説明

高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン及びその製造法

【課題】 本発明の目的は、光学分野に適した高透明性樹脂原料として有用な、透明性が高く着色が少ない、かつ、重合活性に優れた高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 溶媒に溶解した際に特定のpHを有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが、透過率や溶融色などの透明性および樹脂にする際の重合性に優れており、かつ、これら特定のpHを有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンは、ヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することにより、溶媒に溶解した際に特定のpHを有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学分野に適した高透明樹脂原料として有用な高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどのフルオレン誘導体は、耐熱性、透明性に優れ、高屈折率を備えたポリマー(例えばエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等)を製造するための原料として有望である。特に情報、通信機器に使用される光学系機器の部品にはポリカーボネートなどの透明樹脂が使用されており、光学レンズ、フィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスクなどの素材原料として期待されている。
【0003】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンとエチレンカーボネートを脱炭酸触媒の存在下反応させる方法(特許文献1)が開示されており、また、フルオレノンとフェノキシエタノールを硫酸およびチオール類を触媒として反応させる方法(特許文献2)が開示されている。
【0004】
しかし、これらの方法ではいずれも9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの着色が大きく、光学用途の高透明樹脂原料などに使用するには繰り返し精製が必要となり、工業的に不利である。
【0005】
色相が良好で光学樹脂原料として使用可能な9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンとしてフルオレノンとフェノキシエタノールをヘテロポリ酸触媒の存在下反応させる方法(特許文献3)が開示されており、また、フルオレノンとフェノキシエタノールをイオン交換樹脂触媒の存在下反応させる方法(特許文献4)が開示されている。
【0006】
しかし、これらはいずれも、目的物の高速液体クロマトグラフィー分析による純度が高いこと、残留硫黄分や金属分が少ないことなど9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンに含まれる不純物に着目したものであり、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの物性(例えばpH等)と透明性、或いは樹脂にする際の重合性との関係や、これらの物性を有する化合物を得る為の方法について教えるものではない。
【0007】
一方、最近の光ディスクでは、記録レーザーの波長が低波長化されるため、使用波長における透明性の向上が必要であり、また、フラットパネルディスプレイ用光学フィルムにおいても高品質化のために透明性を向上させる必要があるなど、着色のない透明性の高い樹脂が求められており、その為には従来にもまして、透過率が高く着色が少ない高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが必要とされている。また、熱的、光学的に優れた材料を作るためには、高い分子量、狭い分子量分布および未反応モノマーやオリゴマー含有率が低い樹脂が求められており、重合活性に優れた高重合性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが必要とされている。前記特許文献が示した製造方法では高透明性および高重合性を両立させた樹脂原料を得るには不十分であった。
【0008】
【特許文献1】特開平9−255609号
【0009】
【特許文献2】特開平7−165657号
【0010】
【特許文献3】特開2007−197368号
【0011】
【特許文献4】特開2009−46416号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、光学分野に適した高透明性樹脂原料として有用な、透明性が高く着色が少ない、かつ、重合活性に優れた高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、溶媒に溶解した際に特定のpHを有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが、透過率や溶融色などの透明性および樹脂にする際の重合性に優れていること、また、ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを得る方法において、ヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することが可能なこと、更にはヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することにより、溶媒に溶解した際に特定のpHを有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを容易に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記(1)〜(6)を提供するものである。
(1)ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することを特徴とする9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法。
(2)ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して0.33当量以上0.96当量未満の水酸化アルカリ水溶液で中和することを特徴とする前記(1)項に記載の製造方法。
(3)ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して0.40当量以上0.90当量未満の水酸化アルカリ水溶液で中和する事を特徴とする前記(1)項に記載の製造方法。
(4)9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを95重量%以上含有し、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8であることを特徴とする9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
(5)溶融時の色相APHAが120以下であり、当該物質をジオキサンに溶解させた溶解液の400nmにおける透過率が99%以上であることを特徴とする前記(4)項に記載の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
(6)ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することで製造された、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8である9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶媒に溶解した際に特定のpHを有する高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン及びその製造方法を提供する。また、本発明により得られる、溶媒に溶解した際に特定のpHを有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンは透過率や溶融色などの透明性に優れており、光学分野に適した高透明樹脂用原料として優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をその実施の形態とともに記載する。
本発明の高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンは、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを95%以上含有し、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8であることを特徴とする。更には、溶融時の色相APHAが120以下であり、16.2重量%のジオキサン溶解液の400nmの透過率が99%以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明において、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのpHが6.2〜7.8であることが本発明の目的を達成する上で重要である。pHが7.8より高いと9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの色相が悪化し高透明性樹脂原料として好ましくない。pHが6.2より低いと9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン溶融時に白濁する等、透明性が悪化し高透明性樹脂原料として好ましくない。また、樹脂重合性能が低下する。より好ましくはpHが6.5〜7.5の範囲にあることが良い。
【0018】
更には、溶融時の色相APHAが120以下、好ましくは100以下であり、16.2重量%のジオキサン溶解液の400nmの透過率が99%以上である。9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの溶融時の色相APHAが120より大きい場合、樹脂にした際にも着色がみられ好ましくない。400nmの透過率が99%より低い場合、樹脂にした際にも透明性が低下し好ましくない。
【0019】
本発明において、高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法は、ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することにより実施される。通常これらの方法によって得られる高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンは、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8である。
【0020】
フルオレノンと2−フェノキシエタノールとの反応を実施する方法は、特に限定されるものではないが、通常、フルオレノンと2−フェノキシエタノールとヘテロポリ酸を反応装置に仕込み、空気中又は窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、トルエン、キシレンなどの不活性溶媒存在下又は非存在下で50〜300℃、好ましくは80〜250℃、更に好ましくは120〜180℃で加熱攪拌することにより行うことができる。脱水方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、脱水剤の添加による脱水、減圧による脱水、常圧又は減圧下、溶媒との共沸による脱水などが挙げられる。
【0021】
本発明において用いられるヘテロポリ酸とは、一般的には異なる2種以上の無機酸素酸が縮合して生成した化合物の総称であり、中心の酸素酸(ヘテロ酸)とその周りで縮合する別種の酸素酸(ポリ酸)の組み合わせにより種々のヘテロポリ酸が可能である。中心の酸素酸を形成する数の少ない元素をヘテロ元素といい、その周りで縮合する酸素酸を形成する元素をポリ元素という、ポリ元素は単一種類の元素であってもよいし、複数種類の元素であってもよい。
【0022】
ヘテロポリ酸を構成する酸素酸のヘテロ元素は特に限定されるものではないが、例えば、銅、ベリリウム、ホウ素、アルミニウム、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウム、トリウム、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、ウラン、セレン、テルル、マンガン、ヨウ素、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられる。好ましくはリンまたはケイ素である。また、ヘテロポリ酸を構成する酸素酸のポリ元素は特に限定されるものではないが、例えば、バナジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタルが挙げられる。好ましくはバナジウム、モリブデン、タングステンである。
【0023】
ヘテロポリ酸骨格を構成するヘテロポリ酸アニオンとしては種々の組成のものが挙げられるが、本発明においてはケギン構造を有するヘテロポリ酸が用いられる。ここでケギン構造とは、アニオン部分の構造式がXM1240で表されるヘテロポリ酸であり、Mに該当する原子に酸素原子が6配位した正八面体構造を有するMOが、辺を共有して3個集まってできたM13という単位を作り、更に頂点を共有して4個集まって、中心にヘテロ原子が配位した立体配置をとった構造をいう。ケギン構造を有するヘテロポリ酸として、具体的には、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンバナドモリブデン酸などが例示される。
【0024】
反応後、ヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和する。
【0025】
通常、酸触媒の機能を失活させるには、使用した酸に対して化学量論的に等量あるいはそれ以上の水酸化アルカリで中和を実施することが考えられる。例えばリンタングステン酸[H(PW12)]を構成するタングステン酸(ポリ酸)とリン酸(ヘテロ酸)を水酸化ナトリウムで中和すると、タングステン酸ナトリウム(NaWO)とリン酸ナトリウム(NaPO)となる。この化学式から明らかなように、通常、12モルのタングステン酸と1モルのリン酸を完全に中和するには27モルの水酸化ナトリウムが必要である。
【0026】
ところが、実際にリンタングステン酸を水酸化ナトリウム溶液で滴定した場合、図1に示すようにリンタングステン酸1モルに対し、9モル(0.33当量)の水酸化ナトリウムでpHが中性となる。即ち、化学量論的に不足量の水酸化アルカリで中和が可能であることが見出された。更には、化学量論的に不足量の水酸化アルカリで中和することにより、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8である高透明性9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが容易に得られることが見出された。
【0027】
化学量論的に不足量の水酸化アルカリで中和される理由は必ずしも明確ではないが、リンタングステン酸の中和の過程でタングストリン酸イオン([PW11397−)とタングステン酸イオン([WO2−)が形成され、これらの陰イオン[PW11397−、[WO2−にナトリウムイオンが結合することによって実質的に1モルのリンタングステン酸が9モルの水酸化ナトリウムで中和されると考えられる。
【0028】
本発明で使用する水酸化アルカリとしては特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。なかでもコスト面や該化合物の安定性の観点から水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。更に好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0029】
水酸化アルカリの使用量はヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量であれば特に限定されるものではないが、好ましくはヘテロポリ酸1モルに対して0.33当量以上0.96当量未満、更に好ましくは0.40当量以上0.90当量未満、特に0.50当量以上0.90当量未満である。
【0030】
へテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に等量より多い量の水酸化アルカリを用いた場合、得られる9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの溶融時の色相APHAや透過率が悪化する。
水酸化アルカリの使用量が少ない場合、触媒機能を完全に失活できず高純度の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが得られない場合がある。また、ポリカーボネート等の樹脂を製造する際に十分な重合活性が得られなかったり、樹脂に濁りが生じる場合がある。
ヘテロポリ酸触媒の中和を行わない場合、残存する触媒の影響で不純物が増加し高純度の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを得ることができない。また、ポリカーボネート等の樹脂を製造する際に十分な重合活性が得られない。
【0031】
本発明によれば、次いで、上記中和液から未反応の2−フェノキシエタノールを加熱濃縮により留去し、生成物層を水で洗浄する。
【0032】
未反応の2−フェノキシエタノールの加熱濃縮条件は特に限定されるものではないが、常圧下あるいは減圧下、好ましくは圧力0.1kPa〜4.7kPaの減圧下、80〜250℃、好ましくは100〜170℃、更に好ましくは100〜150℃の温度で濃縮する。濃縮温度が高いと分解反応により、収率および純度が低下する。また、未反応の2−フェノキシエタノールは全量留去することが好ましいが一部を残したまま次の操作を施すこともできる。
【0033】
濃縮後、濃縮残液に水と、水と分液可能な有機溶媒を加えて溶解した後、有機溶媒を含む生成物層と水層に分液し洗浄する。この際、排出水層のpHは通常、6.0〜8.0である。
【0034】
本発明に用いられる水は、特に限定されるものではないが、工業用水、水道水、脱イオン水、蒸留水などを使用することができる。特には9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン中の金属分含量が少なくなることから脱イオン水や蒸留水を用いることが好ましい。
【0035】
本発明に用いられる水と分液可能な有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジ−iso−プロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジフェニルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル類などが挙げられ、その中でもトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンが好ましい。その使用量は、特に限定されるものではないが、経済性の点から、通常、フルオレノンの重量に対して、0.1重量倍以上、好ましくは0.5〜100重量倍、更に好ましくは1〜20重量倍程度である。これらの有機溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上の混合物で使用してもよい。
【0036】
洗浄後、生成物層から9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを単離する方法は特に限定されるものではないが、脱水、晶析、洗浄、ろ過、乾燥等の慣用の方法で行うことができる。例えば、脱水操作を施した後に冷却晶析により9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を析出させる。
析出した結晶は濾過等により回収される。得られた結晶は晶析に用いた溶媒等を用いて洗浄されてもよいし、乾燥されてもよい。
【0037】
かくして得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンは、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8であり、高透明性樹脂原料として優れた高透明性の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンである。
【0038】
(実施例)
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例におけるpH、透過率および重合評価方法は下記の通りである。
【0039】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの物性測定法:
[pH測定]
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン3gをジオキサン30mlに溶解させた後、蒸留水20mlを加えよく振り混ぜた液をpH4.01とpH6.86とpH9.18の標準液(キシダ化学社製)で校正されたpH測定装置(HORIBA製D−13、電極:HORIBA製6378型)を用い、JIS K3362−1998に準拠してpHを測定した。
[溶融色相測定]
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン15gを比色管に入れ、230℃で2時間加熱融解した後の溶融色相をAPHA標準液と比較した。
[透過率測定]
10mlのメスフラスコに9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを1.67g秤りとり、1,4−ジオキサンで定容としたものを試料液とし、紫外可視分光光度計(島津製作所社製UV−2450)を使って、光路長10mmの角型セルに上記試料液を入れ、室温で400〜700nmの波長範囲内での光透過率を測定した。 上記波長での透過率は高いほど、透明性は良好である。
[重合試験]
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン80.0g、ジフェニルカーボネート39.8g、および炭酸セシウム9.0×10−3gを攪拌機、蒸留塔および減圧装置を備えた反応容器に入れ、窒素雰囲気下溶解した後に、生成したフェノールを留去しながら230℃/1torrまで段階的に減圧、昇温してエステル交換反応を行った。得られたポリカーボネート樹脂をGPC(TOSOH社製HLC−8220)を用い、THFを展開溶媒としてポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)を測定した。
【実施例1】
【0040】
攪拌機、窒素吹込管、温度計および還流冷却器を付けたガラス製反応器に、フルオレノン50.0g(0.28mol)、リンタングステン酸1.2g(3.51×10−4mol)、フェノキシエタノール383.0g(2.77mol)を加え、2.0kPaの減圧下、温度130℃まで徐々に昇温した。その後2.0〜3.0kPaの減圧下、温度130〜135℃で生成する水を反応系外に除きながら5時間攪拌して反応をおこなった。
得られた反応混合液を80℃まで冷却し、29%水酸化ナトリウム水溶液1.2g(8.42×10−3mol、リンタングステン酸に対して0.89当量)を加えて1時間攪拌した後、温度150℃まで徐々に昇温しながら減圧濃縮を行ない、フェノキシエタノールを留去した。
得られた濃縮液を冷却し、トルエン350g、イオン交換水50gを加え80℃で30分攪拌して目的物を有機層に分配した。この溶液を30分静置した後、水層を分液除去し有機層を回収した。更に、得られた有機層をイオン交換水50gで2回洗浄した。
得られた有機層を110℃まで昇温し1時間攪拌した、この間系外に留出した水は油水分離器により分離除去した。次に、得られた有機相が均一溶液であることを確認した後に65℃まで冷却した。この溶液に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を種晶として0.2g添加し、65℃で2時間保温して結晶の析出を確認した。次いで、25℃まで冷却し、析出した結晶を濾別した。
この結晶を減圧乾燥し、溶媒を除去して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶97.5gを得た。原料フルオレノンに対する製品収率は80.1%であり、LC純度は98.8%であった。
得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのpHは
7.0であり、溶融色相はAPHA80、透過率は99.5%であった。また、重合試験の結果、得られた樹脂の分子量Mwは38000であった。
【実施例2】
【0041】
攪拌機、窒素吹込管、温度計および還流冷却器を付けたガラス製反応器に、フルオレノン50.0g(0.28mol)、リンタングステン酸1.2g(3.51×10−4mol)、フェノキシエタノール383.0g(2.77mol)を加え、2.0kPaの減圧下、温度130℃まで徐々に昇温した。その後2.0〜3.0kPaの減圧下、温度130〜135℃で生成する水を反応系外に除きながら5時間攪拌して反応をおこなった。
得られた反応混合液を80℃まで冷却し、29%水酸化ナトリウム水溶液0.75g(5.27×10−3mol、リンタングステン酸に対して0.56当量)を加えて1時間攪拌した後、温度150℃まで徐々に昇温しながら減圧濃縮を行ない、フェノキシエタノールを留去した。
得られた濃縮液を冷却し、トルエン350g、イオン交換水50gを加え80℃で30分攪拌して目的物を有機層に分配した。この溶液を30分静置した後、水層を分液除去し有機層を回収した。更に、得られた有機層をイオン交換水50gで2回洗浄した。
得られた有機層を110℃まで昇温し1時間攪拌した、この間系外に留出した水は油水分離器により分離除去した。次に、得られた有機相が均一溶液であることを確認した後に65℃まで冷却した。この溶液に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を種晶として0.2g添加し、65℃で2時間保温して結晶の析出を確認した。次いで、25℃まで冷却し、析出した結晶を濾別した。
この結晶を減圧乾燥し、溶媒を除去して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶97.9gを得た。原料フルオレノンに対する製品収率は80.5%であり、LC純度は98.3%であった。
得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのpHは
6.5であり、溶融色相はAPHA60、透過率は99.5%であった。また、重合試験の結果、得られた樹脂の分子量Mwは34000であった。
【実施例3】
【0042】
攪拌機、窒素吹込管、温度計および還流冷却器を付けたガラス製反応器に、フルオレノン80.0g(0.44mol)、ケイタングステン酸1.8g(5.44×10−4mol)、フェノキシエタノール610.0g(4.42mol)を加え、2.0kPaの減圧下、温度130℃まで徐々に昇温した。その後2.0〜3.0kPaの減圧下、温度130〜135℃で生成する水を反応系外に除きながら5時間攪拌して反応をおこなった。
得られた反応混合液を80℃まで冷却し、40%水酸化カリウム水溶液 1.7g(1.19×10−2mol、ケイタングステン酸に対して0.84当量)を加えて1時間攪拌した後、温度150℃まで徐々に昇温しながら減圧濃縮を行ない、フェノキシエタノールを留去した。
得られた濃縮液を冷却し、トルエン560g、イオン交換水80gを加え80℃で30分攪拌して目的物を有機層に分配した。この溶液を30分静置した後、水層を分液除去し有機層を回収した。更に、得られた有機層をイオン交換水80gで2回洗浄した。
得られた有機層を110℃まで昇温し1時間攪拌した、この間系外に留出した水は油水分離器により分離除去した。次に、得られた有機相が均一溶液であることを確認した後に65℃まで冷却した。この溶液に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を種晶として0.3g添加し、65℃で2時間保温して結晶の析出を確認した。次いで、25℃まで冷却し、析出した結晶を濾別した。
この結晶を減圧乾燥し、溶媒を除去して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶155.4gを得た。原料フルオレノンに対する製品収率は79.8%であり、LC純度は98.5%であった。
得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのpHは
7.1であり、溶融色相はAPHA60、透過率は99.5%であった。また、重合試験の結果、得られた樹脂の分子量Mwは38000であった
【0043】
(比較例1)
攪拌機、窒素吹込管、温度計および還流冷却器を付けたガラス製反応器に、フルオレノン50.0g(0.28mol)、リンタングステン酸1.2g(3.51×10−4mol)、フェノキシエタノール383.0g(2.77mol)を加え、2.0kPaの減圧下、温度130℃まで徐々に昇温した。その後2.0〜3.0kPaの減圧下、温度130〜135℃で生成する水を反応系外に除きながら5時間攪拌して反応をおこなった。
得られた反応混合液を80℃まで冷却し、29%水酸化ナトリウム水溶液1.7g(1.23×10−2mol、リンタングステン酸に対して1.30当量)を加えて1時間攪拌した後、温度150℃まで徐々に昇温しながら減圧濃縮を行ない、フェノキシエタノールを留去した。
得られた濃縮液を冷却し、トルエン350g、イオン交換水50gを加え80℃で30分攪拌して目的物を有機層に分配した。この溶液を30分静置した後、水層を分液除去し有機層を回収した。更に、得られた有機層をイオン交換水50gで2回洗浄した。
得られた有機層を110℃まで昇温し1時間攪拌した、この間系外に留出した水は油水分離器により分離除去した。次に、得られた有機相が均一溶液であることを確認した後に65℃まで冷却した。この溶液に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を種晶として0.2g添加し、65℃で2時間保温して結晶の析出を確認した。次いで、25℃まで冷却し、析出した結晶を濾別した。
この結晶を減圧乾燥し、溶媒を除去して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶96.5gを得た。原料フルオレノンに対する製品収率は79.3%であり、LC純度は98.1%であった。
得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのpHは
7.9であり、溶融色相はAPHA250、透過率は97.1%であった。
【0044】
(比較例2)
攪拌機、窒素吹込管、温度計および還流冷却器を付けたガラス製反応器に、フルオレノン50.0g(0.28mol)、リンタングステン酸1.2g(3.51×10−4mol)、フェノキシエタノール383.0g(2.77mol)を加え、2.0kPaの減圧下、温度130℃まで徐々に昇温した。その後2.0〜3.0kPaの減圧下、温度130〜135℃で生成する水を反応系外に除きながら5時間攪拌して反応をおこなった。
得られた反応混合液を80℃まで冷却し、29%水酸化ナトリウム水溶液0.2g(1.31×10−3mol、リンタングステン酸に対して0.14当量)を加えて1時間攪拌した後、温度150℃まで徐々に昇温しながら減圧濃縮を行ない、フェノキシエタノールを留去した。
得られた濃縮液を冷却し、トルエン350g、イオン交換水50gを加え80℃で30分攪拌して目的物を有機層に分配した。この溶液を30分静置した後、水層を分液除去し有機層を回収した。更に、得られた有機層をイオン交換水50gで2回洗浄した。
得られた有機層を110℃まで昇温し1時間攪拌した、この間系外に留出した水は油水分離器により分離除去した。次に、得られた有機相が均一溶液であることを確認した後に65℃まで冷却した。この溶液に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を種晶として0.2g添加し、65℃で2時間保温して結晶の析出を確認した。次いで、25℃まで冷却し、析出した結晶を濾別した。
この結晶を減圧乾燥し、溶媒を除去して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶97.3gを得た。原料フルオレノンに対する製品収率は80.0%であり、LC純度は98.0%であった。
得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのpHは
5.0であり、溶融色相はAPHA90、透過率は99.0%であった。また、重合試験の結果、重合反応が殆ど進行せず、ポリカーボネート樹脂を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することを特徴とする9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項2】
ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して0.33当量以上0.96当量未満の水酸化アルカリ水溶液で中和することを特徴とする請求項1記載の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項3】
ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して0.40当量以上0.90当量未満の水酸化アルカリ水溶液で中和する事を特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを95重量%以上含有し、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8であることを特徴とする9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
【請求項5】
溶融時の色相APHAが120以下であり、当該物質をジオキサンに溶解させた溶解液の400nmにおける透過率が99%以上であることを特徴とする請求項4記載の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
【請求項6】
ヘテロポリ酸触媒の存在下、フルオレノンと、2−フェノキシエタノールを反応し、反応後にヘテロポリ酸を構成するヘテロ酸およびポリ酸に対して化学量論的に不足量の水酸化アルカリ水溶液で中和することで製造された、質量基準で17倍の蒸留水/ジオキサン(=2/3容量比)溶媒に溶かした溶液の25℃におけるpHが6.2〜7.8である9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。

【公開番号】特開2011−241179(P2011−241179A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114922(P2010−114922)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】