説明

鳥類忌避剤およびこれを用いた鳥類忌避方法

【課題】鳥類に対して優れた忌避効果を示す塗膜を形成すると共に安全性が高く、持続性の高い鳥類忌避剤、ならびに、該鳥類忌避剤を建造物等の忌避したい対象物に塗布することを特徴とする鳥類忌避方法を提供する。
【解決手段】ラノリン脂肪酸又はその塩、特にラノリン脂肪酸のバリウム塩又はカルシウム塩を含有する鳥類忌避剤を用いる。また、該鳥類忌避剤を建造物等の忌避したい対象物に塗布することにより、優れた鳥類忌避効果を発揮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥類忌避剤に関するもので、特に鳥類が建物や人間の生活領域に侵入するのを防止する目的で使用される鳥類忌避剤に関する。また、この鳥類忌避剤を用いた鳥類忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハト、スズメ、カラス等の鳥類が建物や人間の生活領域に侵入してくると、鳥類の排泄物による汚染、建物設置物塗料の劣化、コンクリート劣化等の様々な被害が発生する。これまで鳥類忌避剤に関しては、例えば、特開平05−70305号、特開平05−78219号等では香料物質などを使用する方法、特開平11−12105号では有臭物質のカイクロカプセルを使用する方法、特開平07−25713号ではトリフェニルホスフィン類を使用する方法、特開2005−200312号では写真廃液を使用する方法等が提案されている。しかしながらこれらの方法は、それぞれ有害性の高い成分を用いている、臭いが強い、若しくは、効果の持続性が乏しい等の問題点があり、更に、建物等の建造物にに塗布して鳥類の忌避を行うには塗料物性の点から向かないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−70305号
【特許文献2】特開平05−78219号
【特許文献3】特開平11−12105号
【特許文献4】特開平07−25713号
【特許文献5】特開2005−200312号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、鳥類に対して優れた忌避効果を示す塗膜を形成すると共に安全性が高く、持続性の高い鳥類忌避剤、ならびに、該鳥類忌避剤を建造物等の忌避したい対象物に塗布することを特徴とする鳥類忌避方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ラノリン脂肪酸又はその塩、特にラノリン脂肪酸のバリウム塩又はカルシウム塩を含有させることにより、塗料に優れた鳥類忌避効果を示すことを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の(1)〜(3)を提供するものである。
(1)ラノリン脂肪酸又はその塩を含有する鳥類忌避剤。
(2)ラノリン脂肪酸又はその塩が、ラノリン脂肪酸のバリウム塩又はカルシウム塩である上記(1)に記載の鳥類忌避剤。
(3)上記(1)または(2)に記載の鳥類忌避剤を、忌避したい対象物に塗布することを特徴とする鳥類忌避方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、鳥類に対して優れた忌避効果を持ち、かつ安全性が高く、持続性の高い鳥類忌避剤、ならびに、該を建造物等の忌避したい対象物に塗布することを特徴とする優れた鳥類忌避方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明には、ラノリン脂肪酸又はその塩、好ましくは、ラノリン脂肪酸のバリウム塩又はカルシウム塩を含有させることが必須である。ラノリンとは羊の毛の表面に分泌される羊毛脂をろ過、脱色、脱臭、脱水、溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの精製をして得られるものの名称である。ラノリン脂肪酸とは、ラノリン若しくはその原料である羊毛脂を加水分解して得られる脂肪酸である。加水分解の方法としては、特に限定されるわけではなく公知の方法を用いることができる。ラノリン脂肪酸は、天然物であり安全性も高く、また、臭いも少ないものである。本発明に用いられるラノリン脂肪酸としては、ラノリン脂肪酸、精製ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸などを用いることができる。ラノリン脂肪酸の塩とは、ラノリン脂肪酸をアルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba)、亜鉛、アルミニウム、鉄、ジエタノールアミン等のアミン類などの塩としたものである。塩を製造する方法は特に限定されず、中和など公知の方法を用いることができる。本発明に用いられるラノリン脂肪酸塩としては、上記で説明した種々の塩を用いることができるが、鳥類忌避効果の高さからラノリン脂肪酸のバリウム塩又はカルシウム塩を用いることが好ましい。
【0008】
本発明の鳥類忌避剤へのラノリン脂肪酸又はその塩の含有量は、鳥類忌避効果および建造物等に塗布する場合の物性から、1質量%から80質量%が好ましく、特に5質量%から30質量%が好ましい。
【0009】
本発明の鳥類忌避剤中には、ラノリン脂肪酸又はその塩以外に、塗膜を構成する成分として樹脂類、親油性界面活性剤、油分、着色剤、充填剤、添加剤を配合することができる。
【0010】
樹脂類としては石油樹脂、クマロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、低分子量ポリエチレン樹脂、アスファルト、ラノリン脂肪酸重合物などを用いることができ、このうち石油樹脂、クマロン樹脂、アスファルト、ラノリン脂肪酸重合物が好ましい。樹脂類は塗膜の強度を強くし、適度な粘着性を持たせるために必要で、その配合量は合計で5〜50質量%程度が適当である。
【0011】
親油性界面活性剤としてはラノリン脂肪酸以外のカルボン酸類、カルボン酸塩類、アルコール類、油溶性スルホネート類、リン酸エステル類、ノニオン活性剤類などを挙げることができる。
【0012】
このカルボン酸類としては、モノカルボン酸又はジカルボン酸を用いることができる。モノカルボン酸としては、炭素数8〜34のものであれば、特に限定されないが、好ましくは、炭素数12〜32である。モノカルボン酸を例示すると、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸などの直鎖飽和酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソペンタデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソヘプタデカン酸、イソオクタデカン酸、イソノナデカン酸、イソエイコサン酸、2−エチルヘキサン酸、2−ブチルオクタン酸、2−ヘキシルデカン酸、2−オクチルドデカン酸、2−デシルテトラデカン酸、2−ドデシルヘキサデカン酸、2−テトラデシルオクタデカン酸、2−ヘキサデシルオクタデカン酸などの分岐酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、パルミトレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ガドレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、アラキドン酸などの直鎖不飽和脂肪酸、2−ヒドロキシドデカン酸、2−ヒドロキシトリデカン酸、2−ヒドロキシテトラデカン酸、2−ヒドロキシヘプタデカン酸、2−ヒドロキシヘキサデカン酸、2−ヒドロキシヘプタデカン酸、2−ヒドロキシオクタデカン酸、12−ヒドロキシオクタデカン酸、2−ヒドロキシノナデカン酸、2−ヒドロキシエイコサン酸、2−ヒドロキシドコサン酸、2−ヒドロキシテトラコサン酸、水素添加ロジン、ロジン、アビエチン酸、水素添加アビエチン酸、ブタン安息香酸などの環状酸が挙げられる。さらに、オレンジ油脂肪酸、アボガド油脂肪酸、マカデミアナッツ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、水素添加大豆油脂肪酸、ホホバ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、水素添加ヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、綿実油脂肪酸、牛脂脂肪酸、水素添加牛脂脂肪酸、ミンク油脂肪酸、酸化パラフィンワックス脂肪酸、酸化ペトロラタム脂肪酸等の天然由来脂肪酸等も炭素数8〜34のモノカルボン酸を含有するので、本発明で用いることができる。また、ジカルボン酸としては炭素数8〜36のものであれば特に限定されないが、植物油脂肪酸を重合して得られるダイマー酸や水素添加ダイマー酸を例示できる。
【0013】
カルボン酸塩類としては、上記カルボン酸類のアルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba)、亜鉛、アルミニウム、鉄、アミンなどの塩類を用いることができる。これらの塩類のうちLi、Ca、Mg、Ba、Zn,Alの塩が好ましい。
【0014】
アルコール類としては炭素数C10−30の脂肪族又は脂環族アルコール、例えば、ラノリンアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ロジンアルコールを例示できる。
【0015】
油溶性スルホネート類としては、石油精製の副産物として得られる天然石油スルホネート、ジアルキルベンゼンやノニルナフタレンをスルホン化して得られる合成スルホネート、これらのスルホネートに炭酸カルシウムや炭酸バリウムを高度に分散させた高塩基性スルホネートを例示できる。これらの油溶性スルホネートの塩としてはナトリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アミン類などの塩類が市販されており、いずれも用いることができるがカルシウム塩、バリウム塩は特に好ましい。
【0016】
リン酸エステル類としては、リン酸と炭素数C8−20脂肪族アルコールとのエステルであるモノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、トリアルキルリン酸エステル、およびそれらの金属塩、アミン塩など、およびレシチンなどを例示できる。
【0017】
ノニオン界面活性剤としては、HLB10以下のより好ましくはHLB8以下のノニオン界面活性剤が用いられる。このようなものとして、上記カルボン酸類と多価アルコールの部分エステルであるエステル型ノニオン界面活性剤(例えばオレイン酸モノグリセライド、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、大豆脂肪酸トリメチロールプロパンエステル等)、ポリオキシアルカノールエーテル型ノニオン界面活性剤(例えばオレイルアルコールEO2モル付加物等)、ヒドロキシ脂肪酸のエステル型ノニオン界面活性剤(例えばステアリル乳酸エステル、オレイルリンゴ酸エステル等)などを例示できる。
【0018】
上記の親油性界面活性剤の配合量は、適宜選択することができるが目安としての1〜50質量%程度が適当であり、5〜20質量%が好ましい。
【0019】
油分としては、親油性界面活性剤を溶解あるいは微細に分散させることのできる、撥水性の液状オイルであればよく、炭化水素系のものとして、鉱物油、流動パラフィン、ポリオレフィン油などを、エステル系の液状油としては動植物油、例えば、ラノリン、液状ラノリン;ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトールエステル、ラノリン脂肪酸トリメチロールプロパンエステル等のラノリン脂肪酸エステル;大豆油、菜種油、ホホバオイル、チキンオイル、メンヘーデン油などを例示できる。油分の配合量は1〜50質量%程度が適当であり、5〜30質量%が好ましい。
【0020】
着色剤としては、従来より公知の有機系、無機系顔料ならびに染料等の各種着色剤を挙げることができる。有機系顔料としては、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、紺青等が例示できる。無機系顔料としては、チタン白、ベンガラ、バライト粉、白亜、酸化鉄粉、亜鉛華、鉛白、鉛丹、亜鉛末、亜酸化鉛等が例示できる。
【0021】
充填剤としては、従来より公知の有機系、無機系充填剤を挙げることができ、無機系充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、ガラス粉、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ粉、二酸化チタン、ウォラスナイト、水酸化マグネシウム等が例示できる。
【0022】
添加剤としては、従来より公知のダレ止め剤、レベリング剤等を挙げる事ができる。ダレ止め剤としては有機ベントナイト、微粉末シリカ、ひまし油誘導体等を例示できる。レベリング剤としてはシリコーン系界面活性剤、シリコーンオイル等が例示できる。
【0023】
本発明の鳥類忌避剤の製造方法は特に制限はないが、本発明の鳥類忌避剤の構成成分を必要に応じてニーダー等の攪拌機に仕込み、混合撹拌することにより得られる。樹脂類など溶解に加温を要するものは、あらかじめ溶剤に溶解したものを用いてもよく、全量の混合撹拌時に加温してもよい。
【0024】
本発明の鳥類忌避剤は、忌避したい対象物である建造物の金属面(鉄、ステンレス、アルミニウム合金等)、コンクリート、木材、プラスチック、セラミック等の表面に塗布し、鳥類忌避塗膜を形成することにより、鳥類忌避効果を発揮させることができる。忌避したい対象物の表面に直接塗布してもよく、もしくは予め防食塗料、プライマー等の適切な下地材を塗布した後、塗布してもよい。通常、塗膜形成成分である上記のような鳥類忌避剤を溶剤に溶解もしくは分散し塗料として使用することが望ましい。溶剤としては、トルエン、キシレン、ガソリン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、酢酸エチル、水などが例示できる。本発明の鳥類忌避剤の忌避したい対象物への塗布は、常法に従って1回〜複数回塗布することにより、塗布直後から長期間(数ヶ月から1年以上)にわたり、鳥類忌避効果を発揮する。本発明の鳥類忌避剤を用いることにより、鳥類の来訪、侵入、巣の形成等が抑制され、鳥類の排泄物による汚染、建物設置物塗料の劣化、コンクリート劣化等の鳥類の好ましくない被害を防止することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明につき実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0026】
実施例1〜4 鳥類忌避剤の調製
表に示した成分をニーダーに仕込み、110℃まで加熱混合後、室温まで冷却して、各鳥類忌避剤を調製した。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例5 スズメに対する忌避効果の評価
鹿児島県指宿市山川岡児ヶ水1681−3の建物軒下で評価を行った。建物軒下でスズメが巣を作っているところに、実施例1の鳥類忌避剤を塗布した木材を設置した(設置日:2008年7月14日)。設置後、スズメ来訪の様子を確認するとともに、1ヶ月後および3ヶ月後のスズメの巣の作成状況を評価した。その結果、設置後2日位までは、30羽ほどのスズメが来訪してきたが、その後スズメの来訪は無くなった。また、3ヶ月後に軒下を確認したが、スズメの巣は確認されなかった。
【0029】
実施例6 ハトに対する忌避効果の評価
神戸市内および明石市内のハトが多く(30羽以上)来訪する広場、公園に、実施例1〜4の鳥類忌避剤を塗布した木製パネルを置き、パネル上およびパネル周辺に餌を撒き、ハト来訪状況を確認した。比較のため、鳥類忌避剤を塗布していない木製パネルも設置し、パネル上およびパネル周辺に餌を撒いて観察を行った。
第1回評価(2006年5月22日および24日、神戸市内、朝夕2回、各2時間)
結果:鳥類忌避剤を塗布していない木製パネルには多数のハトが来訪し、平然と餌を食べていた。これに対して、実施例1〜4の鳥類忌避剤を塗布した木製パネルには、ハトはなかなか近寄らず、近寄ってきてもパネルに足をのせた途端、驚いて逃げる等の行動が観察された。その後、ハトは鳥類忌避剤を塗布した木製パネルを遠巻きにし、パネルに近寄らなくなった。
第2回評価(2006年5月25日、明石市内2ヶ所、夕方、各2時間)
結果:第1回評価と同様に、鳥類忌避剤を塗布していない木製パネルには多数のハトが来訪し、平然と餌を食べていた。これに対して、実施例1〜4の鳥類忌避剤を塗布した木製パネルには、ハトはなかなか近寄らず、パネルの上の餌を食べることはほとんど無かった。観察時間中、鳥類忌避剤を塗布したパネルに飛来したハトは合計2羽のみであった。
【0030】
実施例7 カラスに対する忌避効果の評価
鹿児島県指宿市山川岡児ヶ水1681−3付近の畑の横に、餌台と止まり木を設置し、餌としてパンを置き、観察を行った(観察日:2006年6月17日)。実施例1の鳥類忌避剤を塗布した止まり木を設置した餌台には、カラスは一度飛来したのみで、餌を食べたりすることは無かった。また、その後飛来することは無かった。一方、別の日に鳥類忌避剤を塗布していない止まり木を設置して、同様の試験を行ったところ、カラスは頻繁に来訪し、餌をたべているところが観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラノリン脂肪酸又はその塩を含有する鳥類忌避剤。
【請求項2】
ラノリン脂肪酸又はその塩が、ラノリン脂肪酸のバリウム塩又はカルシウム塩である請求項1に記載の鳥類忌避剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鳥類忌避剤を、忌避したい対象物に塗布することを特徴とする鳥類忌避方法。


【公開番号】特開2011−20979(P2011−20979A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169860(P2009−169860)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000231497)日本精化株式会社 (60)
【出願人】(503413330)マリンクラフト工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】