説明

高純度尿素水の製造方法

【課題】本発明は、尿素製造過程で生成した尿素結晶から粒状尿素を造粒することなく、該尿素結晶を純水で溶解するのみの簡略化された工程で効率的に高純度尿素水を製造する方法を提供する。
【解決手段】アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成圧力および温度下に尿素合成域において反応せしめ、得られた尿素合成液から、過剰のアンモニアおよび未反応のアンモニウムカーバメートをアンモニアおよび二酸化炭素を含む混合ガスとして分離し、該混合ガスを該尿素合成域に循環し、一方、過剰アンモニアおよび未反応アンモニウムカーバメートを分離して得られる尿素水溶液を濃縮し、尿素を晶析させて得られる結晶尿素を水に溶解させることを特徴とする。また該結晶尿素が1重量%〜6重量%の水分を含む事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度尿素水の製造方法に関する。特に、内燃機関排気処理用NOx還元剤として用いられる高純度尿素水の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスには、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)及びPM(Particulate Matter:パティキュレート)等の汚染物質が含まれる。これらの汚染物質の中でもNOxは、酸化触媒やガソリン自動車で実用化されている三元触媒では浄化が難しく、NOxを浄化することができる有望な触媒として、選択還元型NOx触媒(以下、SCR触媒という)の開発が行われている。
【0003】
SCR触媒はTiO2あるいはSiO2−TiO2、WO3−TiO2、SiO2−TiO2などの二元系複合酸化物、または、WO3−SiO2−TiO2、Mo3−SiO2−TiO2などの三元系複合酸化物などの担体に、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Y、Ce、Nd、W、In、Irなどの活性成分を担持してなるハニカム構造を有し、アンモニアなどの還元剤の存在下でNOxを浄化する触媒である。このアンモニア源として、尿素水が使用されている。
【0004】
従来の尿素水の製造方法は、固体の粒状尿素を水に溶解することで行われている。
一般的には、尿素水の尿素濃度は、20〜60重量%、好ましくは25〜55重量%である。
【0005】
例えば、特許文献1には、10〜60℃で固体の粒状尿素を電気伝導度が0.3mS/m以下の水に20〜60重量%の濃度で溶解させ、かかる尿素水を濾過する工程及びオイル吸着剤で処理する工程からなる高純度尿素水の製法が記載されている。
【0006】
固体粒状尿素の製法としては、非特許文献1に、「MTC Urea Process Mitsui Toatsu Chemicals,Inc.」が記載されており、二酸化炭素、液体アンモニア及び回収カーバメイト水溶液を高温、高圧下の合成管内で反応させて尿素を合成し、分解、回収工程を経て、約70%の尿素水溶液を得、次いで、該尿素水溶液は晶出器に送られ、濃縮しながら結晶を析出させ、その後遠心分離して、結晶尿素を得る。この結晶尿素は空気乾燥輸送タイプのドライヤーで造粒塔の上部に運ばれ、メルターでスチーム加熱により溶融され、ノズル板から造粒塔内に液滴として分散され、該液滴は塔内を落下しながら上昇空気流により冷却固化し、塔底にある流動層冷却器で常温近くまで冷却されて製品の粒状尿素となる。この製法では、粒状尿素を得るまでに加熱工程が数箇所あり、その熱履歴により尿素二量体であるビウレットや、加水分解生成物であるアンモニアが副生するなどの問題点がある。
【特許文献1】特開2006−298828号公報
【非特許文献1】石油学会編 プロセスハンドブック VOL.2[昭和53年2月28日第2回配本(完結)]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、尿素製造過程で生成した尿素水溶液から晶出させた結晶尿素を粒状尿素に造粒することなく、結晶尿素を直接、水に溶解することによる簡略化された工程で効率的に高純度尿素水を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成圧力および温度下に尿素合成域において反応せしめ、得られた尿素合成液から、過剰のアンモニアおよび未反応のアンモニウムカーバメートをアンモニアおよび二酸化炭素を含む混合ガスとして分離し、該混合ガスを該尿素合成域に循環し、一方、過剰アンモニアおよび未反応アンモニウムカーバメートを分離して得られる尿素水溶液を濃縮し、尿素を晶析させて得られる結晶尿素を水に溶解させることを特徴とする高純度尿素水の製造方法。
(2)前記結晶尿素が1重量%〜6重量%の水分を含む事を特徴とする上記(1)に記載の高純度尿素水の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、例えば内燃機関排気処理用NOx還元触媒におけるアンモニア源として用いられる高純度の尿素水を、尿素製造過程で生成した尿素水溶液から尿素を晶析させて結晶尿素を得、該結晶尿素を純水に溶解するのみの簡略化された工程で効率的に製造することができる。粒状尿素を製造する工程が省略されているので、加熱によって生じる尿素の二量体であるビウレットや、造粒塔で混入する微細な異物等の不純物が少ないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の高純度尿素水の製造法は、 以下のとおりである。
二酸化炭素はガス圧縮機で、液体アンモニア及び回収カーバメイト水溶液はポンプにて、それぞれ昇圧されて尿素合成管に送入され、温度170〜210℃、圧力16〜22MPaGの合成管内で尿素合成が行われ、合成反応生成物は合成管出口バルブを通って1.5〜2.0MPaに減圧され高圧分解塔に入る。この際合成液の持っている熱量は有効に利用されて過剰アンモニアが放出され、未反応カーバメイトの大部分がスチーム加熱によりアンモニアと二酸化炭素に分解される。高圧分解塔を出た尿素液は0.1〜2MPaGに減圧されて低圧分解塔に入り、残留する少量のアンモニアと二酸化炭素が除去され、さらに100〜120℃、0.02〜0.04MPaGのガス分離器を通って50〜70重量%の尿素水溶液となる。
【0011】
ガス分離器、低圧分解塔からでるガスは、それぞれガスコンデンサー及び低圧吸収塔で凝縮されて高圧吸収塔に送られ、ここで高圧分解塔からくるガスと接触・吸収して、約100℃の回収カーバメイトとなり合成管に返送される。一方ガス分離器から出る尿素水溶液は晶出器に送られ、60〜65℃、9.0〜10.0kPaAで濃縮しながら結晶を析出させ、約80重量%の尿素スラリーとし、その後遠心分離機等で水分と結晶を分離して、結晶尿素を得る。この結晶尿素は、空気乾燥輸送タイプの乾燥機において100〜120℃で乾燥されて、粉状尿素として造粒塔の上部に運ばれ、メルターでスチーム加熱により約140℃で溶融された後、ノズル板から造粒塔内に液滴として分散され、該液滴は塔内を落下しながら上昇空気流により冷却固化し、塔底にある流動層冷却器で常温近くまで冷却されて製品の粒状尿素となる。
【0012】
この工程において、遠心分離機等で水分と結晶を分離して得られる、水分含量1重量%〜6重量%の結晶尿素を水に溶解することにより、本発明の高純度尿素水を得ることができる。
【0013】
この方法を具体的に説明する。尿素合成工程で得られた尿素、水、アンモニアおよびアンモニウムカーバメートを含む尿素合成液は、分解工程で未反応アンモニウムカーバメートが分解され、ガス分離器でアンモニアおよび二酸化炭素を除去した後に50〜70重量%程度の尿素水溶液となる。この尿素水溶液を濃縮し、晶析させた後、遠心分離機などで結晶に付着している水分を除去し、水分含量1重量%〜6重量%の結晶尿素を得る。この結晶尿素を純水に溶解することにより所定濃度の尿素水を調整する。希釈に用いる純水は、電気伝導度 0.3mS/m以下のものが望ましい。尿素水の尿素濃度は20〜60重量%、好ましくは、25〜55重量%である。
【0014】
また、純水への溶解時の温度は、好ましくは10℃ないし60℃、更に好ましくは30℃ないし50℃である。この温度範囲で溶解させることで、初めて内燃機関排気処理用NOx還元剤として用いられる高純度尿素水を得る事が出来る。
【0015】
尿素を水に添加すると尿素の溶解潜熱により温度が低下する。溶解温度が10℃より低い場合は、尿素の溶解速度が著しく遅くなり、甚だしい場合は尿素水そのものが凍結する。一方溶解温度が60℃より高い場合は、尿素の加水分解によってアンモニアが発生し、内燃機関排気処理用NOx還元剤として用いる場合臭気の点で問題となる。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
<実施例1>
図1に示したフローに従って実験を行った。
二酸化炭素、液体アンモニアを190℃、19MPaG下の合成管内で反応させて尿素を合成し、合成反応生成物を合成管出口バルブを通して1.7MPaに減圧した高圧分解塔に送り、そこで過剰アンモニアが放出され、未反応カーバメイトは大部分がスチーム加熱によりアンモニアと二酸化炭素に分解された。高圧分解塔を出た尿素液は0.15MPaGに減圧されて低圧分解塔に入り、残留する少量のアンモニアと二酸化炭素を除去し、さらに110℃、0.03MPaGのガス分離器を通して60重量%尿素水溶液が得られた。次いで、該尿素水溶液は晶出器に送られ、63℃、9.5kPaAで濃縮しながら結晶を析出させ、約80重量%の尿素スラリーとし、その後遠心分離して、水分含量約5重量%である結晶尿素を得た。このようにして得た結晶尿素に約50℃に調整した電気伝導度0.2mS/mの純水を0.538Kg添加し、32.6重量%尿素水 3.24Kgを調製した。
【0018】
この試料液をDIN 70071の測定方法で尿素濃度、ビウレット、不溶解分、アルカリ度、および炭酸塩の測定を行った。また、尿素水1L中の異物を孔径5.0μmのろ紙でろ過し、ろ紙を水洗後、乾燥させ顕微鏡にて異物個数を観察した。次に尿素水1Lを孔径0.45μmのろ紙でろ過し、そのろ過に必要な時間を測定した。DIN 70070の規格値と測定結果を表1に、ろ過試験の結果を表2に示す。
【0019】
<比較例1>
図2に示したフローに従って実験を行った。
二酸化炭素、液体アンモニアを190℃、19MPaG下の合成管内で反応させて尿素を合成し、合成反応生成物を合成管出口バルブを通して1.7MPaに減圧した高圧分解塔に送り、そこで過剰アンモニアが放出され、未反応カーバメイトは大部分がスチーム加熱によりアンモニアと二酸化炭素に分解された。高圧分解塔を出た尿素液は0.15MPaGに減圧されて低圧分解塔に入り、残留する少量のアンモニアと二酸化炭素を除去し、さらに110℃、0.03MPaGのガス分離器を通して60重量%尿素水溶液が得られた。次いで、該尿素水溶液は晶出器に送られ、63℃、9.5kPaAで濃縮しながら結晶を析出させ、約80重量%の尿素スラリーとし、その後遠心分離して結晶尿素を得た。この結晶尿素は、空気乾燥輸送タイプの乾燥機において100〜120℃で乾燥され、粉体として造粒塔の上部に運ばれ、メルターでスチーム加熱により約140℃で溶融された後、ノズル板から造粒塔内部に液滴として分散された。該液滴は塔内を落下しながら上昇気流により冷却固化され、塔底にある流動層冷却機で常温近くまで冷却されて、製品の粒状尿素を得た。
【0020】
この様にして得た粒状尿素を約50℃に調節した電気伝導度0.2mS/mの純水で溶解し、約3Kgの32.6重量%尿素水を調製した。この試料液をDIN 70071の測定方法で尿素濃度、ビウレット、不溶解分、アルカリ度、および炭酸塩の測定を行った。また、尿素水1L中の異物を孔径5.0μmのろ紙でろ過し、ろ紙を水洗後、乾燥させ顕微鏡にて異物個数を観察した。次に尿素水1Lを孔径0.45μmのろ紙でろ過し、そのろ過に必要な時間を測定した。DIN 70070の規格値と測定結果を表1に、ろ過試験の結果を表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施例における高純度尿素水の製造工程を示すフロー図で ある。
【図2】図2は、本発明の比較例における尿素水の製造工程を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと二酸化炭素とを尿素合成圧力および温度下に尿素合成域において反応せしめ、得られた尿素合成液から、過剰のアンモニアおよび未反応のアンモニウムカーバメートをアンモニアおよび二酸化炭素を含む混合ガスとして分離し、該混合ガスを該尿素合成域に循環し、一方、過剰アンモニアおよび未反応アンモニウムカーバメートを分離して得られる尿素水溶液を濃縮し、尿素を晶析させて得られる結晶尿素を水に溶解させることを特徴とする高純度尿素水の製造方法。
【請求項2】
前記結晶尿素が1重量%〜6重量%の水分を含む事を特徴とする請求項1に記載の高純度尿素水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−280263(P2008−280263A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124049(P2007−124049)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】