説明

高速向流クロマトグラフィーによるターメリックパウダー(ウコン粉末)からのクルクミン類の分離精製法

【課題】高純度なクルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)を簡便に取得する方法を提供する。
【解決手段】「ヘキサン/クロロホルム/メタノール/水(5/10/7.5/2.5、V/V)」からなる2相溶媒を用いた高速向流クロマトグラフィーを行って、ウコン粉末を原料として、クルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)を単離精製する:

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウコン粉末からの3種のクルクミン類(curcumin、demethoxycurcumin、bisdemethoxycurcumin)を高純度で分離精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウコンは、天然食品添加物や香辛料として昔より汎用されている食品素材である。その一方で、近年、抗酸化作用、抗炎症作用、および抗がん作用が報告され、機能性天然物質としても注目されてきている(非特許文献1〜3参照)。ウコン(Turmeric, Curcuma longaL.)の黄色主成分は,3種類のクルクミン類、すなわちクルクミン(curcumin、M.W.368)、デメトキシクルクミン(demethoxycurcumin、M.W.: 338)、およびビスデメトキシクルクミン(bisdemethoxycurcumin、M.W.: 308)から構成されており(図1参照)、その生理活性もクルクミンを中心に研究が実施されている。
【0003】
クルクミンは、一般試薬メーカーから標準品として市販されているが、その殆どが純度85%以下であり、多くの不純物を含んでいる。一方、デメトキシクルクミンおよびビスデメトキシクルクミンの標準品は販売されておらず、その入手は一般的に困難である。このため、クルクミンの生理活性評価や動物実験は、ターメリック粉末やクルクミン標準品などの混合物で実施されているのが現状である。また、食品分析評価も、同様にこれらの混合物を用いて行われている。
【0004】
クルクミン類は、近年の細胞系実験や動物試験において、アミロイドβペプチド凝集抑制や免疫細胞作用からアルツハイマー認知症に有用であると報告されている(非特許文献4〜6参照)。しかし、その活性本体は代謝物である可能性もあり、今後更なる検討が必要となってくる(非特許文献7参照)。その一方で、クルクミン類の種類によって代謝活性体や抗酸化活性作用が異なることから、各クルクミン類によって生理活性の発現が異なる可能性が示唆されている(非特許文献8〜10参照)。
【0005】
また近年、ビスデメトキシクルクミンがToll-like受容体などに作用し、アルツハイマー患者の自然免疫を改善するという報告がなされた(非特許文献11参照)。また、各種クルクミン類のがん細胞におけるアポトーシス誘導や増殖抑制作用を、液体クロマトグラフィー(HPLC)を併用した評価系により、クルクミン類の種類による活性の違いを検討した研究も発表されている(非特許文献12参照)。
【0006】
これらのことから、標準物質となり得る高純度な各種クルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、およびビスデメトキシクルクミン)の確保が、早急に求められている。
【0007】
しかし、これらのクルクミン類は構造が相互に類似しているため、従来のクロマトグラフィーでは分離精製は困難である。また、光や温度に対して比較的不安定な物質であるので、短時間で多量に分離精製する必要がある。最近では、酵素などを利用して各クルクミン類を生化学的に合成する手法が提案されているものの(非特許文献13参照)、かかる生化学的な合成法では、大量製造が困難であり、簡便かつ迅速に「ミリグラム」単位で高純度なクルクミン類を取得するための方法の開発が求められている。
【非特許文献1】Miriyala S, Panchatcharam M, Rengarajulu P. Cardioprotectiveeffects of curcumin. Adv Exp Med Biol. 2007; 595: 359-377.
【非特許文献2】Maheshwari RK, Singh AK, GaddipatiJ, Srimal RC. Multiple biological activities of curcumin: a short review. Life Sci. 2006; 78: 2081-2087.
【非特許文献3】Chainani-Wu N. Safety and anti-inflammatory activity of curcumin: a component of tumeric (Curcuma longa). J Altern Complement Med. 2003; 9: 161-168.
【非特許文献4】Smith DG, Cappai R, Barnham KJ. The redox chemistry of the Alzheimer's disease amyloid beta peptide. Biochim Biophys Acta. 2007; 1768: 1976-1990.
【非特許文献5】Frank B, Gupta S. A review of antioxidants and Alzheimer's disease. Ann Clin Psychiatry. 2005; 17: 269-286.
【非特許文献6】Ringman JM, Frautschy SA, Cole GM, Masterman DL, Cummings JL. A potential role of the curry spice curcumin in Alzheimer's disease. CurrAlzheimer Res. 2005; 2: 131-136.
【非特許文献7】Pfeiffer E, Hoehle SI, Walch SG, Riess A, Solyom AM, Metzler M. Curcuminoids form reactive glucuronides in vitro. J Agric Food Chem. 2007; 55: 538-544.
【非特許文献8】Pozharitskaya ON, Ivanova SA, Shikov AN, Makarov VG. Separation and free radical-scavenging activity of major curcuminoids of Curcuma longa using HPTLC-DPPH method. PhytochemAnal. 2007 Oct 10 [Epub ahead of print]
【非特許文献9】Zeng Y, Qiu F, Liu Y, QuG, Yao X. Isolation and identification of phase 1 metabolites of demethoxycurcumin in rats. Drug Metab Dispos. 2007; 35: 1564-1573.
【非特許文献10】Sandur SK, Pandey MK, Sung B, Ahn KS, Murakami A, SethiG, Limtrakul P, Badmaev V, Aggarwal BB. Curcumin, demethoxycurcumin, bisdemethoxycurcumin, tetrahydrocurcumin and turmerones differentially regulate anti-inflammatory and anti-proliferative responses through a ROS-independent mechanism. Carcinogenesis. 2007; 28: 1765-1773.
【非特許文献11】Fiala M, Liu PT, Espinosa-Jeffrey A, Rosenthal MJ, Bernard G, Ringman JM, Sayre J, Zhang L, Zaghi J, Dejbakhsh S, Chiang B, Hui J, Mahanian M, Baghaee A, Hong P, Cashman J. Innate immunity and transcription of MGAT-III and Toll-like receptors in Alzheimer's disease patients are improved by bisdemethoxycurcumin. Proc NatlAcad Sci U S A. 2007; 104: 12849-1254.
【非特許文献12】Hsu YC, Weng HC, Lin S, Chien YW. Curcuminoids-cellular uptake by human primary colon cancer cells as quantitated by a sensitive HPLC assay and its relation with the inhibition of proliferation and apoptosis. J Agric Food Chem. 2007; 55: 8213-8222.
【非特許文献13】Katsuyama Y, Matsuzawa M, FunaN, Horinouchi S. In vitro synthesis of curcuminoids by type III polyketide synthasefrom oryza sativa. J BiolChem. 2007; 282: 37702-37709.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、標準物質となりえる程度に高純度なクルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)(図1)を調製する方法を提供することである。より詳細には、ウコン粉末を原料として、上記クルクミン類を高純度に分離精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねていたところ、高速向流クロマトグラフィーを用いることにより、ウコン粉末からクルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)を、純度98%以上もの高い純度で簡便に分離精製することができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に掲げるものである:
項1.ヘキサン:クロロホルム:メタノール:水=5:10:7.5:2.5(容量比)の2相溶媒系の上層を固定相、下層を移動相に用いて高速向流クロマトグラフィーを行うことを特徴とする、ウコン粉末からクルクミン、デメトキシクルクミンおよびビスデメトキシクルクミンを分離精製する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、ウコン粉末からクルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)を、純度98%以上もの高い純度で簡便に分離精製することができる。すなわち、本発明の方法は、高純度なクルクミン類を効率的に取得する方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の分離精製法は、ウコン粉末を原料として、これを特定の2相溶媒系を用いた高速向流クロマトグラフィーに供することによって実施することができる。
【0013】
ここで高速向流クロマトグラフィー(以下、「HSCCC」という)は、2相溶媒系を使用する液液分配クロマトグラフィーであり、自公転するコイル状カラムに働く遠心力とスクリュー効果により、固定相液体の保持と移動相液体との撹拌向流に基づく成分分離を同時に実現することが可能である。固体の充填剤を必要とせず、溶質は2相溶媒系に対する分配係数の差のみに基づいて分離するため、その溶出位置や溶出順序は溶質の疎水性または極性の強さを正確に反映したものになる。
【0014】
本発明において、HSCCCの2相溶媒系として、ヘキサン/クロロホルム/メタノール/水(5:10:7.5:2.5(容量比))の混合溶媒を用いることを特徴とする。当該2相溶媒は上層と下層に分別して使用される。すなわち、上層を固定相、下層を移動相としてHSCCCを行う。
【0015】
かかるHSCCCを用いたクルクミン類の分離精製法は、ウコン粉末を原料として上記2相溶媒系を使用してする以外は、Yoichiro Itoら(CRC Crit. Rev. Anal. Chem., 17,65 (1986)) などの方法や市販されているHSCCC装置(例えば、実施例に記載する島津製作所製の「HSCCC-1-A prototype model」など)を用いて、定法に従って行うことができる。
【0016】
制限されないが、一例を挙げると、下記の手順に従って分離精製を行うことができる。なお、詳細は実施例にて記載する。
(1)例えばJ型コイルプラネット遠心装置(J-CPC)に取り付けた多層コイル状カラム内に送液ポンプで固定相溶媒(2相溶媒の上層)を充填する。
(2)充填後、当該カラムを700〜780rpm程度で回転させると同時に、他方の層(2相溶媒の下層)を移動相として、流速0.5 〜2.0 mL/minでカラムに送液する。
(3)カラム内で2相溶媒が動的平衡状態に達した後に、ウコン粉末から調製した試料溶液を注入し、移動相で溶離する。
(4)溶出液の吸光度を405nmで検出し、ピーク画分を採集する。
【0017】
HSCCCに供する試料溶液は、原料として使用するウコン粉末を2相溶媒「ヘキサン/クロロホルム/メタノール/水(5:10:7.5:2.5(容量比))の混合溶媒」に溶解させ、次いで不溶物を遠心分離により除去することによって調製することができる。なお、ウコン粉末は、例えば三栄源エフ・エフ・アイ(株)などから商業的に入手することができる。
【0018】
上記2相溶媒系を用いたHSCCC法によれば、後述する実施例で示すように、ウコン粉末を原料として、クルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)を、液体クロマトグラフィーによる純度評価において、98%以上もの高純度で分離精製取得することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例等に限定されるものではない。
【0020】
実施例1 高速向流クロマトグラフ(HSCCC)装置を用いたクルクミン類の分離精製
(1-1)HPLCによる分離
3種のクルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、およびビスデメトキシクルクミン)は構造上非常に類似しているため(図1参照)、HPLCでの分離分析が困難である。しかし、HSCCCでの分配係数を算出する場合、HPLCでの分離分析法の確立が必須である。そこで、3種類のODSカラム((A)TSK-GEL ODS 80TS、(B)TSK-GEL ODS 100Z、(C)TSK-GEL ODS 100V)を用いて下記の条件で分離を検討した。
【0021】
<HPLC条件>
HPLC装置:島津製作所製LC-20AB pump,SPD-20AV detector,CTO-20AC column oven with injector およびC-R8A recorder
カラム:(A)TSK-GEL ODS 100V(4.6 x 150 mm, 5μm、東ソー(株)製)、
(B)TSK-GEL ODS 100Z(4.6 x 150 mm, 5μm、東ソー(株)製)、または
(C)TSK-GEL ODS 80TS(4.6 x 150 mm, 5μm、東ソー(株)製)
移動相:0.1% ギ酸水溶液/0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 (50/50, V/V)
流速:1.0 mL/min
カラム温度:40℃
注入量: 10μL
検出:可視吸収405nm。
【0022】
各カラムでクルクミン類を分離した結果(クロマトグラム)を図2に示す。
【0023】
図2からわかるように、カラム(A)TSK-GEL ODS-80Tsは、各ピークの分離度がいずれも1.5以上であり、最も良好な分離能を示した。そこで、以後の実験においてはこの条件を用いた。
【0024】
(1-2)HSCCCの最適分離条件の検討
HSCCCを用いた分離は、分配係数に基づく原理で行われる。つまり、下記(a)〜(c)の条件を満たす必要がある。その上、クルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)のいずれにも適用できる条件を探す必要がある。
(a)セトリングタイムが30秒以下であること。なお、セトリングタイムとは、2相溶媒をよく振とうして静置した後、2層に分離するまでの時間のことをいう。
(b)試料の分配係数が1に近く、分離係数(α = Km / Kn, Km > Kn)が1.5より大きいこと、
(c)2相溶媒の上下層の容量比ができるだけ1に近いこと。
【0025】
最適分離条件を探索するため、図3に示す各種の溶媒系について、ウコン粉末を用いて下記方法に従って分配係数を測定した。
【0026】
<分配係数の測定>
ウコン粉末10 mgを試験管に移し,図3に示す各種溶媒(1 mLずつ)を加え,混和および2相分離させた。その後、上相および下相を別の試験管に200μLずつ取り、濃縮乾固後、1 mLメタノールに再溶解し、これを試験溶液として(1-1)で決定した条件で、HPLC分析した。各相に分配したクルクミン類をHPLC分析におけるピーク面積を用いて,下記の式により分配係数(K)を求めた。
【0027】
【数1】

【0028】
各クルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)について得られた分配係数(K)を図3に合わせて示す。
【0029】
その結果、ヘキサン/クロロホルム/メタノール/水(5/10/7.5/2.5, V/V)の溶媒系が最も適しているとの結論に至り、これをHSCCCの2相溶媒系として利用することとした。
【0030】
(1-3)高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)
上記で決定した2相溶媒「ヘキサン/クロロホルム/メタノール/水(5/10/7.5/2.5、V/V)」を2Lの分液ロートに混和した後、一晩放置した。得られた下層溶媒をHSCCCの移動相として、上層溶媒を固定相として利用した。具体的には、HSCCCカラムに上記で得られた上層溶媒を送液し、充填固定相とした。
【0031】
分離試料として、ウコン粉末25mgを上記2相溶媒2 mLに溶解させ、遠心分離(2000 rpm、10分)した後、沈殿物を除去したものを使用した。
【0032】
<HSCCC条件>
HSCCC装置:島津社製HSCCC-1A prototype model
カラム:内径1.6 mm,長さ160mのテフロン(登録商標)チューブを、直径10cmのドラムに 6層に巻き付けたものを使用
カラム容量:270 mL
回転速度:最大800 rpm
公転半径:10 cm
回転様式:Jタイプ衛星運動
送液ポンプ:島津社製LC-6A。
【0033】
HSCCCのカラム回転数を750rpmに設定し、ヘッド (カラムの回転方向に対して逆向きの方向、すなわち,アルキメデスの力学的効果の向かう方向)より移動相(上記の下層溶媒)を2.0 mL/minの流速で送液した。HSCCCからの溶出液を、毎1分の間隔でバイオラット社製Model 2128 Fraction Collectorを用いて捕集した。
【0034】
分離終了後、カラム内容物を、窒素ガスを用いてメスシリンダー中に捕集し、上下層の容量を測定した。固定相保持率を算出したところ、75.7%で、分離時間は5時間であった。また分離に要した移動相の容量は720mLであった。
【0035】
HSCCCの各分画を、下記に示す条件のフローインジェクション(FIA)分析により測定した。
<FIA分析>
FIA装置:島津製作所製LC-20AD pump, SPD-20AV detector, SIL-20AC autosampler, C-R8A recorderシステム
FIA溶媒:0.1%ギ酸水溶液/0.1%ギ酸アセトニトリル混液(50/50, V/V)
流速:1.0 mL/min
検出波長:405nm。
【0036】
結果を図4に示す。図4に示すように、保持時間105分〜130分の間にピークA、保持時間145分〜175分の間にピークB、保持時間205分〜245分の間にピークCが現れ、それぞれ画分A,画分Bおよび画分Cとして回収した。
【0037】
なお各成分の分離度は、1.7および2.1であり、各種クルクミン(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン))はいずれも完全分離できることが確認された。すなわち、上記条件のHSCCCによると、ウコン粉末25mgを原料として、クルクミン類(クルクミン [1.1 mg]、デメトキシクルクミン [0.6 mg]、ビスデメトキシクルクミン [0.9 mg])を一括して分離精製することができる。
【0038】
(1-4)LC-MS/MSによる同定
上記方法により単離精製されたクルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)の純度および構造情報を確認するため,下記条件で、LC-MS/MS分析を行った。
【0039】
<LC条件>
LC装置:Waters社製Ailiance 2695システム
分離カラム:東ソー社製TSK-GEL ODS-80Ts (4.6 x 150 mm, 5μm)
カラム温度:40℃
移動相:移動相A:0.1% ギ酸水溶液、移動相B:0.1% ギ酸アセトニトリル
グラジエント:50% 移動相B(0-15分)―98% 移動相B(15.1-25分)―50% 移動相B(25.1-35分)
流速:1.0mL/min。
【0040】
試料注入は10μLとして、DAD検出(200-500 nm)後、スプリットバルブを用いてMS/MSへ流速0.2 mL/minで導入した。LCで分離した溶液をWaters 社製MicromassQuattro Premier triple quadrupole 質量分析計で測定した。イオン化には、エレクトロスプレー(ESI)のネガティブモードを利用した。
【0041】
<MS/MSの条件>
キャピラリー電圧:3.0 kV、extractor 4 V, RF lens 0 V, ソース温度110℃ディソルベション温度400℃とした。コーンガス流量およびディソルベションガス流量は、50 L/hr および 850 L/hrと設定した。また、コーンガスの窒素自動発生機は、イワキ社製N2 Supplier Model 24Sを用いた。また、コリジョンガスは、アルゴンを用い、0.35 mL/hr に設定した。
【0042】
その結果,DAD検出のクロマトグラム上では,各物質ともに純度98%以上となった。また、MS/MSのスキャン分析の結果、HSCCC画分の同定が達成できた。その際のLC-DAD-MS/MSのクロマトグラムを図5に示す。この結果から、上記で単離したHSCCCの各ピーク(図4)はいずれもクルクミン類であるクルクミン(画分A)、デメトキシクルクミン(画分B)、ビスデメトキシクルクミン(画分C)であることが各マススペクトルにより同定できた(図6)。
【0043】
以上のことから、HSCCC法の2相溶媒系(ヘキサン/クロロホルム/メタノール/水=5/10/7.5/2.5(容量比))を用いた本発明の単離精製法は、ウコン粉末から高純度のクルクミン主成分(curcumin, demethoxycurcumin, bisdemethoxycurcumin)を得ることができる唯一手法である。また、当該方法は簡便かつ低コストであるため、工業化への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】3種のクルクミン類(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)の化学構造式を示す。
【図2】ウコン粉末を、3種類のODSカラム(上からTSK-GEL ODS 100V、TSK-GEL ODS 100Z、およびTSK-GEL ODS 80Ts)を用いてHPLCにかけたクロマトグラムを示す。各クロマトグラムにおいてピーク1はビスデメトキシクルクミン、ピーク2はデメトキシクルクミン、およびピーク3はクルクミンに相当する。
【図3】HSCCCの最適分離条件を探索するために検討した溶媒系と、その分配係数を示す。
【図4】HSCCC にかけたクルクミン類の分離および溶出曲線を示す。
【図5】ウコン粉末とHSCCCによって精製したクルクミン類(画分A〜C)のLC-DAD-MS/MSクロマトグラムを示す。
【図6】HSCCCによって精製したクルクミン類(画分A〜C)のMSスペクトルおよびMS/MSスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサン:クロロホルム:メタノール:水=5:10:7.5:2.5(容量比)の2相溶媒系の上層を固定相、下層を移動相に用いて、高速向流クロマトグラフィーを行うことを特徴とする、ウコン粉末からクルクミン、デメトキシクルクミンおよびビスデメトキシクルクミンを分離精製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−236734(P2009−236734A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84182(P2008−84182)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(504207433)学校法人金城学院 (1)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)