説明

高靱性フィルム

【課題】耐熱性、力学特性、特に靱性に優れ、負の複屈折性を示す光学フィルム用として優れた特性を有する樹脂組成物、フィルム、それよりなる負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】α−オレフィン残基単位:N−フェニル置換マレイミド残基単位=49:51〜35:65(モル比)、重量平均分子量5×10以上5×10以下である共重合体(a)20〜85重量%、及び、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=36:64〜50:50(重量比)、重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)80〜15重量%からなる高靱性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、力学特性、特に靱性(伸び)に優れ、負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム用として優れた特性を有する樹脂組成物、高靱性フィルム、それよりなる負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラウン管型テレビモニターに代わる薄型液晶表示素子や、エレクトロルミネッセンス素子などが開発され、光学異方性を制御したフィルム材料が要求されている。透明樹脂材料は光学フィルムとして軽量性、生産性及びコストの面から多用される状況にある。
【0003】
従来、透明樹脂材料の光学異方性を発現させる方法として、フィルムの延伸配向が行われている。この延伸配向によれば、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと称する。)やポリスチレン(以下、PSと称する。)よりなるフィルムは負の複屈折性を示し、ポリカーボネート(以下、PCと称する。)や非晶性の環状ポリオレフィン(以下、APOと称する。)よりなるフィルムは正の複屈折性を示すことが知られている。
【0004】
しかしながら、PMMAやPSはガラス転移温度(以下、Tgと称する。)が100℃付近にあり、耐熱性が不十分なこと、脆いことなどから用途に制限を受けていた。一方、PCやAPOなどはTgが140℃程度であり、耐熱性や力学特性に優れるものではあるが正の複屈折性を示す材料であり、光学フィルムとしては、専ら正の複屈折性を示す樹脂材料を用いて製造されているのが現状である。
【0005】
また、マレイミド系共重合体として、フェニルマレイミド残基とα−オレフィン残基からなる共重合体は、スチレン残基とアクリロニトリル残基からなる共重合体とのブレンドにおいて、特定の割合範囲内で熱力学的に混和性を示すことが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
そのような現状に対し、N−フェニル置換マレイミド−オレフィン共重合体30〜95重量%及びアクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=20:80〜35:65(重量比)からなるアクリロニトリル−スチレン系共重合体70〜5重量%よりなる負の複屈折性を示す光学フィルム用樹脂組成物及び該組成物よりなる光学フィルムの提案を行った(例えば特許文献2参照。)。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4605700号公報
【特許文献2】特開2004−315788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2において提案を行った樹脂組成物及び光学フィルムは、耐熱性、力学特性などに優れ、特に負の複屈折性という特異な光学特性を有するものであったが、実用面の製品安定性という点においては、まだ靱性(脆さ)、特に伸びに課題を有するものであることが判明した。
【0009】
そこで、本発明は、耐熱性、力学特性、特に靱性(伸び)に優れ、負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム用として優れた特性を有する樹脂組成物、高靱性フィルム、それよりなる負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、α−オレフィン残基単位とN−フェニル置換マレイミド残基単位からなる特定の共重合体及び特定のアクリロニトリル−スチレン系共重合体からなる樹脂組成物を用いてなる光学フィルムが負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の式(i)で表されるα−オレフィン残基単位:下記の式(ii)で表されるN−フェニル置換マレイミド残基単位=49:51〜35:65(モル比)からなり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下である共重合体(a)20〜85重量%、及び、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=36:64〜50:50(重量比)であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)80〜15重量%からなることを特徴とする高靱性フィルムに関するものである。
【0012】
【化1】

(ここで、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0013】
【化2】

(ここで、R4、R5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、R6、R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立して水素、ハロゲン系元素、カルボン酸、カルボン酸エステル、水酸基、シアノ基、ニトロ基又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基である。)
以下に本発明に関し、詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いられる共重合体(a)は、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であり、上記の式(i)で示されるα−オレフィン残基単位:上記の式(ii)で表されるN−フェニル置換マレイミド残基単位=49:51〜35:65(以下、モル比)、特に耐熱性に優れる樹脂組成物、フィルム、光学フィルムとなることから好ましくは45:55〜35:65からなる共重合体である。ここで、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCと称する。)による共重合体(a)の溶出曲線を標準ポリスチレン換算値として測定することができる。そして、共重合体(a)のポリスチレン換算の重量平均分子量が5×10未満である場合、得られる樹脂組成物をフィルム、光学フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となると共に、得られるフィルム、光学フィルムは脆いものとなる。一方、重量平均分子量5×10を越える場合、得られる樹脂組成物をフィルム、光学フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となる。また、式(i)で示されるα−オレフィン残基単位のモル比が35未満である場合、高分子量の共重合体を得ることが困難であり、その結果得られる樹脂組成物、フィルムは靱性に劣るものとなる。一方、該モル比が49を越える場合、得られる樹脂組成物、フィルム、光学フィルムは透明性、靱性に劣る場合がある。
【0015】
共重合体(a)を構成する式(i)で示されるα−オレフィン残基単位におけるR1、R2、R3はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基等を挙げることができる。ここで、R1、R2、R3が炭素数6を越えるアルキル置換基である場合、共重合体のガラス転移温度が著しく低下する、共重合体が結晶性となり透明性を損なうなどの問題がある。そして、式(i)で示されるα−オレフィン残基単位を誘導する具体的な化合物としては、例えばイソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、1−イソオクテン、2−メチル−1−オクテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、2−メチル−2−ヘキセン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどが挙げられ、その中でも1,2−ジ置換オレフィン類に属するα−オレフィンが好ましく、特に耐熱性、透明性、力学特性に優れる共重合体(a)が得られることからイソブテンであることが好ましい。また、α−オレフィン残基単位は1種又は2種以上組み合わされたものでもよく、その比率は特に制限はない。
【0016】
共重合体(a)を構成する式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位におけるR4、R5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、n−オクチル基、2−オクチル基、3−オクチル基等を挙げることができる。また、R6、R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立して水素、ハロゲン系元素、カルボン酸、カルボン酸エステル、水酸基、シアノ基、ニトロ基又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、ハロゲン系元素としは、例えばフッ素、臭素、塩素、沃素等を挙げることができ、カルボン酸エステルとしては、例えばメチルカルボン酸エステル、エチルカルボン酸エステル等を挙げることができ、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、n−オクチル基、2−オクチル基、3−オクチル基等を挙げることができる。ここで、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10が炭素数8を越えるアルキル置換基の場合、共重合体のガラス転移温度が著しく低下する、共重合体が結晶性となり透明性を損なうなどの問題がある。
【0017】
そして、式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位を誘導する化合物としては、例えばマレイミド化合物のN置換基として無置換フェニル基又は置換フェニル基を導入したマレイミド化合物を挙げることができ、具体的にはN−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−s−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−t−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2−t−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(2−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジクロロフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジブロモフェニル)マレイミド、N−2−ビフェニルマレイミド、N−2−ジフェニルエーテルマレイミド、N−(2−シアノフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(2,4−ジメチルフェニル)マレイミド、N−パーブロモフェニルマレイミド、N−(2−メチル,4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチル,4−ヒドロキシフェニル)マレイミドなどが挙げられ、その中でもN−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−s−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−t−ブチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2−t−ペンチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル,6−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(2−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジクロロフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジブロモフェニル)マレイミド、N−2−ビフェニルマレイミド、N−2−ジフェニルエーテルマレイミド、N−(2−シアノフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミドが好ましく、特に耐熱性、透明性、力学特性にも優れる共重合体(a)が得られることからN−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミドであることが好ましい。また、N−フェニル置換マレイミド残基単位は1種又は2種以上組み合わされたものでもよく、その比率は特に制限はない。
【0018】
該共重合体(a)は、上記した式(i)で示されるα−オレフィン残基単位を誘導する化合物及び式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位を誘導する化合物を公知の重合法を利用することにより得ることができる。公知の重合法としては、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを挙げることができる。また、別法として、上記した式(i)で示されるα−オレフィン残基単位を誘導する化合物と無水マレイン酸とを共重合することにより得られた共重合体に、さらに例えばアニリン、2〜6位に置換基を導入したアニリンを反応し、脱水閉環イミド化反応を行うことにより得ることもできる。
【0019】
共重合体(a)としては、上記した式(i)で示されるα−オレフィン残基単位及び式(ii)で示されるN−フェニル置換マレイミド残基単位からなる共重合体であり、例えばN−フェニルマレイミド−イソブテン共重合体、N−フェニルマレイミド−エチレン共重合体、N−フェニルマレイミド−2−メチル−1−ブテン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド−イソブテン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド−エチレン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド−2−メチル−1−ブテン共重合体、N−(2−エチルフェニル)マレイミド−イソブテン共重合体、N−(2−エチルフェニル)マレイミド−エチレン共重合体、N−(2−エチルフェニル)マレイミド−2−メチル−1−ブテン共重合体等が挙げられ、その中でも特に耐熱性、透明性、力学特性にも優れるものとなることから、N−フェニルマレイミド−イソブテン共重合体、N−(2−メチルフェニル)マレイミド−イソブテン共重合体が好ましい。
【0020】
本発明に用いられるアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)は、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=36:64〜50:50(以下、重量比)、特に相溶性、靱性に優れた樹脂組成物、フィルム、光学フィルムが得られることから好ましくは37:63〜50:50であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体である。ここで、重量平均分子量は、GPCによるアクリロニトリル−スチレン共重合体の溶出曲線を標準ポリスチレン換算値として測定することができる。そして、アクリロニトリル−スチレン共重合体のポリスチレン換算の重量平均分子量が5×10未満である場合、得られる樹脂組成物をフィルム、光学フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となると共に、得られるフィルム、光学フィルムは脆いものとなる。一方、重量平均分子量5×10を越える場合、得られる樹脂組成物をフィルム、光学フィルムとして成形加工する際の成形加工が困難となる。また、アクリロニトリル−スチレン共重合体において、アクリロニトリル残基単位の重量比が36未満である場合、樹脂組成物、フィルム、光学フィルムにおける靱性、特に伸びが低下する。一方、アクリロニトリル残基単位が重量比で50を越える場合、透明な樹脂組成物、フィルムを得ることが困難となる。また、本発明に用いられるアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)としては、スチレン残基単位の一部又は全部をα−メチルスチレン残基単位としたアクリロニトリル−スチレン共重合体を用いることもできる。
【0021】
本発明に用いられるアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)の合成方法としては、公知の重合法が利用でき、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などにより製造することが可能である。また、市販品として入手したものであってもよい。
【0022】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム用樹脂組成物、高靱性フィルムは、共重合体(a)20〜85重量%及びアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)80〜15重量%からなり、特に耐熱性と力学特性のバランスに優れた樹脂組成物、フィルムとなることから共重合体(a)30〜60重量%及びアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)70〜40重量%からなることが好ましい。ここで、共重合体(a)が20重量%未満である場合、得られる樹脂組成物、フィルムの耐熱性が低下する。一方、共重合体(a)が85重量%を越える場合、得られる樹脂組成物、フィルムは非常に脆いものとなり、力学特性の低いものとなる。
【0023】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム用樹脂組成物の調整方法としては、共重合体(a)及びアクリロニトリル−スチレン系共重合体(b)からなる樹脂組成物を得ることが可能であれば如何なる方法を用いてもよく、例えばインターナルミキサーや押出機など混練機により加熱溶融混練することにより調整する方法、溶剤を用い溶液ブレンドにより調整する方法、等を挙げることができる。
【0024】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム用樹脂組成物、高靱性フィルムは、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて必要に応じて熱安定剤、紫外線安定剤などの添加剤や可塑剤を配合していてもよく、これら添加剤や可塑剤としては通常樹脂材料用として公知のものを使用してもよい。
【0025】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム用樹脂組成物をフィルム化した際、該フィルムは負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムとして用いられるものであり、特に負の複屈折性を示す位相差フィルムとして用いることが好ましい。
【0026】
以下に、負の複屈折性を示す高靱性光学フィルム及びその製造方法の一例について説明する。
【0027】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムは、上記した式(i)で表されるα−オレフィン残基単位:上記の式(ii)で表されるN−フェニル置換マレイミド残基単位=49:51〜35:65、好ましくは45:55〜35:65からなり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下である共重合体(a)20〜85重量%、及び、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=36:64〜50:50、好ましくは37:63〜50:50であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)80〜15重量%からなる樹脂組成物よりなるものであり、例えば該樹脂組成物をフィルム成形に供し、フィルムとし、該フィルムを延伸加工に供する事により負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムとすることができる。
【0028】
その際のフィルム成形法としては、例えば溶融押出成形法、溶液流延法(溶液キャスト法と称する場合もある。)などの成形法によりフィルムを得ることができる。また、この際得られるフィルムは、負の複屈折性を有する光学フィルムとした際に特に靱性に優れるものとなることから、ASTM D882に準拠して測定した引張破断伸びが5%以上のフィルムであることが好ましく、特に5.5%以上のフィルムであることが好ましい。
【0029】
以下に、溶融押出成形法によるフィルム化に関し詳細に説明する。
【0030】
上記した樹脂組成物を例えばT型ダイスと称されるような薄いダイスを装着した一軸押し出し機、二軸押し出し機等の押し出し機に供し、加熱溶融を行いながら該ダイスの隙間を通して押し出し、得られるフィルムの引き取りを行うことにより任意の厚みを有するフィルムとすることができる。この際、フィルム成形に際しては、成形時のガス発泡などによる外観不良を抑制するために、樹脂組成物を予め80〜130℃の温度範囲にて加熱乾燥を行うことが望ましい。また、所望のフィルム厚みと光学純度に応じて異物を濾過するためのフィルターを設置し、溶融押出成形を行うことが望ましい。さらに、溶融状態のフィルムを効率よく冷却固化し、外観に優れるフィルムを効率よく製造するために低温度金属ロールやスチールベルトなどを設置し、溶融押出成形を行うことが望ましい。
【0031】
溶融押出成形条件としては、加熱、剪断応力によって樹脂組成物が溶融流動するTgよりも十分に高い温度にて剪断速度1000sec−1未満の条件で溶融押出成形を行うことが望ましい。
【0032】
また、フィルムを溶融押出成形する際には、得られたフィルムを延伸加工に供し光学フィルムとする際に3次元屈折率の関係が安定した光学フィルムが効率よく得られることから、フィルムの流動方向、幅方向及び厚み方向の分子鎖配向度ができるだけ一様となる条件制御を行うことが好ましく、そのような方法としては、広く知られる成形加工技術を用いることができる。例えばダイスから吐出する樹脂組成物を位置によって均一にする方法、吐出後のフィルム冷却工程を均一にする方法及びこれに関する装置などを用いることができる。
【0033】
以下に、溶液キャスト法によるフィルム化に関し詳細に説明する。
【0034】
上記した樹脂組成物に対し可溶性を示す溶剤に該樹脂組成物を溶解し溶液とし、該溶液を流延した後、溶剤を除去することによりフィルムとすることができる。
【0035】
その際の溶剤としては、樹脂組成物が可溶性を示す溶剤であれば如何なるものでもよく、その中でも該共重合体(a)及びアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)の溶解性に優れ、透明性に優れるフィルムの製造が可能となることから、プロピオノニトリルを少なくとも10重量%以上含有する有機溶剤であることが好ましく、特にプロピオノニトリルであることが好ましい。
【0036】
溶液キャスト法による基材の乾燥においては、加熱条件の設定により、フィルム内に気泡又は内部空隙を形成しないように行うことが重要であり、後に続く2次成形加工である延伸加工操作時点にて残留溶剤濃度が2wt%以下であることが望ましい。また、延伸加工後に得られるフィルムに均一な負の複屈折性を発現させるためには、1次成形加工により得られたフィルムに不均一な配向や残留歪みがなく、光学的に等方性であることが望ましく、そのような方法として溶液キャスト法が好ましい。
【0037】
そして、溶融押出成形法、溶液キャスト法等の成形法により得られたフィルムを延伸加工に供し共重合体の分子鎖を配向させることにより、負の複屈折性を発現させるものである。分子鎖を配向させる方法としては、分子鎖の配向が可能であれば如何なる方法を用いることも可能であり、例えば延伸、圧延、引き取り等の各種方法を用いることができ、その中でも、特に生産効率がよく、負の複屈折性を有する高靱性光学フィルムを生産することが可能となることから、延伸により製造することが好ましく、その際には、例えば自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸法;遂次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸法等を用いることが可能である。このほか圧延などを行う装置としては、例えばロール延伸機などが知られている。このほかにもテンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機のいずれもが使用可能な装置である。
【0038】
延伸加工を行う際には、効率よく負の複屈折性を示すことで位相差フィルムとして適した光学フィルムを生産効率よく製造することが可能となることから、上述の該樹脂組成物のTg−20℃〜Tg+20℃の範囲内で延伸加工を行うことが好ましい。ここで、Tgとはガラス転移温度をさすものであり、示差走査型熱量計(DSC)などにより測定することが可能である。
【0039】
また、延伸の際の延伸操作である延伸温度、フィルムを延伸させる際の歪み速度、変形率などは本発明の目的を達成できる限りにおいて適宜選択を行えばよい。
【0040】
なお、本発明の高靱性光学フィルム用樹脂組成物、高靱性フィルム及び高靱性光学フィルム、特に位相差フィルムにおいては、位相差量を用いることにより複屈折特性を把握することが可能である。ここでいう位相差量の定義は、当該樹脂組成物からなるフィルムである場合、延伸加工することにより得られるフィルムの面内方向であるx軸方向及びy軸方向、面外方向であるz軸方向の3次元屈折率であるnx、ny、nzの差分に該フィルム厚み(d)を乗した値として表すことができる。この場合、屈折率の差分として、具体的にはフィルム面内の屈折率の差分;nx−ny、フィルム面外の屈折率の差分;nx−nz,ny−nzを挙げることができる。そして、光学特性を位相差量で評価する際には、フィルム面内位相差量;Re又はRexy=(nx−ny)d、フィルム面外位相差量;Re又はRexz=(nx−nz)d,Re又はReyz=(ny−nz)d、等として表すことも有効である。また、一軸延伸配向させてなる光学フィルムは、延伸方向をフィルム面内のx軸、x軸と直交するフィルム面内方向をy軸、x軸と直交するフィルム面外方向をz軸とし、x軸方向の屈折率をnx、y軸方向の屈折率をny、z軸方向の屈折率をnzとした場合、3次元屈折率の関係nz≧ny>nx又はny≧nz>nxとなる負の複屈折性を示す光学フィルムとなる。一方、二軸延伸配向させてなる光学フィルムは、延伸方向をフィルム面内のx軸及びy軸とし、これらと直交するフィルム面外の垂直方向をz軸とした場合、3次元屈折率の関係nz>ny≧nx又はnz>nx≧nyとなる負の複屈折性を示す光学フィルムとなる。
【0041】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムは、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて必要に応じて熱安定剤、紫外線安定剤などの添加剤や可塑剤を配合されたものであってもよく、これら可塑剤や添加剤としては樹脂材料用として公知のものを使用することができる。また、本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムにおいては、該高靱性光学フィルムの表面を保護することを目的としてハードコートなどを施していてもよく、ハードコート剤として公知のものを用いることができる。
【0042】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムは、屈折率が1.50以上であることが好ましく、LCDなどの光学デバイス製造上及び光学デバイスとしての実用耐熱性の面からTgが130℃以上を示すものであることが好ましい。
【0043】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムは、単独での使用以外に、同種光学材料及び/又は異種光学材料と積層して用いることによりさらに光学特性を制御したものとすることができる。この際に積層される光学材料としては、ポリビニルアルコール/色素/アセチルセルロースなどの組み合わせからなる偏光板、ポリカーボネート製延伸配向フィルムなどを挙げられるがこれに制限されるものではない。
【0044】
本発明の負の複屈折性を示す高靱性光学フィルムは、液晶表示素子用の光学補償部材として好適に用いられる。そのようなものとしては、例えばSTN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCDなどのLCD用の位相差フィルム;1/2波長板;1/4波長板;逆波長分散特性フィルム;光学補償フィルム;カラーフィルター;偏光板との積層フィルム;偏光板光学補償フィルムなどが挙げられる。また、本発明の応用としての用途はこれに制限されるものではなく、負の複屈折性を利用する場合には広く利用できる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の光学フィルム用樹脂組成物、フィルムは、耐熱性、力学特性、特に靱性に優れ、負の複屈折性を示す光学フィルム用として優れた特性を有する樹脂組成物であり、それよりなる光学フィルムは、耐熱性、力学特性、特に靱性に優れ、負の複屈折性を必要とする光学フィルムに好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。各物性値の測定方法を以下に示す。
【0047】
〜ヘーズの測定〜
透明性の一評価として、JIS K 7150(1981年版)に準拠してヘーズの測定を行った。
【0048】
〜ガラス転移温度の測定〜
示差走査型熱量計(セイコー電子工業(株)製、商品名DSC2000)を用い、10℃/min.の昇温速度にて測定した。
【0049】
〜重量平均分子量の測定〜
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製、商品名HLC−802A)を用い測定した溶出曲線により、標準ポリスチレン換算値として重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0050】
〜3次元屈折率の測定〜
試料傾斜型自動複屈折計(王子計測機器(株)製、商品名KOBRA−WR)を用い、測定波長589nmで測定した。
【0051】
〜引張破断伸びの測定〜
ASTM D882に準拠して測定した。溶融押出法により作成したフィルムの場合、フィルム成形時の引き取り方向の引張破断伸びを測定した。
【0052】
合成例1(N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブにN−フェニルマレイミド323重量部、t−ブチルパーオキシピバレート1.5重量部及びメチルエチルケトン606重量部を仕込み、窒素で数回パージした後、液化イソブテンを105重量部仕込み、60℃で8時間重合を行った。反応終了後の溶液を室温まで冷却した後、メタノールに徐々に添加して再沈澱処理を行い、次いでろ過、乾燥することにより共重合体を得た。
【0053】
H−NMR測定により生成した共重合体はN−フェニルマレイミド残基単位:イソブテン残基単位=60/40(モル比)のN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体(以下、共重合体A(1)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は140,000であり、ガラス転移温度は220℃であった。
【0054】
合成例2(N−(2−メチルフェニル)マレイミド・イソブテン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブにN−(2−メチルフェニル)マレイミド335重量部、t−ブチルパーオキシピバレート1.9重量部及びメチルエチルケトン610重量部を仕込み、窒素で数回パージした後、液化イソブテンを111重量部仕込み、60℃で8時間重合を行った。反応終了後の溶液を室温まで冷却した後、メタノールに徐々に添加して再沈澱処理を行い、次いでろ過、乾燥することにより共重合体を得た。
【0055】
H−NMR測定により生成した共重合体はN−(2−メチルフェニル)マレイミド単位残基:イソブテン単位残基=59:41(モル比)のN−(2−メチルフェニル)マレイミド・イソブテン共重合体(以下、共重合体A(2)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は150,000であり、ガラス転移温度は215℃であった。
【0056】
合成例3(N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブにN−フェニルマレイミド300重量部、t−ブチルパーオキシピバレート1.0重量部及びメチルエチルケトン660重量部を仕込み、窒素で数回パージした後、液化イソブテンを112重量部仕込み、60℃で8時間重合を行った。反応終了後の溶液を室温まで冷却した後、メタノールに徐々に添加して再沈澱処理を行い、次いでろ過、乾燥することにより共重合体を得た。
【0057】
H−NMR測定により生成した共重合体はN−フェニルマレイミド残基単位:イソブテン残基単位=57/43(モル比)のN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体(以下、共重合体A(3)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は170,000であり、ガラス転移温度は209℃であった。
【0058】
合成例4(N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブにN−フェニルマレイミド43重量部、t−ブチルパーオキシピバレート0.2重量部及びメチルエチルケトン750重量部を仕込み、窒素で数回パージした後、液化イソブテンを140重量部仕込み、60℃で8時間重合を行った。反応終了後の溶液を室温まで冷却した後、メタノールに徐々に添加して再沈澱処理を行い、次いでろ過、乾燥することにより共重合体を得た。
【0059】
H−NMR測定により生成した共重合体はN−フェニルマレイミド残基単位:イソブテン残基単位=50/50(モル比)のN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体(以下、共重合体A(4)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は190,000であり、ガラス転移温度は192℃であった。
【0060】
合成例5(N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブにN−フェニルマレイミド369重量部、t−ブチルパーオキシピバレート2.2重量部及びメチルエチルケトン606重量部を仕込み、窒素で数回パージした後、液化イソブテンを72重量部仕込み、60℃で8時間重合を行った。反応終了後の溶液を室温まで冷却した後、メタノールに徐々に添加して再沈澱処理を行い、次いでろ過、乾燥することにより共重合体を得た。
【0061】
H−NMR測定により生成した共重合体はN−フェニルマレイミド残基単位:イソブテン残基単位=66/34(モル比)のN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体(以下、共重合体A(5)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は82,000であり、ガラス転移温度は235℃であった。
【0062】
合成例6(アクリロニトリル−スチレン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブにアクリロニトリル44重量部、スチレン32重量部、エチルベンゼン24重量部、α−メチルスチレンダイマー0.3重量部及びt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.01重量部を仕込み、窒素で数回パージした後、140℃で1.7時間重合を行った。次いで得られたポリマー溶液をオートクレーブから抜き出し、脱気装置を備えた容器(以下、容器−1と記す。)へと移送した後、容器−1を160℃に加熱し、真空度8000Paで脱気した。さらにポリマー溶液を容器−1から、脱気装置を備えた別の容器(以下、容器−2と記す。)へと移送した後、容器−2を260℃に加熱し、真空度4000Paで脱気した後、容器−2から抜き出すことにより共重合体を得た。
【0063】
H−NMR測定により生成した共重合体はアクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=46/54(重量比)のアクリロニトリル−スチレン共重合体(以下、共重合体B(1)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は120,000であり、ガラス転移温度は113℃であった。
【0064】
合成例7(アクリロニトリル−スチレン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブにアクリロニトリル48重量部、スチレン33重量部、エチルベンゼン24重量部、α−メチルスチレンダイマー0.3重量部及びt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.01重量部を仕込み、窒素で数回パージした後、148℃で0.9時間重合を行ったこと以外は合成例6と同様の方法により共重合体を得た。
【0065】
H−NMR測定により生成した共重合体はアクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=51/49(重量比)のアクリロニトリル−スチレン共重合体(以下、共重合体B(2)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は120,000であり、ガラス転移温度は116℃であった。
【0066】
合成例8(N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体の調製例)
ステンレス製オートクレーブに無水マレイン酸・イソブテン共重合体(株式会社クラレ製、商品名イソバン10)100重量部及び溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)500重量部を充填し、室温で攪拌して無水マレイン酸・イソブテン共重合体をNMPに溶解させた。次いで、メチルアミン40重量部を室温で導入した後、80℃に昇温して1時間攪拌することにより無水マレイン酸単位のアミド化反応を行った。引き続き、205℃に昇温し、1時間攪拌することによりイミド化反応を行った後、室温まで冷却し、イソプロパノールを用いて再沈殿処理して共重合体を得た。
【0067】
元素分析、赤外吸収スペクトル測定及び13C−NMR測定により生成した共重合体はN−メチルマレイミド残基:イソブテン残基=50/50(モル比)のN−メチルマレイミド・イソブテン共重合体(以下、共重合体A(6)と記す。)であることを確認した。また、重量平均分子量は180,000であり、ガラス転移温度は159℃であった。
【0068】
実施例1
合成例1により得られた共重合体A(1)を40重量%、アクリロニトリル−スチレン共重合体(旭化成工業(株)製、商品名スタイラック727、重量平均分子量=130,000、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位(重量比)=38:62)(以下、共重合体B(3)と記す。)を60重量%の割合で配合し、30mmφ2軸押出機(株式会社日本製鋼所製、商品名TEX30)に供して押出し、樹脂組成物を得た。
【0069】
次いで、得られた樹脂組成物を該樹脂組成物の濃度が25重量%となるようにプロピオノニトリルに溶解し、該プロピオノニトリル溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムと記す。)上に流延した後、室温で8時間放置した後、乾燥機にて30℃から徐々に昇温して最終的に60℃の温度で乾燥し、自立性のあるフィルムとなるまでプロピオノニトリルを揮発させた。更に、該フィルムをPETフィルムから剥離し、剥離後の該フィルムを乾燥機にて100℃から徐々に昇温して最終的に120℃の温度で乾燥し、厚みが約100μmのフィルムを得た。得られたフィルムは靱性に優れるものであった。本フィルムを用いて引張破断伸びを測定した結果を表1に示す。
【0070】
引き続き、得られたフィルムから50×50mmの小片を切り出し、二軸延伸装置((株)井元製作所製)を用いて、延伸温度を樹脂組成物のガラス転移温度プラス10℃とし、チャック間距離40mm、延伸速度100mm/分の条件で延伸倍率2倍に自由幅一軸延伸することにより光学フィルムを得た。得られた光学フィルムは、負の複屈折性を示しており、靱性、透明性、耐熱性に優れるものであった。本光学フィルムを用いて物性を測定した結果を表1に示す。
【0071】
実施例2
合成例1により得られた共重合体A(1)40重量%の代わりに50重量%、共重合体B(3)60重量%の代わりに50重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0072】
評価結果を表1に示す。得られた光学フィルムは、負の複屈折性を示しており、靱性、透明性、耐熱性に優れるものであった。
【0073】
実施例3
共重合体B(3)の代わりに合成例6により得られた共重合体B(1)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0074】
評価結果を表1に示す。得られた光学フィルムは、負の複屈折性を示しており、靱性、透明性、耐熱性に優れるものであった。
【0075】
実施例4
合成例1により得られた共重合体A(1)の代わりに合成例2により得られた共重合体A(2)、共重合体B(3)の代わりに合成例6により得られた共重合体B(1)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0076】
評価結果を表1に示す。得られた光学フィルムは、負の複屈折性を示しており、靱性、透明性、耐熱性に優れるものであった。
【0077】
実施例5
合成例1により得られた共重合体A(1)の代わりに合成例3により得られた共重合体A(3)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0078】
評価結果を表1に示す。得られた光学フィルムは、負の複屈折性を示しており、靱性、透明性、耐熱性に優れるものであった。
【0079】
実施例6
樹脂組成物をTダイスを設置した2軸押出機に供し、Tダイスの温度220〜245℃、冷却ロールの温度115℃の条件で押出して厚み100μmのフィルムを得た以外は
実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0080】
得られた光学フィルムは、負の複屈折性を示しており、靱性、透明性、耐熱性に優れるものであった。
【0081】
実施例7
延伸温度を樹脂組成物のガラス転移温度プラス10℃とし、チャック間距離40mm、延伸速度100mm/分の条件で延伸倍率1.5倍に同時二軸延伸する以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0082】
評価結果を表1に示す。得られた光学フィルムは、負の複屈折性を示しており、靱性、透明性、耐熱性に優れるものであった。
【0083】
比較例1
合成例1により得られた共重合体A(1)40重量%の代わりに90重量%、共重合体B(3)を60重量%の代わりに10重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0084】
評価結果を表2に示す。得られた光学フィルムは正の複屈折性を示しており、靱性が乏しいものであった。
【0085】
比較例2
合成例1により得られた共重合体A(1)40重量%の代わりに15重量%、共重合体B(3)60重量%の代わりに85重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0086】
評価結果を表2に示す。得られた光学フィルムは、耐熱性が劣るものであった。
【0087】
比較例3
合成例1により得られた共重合体A(1)の代わりに合成例4により得られた共重合体A(4)とし、プロピオノニトリルの代わりに塩化メチレンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0088】
評価結果を表2に示す。得られた光学フィルムは、靱性、透明性に劣るものであった。
【0089】
比較例4
合成例1により得られた共重合体A(1)の代わりに合成例5により得られた共重合体A(5)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0090】
評価結果を表2に示す。得られた光学フィルムは、靱性が乏しいものであった。
【0091】
比較例5
共重合体B(3)の代わりに合成例7により得られた共重合体B(2)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0092】
評価結果を表2に示す。得られた光学フィルムは、透明性、靱性に劣るものであった。
【0093】
比較例6
共重合体B(3)の代わりにアクリロニトリル−スチレン共重合体(旭化成工業(株)製、商品名スタイラック789、重量平均分子量=140000、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位(重量比)=28:72)(以下、共重合体B(4)と記す。)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物、フィルム、光学フィルムを得、その評価を行った。
【0094】
評価結果を表2に示す。得られた光学フィルムは、靱性が乏しいものであった。
【0095】
比較例7
合成例1により得られた共重合体A(1)の代わりに合成例8で得られた共重合体A(6)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得た。
【0096】
次いで、得られた樹脂組成物をTダイスを設置した2軸押出機に供し、Tダイスの温度220〜250℃、冷却ロールの温度125℃の条件で押出して厚み100μmのフィルムを得たこと以外は実施例1と同様の方法により光学フィルムを得、その評価を行った。
【0097】
評価結果を表2に示す。得られた光学フィルムは、透明性が乏しく、正の複屈折性を示した。また互いに直交する軸方向の屈折率差である複屈折は、フィルム面内方向及びフィルム厚み方向のいずれにおいても非常に小さく、位相差フィルムとして使用できるものではなかった。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(i)で表されるα−オレフィン残基単位:下記の式(ii)で表されるN−フェニル置換マレイミド残基単位=49:51〜35:65(モル比)からなり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下である共重合体(a)20〜85重量%、及び、アクリロニトリル残基単位:スチレン残基単位=36:64〜50:50(重量比)であり、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量5×10以上5×10以下であるアクリロニトリル−スチレン共重合体(b)80〜15重量%からなることを特徴とする高靱性フィルム。
【化1】

(ここで、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【化2】

(ここで、R4、R5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基であり、R6、R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立して水素、ハロゲン系元素、カルボン酸、カルボン酸エステル、水酸基、シアノ基、ニトロ基又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状アルキル基である。)
【請求項2】
溶融押し出しされたフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の高靱性フィルム。
【請求項3】
溶液キャストされたフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の高靱性フィルム。
【請求項4】
溶剤としてプロピオノニトリルを用いること特徴とする請求項3に記載の高靱性フィルム。
【請求項5】
共重合体(a)がN−フェニルマレイミド−イソブテン共重合体及び/又はN−(2−メチルフェニル)マレイミド−イソブテン共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高靱性フィルム。
【請求項6】
ASTM D822に準拠して測定した引張破断伸びが5%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高靱性フィルム。

【公開番号】特開2007−46059(P2007−46059A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274796(P2006−274796)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【分割の表示】特願2005−79205(P2005−79205)の分割
【原出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】