説明

高純度ハプトース溶液の製造方法

【課題】高純度のハプトース溶液を得る。
【解決手段】ハプト植物綱に属する藻から得られる粗多糖外被溶液をもとに、塩化ナトリウムを加え、さらに少量の酸を加えて室温で放置し、溶液中に形成された沈澱を除去することにより高純度ハプトース溶液を製造することができる。このハプト植物綱に属する単細胞藻としてはPhaeocystis sp.を好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水材、プラスチック原料、化粧品等の原料として、及びキシロースとグルコースの製造原料として利用できる、単細胞藻の外被から得られるハプトースの高純度品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅藻植物であるテングサやアマノリ等の多細胞藻の熱湯抽出により寒天等の多糖体が得られる。
また、クロレラ属の単細胞緑藻の培養液の上清を精製するとガラクトースを主成分とする多糖体が得られる。この多糖体は分子量が15,000ないし25,000であり水溶性であるため、遠心分離法により上清とクロレラ細胞とを分離できる(特許文献1)。
【0003】
ハプト植物綱に属する単細胞藻を水に入れて藻懸濁液を生成し、これを加熱若しくは酸性化処理又はその両操作を行うことにより単細胞藻の外被を剥がすことができる。この後濾過若しくは遠心分離手段により単細胞藻の残渣と外被濾液とを分離し、外被濾液を乾燥して粉末にすることにより多糖体が得られる(特許文献2)。この多糖体はハプトースと命名されている。
【0004】
また、ベラゴ藻綱に属する単細胞藻からも同様にして多糖体が得られる(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−248003号公報
【特許文献2】特開2004−27092号公報
【特許文献3】特開2005−281397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし既に公表された方法(特許文献2)で得られる多糖外被は約半量の多糖体ハプトースと、灰分、粗蛋白質、粗脂質等から構成されていて、有用な化学的資源とするにはそのままでは不純である。そのため多糖外被からハプトースを純粋に単離する方法が求められていた。
本発明はその多糖外被から純粋なハプトースを単離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
純度の高いハプトース溶液は、ハプト植物綱に属する藻から得られる粗多糖外被溶液に、
a)塩化ナトリウムを加え、
b)さらに酸を加えて室温で保持し、
c)溶液中に形成された沈澱を除去する、
ことにより製造することができる。
【0008】
前記室温としては20-30℃が適当である。より低温では反応の進行が遅く、より高温では副反応が進行し、純度の高いハプトースが得られないからである。
また、この溶液を乾燥すれば、純度の高いハプトース固体を得ることができる。
【0009】
前記塩化ナトリウムは、溶液中の濃度を2-4%とするよう加えるのが適当である。前記酸としては少量の硫酸を好適に用いることができる。酸を加えて、溶液のpHを2以下とすることが望ましい。酸添加後の放置期間は、室温(20-30℃)で1週間程度が好適である。
また前記沈殿の除去には、遠心分離法を好適に用いることができる。
【0010】
ハプト植物綱に属する単細胞藻のうちでも海産のPhaeocystis sp.は厚い多糖外被を持ち、その乾燥重量は藻体本体に匹敵する。しかもその外被は、熱処理あるいは酸性化処理あるいはその両方の処理によって容易に藻体本体から剥離されるので、多糖体を得るのに特に適している。
【発明の効果】
【0011】
ハプトースの純度が向上すれば、ハプトースを素材として利用する上で有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
単細胞藻は、海水で栽培し収穫することにより得られる。
収穫した藻を十分に水洗して海水の塩分を除く。その後藻を水に懸濁させて、加熱(80℃以上)あるいは酸性(pH2以下)下に保持すると、あるいは酸性として加熱保持すると、藻から多糖外被が剥離する。この状態で、遠心操作を行って藻体を分離すると、特許文献2に詳しく記載されているように、粗多糖外被溶液が得られる。この溶液は、通常着色透明ゲル状である。
【0013】
この準備工程に続き精製工程を行う。精製工程の基本は既に記載したように塩化ナトリウム添加工程、酸添加後1週間程度放置する工程、沈殿を除去する工程からなる。具体的な実施形態を、ハプト植物綱に属する単細胞藻であるPhaeocystis sp.を例として以下に説明する。
【実施例】
【0014】
準備工程で得られた粗多糖外被溶液に塩化ナトリウムを溶液中の濃度が約3%となるよう加えた。この溶液に硫酸を溶液中の濃度が0.2Mとなるよう加えた。このときの溶液のpHは2以下である。室温で7日間保持すると溶液中に着色した沈澱が形成されるので、これを遠心分離等の方法で除去し無色透明の高純度ハプトース溶液を得た。なお、保持日数は、7日以上であれば大きな影響はない。
【0015】
得られたハプトース溶液を分析すると、図1のような結果が得られた。
【0016】
溶液を室温で保持している期間での溶液中の多糖分子の分子サイズ分布の変化を、ゲル濾過法によって測定した。酸を加えた時点から一定時間毎に溶液の一部を取りだし、ゲル濾過カラム(Sephacryl S-400HR; Amashiam-Pharmacia社製)を通し、カラム流出液を10分間隔で分画した。流出液各分画の屈折率を示差屈折計(株式会社島津製作所製RID-10A)で、各分画の全糖量をフェノール硫酸法で測定した。流出液の屈折率も全糖量も共に同様の単一ピークを示し、このピークは保持時間の経過と共に分子サイズが小さい方向へ移動したが、7日以上経過しても以降変化は見られず、17日後でも約10万Daの位置に留まっていた。
【0017】
酸を加えて保持する上記の処理により、粗多糖外被は約10万Da程度の多糖ハプトースに分解され、残余部分は不溶性残渣として沈殿させられたと考えられる。多糖を酸加水分解すれば非特異的に単糖まで分解されると予想されるので、上記の処理は酸加水分解ではないと推定される。
【0018】
酸を加えて室温で12日間保持した試料を用いハプトース溶液中の糖の分析を行った。
ゲル濾過カラム流出液の全糖ピークを示す分画を窒素気流中で加水分解し、ピリジルアミノ化して後単糖分離専用カラム(タカラバイオ株式会社製Palpack-type A)を用いてHPLCにかけ、蛍光光度計(株式会社島津製作所製RF-10AXL)により分析した。キシロース(Xyl)とグルコース(Glc)を示す2つのピークのみが検出され、それぞれのピーク面積から推定される両者のモル比は47:53であった。
XylとGlc以外の糖は糖分析で検出されなかった。これよりハプトースはキシロースとグルコースとから成る多糖であると結論できる。
【0019】
ハプトースをいくつかの酵素を用いて消化させる試験を行った。消化実験は次の各酵素を用い、溶液のpHが4-9、温度36℃の条件で、72時間かけて行った。また、消化された糖は、TLC(シリカゲルプレート、ナフトレゾルシノール発色)法により単糖及びオリゴ糖を検出した。主な消化生成物の構成はピリジルアミノ化/HPLC法により確認した。
【0020】
酵素としてプルラナーゼ(Klebsiella pneumoniae)を用いると、主な消化生成物として3GとX3Gを得た。ここにXはキシロースを、Gはグルコースを表し、X3Gとはキシロースが1つとグルコースが3つ結合したオリゴ糖が生成されたことを示している。
酵素としてキシラナーゼ(Trichoderma viride)を用いると、主な消化生成物としてX3Gのみを得た。また、酵素としてb-グルコシダーゼ(sweet almond)を用いると、主な消化生成物としてX, G, 3X, X2Gを得た。
酵素としてa-グルコシダーゼ(Bacillus stearothermophilus)やアミラーゼ(Aspergillus oryzae)を用いたときは分解産物が検出できなかった。
【0021】
この結果より、ハプトースは少なくともb1,4-グリコシド結合とa1,6-グリコシド結合を含んでいると推論できる。3Xという構成のオリゴ糖が検出されたことは、ハプトースは直鎖のグルコースの6位にキシロースが結合している単純なキシログルカンではないことも示唆される。
【0022】
本願発明の実施の形態は、もとよりこの実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明で得られた多糖体ハプトースは、主としてキシロースとグルコースとにより構成されているため、浄水材、プラスチック原料又は化粧品等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ハプトースの分析結果の表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハプト植物綱に属する藻から得られる粗多糖外被溶液に、
a)塩化ナトリウムを加え、
b)さらに酸を加えて室温で保持し、
c)溶液中に形成された沈澱を除去する、
ことを特徴とする高純度ハプトース溶液の製造方法。
【請求項2】
前記ハプト植物綱に属する単細胞藻はPhaeocystis sp.である、請求項1に記載の高純度ハプトース溶液の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−115240(P2008−115240A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298583(P2006−298583)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(503231480)有限会社日本エコロノミックス (10)
【Fターム(参考)】