説明

高純度水素精製方法

【課題】本発明は、水素含有ガス中から高い回収率で高純度水素を回収可能な高純度水素精製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】水素含有ガスAを水素吸蔵合金が充填された水素回収塔1a〜1cに通じ、高純度水素を精製する方法において、水素回収塔1a〜1c内から放出された高純度水素Cの一部を洗浄用水素吸蔵合金が充填された洗浄用水素精製塔11a〜11cに通ずることにより、洗浄用水素を精製し、この精製された洗浄用水素を水素回収塔1a〜1c内の不純物の排出に用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金が充填された水素回収塔を用いて、水素含有ガス中から水素を高純度かつ高回収率で精製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の改善につながる燃料電池用の燃料として、水素への期待が高まっている。この水素は、天然ガス、ナフサ、灯油、メタノールなどの炭化水素含有燃料と水蒸気を金属触媒の存在下で改質・変成した後、精製して得ることが一般的である。また、この変成後のガスには水素以外に一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、水など燃料電池用の燃料にとって不純物となる成分が含まれてしまう。しかし、燃料電池用の燃料としては、高純度な水素である方が、発電効率が向上する。このような高純度水素を得る代表的な方法としては、複数の吸着塔を用いた水素PSA法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、吸着塔を用いた水素PSA法以外にも純度の高い水素を得る方法が開発されている(例えば、特許文献2を参照)。この特許文献2に開示された技術は、水素吸蔵合金が充填された水素回収塔に水素含有ガスを通じ、この水素含有ガス中の水素のみを選択的に水素吸蔵合金に吸蔵させて不純物ガスと分離し、この水素吸蔵合金に吸蔵された水素のみを水素回収塔から放出させて水素を製造する方法(以下、「水素吸蔵合金法」と称す)である。
【0004】
また、上記特許文献2に開示された技術をさらに発展させた技術も開発されている(例えば、特許文献3を参照)。この特許文献3に開示された技術は、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の水素回収塔内に残る不純物を精製した高純度水素の一部を用いて洗浄する洗浄工程を備えたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−177726号公報
【特許文献2】特開平5−319802号公報
【特許文献3】特開2002−338204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された複数の吸着塔を用いた水素PSA法では、99.999容積%(以下、「容積%」を単に「%」と表す。)以上の高純度水素を製造することができるが、水素以外の除去成分に応じた吸着剤がそれぞれ必要となり、そのために吸着塔が大型化するばかりか、さらに水素の回収率が高くても80%と、20%以上のロスが発生するという問題点があった。
【0007】
また、上記特許文献2に開示された水素吸蔵合金法では、水素吸蔵合金が多量の水素を吸蔵量できる利点を利用しているため、製造時の工程切り替えサイクルを上記特許文献1に開示した水素PSA法と比べて長くすることができる。そのため、水素吸蔵合金法の方が切り替え時の脱圧ロスが少なく、水素PSA法に比べて水素の回収率を向上させることができるのである。しかし、この水素吸蔵合金法では、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の水素回収塔内に残る不純物が、水素放出工程で前記水素回収塔内から放出した高純度水素とともに回収されてしまう。したがって、水素回収率は前記水素PSA法に比べて向上するものの、回収した水素純度は逆に前記水素PSA法で得られる99.999%以上よりも低くなってしまうという問題点があった。
【0008】
また、上記特許文献3に開示された水素吸蔵合金法では、上記特許文献2に開示された水素吸蔵合金法の問題点(回収した水素純度の低下)を改善しているが、洗浄のために用いる精製した高純度水素の一部をオフガスとして水素回収塔外へ排出するため、水素回収率は逆に上記特許文献2に開示された水素吸蔵合金法に比べて低くなってしまうという問題点があった。
【0009】
本発明の目的は、水素含有ガス中から高い回収率で高純度水素を回収可能な高純度水素精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
水素含有ガスを水素吸蔵合金が充填された水素回収塔に通じ、この水素含有ガス中の水素を前記水素吸蔵合金に吸蔵させる第1の水素吸蔵工程と、前記水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の水素回収塔内に残る不純物ガスをパージするための第1のパージ工程と、この第1のパージ工程後にも水素回収塔内に残る不純物を排出するための洗浄工程と、この洗浄工程後に前記第1の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を前記水素回収塔内から放出し高純度水素を得る第1の水素放出工程と、を有した高純度水素精製方法において、
前記水素吸蔵合金の体積よりも小さな体積の洗浄用水素吸蔵合金が充填された洗浄用水素精製塔を備え、
前記第1の水素放出工程にある水素回収塔内から放出された高純度水素の一部をこの洗浄用水素精製塔に通じ、この一部の高純度水素中の水素をさらに前記洗浄用水素吸蔵合金に吸蔵させる第2の水素吸蔵工程と、前記洗浄用水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の洗浄用水素精製塔内に僅かに残る不純物ガスをパージするための第2のパージ工程と、この第2のパージ工程後に前記第2の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を前記洗浄用水素精製塔内から放出し洗浄用水素を得る第2の水素放出工程と、を有し、
この第2の水素放出工程で得られた洗浄用水素を前記洗浄工程における不純物の排出に用いたことを特徴とする高純度水素精製方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記洗浄用水素吸蔵合金の体積は、前記水素吸蔵合金の体積に対して20%〜80%の体積であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、
前記水素回収塔において、洗浄工程と第1の水素放出工程の間に水素回収塔内の水素吸蔵合金を予め加熱する第1の加熱工程を有し、第1の水素放出工程と第1の水素吸蔵工程の間に水素回収塔内の水素吸蔵合金を予め冷却する第1の冷却工程を有したことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、
前記水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であり、このAB5系水素吸蔵合金の水素平衡圧が0.05MPa以上0.3MPa以下であり、
前記AB5系水素吸蔵合金の温度制御用の媒体流通路が前記水素回収塔の内側または外側に設けられ、
前記第1の水素吸蔵工程、第1のパージ工程、洗浄工程と第1の冷却工程においては、前記媒体流通路に0℃以上40℃未満の媒体を流通させ、
前記第1の水素放出工程と第1の加熱工程においては、前記媒体流通路に40℃以上150℃未満の媒体を流通させることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、
前記洗浄用水素精製塔において、第2のパージ工程と第2の水素放出工程の間に洗浄用水素精製塔内の洗浄用水素吸蔵合金を予め加熱する第2の加熱工程を有し、第2の水素放出工程と第2の水素吸蔵工程の間に洗浄用水素精製塔内の洗浄用水素吸蔵合金を予め冷却する第2の冷却工程を有したことを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記洗浄用水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、
前記洗浄用水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であり、このAB5系水素吸蔵合金の水素平衡圧が0.05MPa以上0.3MPa以下であり、
前記AB5系水素吸蔵合金の温度制御用の媒体流通路が前記洗浄用水素精製塔の内側または外側に設けられ、
前記第2の水素吸蔵工程、第2のパージ工程と第2の冷却工程においては、前記媒体流通路に0℃以上40℃未満の媒体を流通させ、
前記第2の水素放出工程と第2の加熱工程においては、前記媒体流通路に40℃以上150℃未満の媒体を流通させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る高純度水素精製方法によれば、
水素含有ガスを水素吸蔵合金が充填された水素回収塔に通じ、この水素含有ガス中の水素を前記水素吸蔵合金に吸蔵させる第1の水素吸蔵工程と、前記水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の水素回収塔内に残る不純物ガスをパージするための第1のパージ工程と、この第1のパージ工程後にも水素回収塔内に残る不純物を排出するための洗浄工程と、この洗浄工程後に前記第1の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を前記水素回収塔内から放出し高純度水素を得る第1の水素放出工程と、を有した高純度水素精製方法において、
前記水素吸蔵合金の体積よりも小さな体積の洗浄用水素吸蔵合金が充填された洗浄用水素精製塔を備え、
前記第1の水素放出工程にある水素回収塔内から放出された高純度水素の一部をこの洗浄用水素精製塔に通じ、この一部の高純度水素中の水素をさらに前記洗浄用水素吸蔵合金に吸蔵させる第2の水素吸蔵工程と、前記洗浄用水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の洗浄用水素精製塔内に僅かに残る不純物ガスをパージするための第2のパージ工程と、この第2のパージ工程後に前記第2の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を前記洗浄用水素精製塔内から放出し洗浄用水素を得る第2の水素放出工程と、を有し、
この第2の水素放出工程で得られた洗浄用水素を前記洗浄工程における不純物の排出に用いるようにしているため、
水素含有ガス中から高い回収率で高純度水素を回収可能な高純度水素精製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る高純度水素精製システムの構成の概要を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る高純度水素精製システムの構成の概要を模式的に説明する説明図である。
【0022】
図1において、1a、1b、1cは水素吸蔵合金が充填された水素回収塔、2a、2b、2cは水素吸蔵合金の温度制御用に水素回収塔1a、1b、1cの外側に設けられた媒体流通路、3は圧力コントロール弁、4、5、14、15は弁、6は真空ポンプ、7、8、9はマスフローコントローラ、13は水素回収塔1a、1b、1c内に充填された水素吸蔵合金の体積に対してそれぞれ所定割合{例えば、50%}の体積を有した洗浄用水素吸蔵合金が充填された洗浄用水素精製塔(11a、11b、11c)から構成される洗浄用水素精製部である。
【0023】
また、洗浄用水素精製塔11a、11b、11cの外側には、水素回収塔1a、1b、1cと同様にそれぞれ媒体流通路12a、12b、12cが設けられている。
【0024】
ライン101は、水素含有ガスAの導入ラインである。ライン101と各水素回収塔1a、1b、1cとはそれぞれ弁A1、弁B1、弁C1を介して接続されている。
【0025】
ライン102は、各水素回収塔1a〜1cにて水素含有ガスAより高純度水素を得て、この高純度水素(製品水素)Cを回収する回収ラインであり、各水素回収塔1a〜1cとはそれぞれ弁A2、弁B2、弁C2を介して接続されており、回収した高純度水素(製品水素)Cはマスフローコントローラ7を介してさらにバッファタンク(図示せず)に一時的に貯蔵される。
【0026】
ライン103は、各水素回収塔1a〜1cで水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の各水素回収塔1a〜1c内に残る不純物ガスを常圧まで、もしくは減圧することにより、オフガスBとしてパージするためのオフガスラインである。ライン103と各水素回収塔1a〜1cとはそれぞれ弁A4、弁B4、弁C4を介して接続され、さらに、ライン103は圧力コントロール弁3を介して常圧まで圧力を下げる弁4に接続されている。また、必要に応じてさらに減圧するためにライン103は圧力コントロール弁3、弁5を介して真空ポンプ6に接続されている。また、このライン103は、各洗浄用水素精製塔11a、11b、11cで洗浄用水素吸蔵合金に上記一部の高純度水素中の水素をさらに吸蔵させた後の各洗浄用水素精製塔11a〜11c内に僅かに残る不純物ガスをパージするためのオフガスラインでもあり、各洗浄用水素精製塔11a、11b、11cとは弁14を介して接続されている。
【0027】
ライン104は、ライン102を経由して各水素回収塔1a、1b、1c内から放出された高純度水素の一部をマスフローコントローラ8、弁PW−1A、弁PW−1B、弁PW−1Cを介して各洗浄用水素精製塔11a、11b、11cに通ずるためのラインである。
【0028】
ライン105は、各洗浄用水素精製塔11a、11b、11cに上記一部の高純度水素中の水素を吸蔵させた後の洗浄用水素精製塔11a、11b、11c内に僅かに残る不純物ガスをパージした後、洗浄用水素精製塔11a、11b、11c内からそれぞれ弁PW−2A、弁PW−2B、弁PW−2C、弁15を介して洗浄用水素として放出し、マスフローコントローラ9に接続するためのラインである。
【0029】
ライン106は、上記マスフローコントローラ9から供給される洗浄用水素を水素回収塔1a、1b、1c内に残る不純物を排出するために供給するためのラインである。ライン106と各水素回収塔1a、1b、1cとはそれぞれ弁A3、弁B3、弁C3を介して接続されている。
【0030】
次に、水素含有ガスA中から高純度水素(製品水素)Cを精製する方法の操作手順を後記洗浄用水素を精製する過程(例えば、洗浄用水素精製塔11aを用いた場合)とともに具体的に説明する。なお、以下においては、原則として水素回収塔1aの操作手順のみについて説明するが、運転は下記表1のタイムステップテーブルに示すように、水素回収塔1a〜1cの3塔を用いてサイクリックに行う。
【0031】
1)[水素回収塔1aの水素吸蔵工程(以下、「第1の水素吸蔵工程」と称す、タイムステップ番号1〜6)]:媒体流通路2aに0℃以上40℃未満の媒体(例えば、冷水)を流しながら、水素含有ガスAを水素回収塔1aに導入し、水素含有ガスA中の水素を水素吸蔵合金に吸蔵させる(弁A2,A3:閉、弁A1,A4:開)。水素吸蔵反応は発熱反応であるため、除熱のため、上述したように冷水を流しながら水素吸蔵を行なう。これにより、水素吸蔵速度も低下しないため、水素の回収率も向上する。また、水素吸蔵合金として、例えばAB5系水素吸蔵合金のような種類を用いる場合には、高圧化(例えば、0.9MPaに)した水素含有ガスAを水素回収塔1aに導入する。
【0032】
2)[水素回収塔1aのパージ工程(以下、「第1のパージ工程」と称す、タイムステップ番号7)]:上記1)に示す第1の水素吸蔵工程終了後、水素回収塔1a内に残る不純物ガスを常圧まで、もしくは減圧することによりライン103を経由してオフガスBとしてパージする。なお、常圧にする場合には、弁A1、A2,A3を閉じ、弁A4,圧力コントロール弁3と弁4を開く。また、減圧する場合には、弁A1、A2,A3と弁4を閉じ、弁5を開け、真空ポンプ6を起動し、圧力コントロール弁3を調節しながら所定の圧力まで減圧する。なお、この第1のパージ工程中には、後記洗浄用水素を精製する過程における第2の加熱工程が行なわれている。
【0033】
3)[水素回収塔1aの洗浄工程(タイムステップ番号8)]:上記2)に示す第1のパージ工程終了後、ライン106を経由して供給される洗浄用水素を用いて水素回収塔1a内に残る不純物を排出する(弁A1、A2,弁4:閉、弁A3,A4、圧力コントロール弁3、弁5、真空ポンプ6:開)。なお、この洗浄工程中には、同時に後記洗浄用水素を精製する過程における第2の水素放出工程で洗浄用水素が得られており、この第2の水素放出工程で得られた洗浄用水素が洗浄用水素精製塔11a内からマスフローコントローラ9を制御しながらライン106に供給されている。すなわち、このライン106に供給された洗浄用水素を用いて、上記水素回収塔1aの洗浄工程が行われているのである。
【0034】
4)[水素回収塔1aの加熱工程(以下、「第1の加熱工程」と称す、タイムステップ番号9、10)]:上記3)に示す洗浄工程終了後、媒体流通路2aに40℃以上150℃未満の媒体(例えば、温水)を流しながら、水素回収塔1a内に充填された水素吸蔵合金を加熱する(弁A1、A2,A3:閉)。これにより、後記第1の水素放出工程で必要な熱量が事前に供給されるため、水素放出工程で十分な水素放出速度を素早く得られる。
【0035】
5)[水素回収塔1aの水素放出工程(以下、「第1の水素放出工程」と称す、タイムステップ番号11〜16)]:上記4)に示す第1の加熱工程終了後、媒体流通路2aに40℃以上150℃未満の媒体(例えば、温水)を流しながら、上記第1の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を水素回収塔1a内から放出し高純度水素を得る(弁A1、A3,A4:閉、弁A2:開)。水素放出反応は吸熱反応のため、熱の補給のため、上述したように温水を流しながら水素放出を行なう。これにより、水素放出速度も低下しないため、高純度な水素が得られる。前述したように、水素回収塔1a内に残る不純物が予め洗浄用水素で排出されている{上記3)に示す洗浄工程に相当する}ため、この第1の水素放出工程で得られる高純度な水素は、より純度の高いものとなる。
【0036】
6)[水素回収塔1aの冷却工程(以下、「第1の冷却工程」と称す、タイムステップ番号17、18)]:上記5)に示す第1の水素放出工程終了後、再び媒体流通路2aに0℃以上40℃未満の媒体(例えば、冷水)を流しながら、水素回収塔1a内に充填された水素吸蔵合金を冷却する(弁A1、A2,A3,A4:閉)。これにより、次工程(上記第1の水素吸蔵工程)に備えて、必要な除熱が事前に行なわれるため、第1の水素吸蔵工程で十分な水素吸蔵速度を素早く得られる。
【0037】
上記1)から6)の操作手順を繰り返すことにより、水素含有ガスA中から高い回収率で高純度水素を回収可能である。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、洗浄用水素を精製する過程について、詳述する。なお、以下においては、原則として洗浄用水素精製塔11aを用いて洗浄用水素を精製する方法について説明するが、運転は上記表1のタイムステップテーブルに示すように、洗浄用水素精製塔11a〜11cの3塔を用いてサイクリックに行う。
【0040】
11)[洗浄用水素精製塔11aの水素吸蔵工程(以下、「第2の水素吸蔵工程」と称す、タイムステップ番号11、12)]:媒体流通路12aに0℃以上40℃未満の媒体(例えば、冷水)を流しながら、上記5)に示す第1の水素放出工程で得られる高純度水素(製品水素)Cの一部をマスフローコントローラ7、8を制御しながらライン104を介して洗浄用水素精製塔11aに導入し、この一部の高純度水素中の水素をさらに洗浄用水素吸蔵合金に吸蔵させる(弁PW−2A:閉、弁PW−1A:開)。この水素吸蔵反応も発熱反応であるため、除熱のため、上述したように冷水を流しながら水素吸蔵を行なう。これにより、水素吸蔵速度も低下しないため、水素の回収率も向上する。また、洗浄用水素吸蔵合金として、例えばAB5系水素吸蔵合金のような種類を用いる場合には、高圧化(例えば、0.9MPaに)した高純度水素(製品水素)Cの一部を洗浄用水素精製塔11aに導入する。
【0041】
12)[洗浄用水素精製塔11aのパージ工程(以下、「第2のパージ工程」と称す、タイムステップ番号17)]:上記11)に示す第2の水素吸蔵工程終了後、洗浄用水素精製塔11a内に僅かに残る不純物ガスを常圧まで減圧することにより弁14を介してオフガスBとしてパージする。これにより、高純度水素(製品水素)Cからさらに水素純度を高めた洗浄用水素を精製する準備が整う。なお、常圧にする場合には、弁PW−1A、弁15を閉じ、弁PW−2A、弁14を開ける。また、この第2のパージ工程中には、上記6)に示す第1の冷却工程が行なわれている。
【0042】
13)[洗浄用水素精製塔11aの加熱工程(以下、「第2の加熱工程」と称す、タイムステップ番号7)]:上記12)に示す第2のパージ工程終了後、媒体流通路12aに40℃以上150℃未満の媒体(例えば、温水)を流しながら、洗浄用水素精製塔11a
内に充填された洗浄用水素吸蔵合金を加熱する(弁PW−1A、PW−2A:閉)。これにより、後記第2の水素放出工程で必要な熱量が事前に供給されるため、水素放出工程で十分な水素放出速度を素早く得られる。
【0043】
14)[洗浄用水素精製塔11aの水素放出工程(以下、「第2の水素放出工程」と称す、タイムステップ番号8)]:上記13)に示す第2の加熱工程終了後、媒体流通路12aに40℃以上150℃未満の媒体(例えば、温水)を流しながら、上記第2の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を洗浄用水素精製塔11a内から放出し洗浄用水素を得る(弁PW−1A、弁14:閉、弁PW−2A、弁15:開)。この水素放出反応も吸熱反応のため、熱の補給のため、上述したように温水を流しながら水素放出を行なう。これにより、水素放出速度も低下しないため、適当な洗浄用水素が得られる。
【0044】
15)[洗浄用水素精製塔11aの冷却工程(以下、「第2の冷却工程」と称す、タイムステップ番号9、10)]:上記14)に示す第2の水素放出工程終了後、再び媒体流通路12aに0℃以上40℃未満の媒体(例えば、冷水)を流しながら、洗浄用水素精製塔11a内に充填された洗浄用水素吸蔵合金を冷却する(弁PW−1A、PW−2A:閉)。これにより、次工程(上記第2の水素吸蔵工程)に備えて、必要な除熱が事前に行なわれるため、第2の水素吸蔵工程で十分な水素吸蔵速度を素早く得られる。
【0045】
上記11)から15)の操作手順を繰り返すことにより、高純度水素(製品水素)Cからさらに水素純度を高めた洗浄用水素を精製することが可能である。
【0046】
なお、本実施形態に係る高純度水素精製システムにおける高純度水素精製方法では、1つの水素回収塔についての1サイクルの中に水素吸蔵工程、パージ工程、洗浄工程、加熱工程、水素放出工程と冷却工程を備え、かつ、1つの洗浄用水素精製塔についての1サイクルの中に水素吸蔵工程、パージ工程、加熱工程、水素放出工程と冷却工程を備えた例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。すなわち、前記1つの水素回収塔についての1サイクルの中および1つの洗浄用水素精製塔についての1サイクルの中にそれぞれ加熱工程と冷却工程を有しているが、本発明の技術思想においては、必ずしも必須の構成要件でない。しかし、この加熱工程と冷却工程を有することで、上述したようなさらなる作用効果を生ずるため、これらの工程を設けるのがより好ましい。
【0047】
また、本実施形態に係る高純度水素精製システムにおける高純度水素精製方法では、3つの水素回収塔1a〜1cと3つの洗浄用水素精製塔11a〜11cを有した例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、1つの水素回収塔と1つの洗浄用水素精製塔を備えた構成であっても本発明の技術思想を満足する。しかし、本実施形態の構成(3つの水素回収塔1a〜1cと3つの洗浄用水素精製塔11a〜11cを含有した構成)とすることで、高純度水素精製の連続的かつ生産効率向上の点から好適である。
【0048】
また、CO、Nなどの不純物が水素含有ガスAに含まれた場合、水素吸蔵合金および洗浄用水素吸蔵合金としてAB5系水素吸蔵合金を採用すると、AB2系水素吸蔵合金を初めとした他の水素吸蔵合金と比較してCO、Nなどの不純物に対する耐性が強く、システムとしての耐久性を持たせることが可能となり好ましい。特に、水素回収塔内に充填される水素吸蔵合金にあっては、重要である。このAB5系水素吸蔵合金の水素平衡圧が0.05MPa以上0.3MPa以下であり、前記AB5系水素吸蔵合金の温度制御用の媒体流通路が水素回収塔の内側または外側に設けられ、水素吸蔵工程、パージ工程、洗浄工程と冷却工程においては、前記媒体流通路に0℃以上40℃未満の媒体(以下、「冷媒」と称す)を流通させ、水素放出工程と加熱工程においては、前記媒体流通路に40℃以上150℃未満の媒体(以下、「熱媒」と称す)を流通させるのが好ましい。何故ならば、冷媒の温度がこの範囲より低すぎると冷媒を作成するためのエネルギーが必要となりエネルギー効率が落ちる。一方、この範囲より高すぎると十分な水素吸蔵速度が得られなくなる。また、熱媒の温度がこの範囲より低すぎると十分な水素放出速度が得られなくなり、一方この範囲より高すぎると熱媒を作製するためのエネルギーが必要となり、エネルギー効率が落ちる。エネルギー効率ならびにコストを考えるとより好ましい冷媒温度は20℃〜40℃であり、より好ましい熱媒温度は通常利用されていない低品位排熱で回収可能な60℃〜80℃である。以上のことに関しては、洗浄用水素精製塔内に充填される洗浄用水素吸蔵合金についても言えることである。
【0049】
なお、本実施形態においては、洗浄用水素精製塔11a、11b、11c内に充填された洗浄用水素吸蔵合金の体積が水素回収塔1a、1b、1c内に充填された水素吸蔵合金の体積に対してそれぞれ50%の場合を例に説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、前記洗浄用水素吸蔵合金の体積は、前記水素吸蔵合金の体積に対して20%〜80%の体積とするのが好適である。このような比率にすることにより、上述した水素回収塔の洗浄工程における洗浄用水素として適当な量を確保しながらも、マスフローコントローラ等による微量の流量制御が可能であり、かつ、上記第1の水素放出工程(水素回収塔の水素放出工程)で得られた高純度水素のロスを減少させることも可能である。また、前記比率を確保しさえすれば、システムを前日の夕方にストップし、翌朝再びスタートさせる{この時点では、まだ上述した第1の水素放出工程(水素回収塔の水素放出工程)は稼動していない}場合にも、洗浄用水素精製塔内に残存する洗浄用水素を用いて水素回収塔の洗浄工程を実施可能となる。
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではない。
【実施例】
【0051】
本発明の効果を確証するために、上記本実施形態で例示した図1の高純度水素精製システムの構成を有し、かつ、上記表1のタイムステップテーブルに示す運転を採用して、高純度水素精製の試験を行った。
【0052】
実験条件は以下の通りである。
<被精製ガス(水素含有ガスA)条件>
圧力:0.9MPa
温度:20℃
流量:2.0NL/min
組成:H:80%、CO:20%(水素分圧0.72MPa)
<水素吸蔵合金および洗浄用水素吸蔵合金>
20℃における平衡圧が0.2MPaとなるように調整したAB5系水素吸蔵合金
<熱媒および冷媒条件>
熱媒条件:80℃温水・流量3L/min
冷媒条件:20℃冷水・流量3L/min
<水素回収塔(1塔ごと)のサイクルパターン>
第1の水素吸蔵工程:30分
第1のパージ工程:5分
洗浄工程:5分
第1の加熱工程:10分
第1の水素放出工程:30分
第1の冷却工程:10分
<洗浄用水素精製塔(1塔ごと)のサイクルパターン>
第2の水素吸蔵工程:10分(高純度水素(製品水素)Cの一部を0.125NL/min吸蔵)
第2のパージ工程:5分
第2の加熱工程:5分
第2の水素放出工程:5分(洗浄用水素として0.25NL/min放出)
第2の冷却工程:10分

以上の工程を30サイクル行ったところ、水素回収率は87%、高純度水素の平均濃度は99.9999%が得られた。
【0053】
〔比較例〕
実験条件は、上記実施例(本発明)において、洗浄用水素精製塔が設置されず、水素回収塔の洗浄工程において高純度水素(製品水素)Cの一部をそのまま洗浄用水素として使用する以外は上記実施例と同じである。その結果、水素回収率は85%、得られた高純度水素の平均濃度は99.9%であった。
【0054】
以上のように、高純度水素の平均濃度が99.9999%で、水素回収率が87%以上を満足するのは上記実施例(本発明)のみである。
【0055】
なお、本実施例ならびに比較例で用いた水素含有ガスAの水素濃度は80%、圧力は0.9MPaとしたが、必ずしもこの濃度に限られたものではなく、温度ならびに水素分圧が用いる水素吸蔵合金および洗浄用水素吸蔵合金の平衡圧以上であればどの圧力・温度でも高純度水素精製は可能である。また、水素以外のガスに特に水素吸蔵合金および洗浄用水素吸蔵合金の被毒要因となるCOが含まれている場合は、前段でCO選択吸着剤を用いて除去してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1a、1b、1c:水素回収塔
2a、2b、2c、12a、12b、12c:媒体流通路
3:圧力コントロール弁
4、5、14、15:弁
6:真空ポンプ
7、8、9:マスフローコントローラ
11a、11b、11c:洗浄用水素精製塔
A:水素含有ガス
B:オフガス
C:高純度水素(製品水素)



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有ガスを水素吸蔵合金が充填された水素回収塔に通じ、この水素含有ガス中の水素を前記水素吸蔵合金に吸蔵させる第1の水素吸蔵工程と、前記水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の水素回収塔内に残る不純物ガスをパージするための第1のパージ工程と、この第1のパージ工程後にも水素回収塔内に残る不純物を排出するための洗浄工程と、この洗浄工程後に前記第1の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を前記水素回収塔内から放出し高純度水素を得る第1の水素放出工程と、を有した高純度水素精製方法において、
前記水素吸蔵合金の体積よりも小さな体積の洗浄用水素吸蔵合金が充填された洗浄用水素精製塔を備え、
前記第1の水素放出工程にある水素回収塔内から放出された高純度水素の一部をこの洗浄用水素精製塔に通じ、この一部の高純度水素中の水素をさらに前記洗浄用水素吸蔵合金に吸蔵させる第2の水素吸蔵工程と、前記洗浄用水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後の洗浄用水素精製塔内に僅かに残る不純物ガスをパージするための第2のパージ工程と、この第2のパージ工程後に前記第2の水素吸蔵工程で吸蔵された水素を前記洗浄用水素精製塔内から放出し洗浄用水素を得る第2の水素放出工程と、を有し、
この第2の水素放出工程で得られた洗浄用水素を前記洗浄工程における不純物の排出に用いたことを特徴とする高純度水素精製方法。
【請求項2】
前記洗浄用水素吸蔵合金の体積は、前記水素吸蔵合金の体積に対して20%〜80%の体積であることを特徴とする請求項1に記載の高純度水素精製方法。
【請求項3】
前記水素回収塔において、洗浄工程と第1の水素放出工程の間に水素回収塔内の水素吸蔵合金を予め加熱する第1の加熱工程を有し、第1の水素放出工程と第1の水素吸蔵工程の間に水素回収塔内の水素吸蔵合金を予め冷却する第1の冷却工程を有したことを特徴とする請求項1または2に記載の高純度水素精製方法。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項1に記載の高純度水素精製方法。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であり、このAB5系水素吸蔵合金の水素平衡圧が0.05MPa以上0.3MPa以下であり、
前記AB5系水素吸蔵合金の温度制御用の媒体流通路が前記水素回収塔の内側または外側に設けられ、
前記第1の水素吸蔵工程、第1のパージ工程、洗浄工程と第1の冷却工程においては、前記媒体流通路に0℃以上40℃未満の媒体を流通させ、
前記第1の水素放出工程と第1の加熱工程においては、前記媒体流通路に40℃以上150℃未満の媒体を流通させることを特徴とする請求項3に記載の高純度水素精製方法。
【請求項6】
前記洗浄用水素精製塔において、第2のパージ工程と第2の水素放出工程の間に洗浄用水素精製塔内の洗浄用水素吸蔵合金を予め加熱する第2の加熱工程を有し、第2の水素放出工程と第2の水素吸蔵工程の間に洗浄用水素精製塔内の洗浄用水素吸蔵合金を予め冷却する第2の冷却工程を有したことを特徴とする請求項1または2に記載の高純度水素精製方法。
【請求項7】
前記洗浄用水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項1に記載の高純度水素精製方法。
【請求項8】
前記洗浄用水素吸蔵合金がAB5系水素吸蔵合金であり、このAB5系水素吸蔵合金の水素平衡圧が0.05MPa以上0.3MPa以下であり、
前記AB5系水素吸蔵合金の温度制御用の媒体流通路が前記洗浄用水素精製塔の内側または外側に設けられ、
前記第2の水素吸蔵工程、第2のパージ工程と第2の冷却工程においては、前記媒体流通路に0℃以上40℃未満の媒体を流通させ、
前記第2の水素放出工程と第2の加熱工程においては、前記媒体流通路に40℃以上150℃未満の媒体を流通させることを特徴とする請求項6に記載の高純度水素精製方法。



【図1】
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