説明

高純度アルミノホスフェート系ゼオライト及びその製造方法並びにその用途

【課題】従来のSOD構造のゼオライトは相対湿度が16%の前後における水分吸着量の変化がなだらかに変化するものしかなかったため、ヒートポンプ用吸着剤として用いた場合、安定した性能を発現することが困難であった。
【解決手段】25℃相対湿度13%における水分吸着量が5g/100g未満であり、相対湿度20%において20g/100g以上である、SOD構造を有し、且つ骨格を形成する元素として少なくともAlとPを含むゼオライトでは、大きくかつ一定の水分吸着量を発現する相対湿度の設定が容易であり、高性能かつ安定な性能を発揮するヒートポンプとすることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対湿度16%前後における水分吸着量変化が大きくかつシャープに変化するSOD構造を有するアルミノホスフェート系ゼオライトに関するものであり、特に有機SDAを実質的に含まない状態で三方晶SOD構造を有する高純度アルミノホスフェート系ゼオライトに関するものである。
【0002】
本発明のゼオライトは、吸着剤、分離剤、触媒、触媒用担体などとして用いることができ、中でも吸着剤、特にヒートポンプ(例えばデシカント空調、車載用クーラー、製氷機等を含む)さらには湿度調節壁材、湿度調節シート用の吸着剤として有用なものである。
【背景技術】
【0003】
アルミノホスフェート系ゼオライトの構造は、多くの種類が報告されている。また、アルミノホスフェート系ゼオライトの骨格を構成する元素も、AlとP以外に多数報告されている。アルミノホスフェート系ゼオライトは、ヒートポンプ、デシカント空調、湿度調節壁材、湿度調節シート用などの吸着剤、分離剤、触媒、触媒用担体としての利用が報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1において、骨格を構成する元素としてAlとPから成るALPO−5、20などが報告されている。また特許文献2において、骨格を構成する元素としてAlとPとSiから成るSAPO−5、20などが、特許文献3において、骨格を構成する元素としてAlとPとMgからなるMAPO−5、20などが報告されている。
【0005】
ALPO−20、SAPO−20、MAPO−20の構造は、アルミノシリケート系ゼオライトのソーダライトと同一のSOD構造であると報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0006】
非特許文献2から4において、アルミニウム源、リン源、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、水から成る反応液を、数分間という極めて短い時間混合した後に加熱することにより、ALPO−SODと命名した有機SDA含有ゼオライトが合成できることが報告されている。
【0007】
更に、非特許文献2において、有機SDA含有の単斜晶ALPO−SODを空気中600℃で焼成し立方晶のALPO−20(SOD構造)に相転移したものが報告されている。また、非特許文献4において報告されている有機SDAを実質的に含まない状態での三方晶ALPO−SODは、粉末X線回折パターンにおいてアモルファス成分由来と考えられる明瞭なブロードピーク(10〜31°付近)が大きく表れたものであり、純度が低いものであった。
【0008】
ゼオライトを吸着剤、分離剤、触媒、触媒用担体として用いるとき、その純度は不純物の量に応じて性能が低下するため、重要な因子となっている。特に、特許文献4に記されているように、吸着ヒートポンプ(吸着式冷却装置)用の吸着剤として用いる場合には、吸着ヒートポンプ(吸着式冷却装置)の「小型」が商品価値の判断尺度になるため、ゼオライトの純度は極めて重要である。
【0009】
これまで報告されているこれらのSOD型構造のゼオライトは、純度が低く、水分吸着特性が十分なものではなかった。従来にも25℃の相対湿度が20%以上で水分吸着量が20g/100g以上のものはあったが、いずれも相対湿度が低い領域においても水分吸着量が高い、或いは水分吸着量がだらだらと増加するものしか得られておらず、水分吸着量差を用いるヒートポンプ用の吸着剤として用いるには十分ではなかった。
【0010】
相対湿度が高い領域でいくら高い水分吸着量が達成されても、低相対湿度領域において水分吸着量がだらだらと増加するゼオライトでは、ヒートポンプ用吸着剤として用いた場合に水分吸着量が一定でないため、ヒートポンプの性能が安定せず、十分ではなかった。
【0011】
【特許文献1】特開昭57−077015号公報(明細書第6頁左の5行目および第29頁左の1行目)
【特許文献2】特開昭59−035018号公報(明細書第11頁左の18行目および第28頁左の4行目)
【特許文献3】特開昭60−086011号公報(明細書第10頁右の下から4行目および第21頁右の4行目)
【特許文献4】特許2808488号公報(明細書第2頁右の45行目から49行目)
【非特許文献1】「ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES(第5改訂版)」、p.254〜255、発行所:ELSEVIER、発行年:2001
【非特許文献2】L. Vidal et al., Microporous and Mesoporous Materials, 24, 189−197 (1998)(第190頁右の15行目から35行目、第192頁左の13行目から23行目および第193頁Fig.3、第196頁右の4行目から5行目および29行目から33行目)
【非特許文献3】M. Roux et al., Studies in Surface Science and Catalysis, 135, 09−P−91 (2001)(第2頁3行目から5行目)
【非特許文献4】M. Roux et al., J. Phys. Chem. B, 105,9083−9092 (2001)(第9083頁右の4行目から12行目、第9084頁右の31行目から34行目および第9085頁Figure2、第9090頁左の18行目から24行目およびFigure13)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上説明した通り、従来からSOD構造のゼオライトをヒートポンプに用いることは提案されていたが、従来のSOD構造のゼオライトはいずれも相対湿度変化に対して水分吸着量がだらだらと変化するものしかなかった。そのため、SOD構造のゼオライトをヒートポンプ用の吸着剤として用いた場合、性能が安定しないという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、吸着剤、特にヒートポンプ用の吸着剤として用いる場合、相対湿度の変化に対してその水分吸着量が極めてシャープに変化するSOD構造のゼオライトを提供することにより、ヒートポンプ用吸着剤として用いた場合に、発揮される性能が高く、なおかつ安定であり、ヒートポンプの装置設計が容易となるSOD構造のゼオライトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、SOD構造のゼオライトについて鋭意検討を重ねた結果、25℃の相対湿度13%における水分吸着量が5g/100g未満と低く、相対湿度20%において20g/100g以上である、SOD構造を有し、且つ骨格を形成する元素として少なくともAlとPを含むゼオライトを見出したものである。
【0015】
この様なSOD構造を有するアルミノホスフェート系ゼオライトは、特に結晶構造が高純度である場合に得られ、これらの吸着剤はヒートポンプ用、デシカント空調用、湿度調節壁材用、湿度調節シート用の吸着剤として有用である事を見出し、本願発明を完成した。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のゼオライトは、25℃の相対湿度13%における水分吸着量が5g/100g未満であり、相対湿度20%において20g/100g以上であり、SOD構造を有し、且つ骨格を形成する元素として少なくともAlとPを含むゼオライトである。
【0018】
25℃相対湿度20%における水分吸着量が20g/100g未満では、仮に低湿度側の水分吸着量の立ち上がりがシャープであったとしても、絶対的な水分吸着量差が得られないため、本発明の目的を達することができない。相対湿度20%における水分吸着量は22g/100g以上であることが特に好ましい。
【0019】
本発明のSOD構造ゼオライトでは、25℃相対湿度13%における水分吸着量は5g/100g未満である。相対湿度13%において、水分吸着量が5g/100gを超える従来のゼオライトは、湿度変化に対して水分吸着量がだらだらと増加するものであり、相対湿度と水分吸着量をグラフ化した際に水分吸着量が相対湿度13%付近で連続的に増加する、或いは水分吸着量の立ち上がりにショルダーピークを有するものである。
【0020】
水分吸着量が連続変化する、或いは立ち上がりにショルダーピークを有する吸着剤では、ヒートポンプを設計する際に、一定の水分吸着量を得るための湿度範囲の設定が困難であり、安定した性能を有するヒートポンプとすることはできない。
【0021】
本発明のSOD構造ゼオライトは、水分吸着量が低い湿度と高い湿度条件がシャープに変化することが最も重要な特徴である。その様な特性を有することにより、一定かつ高い水分吸着量差を発揮する湿度範囲の設定が可能となり、高性能かつ安定的な性能を発揮するヒートポンプとすることができる。
【0022】
25℃の相対湿度13%における水分吸着量は低い方が好ましく、特に3g/100g以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のゼオライトは、有機SDAを実質的に含まない状態で三方晶SOD構造を有し、且つ骨格を構成する元素として少なくともAlとPを含むゼオライトであることが好ましい。
【0024】
本発明における、有機SDAとは、Strusture Directing Agent(構造規定材,構造指向材)の略語であり、ゼオライト合成において、構造形成を目的に添加される有機物のことを呼び、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラメチルアンモニウム塩などが例示できる。
【0025】
本発明における有機SDAを実質的に含まない状態とは、ゼオライト骨格内に実質的に有機SDAがない状態であればよく、他の成分、例えば水などの吸着の有無は問わない。
【0026】
本発明の有機SDAを実質的に含まない状態でのゼオライトの構造は、水の吸着の有無により変化する。実質的に水を含まない状態では、三方晶のSOD構造であり、水を含む状態では、単斜晶のSOD構造と推定される。
【0027】
本発明における純度とは、粉末X線回折パターンにおいて、(1)式に従い算出した結晶構造上の純度のことを言う。
【0028】
【数1】

粉末X線回折パターンは、実質的に水を含まない状態の試料をアルミニウム試料板に充填(φ25.6mm)し、モノクロメーターにより単色化したCuKα線を用いて測定する。X線発生部およびスリットの条件は、印加電圧40kV、電流30mA、発散スリット1°、散乱スリット1°、受光スリット0.30mmである。また、最強ピーク強度とは、2θ=10.00°から40.00°において最も強いピークの強度(バックグラウンド引きなし)のことを言う。
【0029】
本発明において、純度は90%以上であることが好ましい。純度が90%未満であると、上述した水分吸着性能が従来型に近づくため好ましくない。また、純度は高いほど好ましく、93%以上が好ましく、96%以上がさらに好ましく、98%以上が最も好ましい。
【0030】
本発明の骨格を構成する元素とは、酸素以外でゼオライト骨格を構築している元素のことを呼び、いわゆる交換カチオンや担持成分は含まない。
【0031】
本発明のゼオライトは、骨格を構成する元素として少なくともAlとPを含むことが必須である。少なくともAlとPを含むことにより、水などの吸着質の有効吸着量が大きくなるという吸着剤として優れた特性が発現する。AlとP以外の元素が含まれても良く、含まれている場合の元素の種類も特に限定されない。例えば、Mg、Si、Fe、Li、Be、B、Ti、V、Cr、Co、Zn、Mn、Ni、Cu、Ga、Geなどが例示できる。これらの中で、Mg、Si、Fe、Co、Zn、Mnが耐久性の点から好ましい。これらの元素は、単独で含まれても良いし、2種以上の元素が同時に含まれても良い。
【0032】
また、AlとP以外の元素の量は特に限定されないが、AlとP以外の元素をMとすると、Mの割合(M/(Al+P+M)のモル比)として、0.4以下が例示できる。
【0033】
本発明のゼオライトの製造方法は特に限定されないが、例えば、少なくとも以下の工程を含む製造方法が例示できる。
(1)少なくともアルミニウム源、リン源、N、N−ジメチルホルムアミド、水を含む反応液を、10分間以上混合した後に80℃〜200℃に加熱して、有機SDA含有ゼオライトを合成する工程。
(2)有機SDA含有ゼオライトを500℃以上1200℃以下の熱処理で有機SDAを除去する工程。
【0034】
アルミニウム源、リン源は特に限定されないが、アルミニウム源としては、擬ベーマイト、アルミニウムイソプロポキシドが例示でき、リン源としては、リン酸が例示できる。アルミニウム源、リン源、N、N−ジメチルホルムアミド、水以外の成分としては、骨格を構成させる元素の化合物、およびpH調整剤などを含んでも良い。骨格を構成させる元素の化合物としては、当該元素を含む水酸化物、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩が例示でき、pH調整剤としては、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸、酢酸、酒石酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、三級アミン、四級アンモニウム塩(水酸化物)などが例示できる。
【0035】
反応液の組成比は、特に限定されないが、酸化物のモル比で表して下記の組成比が好ましい。
/Al=0.5〜2.0
n・M2/nO/Al=0〜1.0
DMF/Al=0.5〜20
O/Al=2〜200
(ここでDMFはN、N−ジメチルホルムアミド、MはAlとP以外の骨格を構成する元素、nはMの原子価を表す)
ここでHOの量は、反応前の量ではなく、反応後の量で表している。例えば、リン源として、85重量%のリン酸を用いた場合には、15重量%の水の他に、リン酸が下式により分解して生成する水も含まれている。
【0036】
【数2】

反応液の混合方法は、攪拌羽による混合が例示できる。混合時間は、少なくともアルミニウム源、リン源、N、N−ジメチルホルムアミド、水を含む状態で、10分間以上であることが好ましく、1時間以上であることが特に好ましい。10分間未満であると、原料の混合が不足のため、本発明のゼオライトを製造することは困難である。なお、反応液の混合時の温度としては、80℃未満が例示できる。
【0037】
また、アルミニウム源、リン源、N、N−ジメチルホルムアミド、水以外の骨格を構成させる元素の化合物、およびpH調整剤などは、予め反応液に添加することにより、アルミニウム源、リン源、N、N−ジメチルホルムアミド、水と同時に混合することが好ましい。
【0038】
反応液は混合後、所定の温度で所定時間保持することにより有機SDA含有ゼオライトを合成することができる。温度は80〜200℃、時間は12〜240時間が例示できる。
【0039】
有機SDA含有ゼオライトから有機SDAを取り除く方法としては、窒素若しくは空気中での熱処理、又は塩酸若しくは硫酸などの酸との接触による処理が例示できる。有機SDAを取り除く効率から、特に、窒素若しくは空気中での熱処理が好ましい。熱処理の温度としては、500℃以上1200℃以下が例示できる。
【0040】
本発明のゼオライトは、吸着剤、特にヒートポンプ(例えばデシカント空調、車載用クーラー、製氷機等を含む)さらには湿度調節壁材、湿度調節シート用の吸着剤として有用である。また、分離剤、触媒、触媒用担体などとして用いることもできる。
【0041】
本発明のゼオライトからなる吸着剤は、主成分がゼオライトの吸着剤のことである。ゼオライトは、粉末のまま用いても良いし、粉末スラリーをハニカムローターなどに適切な方法でコーティングしたものであっても良い。ゼオライト粉末に適切な量のバインダや成形助剤を混合して粒状成形体としても良い。また、他の材料と一体成型しても良く、紙又は樹脂に混合することによりシート状にして良い。
【0042】
粒状成形体の形状は特に限定されず、使用されるシステムの容器の大きさや充填密度を考慮して形状、大きさが選択される。この際に使用されるバインダは特に限定されないが、熱交換を効率的に行うために、熱伝導度を上げる工夫をすることが好ましい。バインダの添加量が多くなると、それに伴い、吸着剤の重量および体積あたりの吸着量が低下する。したがって、バインダの混合比は少ない程よいが、使用条件に耐えうる強度を持つように調整することが好ましい。
【0043】
粒状成形体はバインダレス成形体でもよい。バインダレス成形体は通常の成形体よりもゼオライト分が多く、粒状成形体単位量あたりの有効吸着量が大きいため更に好適に使用される。
【0044】
本発明のゼオライトからなる吸着剤は、カーエアコン、燃料電池などの低温排熱を用いたヒートポンプに用いることができる。吸着質としては、蒸発潜熱が大きく安全で安価な水が好ましい。
【0045】
例えば、排熱が80〜100℃、低温熱が30〜45℃、生成冷熱が5〜10℃のときは、吸着時の相体湿度は9〜29%、脱着時の相対湿度は5〜20%に相当する。従って吸着剤は、吸着時と脱着時の相対湿度の中心である16%付近で吸着量が大きくかつシャープに変化することが望ましい。
【0046】
本発明で使用されるゼオライトは低い排熱を用いても、高いヒートポンプ性能が保持できる。また、水の吸脱着に対して非常に安定な結晶なため、水分吸着−加熱再生のサイクルを繰り返してもゼオライト構造はほとんど変化せず、有効吸着量の低下もほとんどない。
【0047】
また、本発明のゼオライトからなる吸着剤は、開放式ヒートポンプとも呼ばれるデシカント空調機用の吸着剤として用いることができる。ゼオライトをコーティングしたハニカムローターに、熱交換器、冷却器、加熱器などを組み合わせることにより、主に除湿を目的とした空調機として使用させる。本発明で使用されるゼオライトは低い加熱温度であっても、ハニカムローターからの水の脱着を十分に行える。
【0048】
また、本発明のゼオライトからなる吸着剤は、湿度調節壁材、湿度調節シートに用いることができる。湿度の高いときは水を吸着し、湿度が低いときは水を脱着するため、自律的な湿度の調整ができる。本発明のゼオライトからなる吸着剤は、既存のアルミノケイ酸塩などの多孔質材よりも低い湿度(5から35%)で調節できることが特長である。また相対湿度に対する水の吸着量は、ある相対湿度で急激に変化するため、自律的な湿度の調整機能が大きい。
【0049】
なお、本発明のゼオライトからなる吸着剤は、水の吸着熱が小さいことが特徴である。吸着熱が小さいことにより、水の吸着に伴う吸着剤への熱の蓄積が小さいため、吸着剤温度上昇による吸着量低下が起こり難い。つまり、本発明のゼオライトからなる吸着剤は、実用性能が高いという優れた特長を有する。
【0050】
また、本発明のゼオライトからなる吸着剤は、耐久性が高いという優れた特長も有する。
【発明の効果】
【0051】
本発明のゼオライトは、吸着剤、分離剤、触媒、触媒用担体などとして用いることができる。特に、相対湿度16%前後での水分吸着量が大きくかつシャープに変化し、さらに水の吸着熱が小さく、耐久性が高いため、特にヒートポンプ(例えばデシカント空調、車載用クーラー、製氷機等を含む)さらには湿度調節壁材、湿度調節シート用の吸着剤として有用である。また、分離剤、触媒、触媒用担体などとしても優れている。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
水吸着特性評価はすべて減圧下350℃で2時間活性化した後に測定した。25℃での測定は、スプリングバランス法を用いて、40℃および90℃の測定は、日本ベル株式会社製の磁気浮遊式吸着測定装置を用いて行った。有効吸着量は、25℃の水分吸着等温線の相対湿度5%と25%の差とした。また吸着熱は、25℃、40℃、90℃の吸着等温線から、クラジウス−クラペイロン式を用いて、吸着量5から20g/100gの等量微分吸着熱の平均から求めた。
【0054】
粉末X線回折パターンは、マックサイエンス社製のMXP3を用いて、実質的に水を含まない状態、もしくは25℃、相対湿度80%で水和処理した状態の試料をアルミニウム試料板に充填(φ25.6mm)し、モノクロメーターにより単色化したCuKα線を用いて測定した。X線発生部およびスリットの条件は、印加電圧40kV、電流30mA、発散スリット1°、散乱スリット1°、受光スリット0.30mmとした。また、実質的に水を含まない状態で測定した回折パターンを用いて、(1)式に従い純度を算出した。
【0055】
実施例1
DMF:80.0gに擬ベーマイト(Al=74%):18.1gを加え、1時間混合した。更に、85%リン酸:31.8gを加えて、3時間混合した。反応液の組成は、酸化物のモル比で表すと下記のようになる。
【0056】
/Al=1.0
n・M2/nO/Al=0
DMF/Al=8.2
O/Al=7.1
次に、反応液をオートクレーブに移し、140℃×168時間静置合成した。得られた固形物をろ過後、水で洗浄・乾燥し、DMFを含むゼオライトを得た。DMFを含むゼオライトを25℃、相対湿度80%で水和処理し、粉末X線回折で評価したところ、図1(a)の粉末X線回折パターンが得られた。
【0057】
また、別途、DMFを含むゼオライトを600℃×5時間(空気流通下)、または800℃×5時間(窒素流通下1時間+空気流通下4時間)焼成して、DMFを実質的に取り除いた。得られたDMFを実質的に含まないゼオライトを、110℃乾燥後に水を吸着しないように直ちに粉末X線回折で評価したところ、図1(b)および(c)の粉末X線回折パターンが得られた。回折パターンから、DMFを実質的に含まないゼオライトは、水を含まない状態で、三方晶SOD構造であることが分かった。また、(1)式に従い純度を算出したところ、いずれも100%であった。
【0058】
次に25℃、相対湿度80%で水和処理した後に、粉末X線回折で評価したところ、単斜晶SOD構造と推定される回折パターンに変化していることが判明した(図1(d)および(e))。
【0059】
更に、得られたDMFを実質的に含まないゼオライト(800℃焼成品)の25℃における初期水分吸着等温線を測定したところ、相対湿度15%で吸着量が大きくかつシャープに変化し、相対湿度が13%で水分吸着量が4.6g/100g、相対湿度20%における水分吸着量が21.7g/100gであった。また、相対湿度5%と25%の差による有効吸着量は、21.2g/100gであった(図2)。
【0060】
実施例2
実施例1と同等の反応液をオートクレーブに移し、140℃×168時間、回転しながら合成した。得られた固形物をろ過後、水で洗浄・乾燥し、DMFを含むゼオライトを得た。DMFを含むゼオライトを25℃、相対湿度80%で水和処理し、粉末X線回折で評価したところ、図3(a)の粉末X線回折パターンが得られた。
【0061】
また、別途、DMFを含むゼオライトを800℃×5時間(窒素流通下1時間+空気流通下4時間)焼成してDMFを実質的に取り除いた。得られたDMFを実質的に含まないゼオライトを、110℃乾燥後に水を吸着しないように直ちに粉末X線回折で評価したところ、図3(b)の粉末X線回折パターンが得られた。回折パターンから、DMFを実質的に含まないゼオライトは、水を含まない状態で、三方晶SOD構造であることが分かった。また、(1)式に従い純度を算出したところ、100%であった。
【0062】
次に、25℃、相対湿度80%で水和処理した後に、粉末X線回折で評価したところ、単斜晶SOD構造と推定される回折パターンに変化していることが判明した(図3(c))。
【0063】
得られたDMFを実質的に含まないゼオライトの25℃における初期水分吸着等温線を測定したところ、相対湿度15%で吸着量が大きくかつシャープに変化し、相対湿度が13%で水分吸着量が1.4g/100g、相対湿度20%における水分吸着量が23.0g/100gであった。また、相対湿度5%と25%の差による有効吸着量は、23.3g/100gであった(図4)。さらに、40、90℃における初期水分吸着等温線を測定し(図5)、25℃等温線とともにクラジウス−クラペイロン式を用いて吸着熱を求めたところ、48kJ/molと小さく、吸着熱の蓄積による吸着量低下が起こり難いことが分かった。
【0064】
次に、乾燥器と水の蒸発器からなる水吸脱着装置を用いて、吸着:40℃、相対湿度38%、脱着:90℃、相対湿度2%を繰り返すサイクル耐久試験を行った。200サイクル後の試料を25℃、相対湿度80%で水和処理した後に粉末X線回折で評価したところ、耐久前(初期)と大きな変化は認められなかった(図3(d))。また、サイクル耐久試験後の水分吸着等温線を測定したところ、相対湿度5%と25%の差による有効吸着量は、200サイクル:23.3g/100gで、耐久前(初期)と変化は認められなかった(図4)。
【0065】
実施例3
DMF:80.0gに擬ベーマイト(Al=74%):18.1gを加え、更に、85%リン酸:31.8gを加えて、2分間混合した。次に、液をロータリーエバポレーターに移し、減圧下で回転混合しながら10分間かけて約10.5gの水を取除き、更に常圧で15分間回転混合した。反応液の組成は、酸化物のモル比で表すと下記のようになる。
【0066】
/Al=1.0
n・M2/nO/Al=0
DMF/Al=8.2
O/Al=約2.7
次に、反応液をオートクレーブに移し、140℃×168時間静置合成した。得られた固形物をろ過後、水で洗浄・乾燥し、DMFを含むゼオライトを得た。DMFを含むゼオライトを25℃、相対湿度80%で水和処理し、粉末X線回折で評価したところ、図6(a)の粉末X線回折パターンが得られた。
【0067】
また、別途、DMFを含むゼオライトを800℃×5時間(窒素流通下1時間+空気流通下4時間)焼成して、DMFを実質的に取り除いた。得られたDMFを実質的に含まないゼオライトを、110℃乾燥後に水を吸着しないように直ちに粉末X線回折で評価したところ、図6(b)の粉末X線回折パターンが得られた。回折パターンから、DMFを実質的に含まないゼオライトは、水を含まない状態で、三方晶SOD構造であることが分かった。また、(1)式に従い純度を算出したところ、100%であった。
【0068】
次に、25℃、相対湿度80%で水和処理した後に、粉末X線回折で評価したところ、単斜晶SOD構造と推定される回折パターンに変化していることが判明した(図6(c))。
【0069】
比較例1
85%リン酸を加えてからの混合時間を1分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、DMFを含むゼオライトを得た。DMFを含むゼオライトを25℃、相対湿度80%で水和処理し、粉末X線回折で評価したところ、図7(a)の粉末X線回折パターンが得られた。
【0070】
また、別途、DMFを含むゼオライトを800℃×5時間(窒素流通下1時間+空気流通下4時間)焼成して、DMFを実質的に取り除いた。得られたDMFを実質的に含まない生成物を、110℃乾燥後に水を吸着しないように直ちに粉末X線回折で評価したところ、図7(b)の粉末X線回折パターンが得られた。回折パターンから、DMFを実質的に含まない生成物は、水を含まない状態で、トリジマイト構造であることが分かった。また、(1)式に従い純度を算出したところ、0%であった。
【0071】
比較例2
85%リン酸を加えてからの混合時間を3分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、DMFを含むゼオライトを得た。DMFを含むゼオライトを25℃、相対湿度80%で水和処理し、粉末X線回折で評価したところ、図8(a)の粉末X線回折パターンが得られた。
【0072】
また、別途、DMFを含むゼオライトを800℃×5時間(窒素流通下1時間+空気流通下4時間)焼成して、DMFを実質的に取り除いた。得られたDMFを実質的に含まない生成物を、110℃乾燥後に水を吸着しないように直ちに粉末X線回折で評価したところ、図8(b)の粉末X線回折パターンが得られた。回折パターンから、DMFを実質的に含まない生成物は、水を含まない状態で、三方晶SOD構造とトリジマイト構造の混合物であることが分かった。また、(1)式に従い、三方晶SOD構造の最強ピーク14.04°、不純物トリジマイト構造の最強ピーク21.52°の強度から純度を算出したところ、88%であった。
【0073】
比較例3
以下の手順で、ALPO−20(ALPO−SOD)を合成した。
【0074】
擬ベーマイト(Al=74%):51.8g、85%リン酸:86.4g、シクロヘキシルアミン:37.2g、水:104gを均一に混合し、オートクレーブを用いて、200℃×168時間静置合成した。得られた固形物をろ過後、水で洗浄し、さらに550℃×4時間(窒素流通下1時間+空気流通下3時間)焼成してシクロヘキシルアミンを取り除き、ALPO−17を得た。
【0075】
次に、シクロヘキシルアミン除去後のALPO−17を、マッフル炉、水蒸気ライン、除湿空気ラインからなる水吸脱着装置を用いて、吸着:120℃、相対湿度50%、脱着:120℃、相対湿度5%以下を繰り返す水の吸脱着処理を行った。200サイクル後の試料を粉末X線回折で評価したところ、微量のERI構造が共存したSOD構造(ALPO−20)が確認できた。
【0076】
得られたゼオライトの25℃における初期水分吸着等温線を測定したところ、低湿度から相対湿度17%にかけて水分吸着量がだらだらと変化し、相対湿度が13%で水分吸着量が5.1g/100g、相対湿度20%における水分吸着量が22.3g/100gであった。相対湿度5%と25%の差による有効吸着量は、20.8g/100gと小さかった(図9)。さらに、40、90℃における初期水分吸着等温線を測定し(図9)、25℃等温線とともにクラジウス−クラペイロン式を用いて吸着熱を求めたところ、55kJ/molと大きく、吸着熱の蓄積による吸着量低下が起こる可能性があるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1で調製したゼオライトの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例1で調整したゼオライトの水吸着等温線(25℃)を示す図である。
【図3】実施例2で調製したゼオライトの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例2で調整したゼオライトの水吸着等温線(25℃)を示す図である。
【図5】実施例2で調整したゼオライトの水吸着等温線(25、40、90℃)を示す図である。
【図6】実施例3で調製したゼオライトの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図7】比較例1で示したゼオライトの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図8】比較例2で示したゼオライトの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図9】比較例3で調整したゼオライトの水吸着等温線(25、40、90℃)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分吸着量が25℃の相対湿度13%において5g/100g未満であり、相対湿度20%において20g/100g以上である、SOD構造を有し、且つ骨格を形成する元素として少なくともAlとPを含むゼオライト。
【請求項2】
25℃の相対湿度13%における水分吸着量が3g/100g以下である請求項1のゼオライト。
【請求項3】
有機SDAを実質的に含まない状態で三方晶SOD構造を有し、且つ骨格を構成する元素として少なくともAlとPを含み、且つ純度が90%以上の請求項1〜2に記載のゼオライト。
【請求項4】
骨格を構成する元素として少なくともAlとP以外に、Mg、Si、Fe、Co、Zn、Mnからなる群より選ばれた1つ以上の元素を含む請求項1〜3に記載のゼオライト。
【請求項5】
少なくとも以下の工程を含む請求項1〜4に記載のゼオライトの製造方法。
(1)少なくともアルミニウム源、リン源、N、N−ジメチルホルムアミド、水を含む反応液を、10分間以上混合した後に80℃〜200℃に加熱して、有機SDA含有ゼオライトを合成する工程。
(2)有機SDA含有ゼオライトを500℃以上1200℃以下の熱処理で有機SDAを除去する工程。
【請求項6】
酸化物のモル比で表して下記の組成比から成る反応液を用いる請求項5に記載のゼオライトの製造方法。
/Al=0.5〜2.0
n・M2/nO/Al=0〜1.0
DMF/Al=0.5〜20
O/Al=2〜200
(ここでDMFはN、N−ジメチルホルムアミド、MはAlとP以外の骨格を構成する元素、nはMの原子価を表す)
【請求項7】
請求項1〜4に記載のゼオライトを用いた吸着剤。
【請求項8】
請求項7に記載の吸着剤を用いたヒートポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−320819(P2007−320819A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154538(P2006−154538)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】