説明

高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置

【課題】新幹線などの高速鉄道車両における横圧を低減可能なモノリンク式の軸箱支持装置を提供する。
【解決手段】軸箱2の上面と側はり1の端部との間に軸ばね14を配置し、側はり1と軸箱2の内側面との間を、両端にゴム部材、例えばゴムブッシュ13a,13bを介在させた1本のリンク12で結合した高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置11である。リンク12を、1) 車両上下方向にリンク長さLの3%以上、10%以下、2) 車両幅方向にリンク長さLの5%以上、20%以下、3) 車両上下方向にリンク長さLの3%以上、10%以下、車両幅方向にリンク長さLの5%以上、20%以下、の何れかだけオフセットさせて取付ける。
【効果】モノリンク式の軸箱支持装置のリンクを、車両の上下方向や幅方向に所定量オフセットすることで、その他の構成を変更することなく、曲線路を高速で走行する時に、更なる横圧の低減が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新幹線のように高速で走行する鉄道車両用台車の軸箱支持装置、特に、曲線路の高速走行時における横圧の更なる低減が可能な軸箱支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が安全に高速走行するためには、各車輪が路線状況の変化に応じて正確に追従する必要がある。そのため、輪軸の両端部を回転自在に支持する軸受を収めた軸箱は、鉄道車両の進行方向前後の動きを適度に抑え、進行方向と直交する左右方向には横圧を緩和する余裕を持たせ、鉄道車両の上下方向にはばね系を介して緩衝するように支持されている。以下、鉄道車両の進行方向の前後方向を「車両前後方向」と、前記進行方向と直交する左右方向を「車両幅方向」という。
【0003】
この軸箱支持装置として、高速で走行する新幹線の場合、現在は、従来からの実績や信頼性を優先して、支持板式、ウィングばね式、軸はり式のものが採用されている。
【0004】
ところで、軸箱支持装置には、前記の支持板式、ウィングばね式、軸はり式のほかに、円筒案内式、リンク式などいろいろな形式のものがあり、新幹線以外の鉄道車両では、これらの形式の軸箱支持装置も多く採用され、実績をあげて信頼性を得ている。
【0005】
前記リンク式のうちのモノリンク式は、図9のように、側はり1の中央寄りと軸箱2の内側面を、両端にゴムブッシュ3a,3bを介在させた1本のリンク4で結合したもので、軸箱2の上面と側はり1の端部間には、例えばロールゴム5aとコイルばね5bを組合せた軸ばね5を設けている(特許文献1)。
【特許文献1】実開平6−23864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高速鉄道車両が走行する軌道では、曲線路の曲率半径は大きく採られているので、一般的に曲線路の走行時に発生する横圧は低いものの、高速走行による遠心力の増加で横圧が増加する傾向にある。また高速走行での安定性を確保するため、軸箱支持剛性はある程度剛(ばね定数が大きい)であることが必要であり、横圧低減のために支持剛性を低減することは難しい。
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、高速鉄道車両では曲線路走行時に発生する横圧を低減するために軸箱支持剛性を低く設定することに限界があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、曲線路の高速走行時に発生する横圧が大きくなる新幹線などの高速鉄道車両における横圧を低減するために、以下の構成を採用している。
【0009】
すなわち、本発明の高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置は、
軸箱上面と側はり端部との間に軸ばねを配置し、側はりと軸箱内側面との間を、両端にゴム部材を介在させた1本のリンクで結合した高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置であって、
前記リンクを、
1) 車両上下方向にリンク長さの3%以上、10%以下、
2) 車両幅方向にリンク長さの5%以上、20%以下、
3) 車両上下方向にリンク長さの3%以上、10%以下、車両幅方向にリンク長さの5%以上、20%以下、
の何れかをオフセットさせて取付けたことを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、両端にゴム部材を介在させた軸箱支持装置のリンクを、車両の上下方向や幅方向に所定量オフセットすることにより、その他の構成を変更することなく、曲線路を高速で走行する時に、更なる横圧の低減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態例を、図1〜図4に基づいて説明する。
図1は本発明の高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置の最良の形態例を示す側面図、図2は図1の平面図、図3は車両上下方向のオフセットに起因して発生する操舵角についての説明図、図4は車両幅方向のオフセットに起因して発生する操舵角についての説明図である。
【0012】
11は本発明の高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置であり、台車枠を構成する側はり1の中央寄りと軸箱2の内側面を1本のリンク12で結合し、前記軸箱2の上面と側はり1の端部との間に軸ばね14を配置している。
【0013】
このうち、リンク12は、両端にそれぞれ筒状のゴムブッシュ13a,13bを配置し、これらゴムブッシュ13a,13bの中心部を貫通させた支軸15a,15bによって、側はり1と軸箱2に設置した支持金物16a,16bに結合されている。
【0014】
また、軸ばね14は、軸箱2の上面に上向きに設置されたばね座17と、側はり1の端部に下向きに設置されたばね座18間に取付けられたコイルばね14aと、このコイルばね14aの内部に同心状に設けられたゴム14bとから構成されている。
【0015】
前記ゴム14bは、前記ばね座17の中心に立てられた支柱19の中央部に、上下方向の移動及び周方向の回転ができないように取付けられ、その外周は前記ばね座18の内周面に嵌合状に取付けられている。
【0016】
このゴム14bは、前記の取付け状態で、例えば車両幅方向にのみ、内周側から外周側に向けて上下方向の高さが低くなる複数枚のゴム板を、金属板を挟んで外周リングの内部に並列に積層したもので、車両前後方向や上下方向には積層されていない。
【0017】
本発明の高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置11は、このようなモノリンク式の軸箱支持装置における前記リンク12を、例えば車両の上下方向と幅方向に所定量だけオフセットして取付けることを特徴としている。
【0018】
以下、本発明において、リンク12をオフセットして取付けることによる作用効果を説明する。
以下の説明は、リンクをオフセットさせた軸箱支持装置11を用いた台車(軸距2A=2.5m)が、半径Rが4000m、カントCが155mmの曲線路を、時速330kmの高速で走行した場合について検討したものである。
【0019】
なお、検討した本発明の軸箱支持装置11は、長さ(取付け支点間の長さ)Lが387mmのリンクを、車両の上下方向に25mm、幅方向に30mmオフセットさせて取付けたものである。また、実際はゴム14bによる横圧低減も同時期に行われるが、以下の説明では、ゴム14bによる横圧低減がないものとして説明する。
【0020】
高速で曲線路を走行する場合、遠心力によって外軌側の軸ばね14(コイルばね14a)が圧縮され、内軌側の軸ばね14(コイルばね14a)が伸びる。この時、リンク12に上下方向のオフセットL1をもたせると、軸距方向のリンク長さは、外軌側はL+h1、内軌側はL−h2となる(図3(b)参照)。
【0021】
従って、2軸台車の場合、外軌側の軸距は2A+2h1と、内軌側の軸距は2A−2h2となって(図3(c)参照)、外軌側と内軌側で軸距が微小に変化し、操舵角が生じる。この操舵角をψνhとすると、上下方向のオフセットが25mmの場合、操舵角ψνhは10.7×10−3(°)となる。
【0022】
また、高速で曲線路を走行する場合、遠心力によって台車枠と輪軸間には左右変位が生じる。この時、リンク12に幅方向のオフセットL2をもたせると、軸距方向のリンク長さは、外軌側はL+w1、内軌側はL−w2となる(図4(b)参照)。
【0023】
従って、2軸台車の場合、外軌側の軸距は2A+2w1と、内軌側の軸距は2A−2w2となって(図4(c)参照)、外軌側と内軌側で軸距が微小に変化し、操舵角が生じる。この操舵角をψνwとすると、車両幅方向のオフセットが30mmの場合、操舵角ψνwは3.9×10−3(°)となる。
【0024】
これに対して、リンクをオフセットさせない従来のモノリンク式軸箱支持装置では、曲線路の走行時にも外軌側と内軌側の軸距は同じで、輪軸が操舵されないので、輪軸とレールのアタック角φは、{(2500mm/2)/(4000×1000mm)}×180/πで求められ、17.9×10−3(°)となる。
【0025】
これらのアタック角や操舵角を図示したのが図5である。この図5より、前記曲線を時速330kmで走行した場合、リンクを車両の上下方向に25mm、幅方向に30mmオフセットさせると、リンクをオフセットさせない場合に対して、輪軸とレールのアタック角φを3.3×10−3(°)に低減できることが分かる。
【0026】
このように、オフセットをもたせてリンクを取付けることによって、高速での曲線路走行中における輪軸とレールのアタック角φを低減でき、外軌側に発生する横圧を低減することができる。また、アタック角φの低減に伴い、衝撃横圧の低減も期待できる(図6参照)。
【0027】
なお、低速で曲線路を走行する場合には、超過遠心力が作用しないので、カントによって外軌側から内軌側に荷重が作用し、高速で曲線路を走行する場合とは逆に操舵され、アタック角が増加して定常横圧が増加することが考えられる。
【0028】
ちなみに、上下方向のオフセットによる逆の操舵角は−10.0×10−3(°)、幅方向のオフセットによる逆の操舵角は−3.7×10−3(°)で、これらがリンクをオフセットさせない場合のアタック角φ(17.9×10−3(°))に加算され、31.6×10−3(°)となる。
【0029】
しかしながら、低速走行の場合は、遠心力による横圧の増加が生じず、また速度が遅いのでレールとの衝撃横圧が発生しにくく、さらに前記アタック角φは、例えば構内の半径が200mの曲線路を走行する際のアタック角(0.358°)の約1/10で十分に小さく、問題ない範囲であると考えられる。
【0030】
また、低速で構内の前記曲線路を走行する場合、超過遠心力やカントがないので、リンクのオフセットによる操舵角は発生しない。
【0031】
ところで、本発明におけるリンク12のオフセット量は、発明者らが350mm〜500mmのリンクについて検討した結果、車両の上下方向には、リンク12の長さLの3%以上、10%以下の範囲とする必要があることが分かった。また、車両の幅方向には、リンク12の長さLの5%以上、20%以下の範囲とする必要があることが分かった。
【0032】
これらの範囲を得た検討結果の一例を図7に示す。図7は半径が4000m、カントが155mmの曲線路を走行した際の操舵角を、走行速度とリンクの上下方向のオフセット量を変化させて検討した結果を示した図である。
【0033】
オフセット量が、車両の上下方向には、リンク12の長さLの3%未満(図7では11mm未満)、車両の幅方向には、リンク12の長さLの5%未満の場合、操舵角の低減量が小さく、横圧の低減効果も期待できないからである。
【0034】
一方、車両の上下方向や幅方向のオフセット量が大きくなると操舵角の低減量が大きくなって、横圧の低減効果も大きくなるが、リンク12の長さLに対して上下方向は10%、幅方向は20%を超えた場合は車両前後方向の支持剛性が低下し、台車枠の前後、左右振動に伴って、輪軸に前後荷重が負荷され、部品が異常摩耗する等の原因となるからである。
【0035】
このような本発明の軸箱支持装置11を台車に設置した場合は、高速での曲線路走行時には、台車は車両の上下方向や幅方向のオフセットにより、図3や図4の(c)図に示すようにハの字型になって操舵機能が付与され、横圧を低減することができる。
【0036】
ところで、本発明の軸箱支持装置11を設置した台車を、新幹線のような高速車両に搭載するに際して、2台の台車を搭載する場合は、必ずしも2台とも前記の台車を搭載しなくてもよく、どちらか一方の台車のみを前記の台車としても横圧の低減効果がある。
【0037】
以上、本発明の実施の形態例について説明したが、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示された技術的思想の範疇において適宜変更可能なことは言うまでもない。
【0038】
例えば上記の例では、リンクを車両の上下方向と幅方向の両方共オフセットさせたものを示しているが、何れか一方のみオフセットさせてもよい。
【0039】
また、本発明の高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置を設置する台車は、ボルスタレス台車、ボルスタ付台車の何れでもよい。
【0040】
さらに、軸ばねを構成するゴムは前記例のものに限らず、図9で説明したロールゴムを用いたものでもよい。
【0041】
またさらに、本発明において、リンク12の両端の構造は、前記例のようなゴムブッシュ13a,13bを介在させるものに限らず、図8(a)に示す半割状のゴム20を介在させるものや、図8(b)に示すゴム板21を挟んだ構造など、所定の変位を吸収できるものであればどのようなものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置の最良の形態例を示す側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】上下方向のオフセットに起因して発生する操舵角についての説明図で、(a)はリンクの側面図、(b)は軸距の変位を説明する図、(c)は2つの輪軸の平面図である。
【図4】車両幅方向のオフセットに起因して発生する操舵角についての図3と同様の説明図である。
【図5】半径が4000m、カントが155mmの曲線を時速330kmで走行した場合の、リンクにオフセットがない場合と、オフセットをもたせた場合のアタック角や操舵角を示した図である。
【図6】アタック角の低減による横圧低減のイメージを示した図である。
【図7】曲線路を走行した際の操舵角を、走行速度とリンクの上下方向のオフセット量を変化させて検討した結果を示した図である。
【図8】(a)(b)はリンクの両端に介在させるゴム部材の他の例を示す図である。
【図9】従来のモノリンク式の鉄道車両用軸箱支持装置を説明する図で、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 側はり
2 軸箱
11 鉄道車両用軸箱支持装置
12 リンク
13a,13b ゴムブッシュ
14 軸ばね
20 半割状のゴム
21 ゴム板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸箱上面と側はり端部との間に軸ばねを配置し、側はりと軸箱内側面との間を、両端にゴム部材を介在させた1本のリンクで結合した高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置であって、
前記リンクを、
車両上下方向にリンク長さの3%以上、10%以下、
オフセットさせて取付けたことを特徴とする高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置。
【請求項2】
軸箱上面と側はり端部との間に軸ばねを配置し、側はりと軸箱内側面との間を、両端にゴム部材を介在させた1本のリンクで結合した高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置であって、
前記リンクを、
車両幅方向にリンク長さの5%以上、20%以下、
オフセットさせて取付けたことを特徴とする高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置。
【請求項3】
軸箱上面と側はり端部との間に軸ばねを配置し、側はりと軸箱内側面との間を、両端にゴム部材を介在させた1本のリンクで結合した高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置であって、
前記リンクを、
車両上下方向にリンク長さの3%以上、10%以下、
車両幅方向にリンク長さの5%以上、20%以下、
オフセットさせて取付けたことを特徴とする高速鉄道車両用台車の軸箱支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−35201(P2009−35201A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202937(P2007−202937)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)