説明

高電圧回路及びX線発生装置

【課題】 電界シールドを用いずに,高電圧回路とそれを収納する筐体間の絶縁距離を短くすることができるようにし,装置の小型化ができるようにする。
【解決手段】 電気部品を多数組合せて入力側よりも高い出力電圧を発生させる電気回路において,あるいは半導体スイッチを多数直列に接続してなる多段スイッチ回路の入出力端子の一方が低圧側にもう一方が高圧側に接続される回路において,低圧側端子7,8から高圧側端子9に向かいおよそ渦巻き型に高圧側をより内側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高電圧回路に係り、特にX線発生装置に適した回路構成に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、直流高電圧出力回路には多段倍電圧整流回路として知られるコッククロフト・ウォルトン回路がある。直流高電圧を必要とする多くのX線発生装置には、この技術が利用されている。
【0003】
X線発生装置は数十kV〜百数十kVの電圧を出力する必要があるため、出力端子や最終段のキャパシタ及びダイオードのリード線には同様に数十kV〜百数十kVの電位になる。この高電位部分とそれを収納する筐体の間には大きな電位差が生じることにより、上記リード線や端子付近などに電界が過度に集中する極端な不平等電界になり、信頼性確保のためには、その最大電界強度が許容値以下となるようこの間には適切な絶縁距離をとらなければならない。
【0004】
しかし絶縁距離を大きく保つと装置も大型化してしまうため、絶縁距離を短縮する方法として、高電圧端子の周囲に電界シールドを備えて、等電位線の間隔をできるだけ均等にする方法やシールドに高電圧端子と筐体の中間の電位を与えることで電界を緩和し絶縁距離を短くする方法が知られている。(例えば特許文献1参照)
【特許文献1】特開2004-22468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電界シールドにより電界緩和をする方法は、数百kVもしくは数千kVの電位差を絶縁する上では有用な方法である。しかし、数十kV〜百数十kVの電圧に対して、必要な絶縁距離は数十ミリメートル、またはそれ以下である。よってシールドを備える十分な距離がなく、シールドを備えることで逆にシールドと高電圧端子間、シールドと筺体間に電界集中を起こしてしまうこともある。
また、上記多段昇圧回路はその段数が多くなるに従い、長い実装スペースを必要とすることが多く、装置の仕様によっては目標のスペースに収まり難いという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、電気部品同志及びその筐体間の絶縁距離を短縮し、回路スペースの小型化が可能な高電圧回路及びX線発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、キャパシタと半導体整流素子を含む電気部品を複数個組み合わせて形成される高電圧回路において、前記高電圧回路の入力端から出力端までの間の電気部品を実質的に渦巻き型に配置することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気部品同志及びその筐体間の絶縁距離を短縮し、回路スペースの小型化ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。図1に本発明の高電圧出力回路を利用するX線発生装置の全体構成図を示す。図1のように商用の交流電圧を一旦整流する整流回路1、整流回路1で得られた直流電圧を高周波の交流電圧に変換するインバータ2、そのインバータ2の出力電圧を入力電圧とし、昇圧する高電圧変圧器3、高電圧変圧器3の出力を入力とし、昇圧、整流を行なうコッククロフト・ウォルトン回路4を備え、昇圧、整流した直流高電圧がX線管5のアノード5aに印加される。X線管5はカソード5bが接地されるカソード接地方式であり、アノード5aに対アースで最大100kV程度の直流高電圧が管電圧として印加される。高電圧変圧器3、コッククロフト・ウォルトン回路4は絶縁油が封入された高電圧タンク6内に実装される。
【0010】
このようにしてX線高電圧装置に用いられるコッククロフト・ウォルトン回路4は、図2に示すように、キャパシタ10、ダイオード11を組み合わせた構成になっており、数段もしくは数十段、多段接続していくことで、整流、昇圧し、直流高電圧を発生させる。この回路は段数を上げていくに従い、その部分の電位も上昇していくことを特徴としている。
このコッククロフト・ウォルトン回路4の出力端子9、及び、最上段のキャパシタ10aの片端、最上段のダイオード11aの片端はX線管に印加される電圧(管電圧)と同等の数十kV〜百数十kVの電位となる。コッククロフト・ウォルトン回路4は図2の他にも対称形などいくつか形状が異なる方式が知られており、本発明においては、どの方式においても利用できる。
【0011】
本発明における高電圧発生部の実装形式を図3に示す。ここでは高電圧変圧器3とコッククロフト・ウォルトン回路4は、絶縁油が封入されている高電圧タンク6内に実装されている。本実施例では、コッククロフト・ウォルトン回路4を20段としており、初段〜4段15までを高電圧タンク6の左面に沿って配置し、5段〜8段16までを高電圧タンク6下面に平行に配置している。同様に高電圧タンク6右面と平行に9段〜12段17を、高電圧タンク6上面と平行に13段目〜16段目18を配置している。次に17段〜18段19は図のように初段〜4段15に平行に配置し、19段〜最終段(20段目)20は5段〜8段16に平行に配置している。このように段数が上昇するに従って、コッククロフト・ウォルトン回路4のキャパシタとダイオードを順に、およそ渦巻き型の軌道を描きながら内側へ配置していくことを特徴としている。コッククロフト・ウォルトン回路4内部で隣接する箇所、例えば初段〜4段15と17段〜18段19との絶縁距離は、その間に発生する電位差に応じて適切な絶縁距離が設けられる。
【0012】
図4に平板と平行円筒を電極とした場合における両者間の最大電界強度Emax[kV/mm]−絶縁距離l[mm]の解析結果の1例を示す。ここでは、高電圧タンク内壁面を平板に、ダイオードまたはキャパシタのリード線を平行円筒としてモデル化して解析をした結果である。これより、例えば最大電界強度の許容値を10[kV/mm]以下とすると、電位差20kVの場合、約5mmの絶縁距離が必要である。また電位差40kVの場合は約35mm以上の絶縁距離が必要になる。このことから電位差が倍になると7倍以上の絶縁距離が必要であり、電位差を小さくすることは、絶縁距離の短縮に大きく寄与することがわかる。
【0013】
比較のために従来のコッククロフト・ウォルトン回路の実装例を図5に示す。従来はこのように、初段から並べて配置することが多く、縦長になり、コッククロフト・ウォルトン回路の最終段は端に配置されていた。このため、最も高電圧となるコッククロフト・ウォルトン回路の出力段とアース電位である高電圧タンク6の内壁面とが直接対向することとなってしまい、(図4に示す結果の通り)最終段のキャパシタの片端及びダイオードの片端から高電圧タンク6の内壁面に対して、3方向に非常に大きな絶縁距離23を保たなければならなかった。
【0014】
これに比べ、本発明の構成では、高電圧タンク6(アース電位)の内壁面に近い場所に初段から16段までの部分が配置される。コッククロフト・ウォルトン回路は段数の上昇に従い、部品の電位は高くなるため、高電圧タンク6とキャパシタ及びダイオードとの電位差は従来の実装方法より小さくなる。よってこの間の絶縁距離21を短縮できる。また高電圧端子9、及び、最上段のキャパシタ10aの片端、最上段のダイオード11aの片端の最高電位部分は中央に配置されるため、高電圧タンク6内壁面との絶縁距離22を十分保つことができる。
【0015】
上記構成によれば、コッククロフト・ウォルトン回路4において特に初段〜4段15をはじめとして回路部から対高電圧タンク6内壁面への絶縁距離を短くすることができ、装置全体の小型化ができる。
また、従来一辺が直線的に長くなりがちであったコッククロフト・ウォルトン回路4を、本発明によれば4辺の長さを同程度とすることができるので、装置の要求に対して実装の自由度が高められる効果が得られる。
【0016】
図6,図7,図8に第2の実施形態によるコッククロフト・ウォルトン回路4の実装例を示す。実施形態2も実施形態1と同様にX線発生装置に利用される。実施形態1と相違する点はコッククロフト・ウォルトン回路4とX線管5の間に保護抵抗24を設けたことと、コッククロフト・ウォルトン回路4の配置方法である。
【0017】
保護抵抗24は、例えばX線管5が管内で放電した場合、放電電流を抑制し、X線管や周辺回路を保護するために備えられている。X線管5内で放電が起きた場合、X線管5に印加されていた電圧(管電圧)が保護抵抗24に掛かるため、保護抵抗24はX線管5に掛かる管電圧と同等の数十kV〜百数十kVの高耐圧抵抗である必要がある。このような高耐圧の抵抗はサイズが大きくなってしまうため、装置全体を小型化するためには、実装方法が課題であった。また高電圧タンク6との間に適切な絶縁距離を保つ必要がある。
配置方法は図7のように、四角垂の各面を頂点へ向かって渦を巻いていく構造25である。四角垂の下部にあるコッククロフト・ウォルトン回路の入力端子7,8から段数が上昇するに従い、四角垂上部へ配置される。この構成は実施形態1の構成において中心部を引き出したような構成となる。
【0018】
また最終段のキャパシタ、ダイオードの端子は四角垂の頂点付近に配置され、コッククロフト・ウォルトン回路の出力端子9に接続される。
そして上記、出力端子9は保護抵抗24に接続される。保護抵抗24はコッククロフト・ウォルトン回路4の内側に配置される。保護抵抗24のもう片方の端子からはケーブルを介してX線管5のアノード5aに接続される。
【0019】
図8は図7の構成を上から見て高電圧タンク6内に収めたときの様子を表している。このような図7の構成によると、実施例1と同様に外側に比較的低電位部分が配置されるため、コッククロフト・ウォルトン回路4と高電圧タンク6との絶縁距離は高電位部分が周囲に配置された時に比べ短くできる。また最終段の最も高電位部分は四角垂の頂点に配置されるため、高電位部分と高電圧タンク6間の絶縁距離を十分保つことができる。また保護抵抗24もコッククロフト・ウォルトン回路の中心に配置されるので、保護抵抗24と高電圧タンク6間の絶縁距離も十分保つことができる。
このようにして保護抵抗24を含め、スペースを最大限有効活用しつつ、高電圧タンク6との絶縁距離を短くできるため、装置全体の小型化が可能になる。
【0020】
3番目の実施形態を図9,図10,図11に示す。本実施形態は基本的には第一の実施形態と同じである。相違する点は図9,図11に示すように、X線管5が高電圧タンク6内に置かれた一体形X線発生装置であることと配置の方法である。このような一体形のX線発生装置の場合、高電圧タンク6内にX線管5の占める割合が大きくなり、コッククロフト・ウォルトン回路4の形状が実施形態1のとき、入らない場合もある。
【0021】
本実施形態の構成は図10に示すように、基板26を横にしており、1枚の基板を加工すれば配置可能な構成になっている。図3と同様に1段〜16段が高電圧タンク6に近い場所に配置され、17段〜20段はその内側に配置される。
【0022】
実施形態1と同様にコッククロフト・ウォルトン回路4と高電圧タンク6間の距離を短くできる。キャパシタ、ダイオードの形状や大きさを考慮することと、高電圧タンク6に近いところに低電位部分をおき、段が上昇するに従い内側に渦巻型の軌道を描くように配置していけば、適した形に実装可能であり、かつ装置の小型化が可能になる。
【0023】
実施形態1〜3ではコッククロフト・ウォルトン回路は絶縁油中に実装される構成であるが、コッククロフト・ウォルトン回路を樹脂モールド化する等、絶縁油以外の絶縁材料内で実装するときも同様の効果が得られる。
【0024】
本実施形態で用いられる多段スイッチ回路は、パルス透視装置に利用されている。パルス透視はX線診断の際高画質でリアルタイムの画像を見るために用いられている装置である。パルス透視装置の全体構成図を図12に示す。図12のように、商用の交流電圧を一旦整流するコンバータ27、コンバータ27で得られた特流電圧を高周波の交流電圧に変換するインバータ28、インバータ28の出力を入力とし、昇圧する高電圧変圧器29、高電圧変圧器の出力を入力とし、整流する整流器30、この整流器30は2個備えられ、それぞれで整流され、直流高電圧とする。そしてこの2個の整流器30から中性点接地方式でX線管31のアノード31aとカソード31bに管電圧として印加される。パルス透視では、この管電圧をパルス状にON,OFFさせている。
【0025】
X線管5に管電圧を印加する際は高電圧ケーブルを利用するため、高電圧ケーブルによる浮遊容量32が存在し、このキャパシタに充電される。管電圧印加を止めた時、このキャパシタに溜まった電荷の放電を速くし、管電圧の立下りを速くすることを目的に、多段スイッチ回路33が設けられている。多段スイッチ回路33は高電圧タンク40内に収納されている。
このような多段スイッチ回路はアノード側31aに最大で+75kV、カソード側31bに最小で−75kVの電圧が印加される。そのため、アノード側31a、カソード側31bそれぞれに半導体スイッチが直列に百数十個接続された構成になっている。
【0026】
本実施例における、多段スイッチ回路の実装図を図13に示す。アノード側34の配置方法としては、実施例1,3と同様であり、アース電位部分35から高電位になるに従い、内側におよそ渦巻き型の軌道を描くように配置していきほぼ中央に最大電位部分36を配置する。異なる点として、本装置は中性点接地方式であるため、カソード側37は、アース電位部分38から低電位になるに従い、渦の中央に配置することを特徴としている。最低電位部分39はほぼ中央に配置される。さらにアノード側34とカソード側37のアース電位に近い部分を隣接して配置する構成としている。
【0027】
この構成によると、多段スイッチ回路においても、実施例1〜3と同様に、高電圧タンク40との絶縁距離41を最大電位が高電圧タンク40付近に配置された時に比べ、短縮でき、装置全体の小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を利用するX線発生装置の全体構成を示す図。
【図2】コッククロフト・ウォルトン回路を示す図。
【図3】本発明のコッククロフト・ウォルトン回路の実装形式をを示す図。
【図4】最大電界強度−絶縁距離の解析結果例を示す図。
【図5】従来のコッククロフト・ウォルトン回路実装例を示す図。
【図6】保護抵抗を追加したコッククロフト・ウォルトン回路とX線管の回路例を示す図。
【図7】螺旋状に配置した実装例を示す図。
【図8】図7を上から見た図。
【図9】一体型X線発生装置の全体構成を示す図。
【図10】図9における実装配置を示す図。
【図11】図10を横(右)から見た図。
【図12】パルス透視装置の全体構成を示す図。
【図13】多段スイッチ回路の実装例を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1 整流回路、2 インバータ、3 高電圧変圧器、4 コッククロフト・ウォルトン回路部、5 X線管、5a X線管のアノード、5b X線管のカソード、6 高電圧タンク、7,8 コッククロフト・ウォルトン回路(入力端子1,2)、9 コッククロフト・ウォルトン回路(出力端子)、10 キャパシタ、10a 最終段のキャパシタ、11 ダイオード、11a 最終段のダイオード、12 1段目(初段)、13 2段目、14 n段目、15 1段〜4段、16 5段〜8段、17 9段〜12段、18 13段〜16段、19 17段、18段、20 19段、20段、21 絶縁距離、22 最終段、高電圧タンク6間絶縁距離、23 絶縁距離、24 保護抵抗、25 実装部分、26 基板、27 コンバータ、28 インバータ、29 高電圧変圧器、30 整流回路、31 X線管、32 浮遊容量、33 多段スイッチ、34 アノード側、35 アース電位部分、36 最高電位部分、37 カソード側部分、38 アース電位部分、39 最低電位部分、40 高電圧タンク、41 絶縁距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャパシタと半導体整流素子を含む電気部品を複数個組み合わせて形成される高電圧回路において、前記高電圧回路の入力端から出力端までの間の電気部品を実質的に渦巻き型に配置することを特徴とする高電圧回路。
【請求項2】
X線を発生するX線源と、
このX線源に電源を供給するために接続される高電圧回路とを含むX線発生装置において、
前記高電圧回路は請求項1に記載の高電圧回路が一部に含まれることを特徴とするX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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