説明

麺類の製造方法

【課題】麺の食味を損なうことなく、麺線同士のほぐれ性を改善し、保存時の外観も損なわない蒸し麺類の製造方法を提供する。
【解決手段】食用油脂100重量部に対してHLB1〜6のソルビタン脂肪酸エステルを0.1〜5重量部を配合してなる油脂組成物を麺線に対して噴霧することで、麺の食味を損なうことなく、麺線同士のほぐれ性を改善し、保存時の外観も損なわない蒸し麺類の製造ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸し麺類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中華蒸し麺(焼きそば)、ゆでスパゲティなどの茹で・蒸し麺類は経時変化に伴い、麺線表面の糊化された澱粉の粘着性などによって、麺線同士が付着してほぐれにくくなるため、従来よりサラダ油や麺ほぐれ専用油などの油脂を麺にコーティングすることが行われている。一方、茹で麺類と蒸し麺類では、麺類に含まれる水分含量が大きく異なっている。つまり、茹で麺類に比べ、蒸し麺類の水分含量は低く、麺線同士が結着しやすく、従来の麺ほぐれ専用油では、蒸し麺類の調理時のほぐれ性を十分に得ることができなかった。そのため、ほぐれ性の良い商品を提供するには、蒸し麺類に適した油脂を麺にコーティングする必要がある。
【0003】
麺類のほぐれ性を改良することを目的とした油脂組成物には、油脂と乳化剤からなる油脂組成物を使用している。例えば、食用油脂、大豆レシチンおよび大豆レシチン以外の食品用乳化剤を配合してなる油脂組成物を噴霧する方法(特許文献1)が提案されている。しかし、淡白な麺類では、大豆レシチン特有の風味が好ましくない。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂を使用する方法(特許文献2)、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン酸エステルを含有する油脂を使用する方法(特許文献3)等が提案されている。しかし、これらの実施例では、茹で麺類での効果しか確認されておらず、蒸し麺類での効果は不明である。
また、同様に麺類のほぐれ性を改良する目的で、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびレシチンを含有する油脂を使用する方法(特許文献4)が提案されている。しかし、使用できる食用油脂の構成脂肪酸が限定的であり、また、蒸し麺についての効果は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57-14139号公報
【特許文献2】特開平7-39332号公報
【特許文献3】特開2006-6132号公報
【特許文献4】特開平11‐221033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、風味を損なわずに、十分なほぐれ性の効果を得られない問題点に鑑みて、麺の食味を損なうことなく、麺線同士のほぐれ性を改善し、保存時の外観も損なわない蒸し麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、食用油脂に、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)1〜6のソルビタン脂肪酸エステルを所定量配合した油脂組成物を蒸し麺に噴霧して製造することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、食用油脂100重量部に対してHLB1〜6のソルビタン脂肪酸エステルを0.1〜5重量部を配合してなる油脂組成物を麺線に対して噴霧することを特徴とする麺類の製造方法である。
【0008】
前記ソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸がオレイン酸であることが好ましい。
【0009】
前記麺類が蒸し麺であることが好ましい。
【0010】
本発明は、また、上記製造方法で得られた麺類を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法では、麺同士のほぐれ性が著しく向上し、食味が優れ、保存時の外観が損なわれない蒸し麺を得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の麺類の製造方法は、食用油脂100重量部に対してHLB1〜6のソルビタン脂肪酸エステルを0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部配合した油脂組成物を麺線に噴霧する。油脂組成物におけるソルビタン脂肪酸エステルの配合量が、少なすぎるとほぐれ改良の効果は期待できず、多すぎると麺の風味を損ねてしまう。
本発明の麺類の製造方法における麺への油脂組成物の噴霧量は、麺重量に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。噴霧量が少なすぎるとほぐれの効果が乏しく、多すぎると麺が油っぽくなってしまい好ましくない。
【0013】
本発明に使用するソルビタン脂肪酸エステルはソルビトールの脱水物であるソルビタンと脂肪酸のエステルである。本発明に使用するソルビタン脂肪酸エステルはそのHLB値が1〜6である。
又、その構成する脂肪酸残基は炭素数が12〜22のものが好ましく、炭素鎖は飽和であっても不飽和であっても、又直鎖であっても分岐していてもかまわないが、より好ましくはオレイン酸であることが望ましい。
【0014】
本発明における食用油脂としては、一般に食用として使用される動植物油脂が用いられる。例えば大豆油、菜種油、ひまわり油、オリーブ油、ハイオレイック菜種油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、マカダミアナッツ油、コーン油、ハイリノールサフラワー油、ハイオレイック紅花油、ハイオレイックヒマワリ油、綿実油、米油等の植物油脂や牛脂、豚脂、羊脂、馬脂、魚油、乳脂等の動物油脂、さらにこれらの油脂に水素添加(硬化)、エステル交換、分別等の物理的、化学的、または酵素的処理をしたものを挙げることができる。これらの油脂を単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
本発明における麺類としては、焼きそば等の蒸し麺類、そば、うどん、スパゲティ等の茹で麺類、生中華麺等の生麺類が挙げられる。好ましくは、蒸し麺類であり、更に好ましくは焼きそばである。
【0016】
本発明においては、ソルビタン脂肪酸エステル以外の食用乳化剤も本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。そのような食用乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、アルキルグリコシド類、エリスリトール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチンなどがあり、これらを単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0018】
実施例および比較例で使用した蒸し麺は、一般的な製造方法で製造した。具体的には、以下に示すようにおこなった。
中力粉(日清製粉(株)社製、品名:白椿)100部、グルテン(グリコ栄養食品(株)社製、品名:AグルGX)1部、卵白粉(太陽化学(株)社製、品名:サンキララRS)1部に練り水39.53部(水36部、アルコール1部、キサンタンガム0.03部、食塩1部、粉末かんすい1.5部)を加え、真空ミキサーで14分間ミキシングした。次に生地を麺帯にし、複合を2回行い、麺帯を圧延した。20番の切歯にて切り出しをおこなった。麺を4分間蒸し、冷水で冷却後、油脂を噴霧した後、袋に入れて包装した。
【0019】
(実施例1〜5、比較例1〜7)
菜種油((株)J-オイルミルズ社製)100gに対し表1に示す乳化剤(g)を配合し、溶解させた油脂組成物を蒸し麺150gに対し3g噴霧し、蒸し麺を調製し、5℃において1週間保管した。
【0020】
【表1】

【0021】
(実施例6〜10、比較例8〜14)
コーン油((株)J-オイルミルズ社製)100gに対し表2に示す乳化剤(g)を配合し、溶解させた油脂組成物を蒸し麺150gに対し3g噴霧し、蒸し麺を調製し5℃において1週間保管した。
【0022】
【表2】

【0023】
(実施例11〜15、比較例15〜21)
ヨウ素価65のパームオレイン((株)J-オイルミルズ社製)100gに対し表3に示す乳化剤(g)を配合し、溶解させた油脂組成物を蒸し麺150gに対し3g噴霧し、蒸し麺を調製し5℃において1週間保管した。
【0024】
【表3】

【0025】
(実施例16〜20、比較例22〜28)
菜種油・コーン油の配合油(菜種油50部、コーン油50部)100gに対し表4に示す乳化剤(g)を配合し、溶解させた油脂組成物を蒸し麺150gに対し3g噴霧し、蒸し麺を調製し5℃において1週間保管した。
【0026】
【表4】

【0027】
(実施例21〜25、比較例29〜35)
菜種油・コーン油・パームオレイン(ヨウ素価65)の配合油(菜種油40部、コーン油40部、パームオレイン20部)100gに対し表5に示す乳化剤(g)を配合し、溶解させた油脂組成物を蒸し麺150gに対し3g噴霧し、本発明の実施例および比較例の蒸し麺を調製し5℃において1週間保管した。
【0028】
【表5】

【0029】
(実施例26〜28、比較例36〜38)
菜種油・コーン油の配合油(菜種油50部、コーン油50部)100gに対し表6に示す乳化剤(g)を配合し、溶解させた油脂組成物を蒸し麺150gに対し3g噴霧し、蒸し麺を調製し5℃において1週間保管した。
【0030】
【表6】

【0031】
(実施例29、比較例39〜42)
表7に示した重量(g)の油脂と乳化剤を配合し、溶解させた油脂組成物を蒸し麺150gに対し3g噴霧し、本発明の実施例および比較例の蒸し麺を調製し5℃において1週間保管した。
【0032】
【表7】

【0033】
〔保存中の外観評価〕
実施例および比較例の麺を1週間保管後の外観を目視にて評価した。評価としては、外観上問題ないものを◎、やや曇り等がみられるが製品として問題ないものを○、やや白濁傾向があるものを△、完全に白濁していたり、油脂が固化しているもの×とした。結果を表8に示す。
【0034】
〔ほぐれ性評価〕
熱したフライパンに菜種油10gを敷き、保存していた麺と水60ccを投入し、炒め、調理時および喫食時のほぐれ性、食味、保存時の外観について評価した。評価としては、非常に良いものを◎、普通のものを○、やや劣るものを△、悪いものを×とした。結果を表8に示す。
【0035】
【表8】

【0036】
(乳化剤の配合量)
表8の実施例1〜5、および比較例6、7で明らかなように乳化剤の配合量は、食用油脂100重量部に対し、0.1〜5重量部で効果が得られることがわかった。乳化剤の配合量の多い場合には、調理時および喫食時のほぐれ性は非常に良好であるものの、乳化剤の風味を強く感じ、食味は悪かった。乳化剤の添加量の少ない場合には、調理時および喫食時のほぐれ性は十分な効果を得られなかった。他の食用油脂でも同様の結果であり、食用油脂による差は見られなかった(実施例6〜25、比較例13、14、20、21、27、28、34、35)。
【0037】
(乳化剤の種類)
表8の比較例1、2で明らかなように、ソルビタン脂肪酸エステル以外の乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルでは、調理時のほぐれ性は実施例よりやや劣り、喫食時のほぐれ性も十分な効果を得られなかった。他の食用油脂でも同様の結果であり、食用油脂による差は見られなかった(比較例8、9、15、16、22、23、29、30)。
【0038】
(HLB)
表8の実施例26〜28および比較例36〜38で明らかなように、ソルビタン脂肪酸エステルのHLBは1〜6の範囲で効果が得られ、それよりも高いHLBでは、ほぐれ性は十分な効果を得られず、また、保存時の外観もやや劣っていた。他の食用油脂でも同様の結果であり、食用油脂による差は見られなかった(実施例1、2、6、7、11、12、16、17、21、22、比較例4、5、11、12、18、19、25、26、31、32)。
【0039】
(特公昭57-14139号公報記載の油脂組成物の評価)
特公昭57-14139号公報の記載の実施例と同じ油脂組成物を評価した(比較例39)。喫食時のほぐれ性はやや劣り、食味、保存時の外観もやや劣っていた。
【0040】
(特開平7-39332号公報記載の油脂組成物の評価)
特開平7-39332号公報に記載の実施例と同じ油脂組成物を評価した(比較例40)。調理時および喫食時のほぐれ性はやや劣り、保存時の外観もやや劣っていた。
【0041】
(特開2006-6132号公報記載の油脂組成物の評価)
特開2006-6132号公報に記載の実施例と同じ油脂組成物を評価した(比較例41)。喫食時のほぐれ性はやや劣り、保存時の外観もやや劣っていた。また、乳化剤の風味を強く感じ、食味は悪かった。
【0042】
(特開平11−221033号公報記載の油脂組成物の評価)
本発明の実施例29と特開平11−221033号公報に記載の実施例と同じ油脂組成物を評価した(比較例42)。本発明の実施例29では、ほぐれ性、食味ともに非常に良好であったが、比較例42では、同一の食用油脂であるにもかかわらず、乳化剤の種類や配合が異なるため、喫食時のほぐれ性は実施例よりやや劣り、保存時の外観もやや劣っていた。他の食用油脂でも同様の結果であり、食用油脂による差は見られなかった(比較例3、10、17、24、31)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂100重量部に対してHLB1〜6のソルビタン脂肪酸エステルを0.1〜5重量部を配合してなる油脂組成物を麺線に対して噴霧することを特徴とする麺類の製造方法。
【請求項2】
ソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸がオレイン酸である請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項3】
麺類が蒸し麺であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の麺類の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の方法により製造した麺類。