説明

鳥類を用いた蛋白質の製造方法

【課題】トランスジェニックニワトリによる卵での医薬品向け高機能性タンパク質の生産手法において、完全トランスジェニックニワトリの取得のための、効率的なG0ファウンダーの選抜方法を提供する。
【解決手段】A)目的タンパク質をコードするウイルスベクターを鳥類受精卵にマイクロインジェクションする工程、B)Aで作製した遺伝子導入鳥類につき、雄の精子ゲノムへの導入遺伝子コピー数を算出する工程、C)Bにより選抜された雄と雌鳥類の交配を行う工程、を含む鳥類を用いた蛋白質の製造方法。
【効果】G0キメラニワトリの精子ゲノムのリアルタイムPCRにより、導入遺伝子コピー数を算出することが可能となり、後代取得の容易なG0ファウンダーの選抜が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウイルスベクターにより卵中に外来性の有用蛋白質を含有する遺伝子導入鳥類を作製し、その子孫である完全体遺伝子導入鳥類を効率的に作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組替え技術により、従来生体試料より微量抽出しかできなかった、また化学合成では生産困難なタンパク医薬品を微生物や真核細胞に生産させることにより工業生産されてきた。組換え技術を用いた有用タンパク質の生産方法としては、大腸菌に代表される原核生物、酵母に代表される真核生物による発現系や哺乳動物細胞や昆虫細胞の培養細胞を利用した系が成功している。
【0003】
だが近年の目ざましい研究成果により細胞内でのタンパク質動態がより詳細に明らかになるにつれ、医薬品として望まれるタンパク質の生産方法として翻訳後修飾やフォールディング、高次構造に注目した特異的、機能的なタンパク質を生産する技術が望まれている。高機能性タンパク質製剤の製造方法としては哺乳動物細胞を利用した系が主流となっているが、この生産方法はコストが高い、生産性が悪い、ウイルスの混入による感染症の恐れといったデメリットが存在する。
【0004】
そこで着目したのがトランスジェニック動物によるタンパク医薬品の生産方法である。トランスジェニック動物の開発が世界中で報告され、サイトカイン類や血液製剤用の有用タンパク質を乳中に蓄積したトランスジェニックヤギやヒツジはすでに実用段階にある。これらトランスジェニック動物によるタンパク質生産のメリットは、哺乳動物細胞での生産系と同様の翻訳後修飾、フォールディング、高次構造を有した高機能性タンパク質を大量、安価に生産できる点である。トランスジェニック動物によるタンパク医薬品生産に於いては大型哺乳動物が用いられているが、これらウシ、ヒツジ、ヤギといった大型哺乳動物の乳に生産させる手法ではその広い飼育スペースと成熟して生産ラインが確立するまでに長い期間かかる欠点がある。
【0005】
そこで我々はニワトリに着目した。ニワトリのように長年にわたり改良されてきた家禽は成長が早く、短期間に個体の増殖が可能であり、毎日卵を産卵するため大量生産が可能な理想的な動物工場である。
【0006】
トランスジェニック鳥類の作製は以下のようにこれまでいくつか試みられてきている。Loveら(非特許文献1)はニワトリの受精卵を輸卵管から取り出し、この細胞質にマーカー遺伝子を有する直鎖DNAをマイクロインジェクションし、人工的環境下で発生、分化させた。この孵化した個体は導入遺伝子を有していたと報告されている。ただしこの手法では、受精卵を取得するのに雌鳥の屠殺を必要とし、トランスジェニック鳥類の作製効率も低い(1/88)ことから実用向きではなかった。
【0007】
一方、レトロウイルスにより効率的にトランスジェニックニワトリを作製する試みが為され、いくつか成功を収めている。初期には複製能を有するレトロウイルスを用いてトランスジェニックニワトリが作製された(非特許文献2)が、複製可能なレトロウイルスの混入や他のニワトリへの感染の危険性から実用的ではなく、現在では複製能を欠失させたレトロウイルスベクターを用いるのが一般的である。複製能欠失型レトロウイルスベクターを用いるトランスジェニックニワトリの作製は、Harveyら(非特許文献3)やKamihiraら(非特許文献4)により報告されており、特開2002―176880(特許文献1)、WO2004/061081(特許文献2)に公開されている。
【0008】
これら複製能欠失型レトロウイルスベクターによるトランスジェニック鳥類の作製は従来生産が困難であったエリスロポエチンや血液凝固因子等の活性発揮に複雑な翻訳後修飾を要するタンパク質の生産を可能とした。(特開2007−89578(特許文献3)、特開2007−181455(特許文献4))
しかし、トランスジェニック鳥類において生産されたタンパク質をタンパク性医薬品として産業応用するためには、更なる問題の解決を要する。特許文献1、特許文献2に代表される従来のレトロウイルス導入方法は、放卵後の受精卵の初期胚に遺伝子導入することを特徴とする。この時点で標的の細胞数は数万以上存在し、マイクロインジェクションによりレトロウイルスによる遺伝子導入が為された細胞と遺伝子導入されない細胞が混在する。また標的鳥類の染色体ゲノムにもランダムに外来遺伝子が挿入されるため、個体を構成する全ての細胞に均一に遺伝子導入が為されない。将来的に目的有用タンパク質を大量、安定生産するためには、個体構成細胞の全てに均一に目的タンパク質をコードする遺伝子を有したトランスジェニック鳥類を大量飼育する必要がある。
【0009】
上記問題点の解決策は、トランスジェニックニワトリの後代を取得することで解決できる。従来の放卵後の胚へのレトロウイルスベクターの導入により作製されたトランスジェニックニワトリは個体構成細胞に不均一に導入遺伝子を有するトランスジェニックキメラニワトリ(本明細書ではG0と称する)であるが、このG0の生殖細胞から分化した精子または卵子により取得される後代トランスジェニックニワトリは、個体構成細胞のすべてに均一に導入遺伝子を有する完全トランスジェニックニワトリとなりうる。
【0010】
ところがこの完全トランスジェニックニワトリG1の取得は容易ではなく、通常数羽のG0雄を用いて複数羽の雌と交配させ、得られた受精卵を孵化させて幼雛期の段階で導入遺伝子を有していることを確認する。Harveyら(非特許文献3)の報告では後代への遺伝子伝播効率は1%以下であり、1000羽程度のスクリーニングを要する。Kamihiraら(非特許文献4)の報告でもG1取得確率はわずか3%(6/181)程度であった。
【非特許文献1】Biotechnology (N Y). 1994 Jan;12(1):60-3.
【非特許文献2】Virology. 1987 Mar;157(1):236-40.
【非特許文献3】Poult Sci. 2002 Feb;81(2):202-12.
【非特許文献4】J Virol. 2005 Sep;79(17):10864-74
【特許文献1】特開2002―176880
【特許文献2】WO2004/061081
【特許文献3】特開2007−89578
【特許文献4】特開2007−181455
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は上記現状に鑑み、 医薬品向け高機能性タンパク質を高生産する方法としてトランスジェニックニワトリの個体構成細胞のすべてに均一に導入遺伝子を有する完全トランスジェニックニワトリの選抜、作製する方法を見出すことを試みた。
【0012】
即ち、G0ニワトリを他の鳥類または他のトランスジェニックニワトリと交配させることにより得られる完全トランスジェニックニワトリを本明細書ではG1と称し、G1のさらに後代をG2、G3と本明細書では称する。G1の取得に成功した場合、このG1と他鳥類との交配により誕生する後代は1/2の確立で完全トランスジェニックニワトリが得られ、数千羽の生産ラインの構築であっても容易に行うことができる。
【0013】
そこでG0ニワトリの生殖細胞への遺伝子導入効率を定量的に測定できれば、後代伝播率の良いG0個体(本明細書中ではG0ファウンダーと称する)を集中的に交配し、非常に効率的にG1の作製が可能となる。これまでKamihiraら(非特許文献4)は雄G0の精子よりゲノムを抽出し、PCR法により導入遺伝子コピー数の高いG0ファウンダーを選抜しようと試みてきたが定量的な解析ができなかった。
【0014】
本発明の目的は従来方法では不可能であった定量PCRによるG0トランスジェニックニワトリ精子ゲノム中への導入遺伝子コピー数を算出する方法を考案し、定量的にG1取得確率を測定できる方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、効率的に個体構成細胞すべてに導入遺伝子を有する完全トランスジェニック鳥類の作製方法及びG0ファウンダーの選抜方法を見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0016】
即ち本願発明は以下のとおりである。
(1)
以下の工程を含む鳥類を用いた蛋白質の製造方法:
A)目的タンパク質をコードするウイルスベクターを鳥類受精卵にマイクロインジェクションする工程、
B)Aで作製した遺伝子導入鳥類につき、雄の精子ゲノムへの導入遺伝子コピー数を算出する工程、
C)Bにより選抜された雄と雌鳥類の交配を行う工程。
(2)
ウイルスベクターがレトロウイルス、レンチウイルスである(1)に記載の蛋白質の製造方法。
(3)
導入遺伝子コピー数の算出方法が、PCRもしくは定量PCR法による(1)に記載の蛋白質の製造方法。
(4)
PCRもしくは定量PCR法がレトロウイルス由来のパッケージングシグナル配列を増幅する手法である(3)に記載の蛋白質の製造方法。
(5)
(4)に記載のパッケージングシグナル配列を増幅するためのプライマー配列であり、配列番号1および配列番号2に記載の配列。
(6)
雌鳥類が、遺伝子組替え鳥類である(1)に記載の蛋白質の製造方法。
(7)
目的タンパク質が、抗体、サイトカインに代表されるタンパク性医薬品原料である(1)に記載の蛋白質の製造方法。
(8)
(1)記載の鳥類の卵の卵白または卵黄に目的タンパク質を含むタンパク性医薬品原料の生産方法。
(9)
(1)〜(8)に記載の鳥類がニワトリまたはウズラである蛋白質の製造方法。
(10)
(9)に記載の鳥類およびその子孫の雌個体から産卵される卵。
(11)
(10)記載の卵の卵白または卵黄に目的タンパク質を含むタンパク性医薬品原料の生産方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、個体構成細胞のすべてに均一に導入遺伝子を有する完全トランスジェニック鳥類を効率良く作製することが可能となり、トランスジェニック鳥類によるタンパク性医薬品原料の大量、安定供給が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施する好ましい形態を詳述するが、本発明の本質は記載の内容により不当に限定されるべきではない。
【0019】
本発明で用いられるG0トランスジェニック鳥類の作製方法の一例としては特開2002−176880(特許文献1)およびWO2004/061081(特許文献2)記載の手法が挙げられるがこれに限定することはなく、放卵後の鳥類受精卵に複製能欠失型ウイルスベクターを導入する手法であれば本発明の技術範囲に含まれる。複製能欠失型ウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ボックスウイルス、ヘルペスウイルス等宿主鳥類に目的遺伝子配列が導入可能なベクターであれば特に限定されない。この複製能欠失型ウイルスベクターにはプロモーター、目的タンパク質をコードする遺伝子、発現調節配列を最低限含み、目的とするタンパク質を鳥類で発現可能であれば特に限定はされないが、好ましくは卵白または卵黄に発現させることが可能である。目的タンパク質遺伝子は特に限定されることなく、人畜に限定されることなく、医薬品、化粧品、食品、工業用酵素などあらゆる産業で利用される。調節因子としてはWPRE配列のような転写後調節因子やエンハンサー配列、分泌シグナル配列等、目的タンパク質を好ましい形態で発現させうるためのDNA配列を含んでいても良い。宿主鳥類としては限定されることはなく、ニワトリ、ウズラ、七面鳥、カモなどが用いられるが、なかでもニワトリやウズラは入手が容易であり産卵種としても多産であり、長年の飼育経験により安全性が認められている点で特に好ましい。
【0020】
このようにして作製したG0トランスジェニック鳥類をあらゆる公知の手法によって飼育、成熟させ、その生殖細胞への導入遺伝子数を測定する。好ましくは精子取得が容易な雄より採精して、そのゲノム中への導入遺伝子数を測定する手法が好ましいが、屠殺しない限りで雌より卵子を取得してもよい。採精方法は限定しないが腹部マッサージ法等が用いられる。精子からのゲノム抽出方法は公知のいかなる手段を用いても良い。
導入遺伝子数の測定方法は定量PCR法が好ましいが、蛍光や薬剤耐性のマーカー遺伝子を利用しても良い。定量PCR法で増幅する標的配列としては、ウイルスベクター由来の配列や導入遺伝子、マーカー遺伝子、プロモーターや調節因子といった翻訳領域、非翻訳領域に関わらず、ウイルスベクターにより宿主ゲノム中に挿入されたDNA配列であればあらゆる部位が利用可能であるが、トランスジェニック鳥類で発現させる目的タンパク質に依存しない点でウイルスベクター由来の配列が好ましい。ウイルスベクター由来の配列としては、5´または3´LTRやパッケージングシグナル等が利用可能である。定量PCRでの検出方法は、PCR反応でのDNA増幅時に取り込まれるサイバーグリーンの蛍光強度をモニタリングするサイバーグリーン法や、PCR反応によって増幅されるDNAにハイブリダイズし、蛍光を発するプローブ法等の公知の手法が用いられる。好ましくは検出感度、再現性の良く、バックグラウンドの少ないプローブ法が好ましい。プローブ法で用いるハイブリダイゼーションプローブは定量PCRで測定できれば限定されない。
【0021】
このようにして生殖細胞への導入遺伝子効率が良いG0個体(本明細書ではG0ファウンダーと称する)を選抜し、他鳥類と交配させることにより効率的にG1作製が可能である。交配方法は人工授精による方法、自然交配による方法でも構わない。交配に用いる鳥類は限定されることなく、同種の鳥類でも他種の鳥類でも構わないし、トランスジェニック鳥類であっても非トランスジェニック鳥類でも用いることが可能である。G1完全トランスジェニック鳥類の検定方法は特に限定されず、例えばPCR、サザンブロット、FISH法等のあらゆる手法により導入遺伝子を検出する方法が用いられる。目的とするタンパク質の発現を血清、全血、組織、卵白、卵黄から検出してもよい。
【0022】
このようにして得られたG1は個体を構成するすべての細胞に均一に導入遺伝子を有する完全トランスジェニック鳥類である。G1が得られれば、複数のG1の中から所望の目的タンパク質の発現量、発現形式の好ましい個体を選抜し、他鳥類と交配させることにより容易に後代完全トランスジェニック鳥類が得られうる。この後代完全トランスジェニック鳥類をG2、G3などとする。このG1以降の完全トランスジェニック鳥類の卵を回収し、該卵の卵白または卵黄より目的タンパク質を回収する。回収する方法としては特に限定されず、濾過、アフィニティークロマトグラフや陽イオン、陰イオン交換クロマトグラフ等あらゆる公知の精製または分離手法が用いられる。
【0023】
このようにして得られた目的タンパク質は医薬品用途に限定されずあらゆる産業応用が可能である。


【実施例】
【0024】
(実施例1)トランスジェニックニワトリの作製と精子の採取
血液凝固第七因子を発現するトランスジェニックニワトリの作製は特開2007−181455(特許文献4)に記載されている。またネコエリスロポエチンを発現するトランスジェニックニワトリの作製は特開2007−89578(特許文献3)に記載されている。
【0025】
特許文献4記載の雄個体3羽(F9−1、F9−2,F13−1)および特許文献3記載の2羽(E11−4、E12−2)より腹部マッサージ法によりそれぞれ採精した。またコントロールとして、Kamihiraら(非特許文献4)が取得し、FISH解析により1コピーの導入遺伝子を有する完全トランスジェニックニワトリ雄より採精した。また、ネガティブコントロールとして野生型の雄ニワトリより採精した。
【0026】
(実施例2)精子ゲノムの抽出
実施例1記載のトランスジェニックニワトリ精子からのゲノムDNAの抽出はMagExtractor−Genome−(TOYOBO)を用いて行った。
マイクロチューブに採取した精子20μlに滅菌水80μlを加え、これに750μlの溶解・吸着液と40μlの磁性ビーズを加えた。4℃で1時間、回転攪拌して混和し、磁気スタンドを用いて磁性ビーズを壁面に吸着させ、上清を取り除いた。これに洗浄液900μlを加え、5秒間ボルテックスミキサーにより激しく混和した。チューブを磁気スタンドにセットし、磁性ビーズを吸着させ、上清を取り除いた。再び900μlの洗浄液を加え、同様に5秒間ボルテックスミキサーで混和したのち、磁気スタンドを用いて上清を取り除いた。70%エタノールを900μl加え、ボルテックスミキサーで5秒間激しく混和し、磁気スタンドを用いて上清を取り除いた。再度70%エタノール900μlを加え、5秒間激しく混和したのち、磁気スタンドにより上清を取り除いた。滅菌水100μlを加え、ゲノムDNAを磁性ビーズから溶出させ、磁気スタンドを用いて磁性ビーズと分離させ、上清を回収した。
精子ゲノムDNAを分光光度計により定量し、サンプルとした。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

(実施例3)スタンダードゲノム抽出
リアルタイムPCRでコピー数を算出するため、スタンダードのゲノム調整をおこなった。Kamihiraら(非特許文献4)が作製したscFvFcを発現するトランスジェニックニワトリで、FISH解析の結果、ゲノムに1コピーの導入遺伝子を有するG1完全トランスジェニックニワトリの全血よりMagExtractor−Genome−(TOYOBO)を用いてゲノム抽出を行った。
ヘパリンを入れたマイクロチューブに全血100μlを入れ十分に混和し、全血サンプルとした。これに750μlの溶解・吸着液と40μlの磁性ビーズを加えた。4℃で1時間、回転攪拌して混和し、磁気スタンドを用いて磁性ビーズを壁面に吸着させ、上清を取り除いた。これに洗浄液900μlを加え、5秒間ボルテックスミキサーにより激しく混和した。チューブを磁気スタンドにセットし、磁性ビーズを吸着させ、上清を取り除いた。再び900μlの洗浄液を加え、同様に5秒間ボルテックスミキサーで混和したのち、磁気スタンドを用いて上清を取り除いた。70%エタノールを900μl加え、ボルテックスミキサーで5秒間激しく混和し、磁気スタンドを用いて上清を取り除いた。再度70%エタノール900μlを加え、5秒間激しく混和したのち、磁気スタンドにより上清を取り除いた。滅菌水100μlを加え、ゲノムDNAを磁性ビーズから溶出させ、磁気スタンドを用いて磁性ビーズと分離させ、上清を回収した。
精子ゲノムDNAを分光光度計により定量し、サンプルとした。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

(実施例4)リアルタイムPCRによる精子ゲノムへの導入遺伝子コピー数の測定
実施例2で調整した精子ゲノム中への導入遺伝子コピー数の測定をリアルタイムPCR(Light Cycler(Roche))により測定した。リアルタイムPCRでのスタンダードは実施例3に記載のスタンダードゲノム(細胞あたり1コピーの導入遺伝子を有するゲノムDNA)を6段階希釈して用いている。リアルタイムPCRに用いたプライマーは配列番号1、配列番号2に記載してある。また、ハイブリダイゼーションプローブは配列番号3および配列番号4に記載してある。ハイブリダイゼーションプローブは配列番号3が3´FITCラベルしており、配列番号4が5´をLCRed640でラベルしてある。リアルタイムPCRの条件は以下で行い、58℃アニ−ル時に蛍光強度をモニタリングする設定としている。

Denature(1サイクル)
95℃ 600秒
PCR(45サイクル)
95℃ 10秒
58℃ 15秒
72℃ 10秒
Cooling
40℃ 30秒

(実施例5)導入遺伝子コピー数の算出
リアルタイムPCRにより得られたチャートより精子ゲノム中の導入遺伝子コピー数を算出した。結果を表3に示す。
コピー数の算出方法は以下の式により算出した。
(コピー数)=(測定値)/(測定に用いたゲノム)/(1copyゲノム測定値)/(測定に用いた1copyゲノム量)
得られたコピー数を基にG1取得確率が計算される。
【0029】
【表3】

(実施例6)G1完全トランスジェニックニワトリの作製
実施例5で計算された各個体を野生型の雌ニワトリと交配し、得られる受精卵を38℃でインキュベートして孵化させた。得られた雛より採血し、実施例3に記載の手法によって全血よりゲノムを抽出し、実施例4で用いたプライマーを用いてPCRによりG1検定を行った。結果を表4に示す。
【0030】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む鳥類を用いた蛋白質の製造方法:
A)目的タンパク質をコードするウイルスベクターを鳥類受精卵にマイクロインジェクションする工程、
B)Aで作製した遺伝子導入鳥類につき、雄の精子ゲノムへの導入遺伝子コピー数を算出する工程、
C)Bにより選抜された雄と雌鳥類の交配を行う工程。
【請求項2】
ウイルスベクターがレトロウイルス、レンチウイルスである請求項1に記載の蛋白質の製造方法。
【請求項3】
導入遺伝子コピー数の算出方法が、PCRもしくは定量PCR法による請求項1に記載の蛋白質の製造方法。
【請求項4】
PCRもしくは定量PCR法がレトロウイルス由来のパッケージングシグナル配列を増幅する手法である請求項3に記載の蛋白質の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のパッケージングシグナル配列を増幅するためのプライマー配列であり、配列番号1および配列番号2に記載の配列。
【請求項6】
雌鳥類が、遺伝子組替え鳥類である請求項1に記載の蛋白質の製造方法。
【請求項7】
目的タンパク質が、抗体、サイトカインに代表されるタンパク性医薬品原料である請求項1に記載の蛋白質の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の鳥類の卵の卵白または卵黄に目的タンパク質を含むタンパク性医薬品原料の生産方法。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の鳥類がニワトリまたはウズラである蛋白質の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の鳥類およびその子孫の雌個体から産卵される卵。
【請求項11】
請求項10記載の卵の卵白または卵黄に目的タンパク質を含むタンパク性医薬品原料の生産方法。

【公開番号】特開2009−82032(P2009−82032A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253916(P2007−253916)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】