレアーゼインヒビター40Uを添加し、反応液量を20μlにした。そして、42℃1時間反応し第一鎖cDNAを合成した。反応液をフェノール抽出し、エタノール沈殿によりmRNA/cDNAヘテロデュプレックスを回収し、RNase Aを含む水10μlに溶解しmRNAを分解し、アガロースゲル電気泳動によって各反応液におけるcDNAの鎖長を確認した。その結果、コントロールと比較し、Alb1-1プローブ、Alb1-2プローブ、Mup 2-1では逆転写反応の停止は見られなかった。しかし、Alb1-5プローブではおよそ88%、Alb1-4プローブでおよそ66%、Alb1-3プローブでおよそ25%、Mup2-3プローブ、Mup2-2プローブでおよそ50%のcDNA合成量の減少がみられた。この実験結果から、逆転写反応を抑制するために必要なプローブ内に含まれるBNAの配置と数量の条件は、GCが豊富な配列の場合、連続して3塩基以上が効果的であることが示唆された。また、BNAにATが多いMUP2プローブはAlb1プローブと比較して効果が小さいことから、どちらの配列でも同様な効果が得られる条件検討が必要であると考えられた。
【0051】
(5)反応抑制効果の最適化
Alb1-5のプローブを使用し、Alb1 mRNAのcDNA合成を抑制する条件検討を行った。プローブの使用量、アニール温度、アニール時間に関して検討を行った。反応は前述した反応系で、プローブの使用量のみを変化させた。また、アニール温度は付属している反応バッファー4μl、DTT 100nmol、リボヌクレアーゼインヒビター40Uを添加し、反応液量を19μlにし、42℃、57℃で30分から2時間保温し、急冷後、SuperScript II RNase H- 逆転写酵素(インビトロジェン社製)200Uを加え、42℃1時間反応しcDNAを合成した。検出方法は前述の(4)と同様に行った。その結果、プローブ使用量は、200pmol、アニール温度57℃、アニール時間2時間が、もっとも効果が高く、95%以上の反応抑制効果があることがわかった。しかし、RNAの安定性と未結合プローブの量などを考慮し、90%以上の反応抑制効果が得られる条件として、(i)プローブ使用量50〜100pmol、(ii)アニール温度57℃、(iii)アニール時間30分の3つの条件が最適であると判断した。
【0052】
次に、前述の(4)の実験でAlb1-5プローブほど効果が得られなかったMup2-3プローブ、Mup2-2プローブを用いて、上述した最適条件で、反応抑制効果を調べた。その結果、Mup2-3プローブで90%以上の反応抑制効果が得られた。しかし、Mup2-2プローブでは前回同様に50%程度の反応抑制効果であった。これらの結果から、本実験で設定した最適条件による反応抑制効果はBNAの個数が5個連続したプローブを使用した場合、配列によらず、90%以上の抑制が見られることが示唆された。また、本反応抑制効果は天然型核酸で作製したプローブと比較したTm値(ΔTm)が2度以上高く、かつ5’端より非天然型核酸が2個以上連続するプローブを使用することが好ましく、またΔTmが高いほど反応抑制効果が高いことが示唆された。
【0053】
[実施例2]
高発現遺伝子の含有率を低減したcDNAライブラリーの作製
(1)第一鎖cDNA合成
前記プローブを用いて、全RNAからcDNA合成を行った。使用したプローブはAlb1-5, Mup2-3である。マウスのオスの肝臓から取得した全RNA各10μg、pGCAP10ベクタープライマー(特開平4-108385号公報)150ng、dNTP 25nmol、100pmolプローブを混合し、合計8μlの混合液を作製した。この混合溶液を65℃5分加熱後、2分氷冷した。SuperScript II RNase H- 逆転写酵素(インビトロジェン社製)の添付緩衝液を4μl加え、57℃30分間保温した。その後、2分氷冷しDTT 100nmol、リボヌクレアーゼインヒビター40U、SuperScript II RNase H- 逆転写酵素(インビトロジェン社製)200Uを混合し、全量20μlに調整した。この混合溶液を42℃1時間反応し、第一鎖cDNAを合成した。反応液をフェノール抽出後、エタノール沈殿により、mRNA/cDNAヘテロデュプレックスとベクタープライマーの連結体を回収し水80μlに溶解した。
【0054】
(2)セルフライゲーション
mRNA/cDNAヘテロデュプレックスとベクタープライマーの連結体溶液80μlに10×H buffer(タカラ酒造)と制限酵素EcoRI(タカラ酒造)50Uを加え、合計100μlとし、37℃1時間反応した。この溶液をフェノール抽出後、エタノール沈殿により、制限酵素処理したmRNA/cDNAヘテロデュプレックスとベクタープライマーの連結体を回収し、水24μlに溶解した。この溶液を反応液(50mM Tris-HCl(pH7.5), 5mM MgCl2, 10mM 2-メルカプトエタノール, 0.5mM ATP, 2mM DTT)に混合し、120UのT4 RNAリガーゼ(タカラ酒造)を添加し、20℃16時間反応させ、mRNA/cDNAヘテロデュプレックスとベクタープライマーのEcoR I末端とをライゲーションさせて環状化した(セルフライゲーション反応)。反応液をフェノール抽出した後、エタノール沈殿によりセルフライゲーション産物を回収し、水50μlに溶解し、cDNAベクター溶液とした。
【0055】
(3)大腸菌の形質転換
作製したcDNAベクター溶液1μlをDH10Bエレクトロ細胞(インビトロジェン社製)20μlと混合し、エレクトロポレーション法による形質転換を行った。エレクトロポレーションはMicroPulser(バイオラッド社製)を用いて行った。得られた形質転換体をSOC培地に懸濁したのち、50μg/mlアンピシリン含有LB寒天培地上にまいて、35℃16〜18時間培養し、cDNAクローンの形質転換大腸菌を得た。
【0056】
(4)ハイブリダイゼーションによる含有率の算出
次の4種のライブラリーを作製した。
C: プローブの添加がないライブラリー(C)
Alb: プローブAlb1-5を添加したライブラリー(Alb)
MUP: プローブMup2-3を添加したライブラリー(MUP)
W: プローブAlb1-5とMup2-3を添加したライブラリー(W)
作製したcDNAライブラリーに含まれるAlb1遺伝子(GenBankアクセッション番号 NP_033784)とMUP 2遺伝子(GenBankアクセッション番号 NP_032673)の含有率を求めるために、各ライブラリーからおよそ4000クローンを拾って、コロニーハイブリダイゼーションを実施した。
【0057】
ハイブリダイゼーション用DIG DNA標識プローブは次のように作製した。Alb1遺伝子内をBst XI、Not I制限酵素で消化することにより1.1kbpの断片が生じる。またMUP2遺伝子内をAvr II、Ava II制限酵素で消化することにより0.7kbpの断片が生じる。これらの断片をアガロースゲル電気泳動後、切り出し、PCRにより増量後、DIG High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit I (Roche Applied Science) によりDIG DNA標識プローブを作製した。次いで、各ライブラリーからおよそ4000コロニーをHybond N+ナイロンメンブレン(アマシャム)に移し、アルカリ固定後、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション並びに検出はDIG High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit I (Roche Applied Science)を用いて、プロトコールに従い行った。ハイブリダイゼーション温度は42℃で行った。
【0058】
検出されたクローン数と含有率を図4に示す。含有率はAlb1遺伝子においてAlbライブラリーで5.6%から1.0%に、Wライブラリーでも1.0%に低減した。したがって、減少率はいずれも82%であった。また、MUP2遺伝子においては、MUPライブラリーで9.9%から3.1%に、Wライブラリーで3.2%に低減した。したがって、減少率はいずれも約70%であった。これらの結果は、プローブ添加による低減効果が70%以上の低減が期待できることを示唆している。また、Wライブラリーでは2種のプローブを添加しても、それぞれの遺伝子で同率の低減効果が得られた。
【0059】
(5)5’端塩基配列解析による含有率の算出
Mup2遺伝子塩基配列の構造遺伝子領域は他のMup遺伝子(Mup1, Mup3)と8割以上の相同性がある。このため、ハイブリダイゼーションによる検出はMup 2遺伝子だけではなく、Mupグループ全体を検出する。そこで、より正確な含有率を求めるために、CとWに関して、約1000クローンの塩基配列を解析し、クローン数、含有率、減少率を求めた(図5)。その結果、Alb1、Mup2の低減率は87%となった。
【0060】
以上のハイブリダイゼーション並びに塩基配列解析による含有率算出の結果、本発明のプローブが満たすべき条件を備えたプローブを添加し、二本鎖DNAプライマーを用いたcDNAライブラリーを作製することで当該プローブに対応したクローンの含有率が80%以上低減し、複数のプローブを添加しても低減効果が得られることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明による第一鎖cDNAの伸長阻止法を用いたcDNA合成方法の基本手順を示した図である。
【図2】本実施例に使用するRNAサンプルより作製したcDNAライブラリー中に存在する遺伝子の含有率を示す図である。
【図3】検討に用いたプローブの配列を示す図である。
【図4】各ライブラリーにおけるAlbumin1とMajor urinary protein2の含有率をハイブリダイゼーションによって求めた図である。
【図5】各ライブラリーにおけるAlbumin1とMajor urinary protein2の含有率を5’端塩基配列決定によって求めた図である。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号1〜3 合成

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的遺伝子由来のcDNAクローンの含有率を低減したcDNAライブラリーを作製する方法であって、
(i)5’端にキャップ構造を有するmRNAを含むRNA混合物に、二本鎖DNAプライマーをアニールし、さらに前記標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害する少なくとも1つのプローブをアニールする工程、
(ii)二本鎖DNAプライマーから逆転写酵素により第一鎖cDNAを合成してmRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体を調製する工程、及び
(iii)mRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体のcDNAを含むDNA鎖の3’端と5’端を、リガーゼを用いて連結し環状化する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
標的遺伝子が高発現遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標的遺伝子を遺伝子データベースに基づいて選択する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
キャップ構造を有するmRNAが細胞抽出物中に含まれている請求項1記載の方法。
【請求項5】
二本鎖DNAプライマーのプライマー配列が、キャップ構造を有するmRNAのポリ(A)配列に相補的な配列を含む請求項1記載の方法。
【請求項6】
リガーゼがT4RNAリガーゼである請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)と工程(iii)の間に、以下の工程:
(ii’)mRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体を制限酵素で切断することにより、二本鎖DNAプライマーの端部に5’突出末端又は平滑末端を生成する工程、
を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(iii)の後に、さらに以下の工程:
(iv)mRNA/cDNAヘテロデュプレックスと二本鎖DNAプライマーの連結体のRNA鎖をDNA鎖に置換する工程、
を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
二本鎖DNAプライマーが複製オリジン、又は複製オリジンとcDNA発現用プロモーターを含んでいる請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害するプローブが、非天然型核酸を含有し、標的遺伝子の部分配列の相補配列の融解温度(Tm値)より2℃以上高いオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害するプローブが、5’端側から連続する2塩基以上が非天然型核酸で構成されるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
非天然型核酸がロックド核酸(Locked Nucleic Acid)、ポリアミド核酸(Polyamide Nucleic Acid)又は架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid)であることを特徴とする請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害するプローブが、それぞれ別の種類の標的遺伝子のmRNAを対象とすることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
mRNA配列に対して相補的な配列を有するプローブであって、その3’末端は逆転写酵素による伸長反応の開始点とならないよう修飾された構造を有し、かつ5’末端より連続した2塩基以上を非天然型核酸とし、かつプローブ全体の塩基配列のTm値が天然型のみの核酸で構成される塩基配列のTm値より2℃以上高くなるよう設計されたオリゴヌクレオチドからなるプローブ。
【請求項15】
標的遺伝子由来のcDNAクローンの含有率を低減したcDNAライブラリーを作製するために用いられる、標的遺伝子のmRNAに結合して逆転写酵素の反応を阻害する、請求項14に記載のプローブ。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のプローブ、二本鎖DNAプライマー、逆転写酵素、並びにT4RNAリガーゼを含むcDNAライブラリー製造試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−51195(P2010−51195A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217245(P2008−217245)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【出願人】(391034994)国立障害者リハビリテーションセンター総長 (6)
【Fターム(参考)】