説明

高精細印刷用インキ組成物およびそれを用いた高精細パターンの形成方法

【課題】電子部品等の製造過程におけるパターン形成を行うのに適した印刷用インキ組成物および印刷法の提供。
【解決手段】印刷版画線部のHildebrand溶解パラメーターSP値がPpである印刷版を用いた印刷法に使用される印刷用インキ組成物であって、
前記印刷用インキ組成物が、被膜形成成分と、揮発性溶媒または不揮発性溶媒とを含んでなり、
被膜形成成分のSP値および組成物中の重量濃度をPr(i)およびWr(i)、
揮発性溶媒のSP値および組成物中の重量濃度をPv(j)およびWv(j)、
不揮発性溶媒のSP値および組成物中の重量濃度をPnv(k)およびWnv(k)、
としたとき、


を満たす印刷用インキ組成物と、それを用いた印刷法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、例えばフラットパネルディスプレイ(以下、FPDと呼ぶことがある)、半導体素子などのパターン形成に用いる、高精細印刷向けインキ組成物に関するものである。また、本発明はそのような電子部品製造のためのパターン形成に用いられる印刷法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
FPDの配線に用いられるパターンなどは、フォトリソグラフィー法により作成されるのが一般的である。しかしながら、フォトリソグラフィー法に用いられる露光機は一般に非常に高価であり、また一方でパターンの大型化のニーズに応えるためにますます設備投資が高額になることが懸念されている。このため、パターン形成方法における脱リソグラフィー化の要望が高まっており、リソグラフィー法以外の安価に実施できる方法が検討されている。
【0003】
その一つに安価で大型化に向いた印刷法がある。この方法は、古くからはプリント基板の配線作成に用いられていたものであるが、最近ではカラーフィルターの作成方法として確立しつつある。
【0004】
しかしながら例えば液晶ディスプレイの配線、薄膜トランジスタの配線などを作成するには、カラーフィルターの作成などに比較して高精細な印刷特性が要求されるが、従来の印刷法ではこのような要求に十分応えることが困難であった。
【0005】
印刷法のうち、高精細な印刷が可能である方法として、例えば凸版反転オフセット印刷が提案されている(特許文献1)。この印刷法は、比較的高解像度なパターンを作成することを目的とするものである。しかしながら、この方法で低解像度なパターン、例えば140μm×210μmの矩形パターンを作成すると、インキが版の凹部分に付着し、得られる形成物中央が抜けてしまう「中抜け」という現象が起こってしまうことも知られている(特許文献2比較例)。このような現象は、非常に間隔の空いた点状穴を作成する場合などには不向きである。この問題を解決するために、版の凹凸部分の高低差を大きくする方法、または凹部分領域に凸部分を設ける方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、版の凹凸部分の高低差を大きくすると、それだけ版の作成難易度が増すため、版の製造コストが増大するという問題があり、また凹部領域中に設けられた凸部分がインキを取り除いてしまうために、得られた画像形成物にピンホールができてしまうという問題があるため、フォトレジストの代用、ならびにカラーフィルターの作製に使用するには必ずしも適当ではなかった。また、ブランケットがインキ中の溶媒を吸収してしまい、またブランケット構成物の一部が溶媒中に溶出してしまうことが避けられず、安定した連続使用が困難であるという問題点もあった。
【0006】
このような問題を解決する方法として、剥離印刷法が挙げられる(例えば特許文献3参照)。剥離印刷法では、平版を使用するために凸版を用いた場合に起こる中抜けが起こりにくく、また版に対してインキを塗布するためにブランケットが変質しにくい。さらには通常の平版印刷に比べて凝集破壊(親インキ層がはがれにくく、転写時において膜が裂け、転写元と転写先に別れて残る現象)が起こりにくく、画像形成物の面内凹凸がより少なく、かつ高精細なパターン作成が可能であることから近年注目されている。
【0007】
しかしながら、従来の印刷法に用いる組成物(例えば特許文献4参照)を用いた場合には、(1)版上の撥インキ機能を有する層(以後、撥インキ層ということがある)の種類によっては表面に均一なインキ層を形成させることが困難である、(2)版に塗布されたインキが乾燥しやすいために転写可能時間が制限される、(3)樹脂同士の相互作用が強すぎて「糸引き」と呼ばれる細い樹脂の跡が付き易い、など改良の余地があることが本発明者らの検討によって判明した。このような問題により、高精細なパターンを形成することが困難となっている。
【0008】
また、ブランケットを用いる平版印刷法として、印刷版からブランケットにインキ組成物を転写し、印刷版に残ったインキ組成物を対象基材に転写する方法も提案されている(特許文献5)。しかし、凝集破壊が起こることがあるため、改良の余地があった。
【特許文献1】特開平11−198337号公報
【特許文献2】特開2007−160769号公報
【特許文献3】特開2004−249696号公報
【特許文献4】特開2005−126608号公報
【特許文献5】特公平8−3068号公報
【特許文献6】特開2002−275402号公報
【特許文献7】特開平10−045667号公報
【非特許文献1】”Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook, Second Edition”、C.M.Hansen著、CRC Press(米国フロリダ州Boca Raton)発行
【非特許文献2】(溶解パラメーター)SP値 基礎。応用と計算方法、山本秀樹著、株式会社情報機構、2005年3月発行
【非特許文献3】溶剤ハンドブック、浅原照三、戸倉仁一朗、大河原信、熊野谿従、妹尾学編、株式会社講談社、1976年3月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記したような課題に鑑みて、電子部品や半導体素子などの製造過程におけるパターン形成を特定の印刷法で行うのに適した印刷用インキ組成物を提供しようとするものである。また本発明は、下地の層をエッチングでパターン形成できるようなレジストパターン形成に適する印刷用インキ組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による第一の印刷用インキ組成物は、撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなり、前記画線部のHildebrand溶解パラメーターがPpである印刷版を用い、前記印刷版の全面に印刷用インキ組成物を塗布し、前記画線部上に塗布された印刷用インキ組成物を対象基材上に転写することを含んでなる印刷法に使用されるものであって、
前記印刷用インキ組成物が、I種類の被膜形成成分(ここでIは1以上の整数)、およびJ種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa以上600hPa以下である揮発性溶媒、またはK種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa未満である不揮発性溶媒(ここでJおよびKは0または1以上の整数であって、JおよびKは同時に0ではない)を含んでなり、
i番目の被膜形成成分のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPr(i)およびWr(i)、
j番目の揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPv(j)およびWv(j)、
k番目の不揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPnv(k)およびWnv(k)、
としたとき、
【数1】

を満たすことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明による第2の印刷用インキ組成物は、撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなる印刷版を用い、前記印刷版の全面にインキを塗布し、前記画線部上に塗布されたインキを対象基材上に転写する工程を含む印刷法に使用されるものであって、
前記インキ組成物が、被膜形成成分および溶媒を含んでなり、前記被膜形成成分の50%以上が、環状炭化水素基または環状炭化水素基を構成する炭素原子の少なくとも一つを酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなる化合物であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明による印刷法は、
撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなり、前記画線部のHildebrand溶解パラメーターがPpである印刷版を準備し、
種類の被膜形成成分(ここでIは1以上の整数)、およびJ種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa以上600hPa以下である揮発性溶媒、またはK種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa未満である不揮発性溶媒(ここでJおよびKは0または1以上の整数であって、JおよびKは同時に0ではない)を含んでなる印刷用インキ組成物であって、
i番目の被膜形成成分のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPr(i)およびWr(i)、
j番目の揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPv(j)およびWv(j)、
k番目の不揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPnv(k)およびWnv(k)、
としたとき、
【数2】

を満たす印刷用インキ組成物を前記印刷版の全面に塗布し、
前記画線部上に塗布されたインキを対象基材上に転写する
こと含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明による印刷用インキ組成物は、印刷版の画線部の物性に合わせたものであって、印刷版の全面に均一に塗布することができ、印刷版上に形成された被膜は画線部から凝集破壊を起こすことなく、容易に剥離することができるために転写性に優れており、且つ、糸引きやムラのない高精細な画像またはパターンを得ることができる。そしてそのような画像またはパターンは電子部品や半導体素子製造に適した高精細なものであり、それを用いることにより電子部品や半導体素子を安価に製造することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
溶解性パラメーター
本発明による印刷用インキ組成物は、それに含まれる被膜形成成分および溶媒が有する溶解性パラメーターと、印刷版(画像形成版ということもある)の画線部、すなわち撥インキ機能を保護超された部分の溶解性パラメーターとが特定の関係を満たすものである。
【0015】
本発明においては、その溶解性パラメーターとして、Hildebrandの溶解性パラメーターを用いる。以下、簡便のためにこの溶解性パラメーターを単にSP値ということがある。被膜形成成分や溶媒等、化合物のSP値は、本来、その構造により一義的に決まるものである。しかしながら、現実的にはそのSP値を直接測定することができないため、その化合物の構造から計算により求められる。SP値を求めるための算出法には様々なものがあるが、本発明では原則として、”Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook, Second Edition”(非特許文献1)に記載された値を用いる。しかしながら、この文献に記載されていない化合物等を用いる場合もあるので、以下の優先順位によりSP値を特定する。
(1)非特許文献1に掲載されたSP値
(2)ダウ・ケミカル・カンパニーのデータベースCHEMCOMPに掲載されたSP値
(3)Kreveren & Hoftyzerの推算法により求められたSP値(非特許文献2)
(4)Fedorsの推算法により求められたSP値(特許文献6、非特許文献2)
(5)物性値からの算出
ここで、物性値からの算出については、特許文献7に記載された濁点法が、非特許文献3には溶解性パラメーターが既知である溶媒を使用し、試料の溶解状態から実測する方法が記載されている。
【0016】
本発明においては、このように特定されたSP値を用いて、そのSP値が特定の関係を満たす印刷用インキ組成物が特定されている。
【0017】
印刷用インキ組成物
本発明による印刷用インキ組成物は、被膜形成成分と溶媒とを含んでなるものである。ここで溶媒は、20℃における蒸気圧が10hPa以上600hPa以下の揮発性溶媒と、20℃における蒸気圧が10hPa未満の不揮発性溶媒とに分類できるが、そのいずれであっても、また混合物であってもよい。そして、被膜形成成分、揮発性溶媒、および不揮発性溶媒は、それぞれ2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
したがって、本発明による印刷用インキ組成物は、I種類の被膜形成成分、およびJ種類の揮発性溶媒、またはK種類の不揮発性溶媒を含んでなるものであるとき、Iは1以上の整数であり、JおよびKは0または1以上の整数であって、JおよびKは同時に0ではないである。そして、本発明による印刷用インキ組成物は、それぞれの被膜形成成分および溶媒について、前記したように特定されたSP値と、印刷用インキ組成物中における各成分の重量濃度とが特定の関係を満たすものである。すなわち、本発明による印刷用インキ組成物は、
i番目の被膜形成成分のSP値および組成物中の重量濃度をPr(i)およびWr(i)、
j番目の揮発性溶媒のSP値および組成物中の重量濃度をPv(j)およびWv(j)、
k番目の不揮発性溶媒のSP値および組成物中の重量濃度をPnv(k)およびWnv(k)、
としたとき、
【数3】

を満たすものである。
【0019】
ここで、(1)式により表されるXは、印刷用インキ組成物の転写性に関する特性を示す値であり、印刷用インキ組成物の凝集性を適当に維持し、乾燥後の印刷版画線部上の被膜の転写性を良好にするために7.0J1/2・cm−3/2以下であることが必要であり、6.5J1/2・cm−3/2以下であることが好ましく、6.0J1/2・cm−3/2以下であることがさらに好ましい。
【0020】
一方、(2)式により表されるYは、印刷用インキ組成物の塗布性に関する特性を示す値であり、印刷版の画線部上にハジキを発生せずに均一に塗布するために、3.5J1/2・cm−3/2以下であることが必要であり、3.0以下J1/2・cm−3/2であることが好ましく、2.5J1/2・cm−3/2以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明による印刷用インキ組成物は、撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなる印刷版を用い、前記印刷版の全面に印刷用インキ組成物を塗布し、前記画線部上に塗布された印刷用インキ組成物を対象基材上に転写することを含む印刷法に使用されるものである。ここで、印刷版に塗布されたインキ組成物は、一般的には乾燥により溶媒の少なくとも一部が除去されてから対象基材に転写される。ここで、溶剤の少なくとも一部が除去されるため、一度は均一に塗布された印刷用インキ組成物が、乾燥後にハジキなどを発生して均一性が劣化することがある。したがって、乾燥途中または乾燥後にも前記の(1)および(2)式を満たすことが好ましい。
【0022】
具体的には、被膜形成成分、揮発性溶媒、および不揮発性溶媒を1種類ずつ用いた場合、前記の(1)は下記のように書き直せる。
【数4】

【0023】
通常、塗布後の印刷用インキ組成物は、溶媒の一部が除去され、残留する溶媒が被膜形成成分と同重量以下になるまで乾燥されることが好ましい。ここで、揮発性溶媒は不揮発性溶媒よりも先に蒸発して除去されるので、残留する溶媒は不揮発性溶媒だけになる。そして、不揮発性溶媒の残留量が被膜形成成分と同重量になったとき、すなわち被膜形成成分と不揮発性溶媒との重量比が1:1になるまで乾燥させたとき、上記式を満たしていることが好ましい。このとき、Wr(1)=Wnv(1)、Wv(1)=0であるから、上記の式は以下の通りに書き直すことができる。
【数5】

【0024】
一方、(2)式は前記したように塗布性に関するものであり、一度塗布されたものに対しては適用できない。しかし、このとき、印刷版の画線部のSP値と、不揮発性溶媒のSP値とが下記の関係を満たすことが好ましい。
【数6】

【0025】
なお、本発明による印刷用インキ組成物は、前記した被膜形成成分および溶媒の他に、後述するその他の添加剤を含むことができる。そのような添加剤も、その構造に応じて固有のSP値を有するが、一般にその添加量が少ないため、前記したXおよびYはほとんど影響を受けない。しかしながら、その他の添加剤の含有量が多い場合にはその寄与に注意が必要である。
【0026】
印刷版
本発明における印刷用インキ組成物は、印刷版に塗布され、印刷版上の画線部に塗布された印刷用インキ組成物が他の基材に転写されることにより印刷物、すなわちパターンを形成するものである。ここで印刷版は、撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなるものである。すなわち、印刷用インキ組成物に対する親和性の差を利用して、インキ組成物の転写を制御する。
【0027】
本発明において用いられる印刷版は、任意に選択することができるが、画線部の表面自由エネルギーが相対的に低いもの、非画線部のそれが相対的に低いものが好ましい。例えば画線部がシリコーン、非画線部がポリウレタン樹脂である水無し平版印刷版(PS版、例えば東レ株式会社製)が挙げられる。
【0028】
本発明において、印刷用インキ組成物はこの印刷版の画線部、すなわち撥インキ機能を施された部分のSP値に依存する。しかしながら、実際には一般的に使用される印刷版の画線部のSP値はそれほど大きく変化するものではなく、一般に12.5〜17.5、好ましくは12.5〜16.0、さらに好ましくは12.5〜15.5である。具体的には、ジメチルシリコーン樹脂(SP値=14.8J1/2・cm−3/2)、ポリテトラフルオロエチレン(12.7J1/2・cm−3/2)、ポリメチルペンテン(16.4J1/2・cm−3/2)、またはポリイソプレン(17.4J1/2・cm−3/2)が印刷版の画線部として用いられていることが好ましい。
【0029】
被膜形成成分
本発明においては、前記した式(1)および(2)を満たすように選択された被膜形成成分が用いられる。ここで、被膜形成成分は、印刷により媒体等に塗布または転写されることにより媒体等の表面に被膜を形成するものであり、印刷版の画線部のSP値および溶媒のSP値により制限されるが、一般的にはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂などの合成樹脂、ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、またはカシュー変性フェノール樹脂などの天然樹脂など、幅広く一般的な樹脂を用いることができる。また、必要に応じて、これらの樹脂を構成するモノマーに相当するものを用いることもできる。これらのうち、被膜形成成分が、環状炭化水素基、または環状炭化水素基を構成する炭素原子の少なくとも一つを酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなるものであることが好ましい。さらには、被膜形成成分が、ロジン樹脂(SP値=20.3J1/2・cm−3/2)、ジシクロペンタジエン樹脂(SP値=20.0J1/2・cm−3/2)、フラン樹脂、あるいは環状炭化水素基または環状炭化水素基を構成する炭素原子を酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含むアクリレート樹脂(SP値=24.1J1/2・cm−3/2)またはメタクリレート樹脂、例えばシクロヘキシルアクリレートまたはシクロヘキシルメタクリレート、であることが好ましく、ロジン樹脂であることが最も好ましい。例えばロジン樹脂の主成分であるアビエチン酸(SP値20.3J1/2・cm−3/2)は前記したジメチルシリコーン樹脂が画線部として用いられた印刷版に最適な被膜形成成分である。
【0030】
このような被膜形成成分の好ましいものとして、より具体的には以下のものが挙げられる。
(1)アビエチン酸誘導体、およびそれを含む樹脂(ロジン樹脂)
アビエチン酸誘導体、例えば
【化1】

で示される誘導体、ならびにそれらと、アルコール、例えばエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エリスリトールなどとのエステル重合体、
(2)ジシクロペンタジエン樹脂
下式;
【化2】

(式中、l、m、およびnは重合度を表す数である)
で示される樹脂、例えばポリシクロペンタジエン、ならびにポリシクロペンタジエンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリシクロペンタジエンとアクリル酸との共重合体、ポリシクロペンタジエンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリシクロペンタジエンと無水マレイン酸との共重合体、ポリシクロペンタジエンとマレイン酸との共重合体、ポリシクロペンタジエンとマレイン酸エステルとの共重合体、およびポリシクロペンタジエンとフェノールとの共重合体、
(3)フラン樹脂
フラン環を含む樹脂、例えば
【化3】

で示される樹脂(より具体的には、ヒタフランVF−303(商品名)日立化成工業株式会社製)、
(4)環状炭化水素基または環状炭化水素基を構成する炭素原子を酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなるアクリレート樹脂またはメタクリレート樹脂
例えば、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘプチルメタクリレート、アダマンチルメタクリレートなどをモノマー成分として含むポリマー。
【0031】
なお、本発明は、撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなる印刷版を用い、前記印刷版の全面にインキを塗布し、前記画線部上に塗布されたインキを対象基材上に転写する工程を含む印刷法に使用される印刷用インキ組成物に関するものであるが、この印刷用インキ組成物に含まれる被膜形成成分が主として環状炭化水素基を構成する炭素原子の少なくとも一つを酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなる化合物であると、ほとんどの印刷版に対して前記(1)および(2)式を満たすことができるので好ましい。この被膜形成成分は、被膜を形成するために、比較的高分子量のものが好ましく、例えば分子量が250以上であることが好ましい。より具体的には、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、フラン樹脂、あるいは環状炭化水素基または環状炭化水素基を構成する炭素原子の少なくとも一つを酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなるアクリレート樹脂またはメタクリレート樹脂であることが好ましい。特に被膜形成成分のうち50%以上、好ましくは80%以上がこれらの化合物であると、前記(1)および(2)式を満たすことができる。すなわち、印刷版や溶媒の種類を選ばずに使用できる印刷用インキ組成物となる。このとき、溶媒は被膜形成成分を溶解できるものであれば特に限定されないが、不揮発性溶媒を含むことが好ましく、さらに不揮発性溶媒と揮発性溶媒との混合溶媒であることが好ましい。
【0032】
溶媒
本発明による印刷用インキ組成物は、前記した被膜形成成分の他に溶媒を含んでなる。この溶媒は、前記被膜形成成分を溶解させてインキ組成物を均一にさせる機能、インキ組成物全体のSP値を適切に調整し、印刷版全体に均一に塗布することを可能とする機能、インキ組成物の粘度を適切に調整する機能などを併せ持つ。このような溶媒としては有機溶媒並びに無機溶媒があるが、種類が豊富であり、目的に応じて選択が可能であるため、有機溶媒であることが好ましい。このような有機溶媒として、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、カルボン酸類、有機シリコーンオイル、ハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。これらは必要に応じて2種類以上を混合して用いることもできる。なお、これらのうちケトン類は塗布性が悪くなる傾向にあるため、使用に際しては注意が必要であり、溶媒としてケトン類を用いないことが好ましい。
【0033】
これらの溶媒も、それぞれ固有のSP値を有するが、具体的な溶媒とそのSP値を示すと以下の通りである。また、塗布時の塗布性(5段階評価で数値の大きいものほどすぐれる)についても併せて記載する。
【表1】

【0034】
ここで、溶媒は単一の溶媒を用いることの他に、混合溶媒を用いることができる。特に、被膜形成成分を溶解しやすい溶媒と、混合後の溶媒全体のSP値が版のSP値に近くなるような溶媒を組み合わせた混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒は、いわば被膜形成成分溶解用の溶媒と、SP値調整用の溶媒との混合物ということができる。
【0035】
例えばジメチルシリコーン樹脂(SP値=14.8J1/2・cm−3/2)でできた印刷版の画線部は、n−ジブチルエーテル(SP値=16.1J1/2・cm−3/2)でぬらす事が容易であるが、SP値が20.0J1/2・cm−3/2であるロジン樹脂を溶解することが難しい。そこで、印刷版の画線部に許容レベルで塗布することができるが被膜形成成分の溶解性が良い酢酸n−プロピル(17.6J1/2・cm−3/2)と、画線部に対する塗布性が高いn−ヘキサン(SP値=14.9J1/2・cm−3/2)を重量比1:1すれば、被膜形成成分を容易に溶解させ、かつ印刷版の画線部に容易に塗布することができる。
【0036】
溶媒について、SP値に関する観点から述べたが、前記したSP値の他に、揮発性も着目すべき特性値となる。本発明による印刷用インキ組成物は、典型的には剥離印刷法に用いられる。剥離印刷法は、まず印刷版の全面に印刷用インキ組成物を均一に塗布し、形成された塗膜をある程度乾燥または硬化させ、その後印刷版の画線部上のインキ組成物を転写することを含んでなる。このとき乾燥または硬化が不十分であれば、印刷形成物がやわらかすぎるためにその形成物は破損しやすく、逆に過乾燥または過硬化であれば塗膜のタックがなく、転写ができない。
【0037】
本発明においては、印刷用インキ組成物に用いられる有機溶媒を、上記のような観点から乾燥工程または硬化工程に対応して、適切に選択することができる。乾燥工程にはその乾燥のさせ方としていくつかの方法を選択できる。たとえば、塗布後の印刷版を真空下におく、大気圧下で放置する、加熱するなどである。
【0038】
他方、塗布した後そのまま大気圧下で放置して自然に乾燥させる方法も採用できる。この場合、単一溶媒では転写に適した塗膜の乾燥状態を保つことが、非常に困難である。そこで、この問題を解決するために、(i)塗膜の乾燥性の観点から、揮発性有機溶媒と、(ii)印刷時の転写性を高めるという観点から、不揮発性有機溶媒を少なくとも一種ずつ組み合わせたものを使用することが好ましい。
【0039】
ここで、揮発性溶媒とは20℃における蒸気圧が10hPa以上600hPa以下、好ましくは30hPa以上550hPa以下である溶媒をいい、また不揮発性溶媒とは20℃における蒸気圧が10hPa未満、好ましくは2hPa以下であるものをいう。
【0040】
このような揮発性溶媒の具体例としては、(a)n−ペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサンなどの炭化水素、(b)トルエンなどの芳香族炭化水素、(c)メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノールなどのアルコール、(d)ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル、(e)アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、(f)酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピルなどのエステル、(g)ジエチルアミン、プロピルアミンなどのアミン、が挙げられる。
【0041】
また、不揮発性溶媒の具体例としては、(a)ドデカン、ウンデカンなどの炭化水素、(b)キシレン、ナフタレンアンドの芳香族炭化水素、(c)ヘキサノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールなどのアルコール、(d)ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル、(e)ヘプタノン、ジブチルケトンなどのケトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、酢酸トリドデシル、リノール酸エチルなどのエステル、(f)オレイン酸、カプリル酸などのカルボン酸、(g)エチルヘキシルアミン、トリエチルヘキシルアミンなどのアミン、(h)N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド、(i)ジメチルシロキサンなどのシリコーンオイルが挙げられる。
【0042】
また、揮発性溶媒と不揮発性溶媒とを混合して用いる場合には、その蒸気圧の差が大きいことが好ましい。これは前記したように、揮発性溶媒のみを蒸発させ、不揮発性溶媒のみを塗膜中に残存させることにより乾燥性と転写性とを安定に両立させるためである。具体的には複数の溶媒を混合して用いる場合には、それらの蒸気圧の差が2.5hPa以上であることが好ましく、5hPa以上であることがより好ましい。
【0043】
本発明において、溶媒の含有量は、用いられる被膜形成成分やその他の添加剤の種類、望まれる組成物の粘度などに応じて任意に選択することができるが、印刷用インキ組成物の総重量を基準として、一般に1〜99重量%、好ましくは40〜97.5重量%、さらに好ましくは60〜95重量%である。このような溶媒含有量を選択することにより、塗膜を均一に作成できるスリットコート法やスピンコート法、スプレーコート法などに適した粘度の組成物を得ることができる。
【0044】
なお、前記の不揮発性溶媒の一部またはすべてを、反応性希釈剤に置き換えることができる。反応性希釈剤とは、常温(20℃)で液体であり、必要に応じて触媒の存在下に光や熱によって重合して硬化する化合物である。このような反応性希釈剤だけを溶媒として用いた場合には、前記したような乾燥、すなわち溶媒の除去は不要となる。
【0045】
このような反応性希釈剤は、一般に、混合溶媒として用いた場合には他の溶媒との混合性がよく、かつそれ自身が重合反応をすることによって基板に対する密着性が改良され、ウェットエッチング耐性も改良される傾向があるので、本発明による印刷用インキ組成物には好ましいものである。このような反応性希釈剤は、一般的に光硬化後の膜の基板に対する密着性を向上させる効果により、転写時の転写性をも向上させることもできる。
【0046】
このような反応性希釈剤の例としては、オキセタン基を有する低分子化合物やエポキシ化合物が挙げられる。このオキセタン化合物により、塗布性が改良され、また組成物の硬化性が改良されるという効果も得られる。また、エポキシ化合物をオキセタン化合物に併用して用いることで、重合開始時の速度を改良することもできる。
【0047】
その他、反応性希釈剤として、アクリル化合物、メタアクリル化合物、不飽和結合含有溶剤が使用できる。具体的には、不飽和結合を有するアクリル酸またはメタクリル酸、あるいはそれらの低級アルキルエステルやひまし油などの不飽和脂肪酸グリセリドが挙げられる。
【0048】
なお、反応性希釈剤を用いる場合には、その光重合反応を促進するための光触媒も併用することが好ましい。ここで光触媒とは反応性希釈剤の光重合を促進するものであれば特に限定されず、前記した光酸発生剤を光触媒として用いることもできる。
【0049】
本発明による印刷用インキ組成物の粘度は、塗布方法や膜厚によって任意に調整することができる。スピンコートである場合は好ましくは30cP以下、スリットコートであれば5cP以下とされる。このような粘度範囲であれば、一般に塗布後の被膜にムラが生じにくく、すぐれた被膜を形成させることができる。
【0050】
本発明による印刷用インキ組成物は、必要に応じてその他の添加剤を含むことができる。以下にそれらの添加剤について説明すると以下の通りである。
【0051】
微粒子
本発明による印刷用インキ組成物は、微粒子をさらに含んでなることができる。このような微粒子を用いることにより、被膜形成成分を複数混合した場合と同様な効果を得ることができることがある。
【0052】
微粒子の粒径は目的に応じて任意に選択できるが、パターンのサイドエッジに粒子がはみ出してエッチング性が劣化するのを防ぐために小さいことが好ましく、また、前記した糸引きを防止するためには大きいことが好ましい。このため、微粒子の粒径は一般に1〜1000nm、好ましくは5nm〜500nm、さらに好ましくは10nm〜250nmである。ここで、微粒子の粒径は、微粒子が印刷用インキ組成物中に分散している状態で、粒度分布測定装置、例えば日機装株式会社製UPA−EX1500(商品名)や株式会社島津製作所製SALD−7100(商品名)を用いて、レーザ回折・散乱法により求められるものである。
【0053】
このような微粒子は、無機微粒子であっても、有機微粒子であってもよい。なお、ここで微粒子と呼ばれるものは、組成物中に溶解せず、分散状態で保持されるものをさす。微粒子の粒径は、目的に応じて任意に選択されるが、パターンのサイドエッジに粒子がはみ出してエッチング性が劣化するのを防ぐために小さいことが好ましく、また前記した糸引きを防止するためには大きいことが好ましい。このため、微粒子の粒径は、一般に0.005〜1.0μm、好ましくは0.01〜0.5μmである。ここで、微粒子の粒径は、微粒子が溶媒中に分散している状態で、前記した粒度分布測定装置を用いて、動的光散乱法/レーザードップラー法により求められるものである。
【0054】
このような微粒子としては、無機微粒子として、無機酸化物、無機窒化物などが挙げられ、有機微粒子として、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ラテックスなどのポリマーからなる微粒子、カーボン粒子などが挙げられる。さらにはフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなども用いることができる。このような微粒子は各種のものが市販されており、例えば無機系微粒子は、キャボットコーポレーションよりCAB−O−SIL(R)TG−308F(商品名)、富士シリシア化学株式会社よりサイリシア310P(商品名)、エンゲルハードコーポレーションよりASP170(商品名)、クラリアントジャパン株式会社よりHighlink OG 502−31 liq(商品名)、有機系微粒子は、ガンツ化成株式会社よりAC−3355(商品名)が市販されている。なお、被膜形成成分との相溶性が低くはがれやすいことから無機微粒子が好ましい。
【0055】
微粒子は、分散性を向上させるなどの目的のために、層状構造を有することができる。このような層状構造を有する微粒子として、例えば表層がアルキルシロキサンで改質された微粒子(具体的にはキャボットコーポレーション製CAB−O−SIL(R)TG−308F(商品名))が挙げられる。
【0056】
さらに表層に、光または熱活性触媒存在下、被膜形成成分と反応する官能基を有してもよい。この官能基と被膜形成成分とが化学結合することによって、得られた印刷形成物の化学並びに物理的耐性を上げることができる。被膜形成成分と反応する官能基は使用する被膜形成成分によって合わせる必要がある。ここでの官能基は、様々なものを選択することができる。
【0057】
官能基の例として、不飽和結合含有基、共役不飽和結合含有基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、オキセタン基、−OH、−SH、−COO−、−NH−、−CHO、−N≡N、−N、−CN、フェノール性−OH含有アリール基、チオフェノール性−SH含有アリール基、−COOH、Ar−CH−OR(Arは芳香環、RはHまたはCH)が挙げられる。
【0058】
微粒子は、印刷用インキ組成物の用途によって適宜選択することができる。例えばレジストインキとして使用する場合はシリカ、液晶ディスプレイのカラーフィルターを製造するための材料として使用するのであれば各種顔料、金属配線を形成するための材料として使用するのであれば金属あるいは金属誘導体を用いることができる。
【0059】
微粒子の配合率は、使用する被膜形成成分によって変化させることができるが、切れ性の観点から被膜形成成分100重量部に対して0.1重量部以上、好ましくは0.25重量部以上、さらに好ましくは0.5重量部以上入れることが好ましい。0.1部未満では、切れ性に対しての変化が殆ど見られない。
【0060】
界面活性剤
本発明の組成物は界面活性剤をさらに含有してもよい。界面活性剤の含有量は特に限定されないが、一般に版への塗布方法によって含有量が調整される。例えばスピンコートであれば、被膜形成成分に対して100〜5000ppm、スリットコートであれば2000〜20000ppm加えることが好ましい。これら指定範囲より少なすぎると塗布後の被膜にムラが生じ、多すぎると版の外周に盛り上がりが生じてしまうので、好ましくない。なお、界面活性剤には各種のものがあるが、本発明においては、フッ素系の界面活性剤が好ましく、フッ素含有シリコーン系界面活性剤が特に好ましい。このような界面活性剤としては、大日本インキ化学工業株式会社製メガファックR−100(商品名)などが市販されている。
【0061】
架橋剤または触媒
本発明による印刷用インキ組成物は、必要に応じて架橋剤、あるいは光または熱活性触媒(光酸発生剤、熱酸発生剤、光塩基発生剤、熱塩基発生剤、光ラジカル発生剤、熱ラジカル発生剤)を含有していても良い。これらは印刷過程において利用する重合反応や架橋反応に応じて選択される。
【0062】
特に、必要に応じて被膜形成成分、不揮発性溶媒、またはその両方と架橋する樹脂を架橋剤として添加することが好ましい。具体的には不飽和結合を有する被膜形成成分または不揮発性溶媒、例えばロジン樹脂やリノール酸エチルに、酸により架橋反応を起こす架橋剤を組み合わせることが好ましい。特にロジン樹脂とリノール酸エチルとを含む組成物にそのような架橋剤を組み合わせると、架橋剤が酸存在下にロジン樹脂およびリノール酸エチルと架橋し、架橋後にレジストとして用いた場合には優れたエッチング耐性を示し、またインキ組成物としては耐光性、耐候性、および耐擦り傷性に優れたものとなるので特に好ましい。このような用途に用いられる架橋剤としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系、尿素系化合物、あるいはアルコキシアルキル化メラミン樹脂、アルコキシアルキル化尿素樹脂などのアルコキシアルキル化アミノ樹脂などが好ましいものである。これらアルコキシアルキル化アミノ樹脂の具体例としては、メトキシメチル化メラミン樹脂、エトキシメチル化メラミン樹脂、プロポキシメチル化メラミン樹脂、ブトキシメチル化メラミン樹脂、メトキシメチル化尿素樹脂、エトキシメチル化尿素樹脂、プロポキシメチル化尿素樹脂、ブトキシメチル化尿素樹脂などが挙げられる。このような樹脂類は一般に市販もされており、例えば架橋剤として用いることができるメラミン樹脂として、サイメル303(商品名、三井サイテック株式会社製)が市販されている。
【0063】
本発明による印刷用インキ組成物は、電子部品や半導体素子の製造過程においてパターンを形成する工程に主として用いられる。最も典型的には、半導体素子における回路や表示素子のカラーフィルターなどの製造に用いられるが、その他、液晶素子におけるスペーサの形成、MVA方式の液晶素子における導電性被膜上の突起物形成、カラーフィルターの製造、有機EL素子のパターニングなどに用いることができる。
【0064】
まず、本発明の組成物は、スペーサ形成に用いることができるが、従来のインキ組成物に対して以下の理由で好ましいものである。
従来は、基板全面に球系ビーズを散布し、それによりスペーサを形成させていた。しかし、そのような方法では、開口率が下がり、バックライトの光が十分に前面に透過せず、コントラストが低くなってしまう欠点があった。
【0065】
そこで、最近はそのような問題を解消するために感光性樹脂を用いて、ブラックマトリックス上にスペーサ柱を立てる方法が採用されている。この方法によれば、元々ブラックマトリックスは光を通さないので、上記のような理由で開口率がさがらない。しかし、このスペーサは、熱膨張性などで球系ビーズのスペーサより劣り、液晶とスペーサの熱膨張率の差から、温度が変わると液晶と液晶の配置に隙間ができ、光が漏れてしまう欠点があった。
【0066】
そこで、本発明による組成物に3〜5μmφのビーズスペーサを混ぜ、ブラックマトリックス上に定点配置することにより上記の欠点を改良することができる。
【0067】
また、MVA方式の液晶素子における突起の形成に用いる場合には、被膜形成成分として、印刷で突起作成後の、溶媒脱離のための加熱処理に耐えうる耐熱性を持つ被膜形成成分を用いることが好ましい。本発明による印刷用インキ組成物を用いてカラーフィルターを製造する場合には、組成物中に顔料を配合することで所望の色のカラーフィルターを形成することができる。また有機EL素子に用いる場合には、被膜形成成分としてEL素子の発光剤として機能し得るものを用いればよい。
【0068】
印刷法
本発明による印刷用インキ組成物は、撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなる印刷版を用い、前記印刷版の全面に印刷用インキ組成物を塗布し、前記画線部上に塗布された印刷用インキ組成物を対象基材上に転写することを含む印刷法に用いられる。このようなブランケットを用いる印刷法は剥離印刷法と呼ばれることもある。
【0069】
ここで、印刷用インキ組成物を印刷版の全面に塗布するには一般的な塗布方法を用いることができるが、好ましくはスピンコート、スリットアンドスピンコート、スリットコート、スプレーコート、インクジェットコートである。これらの塗布方法は、塗布された被膜の平坦性が非常によいためである。
【0070】
印刷用インキ組成物を前記印刷版の全面に塗布した後、前記印刷用組成物中の揮発性溶媒または不揮発性溶媒の少なくとも一部を蒸発させて乾燥させることが好ましい。一般的には、自然乾燥、真空下において、または加熱により溶媒を除去する方法が採用される。例えば30秒間程度の自然乾燥工程を入れることができる。このような乾燥工程によりインキ組成物のべたつきを抑え、転写したパターンが崩れることを防ぐことができる。また、この乾燥工程は、使用する溶媒の蒸気圧などによって適当な方法を選択することができる。
【0071】
また、前記したように、反応性希釈剤を溶媒として用いた場合には、前記したような乾燥工程に代えて、硬化工程を採用することができる。すなわち、加熱や光照射により被膜を硬化させることで、前記の乾燥と同様に転写パターンの崩れを防ぐことができる。
【0072】
本発明の印刷法においては、このように必要に応じて乾燥工程または硬化工程を経た被膜を、対象基材に転写する。このとき、対象基材を最終的にパターンを形成させようとする基材とすることも、あるいは一旦ブランケットに転写し、転写されたパターンをさらに最終的な基材に転写することもできる。これらの方法は、一般的に行われている印刷技術をそのまま用いることができる。
【0073】
実施例1
アクリル樹脂(新中村化学工業株式会社製NKオリゴEA−6340(SP値:24.1J1/2・cm−3/2))10重量部、不揮発性溶媒としてブチルカルビトールアセテート(以下、BCAということがある)(20℃における蒸気圧0.01hPa、SP値18.2J1/2・cm−3/2)10重量部、揮発性溶媒として酢酸n−ブチル(20℃における蒸気圧10hPa、SP値:17.4J1/2・cm−3/2)を80重量部加え、スターラーで1時間攪拌し、さらに、ポアサイズ1μmφのポリプロピレンフィルターによりろ過して、印刷用インキ組成物1を得た。
【0074】
この組成物1を画線部/非画線部が7μm/7μmに構成された10cm×10cmの東レ株式会社製PS版にスリットコーターで塗布し、30秒間自然乾燥をすることで、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であった。したがって、Xは6.4J1/2・cm−3/2、Yは3.4J1/2・cm−3/2であった。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールが2〜3個確認できたが、使用には問題ないレベルであった。
【0075】
乾燥工程後、直ちにこの被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をブランケットへ転写させ、ついでブランケットをガラス基板に乗せて押圧し、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。また、画像形成物に糸引きがわずかながら確認できたが、実用上の許容範囲内であった。
【0076】
実施例1A〜1C
実施例1に対して、アクリル樹脂の代わりにアビエチン酸(関東化学株式会社製アビエチン酸、SP値:20.3J1/2・cm−3/2)を用い、さらに不揮発性溶媒をジプロピレングリコールメチルエーテル(以下、DPmということがある)(20℃における蒸気圧0.08hPa、SP値:20.0J1/2・cm−3/2)、BCA、またはジエチレングリコールジブチルエーテル(以下、DEGDBということがある)(20℃における蒸気圧0.01hPa、SP値:17.1J1/2・cm−3/2)に変更してインキ組成物1A、1Bおよび1Cを調製した。
【0077】
ここで、実施例1と同様簿方法で被膜を形成させたところ、インキ組成物1AのXは5.4、Yは2.5であり、インキ組成物1BのXは4.5、Yは2.3であり、インキ組成物1CのXは3.9、Yは2.2であった(ぞれぞれ単位はJ1/2・cm−3/2)。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールが2〜3個確認できたが、使用には問題ないレベルであった。
【0078】
乾燥工程後、直ちにこの被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をブランケットへ転写させ、ついでブランケットをガラス基板に乗せて押圧し、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。また、画像形成物に糸引きがわずかながら確認できたが、実用上の許容範囲内であった。
【0079】
実施例2
アビエチン酸(関東化学株式会社製アビエチン酸、SP値:20.3J1/2・cm−3/2)を9重量部、不揮発性溶媒としてn−ドデカン(20℃における蒸気圧1.3hPa、SP値:16.1J1/2・cm−3/2)10重量部、微粒子としてフュームドシリカ(カボット・コーポレーション製CAB−O−SIL TG−815F(商品名))を1重量部、揮発性溶媒として、n−ヘキサン(20℃における蒸気圧170hPa、SP値:14.9J1/2・cm−3/2)30重量部、酢酸n−ブチル(20℃における蒸気圧10hPa、SP値:17.4J1/2・cm−3/2)を50重量部加え、スターラーで1時間攪拌した。この液をそのままビーズミル器に入れ、微粒子を分散させた。分散後、ポアサイズ1μmφのポリプロピレンフィルターによりろ過し、印刷用インキ組成物2を得た。この組成物を粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD−7000(商品名))によって、微粒子の平均粒径が80nmであることを確認した。
【0080】
これを用いて実施例1と同様の方法で、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールは、ひとつも確認できなかった。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であり、Xは3.3J1/2・cm−3/2、Yは2.0J1/2・cm−3/2であった。
【0081】
乾燥工程後、さらに30秒間放置し、その後この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をブランケットへ転写させ、ついでブランケットをガラス基板に乗せて押圧し、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。また、画像形成物に糸引きは確認できなかった。
【0082】
実施例3
実施例2に記載の印刷用インキ組成物2に活性剤としてシリコーン長鎖アルキル変性系界面活性剤(信越化学工業株式会社製KF−412(商品名))を0.2重量部さらに加え、印刷用インキ組成物3を得た。
【0083】
これを用いて実施例1と同様の方法で、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールは、ひとつも確認できなかった。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であった。この印刷用インキ組成物3は、印刷用インキ組成物2に対して、界面活性剤を添加しているが、その添加量はわずかであるため、XおよびYはほとんど変動せず、Xは3.3J1/2・cm−3/2、Yは2.0J1/2・cm−3/2であった。
【0084】
乾燥工程後、さらに1分間放置し、その後この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をブランケットへ転写させ、ついでブランケットをガラス基板に乗せて押圧し、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。
【0085】
実施例4
実施例2に記載の印刷用インキ組成物2に活性剤としてフッ素系界面活性剤(大日本インキ化学工業株式会社製メガファックR−100(商品名))を0.2重量部さらに加え、印刷用インキ組成物4を得た。
【0086】
これを用いて実施例1と同様の方法で、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールは、ひとつも確認できなかった。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であった。この印刷用インキ組成物3は、印刷用インキ組成物2に対して、界面活性剤を添加しているが、その添加量はわずかであるため、XおよびYはほとんど変動せず、Xは3.3J1/2・cm−3/2、Yは2.0J1/2・cm−3/2であった。
【0087】
乾燥工程後、さらに1分30秒間放置し、その後この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をブランケットへ転写させ、ついでブランケットをガラス基板に乗せて押圧し、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。
【0088】
実施例5
アビエチン酸(関東化学株式会社製アビエチン酸、SP値:20.3J1/2・cm−3/2)を5重量部、不揮発性溶媒としてn−ドデカン(20℃における蒸気圧1.3hPa、SP値:16.1J1/2・cm−3/2)5重量部、微粒子としてチタンブラック(株式会社ジェムコ製)を10重量部、揮発性溶媒として、n−ヘキサン(20℃における蒸気圧170hPa、SP値:14.9J1/2・cm−3/2)30重量部、酢酸n−ブチル(20℃における蒸気圧10hPa、SP値:17.4J1/2・cm−3/2)を50重量部加え、スターラーで1時間攪拌した。この液をそのままビーズミル器に入れ、微粒子を分散させた。分散後、ポアサイズ1μmφのポリプロピレンフィルターによりろ過し、印刷用インキ組成物5を得た。
【0089】
これを用いて実施例1と同様の方法で、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールは、ひとつも確認できなかった。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であり、Xは3.4J1/2・cm−3/2、Yは1.9J1/2・cm−3/2であった。
【0090】
乾燥工程後、さらに1分30秒間放置し、その後この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をブランケットへ転写させ、ついでブランケットをガラス基板に乗せて押圧し、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。また、画像形成物に糸引きは確認できなかった。得られた画像形成物の380〜780nmにおける透過率を測定したところ0.1%以下であり、液晶ディスプレイのブラックマトリックスに十分使用できるものであった。
【0091】
ドライエッチング耐性の評価
m−クレゾール/p−クレゾールを6:4の割合で配合して合成した、分子量約6000のクレゾール型ノボラック樹脂を調製した。また、感光剤としてテトラヒドロキシベンゾフェノンの4つの水酸基に2.5個のジナフトキノンジアジドが結合したものを用意した。このクレゾール型ノボラック樹脂20重量部に対して、感光剤を5重量部、シリコーン系界面活性剤(KF−54(商品名、信越化学工業株式会社製)0.01重量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート74.99重量部を配合して得られた混合物を、ポリプロピレンフィルター(ポアサイズ0.2μm)で濾過することでポジ型フォトレジストを得た。
【0092】
このポジ型フォトレジストと、実施例1、1A〜1C、および2〜4によるインキ組成物とについて、SF6ガスによるドライエッチング耐性を測定し、比較したところ、本発明によるインキ組成物は上記のポジ型フォトレジストと同等のドライエッチング耐性を有することがわかった。
【0093】
実施例6
ジシクロペンタジエン樹脂(日本ゼオン株式会社製Quintone1325(商品名)、SP値:20.0J1/2・cm−3/2)を10重量部、不揮発性溶媒としてn−ドデカン(20℃における蒸気圧1.3hPa、SP値:16.1J1/2・cm−3/2)10重量部、揮発性溶媒として、n−ヘキサン(20℃における蒸気圧170hPa、SP値:14.9J1/2・cm−3/2)80重量部加え、スターラーで1時間攪拌した。この液をポアサイズ1μmφのポリプロピレンフィルターによりろ過し、印刷用インキ組成物6を得た。
【0094】
これを用いて実施例1と同様の方法で、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールは、ひとつも確認できなかった。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であり、Xは3.4J1/2・cm−3/2、Yは0.8J1/2・cm−3/2であった。
【0095】
乾燥工程後、さらに30秒間放置し、その後この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。また、画像形成物に糸引きがわずかながら確認されたが、実用上の許容範囲内であった。
【0096】
実施例7
アビエチン酸(関東化学株式会社製アビエチン酸、SP値:20.3J1/2・cm−3/2)を8重量部、不揮発性溶媒としてリノール酸エチル(20℃における蒸気圧0.1hPa未満、SP値:17.7J1/2・cm−3/2)10重量部、架橋剤としてアルコキシメチル化ベンゾグアナミン(メラミン誘導体)1重量部、微粒子としてフュームドシリカ(カボット・コーポレーション製CAB−O−SIL TG−815F(商品名))を1重量部、揮発性溶媒として、n−ヘキサン(20℃における蒸気圧170hPa、SP値:14.9J1/2・cm−3/2)30重量部、酢酸n−ブチル(20℃における蒸気圧10hPa、SP値:17.4J1/2・cm−3/2)を50重量部加え、スターラーで1時間攪拌した。この液をそのままビーズミル器に入れ、微粒子を分散させた。分散後、ポアサイズ1μmφのポリプロピレンフィルターによりろ過し、印刷用インキ組成物7を得た。この組成物を粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD−7000(商品名))によって、微粒子の平均粒径が80nmであることを確認した。
【0097】
これを用いて実施例1と同様の方法で、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールは、ひとつも確認できなかった。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であり、Xは4.1J1/2・cm−3/2、Yは2.1J1/2・cm−3/2であった。
【0098】
乾燥工程後、さらに30秒間放置し、その後この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。また、画像形成物に糸引きは確認できなかった。
【0099】
実施例8
ロジン樹脂(荒川化学工業株式会社製CP−140(商品名)、SP値:20.3J1/2・cm−3/2)を9.8重量部、不揮発性溶媒としてリノール酸エチル(20℃における蒸気圧10Pa未満、SP値:17.7J1/2・cm−3/2)10重量部、揮発性溶媒として、ハイドロフルオロエーテル(住友スリーエムウ株式会社製HFE−730(商品名)、20℃における蒸気圧60hPa、SP値:12.7J1/2・cm−3/2)32重量部、n−ヘキサン(20℃における蒸気圧170hPa、SP値:14.9J1/2・cm−3/2)を48重量部、界面活性剤としてフッ素系界面活性剤(大日本インキ化学工業株式会社製メガファックR−100(商品名))を0.2重量部加え、スターラーで1時間攪拌した。この液をそのままビーズミル器に入れ、微粒子を分散させた。分散後、ポアサイズ1μmφのポリプロピレンフィルターによりろ過し、印刷用インキ組成物8を得た。
【0100】
この印刷用インキ組成物8を画線部がポリテトラフルオロエチレン、非画線部がフェノール・メラミン共重合物であり、画線部/非画線部が7μm/7μmに構成された10cm×10cmの版全面に実施例1と同様の方法で塗布して、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。このとき得られた被膜には0.5mmφ以上のピンホールがひとつも確認されなかった。
【0101】
なお、ここで画線部のSP値は12.7J1/2・cm−3/2であり、したがってXは6.3J1/2・cm−3/2、Yは2.3J1/2・cm−3/2であった。
【0102】
乾燥工程後、さらに1分間放置し、その後この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をガラス基板へ転写した。転写した画像形成物を光学顕微鏡で確認したところ、全て転写されていることが確認できた。また、画像形成物に糸引きがわずかながら確認されたが、実用上の許容範囲内であった。
【0103】
比較例1
実施例4の印刷用インキ組成物5のロジン樹脂を平均分子量Mwが6000のm/p−クレゾール型ノボラック樹脂(SP値:26.0J1/2・cm−3/2)、不揮発溶媒をプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(蒸気圧:5hPa、SP値:19.3J1/2・cm−3/2)に変え、実施例1と同様な方法で印刷用インキ組成物6を作成した。
【0104】
これを用いて実施例1と同様の版に印刷用インキ組成物を塗布し、30秒間自然乾燥をすることで、版全面に均一に1.0μmの被膜を形成させた。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であり、Xは7.9J1/2・cm−3/2、Yは2.9J1/2・cm−3/2であった。
【0105】
このとき得られた被膜には0.5mmのピンホールが2〜3個確認できたが、使用には問題ないレベルであった。この被膜の上にシリコーンブランケットを押圧し、ブランケットを剥がし、被膜をブランケットへ転写させようとしたが、膜が版の画線部に完全に固着しているために、ブランケットへ殆ど転写することができなかった。
【0106】
比較例2
実施例4の印刷用インキ組成物5のうち、揮発性溶媒を酢酸n−ブチルから乳酸−エチル(20℃における蒸気圧3.6hPa、SP値:21.7J1/2・cm−3/2)に置換え、実施例1と同様の方法で印刷用インキ組成物7を作成した。
これを用いて実施例1と同様の版に印刷用インキ組成物を塗布し、30秒間自然乾燥したが、得られた被膜には0.5mm以上のピンホールが全面に多数確認し、使用できなかった。
なお、ここで画線部のSP値は14.8J1/2・cm−3/2であり、Xは3.4J1/2・cm−3/2、Yは4.2J1/2・cm−3/2であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなり、前記画線部のHildebrand溶解パラメーターがPpである印刷版を用い、前記印刷版の全面に印刷用インキ組成物を塗布し、前記画線部上に塗布された印刷用インキ組成物を対象基材上に転写することを含んでなる印刷法に使用される印刷用インキ組成物であって、
前記印刷用インキ組成物が、I種類の被膜形成成分(ここでIは1以上の整数)、およびJ種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa以上600hPa以下である揮発性溶媒、またはK種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa未満である不揮発性溶媒(ここでJおよびKは0または1以上の整数であって、JおよびKは同時に0ではない)を含んでなり、
i番目の被膜形成成分のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPr(i)およびWr(i)、
j番目の揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPv(j)およびWv(j)、
k番目の不揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPnv(k)およびWnv(k)、
としたとき、
【数1】

を満たすことを特徴とする、印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記被膜形成成分が、環状炭化水素基、または環状炭化水素基を構成する炭素原子の少なくとも一つを酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなる化合物である、請求項1に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項3】
前記被膜形成成分が、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、フラン樹脂、あるいは環状炭化水素基または環状炭化水素基を構成する炭素原子を酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなるアクリレート樹脂またはメタクリレート樹脂である、請求項2に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項4】
前記印刷用インキ組成物が、揮発性溶媒と不揮発性溶媒との両方を含んでなり、それらの20℃における蒸気圧の差が2.5hPa以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項5】
フィラーをさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項6】
界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項7】
ビーズスペーサをさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項8】
少なくとも1種以上の顔料をさらに含んでなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項9】
撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなる印刷版を用い、前記印刷版の全面にインキを塗布し、前記画線部上に塗布されたインキを対象基材上に転写する工程を含む印刷法に使用される印刷用インキ組成物であって、
前記インキ組成物が、被膜形成成分および溶媒を含んでなり、前記被膜形成成分の50%以上が、環状炭化水素基または環状炭化水素基を構成する炭素原子の少なくとも一つを酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなる化合物であることを特徴とする印刷用インキ組成物。
【請求項10】
前記被膜形成成分が、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、フラン樹脂、および環状炭化水素基または環状炭化水素基を構成する炭素原子の少なくとも一つを酸素原子に置換した含酸素環状炭化水素基を含んでなるアクリレート樹脂またはメタクリレート樹脂からなる群から選択される、請求項9に記載の印刷用インキ組成物。
【請求項11】
撥インキ機能を施されることにより形成された画線部と、親インキ機能を施されたことにより形成された非画線部とを具備してなり、前記画線部のHildebrand溶解パラメーターがPpである印刷版を準備し、
種類の被膜形成成分(ここでIは1以上の整数)、およびJ種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa以上600hPa以下である揮発性溶媒、またはK種類の、20℃においての蒸気圧が10hPa未満である不揮発性溶媒(ここでJおよびKは0または1以上の整数であって、JおよびKは同時に0ではない)を含んでなる印刷用インキ組成物であって、
i番目の被膜形成成分のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPr(i)およびWr(i)、
j番目の揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPv(j)およびWv(j)、
k番目の不揮発性溶媒のHildebrand溶解パラメーターおよび組成物中の重量濃度をPnv(k)およびWnv(k)、
としたとき、
【数2】

を満たす印刷用インキ組成物を前記印刷版の全面に塗布し、
前記画線部上に塗布されたインキを対象基材上に転写する
こと含んでなることを特徴とする、印刷法。
【請求項12】
前記印刷用インキ組成物を前記印刷版の全面に塗布した後、前記印刷用インキ組成物中の揮発性溶媒または不揮発性溶媒の少なくとも一部を蒸発させて乾燥させることをさらに含んでなる、請求項11に記載の印刷法。
【請求項13】
前記印刷用インキ組成物が1種類の被膜形成成分と1種類の不揮発性溶媒を含んでなり、塗布後の被膜中に含まれる前記被膜形成成分と前記不揮発性溶媒との重量比が1:1になるまで乾燥させることを含んでなり、そのとき
【数3】

を満たす、請求項12に記載の印刷法。
【請求項14】
塗布後の被膜を乾燥させた後、前記画線部上に塗布されたインキ組成物をブランケットに転写し、ブランケット上に転写されたインキ組成物をさらに対象基材に転写することを含んでなる、請求項11〜13のいずれか1項に記載の印刷法。

【公開番号】特開2009−221250(P2009−221250A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64524(P2008−64524)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】