説明

麹の製造方法並びに玄米麹及び加工食品

【課題】 この発明は、麹菌の繁殖しにくい未精白穀類で、麹を製造する方法を提供する事を目的としている。
【解決手段】 未精白穀類1を、掻傷4が表皮2から胚乳3に達するよう形成された、精白度4%以内の掻傷製傷化穀類5とする工程と、該掻傷製傷化穀類5を原料として蒸煮し、これに麹菌を接種・繁殖させて製麹後、凍結乾燥する行程の結合からなる、麹の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穀類麹の製造方法並びに玄米麹及び加工食品に係り、特に精白度2%以内の製傷化穀類を原料として使用する、穀類麹の製造方法並びにその方法で製造される麹及び加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麹は穀類のデンプン質を栄養として、麹菌が穀類に繁殖したものである。用途として、清酒、味噌、醤油など発酵食品の原料として使用されている。その代表的な物としては、精白米を使用した米麹がある。
精白米は、玄米の表皮(果皮、種皮)・胚芽を削り取ったもので、胚乳部分である。
一般に、米糠と称される表皮・胚芽には、多くのビタミン、ミネラル、フイチン酸などの栄養成分が豊富に含まれており、精白米は玄米と比較して栄養成分に劣る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の米麹では、玄米に含まれるような栄養成分が、十分に利用出来ないという難点がある。このことは米に限らず、麹製造の他の穀類原料(小麦、蕎麦等)においても当てはまる。
また従来、玄米麹と呼ばれているものが存在しているが、これは玄米の精米歩合を下げているだけのものであり、表皮、胚芽に含まれる栄養成分が削り落とされている。
一方、麹の原料として、玄米のように表皮を硬い皮で覆われていると、蒸し工程において原料が含む水分の行き渡りが不十分であり、また麹菌が硬い皮から穀類内部のデンプン質(胚乳)にたどり着くことが困難になり、繁殖しにくいから、これが栄養豊富な玄米の麹の製造を困難にしている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、玄米の表面に溝状の掻傷を付けることで、従来の精白米を原料とした米麹と変わらない菌体量を保持しつつ、従来の米麹と比較して、玄米に由来する豊富な栄養成分を持った玄米麹を、製造できる事をみいだした。
またこの方法により、他の穀類でも、原形を保持した状態で、麹の製造が可能であることをみいだし、本発明を完成した。具体的な発明の内容は次のとおり。
【0005】
(1) 未精白穀類を、掻傷が皮から胚乳に達するよう形成された、精白度4%以内の掻傷製傷化穀類とする工程と、該掻傷製傷化穀類を原料として蒸煮し、これに麹菌を接種・繁殖させて製麹後、凍結乾燥する行程の結合からなる、麹の製造方法。
【0006】
(2) 前記掻傷製傷化穀類とする工程は、縦軸回転ミキサーで行い、ミキサー刃による掻傷が、表皮から胚乳に達するよう形成される、前記(1)に記載された麹の製造方法
【0007】
(3) 前記未精白穀類が玄米である、前記(1)(2)の何れかに記載された麹の製造方法。
【0008】
(4) 掻傷が表皮から胚乳に達するよう形成された、精白度4%以内の掻傷製傷化玄米の麹であって、製麹直後に凍結乾燥されて、脱水跡部に無数の気泡・空泡腔が形成されている、玄米麹。
【0009】
(5) 掻傷を表皮から胚乳に達するよう形成された、精白度4%以内の掻傷製傷化玄米の麹であって、製麹後に凍結乾燥されて、無数の気泡・空泡腔が形成されている玄米麹を、そのままか粉体の原料として加工されている、麹加工食品。
【発明の効果】
【0010】
1.前記(1)に記載された発明の麹の製造方法は、未精白穀類、例えば玄米の表面に掻傷が、表皮から胚乳に達するよう形成されているので、掻傷は溝状で部分的であり、表皮を全体的に剥ぐものではないので、表皮の栄養分を捨てることがない。
掻傷は表皮から胚乳に達するように深い溝状に形成されているので、この掻傷製傷化玄米は、蒸すと掻傷部分が暴露される。
従って、これに麹菌を撒布植菌して麹菌の培養をすると、麹菌は該掻傷部分から胚乳の奥深く侵入していくため、容易に完全な麹にすることができる効果がある。
【0011】
2. 前記(2)に記載された発明の麹の製造方法は、縦軸回転ミキサーで玄米の掻傷製傷化を行うので、精米機によるものとは異なり、玄米の表皮を全体的に剥ぐことはなく、切傷のような溝状の掻傷が、胚乳に達するように形成されるため、掻傷から麹菌が胚乳に入って繁殖することから、製麹が容易になる効果がある。
【0012】
3. 前記(3)に記載された発明の麹の製造方法は、素材が玄米である。従来、玄米は七歩搗きでも、表皮が全体に剥がれるために、表皮はなお全体を覆われており、麹菌が中に入りにくく、玄米麹の製造は無理であった。
本方法によると、玄米であっても、表皮に胚乳に達する掻傷が形成されてから、蒸されて、麹菌が植菌されるため、麹菌は柔らかな掻傷部分から胚乳の内奥まで容易に侵入することができることから、完全な玄米麹を容易に製造することができる。
【0013】
4. 前記(4)に記載された発明の玄米麹は、表皮の大半が含まれており、表皮の栄養分を十分に利用することができる。冷凍乾燥をしてあり、脱水跡部に気泡・空泡腔が形成されているために、自然乾燥の麹のように硬質でなく、口の中で唾液で容解するので、そのまま食べることも出来る。粉末にしやすく、健康補助食品、栄養食品、調味料、食品材その他の広い分野に利用することができる。
【0014】
5. 前記(5)に記載された発明の麹加工食品は、表皮の付いた穀物の麹を加工するものなので、穀物の表皮に含まれるミネラルその他の栄養素を、加工食品に十分に利用することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
未精白穀類の表面に、精白度4%以内の掻傷による製傷をして麹を造る。製麹の後、麹を凍結乾燥する。
【実施例1】
【0016】
本願発明の実施例1を説明する。まず玄米麹の製造方法を説明する。
1. 玄米表面の製傷化
原料として玄米(うるち米)の表面を製傷する。100gの玄米を、縦軸回転ミキサーで、100vの電流を40%にして1分30秒間回転させる。ミキサーの刃は水平方向へ2枚羽根が適している。この条件では玄米の胚芽は除去されない強度で、玄米の表面に溝状の掻傷を形成させることができる。
【0017】
玄米1の表面への製傷化処理により、玄米1は図1に示すように、ミキサーの刃に掻かれて、溝状の掻傷4が、表皮2から中の胚乳3に達するまで形成される。この行程による表皮2の掻取を4%以下、好ましくは、表皮2の掻取りを2%以下にとどめる。
これによって、玄米の米粒は98%以上の歩留まりとする。この形態での製傷化玄米5は、胚芽3が損傷されにくいので、発芽することが確認されている。
【0018】
玄米の定義は、歩留まり96%以上(五訂食品成分表)をいうので、本方法の製傷化米は玄米の定義に合致している。
また玄米の表皮は全体の8%にあたり、普通の精米において、5歩搗きは、表面から平均的な厚さで表皮を削るものなので、例えば4歩搗き玄米でも、表皮は平均した厚みで被着されている。その結果、麹菌が表皮を食い破ることが困難で麹が出来にくい。
【0019】
その点、本方法によると、図1に示すように、溝状の掻傷4が表皮2から胚乳3にまで達して、掻傷4から杯乳3が露出しているので、この玄米1を蒸すと掻傷4部分が暴露しており、この蒸し玄米に対して、培養床において麹菌を撒布植菌すると、この掻傷4部分に取りついた麹菌は、柔らかな胚乳3の奥深く侵入して良好な玄米麹ができる。
そして、掻傷4以外の部分では、玄米に表皮2が付着しているので、表皮2部分の栄養分を麹に活用することができる。
【0020】
2. 浸漬工程
精白度2%以内の製傷化玄米5を、10〜20℃の水を用いて洗米し浸漬する。浸漬時間は、24時間以内とする。
水温として25℃以上では、不快臭を生じたり、発芽したりして適切な含水となるように浸漬が不可能となる。
水温4℃以下では、予定の含水量にするための時間が、48時間を超えるので不可能である。
製傷化玄米を24時間浸漬すると、水分含有量はおよそ30%〜35%となる。
【0021】
3. 水切り工程
水に浸漬後、玄米をザルにあげて30分ほど水切りをする。
水切りの場所は、室温付近(10℃〜20℃)の温度の有る所で実施する。
水切りは、4℃以下の凍結するような所では実施しない。
【0022】
4. 蒸煮工程
沸騰水を用いた蒸し器にて蒸す。蒸煮時間は、蒸煮中の浸漬玄米から蒸気が確認出来てから30分間とする。
蒸煮中のお湯(沸騰水)や蒸煮中の浸漬後の玄米の温度は100℃とする。
オートクレープや炊飯器は、良好な水分分布とならず、目的物の製造には適さない。
【0023】
5. 放冷工程
蒸し器から培養トレイに取出した蒸し玄米は、トレイ一面に均厚に広げる。これを室温20℃以下の空気にて急冷する。放冷時間は1時間以内とし、蒸し玄米の温度を35℃までさげる。放冷後の蒸し玄米温度は30℃〜35℃の範囲にする。
200×250×40cmのトレイを使用の際は、200gの蒸し玄米を入れることができる。
【0024】
6.植菌工程
植菌する麹菌の胞子量は、基質量に対して0.1%とする(市販品の状態で)。
植菌は、胞子が全面に行きわたるように植菌する。
使用する麹菌は、A.oryzae.A.kawachii等、穀類に含まれるデンプンを資化できる麹菌を適用する。
【0025】
7.培養工程
培養室の室温は30℃〜±2℃に維持し、培養床上の培養トレイにおける、蒸し玄米の品温を30℃で開始し48時間培養する。
培養開始から24時間までは、トレイ(200×250×40cm)の1/3程度に広げて、品温32℃〜34℃程度に維持して培養する。
24時間経過で全体を撹拌する。培養24時間〜28時間までは、トレイ(200×250×40cm)の2/3程度に広げて、品温35℃程度に維持して培養する。
28時間経過で、全体を撹拌する。28時間から32時間までは、トレイ(200×250×40cm)の全面に広げて、品温36℃程度に維持して培養する。
32時間で、全体を撹拌する。培養32時間から48時間までは、トレイ(200×250×40cm)の全面に広げて、品温40℃以下に維持して培養する。
原料由来の蒸発水分を除去するために、トレイの蓋を1/3開放する。
【0026】
8.乾燥工程
出来上った玄米麹を、冷凍乾燥機(共和真空技術株式会社製・RLE−11−102)に収容し、ー30℃で24時間、冷凍乾燥する。これにより、麹菌は冷凍による虐待を受けるが、玄米麹の酵素は触媒作用を失活されない。
玄米麹の形状は、凍結乾燥のため、水分が氷となり、その氷が溶解して外部に出ているので、脱水跡部位に無数の気泡・空泡腔が、スポンジのように形成されており、甘みの有るヒナアラレのような食感で、玄米が水で膨張したままの大きな形(長さ6mm〜7mm)で乾燥されており、粉末にしやすく、水に溶け易いものとなった。
【0027】
9.製品
完成品の玄米麹の含有水分は、室内の湿気により、平均的に6%であった。従来の米麹は、風乾仕上げなので、モチの表面が硬化するように引締って硬くなっているため、食品として直接食べることには難があり、また粉末にしにくかった。
本製法による玄米麹は、スポンジのように内部に気泡・空泡腔が形成されているため、口の中に入れるとヒナアラレのように唾液で溶けて、容易に食べることができ、粉末に容易にすることが出来た。
【0028】
製品分析により、玄米麹の麹菌菌体含有量は10mg/g原料、となっており、これは清酒用麹の4〜6mg/g原料(岩野ら、醸協、99,55ー63、2004)よりも、著しく多く麹菌菌体が含有されていることが確認された。
従来の米麹は硬く締まり、粉砕、破砕に難があり、麹菌の産成した酵素を効率的に利用することも難しかったが、本品は簡単に粉末として利用できるので、利用範囲が広がる。
【実施例2】
【0029】
本発明は、麦、蕎麦等玄米以外の穀類にも実施することができる。例えば蕎麦の場合は、次の通りである。
外皮を剥離した黒い玄蕎麦を、前記同様にミキサーにより、製傷化処理をして、米同様に麹とする。製麹後に、冷凍乾燥を前例のように行う。これにより、型くずれのしない玄蕎麦の麹が製造される。玄蕎麦麹は玄米麹と混用して、加工食品にすることができる。
【実施例3】
【0030】
本発明麹は、発酵用途以外に、そのままか或いは粉体にしてから、加工食品にすることができる。
例えば粒状態で、玄米麹100部に対して、黄粉200部と、結着剤としてオリゴ糖10部とを混合して、型に収容し、硬化させた。
これを1辺1cmの立方体にし、健康補助食品とした。この場合、玄米麹の酵素を失活させない範囲の温度(46度以下)で麹菌を殺菌した。
この食品は食べ易く、これを食べると、胃腸の中で大豆のタンパク質等を、玄米麹に含有されている、麹菌由来の酵素が低分子に分解するので、消化しやすく、大豆と玄米の栄養素を容易に摂ることができる。
【0031】
玄米麹の粉末を20部、黄粉50部、乾燥野菜粉28部に、適度の賦形剤を混合して顆粒とした健康補助食品とした。
この食品は食べ易く、これを食べると、胃腸の中で大豆のタンパク質、植物繊維等を、玄米麹の麹菌由来の酵素が低分子に分解するので、消化しやすく、それぞれの栄養素を容易に摂ることができる。
【0032】
玄米麹の粉末を100部に、香辛料、イノシトール、ウコン末を10%以内で配合して、調味料とした。これは焼肉、サラダなどに振りかけて食べるとき、麹の酵素が食べたものを低分子に分解するので、消化しやすい。またイノシトールやウコンなどの成分が肝臓の働きをたかめる。
【0033】
麹は製麹後、麹菌を生かした状態では、発酵用の麹として使用することができる。また玄米麹は澱粉質が糖化しているので、甘味料として使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
玄米麹では、白米麹にない栄養成分を含んでいる。そのままでも食べられ、粉末にしやすいので、発酵目的以外に、健康補助食品、栄養補助食品、甘味料などの分野に幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る、表面に掻傷を製傷した玄米の斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1.玄米
2.表皮
3.胚乳
4.掻傷
5.掻傷製傷化穀類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未精白穀類を、掻傷が表皮から胚乳に達するよう形成された、精白度4%以内の掻傷製傷化穀類とする工程と、該掻傷製傷化穀類を原料として蒸煮し、これに麹菌を接種・繁殖させて製麹後、凍結乾燥する行程の結合からなること、を特徴とする麹の製造方法。
【請求項2】
前記掻傷製傷化穀類とする工程は、縦軸回転ミキサーで行い、ミキサー刃による掻傷が、表皮から胚乳に達するよう形成されることを特徴とする、請求項1に記載された麹の製造方法。
【請求項3】
前記未精白穀類が、玄米であることを特徴とする請求項1.2の何れかに記載された麹の製造方法。
【請求項4】
掻傷が表皮から胚乳に達するよう形成された、精白度4%以内の掻傷製傷化玄米の麹であって、製麹直後に凍結乾燥されて、脱水跡部に無数の気泡・空泡腔が形成されていることを特徴とする玄米麹。
【請求項5】
掻傷が表皮から胚乳に達するよう形成された、精白度4%以内の掻傷製傷化玄米の麹であって、製麹後に凍結乾燥されて、無数の気泡・空泡腔が形成されている玄米麹を、そのままか粉体の原料として加工されていることを特徴とする麹加工食品。

【図1】
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