説明

魚釣りリールのドラグ機構における摩擦ディスク

【課題】魚釣りリールのドラグ機構において不可避に発生する摩耗粉の影響を受けにくい摩擦ディスクを提供する。
【解決手段】スプールと駆動源の動力伝達部分に摩擦ディスクと制動ディスクとからなるクラッチを設け、前記ディスク同士の摩擦係合力を調整可能なドラグ機構を備えた魚釣りリールにおいて、前記摩擦ディスクは、ベースプレート上に摩擦材からなるライニング層を形成すると共に、該ライニング層に摩耗粉の逃げ溝を設けてなる。ライニング層は複数の扇状セグメントを周方向に間隔をおいて配列してなり、隣合う各セグメントの前記間隔を逃げ溝とする。また、ライニング層は周方向に連続するドーナツ状に形成すると共に、該ライニング層にその内外周を横断して逃げ溝を刻設することもある。さらに、逃げ溝は放射状に複数設けてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚釣りリールのドラグ機構に係り、ドラグ調整時に摩耗粉の影響を受けにくい摩擦ディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚釣りにおいて特に中物以上を対象とする場合、魚の引く力がリールの巻き上げトルクを上回ることがあり、糸切れや身切れ・口切れ等の魚をばらす原因になるばかりでなく、電動リールではモータの焼き付き原因ともなる。そこで、従来からモータとスプールの動力伝達部分に摩擦ディスクと制動ディスクをその摩擦係合力が調整可能に両者圧接量を調整するドラグ機構を構成することは周知である。
【0003】
一方、ドラグ機構のディスクは経時的に摩耗し、摩耗が進むとドラグ調整に影響が出るため、近年では各ディスクを複数枚組み合わせることで耐久性を向上した所謂多板クラッチ式のドラグ機構が開発されている(例えば、特許文献1)。さらに、ディスクの摩耗量を監視する手段を設けたものも提案されている(特許文献2)。他方、摩擦ディスクそのものを使用せず、スプール軸に液圧(油圧)コントロールする制動力発生部を設ける提案もなされている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−187961号公報
【特許文献2】特開平9−205956号公報
【特許文献3】特開平10−262525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、摩擦ディスクはベースプレート(コアプレート)の表面に摩擦材からなるライニング層を形成したものであるが、ドラグ機構の作動時(制動時)にこのライニング層から摩耗粉が発生することは避けられない問題である。この点、特許文献1や2の構成ではディスクに摩耗粉の逃げ道がなく、またドラグ作動中は遠心力よりもプレートの圧接力が勝ることになるため、摩耗粉がディスク間に滞留することになる。そして、この滞留した摩耗粉はドラグ作動中にディスク上を周方向に転動し、そのベアリング効果によって不用意なドラグ滑りが発生するばかりでなく、摩擦ディスクの摩擦面を傷つけて摩耗を助長する原因ともなる。他方、特許文献3の構成は、摩擦ディスクを用いないため上述した摩耗粉の問題がない反面、スプールの制動に液圧コントロールを必要とするため、構成が複雑となり、製品コストも上昇する。
【0006】
本発明は上述した問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、魚釣りリールのドラグ機構において不可避に発生する摩耗粉の影響を受けにくい摩擦ディスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために本発明では、スプールと駆動源の動力伝達部分に摩擦ディスクと制動ディスクとからなるクラッチを設け、前記ディスク同士の摩擦係合力を調整可能なドラグ機構を備えた魚釣りリールにおいて、前記摩擦ディスクは、ベースプレート上に摩擦材からなるライニング層を形成すると共に、該ライニング層に摩耗粉の逃げ溝を設けるという手段を用いた。摩擦ディスクはそのライニング層が制動ディスクと圧接することにより、その圧接力に応じた摩擦係合力によって、釣糸巻取り中におけるスプールの釣糸繰り出し方向の回転を制動するものであり、前提となる構成および作用は従来と変わるところはない。また、本発明においても、摩耗粉の発生は不可避のものと認識している。ただし、摩耗粉が発生したとしても、本発明の場合、この摩耗粉は逃げ溝に入り込むため、ライニング層に摩耗粉が残らず、ライニング層本来の性能が保持される。
【0008】
さらに、逃げ溝の形成方法としては、ライニング層の形成時に非ライニング層を形成し、この非ライニング層を逃げ溝とする方法と、ライニング層を形成した後、これを削り取る方法(逃げ溝の刻設)の2つが考えられる。前者構成、即ちライニング層は複数の扇状セグメントを周方向に間隔をおいて配列してなり、隣合う各セグメントの前記間隔を逃げ溝とした場合は、ライニング層を刻設する工程が省略され、少ない工程で本発明ディスクを製造することができるという利点がある。一方、後者構成、即ちライニング層は周方向に連続するドーナツ状に形成し、その後、該ライニング層にその内外周を横断して逃げ溝を刻設する場合は、逃げ溝の深さを例えばライニング層の限界摩耗厚に対応させることができるという利点がある。
【0009】
なお、摩耗粉の逃げ溝の形状や数、また複数設けるときの配列は限定するものではないが、複数の逃げ溝を放射状に設けることで、ここに入り込んだ摩耗粉は遠心力によりディスクの外側に放射(排出)されるため好ましい。特に、逃げ溝がライニング層の内外周を横断するように形成することで、逃げ溝の両端が開放され、何れの端部からも逃げ溝に入り込んだ摩耗粉をディスク外に逃すことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の摩擦ディスクは、ライニング層に摩耗粉が入り込む逃げ溝を設けたので、不可避に発生する摩耗粉をこの逃げ溝に逃すことで、摩耗粉のベアリング効果による不用意なドラグ滑りや、摩耗粉によるライニング層の不用意な摩耗を回避して、ライニング層が有する本来の性能に従ったドラグ調整を行うことができる。特に、逃げ溝を放射状に設けることで、遠心力等によって摩耗粉がディスク外に放出され、逃げ溝が目詰まりすることを防止することができる。また、ドーナツ状のライニング層の内外周を横断するように逃げ溝を設けることで、逃げ溝の両端が開放され、より確実に摩耗粉をディスク外に放出することができる。さらに、複数の扇状セグメントを周方向に間隔を配列してライニング層を形成することで、各セグメントの間が摩耗粉の逃げ溝となるため、本発明の摩擦ディスクを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の摩擦ディスクの第一実施形態を示した斜視図
【図2】本発明のいくつかの他の実施形態を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。先ず、本発明が前提とする魚釣りリールのドラグ機構は、従来技術として説明した特許文献1や2のものを採用できるが、スプールと駆動源の動力伝達部分に摩擦ディスクと制動ディスクとからなるクラッチを設け、前記ディスク同士の摩擦係合力を調整可能なものであれば、他の公知技術をも採用することができる。従って、ドラグ機構およびそのクラッチ部の詳細な説明は割愛し、以下、当該ドラグ機構のクラッチ部で用いる摩擦ディスクのみの実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の第一実施形態を示した摩擦ディスクの斜視図であって、図中、1は中心に軸孔1aを貫設すると共に、その周囲に小孔1bを複数貫設した円形のベースプレートである。2…2はベースプレート1の表面に形成した扇状セグメントピースであり、それぞれは摩擦材からなる。そして、この扇状のセグメントピース2を複数、隣合う同士間隔を空けてベースプレートの周方向に配列することで、ベースプレート1上に略ドーナツ状のライニング層が形成されると共に、各ピースの間隔が摩耗粉の逃げ溝3…3となる。また、当該構成において逃げ溝3…3は、両端がライニング層の内周2aおよび外周2bから開放された状態で放射状に形成される。さらに、逃げ溝3…3の深さはセグメントピース2の厚みに見合ったものとなる。
【0014】
従って、ドラグ作動中にライニング層上で不可避に発生する摩耗粉4は、ディスクの回転に伴いライニング層上を周方向に移動して逃げ溝3…3に入り込み、その後、逃げ溝3…3に入り込んだ摩耗粉4は遠心力によってライニング層の外周側、即ちディスク外に放出される。特に、本実施形態では逃げ溝3…3の両端双方が開放されているため、溝内が負圧となることなく、遠心力によって摩耗粉4が容易に放出される。また、摩耗粉4は逃げ溝3…3を内側に移動して、ライニング層の内周側に放出される場合もある。
【0015】
なお、本実施形態では、ライニング層の形成と同時に逃げ溝3…3が形成できるのであるが、この他、逃げ溝3…3は、当初より完全に連続するドーナツ状のライニング層を形成した後、これを扇状に分割するように逃げ溝3…3を放射状に削り取る方法によっても設けることができる。
【0016】
図2に、本発明の他の実施形態を複数例示する。同図(a)のものは、逃げ溝3がライニング層の途中から形成され、一端のみを開放したものである。(b)のものは、逃げ溝3が両端ともライニング層の面内に収まったものである。(c)のものは、逃げ溝3を非直線(円弧状)としたものである。さらに、(d)のものは、逃げ溝3を放射状に設けるが、その方向はベースプレートの半径方向に対して一定の角度に傾斜するものである。これら何れの形態においても、摩耗粉を逃げ溝3に取り込むことができる。
【符号の説明】
【0017】
1 ベースプレート
2 扇状セグメント(ライニング層)
3 逃げ溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプールと駆動源の動力伝達部分に摩擦ディスクと制動ディスクとからなるクラッチを設け、前記ディスク同士の摩擦係合力を調整可能なドラグ機構を備えた魚釣りリールにおいて、前記摩擦ディスクは、ベースプレート上に摩擦材からなるライニング層を形成すると共に、該ライニング層に摩耗粉の逃げ溝を設けてなることを特徴とした魚釣りリールのドラグ機構における摩擦ディスク。
【請求項2】
ライニング層は複数の扇状セグメントを周方向に間隔をおいて配列してなり、隣合う各セグメントの前記間隔を逃げ溝とした請求項1記載の魚釣りリールのドラグ機構における摩擦ディスク。
【請求項3】
ライニング層は周方向に連続するドーナツ状に形成すると共に、該ライニング層にその内外周を横断して逃げ溝を刻設した請求項1記載の魚釣りリールのドラグ機構における摩擦ディスク。
【請求項4】
逃げ溝は放射状に複数設けてなる請求項1、2または3記載の魚釣りリールのドラグ機構における摩擦ディスク。

【図1】
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【図2】
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