説明

高級トリアルキルアルミニウムの製造方法

【課題】高級トリアルキルアルミニウムを簡便に製造でき、かつ高純度で得ることが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】低級トリアルキルアルミニウムに対して、炭素数6〜18の1−アルケンを50〜150℃の温度に加熱して常圧で反応させることにより、相当する高級トリアルキルアルミニウムが高純度で得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級トリアルキルアルミニウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアルキルアルミニウムの製造方法は、一般的に次式のように行われている。
Al+3/2H+3A−CH=CH → 3Al(A−CH−CH)
(式中、Aは水素原子またはアルキル基を表す。以下、同じ。)
この反応は、安価な原料を用いることが可能で、かつ一段階反応であることから有用であるが、反応に高圧が必要であるという欠点を有する。しかも、高級オレフィンの場合には沸点が高いために高圧にすることが困難であり、反応をスムーズに進行させることが難しかった。また、蒸留精製が困難な高級トリアルキルアルミニウムを製造する際には、未反応のアルミニウムの除去が困難であった。このように、この合成法は比較的低級のアルキルアルミニウムの製造には適した合成法ではあるが、高級アルキルアルミニウムの製造には適していなかった。この反応は、特許文献1(米国特許第2,787,626号明細書)に記載され公知である。
【0003】
一方、ジアルキルアルミニウムヒドリドを出発原料、または中間体として用い、トリアルキルアルミニウムを製造する方法も知られている。
AlH(A−CH−CH)+A−CH=CH→Al(A−CH−CH)
この反応の詳細については、特許文献2(特開2003−002892号公報)に記載されている。しかしながら、出発原料としてジアルキルアルミニウムハライドを用いる場合には、このものを何らかの方法で別に合成する必要があり、しかもジアルキルアルミニウムハライドの合成はかなり難しく、この方法も効率的とは言い難い。また、中間体として経由する場合には、先に述べたように、高級トリアルキルアルミニウムを製造する際には未反応アルミニウムの除去が困難となる。
【0004】
さらに、トリアルキルアルミニウムを製造する方法として、グリニヤー法による合成方法もある。
AlCl+3(A−CH−CH)MgBr → Al(A−CH−CH +3MgClBr
この場合には、Alに3つのアルキル基を導入するためには、かなり厳しい反応条件(高温、長時間の反応)が必要であり、また、反応生成物からMgClBrを除去することが難しい。
【特許文献1】米国特許第2,787,626号明細書
【特許文献2】特開2003−002892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高級トリアルキルアルミニウムを簡便に製造でき、かつ高純度で得ることが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般式(1):AlR(式中、Rは同一または異なり、炭素数2〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基である)で表される低級トリアルキルアルミニウムと炭素数6〜18の1−アルケンとを50〜150℃の温度に加熱して常圧で反応させ、一般式(2):AlR’(式中、R’は同一または異なり、炭素数6〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基である)となすことを特徴とする高級トリアルキルアルミニウムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法を用いることにより、高純度な高級トリアルキルアルミニウムを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に関わる一般式(2):AlR’(R’は、同一または異なり、炭素数6〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基を示す)で表される高級トリアルキルアルミニウムは、低級トリアルキルアルミニウム(R’が炭素数4以下の直鎖状または分枝状のアルキル基)に比べて沸点が高く、蒸留精製を行うことが一般に困難である。従って、なるべく純度の高い生成物が得られる合成法を選択する必要がある。
【0009】
本発明では、上記一般式(1):AlRで表される低級トリアルキルアルミニウムに1−アルケン、必要に応じてヘプタンなどの炭化水素溶媒を用いて、常圧下、反応温度を50〜150℃、好ましくは80〜120℃で反応させることで、上記一般式(2):AlR’で表される高純度の高級トリアルキルアルミニウムを製造することが可能となる。さらに、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptから選ばれた1種以上の金属原子を含有する金属化合物を触媒に用いることにより、反応はより穏やかな条件で進行する。
【0010】
ここで、一般式(1):AlR(式中、Rは同一または異なり、炭素数2〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基である)で表される低級トリアルキルアルミニウムとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn−プロピルアルミニウム、トリi−プロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリi−ブチルアルミニウム、などが挙げられるが、好ましくはトリi−ブチルアルミニウムである。
【0011】
また、本発明に用いられる1−アルケンは、炭素数が6〜18、好ましくは炭素数が8以上である。上記1−アルケンの具体例としては、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンなどが挙げられる。
【0012】
上記一般式(1)で表される低級トリアルキルアルミニウムと1−アルケンの反応割合は、目的とする生成物により異なるが、通常は、該低級トリアルキルアルミニウム1モルに対し、1−アルケンが1モル以上4.5モル以下である。1モル未満では目的とする生成物が得られず、一方4.5モルを超える使用は無駄である。
【0013】
ここで、反応系に、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptから選ばれた1種以上の金属原子を含有する金属化合物を触媒に用いることにより、反応はより穏やかな条件で進行する。好ましくはRh、Irから選ばれた金属原子を含有する金属化合物である。
これらの金属化合物は、ハロゲン化合物、水素化ハロゲン化合物、有機金属錯体化合物など、有機溶媒に溶解するものならば、特に限定されない。
触媒となる上記金属化合物の具体例としては、クロロジカルボニルロジウムダイマー、クロロジオクタジエンイリジウムダイマーなどが挙げられる。
上記触媒は使用しなくとも本発明の反応が進行するが、使用すれば、その反応速度を高め、生成物の純度を高めることができ非常に有効である。触媒の使用量は、原料となる一般式(1)で表される低級トリアルキルアルミニウム(AlR)に対し、通常、10モル%以下で充分であるが、好ましくは0.1〜7モル%である。
【0014】
本発明の反応系には、必要に応じて、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素溶媒を用いることができる。
反応系に溶媒を使用すると、反応温度のコントロールが容易というメリットがある。
溶媒の使用量は、低級トリアルキルアルミニウム100重量部に対し、50〜10,000重量部、好ましくは500〜2,000重量部程度である。
【0015】
本発明の反応において、圧力は常圧(0.05〜0.15MPa)で充分に反応が進行する。反応温度は、50〜150℃、好ましくは80〜120℃である。50℃未満では、反応が十分に進行しない。一方、150℃を超えると、重合などの副反応が進行し好ましくない。
なお、反応時間は、1〜48時間、好ましくは3〜24時間程度である。
本発明の方法では、精製は用いた溶媒を留去するのみで、特別に精製しなくとも純度の高い高級トリアルキルアルミニウムが得られる。
【0016】
このようにして得られる目的物である高級トリアルキルアルミニウムは、1H NMRチャートによって、δ0.45のアルミニウムに結合したメチレンプロトン、δ0.87の末端メチルプロトン、δ1.24のメチレンプロトンから、その構造を確認することができる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を記載して本発明を説明するが、これはその範囲を限定するものではない。
実施例1
トリi−ブチルアルミニウム 50.5g(0.255モル)、1−デセン 117g(0.834モル)、脱水n−ヘプタン 500mLを反応容器に入れ、100℃で常圧下に、24時間反応させた。
反応溶液の溶媒を減圧下留去し、目的とするトリデシルアルミニウム 114g(0.252モル)を無色透明な油状物として得た。このとき得られたトリデシルアルミニウムのプロトンNMRチャートを図1に示す。
【0018】
実施例2
溶媒をn−ヘプタンから脱水n−ヘキサンとし、実施例1と同様に70℃で36時間反応したところ、トリデシルアルミニウム 114gを得た。実施例2では、実施例1と比較し反応に時間を要したが、溶媒の留去が容易であった。
【0019】
実施例3
溶媒をn−ヘプタンから脱水n−オクタンとし、実施例1と同様に125℃で18時間反応したところ、トリデシルアルミニウム117gを得た。実施例3では、実施例1と比較し反応に時間を短縮できたが、溶媒の留去に時間がかかった。
【0020】
実施例4
触媒として、クロロジカルボニルロジウムダイマーをトリi−ブチルアルミニウムに対して3モル%用い、反応温度を80℃とした他は、実施例1と同様に反応を行ったところ、8時間で反応は完結し、目的とするトリデシルアルミニウム 114gを無色透明な油状物として得た。
【0021】
実施例5
触媒として、クロロジオクタジエンイリジウムダイマーをトリi−ブチルアルミニウムに対し3モル%用い、反応温度を80℃とした他は、実施例1と同様に反応を行ったところ、8時間で反応は完結し、目的とするトリデシルアルミニウム113gを無色透明な油状物として得た。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の製造方法によって得られる高級トリアルキルアルミニウムは、高純度であるので、有機合成反応試薬、水、酸素に対する捕捉剤などの用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で得られたトリデシルアルミニウムのプロトンNMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):AlR(式中、Rは同一または異なり、炭素数2〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基である)で表される低級トリアルキルアルミニウムと炭素数6〜18の1−アルケンとを50〜150℃の温度に加熱して常圧で反応させ、一般式(2):AlR’(式中、R’は同一または異なり、炭素数6〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基である)となすことを特徴とする高級トリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で表される低級トリアルキルアルミニウムが、トリi−ブチルアルミニウムである請求項1記載の高級トリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項3】
1−アルケンが、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、および1−オクタデセンの群から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載の高級トリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項4】
Ru、Rh、Pd、Ir、およびPtの群から選ばれた少なくとも1種の金属原子を含有する金属化合物を触媒として使用する、請求項1〜4いずれかに記載の高級トリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項5】
触媒の使用量が、AlRに対して10モル%以下である請求項1〜5いずれかに記載の高級トリアルキルアルミニウムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−204457(P2007−204457A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28742(P2006−28742)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(597114270)株式会社国際基盤材料研究所 (24)
【Fターム(参考)】