説明

鶏糞を原料とした活性炭の製造方法

【課題】
鶏糞を原料として、細孔の発達が十分で比表面積の大きい活性炭を、簡易な設備で容易に、安価に製造する方法を提供すること。
【解決手段】
鶏糞炭化物を酸処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鶏糞を原料とした活性炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鶏糞などの家畜排泄物を処理、再資源化して、炭化物を製造する試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には鶏糞を800〜1100℃で炭化し鶏糞炭化物を得る方法、特許文献2には鶏糞を400〜1100℃で炭化し脱臭剤とする方法などが提案されている。
【0004】
しかしながら、鶏糞を単に炭化しただけでは細孔の発達が不十分で、比表面積が小さいため、炭化物の使用用途が限られるとともに、脱臭剤などとしても十分な役割を果たすことができない。
【0005】
微細孔を有し、比表面積の大きい炭化物は吸着性等に優れるため、活性炭として幅広く利用することができ、例えば、家畜排泄物脱臭用、糞尿排水脱色用、工場排水の浄化用や脱色用、空気浄化用、医療用脱臭剤や家庭用脱臭剤、有害重金属除去用といった吸着剤用途のほかに、燃料電池や電力貯蔵装置、キャパシタなどの電子デバイス、電極材用途あるいはまた触媒担体などに利用される。
【0006】
そこで、鶏糞炭化物をさらに賦活化して、活性炭を製造する方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献3には炭化処理温度より高い900℃で30分程度、水蒸気により賦活して多孔質活性炭化物を得る方法が、また、特許文献4には鶏糞を酸素不足下の雰囲気中、700℃程度で炭化し、その後850℃以上で水蒸気を添加して吸着材を得る方法が提案されている。同様に、特許文献5では低温炭化装置で畜産物の糞を炭化し、この炭化物に水蒸気を吹き付けて活性炭を製造する方法が、特許文献6では家畜糞尿をゲル状にしたものを炭化し、必要に応じて高温炉内で水を噴霧して賦活して活性炭とする方法が、さらには、特許文献7では畜産物の糞を高温炭化装置で炭化したあと水蒸気を吹きかけてスポンジ状の活性炭を製造する方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、これら水蒸気を賦活剤として用いる方法は、炭化炉とは別に蒸気発生装置および水蒸気賦活のための賦活設備が必要であり、装置の大型化と煩雑さが増すことに加え、一般に800〜1100℃という高温で所定時間賦活しなければならないため、エネルギー消費が多く、コストアップが避けられないという問題がある。
【0009】
また、このような問題を解決する方法として、例えば、非特許文献1には、700℃で鶏糞を1時間炭化後、そのまま700℃で水蒸気を15分から75分使用して活性炭を得る方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、この方法で得られる活性炭の比表面積は約250〜約550m/gと低く、有用性に問題がある。活性炭として、高い吸着性等を発揮するためには、比表面積が、少なくとも約800m/g以上であることが望まれるからである。
【0011】
さらに、水蒸気を使用しない方法として、たとえば特許文献8には、有機性廃棄物炭化分解時の発生ガスを燃焼させ、その燃焼排ガスを有機性廃棄物炭化物の賦活剤として導入利用し、活性炭化する方法も提案されている。しかしながら、この方法においても、900℃から1000℃程度で60分程度賦活する必要があるため、エネルギー消費が多く、コストアップが避けられず、また、比表面積の大きな活性炭を得ることができないという問題がある。
【0012】
さらに、非特許文献2には、水蒸気や燃焼排ガスを用いず、鶏糞を600℃という比較的低温下でアルカリを用いて賦活する方法や、800℃で炭酸ガスで賦活する方法が提案されている。
【0013】
しかしながら、この方法によって得られる鶏糞活性炭は、比表面積が、アルカリ賦活の場合で486m/g、炭酸ガス賦活の場合で788m/gであり、活性炭としての機能を発揮するための十分な比表面積を有しているとは言えない。さらに600℃でのアルカリ賦活の場合には設備が腐食しやすく、維持コストが増加して結果的に製品がコストアップとなるという問題もある。
【0014】
また、非特許文献3には、比表面積の大きい活性炭を得るために、例えば、石炭と鶏糞をブレンドした原料を用いて活性炭にする方法も提案されている。しかしながらこの方法による水蒸気中650〜750℃で60分間活性化して得られる活性炭の比表面積は300m/g以下であり、やはり活性炭として十分な比表面積を有していない。
【特許文献1】特開平6-32608
【特許文献2】特願2004-215779
【特許文献3】特開2002-356319
【特許文献4】特開2004-34003
【特許文献5】特願2005-41944
【特許文献6】特開平7-214098
【特許文献7】特開2005-40671
【特許文献8】特開2004-10436
【非特許文献1】Lima.I.M,Marshall.W.E,Bioresour Technol.96,No.6,699(2005)
【非特許文献2】S.Koutcheiko,C.M.Monreal,H.Kodama,T.McCracken,K.Kotlyar,Bioresour. Technol.98,No13,2459(2007)
【非特許文献3】小棹理子, Zhang.Yan, Gui.Hong, Cao.Yan, Chen.Bobby.I.T, Pan.Wei-Ping, Wang.Chia-Wei, 熱測定討論会要旨集,43,68(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のとおり、現状では、鶏糞から、簡易な設備で、細孔の発達が十分で比表面積の大きい活性炭を製造する方法は確立されていない。
【0016】
そこで、本発明は、鶏糞を原料として、大掛かりな設備、複雑な操作を必要とせず、比表面積が大きく、利用価値の高い活性炭の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、第1に、鶏糞炭化物を酸処理する活性炭製造方法を提供し、第2に、少なくとも、以下の工程、A) 鶏糞または鶏糞由来物を加熱処理して、鶏糞炭化物を生成する工程、B) 前記工程A)で生成された鶏糞炭化物を酸処理する工程、を含む活性炭製造方法を提供する。第3に、酸処理は、酸又は酸水溶液中で鶏糞炭化物を混合攪拌する処理である前記第1または2の活性炭製造方法を提供し、第4には、酸処理は塩酸で処理する前記第1から3の活性炭製造方法を提供し、第5には、塩酸中の塩素の量が、鶏糞炭化物中に存在するカルシウム1質量部に対し、0.5質量部から6質量部である前記第4の活性炭製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鶏糞の処理、再資源化において、細孔の発達が十分で、一般の活性炭に比較しても遜色のない比表面積を有する活性炭が得られる。
さらに、賦活剤として水蒸気や燃焼排ガス、炭酸ガスあるいはアルカリなどを用いる必要がないため、エネルギーコスト、設備コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る活性炭の製造方法について、図1に例示するフローチャートを用いて詳しく説明する。ここで、本発明における「活性炭」とは、吸着能をもつ多孔質の炭素質物質で、比表面積が、800m/g以上のものとして定義される(化学大辞典, 第1版)。
【0020】
本発明に係る活性炭の製造方法においては、まず、鶏糞または鶏糞由来物を加熱処理して炭化させ、鶏糞炭化物を生成する(工程A)。
【0021】
ここで、「鶏糞由来物」とは、鶏糞に由来し、鶏糞の性質を有するものであって、例えば、鶏糞を乾燥、発酵等させることで得られる鶏糞堆肥化物などをいう。図1のフローチャートにおいては、鶏糞または鶏糞堆肥化物を原料とする場合を例示している。
【0022】
また、使用される鶏糞または鶏糞由来物は、湿潤状態であっても乾燥状態であっても使用することできる。
【0023】
工程Aにおける加熱処理の条件は、特に限定されないが、加熱処理の温度は、例えば、500℃から1100℃で行うことができる。さらに、炭化炉内の雰囲気中の酸素濃度は2%以下が好ましく、これによって、得られる鶏糞炭化物の収量を増加させることができるため、活性炭の製造コストの低減を図ることができる。
【0024】
次に、前記工程Aで生成された鶏糞炭化物を酸処理する(工程B)。
【0025】
工程Bの酸処理に使用される酸または酸水溶液としては、無機酸、有機酸のいずれであってもよく、その種類は問わないが、たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの酸または酸水溶液が使用でき、酸の濃度は、およそ0.1〜5N(規定)とすることができる。ここで、「規定」は、溶液の単位体積中に含まれる溶質のグラム当量数によって溶液の濃度を表す単位である。また、上記の酸の中でも、特に、強酸を使用すると効率がよく、例えば、塩酸、硝酸が好ましく用いられる。
【0026】
そして、工程Bの酸処理は、鶏糞炭化物を十分に酸化することができれば、方法は特に限定されないが、例えば、鶏糞炭化物を酸水溶液に浸漬し、混合攪拌する方法は処理効率が高く好ましい。また、混合攪拌する方法以外にも、例えば、酸水溶液をスプレー噴霧する方法などを利用することもできる。なお、図1においては、混合攪拌による酸処理を例示している。
【0027】
さらに、例えば塩酸によって酸処理する場合、塩酸の使用量は、塩酸中の塩素の量として、鶏糞炭化物中に含まれるカルシウム1質量部に対し0.5から6質量部となるように調整されることが好ましく、さらに好ましい塩酸中の塩素の量は、カルシウム1質量部に対し1質量部から5質量部である。使用される塩素量が、前記範囲であることで、得られた活性炭中にカルシウムが残存することがないため、細孔が発達しやすく、比表面積が顕著に増加する。さらに、たとえば水処理などに該活性炭を応用した場合に、処理後の水のpHが高くなることもない。また、塩酸処理後の水洗に要する水の量を少量に抑えることができ、また水洗処理時間も短くなるため、コストを削減することができる。なお、鶏糞炭化物中のカルシウムの量は、例えば、原子吸光法を用いて算出することができる。
【0028】
そして、酸または酸水溶液による酸処理として塩酸を使用する場合、鶏糞炭化物を一定の容量の耐腐食性容器に所定量入れ、これに算出済みのカルシウムの1質量部に対し、0.5から6質量部の塩素を含有する塩酸を水で希釈して入れ、混合攪拌することで酸処理を行うことができる。このとき、固形物である鶏糞炭化物乾燥重量に対する塩酸と水の全体重量の比は、すなわち、固液比は、1:1〜60とするのが好ましい。塩酸溶液の比率が1を下回ると、塩酸濃度が高すぎて炭化物との接触反応が急激となり安全性に問題が出てくる懸念があり、60を超えると混合攪拌が長時間必要となるため、固液比は、1:1〜60とすることで、安全性および高い効率性が実現される。特に、固液比は、1:40程度が最も好ましく、この場合には、例えば、鶏糞炭化物1gに対して塩酸溶液の重量は40g程度となる。
【0029】
また、混合攪拌によって酸処理をする場合の条件として、処理時間や温度は、酸の濃度や炭化物の形状、大きさ、攪拌効率などの固液接触頻度により影響を受けるが、特に限定されない。ただ、処理温度を上げると処理速度は速くなるが、装置の腐蝕増大によるコスト面のデメリットや作業の安全性において問題が生じやすいことを考慮すれば、好適には常温で2時間程度の処理が好ましい。2時間を越えて処理した場合でも、比表面積のさらなる増大は認められない。
【0030】
このように、本発明の活性炭の製造方法によれば、鶏糞炭化物の細孔を発達させ、緻密な微細孔を形成することができるため、比表面積が800m/g以上の活性炭を得ることができ、吸着性等に優れた利用価値の高い活性炭を製造することができる。
【0031】
そして、この活性炭は、例えば、ろ過によって、容易に酸又は酸水溶液と分離することができ、また、用いた酸を希釈した希薄濃度の酸水溶液で活性炭を洗浄処理後、ろ過処理し、その後水洗することもできる。希薄濃度の酸水溶液で処理すると酸処理後の水洗工程が容易になると同時に、使用した酸の再利用も容易となり効率的となる。
【0032】
水洗処理は、得られる活性炭の用途ごとの規格値に応じて行えばよく、例えば、酸または酸水溶液処理後、一回の使用量が、ろ過した後の残存炭化物量の重量に対し40倍程度の量の工業用水または水道水で数回洗浄および、ろ過を繰り返すことによって行うことができる。また、活性炭の用途によっては、蒸留水やイオン交換水など使用することができる。
【0033】
以上の方法によれば、鶏糞炭化物を酸処理するという極めて簡便な方法により、細孔の発達が十分で、比表面積が大きく、したがって一般の活性炭と比較して遜色がない吸着性等を発揮する活性炭を製造することができるため、吸着剤、電極材、触媒担体などに、幅広く利用することができる。
【0034】
また、賦活剤として水蒸気や燃焼排ガス、炭酸ガスなどを用いる必要がなく、エネルギーコスト、設備コストを大幅に低減することができる。
【0035】
以下、実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
<実施例1>
水分30%の鶏糞100gを炭化炉に入れ、窒素雰囲気中で900℃にて10分間炭化した。得られた鶏糞炭化物は31gであり、その比表面積は34m/gであった。この鶏糞炭化物20gを1000mlフラスコに入れ、濃塩酸を水で希釈して1.5Nとした塩酸800mlを加えて混合し、常温にて2時間攪拌した。
【0037】
なお、原子吸光法により定量分析した結果、鶏糞炭化物20g中のカルシウムの量は8.5gであった。塩酸中の塩素量は、鶏糞炭化物中のカルシウム1質量部に対して5質量部である42.5gに調整されている。塩酸による混合攪拌処理後、混合液をろ紙を使用してろ過し、ろ紙上に鶏糞炭化物を得た。この炭化物を0.35Nの希塩酸800ml中でさらに2時間混合攪拌し、ろ過した。次に、1回に800mlの蒸留水を用いて3回洗浄、ろ過を繰り返し鶏糞を原料とした活性炭を製造した。この活性炭の比表面積は、1048m/gであり、市販の活性炭に比して遜色のないものであった。
<実施例2>
実施例1と同様にして得られた鶏糞炭化物20gを1000mlフラスコに入れ、0.3Nの塩酸800mlを加えて混合し、常温にて3時間攪拌した。このときの塩酸中の塩素量は、鶏糞炭化物中のカルシウム1質量部に対して1質量部に調整されている。塩酸による混合攪拌処理後、混合液をろ紙を使用してろ過し、ろ紙上に鶏糞炭化物を得た。該炭化物を1回に800mlの蒸留水で3回洗浄、ろ過を繰り返し、鶏糞からの活性炭を製造した。この活性炭の、比表面積は890m/gであり、市販の活性炭に比較して遜色のない特性値を示した。
【0038】
また、塩酸に代えて、硝酸による酸処理を行った場合にも、上記の実施例とほぼ同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る鶏糞を原料とした活性炭の製造方法の概略構成を例示するフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏糞炭化物を酸処理することを特徴とする活性炭製造方法。
【請求項2】
少なくとも、以下の工程、
A) 鶏糞または鶏糞由来物を加熱処理して、鶏糞炭化物を生成する工程、
B) 前記工程A)で生成された鶏糞炭化物を酸処理する工程、
を含むことを特徴とする活性炭製造方法。
【請求項3】
酸処理は、酸又は酸水溶液中で鶏糞炭化物を混合攪拌する処理であることを特徴とする請求項1または2の活性炭製造方法。
【請求項4】
酸処理は、塩酸で処理することを特徴とする請求項1から3のいずれかの活性炭製造方法。
【請求項5】
塩酸中の塩素の量が、鶏糞炭化物中に存在するカルシウム1質量部に対し、0.5質量部から6質量部であることを特徴とする請求項4の活性炭製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−116278(P2010−116278A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289194(P2008−289194)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】