説明

高精度アレイアッセイシステム及び方法

標的を検出するためのアレイ素子(10)及び(100)は複数の検出ゾーン(2A、2B及び2C)を有し、該検出ゾーンは辺縁効果のような予め定められたパターンで配置された異なる検出スポット(14、16、18、20、22、114、116、118、120及び122)を含む。検出スポット(14、16、18、20、22、114、116、118、120及び122)は、空間的な効果に起因する不正確さを低減するためにランダム化される。検出ゾーン(2A、2B及び2C)のうちどの2つも同一の予め定められたパターンを有しないことが好ましい。前記素子は、デテクタが前記アレイに用いられた前記予め定められたパターンを決定することができるような、読み取り可能なコードを備える場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精度が高くなるように改良されたアレイ検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、「高精度アレイアッセイシステム及び方法」という名称の2003年11月4日出願の米国特許出願第10/701,986号を基礎とする優先権を主張し、当該出願の明細書は引用によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0003】
マイクロアレイのようなデテクタのアレイは、創薬、分子生物学、生化学、薬理学及び診断医工学のように種々の多様な分野で用いられる。同一の又は相異なる複数のデテクタを含むアレイが標的を検出するために用いられる。アレイが用いられてきた用途は、関心のあるレセプターと結合するペプチド又は医薬候補のスクリーニング、集団、特定の病原体又は病原体の株における突然変異又はアレル変異の有無についてのサンプルのスクリーニング、遺伝子発現の研究、血中又は尿中の関心のある化合物のような体液組成物の決定、その他の用途である。アレイは、定性分析及び定量分析の両方に利用可能である。
【0004】
アレイの製造及び/又は使用についての情報は、以下の特許文献1−6に記載されており、これらは引用により本明細書に取り込まれる。
【特許文献1】米国特許第5,429,807号明細書
【特許文献2】米国特許第5,981,185号明細書
【特許文献3】米国特許第6,037,124号明細書
【特許文献4】米国特許第6,238,859号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開公報第2003−0198967号明細書
【特許文献6】米国特許出願第10/408,626号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかるアレイの精度及び信頼性を改善する必要は常に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明はかかる精度が改善されたアレイ検出素子に係る。標的の検出に用いられる前記素子は、少なくとも4個の間隔を置いて離隔して配置される検出ゾーンのアレイを含み、各検出ゾーンは、予め定められたパターンで配置される少なくとも6個の間隔を置いて離隔して配置される検出スポットを含む。前記検出スポットは特異的な標的の有無を検出可能な指示(indication)を提供する。各検出ゾーンには少なくとも3個の異なる検出スポットがある。
【0007】
かかるアレイでは、前記検出ゾーンの辺縁の検出スポットから得られる結果は、前記辺縁のいずれにも沿っていないスポットからの結果と同じ信頼性がある結果ではない。従来技術の実務慣行は全検出ゾーンでの検出スポットのパターンを同じにすることであるため、これは検出スポットが前記検出ゾーンの辺縁に沿った標的についての結果を不正確にする場合がある。
【0008】
本発明によると、上述の課題を克服するために、前記予め定められたパターンはランダム化される。その結果、同一の予め定められたパターンを有する検出ゾーンはなくなる。好ましくは、前記予め定められたパターンは、乱数発生器、あるいは、偽乱数発生器(pseudo−random number generator)を用いて決定される。
【0009】
本発明の別の面では、前記アレイ素子は、デテクタが前記検出ゾーンにおける検出スポットのパターンを決定することを可能にする読み取り可能なコードを備える場合がある。前記読み取り可能なコードの使用は少なくとも一部の検出ゾーンがランダム化されたパターンを有するアレイにとって特に有利であるが、前記読み取り可能なコードは検出ゾーンの全てが同じパターンを有するアレイとともに使用可能である。好ましくは、前記コードはセキュリティのために暗号化される。
【0010】
前記パターンの適切なランダム化によって、上述の辺縁効果は前記素子の精度に対して実質的にいかなる影響も与えない。
【0011】
本発明の素子を使うためには、サンプル中の標的が少なくとも一部の検出スポットに検出可能な指示を提供させるようにサンプルが前記素子に適用される。前記読み取り可能なコードは、前記検出可能な指示から前記予め定められたパターンを決定するために読み取られ、前記予め定められたパターンの知識から、サンプル中に存在する標的を検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
図1は、標的検出用の従来技術のアレイ素子10を示す。図2は本発明にしたがって改良されたアレイ素子100を示す。
【0013】
従来技術の素子10は、ウェル1A、1B及び1Cの場合がある3個の実質的に同一の検出ゾーンを含む。素子100は、異なる3個の検出ゾーン2A、2B及び2Cを含む。従来技術の検出素子10の各ウェル1は、レジスタスポット12と、各3個ずつの5種類の異なる検出スポット14、16、18、20及び22という16個のスポットを含む。従来技術の素子では、3個のウェル1は前記検出スポットについて同一の予め定められたパターンを有する。
【0014】
同様に、本発明の改良型アレイ素子100は、ウェル2のそれぞれに、1個のレジスタ検出スポット112と、各3個ずつの5種類の異なるタイプの検出スポット114、116、118、120及び122という16個の検出スポットを有する。
【0015】
前記検出スポットのそれぞれは、特異的な標的の有無について検出可能な指示をする複数のデテクタを含むのが典型的である。各検出スポットは複数の実質的に同一のデテクタを含む場合がある。例えば、米国特許第5,925,525号明細書に説明されるとおり、デテクタの密度は1平方センチメートル当たり10,000個を超える場合がある。
【0016】
本発明の改良型アレイ素子100では、前記検出スポットは、2個の検出ゾーンが同一のパターンを有することがないことが好ましいようにランダム化された予め定められたパターンで配置される。
【0017】
本明細書で用いられるところの用語「標的」とは、その有無、活性及び/又は量が決定されることが望ましい、いかなる物質をも指す。標的は、人工物でも天然物でもよい。また、標的は、変化されない、すなわち、そのままの状態で用いられる場合もあれば、抗体と、蛍光発色団のようなシグナル発生剤とのような他の分子種との集合体として用いられる場合もある。本発明の実施態様では、標的を含むサンプルはサンドイッチアッセイに供される場合があるが、その場合には、できあがったサンドイッチのある部分は蛍光発色団を有し、該サンドイッチの別の部分は検出スポット内のアンカー(あるいはデテクタともいう。)と結合する。したがって、前記検出ゾーン内のデテクタは前記標的と直接結合する必要はない。標的は、直接的に、あるいは、特異的結合物質を介して、共有結合又は非共有結合によって結合メンバーに付着する場合がある。本発明に用いることができる標的の例は、プリオンと、液胞、脂質、細胞膜上のレセプターその他さまざまなレセプターと、特異的レセプターに結合するリガンド、アゴニスト又はアンタゴニストと、(ウイルス、細胞その他の材料のような)特異的抗原決定基と反応するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び抗血清と、薬物と、(mRNA、tRNA、rRNA、オリゴヌクレオチド、DNA、ウイルスRNA又はDNA、ESTs、cDNA、RNA又はDNA由来のPCR増幅産物、これらの突然変異、変異体又は改変体を含む)核酸又はポリヌクレオチドと、(神経伝達物質を切断する酵素、プロテアーゼ、キナーゼ等のような酵素を含む)タンパク質と、酵素基質と、ペプチドと、コファクターと、レクチンと、糖と、多糖類と、(細胞表面抗原を含む場合がある)細胞と、細胞膜と、オルガネラ等と、複合体を形成し、共有結合で架橋される等の形状で存在する場合がある、これらの分子その他の物質とを含むが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書で用いられるところの用語「デテクタ」とは、標的と相互作用するための検出ゾーンに配置される物質、例えば、分子を指す。デテクタ/標的又は標的/デテクタ結合パートナーの候補のタイプは、レセプター/リガンドと、リガンド/抗リガンドと、DNA/DNA、DNA/RNA、PNA(ペプチド核酸)/核酸を含む、核酸(ポリヌクレオチド)相互作用と、酵素、その他の触媒又はその他の物質と、基質、低分子又はエフェクター分子と、これらに類するものとを含む。本発明で意図されるデテクタの例は、金属、キレート剤その他の金属と特異的に相互作用する化合物と、プラスチックと、細胞膜レセプターに対するアゴニスト及びアンタゴニストと、毒素及び蛇毒と、ウイルスエピトープと、ホルモン(例えば、オピオイドペプチド(pikttide)、ステロイド等)と、ホルモンレセプターと、(りん脂質を含む)脂質と、ペプチドと、(プロテアーゼ又はキナーゼのような)酵素と、酵素基質と、コファクターと、薬物と、レクチンと、糖と、(オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、PNA、修飾又は置換された核酸を含む)核酸と、オリゴ糖と、タンパク質と、アプタマーと、酵素と、ポリクローナル及びモノクローナル抗体、単鎖抗体又はこれらの断片とを含むがこれらに限定されない。検出ポリマーは直鎖状又は環状の場合がある。デテクタは、活性か結合能かのいずれかの相違によって、リン酸化タンパク質と非リン酸化タンパク質とを識別できる。レクチンのようなデテクタは、糖タンパクを識別できる。本明細書で用いられるところの用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ポリ核酸」及び「オリゴヌクレオチド」は相互に交換可能である。以上に「デテクタ」として説明された物質のいずれも「標的」としての役割を果たすことができ、その逆もいえる。
【0019】
「検出」という用語は、標的の定量的分析及び定性的分析の両方を含む。
【0020】
適合可能ないかなる基質又は表面でも本発明の素子を形成するために使用可能である。表面(通常は固体)は、ポリカーボネート、ポリプロピレン及びポリスチレンのようなプラスチックと、セラミックと、シリコンと、例えば顕微鏡用ガラススライド又はガラスカバースリップの厚さを有する場合がある(石英ガラス)、シリカ、水晶又はガラスと、濾紙のような紙と、ジアゾ化セルロースと、ニトロセルロースフィルターと、ナイロン膜と、さまざまななルーティンの従来の方法のいずれかで湿ったゲルを乾燥することによって調製される、フィルムを含む例えば非常に多孔性の固体である、エアロゲルでできた、例えばエアロパッド又はエアロビーズのような、ポリアクリルアミドその他のタイプのゲルパッドとを含むが例示にすぎない、さまざまな有機又は無機材料か、これらの組み合わせかのいずれかの場合がある。光に透過性のある基質は、アッセイの実施方法が光学的な検出を含むときには有用である。好ましい実施態様では、表面は、例えば24穴、96穴、384穴、864穴又は1536穴のプレート(例えば、Coming CostarのDNA結合プレートのような修飾されたプレート)のようなマルチウェルの例えば組織培養用ディッシュのプラスチック表面である。
【0021】
デテクタは、表面に直接的に会合する、例えば、結合するか、例えばガラスのような1つのタイプの表面に会合して、第2の表面、例えば、マイクロタイターディッシュのプラスチックの「ウェル」内の第2の表面と接触するように配置されるかの場合がある。前記表面の形状は重要ではない。例えば、正方形、長方形又は円のような平面の場合か、ビーズ、粒子、鎖、沈殿物、チューブ、球等のような3次元表面の場合かがある。例は、プレート、シート、フィルム及び糸を含む。好ましいが、必須ではない形状は、マイクロプレートのような、自動診断システムで取り扱い可能な平面的な表面を有するものである。
【0022】
好ましい実施態様では、前記検出ゾーンは、マルチウェルディッシュ、例えば、24穴、96穴、384穴、864穴又は1536穴のプレートのウェルの場合がある。代替的には、ガラス表面のような表面が、例えば864個又は1536個の分離した浅いウェルを有するようにエッチングされる場合もある。代替的には、表面は、隔壁又はウェルのない領域、例えば、プラスチック、ガラス又は紙の一片の平らな表面を含む場合があり、個別の領域は、区分された領域を区切る構造(例えば、プラスチック又はガラスの一片)を重ねることによって画定される場合がある。
【0023】
表面内又は表面上のゾーンは、表面自体の修飾によって画定される場合もある。例えば、プラスチックの表面は、修飾又は誘導体化されたプラスチックでできた部分を含む場合があり、該修飾又は誘導体化されたプラスチックは、例えば、特定のタイプのデテクタの付着用の部位としての役割を果たす場合がある(例えばPEGはポリスチレン表面に付着され、カルボキシル基又はアミノ基、2重結合、アルデヒド等で誘導体化される場合がある)。代替的には、プラスチック表面は、突起又はバンプのような金型で形成される構造を含む場合があり、該構造はアンカーを付加するためのプラットホームとしての役割を果たす場合がある。別の実施態様では、プラスチック表面は、例えばポリアクリルアミドゲルパッド又はエアロパッドのようなゲルパッドの場合があり、該ゲルパッドは例えばガラスのような表面上に所望のパターンで配置されるか、例えばガラス及び水晶のプレートのような2種類の表面の間にサンドイッチされる。アンカー、リンカー等は、かかるパッドの表面に不動化されたり、かかるパッドの内部に包埋される場合がある。表面のゲルパッドの他のさまざまな構成は、当業者には明かであろうし、ルーティンの従来方法によって製造できる。前記検出ゾーンの相対的な配向は、正方形、長方形その他の平面内の平行なアレイ又は直交するアレイと、円その他の平面内の放射状に伸びるアレイと、直線状のアレイ等とを含むがこれらに限定されない、さまざまな形状のいずれかをとることができる。
【0024】
.前記検出ゾーンのサイズ及び物理的な間隔は限定されない。典型的なデテクタは、約1ないし約700mm、好ましくは、1ないし約40mmの面積で、約0.5ないし約5mmの間隔で配置され、関与する面積に応じてルーティン的に選択される。好ましい実施態様では、前記ゾーンは約5mmの間隔で配置される。例えば、各ゾーンは、直径が約75ないし約500マイクロメートル、典型的には約100マイクロメートルのほぼ円形のスポットのゾーンが約100ないし約1000マイクロメートル、典型的には約500マイクロメートルの間隔を置いて配置される、例えば8行6列の長方形のグリッドを含み、かかるゾーンは約20平方ミリメートルを覆う。面積及び間隔がこれらよりも大きいか、あるいは、小さいゾーンも含まれる。
【0025】
前記ゾーンは、あるゾーン内の異なる検出スポットが、例えば、凹陥(indentation)又はディンプル(dimple)によって近隣のシートすなわち検出スポットから物理的に分離されるように、さらに細分される場合がある。
【0026】
前記検出スポットは、特異的な標的が存在するとき検出可能な指示を与えるために適する。標的が存在することの検出可能な指示は、アレイとともに用いられるいずれかのレポーター分子、又は、シグナル発生剤の場合がある。レポーター分子の例は、色素、化学発光化合物、酵素、蛍光化合物、金属錯体、磁性粒子、ビオチン、ハプテン、無線発信器及び放射性発光化合物を含むがこれらに限定されない。
【0027】
好ましいシグナル発生剤は蛍光発色団である。使用可能な蛍光発色団は、引用により本明細書に取り込まれる米国特許第6,351,712号明細書に説明されるものを含む。使用可能な蛍光発色団の例は、ローダミン110、ロダール(rhodal)、フルオレセイン、クマリンと、ローダミン110、ロダール又はフルオレセインの誘導体を含む。Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5及びCy7のようなシアニン色素。他の適当な蛍光発色団は、Martek Biosciences(メリーランド州、Columbia)から商品名PBXLで入手可能なもののようなフィコビリタンパク質(phycobiliproteins)である。
【0028】
本発明に使用可能な放射性シグナル発生剤の例は、32P、33P、35S、H及び125Iを含む。本発明に使用可能な化学発光性シグナル発生剤は、アクリジニウム(acridinium)エステル、ルテニウム錯体、金属錯体及びシュウ酸エステルB過酸化物の組み合わせを含む。本発明で使用可能な酵素標識は、アルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュペロキシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼを含む。本発明で使用可能な他のシグナル発生剤の例は、チオペプトリド(thiopeptolide)、アンスロキノン(anthroquinone)色素、ニトロブルーテトラゾリウム(nitro blue tetrazolium)及びオルト−ニトロフェノールβ−D−ガラクト−ピラノシド(ONPG)を含む。
【0029】
蛍光発色団がレーザからのような励起光に供されるとき、該蛍光発色団の存在が検出可能な指示を与える。蛍光発色団の存在は、Teleris2の名前でSpectra Source社から提供されるタイプのCCD(電荷結合素子)のような検出素子を用いて検出することができる。使用可能な他の検出素子は、走査共焦点レーザ顕微鏡、光電子増倍管、光ダイオードアレイ、電荷注入素子及びCMOS画像センサーである。
【0030】
図3は、図2のタイプの素子が検出スポットについてランダム化された予め定められたパターンを用いて如何に作成されるかを示すフロー・チャートである。図3のフロー・チャートは、シード数を選択するステップ302と、乱数発生アルゴリズムを用いて重複しない乱数を生成するステップ304とを含む。前記乱数は、レジストレーションスポット12及び112を除く検出スポットのそれぞれについて1個の重複しない数があるように発生する。各検出領域は、アレイの場所及び画像の分析を増強するために、1個または2個以上のレジストレーションスポットを含むことが好ましい。これらのレジストレーションスポットは、定量的な強度情報よりもむしろ空間的な情報のために用いられるのが典型的であるので、その機能は辺縁近傍に配置されることによっては損なわれない。
【0031】
次のステップは、乱数を前記スポットに割り当てるステップである。前記スポットは、つぎに、ステップ308で、各スポットに割り当てられた数によって順序づけられ、その後ステップ310において、ステップ308で定められた順序で前記素子に適用される。
【0032】
表1及び2は、本方法によって検出ゾーンが如何に用意されるかを例示する。この実施例では、表1に表されるウェル1と、表2に表されるウェル2との2個のウェルがあり、それぞれのウェルは、3個ずつ5種類の異なるデテクタと、レジストレーションに用いられる非ランダム化スポット1個との16個の検出スポットを含む。図3に示す方法を用いて各スポットは乱数を与えられる。本実施例では、30個の重複しない乱数が生成され、前記スポットは該乱数をレイアウトの順序で割り当てられ、ウェル1のスポットは先に生成した15個の乱数が割り当てられ、ウェル2のスポットは次に生成した15個の乱数が割り当てられる。
【0033】
前記スポットは前記乱数に基づいて順序づけられる。例えば、ウェル1では、スポット7は最小の乱数を有し、最初にプリントされ、スポット14は最大の乱数を有し最後にプリントされる。同様に、ウェル2では、スポット10は最小の乱数を有し、最初にプリントされ、スポット9は最大の乱数を有し、6番目にプリントされる。また、スポット6は乱数ではなく、レジストレーションスポットであり、いつでも6番目にプリントされる。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
プリンタは、最初の3個のスポットがデテクタAを受け、次の3個のスポットがデテクタBを受けるというようにして、最後の3個のスポットがデテクタEでプリントされるまで、順番にスポットをプリントするように指示される。この結果が表1及び2に示されるデテクタのパターンである。
【0037】
乱数は、いずれかの従来の乱数発生器で生成される場合があるが、該乱数発生器は典型的には偽乱数発生器である。乱数発生器用アルゴリズムは開発されているが、該アルゴリズムが存在すること自体が、いかに洗練されたものであっても、次の数値は当該アルゴリズムに基づいて予測可能であることを意味するから、かかる機械的に生成された数値列に偽乱数という用語が適用される。前記数値列は大抵の用途については乱数と等価であるが、本当にランダムであるとはいえない。
【0038】
本発明に使用可能で入手可能な乱数発生器のうちには、ISAAC、URN(Jinf.Compt.Si.20巻、56−58頁、1980年)及びRSAがある。所望の場合には、前記発生器で得られるランダム性は標準的なテストによって確認できる。
【0039】
本発明によると、少なくとも4個の間隔を置いて配置される検出ゾーンがある。典型的には少なくとも50個の検出ゾーンがあり、各検出ゾーンは少なくとも6個の間隔を置いて配置されるデテクタスポットを含む。典型的には、各ゾーンには少なくとも30個のかかる検出スポットがあり、各ゾーンには少なくとも3種類の異なるタイプの検出スポットがある。各ゾーンに少なくとも10種類の異なる検出スポットがあることが好ましい。例えば、素子100は約96個の検出ゾーンがあり、それぞれがウェルで、検出ゾーン当たり約42個のスポットを有し、各検出ゾーンには約14個の異なる検出スポットがある場合がある。選択的には、42個の異なる検出スポットがあってもよい。
【0040】
前記検出スポットのパターンは前記ゾーンのいずれにおいても複製されないことが好ましいが、必要ではない。しかし、本発明の範囲内であるためには、異なるパターンを有する少なくとも4個の検出ゾーンがあることだけは必要である。したがって、96個のウェルを有する素子について、該ウェルのうち4個だけがランダム化されていて、他の92個はまったく同一のパターンを有することは本発明の範囲内ではあるが、もちろん好ましいものではない。96個のウェルの全てがランダム化されたパターンを有することがもっと好ましい。
【0041】
かかるランダム化によって、アレイ内の辺縁効果が1つの結果に対してシステム全体として偏向を与える可能性は少なくなる。これは、同一のデテクタが各アレイの辺縁又は隅の場所に位置することがないために発生する。アレイ間でいかなる辺縁効果が存在するとしても、もはやシステム全体としてエラーを起こすことはなく、統計的にランダムなエラーとして現れる。必要な場合には、同一の分析を2個の素子で繰り返して、平均結果を計算することによって、いかなる統計的にランダムなエラーでも低減することができる。したがって、辺縁効果は素子100の精度には実質的に何の影響も与えることはない。
【0042】
デテクタは、ミシガン州アナーバーのGenomic Solutionsから入手可能なPROSYSJ4210システムのようなインクジェットプリンタを用いてプリントすることができる。ジェットプリンタ及び圧電式マイクロジェットプリント法を用いるプリント技術は米国特許第4,877,745号明細書に説明されており、引用により本明細書に取り込まれる。本発明に用いられるパターン化方法は、熱ジェットプリント法、圧電式ジェットプリント法、スタンプ法、ピンプリント法、スプレー法、エンボス法及び微細露光法を含むがこれらに限定されず、本発明の範囲内で変更可能である。
【0043】
プリント作業及び乱数決定作業の制御はコンピュータシステムで実行できる。
【0044】
ランダム化の特徴を用いても、用いなくても使用可能な本発明の特徴は、アレイパターンがユーザによって決定できるようなコードを前記素子に提供することである。例えば、前記素子に前記乱数発生器で用いるシード数を与えることによって、使用するアルゴリズムの知識から、検出スポットのパターンを決定することができる。これは、アレイのレイアウトの完全なマップを複製するデータを与えるという別の代替法より好ましい。
【0045】
図4に示すとおり、本発明の素子400は96個の検出ゾーン又はウェル402及びコード領域404を有する。コード領域404はプリントされたコード410を有し、該コードから前記検出スポットのパターンが決定できる。前記コードは機械で読み取り可能か、数字で読み取り可能なバーコード又は文字列の形の場合がある。例えば、Data Matrix ECC200(マサチューセッツ州、CantonのRBSI CiMatrix社)のような機械で読み取り可能なコードが、図4に例示される0.2平方インチの面積内の1個のアレイ素子上のコード情報の約46個のASCII文字を利用できる。
【0046】
特定のアレイに用いるパターンを解読するするために、コード404がコンピュータシステムに読み取られる。前記コードはシリアル番号の場合があり、あるいは、素子400が製造された日付の場合もある。例えば、素子400が2003年8月15日に製造された場合には、コードは日付の数字の和の場合があり、この場合では、19(0+8+1+5+2+0+0+3)である。この場合のパターンは前記アルゴリズムで19をシード数として用いて生成され、前記アルゴリズム及び前記シード数の知識から、コンピュータシステムにアレイ中の各検出スポットで用いられるデテクタのタイプを決定させることができる。
【0047】
バーコードが用いられる場合には、バーコードリーダによって読み取るために、図4に示すように配置されるか、前記アレイの側面に配置される場合がある。本発明の好ましい実施態様では、バーコードを用いるかわりに、2次元のデータアレイグリッドが用いられる。前記グリッドは、一連のデータスポットを有し、各データスポットは指示剤の有無に応じてオン又はオフになる。前記指示剤は、検出スポットがCCD素子のような素子によって読み取られるのと同時に読み取り可能であるように選択される。本発明のこの実施態様は、たった1個の検出素子しか必要ないという点でバーコードシステムより利点がある。
【0048】
本システムでは、コンピュータのメモリにアレイの全マップを保持する必要はない。
【0049】
本発明は顕著な利点を有する。本発明は検出データ中に出現する辺縁アーチファクトを制御するのを助ける。辺縁効果からのエラーを低減することに加えて、本発明は、不均一な照明、アレイのパターン処理エラー、基質の異常、撮像システムの光学的収差その他の物理的なアレイレイアウトに関連する望ましくないばらつきの原因に由来するシステム全体のエラーを除去及び低減するために有用な場合がある。
【0050】
本発明の別の利点はセキュリティに関する。人間が素子に与えられたコードの読み取り方を知り、アレイパターンを生成するのに用いられるアルゴリズムの知識を知るのでない限り、本アレイ素子は有用ではない。したがって、アレイ素子のオーソライズされない使用は避けられる。
【0051】
高度のセキュリティが望ましい場合には、コードの読み取りの際に特定の鍵だけが機能できるようにする暗号鍵を素子の製造時に用いることができる。これは、前記アレイ素子に公開鍵を割り当てて、単一の読み取り用アルゴリズムを配布する公開鍵暗号化法を利用することによって達成できる。前記アルゴリズム及び公開鍵の知識は、分析情報を解読するためには十分ではない。オーソライズされた分析者又は分析機関のみに割り当てられる単数(又は複数)の秘密鍵が、検出スポットを該スポットに実際に配置された特定のデテクタと関連づけるために必要である。さらなるセキュリティのためには、プレート又は素子を読み取る能力は秘密鍵の取消によって取り消すことが可能である。
【0052】
したがって本発明は、アレイ素子に関連するシステム全体のエラーのタイプを低減又は除去し、統計的に厳格なやり方でアレイ素子のレイアウトを自動化し、アレイのコンテンツのセキュリティを非常に増強することができ、アレイデータのオーソライズされない利用を拒否することによって意味のある分析情報へのアクセスをソフトウェア的に管理することを容易にする。
【0053】
本発明は、将来の生物学的又は化学的な材料の反応、結合、複合体化又は検知のために固体基質上に生物学的又は化学的なデテクタを一定パターンで不動化することを含む用途に適合可能である。本発明に通常適合可能なシステムの例は、さまざまなアレイ式の臨床アッセイシステムを含む。本発明は、乱用薬物、感染症及び血液被検体を同定するための臨床分析及び研究と、創薬、構造機能研究、法医学、環境検査、化学的曝露量測定、細胞利用アッセイ等に利用可能である。
【0054】
本発明の素子を使用するにあたって、スポットは、数十又は数百の標的が同時に定量的又は定性的に分析できるように複雑な試料混合物と接触させることが可能である。代替的には、他のマイクロウェルプレートが、アッセイの必要を満たすために試薬の貯留用に製作される場合がある。
【0055】
本発明は一部の好ましい実施態様を参照してかなり詳細に説明されたが、他の実施態様が可能である。したがって、添付する請求の範囲の精神及び範囲は本明細書に含まれる好ましい実施態様の説明に限定されるべきではない。
【0056】
請求の範囲、要約及び図面を含む本明細書に開示される全ての特徴と、開示されたいずれかの方法又は工程の全てのステップは、かかる特徴及び/又はステップの少なくとも一部が相互に排除的である組み合わせを除いて、いかなる組み合わせで組み合わせてもかまわない。請求の範囲、要約及び図面を含む本明細書に開示されるそれぞれの特徴は、明示的に特記されない限り、同一、均等又は類似の目的で機能する代替的な特徴によって置換可能である。したがって、明示的に特記されない限り、開示される各特徴は、均等又は類似の特徴の一連の上位概念のうちの一例にすぎない。
【0057】
特定の機能を実施するための「手段」か、特定の機能を実施する「ステップ」tかであると明示的に表明しない請求に係る発明のいかなる構成要素も、米国特許法第112条に規定する「手段」又は「ステップ」として解釈されるべきではない。
【0058】
本発明のさらなる特徴及び利点は、発明の詳細な説明、請求の範囲及び添付する図面を参照してよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】検出ゾーンが同一のパターンを有する従来技術のマイクロアレイ素子の概念図。
【図2】本発明のマイクロアレイ素子の概念図。
【図3】本発明の検出ゾーンのランダム化方法を示すフロー・チャート。
【図4】本発明の96穴マイクロアレイ素子のレイアウト図。
【符号の説明】
【0060】
1、2、402 ウェル
10 従来技術のアレイ素子
12 レジスタスポット
14、16、18、20、22、114、116、118、120、122 検出スポット
100 本発明のアレイ素子
112 レジスタ検出スポット
302、304、306、308、310 ステップ
400 素子
404 コード領域
410 プリントされたコード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4個の検出ゾーンが間隔を置いて配置されるアレイを含む、標的検出用素子であって、該検出ゾーンのそれぞれは予め定められたパターンで間隔を置いて配置される少なくとも6個の検出スポットを含み、該検出スポットは特異的標的の有無の検出可能な指示を与えるのに適しており、前記検出ゾーンのそれぞれには少なくとも3個の異なる検出スポットがあり、予め定められたパターンを有する少なくとも4個の検出ゾーンがあり、前記予め定められたパターンのそれぞれは互いに異なる、標的検出用素子。
【請求項2】
前記少なくとも4個の検出ゾーンはランダム化され、少なくとも6個の検出スポットが予め定められたパターンで間隔を置いて配置され、ランダム化された前記検出ゾーンにおける前記予め定められたパターンがランダム化される、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記検出ゾーンは辺縁を有し、前記予め定められたパターンは辺縁効果が前記素子の精度に実質的に影響を与えないようにランダム化される、請求項1又は2に記載の素子。
【請求項4】
前記検出ゾーンの少なくとも一部はランダム化されない少なくとも1個のスポットを有する、請求項2又は3に記載の素子。
【請求項5】
前記予め定められたパターンは乱数発生器で決定される、請求項1ないし4のうちのいずれか1つに記載の素子。
【請求項6】
前記素子は、デテクタが前記予め定められたパターンを決定することができるようにする読み取り可能なコードを含む、請求項1ないし5のうちのいずれか1つに記載の素子。
【請求項7】
前記コードは機械で読み取ることができる、請求項6に記載の素子。
【請求項8】
前記コード及び検出可能な指示は同一の検出素子で読み取ることができる、請求項7に記載の素子。
【請求項9】
前記コードは暗号化される、請求項6又は7に記載の素子。
【請求項10】
前記検出ゾーンのうちいずれの2個も同一の予め定められたパターンを有しない、請求項1ないし9のいずれか1つに記載の素子。
【請求項11】
前記検出ゾーンのうち少なくとも一部はウェルである、請求項1に記載の素子。
【請求項12】
サンプル中の標的を検出する方法であって、該サンプルを請求項1、2、6又は7のうちいずれか1つに記載の素子に適用するステップを含む、方法。
【請求項13】
サンプル中の標的を検出する方法であって、
(a)請求項6に記載の素子を選択するステップと、
(b)前記標的が前記検出スポットの少なくとも一部に検出可能な指示を与えさせるように、前記サンプルを前記選択された素子に適用するステップと、
(c)前記予め定められたパターンを決定するために前記読み取り可能なコードを読み取るステップと、
(d)前記検出可能な指示を検出して、決定された前記予め定められたパターンに基づいて前記サンプル中に存在する標的を同定するステップとを含む、サンプル中の標的を検出する方法。
【請求項14】
前記コードは機械で読み取り可能であり、前記読み取り可能なコードを読み取るステップ及び検出するステップは同一の読み取り装置で実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも4個の間隔を置いて配置される検出ゾーンを含む検出アレイを作成する方法であって、
該検出ゾーンのそれぞれは少なくとも6個の間隔を置いて配置される検出スポットを含み、該検出スポットは特異的な標的の有無の検出可能な指示を与えることができ、前記検出ゾーンのそれぞれには少なくとも3個の異なる検出スポットがあり、前記方法は、
(a)前記検出スポット用のランダム化されたパターンを決定するステップと、
(b)前記検出スポットは予め定められた前記パターンで配置された基質に前記検出スポットを適用するステップとを含む、検出アレイを作成する方法。
【請求項16】
前記方法は、デテクタがランダム化された前記パターンを決定できるような、機械で読み取り可能なコードを提供するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記機械で読み取り可能なコードは前記基質上に配置される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記機械で読み取り可能なコードは暗号化される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
ランダム化されたパターンを決定するステップは、乱数発生アルゴリズムを用いて前記パターンを決定することを含む、請求項15、16、17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記アレイは少なくとも50個の検出ゾーンを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項21】
前記アレイはゾーン当たり少なくとも30個のスポットを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項22】
前記検出ゾーンのそれぞれには少なくとも10個の異なる検出スポットがある、請求項1に記載の素子。
【請求項23】
前記アレイは、ランダム化されていない少なくとも1個の検出ゾーンを含む、請求項2に記載の素子。
【請求項24】
選択されたパターンで配置される検出スポットを有する複数の検出ゾーンを含むマイクロアレイであって、改良点は前記選択されたパターンがランダム化されていることである、マイクロアレイ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−512508(P2007−512508A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538386(P2006−538386)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/036249
【国際公開番号】WO2005/045076
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(591028256)ベックマン コールター インコーポレイテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】BECKMAN COULTER,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】4300N.Harbor Boulevard Fullerton,California 92834−3100 U.S.A.
【Fターム(参考)】