説明

高速編み立て性に優れた弾性繊維およびその製造方法

【課題】高速で編立しても編地品位が良い弾性繊維とその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】弾性繊維の構成物とその割合を適正化し、ドラフト3.5倍、編成速度50m/minにおける給糸張力が0.2センチニュートン/デシテックス以下の弾性繊維。及び、有機ジイソシアネート、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール及び炭素数が4以上のアルキル基を有する一価のアルコールを混合、攪拌し、キャッピング比を1.55から1.68の範囲にし反応させ、1.9から2.35%の範囲のイソシアネート含有量を示すキャップされたグリコールを生じさせ、ついでエチレンジアミンの割合が85〜95%とした鎖伸長剤の混合物を有機溶媒の中で反応させた後モノアルコールアミンで末端停止をして得たポリウレタンウレアポリマーを乾式紡糸法にて繊維化する前記の高速編み立て性に優れた弾性繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伸縮特性に優れた緯段が発生し難い弾性繊維に関し、特に表面の摩擦特性を向上させ編立時の張力変動割合と張力の絶対値を低くすることで高速編立性に優れた弾性繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系弾性繊維とポリアミド系合成繊維とからなる伸縮性布帛は、主にファンデーション、ソックス、水着、スポーツウエア、レオタード等、多分野の衣料に伸縮機能素材として使用されている。
【0003】
中でも被覆弾性糸(例えばシングル又はダブルカバリングしたいわゆるカバリング糸、流体交絡による交絡加工糸)と非弾性糸とで構成された混用布帛、例えば交編パンティストッキングは、弾性糸に仮撚加工糸や原糸をカバリングした被覆弾性糸と非弾性糸とを交編したものであるが、染色するといわゆる緯段が発生し、その改善が要求されていた。
【0004】
経編地においても経筋等の欠点を減少させる為に、編立て及び検査工程において、厳しい生産管理が必要になり、歩留まりが大幅に低下していた。加えて、染色加工工程において経筋の目立ち易い色調や無地染めを避け、欠点の目立ちにくいプリント染色を行うことを余儀なくされていた。
【0005】
またナイロン6、ナイロン66繊維に代表されるポリアミド繊維との交編織物においても、ポリウレタン系弾性繊維が染まらないことにより、弾性繊維が伸縮性布帛の外側に露出する、いわゆる、目剥きによって布帛の外側にちらちらとポリアミド繊維とは異色の弾性繊維が顔をのぞかせたり、弾性繊維特有のぎらぎらとした光沢、いわゆる、ぎらつきという現象が起こり、著しく布帛の品位を落としているのが現状である。
【0006】
上記のような問題はポリウレタン弾性繊維は他の衣料用繊維に比べてヤング率が低く、非常に伸びやすいことが原因となっており、よって整経、編み立て等の加工工程におけるガイド等の摩擦抵抗は小さくしなければならない。また、糸同士の粘着性が大きいので粘着防止を有する油剤を付与しなければチーズ上で糸が互いに粘着して解舒性が悪くなり、後加工工程で糸切れが多発する欠点を有している。従って、糸の摩擦抵抗を低下させ(いわゆる平滑性を良くし)、更に解舒性を向上させることが重要であり、そのためにポリウレタン弾性繊維は他の合繊に比べるとかなり多くの油剤を紡糸工程で付着させるのが常である。
【0007】
特に近年、ポリウレタン弾性繊維は400〜1000m/分という大きな速度で使用されることから、高速走行時における摩擦抵抗を特に小さくすることが要望されている。ところが油剤付着率が高いと、糸が接触する編み機のガイドや編み針等に油剤やスカム(油剤成分によって抽出された糸中のオリゴマーや油剤中の固体または高粘度成分が固体またはペースト状になって分離したもの)が多量に付着するから、製品汚損や風綿吸着による目詰まり等を生じる欠点があり、たびたび掃除する必要が生じる。また、チーズやビームから油剤のしみ出しを起こして、器具、機械等を汚染する欠点も有している。
【0008】
従来、糸の粘着性と摩擦抵抗を小さくするため、平滑剤としてタルクを用いたり、鉱物油を主体として、これに種々の高級脂肪酸エステル、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、高級脂肪酸のエチレンオキシド付加物、金属石鹸、変成シリコーン等を配合した配合油剤をもちいることが試みられている(例えば、特許文献1、2)。しかし、これらの方法も充分な粘着防止効果が得られなかったり、平滑剤が紡糸機、整経機、編み機等に重大な磨耗を生じさせたり、整経、編み立ての工程のスカムを発生し、糸切れ、製品品位低下等を惹起するなどの欠点を有している。この方法では膠着防止効果が不十分であったり、あるいは高級脂肪酸のマグネシウム塩の凝集は抑制されるが、弾性糸同志の摩擦が低下しすぎて、巻糸体の形状が不良となったり、巻糸体から解舒する際に巻糸体の形状が崩れて糸切れが発生するという問題がある。また、この方法は、弾性糸表面にアミノ基が多数存在すると糸の黄変の原因となったり、これを身につけると皮膚障害を起こす。これを改善するため、アミノ変性シリコーンの量を減少させると高級脂肪酸のマグネシウム塩の凝集による糸切れ等が多発する。
【特許文献1】特公昭63−8233号公報
【特許文献2】特開平10−259577号公報
【0009】
また、縫製糸を構成する合成繊維糸条の単繊維表面に微細な凹凸を形成させることにより、糸と糸、或いは単繊維と単繊維が接触した時の摩擦抵抗を小さくしタオル目の発生のない、高品位の縫製品が得られることが開示されている(例えば、特許文献3参照)。これは、表面がフラットな鏡面ガラスと鏡面ガラスを接触させた時にはピタリとくっついて移動させにくい(摩擦抵抗が大きい)のに比べ、表面に微細な凹凸を有するスリガラスとスリガラスを接触させた時には楽々と移動出来る(摩擦抵抗が小さい)のと同じ現象を利用したものとされている。
【特許文献3】特開平6−170070号公報
【0010】
ただ、編立速度を上げていくと編成時の絶対張力も上がってしまうため、繊維表面に凹凸を形成させることだけでは高速編立時の張力変動を完全に吸収できず、品位が安定しないといった問題がある。
【0011】
一方、弾性繊維の高速紡糸性とセット性に着眼し、イソシアネートのキャッピング比及び鎖延長剤であるエチレンジアミンと1,2−ジアミノプロパンの比を特定の割合に調整し、連続重合法で巻取速度が550m/min以上の高速紡糸する方法が開示されている(特許文献4参照)。しかしこの発明で得られる弾性繊維は紡糸された後の高速編立性には配慮されておらず、キャッピング比やイソシアネート含有量がやや高めであることからハードセグメントの割合が大きく、高速編立時の張力が高くなる。しかも高速紡糸で得られた弾性繊維は巻取時の張力が高いため、繊維のモジュラスは高くなるので、編立時の張力は一層高くなってしまうといった課題がある。
【特許文献4】特表平8−508552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記のような課題を解決するものであって、弾性繊維の構成物とその割合を適正化し、繊維表面の摩擦特性を向上させ編立時の張力変動割合と張力の絶対値を低くすることで高速編立性に優れた弾性繊維およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.ドラフト3.5倍、編成速度50m/minにおける給糸張力が0.2センチニュートン/デシテックス以下であることを特徴とする高速編み立て性に優れた弾性繊維。
2.100m/minにおける摩擦張力変動割合が40%以下であることを特徴とする上記第1に記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
3.分子末端にヒドロキシル基を5〜50モル%及び/又は炭素数が4以上のアルキル基を分子末端に30〜70モル%有するポリウレタンウレアポリマーであることを特徴とする上記第1又は第2に記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
4.ハイドロタルサイト類化合物を0.3〜5重量%含有することを特徴とする上記第1〜第3のいずれかに記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
5.有機微粒子を含有することを特徴とする上記第1〜第4のいずれかに記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
6.有機ジイソシアネート、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール及び炭素数が4以上のアルキル基を有する一価のアルコールを混合、攪拌し、キャッピング比を1.55から1.68の範囲にし反応させ、1.9から2.35%の範囲のイソシアネート含有量を示すキャップされたグリコールを生じさせ、ついでエチレンジアミンの割合が85〜95%とした鎖伸長剤の混合物を有機溶媒の中で反応させた後モノアルコールアミンで末端停止をして得たポリウレタンウレアポリマーを乾式紡糸法にて繊維化することを特徴とする上記第1〜第5のいずれかに記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維の製造方法。
7.紡糸巻き上げ速度を900m/min以下にすることを特徴とする上記第6に記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高速編立時でも緯段が発生し難い弾性繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の弾性繊維はドラフト3.5倍、編成速度50m/minにおける給糸張力が0.2センチニュートン/デシテックス以下であることが好ましい。ドラフト3.5倍で、編成速度50m/minとは高速で丸編地等を編成するときの条件に近く、この時の張力と編地品位の相関が大きいことがわかった。給糸張力が0.2センチニュートン/デシテックスを越えると編物の横段が発生しやすく、ときに糸切れによりニッティングできない場合がある。これは0.2センチニュートン/デシテックスを越えるとわずかなテンションの変化でもそれに対応する弾性繊維の編成張力の変化割合が大きく製品品位に影響しやすい。換言すればテンションの絶対値が低い方が多少のテンション変動があっても、それに対応する弾性繊維の編成張力の変化割合が小さく製品品位にはあまり影響しない。より好ましくは0.18センチニュートン/デシテックス以下であり、さらには0.16センチニュートン/デシテックス以下が一層好ましい。
【0016】
本発明の弾性繊維は100m/minにおける摩擦張力変動割合が40%以下であることが好ましい。40%を越えると糸長手方向の摩擦変動幅が大きすぎ、品位が安定しにくくなる。摩擦の変動幅はずばり製品品位に影響し、できるかぎり変動幅が小さい方が製品品位が良くなり、編段やストリークが低減される。この理由としては本発明の弾性繊維の繊維表面には全体的にランダムに凹部および/または凸部を有するために糸条走行時には摩擦力の変動が少なくなるためであると考えている。より好ましくは35%以下であり、さらには30%以下が一層好ましい。
【0017】
本発明の弾性繊維は分子末端にヒドロキシル基を5〜50モル%及び/又は炭素数が4以上のアルキル基を分子末端に30〜70モル%有するポリウレタンウレアポリマーであることが好ましい。本発明ではハイドロタルサイトや有機微粒子を含有させることでも繊維の表面摩擦特性を向上させることができるが、ポリマーの末端成分として、ヒドロキシル基や特定のアルキル基を特定の割合で存在させることでも繊維表面の摩擦特性を向上させることに成功した。ヒドロキシル基や特定のアルキル基の存在が繊維表面に与える影響にどのような関係があるかについては定かでないが、それぞれ親水性や親油性が繊維油剤へ何らかの影響を与えているのではないかと推定される。ヒドロキシル基のより好ましい範囲は10〜40モル%であり、炭素数が4以上のアルキル基のより好ましい範囲は40〜60モル%である。
【0018】
本発明の弾性繊維はハイドロタルサイト類化合物を含むことが好ましく、その含有量は、ポリウレタンに対して0.3〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。0.3重量%未満の添加量では繊維表面の摩擦特性を向上させる効果が不十分であり、また5重量%を越える添加は繊維の物理的性質に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0019】
また、該ハイドロタルサイト類化合物は平均粒径が2μm以下であり、かつ粒径2μm以上の粒子が10重量%以下であることが望ましい。平均粒径が2μmを越えると紡糸時のノズル背圧が高くなりやすく、また、糸切れも発生しやすくなるので好ましくない。また粒径2μm以上の粒子が10重量%を越えると紡糸工程におけるフィルター詰まり、糸切れが頻発し、長期の安定紡糸が不可能となる。
【0020】
ハイドロタルサイト類化合物として、表面処理剤として水ガラスを用いるのが好ましい。水ガラスは、ケイ砂(SiO2)とソーダ灰(Na2CO3)をNa2CO3/SiO2=1.6〜3.8程度に混合し、加熱溶融したものの濃厚水溶液で、耐熱性接着剤や粘土泥漿の解膠剤などとして一般的に利用されている。ハイドロタルサイト類化合物を表面処理しているものは、本発明のポリウレタンに使用した場合、後加工工程においてその一部が脱落しやすく、繊維表面に凹部を形成しやすい。
【0021】
本発明の弾性繊維は繊維表面に凹部および/または凸部を有することが好ましい。弾性繊維の繊維表面に形成された凹部および/または凸部が動摩擦に影響し、それが布帛の品位の向上に大きく寄与することを本発明者らは発見した。弾性繊維の繊維表面に凹部および/または凸部を形成することで、テンション変動の原因の一つであった編成時におけるガイドや編み針とのスティックスリップ現象が一層解消し、編地の品位が著しく向上するのである。凹部および/または凸部を有さない弾性繊維はガイドや編み針との接触面積が大きいため摩擦力が大きく働き、時に糸長手方向の摩擦変動から編段やストリークといった品位欠点が発生しやすかった。
【0022】
また、その繊維表面の凹部および/または凸部は繊維長手方向に連続したものでない方が好ましい。繊維長手方向に連続したものはガイド等との接触面積が小さくなり、摩擦力低減には効果はあるが、連続しているよりも非連続な凹部および/または凸部であるほうが相手糸との摩擦が低減し、編成時のテンション歪みを分散し、均一化しているのではないかと推定している。繊維表面の凹部および/または凸部は繊維長手方向に連続したものとしては、特開平11−279897号公報に記載のもののような歯形断面が例としてあげられる。
【0023】
さらに繊維表面の凸部の最大高さが1μm以上であることが好ましい。凸部の最適な高さは繊維表面の曲率にも影響するとは予想されるが、通常の衣料に用いる弾性繊維であれば上記範囲の高さで製品品位の向上が図れる。1μm未満であると凹部および/または凸部の個数次第では繊維表面の摩擦が低くならず製品品位が悪くなりやすい。より好ましくは2μm以上であり、さらには3μm以上が一層好ましい。
【0024】
本発明の弾性繊維は油剤付着量が8重量%以下で有ることが好ましい。8重量%を越える場合、例えば繊維表面摩擦を低下させるためにシリコン系のオイルを8重量%を越えて付着させた場合、ガイド等に油剤カスがたまり、そのままにしておくとテンションがだんだん高くなり、あるところで油剤カスが落ちたり糸に引っ付いて布帛に付着することで品位が低下したり、それを防止するために頻繁に清掃することで操業性が低下しやすいといった問題があった。本発明の弾性繊維は繊維表面に凹部および/または凸部を設けることで繊維表面摩擦を低下させることができ、その分油剤付着量を低減できるのも大きな特徴の一つであり、そうすることで、品位や操業性が向上する。
【0025】
本発明の弾性繊維は単糸断面の異形度が1.2以上であることが好ましい。異形断面であることで肌との接触面積が低減しサラサラ感が向上するが、1.2未満であると繊維表面の凹部及び/または凸部の数が少ない場合、サラサラ感が確認しづらくなることがある。異形度は単糸断面の外接円の半壊を内接円の半径で除した比で表され、より好ましくは1.5以上であり、さらには2以上が一層好ましい。
【0026】
本発明の弾性繊維は有機微粒子を含有することが好ましい。有機微粒子はポリウレタンとの相性が良く、後加工工程においても脱落しにくく、繊維に凸部を形成する。凸部を形成する微粒子については、理由は定かではないが、特に無機微粒子と有機微粒子の両方を組み合わせる方が編地の品位が良い。推測ではあるが、無機微粒子と有機微粒子が相互作用を働かせることで分散が良くなっているのではないかと思われる。無機微粒子と有機微粒子の好ましい重量比は1:10〜10:1である。
【0027】
有機微粒子の弾性繊維に対する含有量は1重量%以上であることが好ましい。更に好ましくは3重量%以上である。1重量%より小さいと、繊維表面に凹部及び/または凸部を形成しにくく、また吸湿性が乏しくなり好ましくない。但し、あまりにも含有量が大きくなり過ぎると紡糸段階での曳糸性が低下し、断糸が多くなるので、40重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは20重量%以下である。
【0028】
本発明で好ましく用いられる有機微粒子はその20℃65%RHにおける水分率の大きさから、非生体系ポリマーの有機微粒子であることが好ましく、特に好ましい化学組成は後述するが、20℃×65%RHでの有機微粒子の水分率は30%以上であることが好ましい。更に好ましくは35%以上、最も好ましくは40%以上である。従来、吸湿性があるとされる微粒子の中で、最も吸湿性が高いと考えられるものはウールパウダーやケラチンのパウダーであるが、20℃×65%RHでの水分率は高々15%である。そのほか、デンプンやセルロース、シルク、コラーゲンなどの多糖類系微粒子や蛋白質系微粒子は前記のウールパウダーやケラチンパウダーより小さい8〜12%程度である。その他尿素樹脂系やメラミン樹脂系のパウダーもあるが、20℃×65%RHでの水分率は30%に遠く及ばないと考えられ、好ましくない。
【0029】
本発明の弾性繊維は膨潤性を有する有機微粒子を含有することが好ましい。乾式紡糸は繊維となる成分を溶解した溶液をノズルから吐出したのちに熱風で乾燥させるが、その時にあらかじめ溶媒あるいはその他の液体で有機微粒子を膨潤させその溶液に混合して吐出、乾燥することで、脱溶媒された繊維の表面に凹部及び/または凸部を形成しやすくなることが分かった。無機微粒子のような膨潤性のないものを添加した場合では繊維の表面にできる凹凸はあまり顕著でなく、従来で有ればポリエステルの場合では減量加工をしてはじめて凹凸が顕著に現れる。しかし本発明の場合は熱風による乾燥で繊維内の溶媒が除去され、一方、それとはおそらく同時ではないタイミングで有機微粒子内の溶媒あるいは液体が除去されることで顕著な凹凸を形成しているものと推測している。
【0030】
上記のような製法を採用する場合、一般的なウレタン弾性繊維の製造時に溶媒として採用されているジメチルアセトアミドに対して上記有機微粒子は不溶であることが好ましく採用される。有機微粒子がこれらの溶媒に溶解してしまう場合、通常の乾式紡糸においては有機微粒子は形状をとどめず完全な溶液となるため、繊維の表面に顕著な凹部及び/または凸部を形成しない。これはポリエチレングリコール等のポリマーをウレタンと混合し、溶媒を用いて乾式紡糸した過去の発明からも知ることができる。ウレタンの溶媒として採用されているジメチルアセトアミドに対して有機微粒子が不溶であることで、従来設備を用いて繊維の表面に凹部及び/または凸部を有する弾性繊維を容易に製造できる。
【0031】
また、本発明の弾性繊維に好ましく含有されている有機微粒子がジメチルアセトアミドに対して10%から200%の膨潤性を有することが好ましい。一般的なウレタン弾性繊維の製造時に溶媒として採用されているジメチルアセトアミドに対して膨潤性を有していれば、従来設備をそのまま転用し、重合を完了させた後の任意の段階で、有機微粒子あるいはポリウレタン溶液に使用している溶媒で分散した有機微粒子を添加し、紡糸することができる。膨潤性が10%未満であると顕著な凹部及び/または凸部を形成しにくく、200%を越えると、乾式紡糸の時に溶媒を十分除去できず繊維の強力が著しく低下したり、あるいは紡糸糸切れが発生しやすいため好ましくない。より好ましくは20〜100%であり、さらには30〜70%が一層好ましい。
【0032】
本発明の弾性繊維に好ましく含有されている有機微粒子の水分膨潤度が150%以下で有ることが好ましい。膨潤度が150%を超えると、ポリウレタン系弾性繊維に含まれる微粒子自体が水分による膨潤を生じるため、繊維に変形が生じ、カバリングや編成での断糸や、品位不良の原因となる。高吸放湿性微粒子の膨潤度は小さい程よい。より好ましくは100%以下である。本発明のポリウレタン系弾性繊維においては、吸湿による膨潤は有機微粒子のみに小さく起こるだけで、繊維を形成しているポリウレタン系ポリマーはほとんど吸湿による膨潤を起こさないため、断糸や品位不良の後加工上の問題が少ない。
【0033】
本発明の弾性繊維に好ましく含有されている有機微粒子が親水性基を有するアクリレート系架橋体、つまり非生体系ポリマーからなる高吸放湿性有機微粒子であることが好ましく、アクリロニトリルを50重量%以上含むアクリロニトリル系重合体にヒドラジン、ジビニルベンゼン又はトリアリルイソシアヌレート処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有することが好ましい。限定されるものではないが、より具体的には、(a)アクリロニトリルを85重量%以上含有するアクリロニトリル系重合体に、窒素含有量の増加が1.0〜15.0となるようヒドラジン処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有するアクリル系金属変換粒子、(b)ジビニルベンゼンまたはトリアリルイソシアヌレートによる架橋構造が導入され、かつ、アクリロニトリルを50重量%以上含むアクリロニトリル系重合体において、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、塩型カルボキシル基を2.0mmol/g以上有するアクリル系金属変換粒子などが挙げられる。
【0034】
これら金属変換粒子は架橋アクリル系重合体微粒子であるが、その出発微粒子であるアクリロニトリル系重合体において、アクリロニトリルと併用するモノマーとしては、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、p−スチレンスルホン酸などのスルホン酸含有モノマーおよびその塩、アクリル酸などのカルボン酸含有モノマー及びその塩、アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0035】
物性低下を防ぎ、紡糸操業性および加工通過性を良好にするため、有機微粒子の粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下、5μm以下であることが更に好ましい。最も好ましくは2μm以下である。これは、前述した目的を達成するために、紡糸過程において高吸放湿性微粒子を繊維に分散させる必要があるからである。粒径が20μmより大きいと、添加混合後に粒子が偏析するとともに、繊維表面にブリードアウトするため、紡糸糸切れや後加工でのスカム付着による断糸の原因となる。但し、あまりにも平均粒径が小さ過ぎると、微粒子間の凝集が起こりやすくなり、かえってポリウレタン系弾性繊維内での分散性が悪くなるので、0.1μm以上であることが好ましい。
【0036】
本発明の弾性繊維の製造法として、有機ジイソシアネート、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール及び炭素数が4以上のアルキル基を有する一価のアルコールを混合、攪拌し、キャッピング比を1.55から1.68の範囲にし反応させ、1.9から2.35%の範囲のイソシアネート含有量を示すキャップされたグリコールを生じさせ、ついでエチレンジアミンの割合が85〜95%とした鎖伸長剤の混合物を有機溶媒の中で反応させた後モノアルコールアミンで末端停止をして得たポリウレタンウレアポリマーを乾式紡糸法にて繊維化することが好ましい。炭素数が4以上のアルキル基を有する一価のアルコールを混合することで、分子末端を炭素数が4以上のアルキル基とすることができ、理由は定かでないが、油剤との相性が良くなるためか、走行テンションが低くなり編地の品位が良くなりやすい。また、ここでいうキャッピング比とはポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールに対する有機ジイソシアネートのモル比のことであり、キャッピング比が1.55未満であると、イソシアネート含有量が1.9%未満となりやすいため、ハードセグメントが少なくなりすぎ弾性回復性に劣ったものとなりやすい。また、1.68を越えると、イソシアネート含有量が2.35%を越えやすいため、ソフトセグメントの割合が少なくなりすぎ伸長特性の劣ったものとなりやすく、さらにハードセグメントの割合が多くなりすぎ、高速編立時の張力が大きくなり編地の品位が低下しやすくなるので好ましくない。1.55未満で有ればハードセグメント成分が少なく、弾性回復性に劣ったものとなりやすい。1.68を越えるとソフトセグメントの割合が少なくなりすぎ、ソフトセグメントの成分が少なくなりすぎ伸長特性の劣ったものとなりやすい。さらに鎖延長剤としてエチレンジアミンの割合が85%未満であると、弾性糸のモジュラスが高くなって、高速編立時の編張力が大きくなり、編地品位が低下しやすいので好ましくない。また95%を越えても理由は定かでないが、同じ傾向になるので好ましくない。鎖延長剤としてエチレンジアミンとの好ましい組合せはプロピレンジアミンである。この場合エチレンジアミンの割合は90%程度のところに弾性糸のモジュラスを低くする極小値が存在する。さらに末端停止剤としてモノアルコールアミンを使用することが好ましい。分子末端を親水性のヒドロキシル基とすることで油剤との親和性が増すためか、高速編立時の張力が低く保たれやすくなる。ジエチルアミン等を末端停止剤にした場合はこれらの効果は得られにくい。
【0037】
本発明の弾性繊維の製造法として紡糸巻き上げ速度を900m/min以下にすることが好ましい。紡糸巻き上げ速度が900m/minを越えると弾性糸のモジュラスが高くなり、高速編立時の張力が高くなってしまい、編地の品位が低下しやすいので好ましくない。より好ましくは750m/min以下であり、さらには600m/min以下が一層好ましい。
【0038】
本発明の弾性繊維はポリエステル系、ポリエーテル・エステル系、ポリウレタン系等特に限定されるものではないが、中でもポリウレタン弾性繊維、特にポリウレタンウレア弾性繊維が弾性回復特性に優れ、様々な用途に展開することができるため一層好ましい。
【0039】
ここでいうポリウレタン弾性繊維に用いるポリウレタン重合体は、ポリオールと過剰モルのジイソシアネート化合物からなる両末端がイソシアネート基である中間重合体を、N,N‘−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの不活性な有機溶剤に溶解し、ジアミン化合物を反応させて得ることができる。
【0040】
上記ポリオールとしては特に制限はないが、例えばポリマージオールなどが挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコールおよびポリオキシプロピレンテトラメチレングリコールなどのポリエーテルジオール、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸およびマロン酸などの二塩基酸の一種または二種以上とエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコールおよびジエチレングリコールなどのグリコール一種または二種以上とから得られるポリエステルジオール、ポリ−ε−カプロラクトンおよびポリバレロラクトンなどのポリラクトンジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリカーボネートジオールなどから選択することができる。
【0041】
ジイソシアネート化合物としては、脂肪族、脂環族および芳香族のジイソシアネート化合物であれば特に制限されない。例えば、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアネート)、1,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−およびp−フェニレンジイソシアネート、m−およびp−キシリレンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−および1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0042】
鎖延長剤としてのジアミン化合物は特に制限されるものではないが、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミンおよびヒドラジンなどが挙げられる。
【0043】
本発明の弾性繊維を芯糸に、かつ少なくとも一種の非弾性繊維を鞘糸として使用されることが好ましい。本発明の弾性繊維は表面に凹部及び/または凸部を有することからカバリング糸にし、編立をしたときには外観がきれいなものとなる。これは上述したとおり、摩擦特性が優れていることから、鞘糸の巻付具合が均整なものとなるためと推定している。
【0044】
弾性糸を裸糸の状態で使用した場合、あるいは本発明の弾性繊維を芯糸に、かつ少なくとも一種の非弾性繊維を鞘糸としたカバリング糸を使用した場合でも、布帛の品位が向上することが分かった。一般的にポリウレタン弾性繊維は染まらないので交編織した場合、例えばインナー肌着やダイレクトニットインパンスト、ベア天竺といったベア状態でポリウレタン弾性繊維を使用する布帛においては編段やストリークが発生しやすかった。しかし本発明の弾性繊維は、ベア状態における摩擦特性が優れているため、カバリング糸の品位が良く、それに伴い該カバリング糸を用いた布帛の品位が向上し、当然、裸糸を用いた場合は摩擦が低いことから編テンションの変動が少なくなり、従来の弾性繊維に比べれば布帛品位が顕著に改善されるのである。
【0045】
ポリウレタン弾性繊維と交編織する相手素材は熱可塑性合成繊維、天然繊維、再生繊維の何れであってもよいが、熱可塑性合成繊維にあってはポリエステル繊維、ポリアミド繊維のいずれかを、天然繊維においては綿、羊毛、再生繊維にあってはポリノジック繊維を採用することが望ましい。
【0046】
相手素材とポリウレタン系弾性繊維を交編織する上で特に大きな制約を受けるものではないが、例えば交織する場合はポリウレタン系弾性繊維に相手素材を被覆する場合、ポリエステル繊維をポリウレタン系弾性繊維にカバリングして経糸及び/又は緯糸に用いるのが一般的である。又、相手素材と交編する場合、直接相手素材と引き揃えてニットインすることも、カバリング糸でニットインすることも可能である。
【0047】
かかる方法にて得られた伸縮性織編物の染色加工については、生機をリラックス・精練後プレセットし、染色、乾燥、風合処理を行い、仕上げセットする一般的な加工工程の採用が可能である。
【0048】
よって本発明の弾性繊維は経編地や緯編地に特に好適に採用でき、さらには裸糸を使用する交編編地において品位向上の効果が顕著である。たとえばそれらを用いた繊維製品としては従来公知のものに使用することができるが、特に編段やストリークといった問題の多かったパンティーストッキング、タイツ、肌着、スポーツ衣類、アウターに好適に採用でき、その中でもパンティーストッキング、肌着、水着に最適である。
【0049】
以下に、実施例を例示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中における測定及び評価は下記のようにおこなった。
【0050】
(A)ドラフト3.5倍、編成速度50m/minにおける給糸張力
38インチφ、28Gの丸編み機を使用し、ドラフト3.5倍で弾性繊維を給糸し、回転数17rpm(編成速度50m/min)にて編成した時の弾性繊維の給糸張力を、テンションメーターにて測定した。
【0051】
(B)100m/minにおける摩擦張力変動割合
弾性繊維を20℃65%RHの環境にある測定室にて12時間シーズニングする。測定機器として図1に示す編成張力測定機(杉原計器(株)製)を用い、弾性繊維を図1の様に通し、巻き取りローラーに巻きつける。巻き取りローラーを100m/minの速度で回転させる。弾性繊維の摩擦体入り口の張力T1(コンペンセーター12とフリーローラー1間の弾性繊維の張力)をテンションメーターで測定し、T1が2.0gとなるよう、コンペンセーターで調整する。弾性繊維の摩擦体出口の張力(T2)をロードセル(ORIENTEN JAPAN製)にて2分間測定し、レコーダーに記録したチャートから、摩擦張力平均値及び摩擦張力変動幅を読みとり、下記式に従って摩擦張力変動割合を算出した。
摩擦張力変動割合(%)=(摩擦張力変動幅/摩擦張力平均値)×100
【0052】
(C)分子末端におけるヒドロキシル基の割合
1H−NMRスペクトル分析により定量した。
【0053】
(D)分子末端における炭素数が4以上のアルキル基の割合
1H−NMRスペクトル分析により定量した。
【0054】
(E)繊維表面の凸部の最大高さ
走査型電子顕微鏡を用いて、繊維の側面を1000〜2000倍に撮影し、繊維軸方向における約100μm間の基底部を結んだ線と凸部の頂点との距離をメジャーで測定し、写真倍率で除して求める。
【0055】
(F)油剤付着量
試料(弾性糸 )約5グラムを正確にはかりとり、200mlの共栓付三角フラスコに
入れる。100mlの石油エーテルを加え、室温で10分間はげしく攪拌しながら浸漬させる。試料を取り出し、再び同温度、同容の新しい石油エーテルを用いて同じ操作を繰り返した後、風乾し、105±2℃の乾燥機中に1時間放置し乾燥する。
油剤付着量(%)=(1−W’/W)×100
ここにW :試料採取時の重さ(グラム)、W’:処理後の試料の乾燥重量(グラム)
【0056】
(G)単糸断面の異形度
走査型電子顕微鏡を用いて、繊維の断面を1000〜2000倍に撮影し、得られた断面写真に対して、繊維一本の断面における外接円の半径を内接円の半径で除した値を異形度とする。
【0057】
(H)ジメチルアセトアミドに対する膨潤性
20℃の環境下において、有機溶媒としてジメチルアセトアミド100ccの中に有機微粒子5gを投入し、24時間放置する。その後有機微粒子を濾紙で濾過し、濾紙ごと重量J1を測定する。そしてあらかじめ測定していたジメチルアセトアミドで十分濡らした濾紙の重量J2から、下記式に基づいて算出する。
膨潤度(%)=(J1−J2−5)/5×100
【0058】
(I)有機微粒子の水分膨潤度
105℃に設定した乾燥器中に24時間入れて絶乾した試料約1gを10mlスクリュー管に入れ、垂直に保持し、試料上面をなるべく平らにして、目盛りからその時の体積V1(ml)を読み取る。スクリュー管に吸水後も試料上面より水面が高くなる量の純水を入れ、6時間垂直に放置後、試料上面の体積V2(ml)を目盛りから読み取る。微粒子の膨潤度は下記式によって求める。
膨潤度(%)= {(V2−V1)/V1}×100
【0059】
(J)有機微粒子の粒径
光散乱光度計(大塚電子社製ELS−800型式)を用いて、光度計の添付仕様書に従って微粒子の平均粒径を求めた。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)397.5部と数平均分子量1950のポリテトラメチレンエーテルグリコール1950部とn−ブタノール4.7部とを混合し、70℃で2時間反応させて、末端イソシアネートのプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーのキャッピング比は1.59、イソシアネート含有量は1.99%であった。
【0061】
このプレポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド4566部に溶解し、10℃まで冷却し、エチレンジアミン28.7部とプロピレンジアミン3.9部を、N,N−ジメチルアセトアミド433部に溶解した溶液を滴下し、鎖延長反応を行った。
【0062】
反応終了後、モノエタノールアミン3.3部をN,N−ジメチルアセトアミド15部に溶解した溶液を加えて、未反応イソシアネートを末端停止させた。
【0063】
得られたポリウレタンの、分子末端のブタノール由来のブチル基の割合は45%、モノエタノールアミン由来のヒドロキシル基の割合は30%であった。
【0064】
得られたポリウレタン溶液に、平均粒径が0.3μmの水ガラスで表面処理されたハイドロタルサイトをポリウレタンに対して0.5%加え、攪拌混合した。
得られたハイドロタルサイトを加えたポリウレタン溶液をポリマーの濃度が29%になるように調整して、通常の方法で235℃の加熱空気を使用して毎分470mの速度で乾式紡糸し、22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0065】
(実施例2)
実施例1のハイドロタルサイトの代わりに、平均粒径が1.0μmのアクリレート系架橋体である有機微粒子を用い、有機微粒子をポリウレタンに対して3%加え、巻取速度を750m/minにした以外は実施例1と同様の操作を行い、22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0066】
(比較例1)
メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)500部と数平均分子量1950のポリテトラメチレンエーテルグリコール1950部とを混合し、70℃で2時間反応させて、末端イソシアネートのプレポリマーを得た。
【0067】
得られたプレポリマーのキャッピング比は2.00、イソシアネート含有量は3.43%であった。
【0068】
このプレポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド4743部に溶解し、10℃まで冷却し、プロピレンジアミン63.2部とジエチルアミン6.6部を、N,N−ジメチルアセトアミド927部に溶解した溶液を滴下し、鎖延長反応を行った。
【0069】
反応終了後、ジエチルアミン14.6部をN,N−ジメチルアセトアミド65部に溶解した溶液を加えて、未反応イソシアネートを末端停止させた。
【0070】
得られたポリウレタンの分子末端に、炭素数4以上のアルキル基及びヒドロキシル基は存在しなかった。
【0071】
得られたポリウレタン溶液を用いて、実施例1と同様の操作を行い、22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0072】
(比較例2)
メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)375部と数平均分子量1950のポリテトラメチレンエーテルグリコール1950部とを混合し、70℃で2時間反応させて、末端イソシアネートのプレポリマーを得た。得られたプレポリマーのキャッピング比は1.50、イソシアネート含有量は1.81%であった。このプレポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド4500部に溶解し、10℃まで冷却し、プロピレンジアミン31.6部とジエチルアミン3.3部を、N,N−ジメチルアセトアミド464部に溶解した溶液を滴下し、鎖延長反応を行った。反応終了後、ジエチルアミン7.3部をN,N−ジメチルアセトアミド33部に溶解した溶液を加えて、未反応イソシアネートを末端停止させた。
【0073】
得られたポリウレタンの分子末端に、炭素数4以上のアルキル基及びヒドロキシル基は存在しなかった。得られたポリウレタン溶液を用いて、実施例1と同様の操作を行い、22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。弾性回復性に劣ったものであった。
【0074】
(比較例3)
エチレンジアミンを49.8部とプロピレンジアミンを1.9部にした以外は比較例1に従った。モジュラスが高い弾性繊維であった。
【0075】
(比較例4)
巻取速度を950m/minにした以外は実施例1に従った。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の弾性繊維は従来の用途である水着、インナー、アウター、おしめカバー、生理用品、テントシート等のアウトドア製品、産業用資材、等へ利用でき、しかも高速編立しても品位が良いのでコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】100m/minの摩擦張力変動割合を評価する装置の模式図である。
【符号の説明】
【0079】
1:第1フリーローラー
2:第2フリーローラー
3:第3フリーローラー
4:第4フリーローラー
5:第5フリーローラー
11:弾性糸
12:コンペンセーター
15:ロードセル
16:巻取ローラー
17:編み針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト3.5倍、編成速度50m/minにおける給糸張力が0.2センチニュートン/デシテックス以下であることを特徴とする高速編み立て性に優れた弾性繊維。
【請求項2】
100m/minにおける摩擦張力変動割合が40%以下であることを特徴とする請求項1に記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
【請求項3】
分子末端にヒドロキシル基を5〜50モル%及び/又は炭素数が4以上のアルキル基を分子末端に30〜70モル%有するポリウレタンウレアポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
【請求項4】
ハイドロタルサイト類化合物を0.3〜5重量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
【請求項5】
有機微粒子を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維。
【請求項6】
有機ジイソシアネート、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール及び炭素数が4以上のアルキル基を有する一価のアルコールを混合、攪拌し、キャッピング比を1.55から1.68の範囲にし反応させ、1.9から2.35%の範囲のイソシアネート含有量を示すキャップされたグリコールを生じさせ、ついでエチレンジアミンの割合が85〜95%とした鎖伸長剤の混合物を有機溶媒の中で反応させた後モノアルコールアミンで末端停止をして得たポリウレタンウレアポリマーを乾式紡糸法にて繊維化することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維の製造方法。
【請求項7】
紡糸巻き上げ速度を900m/min以下にすることを特徴とする請求項6に記載の高速編み立て性に優れた弾性繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−37277(P2006−37277A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218471(P2004−218471)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】