説明

麦類の増収方法

【課題】麦類の増収効果を高める優れた栽培方法を提供する。
【解決手段】炭素数10〜22の炭化水素基を有する特定構造の化合物(A)及び界面活性剤(B)を含有し特定の接触角を与える処理液を、分げつ期、幼穂形成期及び止葉期の3時期のうちの何れかに少なくとも1回、麦類の地上部に施用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦、大麦等の麦類の増収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の生長を促進し、単位面積当たりの収穫量を増やして増収することは農業生産上重要な課題である。通常、植物の生長に不可欠な窒素、リン、カリウムの三大要素や微量金属元素等の栄養素は、元肥や追肥に配合されて植物に供給されるが、一般に施肥量を高めても農作物の生長量や収量の向上には限界がある。また、播種量を増やして単位面積当たりの生育株数を増加させて目的を達成しようとしても、徒長を招いて倒伏の危険性が高まるばかりか、収量が頭打ちになることが知られている。このような状況から、植物の成長促進を目的とした薬剤を併用することが行われている。
【0003】
植物の成長促進や収量増加を目的とした例としては、オリゴ糖を用いた葉面散布剤(特許文献1)や糖、ミネラル、アミノ酸、海藻抽出物や微生物の発酵エキスを含んだ液状肥料を葉面散布したり、溶液追肥するような技術が挙げられる。更に、特許文献2には炭素数30の直鎖アルコールを植物成長促進剤として用いることが開示され、また特許文献3には炭素数12〜24の1価アルコールと界面活性剤からなる植物活力剤が開示されている。また、特許文献4には炭素数12〜24の1価アルコール等の特定化合物からなる農作物用増収剤が開示されている。
【特許文献1】特開平9−322647号
【特許文献2】特開昭55−40674号
【特許文献3】特開2000−198703号
【特許文献4】特開2002−265305号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、麦類は葉面の撥水性が非常に高く、前記記載の化合物を散布しても付着しにくいという根本的課題がある。つまり、濡れ性を考慮して処理しないと効率的に付着させることができないばかりか、効果が十分に発揮されない結果となる。また、濡れ性を向上させ過ぎると葉面から液垂れしてしまい、植物体に対する付着量を低下させてしまう。従って、麦類に液剤を効率的に作用させるには、濡れ性を制御して施用することが重要である。
【0005】
以上を考慮して先行技術を精査してみると、特許文献2では、界面活性剤は、炭素数30の直鎖アルコールの植物成長作用を低下させると記述されている(4頁左上欄5〜9行)。また、特許文献3では、所定の植物活力剤を麦類にも使用が可能である旨の記述はあるものの、増収効果をさらに増大させる散布処理液の物性や麦類の処理ステージに関する言及はなく、実施例にも記載は見当たらない。特許文献4に関しても同様である。つまり、麦類の葉面の濡れ性や施用時期を考慮した増収のための改良技術は従来提案されていない。
【0006】
本発明の課題は、麦類への濡れ性を制御することで顕著な増収効果をもたらす、麦類の優れた増収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物(A)及び界面活性剤(B)を含有し、かつ葉面に対する接触角が10〜100°である処理液を、分げつ期、幼穂形成期及び止葉期の3時期のうちの何れかに少なくとも1回、麦類の地上部に対して施用する、麦類の増収方法に関する。
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R1は炭素数10〜22の炭化水素基、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜24の炭化水素基、R3は水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定的に顕著な増収効果が達成される麦類の増収方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<化合物(A)>
一般式(1)において、R1、R2、R3の炭化水素基はそれぞれ飽和、不飽和の何れでも良いが、好ましくは飽和であり、また直鎖、分岐鎖、環状の何れでも良いが、好ましくは直鎖または分岐鎖、特に好ましくは直鎖である。また、炭化水素基の総炭素数は奇数でも偶数でも良いが、偶数が好ましい。
【0012】
また、R1、R2、R3の炭素数の合計は、何れも50以下が好ましく、より好ましくは12〜48、更に好ましくは16〜44である。
【0013】
一般式(1)において、R1の炭素数は14〜22が好ましく、より好ましくは14〜20、更に好ましくは14〜18である。また、一般式(1)で表される化合物は、総炭素数が12〜48、更に16〜28、特に16〜24であることが好ましい。更に、総炭素数が12〜24で水酸基を1個有するものが好ましく、特に総炭素数が16〜22で水酸基を1個有するものが好ましい。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
【0014】
(A1)
CH3(CH2)o-1OH(oは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される1−アルカノールが挙げられる。すなわち、一般式(1)で表される化合物として、炭素数12〜24の1価アルコールが挙げられる。具体的には、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノール、1−ノナデカノール、1−イコサノール、1−ヘンイコサノール、1−ドコサノール、1−トリコサノール、1−テトラコサノールが挙げられる。
【0015】
(A2)
CH3CH(OH)(CH2)p-3CH3(pは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される2−アルカノールが挙げられる。具体的には、2−ドデカノール、2−トリデカノール、2−テトラデカノール、2−ペンタデカノール、2−ヘキサデカノール、2−ヘプタデカノール、2−オクタデカノール、2−ノナデカノール、2−イコサノール等が挙げられる。
【0016】
(A3)
CH2=CH(CH2)q-2OH(qは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される末端不飽和アルコールが挙げられる。具体的には、11−ドデセン−1−オール、12−トリデセン−1−オール、15−ヘキサデセン−1−オール等が挙げられる。
【0017】
(A4)
その他の不飽和長鎖アルコールとして、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、エレオステアリルアルコール(α又はβ)、リシノイルアルコール等が挙げられる。
【0018】
(A5)
HOCH2CH(OH)(CH2)r-2H(rは12〜24、好ましくは16〜24、更に好ましくは16〜20の整数)で表される1,2−ジオールが挙げられる。具体的には、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール等が挙げられる。
【0019】
上記(A1)〜(A5)のうち、(A1)、(A2)、(A4)、(A5)が好ましく、(A1)、(A2)、(A4)がより好ましく、(A1)、(A4)が更に好ましく、(A1)が特に好ましい。
【0020】
本発明において、化合物(A)の麦類への施用は、化合物(A)を含有する処理液(以下、処理液という)を用いて茎葉散布する方法において行うことができる。処理液中の化合物(A)の濃度は、10〜2000ppm(重量比、以下同様)、好ましくは10〜1000ppm、より好ましくは50〜1000ppm、特に好ましくは100〜1000ppmに希釈されて施用されることが望ましい。
【0021】
<界面活性剤(B)>
界面活性剤(B)は前記化合物(A)の乳化、分散、可溶化または浸透促進効果も付与するが、主には、処理液に所定の接触角を与え、麦類の茎葉部に対する濡れ性改善の目的で用いられる。
【0022】
化合物(A)と界面活性剤(B)の重量比は、麦類の生育促進効果を安定的に発現させる観点から、化合物(A)/界面活性剤(B)=1/20〜20/1が好ましく、1/10〜10/1がより好ましく、1/5〜5/1が更に好ましく、1/5〜1/1が特に好ましい。
【0023】
本発明に用いられる界面活性剤(B)としては、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましく、2種以上を使用すると、処理液に適度な濡れ性を付与できることから、より好ましい。
【0024】
非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレン樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、アルキル(ポリ)グリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(ポリ)グリコシド、アルキルアルカノールアミド、糖系脂肪酸アミド、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。ここで、糖系脂肪酸アミドとしては、糖又は糖アルコールに疎水基がアミド結合した構造を有するもの、例えばグルコースやフルクトースの脂肪酸アミド等の糖系脂肪酸アミドが挙げられる。また、アミノ基を有する糖又は糖アルコールに疎水基がアミド結合した構造を有するもの、例えばN-メチルグルカミンの脂肪酸アミド等の糖系脂肪酸アミドを用いることもできる。非イオン界面活性剤としては、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤およびエステル基含有非イオン界面活性剤、またはポリエーテル変性シリコーンから選ばれる一種以上が好ましい。具体的には、ポリオキシアルキレン(特にエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン(特にエチレン)樹脂酸エステル、樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレン(特にエチレン)アルキルエーテル、ポリオキシエチレン変性ヘプタメチルトリシロキサンが好ましい。
【0025】
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、酢酸塩系、硫酸エステル系およびリン酸エステル系界面活性剤が挙げられるが、カルボン酸系及びリン酸エステル系界面活性剤から選ばれる一種以上が好ましい。
【0026】
カルボン酸系界面活性剤としては、例えば炭素数6〜30の脂肪酸又はその塩、多価カルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩、エステル化化工澱粉(例えば、オクテニルコハク酸澱粉等)等が挙げられる。
【0027】
スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸の縮合物塩、ナフタレンスルホン酸の縮合物塩、パーフルオロオクタンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0028】
酢酸塩系界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンアルキル酢酸塩が挙げられる。
【0029】
硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩、アルキルポリグリコシド硫酸塩等が挙げられる。
【0030】
リン酸エステル系界面活性剤として、例えばアルキルリン酸エステル塩、アルキルフェニルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩等が挙げられる。
塩としては、例えば金属塩(Na、K、Ca、Mg、Zn等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。
【0031】
両性界面活性剤としては、アミノ酸系、ベタイン系、イミダゾリン系、アミンオキサイド系が挙げられる。
【0032】
アミノ酸系としては、例えばアシルアミノ酸塩、アシルサルコシン酸塩、アシロイルメチルアミノプロピオン酸塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アシルアミドエチルヒドロキシエチルメチルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0033】
ベタイン系としては、アルキルジメチルベタイン、アルキルヒドロキシエチルベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、リシノレイン酸アミドプロピルジメチルカルボキシメチルアンモニアベタイン等が挙げられる。
【0034】
イミダゾリン系としては、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルエトキシカルボキシメチルイミダゾリウムベタイン等が挙げられる。
【0035】
アミンオキサイド系としては、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0036】
上記界面活性剤は一種でも、二種以上混合して使用しても良い。また、上記界面活性剤は濡れ性を向上させる目的において、表面張力の低い界面活性剤が1種以上混合されることが望ましい。また、これらの界面活性剤がポリオキシアルキレン基を含む場合は、好ましくはポリオキシエチレン(以下、POEと略記する)基を有し、その平均付加モル数が1〜50であることが挙げられる。
【0037】
界面活性剤としては、エステル基含有非イオン界面活性剤、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、カルボン酸系陰イオン界面活性剤及びリン酸系陰イオン界面活性剤から選ばれる一種以上が好ましい。特に、エステル基含有非イオン界面活性剤及び窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンから選ばれる一種以上が好ましい。
【0038】
<接触角>
処理液の濡れ性は実際の麦葉表面に対する処理液の接触角で表され、本発明で用いられる処理液の葉面に対する接触角は10〜100°、好ましくは20〜90°、更に好ましくは30〜80°である。接触角が10°以上であれば液垂れせず、付着量も十分となるため好ましい。また、100°以下では濡れ性が十分となり、好ましい。本発明における麦葉表面に対する処理液の接触角は、以下の方法により測定されたものである。接触角は、主として、界面活性剤(B)の種類、配合量などにより調整できる。
【0039】
<接触角の測定方法>
接触角の測定には、分げつ数5の苗から採取した麦葉を用いる。当該麦葉の裏面をスライドガラスに貼付して表面が露出するよう設置した後、水平方向にレンズ倍率50倍に設定したデジタルマイクロスコープ〔(株)キーエンス製〕をセットし、マイクロシリンジ〔MS−E10、(株)伊藤製作所製〕を用いて、25℃において、葉面の葉脈を避けた長さ方向の中央近傍に処理液を1滴滴下する。滴下直後の液滴を撮影し、空気/処理液/葉面の3相の接触点から引いた液滴の接線と葉面のなす処理液側の角度を求め、接触角とする。葉脈部分は、構造的に処理液が液滴となりにくいため、この部分を避けて接触角を測定する。
【0040】
上記接触角の測定は、通常は処理液で処理する麦と同じ品種について行うが、他の品種で測定してもよい。また、圃場(野外)で栽培された麦について接触角を測定することが好ましいが、温室中にて育苗された麦について接触角を測定してもよい。
【0041】
本発明では、上記化合物(A)と界面活性剤(B)の他に、キレート剤(C)および肥料(D)の少なくとも1つを併用することが望ましい。
【0042】
<キレート剤(C)>
本発明に用いられるキレート剤(C)として、以下のようなキレート能を有する有機酸又はその塩を併用すると、農作物の増収効果がさらに改善される。本発明に用いられるキレート剤としては、具体的にはクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、ヘプトン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸等のオキシカルボン酸、多価カルボン酸や、これらのカリウム塩、ナトリウム塩、アルカノールアミン塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。また、有機酸以外のキレート剤の混合でも農作物の収量が改善される。混合するキレート剤としてEDTA、NTA、CDTA等のアミノカルボン酸系キレート剤が挙げられる。
【0043】
<肥料(D)>
また、肥料(D)としては、具体的には、N、P、K、Ca、Mg、S、B、Fe、Mn、Cu、Zn、Mo、Cl、Si、Na等、特にN、P、K、Ca、Mgの供給源となる無機物及び有機物が挙げられる。そのような無機物としては、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、尿素、炭酸アンモニウム、リン酸カリウム、過リン酸石灰、熔成リン肥(3MgO・CaO・P25・3CaSiO2)、硫酸カリウム、塩カリ、硝酸石灰、消石灰、炭酸石灰、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。また、有機物としては、鶏フン、牛フン、バーク堆肥、アミノ酸、ペプトン、ミエキ、発酵エキス、有機酸(クエン酸、グルコン酸、コハク酸等)のカルシウム塩、脂肪酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、カプリル酸、カプリン酸、カプロン酸等)のカルシウム塩等が挙げられる。これら肥料成分は界面活性剤と併用することもできる。土壌中に元肥として肥料成分が十分施用されている場合にはあえて配合する必要はない。また、養液土耕や水耕栽培のように元肥の過剰施用を避け肥料成分をかん水と同じに与えるようなタイプの栽培形態には肥料成分を配合することが好ましい。
【0044】
前記化合物(A)とキレート剤(C)の重量比は麦類の生育促進及び肥料吸収率向上の観点から、化合物(A)/キレート剤(C)=1/100〜500/1が好ましく、1/10〜100/1がより好ましく、1/3〜10/1が特に好ましい。
【0045】
上記キレート剤(C)および肥料(D)やその他の栄養源などは、適宜処理液中に配合して施用することも、あるいはそのまま施用することも、更にはこれらを組み合わせた形態で施用することもできる。
【0046】
本発明に用いられる処理液は、本発明の化合物(A)、界面活性剤(B)及びその他の成分を含む組成物(液体、フロワブル、ペースト、水和剤、粒剤、粉剤、錠剤等の形態)をそのまま或いは適宜水で希釈して得られる。処理液中の本発明に係る化合物(A)濃度は、10〜2000ppm、更に10〜1000ppm、特に10〜500ppmが好ましく、水分散液あるいは乳化液等の形態で麦類の葉面および茎部へ散布される。
【0047】
<施用時期>
本発明では、麦類の分げつ期、幼穂形成期、止葉期の3時期のうちの何れかに、少なくとも1回、本発明に係る処理液を麦類の地上部に施用する。分げつ期に少なくとも1回、更に2回以上施用することが好ましい。
【0048】
麦類の生育ステージは種類や地方によって呼び名が違い、また寒冷地では雪の下に埋まって生育が遅延する「越冬期」を挟む場合がある。例えば、北海道での小麦の栽培には発芽期、分げつ期、越冬期、起生期、幼穂形成期、止葉期、出穂期、開花期、登熟期、成熟期という生育ステージがあるが、起生期では雪解け後に分げつが再び盛んになるという観点からすると、分げつ期の一部と言える。また、止葉期は幼穂形成期から出穂期の間のステージであり、他所(他種)では節間伸長期と表記することもある。
【0049】
北海道の生育ステージで表現すると、好ましい施用時期は分げつ期(起生期を含む)、幼穂形成期、止葉期であり、より好ましくは分げつ期(起生期を含む)と幼穂形成期、特に好ましくは分げつ期(起生期を含む)である。処理液中の化合物(A)および界面活性剤(B)の濃度は、上記各ステージにおいて前記範囲内の処理濃度で一定の濃度で散布してもよく、濃度を変動させて散布しても良い。
【0050】
本発明の方法を適用できる麦類としては小麦、二条大麦、六条大麦、ライ麦、エンバクが挙げられる。中でも、小麦と二条大麦が好適である。これら麦類の分類は、「転作全書第1巻 ムギ」(2001年3月10日、社団法人農山漁村文化協会発行)を参照できる。
【0051】
本発明の処理液の地上部への施用により効率的に麦類を増収できる理由は明確ではないが、本発明の処理液が元来濡れにくい麦類の地上部に適用されると、処理液の被覆面積が向上するばかりでなく効率的に付着し、化合物(A)の吸着量および吸着面積を増大させることに起因すると考えられる。その結果、化合物(A)の吸着によって生じる適度な刺激が引き金となり、麦類内で植物生長ホルモンであるオーキシン等が増大したため発根が促進され、増収に寄与したと推察される。
【実施例】
【0052】
表1に以下の実施例および比較例で用いた処理液(残部は水)の組成を示す。なお、(B)成分のPOEはポリオキシエチレン基を示し、( )内の数字はエチレンオキシドの平均付加モル数を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1
畝間30cm、播幅10cmの条件にて小麦種子(品種:ホクシン)を6kg/10a播種した。基肥として10a当たり窒素、りん酸、カリウムがそれぞれ6kgになるように施肥した。苗が生育して所定栽培ステージに到達した後、表1に示す種類、組成の成分から、表2に示した濃度で(A)成分を含有する処理液を調製し、100L/10aの散布水量で茎葉に噴霧処理した。なお、化合物(A)を含まないものは(B)成分〔(B)界面活性剤〕が500ppmとなる濃度に調整して用いた。また、試験株の反復は各試験区12株とした。分げつ後期および出穂初期に窒素で各3kg/10aになるように追肥後、収穫適期に収穫を行い、小麦の収量を調査した。各処理区の収量は無処理を100とした時の相対値として表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例2
畝間30cm、播幅10cmの条件にて二条大麦種子(品種:ミカモゴールデン)を6kg/10a播種した。基肥として10a当たり窒素、りん酸、カリウムがそれぞれ6kgになるように施肥した。苗が生育して所定栽培ステージに到達した後、表1に示す種類、組成の成分から、表2に示した濃度で(A)成分を含有する処理液を調製し、100L/10aの散布水量で茎葉に噴霧処理した。なお、化合物(A)を含まないものは(B)成分〔(B)界面活性剤〕が500ppmとなる濃度に調整して用いた。また、試験株の反復は各試験区12株とした。分げつ後期および出穂初期に窒素で各3kg/10aになるように追肥後、収穫適期に収穫を行い、大麦の収量を調査した。各処理区の収量は無処理を100とした時の相対値として表2に示す。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物(A)及び界面活性剤(B)を含有し、かつ葉面に対する接触角が10〜100°である処理液を、分げつ期、幼穂形成期及び止葉期の3時期のうちの何れかに少なくとも1回、麦類の地上部に対して施用する、麦類の増収方法。
【化1】


(式中、R1は炭素数10〜22の炭化水素基、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜24の炭化水素基、R3は水素原子又は炭素数1〜24の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
化合物(A)の処理液中での濃度が10〜2,000ppmである請求項1記載の麦類の増収方法。
【請求項3】
化合物(A)及び界面活性剤(B)を含有する処理液を、分げつ期に少なくとも1回施用する請求項1又は2記載の麦類の増収方法。
【請求項4】
化合物(A)が、一般式(1)中のR2、R3がそれぞれ水素原子の化合物である請求項1〜3の何れか1項記載の麦類の増収方法。
【請求項5】
前記処理液が、更に、キレート剤(C)及び肥料(D)から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1〜4の何れか1項記載の麦類の増収方法。
【請求項6】
前記処理液の接触角が20〜90°である請求項1〜5の何れか1項記載の麦類の増収方法。

【公開番号】特開2008−141967(P2008−141967A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329650(P2006−329650)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】