説明

高脱水ライムケーキの造粒方法

【課題】含水率を低下させるための強制乾燥及び造粒品の乾燥保管を必要としないような高脱水ライムケーキの造粒方法を提供する。
【解決手段】高脱水ライムケーキに対して高炉セメントB種、酸化マグネシウムの1種又は2種以上を2.5重量%〜5重量%を添加して混合攪拌型の大型造粒装置内で造粒を行い、圧潰強度0.1〜0.2Kgの造粒品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製糖工場で大量に発生する高脱水ライムケーキの造粒方法に関するものであり、更に詳しくは高脱水ライムケーキをセメント類を造粒剤としてセメント類、マグネシウム系固化剤の1種又は2種以上を加えて造粒し、強制乾燥を必要としない例えば安価な肥料用途に適した高脱水ライムケーキの造粒方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来製糖工場における砂糖製造工程において、ビートから抽出した糖液から不純物を取り除くために、糖液中に石灰乳を加え、これに炭酸ガスを吹き込む所謂炭酸飽充を行うことにより炭酸カルシウムの凝集物を生成し、これに不純物を吸着させる方法が採用されているが、これを濾過した残渣がライムケーキである。
【0003】
一方、近年ライムケーキの減量化のために最終手段として専用のフィルタ−プレスを用いて濾過し、含水率27%〜33%まで脱水しているが、これを既存の含水率50%のものと区別するため高脱水ライムケーキと呼ばれている。
【0004】
この高脱水ライムケーキの一部は主に農地の酸度矯正とカルシウムの補給を目的とし、専用散布機を利用して農地への散布等が行われている。
【0005】
しかし 、高脱水ライムケーキは見た目には固形粉状であるが、約30%の水分を含んでいるので、このまま、汎用の散布機を使って散布を行うと、散布機の攪拌機構への付着、或いはホッパー内での付着のように落下阻害を起こすといった症状を呈する。
【0006】
これらの現象を回避するために、高脱水ライムケーキ自体を造粒する方法が試みられているが、この場合造粒品の含水率が所定の値を越えると、硬度が失われ、実用に供することができない。
【0007】
このため、従来高脱水ライムケーキの造粒法としては、特開平11-90203号、特開2002-331300に見られるように、造粒後強制乾燥して造粒品の含水率を所定の値以下にするようにしている。
【特許文献1】特開平11-90203号、特開2002-331300
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、強制乾燥には大きなエネルギーコストを要し、また造粒品を乾燥状態に維持するための乾燥保管も必要となり、これらに掛かるコストは実用化する上での大きな障害となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記実情に鑑み、大量に発生する高脱水ライムケーキを強制乾燥を伴わず、低コストで造粒化することを目的として鋭意研究の結果、高脱水ライムケーキの造粒剤として各種セメント類、マグネシウム系固化剤の1種又は2種以上を使用できることを見出したものである。
【0010】
即ち、高脱水ライムケーキに各種セメント類、マグネシウム系固化剤の1種又は2種以上を添加して造粒することにより得られた造粒品は所定の含水率を超えても硬度が失われることなく、したがって造粒品の強制乾燥等を必要としない。
【0011】
また、この発明では高脱水ライムケーキに対してセメント類、マグネシウム系固化剤の1種又は2種以上を2.5重量%〜5重量%を添加して造粒することにより専用の散布機を利用して農地へ散布するに適した硬度の造粒品を得ることができる。
【0012】
特に、マグネシウム系固化剤中に含まれるマグネシウムは肥料要素であり、農地に散布することにより肥効をもたらす。
【0013】
なお、高脱水ライムケーキには8%〜9%程度の有機物が含まれているが、これらの有機物は造粒化の阻害要因とはならず、却って造粒品が一定の強度に保たれるための要因となっているものと思われる。
【0014】
この発明で使用することができるセメント類としてはポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、スラグセメント、シリカセメント、早強セメント、白色セメント、アークウィーン系セメント、アルミナセメント等の各種のセメント類を挙げることができ、特に農地等に散布するために使用する場合にはクロム溶出の少ない高炉セメントB種等が好ましい。
【0015】
なお、フライアッシュセメントを造粒剤として使用する場合には、得られた造粒品は融雪剤として使用することもできるが、フライアッシュを含まないセメントを使用する場合にもフライアッシュを混合して造粒すれば、融雪剤として使用することもできる。
【0016】
この発明で使用することができるマグネシウム系固化剤としては純粋な酸化マグネシウムの他に、工業用酸化マグネシウム或いはマグネシウムを主成分とする固化剤を使用することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上要するに、この発明では高脱水ライムケーキにセメント類、マグネシウム系固化剤の1種又は2種以上を添加して造粒することにより含水率に拘わらず、所定強度の造粒品を得ることができるため、造粒後の強制乾燥、を必要とせず、したがって低コストの造粒品の製造が可能となり、また造粒品の乾燥保管から解放され、実用性の高い製造方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
高脱水ライムケーキに対して高炉セメントB種或いは酸化マグネシウムの2.5重量%〜5重量%を添加して混合攪拌型の大型造粒装置内で造粒を行い、圧潰強度0.1〜0.2Kgの造粒品を製造する。
【実施例】
【0019】
実施例1
一)造粒品の製造
(1)造粒装置としては、大量に発生する高脱水ライムケーキの造粒品生産に適する混合攪拌型の大型造粒装置であるペレガイア(北川製、VZ-100E 最大能力 60L)を使用した。これによれば原料を装置に投入後は解砕、混合混練から造粒整粒に至る一連の工程を行い、5〜6分程で造粒が完了する。
【0020】
(2)高脱水ライムケーキとしては、保管による通常の水分量である含水率25%〜31%のものを使用した。
【0021】
(3)セメントとしては、クロム溶出の懸念が少ないといわれる高炉セメントB種を使用した。
【0022】
次に、製造フローを図1に従って説明すると、先ず、高脱水ライムケーキを造粒装置に投入し、30秒間混合した後、試料を抜き出し含水率を測定した。次にセメントを投入し造粒装置を運転し、更に運転中に調整用の水を加え、造粒試料を得た。
【0023】
なお、調整用の水は先に測定した含水率から、得られる造粒試料の含水率がこれとほぼ同じとなる量を計算して加えた。
【0024】
また、投入されるセメント量を高脱水ライムケーキ当たり2.5重量%、3.5重量%、5重量%、7.5重量%、10重量%、15重量%のものと無添加のものの7種類を試作して造粒試料とした。
【0025】
これで得た造粒試料を半日〜約1日間静置し(自然乾燥)、表面の濡れの乾きが見られた造粒試料から実用化を考慮して8mmの篩上を除去し(篩分け)、造粒試料とした。
【0026】
(二)粒度分布
ペレガイアで得られた造粒試料の形状はやや歪な球形であり、粒度分布は正規分布であるが、その拡がり程度はブロードキャスター、ライムソアなどの散布機で撒く上で障害とならない。
【0027】
しかしながら、製品としての歩留まりを考慮する上では重要であり、そこで篩目を2mm,4mm,5.6mm,8mm,9.5mmの5種類で篩分けを行い、粒度分布を調べた。その結果を図2に示す。
【0028】
これによれば、ペレガイアの運転工程の一部の時間調整により、正規分布のピークは変化するが、時間調整によりコントロールすることは容易であった。
【0029】
篩8mm以下を除去して製品試料としたが、篩8mm以下の回収率は80%以上確保できることができる。
【0030】
また、8mm篩上を再度ペレガイアで造粒処理を行うことで、再度解砕され造粒が図れるため、更に回収率を高めることができる。
【0031】
(二)絶乾試料における圧潰強度試験
(1)試験方法
試料に添加したセメントの硬化時間を考え、造粒試料の測定6日経過後からとし、圧潰強度を測定した。圧潰強度の測定には、木屋式硬度計を用い、5mm±0.5mm,7.5mm±0.5mmの2種類の粒子を目視により選別し、10〜25個について測定した平均値を測定値とした。
【0032】
2種類の造粒試料を105℃で2時間恒温槽内に静置し、ほぼ絶乾状態とした試料の圧潰強度を測定した。その結果を図3に示す。
【0033】
これによれば、径7.5mm±0.5mmの造粒試料の場合、セメントの添加量が2.5重量%、3.5重量%、5重量%では圧潰強度に大差がなく、約0.4Kgの硬度で、無添加の造粒試料の約0.8Kgの硬度に較べてやや低いが、汎用の散布機を利用して農地へ散布するには最適な硬度である。
【0034】
なお、セメントの添加量が7.5重量%、10重量%、15重量%のものは添加量に比例して圧潰強度が強まり、15重量%では約3Kgの硬度をなった。
【0035】
(三)含水試料における圧潰強度試験
(1)試験方法
セメント添加量に関し上記7種類の造粒試料のうち径7.5mm±0.5mmのものを所定温度、所定湿度に設定された恒温恒湿器(アドバンテックAGX326)に所定時間置いて、含水率4〜6%の試料、含水率6〜10%の試料、含水率18〜20%の試料を得た。なお、含水率の測定は赤外線水分計(ketto600)を用いた。
【0036】
得られた含水の造粒試料について圧潰強度を測定し、その結果を図4、図5に示す。
【0037】
このうち図4によれば、無添加の試料では絶乾状態においては圧潰強度は約0.8Kgの最大値を示したが、含水率7%以上では、測定ができないほど硬度を失うことを確認した。
【0038】
これに対して、セメントの添加量が2.5重量%、3.5重量%、5重量%のものは、含水率7〜22%の範囲では含水率及びセメントの添加率に拘わらず、ほぼ一定の硬度(圧潰強度0.1〜0.2Kg)を有することが判明した。
【0039】
また、6%以下の含水率では、含水率が低いほうが、硬度が上昇し、絶乾時に最大値を示して0.4〜0.5Kgとなった。
【0040】
一方、図5によれば、セメントの添加量7.5%以上の含水試料では、含水率4〜11%付近に最大硬度を示し、絶乾では逆に硬度は低下した。添加量15%の試料では6Kgを越えた硬度となる。
【0041】
(2)まとめ
セメント無添加の造粒試料では含水率が7%以上となると、硬度が失われるほど低下して実用に供することができなかったが、セメント添加の造粒試料では含水率が多くなっても、適当な硬度を有する造粒試料が得られる。
【0042】
また、高脱水ライムケーキに対してセメント2.5〜5重量%を添加して造粒すると、含水率に関係なく、専用散布機を利用して農地への散布するに適する硬度(圧潰強度0.1〜0.2Kg)を有する造粒試料を得ることができる。
【0043】
実施例2
造粒装置としては実施例1と同様な装置を使用し、高脱水ライムケーキとしては保管による通常の水分量である含水率28%〜31%のものを使用し、固化剤としては工業用の酸化マグネシウムを使用した。
【0044】
次に製造フローを図1を参照しながら説明すると、先ず高脱水ライムケーキを造粒装置に投入し、30秒間混合した後、試料を抜き出し含水率を測定した。次に酸化マグネシウムを投入し造粒装置を運転し、更に運転中に調整用の水を加え、造粒試料を得た。
【0045】
投入された酸化マグネシウム量は高脱水ライムケーキ当たり2.5重量%、3.5重量%、5重量%、7.5重量%の4種類と無添加のもの5種類を試料として試作し、これで得られた試料を静置し、自然乾燥し、8mm以上を篩で除去したものを造粒試料とした。
【0046】
(1)絶乾試料における圧潰強度試験
7.5mm±0.5mmの粒子を目視により選別し、木屋式硬度計を用い、15〜25個について測定した平均値を測定値とした。
【0047】
2種類の造粒試料を105℃で2時間恒温槽内に静置し、ほぼ絶乾状態とした試料の圧潰強度を測定した。
(2)含水試料における圧潰強度試験
乾燥している試料に水分が20%程度となるよう水を加え、含水試料を作成した。これを所定温度所定湿度に設定された恒温恒湿器(アドバンテックAGX326)に所定時間置いて、含水率6〜20%の試料を得た。なお、含水率の測定は赤外線水分計(ketto600)を用いた。
【0048】
得られた含水の造粒試料について圧潰強度を測定した。絶乾試料の圧潰強度を含め、その結果を図6に示す。
【0049】
これによれば、無添加の試料では絶乾状態において圧潰強度は約0.8Kgの最大値を示したが、含水率7%以上では、測定ができないほど硬度を失う。
【0050】
これに対して、酸化マグネシウムの添加量2.5〜5重量%のものは、含水率20%以下の範囲では酸化マグネシウムの添加量に拘わらず、圧潰強度0.1Kg以上を有し、含水率が低下するほど、圧潰強度が上昇する傾向となった。
【0051】
これは含水率が高くなっても圧潰強度が失われないのは、実施例1の高炉セメントB種を添加した場合と同様な効果である。
【0052】
以上要するに、ライムケーキに酸化マグネシウムを適量として2.5〜5重量%(現物当たり)添加して混合造粒を行うことにより、造粒後の強制乾燥を必要とせず、安価な造粒品の製造が可能であり、また保管による吸湿の問題からも解放され、したがって肥料としても実用性の高い製造方法と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上要するに、この発明によれば含水率を低下させるための強制乾燥及び造粒品の乾燥保管を必要としない例えば安価な肥料用途に適した高脱水ライムケーキの造粒方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明による高脱水ライムケーキの造粒工程の一例を示すフローチャト
【図2】造粒工程時間の調整による造粒試料の粒度分布変化を示す図
【図3】絶乾時における圧潰強度とセメントの添加量の関係を示す図
【図4】セメント添加量0〜5重量%における圧潰強度と含水率の関係を示す図
【図5】セメント添加量5重量%〜15重量%における圧潰強度と含水率との関係を示す図
【図6】酸化マグネシウム添加量0〜7.5重量%における圧潰強度と含水率の関係を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高脱水ライムケーキの造粒剤としてセメント類、マグネシウム系固化剤の1種又は2種以上を使用することを特徴とする高脱水ライムケーキの造粒方法。
【請求項2】
高脱水ライムケーキにセメント類、酸化マグネシウム類の1種又は2種以上を2.5〜5重量%加えて造粒することを特徴とする高脱水ライムケーキの造粒方法。
【請求項3】
フライアッシュを混合する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
マグネシウム系固化剤が酸化マグネシウムである請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−263710(P2006−263710A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368178(P2005−368178)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000241968)北海道糖業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】