説明

黒色高放熱性遮光フィルムとその製造方法、およびそれを用いた絞り、羽根材、光量調整モジュール、並びに遮光テープ

【課題】従来よりも耐熱性に優れ、さらに高遮光性、表面及び端面での低反射性、低表面光沢性、黒色性を維持することでシャッター羽根や固定絞り、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根、高放熱性遮光テープなどとして使用できる黒色高放熱性遮光フィルムとその製造方法、およびそれを用いた絞り、羽根材、光量調整モジュール、並びに遮光テープを提供する。
【解決手段】樹脂成分(A)、黒色顔料(B)、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)を含有したフィルムの両面に、表面粗さ(算術平均高さRa)が0.2〜2.2μmの微細凹凸が形成された、厚みが25μm以下の黒色高放熱性遮光フィルムであって、黒色顔料(B)の含有量が、樹脂成分100重量部に対し、3〜20重量部であり、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)の含有量が、合計で15〜40重量部であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムなどにより提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色高放熱性遮光フィルム、および、それを用いた絞り、光量調整モジュール並びに高放熱性遮光テープに関し、より詳しくは、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラのレンズシャッターなどのシャッター羽根または絞り羽根や、カメラ付き携帯電話や車載モニターのレンズユニット内の固定絞りや、プロジェクターの光量調整モジュールの絞り羽根などの光学機器部品として用いられ、耐熱性、高遮光性、低反射性、低表面光沢性に優れた黒色高放熱性遮光フィルムとその製造方法、及びそれを用いた絞り、羽根材、光量調整モジュール、並びに遮光テープに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラの高速(機械式)シャッターの開発が活発に行われている。その狙いは、シャッタースピードをより高速にして、超高速の被写体をブレ無く撮影し、鮮明な画像を得ることを可能にすることである。
一般にシャッターは、シャッター羽根と呼ばれる複数の羽根が回転、移動することで開閉が行われているが、シャッタースピードを高速化するためには、シャッター羽根が瞬間的な動作と停止に対応できるよう、軽量かつ高摺動性であることが必要不可欠である。更に、シャッター羽根は、シャッターが閉じている状態では、フィルムなどの感光材やCCD、CMOSなどの撮像素子の前面を覆って光を遮る役割を果たすために、完全な遮光性を必要とする。しかも、シャッター羽根には、複数枚のシャッター羽根が互いに重なり合って動作する際に、各羽根間の漏れ光の発生を防ぐために羽根表面の反射率が低いこと、すなわち表面色の黒色度が高いことが望まれる。
【0003】
デジタルカメラのレンズユニット内に挿入され、一定の光量に絞って光を撮像素子に送る役割の固定絞りについても、絞りの表面で光の反射が生じると迷光となり鮮明な撮像を損なうため、絞りには、表面の低反射性、すなわち黒色性が高いことが要求される。
撮影機能を有した携帯電話、すなわちカメラ付携帯電話においても、デジタルカメラ同様、近年、高画素で高画質の撮影が行えるよう、小型の機械式シャッターがレンズユニットに搭載され始めている。また、固定絞りも携帯電話のレンズユニット内に挿入されている。上記の携帯電話に組み込まれる機械式シャッターは、一般のデジタルカメラよりも、省電力で作動することが要求される。そのためシャッター羽根の軽量化が特に強く要求される。
【0004】
また、CCD、CMOSなどの撮像素子の前面からの漏れ光以外にもフレキシブルプリント配線基板(以下、FPCと称する)がより薄くなった場合、撮像素子の裏面にあるFPC側から入射する光も無視できなくなってしまう。この撮像素子裏面からの入射光によって、FPCの配線回路が撮像域に写り込み、撮像の品質が劣化してしまうため、FPC側からの漏れ光を遮光する必要が生じる。
【0005】
一方、大画面でホームシアターとして鑑賞できる液晶プロジェクターが、最近、一般家庭に普及し始めている。リビングルームといった明るい環境下でも鮮やかなハイコントラスト映像が楽しめるように高画質化が強く要望され、ランプ光源を高出力化することによって、画質の高輝度化が図られている。プロジェクターの光学系には、ランプ光源からの光量を調整する光量調整モジュール用絞り装置(オートアイリス)がレンズ系の内部や側面に用いられている。光量調整モジュールの絞り装置は、シャッターと同様に複数枚の絞り羽根が互いに重なって光を通す開口部の面積を調整する。このような光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根も、シャッター羽根の場合と同様の理由から表面の低反射性と軽量化が要求されている。それと同時に、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根では、ランプ光の照射による加熱に対する耐熱性も必要となる。絞り羽根は低反射性であることから黒色であり、そのため、ランプ光の照射により容易に熱を持ってしまう。
【0006】
上述のシャッター羽根や固定絞り、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根では、遮光板として、要求特性に応じて下記のものが用いられている。
耐熱性が要求される場合は、遮光板として、SUS(ステンレス)、SK材(炭素工具鋼鋼材)、Al、Ti等の金属薄板を基材としたものが一般的である。金属薄板自体を遮光板としたものもあるが、金属光沢を有するため、表面の反射光による迷光の影響を回避したい場合には好ましくない。しかも、弾性率が低く、変形しやすく、高速運動をさせるに適さないものがあった。
【0007】
そのため、板材の表面に硬質炭素膜を形成した遮光羽根が提案されている(特許文献1参照)。また、金属薄板上に黒色潤滑塗装した遮光板も開発されているが、低反射性、黒色性を有するものの、塗装部が耐熱性に劣るため、高温環境下では一般に使用できない。しかも、加工端面での光の反射を抑えるために、所定の形状に加工後、加工端面を黒染め処理する工程が必要となり、製造コストが高くなるという課題を有している。
【0008】
金属薄板ではなく、樹脂フィルムを基材として用いた遮光板も提案されている(特許文献2,3参照)。この特許文献2では、表面の反射を低減するためにマット処理加工した樹脂フィルムを使用した遮光板や、微細な多数の凹凸面を形成することで艶消し性を付与したフィルム状の遮光板が提案されている。また、特許文献3では、樹脂フィルム上に、艶消し塗料を含有した熱硬化性樹脂を塗膜した遮光フィルムが提案されている。しかし、これらは、カーボンブラックなどの黒色顔料を内部に含浸させたポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂フィルムを基材として用い、その基材表面に黒色顔料などを含浸した遮光層を形成することで遮光板に十分な遮光性を付与している。つまり、黒色顔料を含浸させた樹脂フィルムだけなので十分な遮光性を発現することができない。また、前記遮光層に黒色顔料や艶消し剤を含浸させることで表面の反射や表面光沢を低減させているが、遮光板を加工して形成される端面で、光の反射により発生する迷光を防止することはできない。
【0009】
さらに、カメラモジュール内のレンズユニットの構成部品である固定絞り、シャッター羽根には、特に、厚み25μm以下という薄いものが非常に強く要望されており、フィルムが薄く、耐熱性、高遮光性、低反射性、低表面光沢性、黒色性に優れたシャッター羽根材や固定絞り材が必要不可欠となっている。
特許文献2、3では厚みが25〜250μmの樹脂フィルムを基材として用いており、フィルム厚み25μm以下が望まれるデジタルカメラやカメラ付き携帯電話向けの固定絞りやシャッター羽根には適さない。
【0010】
樹脂フィルムを基材として用いた遮光板については、比重が小さく、安価で可とう性があるという利点から、黒色顔料を含浸させたポリエチレンテレフタレート(PET)を基材とした遮光板が広範に用いられている。
しかし、PET材は、耐熱性が150℃より低く、高出力のランプ光が照射されることにより遮光板が熱を持って変形してしまうため、特許文献4では、ポリイミドフィルムのような高耐熱性のフィルムを用いることが提案されている。しかし、このような耐熱性樹脂フィルムを用いても、遮光フィルム自体が黒色なため、熱を吸収しやすく、発熱量の大きい機器で長時間使用した場合、想定以上に熱を持つことがあり、フィルムが変形することもあった。
【0011】
以上説明したように、従来、耐熱性が要求される用途では、樹脂フィルムと比較して重量の大きい金属薄板、すなわち、SUS、SK材、Al、Ti等からなる金属薄板を用いざるを得なかった。そのため、羽根を駆動する駆動モーターのトルクや消費電力が大きくなってしまう、あるいはシャッタースピードが上げられず、羽根同士の接触による騒音が発生してしまう、さらには表面および加工端面を黒染め処理するため製造コストが高くなるという問題を抱えている。また、樹脂フィルムの場合は安価なPETフィルム等を使用すると、耐熱性の問題を有していた。さらに、耐熱性樹脂フィルムを用いても、発熱量の大きい機器で長時間使用した場合、耐熱性に問題の出ることがあった。したがって、安価で、遮光板の厚みが25μm以下であって、従来よりも耐熱性に優れ、可視域における十分な遮光性、表面及び加工端面の低反射性、低表面光沢性、軽量性を併せ持つ新たなシャッター羽根や固定絞り、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−116837号公報
【特許文献2】特開平1−120503号公報
【特許文献3】特開平4−9802号公報
【特許文献4】特開2008−158479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明では、上記従来技術の問題点に鑑み、大気中の高温環境下でも遮光フィルムの放熱性が優れているため、従来よりも耐熱性に優れ、さらに高遮光性、表面及び端面での低反射性、低表面光沢性、黒色性を維持することでシャッター羽根や固定絞り、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根、高放熱性遮光テープなどとして使用できる黒色高放熱性遮光フィルムとその製造方法、およびそれを用いた絞り、羽根材、光量調整モジュール、並びに遮光テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述した従来の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定量の黒色顔料や無機充填材を含有させた樹脂に、さらに熱伝導性粒子を含有させることにより遮光フィルムの放熱性が改善され、従来よりも高温の条件で使用できることを見出し、デジタルカメラ、カメラ付き携帯電話、デジタルビデオカメラ、液晶プロジェクターなどの絞りや羽根部材の要求性能が得られることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、樹脂成分(A)、黒色顔料(B)、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)を含有したフィルムの両面に、表面粗さ(算術平均高さRa)が0.2〜2.2μmの微細凹凸が形成された、厚みが25μm以下の黒色高放熱性遮光フィルムであって、黒色顔料(B)の含有量が、樹脂成分100重量部に対し、3〜20重量部であり、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)の含有量が、合計で15〜40重量部であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
【0016】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、黒色高放熱性遮光フィルムの熱伝導度が0.40W/m・K以上であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、前記黒色高放熱性遮光フィルムの波長380〜780nmにおける平均光学濃度が4.0以上、平均正反射率が、0.4%以下であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
【0017】
また、本発明の第4の発明によれば、第1から第3いずれかの発明において、熱伝導性粒子(D)の含有量が、樹脂成分100重量部に対し、5〜30重量部であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1から第4いずれかの発明において、熱伝導性粒子(D)が窒化アルミニウム粉末、または窒化ホウ素粉末から選ばれる1種以上であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、無機充填材(C)が、アルミナ、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、又はマグネシアから選ばれた1種以上であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、無機充填材(C)の含有量が、樹脂成分100重量部に対して、10〜35重量部であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜第7のいずれかの発明において、黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜いたときに、端面の表面粗さ(算術平均高さRa)が1μm以上の凹凸が形成されることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムが提供される。
【0018】
一方、本発明の第9の発明によれば、第1から第8の発明において、樹脂成分(A)100重量部に対して、黒色顔料(B)を3〜20重量部、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)を合計で15〜40重量部含有させ、溶剤とともに混練し、このスラリーを支持体に塗布し、乾燥した後、得られる樹脂フィルムに、フィルム両表面の微細凹凸が0.2〜2.2μmの表面粗さ(算術平均高さRa)となるようにマット処理加工を行うことを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルムの製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、第1から第8の発明のいずれかの黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜き加工して得られる絞りが提供される。
また、本発明の第11の発明によれば、第1から第8の発明のいずれかの黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜き加工して得られる羽根材が提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第10の発明の絞り、または、第11の発明の羽根材のいずれかを具備してなる光量調整モジュールが提供される。
さらに、本発明の第13の発明によれば、第1から第8の発明のいずれかの黒色高放熱性遮光フィルムの片面、または両面に粘着層を設けてなる放熱性遮光テープが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の黒色高放熱性遮光フィルム(以下、単に遮光フィルムともいう)は、算術平均高さRaが0.2〜2.2μmの表面粗さを有し、樹脂成分に、黒色顔料と熱伝導性粒子が含有され、厚みが25μm以下であるため、可視光域(波長380〜780nm)において低反射性、高遮光性、低表面光沢性を有していて、さらに放熱性に優れ、従来よりも耐熱性があることから、様々な光学部材に有用である。
また、黒色高放熱性遮光フィルムが黒色顔料だけでなく無機充填材を含有しているので、フィルム内部は黒色であり、打ち抜き加工端面の色も黒色となり、さらに黒色顔料による光吸収とともに、無機充填材による表面凹凸性によって、端面での反射、表面光沢を防止することが可能となり、最近のデジタルカメラ、カメラ付き携帯電話、デジタルビデオカメラ、液晶プロジェクターなどの小型化、薄肉化の要望に対応した絞り材として極めて有用である。
【0021】
さらに、本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、樹脂フィルムのため従来の金属薄板をベースにした遮光板に比べて軽量性に優れている。また、熱伝導性粒子を含有しているため、放熱性に優れることから、液晶プロジェクターの光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根材として利用できる。
また、本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、25μm以下と薄いため更なる軽量化が達成できるだけでなく、十分な遮光性を損なうことがないため、高速シャッターのシャッター羽根にも有効である。よって、駆動モーターの小型化が可能であり、光量調整モジュール用絞り装置や機械式シャッターの小型化が実現するなどのメリットがある。
【0022】
さらに、本発明の黒色高放熱性遮光フィルムの片面または両面に粘着層を設けた高放熱性遮光テープは、FPCに貼り付けることで、CCD、CMOSなどの撮像素子の背面から漏れた光を吸収して通過を阻止することができる。そのため、漏れ光の撮像素子への再入射を抑制でき、撮像品質の安定化に寄与できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の黒色高放熱性遮光フィルムとその製造方法、及びその用途について説明する。
【0024】
1.黒色高放熱性遮光フィルム
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、155℃以上の耐熱性を有する、厚み25μm以下の樹脂フィルムの両面に、微細な凹凸を形成した黒色高放熱性遮光フィルムであって、少なくとも黒色顔料(B)、無機充填材(C)と熱伝導性粒子(D)が含有されている。
【0025】
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムの厚みは、25μm以下である。好ましくは5〜25μmであり、より好ましくは10〜20μmである。5μmよりも薄いと、ハンドリング性に劣るため、フィルムに傷や折れ目などの表面欠陥が付きやすく、25μmより厚いと、小型化、薄肉化が進む絞り装置や光量調整モジュールへの搭載ができなくなるおそれがある。
【0026】
(1)樹脂成分(A)
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムに用いる樹脂の種類は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート又はポリエーテルサルフォンなどの耐熱性樹脂を使用することができる。
樹脂成分は、取り扱いを容易にするため溶媒を添加し適度な粘度とした後、そこに黒色顔料、無機充填材、熱伝導性粒子を添加し、黒色樹脂溶液として遮光フィルムの製造に用いられる。
【0027】
(2)黒色顔料(B)
また、上記樹脂フィルムは、上記耐熱性樹脂に、黒色顔料が含有されて黒色化していなければならない。黒色以外の着色フィルム表面に黒色塗膜を形成し、外観上黒色化した遮光板では、カメラ付き携帯電話などのカメラモジュールに搭載される固定絞りとして用いると、打ち抜き加工後の端面における反射や表面光沢を抑制する効果が得られない。
【0028】
黒色顔料を耐熱性樹脂に含有させる目的は、上述のように、遮光板の表面の黒色化と、打ち抜き加工後の表面および端面での光吸収により遮光することにある。黒色顔料としては、従来公知の材料が使用でき、例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、チタンブラック、無機顔料ヘマタイト、またはペリレンブラックから選ばれる1種以上を混合したものが挙げられ、これらの中でも、黒色顔料として特に、カーボンブラック、チタンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0029】
黒色度と着色力の優れたカーボンブラックとしては、一般に一次粒子径が小さいものが適切であり、平均粒子径は、1μm以下、特に0.5μm以下、さらには0.1μm以下であるものが好適である。平均粒子径が、1μmより大きいと表面光沢度は低くなるが、遮光性が低下するので好ましくない。ただし、小さくなりすぎて平均粒子径が0.01μm未満になると凝集が大きくなるので好ましくない。チタンブラックは、二酸化チタンの還元により得られ、若干の窒素を含有する黒色顔料である
均一な色調のフィルムを得るために、例えば、カーボンブラックとして、東海カーボン社製の#7100F、チタンブラックとしてジェムコ社製の13M等、チタンブラックとして、例えば三菱マテリアル(株)の市販品が使用できる。また、アニリンブラックとして、アイ・シー・アイ・ジャパン社製のMONOLITE BLACK B、無機顔料ヘマタイトとして、日本フェロ社製のヘマタイトV−700、さらにペリレンブラックとして、BASF社製のPaliogen Black K−0084が挙げられる。
【0030】
上記黒色顔料の含有量は、平均粒子径や黒色顔料の種類、樹脂の種類などによって異なるが、樹脂成分(固形物100重量部)に対して3〜20重量部の範囲で適宜調節する。遮光性に優れた黒色高放熱性遮光フィルムを得るのに、より好ましい黒色顔料の含有量は、8〜18重量部、特に好ましくは、10〜15重量部である。黒色顔料の含有量が3重量部未満では、波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4.0未満となり、完全遮光性が損なわれ、光透過性が生じてしまう。また、黒色顔料の含有量が20重量部を超えると、完全遮光性は得られるが、混合物の粘性が非常に高くなり、均一なフィルムを作製することが困難となる。
【0031】
(3)無機充填材(C)
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムでは、打抜き加工した際の端面の反射を抑制するため、無機充填材を含有する。本発明において、無機充填材とは、アルミナ、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、及び酸化マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上である。この無機充填材は、黒色高放熱性遮光フィルムの剛性を強化することとともに、艶消しすることを目的として含有され、さらに打ち抜き加工端面で、微細な表面凹凸を生じることにより、光散乱する効果を有している。よって、フィルム表面だけでなく、打ち抜き加工後の端面においても低反射性、低表面光沢度を発現することができる。
【0032】
無機充填材の平均粒子径は、10μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下であるものである。平均粒子径が、10μmより大きいと表面光沢度は低くなるが、遮光性が低下するので好ましくない。ただし、小さくなりすぎて平均粒子径が0.01μm未満になると凝集が大きくなるので好ましくない。
無機充填材の種類としては、安価で入手しやすいアルミナ、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、又はマグネシアから選ばれた1種以上が挙げられ、特にシリカが好ましい。
【0033】
無機充填材には、さまざまな形状のものがあるが不定形であることが好ましい。無機充填材の形状が球状であると、凝集してフィルムの片方に偏ってしまうため、端面に無機充填材のない部分が出来てしまい、打ち抜き端面が平坦となるせん断面が多く形成され、その結果、端面の反射が十分に低反射にならず、さらに、球状の無機充填材では、含有量が増大すると球状の無機充填材がより凝集しやすくなるため、さらに平滑な端面ができやすくなるためである。
【0034】
無機充填材の含有量は、平均粒子径や無機充填材の種類、樹脂の種類などによって異なるが、樹脂成分(固形物100重量部)に対して、10〜35重量部が好ましく、さらに好ましいのは15〜25重量部である。10重量部未満では、フィルム表面の正反射率が高く、加工端面においては平坦な面が多く形成されるため、正反射、表面光沢度が大きくなり、好ましくない。また、35重量部を超えると、樹脂成分の粘性が高くなり、無機充填材の凝集による表面欠陥が発生しやすくなるため、安定的にフィルムを作製することができず好ましくない。
【0035】
(4)熱伝導性粒子(D)
黒色顔料であるカーボンブラック、チタンブラックは、ある程度の熱伝導性を有している。しかし、前記のとおり発熱量の大きな機器で用いられる黒色遮光フィルムにはまだ十分ではない。
そのため本発明では、熱伝導性粒子として、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などを使用する。これらは、単独でも複合したものでもよい。熱伝導性粒子を用いることで、黒色遮光フィルムの放熱性が改善され発熱量の大きな機器でも十分な耐熱性を発揮する。
【0036】
窒化アルミニウムは、これまで絶縁放熱基板や半導体製造装置材料などに用いられており、徳山曹達製:高純度窒化アルミニウム粉末が例示できる。また、窒化ホウ素は、固体潤滑剤、離型剤、焼結体原料などに利用されており、電気化学工業製:ボロンナイトライド粉末を挙げることができる。これらは高純度のものが好ましいが、本発明の目的を損なわなければ、製造上不可避な炭素、酸素などを含有していても構わない。なお、熱伝導性粒子としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素に限定されず、上記黒色顔料よりも大きい熱伝導性を有しているものは制限無く使用できる。
【0037】
本発明に用いる熱伝導性粒子の平均粒子径は、10μm以下、特に5μm以下、さらには1μm以下であるものが望ましい。平均粒子径が、10μmより大きいと表面光沢度は低くなるが、遮光性が低下するので好ましくない。ただし、小さくなりすぎて平均粒子径が0.01μm未満になると凝集が大きくなるので好ましくない。
【0038】
また、熱伝導性粒子の含有量は、平均粒子径や熱伝導性粒子の種類、樹脂の種類などによって異なるが、耐熱性樹脂(固形物100重量部)に対して、5〜30重量部が好ましく、さらに好ましいのは10〜20重量部である。5重量部未満では、十分な熱伝導性が得られないため、耐熱性が不十分になることがあり、好ましくない。また、30重量部を超えると、樹脂成分の粘性が高くなり、熱伝導性粒子の凝集による表面欠陥が発生しやすくなるため、安定的にフィルムを作製することができず好ましくない。
【0039】
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、無機充填材を含むものであり、さらに熱伝導性粒子を含むことにより、熱伝導性と端面反射を両立することができるので好ましい。熱伝導性粒子と無機充填材の含有量は合計で、15〜40重量部であることが好ましい。15重量部未満では、十分な熱伝導性と端面反射を得られず、また、40重量部を越えると、フィルムの粘性の増加や粒子同士の凝集による表面欠陥が発生しやすくなるため、好ましくない。
また、上記黒色フィルムには、必要により、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、防曇剤、滑剤を適宜含有させることができる。
【0040】
(5)黒色高放熱性遮光フィルムの物性
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、熱伝導性粒子を含むことで高い熱伝導度を有している。その熱伝導度は、高いほど良好であり、0.40W/m・K以上であることが好ましく、0.43W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導性粒子が多いほど熱伝導度は大きくなるので好ましいが、熱伝導性粒子が多くなりすぎると、粒子同士の凝集により樹脂成分の粘性が高くなり、表面欠陥が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0041】
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、該黒色フィルムの表面粗さ(算術平均高さRa)が0.2〜2.2μmである。好ましい表面粗さは0.3〜2.1μmであり、特に0.5〜2.0μmであることが好ましい。上記のような表面粗さ(算術平均高さRa)を該黒色フィルムに形成することで黒色高放熱性遮光フィルムの低反射性、低表面光沢性を実現できるようになる。
ここで、算術平均高さとは、算術平均粗さとも言われ、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計して平均した値である。算術平均高さRaが0.2μmより小さいと、表面に十分な低反射性や低表面光沢性は得られない。また、算術平均高さRaが2.2μmを超えると、フィルム表面の凹凸が大きくなるため、フィルム厚が薄い場合にはマット処理加工によって、フィルムに穴やしわが起こりやすくなり、更にはフィルムが断裂するなどして、フィルムの歩留まりが悪くなるため、好ましくない。
【0042】
また、光の遮光性の指標である平均光学濃度が4.0以上であることが好ましい。また、フィルム表面の波長380〜780nmにおける平均正反射率が0.4%以下であることが好ましい。平均正反射率は、0.38%以下であることが好ましく、0.35%以下であることがより好ましい。
また、本発明の黒色高放熱性遮光フィルムにおいて、色の明度(以下、Lと表記する)は、25〜40であることが好ましく、より好ましくは35以下である。ここで、L値は色彩のCIE(国際照明委員会)表色系で表される明度(白黒度)を表し、CIEで標準化されている、L表色系測定(JIS Z 8729)により、可視光域での分光正反射率から求められ、L値が小さいほど黒色度が高いことを意味する。L値は、黒色顔料の含有量で調整できる。黒色高放熱性遮光フィルムのL値を25未満とする場合には、黒色顔料の含有量が樹脂成分(固形物100重量部)に対して、22重量部を超えてしまうので、フィルムの粘性が高くなり、均一な黒色顔料の分散が得られず、良好なフィルム表面状態が得られなくなり、算術平均高さ、正反射率、平均光学濃度、表面光沢度にばらつきが生じる。また、L値が40を超える場合では、黒色顔料の含有量が樹脂成分(固形物100重量部)に対して5重量部未満となるので、完全遮光性が得られず、波長380〜780nmにおける平均正反射率が0.4%を超え、さらに表面光沢度が8より高くなってしまうため、好ましくない。
【0043】
また、無機充填材を含むので、該黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜き加工して得られる固定絞りや絞り羽根は、得られる加工端面部の色が黒色であることや無機充填材を含有していることから、端面に入射した迷光は吸収または散乱され、端面での正反射、表面光沢を防止することが可能となり、デジタル撮影機器の固定絞りや機械的シャッター装置の絞り羽根、もしくは、液晶プロジェクターの光量絞り装置の羽根材として用いたときに、光学系内で反射光によって発生する迷光の出現を回避できる。
【0044】
本発明では、黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜いたときに、端面に表面粗さ(算術平均高さRa)が1μm以上の凹凸が形成されるため、加工端面の表面光沢性が低くなる。ここで、加工端面の表面光沢性は、端面に光が入射した時に、白く見える場合には表面光沢性が高いと判断し、加工端面が黒く見える場合は表面光沢性が低いとしている。端面の表面光沢性の判断は、顕微鏡下で直接、加工端面を目視観察しても良いし、写真などの記録媒体を見て判定してもよい。
【0045】
2.黒色高放熱性遮光フィルムの製造方法
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート又はポリエーテルサルフォンから選ばれた1種以上の樹脂成分と、少なくとも上記黒色顔料と無機充填材と更に熱伝導性粒子を原料として用いて、黒色フィルムに成形し製造される。上記樹脂成分には、必要により、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、防曇剤、滑剤を適宜含有してもよい。
【0046】
上記樹脂成分と黒色顔料、無機充填材、熱伝導性粒子の混合は、溶剤を含む樹脂溶液に、黒色顔料、無機充填材と熱伝導性粒子を通常の攪拌混合器、たとえばヘンセルミキサー、又はバンバリーミキサー、ロールミルなどを用いて攪拌混合し、混練して混合溶液を得る。溶剤としては、各種アルコール、テトラヒドロフラン、ジグライムなどのエーテル系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、γ−ブチロラクトンやテトラメチルウレアなど有機化合物を使用できるが、乾燥条件である室温〜200℃において蒸発しうるものが好ましい。
【0047】
次に、得られた上記混合溶液を任意の方法によって支持体上に塗工し、大気中、一定温度で混合溶液を固め、支持体から剥がし、フィルムを生成する。その後の乾燥工程で溶剤を除去することにより、最終的に膜厚が5〜25μmとなった黒色フィルムが得られる。ここで、支持体としては、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチックフィルム、不織布、ドラムなどが使用され、特に、その表面が粗雑化されたものが好ましい。
塗工方法としてはダイコーター、ドクターブレードコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター、ノズルコーターなど公知の塗布法が用いられるが、特にこれらに限定されない。また、乾燥後、所定のフィルム厚みになるように、任意の支持体への塗布量を適宜調整し、塗布後、常圧または減圧下で加熱処理して残留溶剤を除去する。
また、乾燥条件は、混合溶液中の溶剤が加熱除去され、かつ厚み分布が均一なフィルムが得られるように、加熱温度を120〜300℃とし、加熱時間を30〜120分の間で適宜調整すればよい。
【0048】
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムを得るには、次に、この黒色フィルムの両表面に微細な凹凸を形成し、該黒色フィルム両表面に低反射性、低表面光沢性を発現させる。
具体的には、黒色フィルム両表面を、例えばショット材を使用するマット処理加工で、所定の表面凹凸を形成する。他に、ナノインプリンティング加工も用いることができる。マット処理加工の場合は、ショット材に珪砂、アルミナ、セラミックビーズまたはガラスビーズなどを使用することが一般的であるが、ショット材はこれらに限定されない。ショット材の平均粒子径は、例えば、50〜300μmとすることができる。
【0049】
マット処理加工の方法として、ショットブラストとエアーブラストと呼ばれる方法が採用される。ショットブラスト法は、高速で回転するブレードにショット材を送り、ショット材を噴射してフィルムに当てる方法であり、フィルムを一定の搬送速度で搬送しながら表面凹凸を形成する。
ショット材を噴射する装置は、1台であっても複数台であっても構わない。また、エアーブラスト法は、圧縮空気を使用するか、ブロワーファンによってショット材を射出する方法である。本発明では、黒色高放熱性遮光フィルムが所定の算術平均高さRaと表面光沢度を有し、健全なフィルム外観が達成できればよく、その方法はこれらに限定されない。
【0050】
黒色高放熱性遮光フィルムに形成される表面凹凸の大きさは、マット処理加工中のフィルム搬送速度、搬送回数とショット材の種類、大きさ、射出圧力に依存する。本発明においては、これらの条件を最適化してフィルム表面の算術平均高さRa値が0.2〜2.2μmとなるように表面処理を行うことが重要である。ショット材として、例えば平均粒子径100μmの珪砂を用いた場合、3〜8m/分のフィルム搬送速度、搬送回数1〜3回、かつ10〜30kg/mの射出圧力とすることができる。
マット処理加工後、フィルムを水で洗浄してショット材を除去した後、乾燥する。洗浄・乾燥条件は特に制限されないが、例えば1〜5分水洗し、70〜120℃で1〜3分乾燥させることが好ましい。フィルム両面をマット処理加工する場合は、片面処理後、フィルムを裏返し、同様の処理を行う。
【0051】
マット処理加工においては、黒色高放熱性遮光フィルムの表面粗さが、算術平均高さRaで0.2〜2.2μmとなる条件を採用することが必要である。更に、0.3〜2.1μm、特に、0.5〜2.0μmの微細凹凸構造となる条件がより好ましい。
【0052】
3.黒色高放熱性遮光フィルムの用途
本発明の黒色高放熱性遮光フィルムは、デジタルカメラ、カメラ付き携帯電話、デジタルビデオカメラの固定絞り、機械式シャッター羽根や、一定の光量のみ通過させる絞り(アイリス)、更には液晶プロジェクターの光量調整モジュール用絞り装置(オートアイリス)の絞り羽根、また、CCD、CMOSなどの撮像素子裏面へ入射する光を遮光する高放熱性遮光テープとして利用できる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、得られた遮光フィルムの評価は以下の方法で行った。
【0054】
(遮光フィルムの正反射率と平行光透過率)
得られた遮光フィルムの、波長380〜780nmにおける正反射率と平行光透過率は、分光光度計(日本分光社製:V−570)にて測定し、平行光透過率(T)から、以下の式に従って、光学濃度(ODと記す)を算出した。
OD=log(100/T)
遮光フィルムの光の正反射率とは、反射光が反射の法則に従い、入射光の入射角に等しい角度で表面から反射していく光の反射率を言う。入射角は5°で測定した。また、平行光透過率とは、遮光フィルムを透過してくる光線の平行な成分を意味しており、次式で表される。
T(%)=(I/I)×100
(ここで、Tはパーセントで表わした平行光透過率、Iは試料に入射した平行照射光強度、Iは試料を透過した光のうち前記照射光に対して平行な成分の透過光強度である。)
【0055】
(遮光性積層フィルムの表面粗さ、端面粗さ)
得られた遮光性積層フィルムの表面粗さは、算術平均高さRaを表面粗さ計((株)東京精密製、サーフコム570A)で測定した。
端面粗さは、オプティカルプロファイラー(キャノンマーケッティングジャパン製、NewView 6200)で測定した
(遮光性積層フィルムの熱伝導度)
熱伝導度は、レーザーフラッシュ法(アルバック理工製、TC7000型)を用いて測定した。
【0056】
(実施例1)
ポリアミドイミド樹脂溶液の固形物100重量部に対して、カーボンブラック(平均粒子径1μm)を5重量部、平均粒径5μmの不定形シリカ粒子を30重量部、窒化アルミニウム(徳山曹達製:Hグレード 平均粒径1.1μm)を10重量部含有し、ローラーミルを用いて混合し、黒色ポリアミドイミド樹脂溶液を作製した。
ブレードコーターを用いて、加熱乾燥後のフィルム厚みが25μmとなるように、作製した樹脂溶液を支持体として用いたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工し、大気中、室温で固めた。その後、固めた黒色ポリアミドイミド樹脂を支持体から剥がした後、150℃で1時間加熱後、さらに250℃で加熱乾燥し、黒色ポリアミドイミドフィルムを作製した。
フィルム両表面について、ショット材として7号硅砂を用い、まずフィルム片面について、5m/分の速度でフィルムを搬送しながら、20kg/mの硅砂をショットした後、水で3分間水洗し、80℃で2分間乾燥した。次に、フィルムを裏返し、片面と同様のマット処理加工を施し、表面凹凸を加工して、算術平均高さRaが0.4μmの表面凹凸を形成した。
表面凹凸形成後の黒色高放熱性遮光フィルムは、波長380〜780nmにおける平均正反射率が0.2%、平均光学濃度が4以上となり、低反射で完全遮光性を有していた。また、レーザーフラッシュ法を用いて、熱伝導率を測定した結果、0.42W/m・Kであった。その結果を表1に示す。
その後、作製した黒色高放熱性遮光フィルムをプレス加工で打ち抜き、得られた打ち抜き端面について金属顕微鏡で反射の程度を観察したところ、端面の反射や光沢は弱く、良好であった。その端面をSEM(走査型電子顕微鏡)で調べた結果、端面には微細な凹凸が観察され、この微細な凹凸の形成によって、端面の反射や光沢が低減された。オプティカルプロファイラーで端面の表面高さRaを測定すると、算術平均粗さは1.1μmであった。
【0057】
(実施例2)
樹脂成分として、ポリイミドを用いた以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
黒色顔料としてカーボンブラックの代わりに、チタンブラック(三菱マテリアル製:13M−C 平均粒径 0.1μm未満)を用いた以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
黒色顔料の含有量を3重量部にした以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
黒色顔料の含有量を20重量部にした以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例6)
熱伝導性粒子を窒化ホウ素(電気化学工業製:デンカボロンナイトライド グレードHGP、平均粒径 5.0μm)に変更した以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例7)
不定形シリカの含有量を35重量部、熱伝導性粒子の含有量を5重量部にした以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例8)
熱伝導性粒子の含有量を30重量部、不定形シリカの含有量を10重量部にした以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例9)
黒色高放熱性遮光フィルムの算術平均高さRaを0.2μmになるようにマット処理条件を変更した以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例10)
黒色高放熱性遮光フィルムの算術平均高さRaが2.2μmになるように、マット処理条件を変更した以外は実施例1と同様にして、黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
熱伝導性粒子を含有させなかったこと以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は、熱伝導度が低かった。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
黒色顔料のカーボンブラックの含有量を2重量部に変えた以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は、光学濃度が低かった。結果を表1に示す。
【0068】
(比較例3)
黒色顔料のカーボンブラックの含有量を25重量部に変えた以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムはカーボンブラックの添加量が多かったため、シワが発生した。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例4)
サンドマット加工で黒色高放熱性遮光フィルムの算術平均高さRaを0.1μmとした以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムは平均正反射率が高かった。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例5)
サンドマット加工で黒色高放熱性遮光フィルムの算術平均高さRaを2.3μmとした以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムには、シワやピンホールが発生した。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例6)
フィルムの厚さを30μmに変更した以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は実施例1と同等であった。結果を表1に示す。しかし、黒色高放熱性遮光フィルムが厚いため、低背性の求められる用途には使用できない。
【0072】
(比較例7)
熱伝導性粒子の含有量を20重量部に変えた以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムは熱伝導性粒子の添加量が多かったため、シワが発生した。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例8)
不定形シリカ粒子を含有させなかったこと以外は、実施例1と同様にして黒色高放熱性遮光フィルムを作製した。作製した黒色高放熱性遮光フィルムの膜特性は、端面の反射や光沢が大きくなった。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の遮光フィルムは、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラのレンズシャッターなどのシャッター羽根または絞り羽根や、カメラ付き携帯電話や車載モニターのレンズユニット内の固定絞りや、プロジェクターの光量調整用絞り装置(オートアイリスとも言う)の絞り羽根などの光学機器部品や耐熱遮光テープとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分(A)、黒色顔料(B)、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)を含有したフィルムの両面に、表面粗さ(算術平均高さRa)が0.2〜2.2μmの微細凹凸が形成された、厚みが25μm以下の黒色高放熱性遮光フィルムであって、
黒色顔料(B)の含有量が、樹脂成分100重量部に対し、3〜20重量部であり、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)の含有量が、合計で15〜40重量部であることを特徴とする黒色高放熱性遮光フィルム。
【請求項2】
黒色高放熱性遮光フィルムの熱伝導度が、0.40W/m・K以上であることを特徴とする請求項1に記載の黒色耐熱遮光フィルム。
【請求項3】
前記黒色高放熱性遮光フィルムの波長380〜780nmにおける平均正反射率が、0.4%以下、平均光学濃度が4.0以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の黒色耐熱遮光フィルム。
【請求項4】
熱伝導性粒子(D)の含有量が、樹脂成分100重量部に対し、5〜30重量部であることを特徴とする請求項1〜3に記載の黒色高放熱性遮光フィルム。
【請求項5】
熱伝導性粒子(D)が窒化アルミニウム粉末、または窒化ホウ素粉末から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の黒色高放熱性遮光フィルム。
【請求項6】
無機充填材(C)が、アルミナ、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、又はマグネシアから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の黒色高放熱性遮光フィルム。
【請求項7】
無機充填材(C)の含有量が、樹脂成分100重量部に対して、10〜35重量部であることを特徴とする請求項6に記載の黒色高放熱性遮光フィルム。
【請求項8】
黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜いたときに、端面に表面粗さ(算術平均高さRa)が1μm以上の凹凸が形成されることを特徴とする請求項1に記載の黒色高放熱性遮光フィルム。
【請求項9】
樹脂成分(A)100重量部に対して、黒色顔料(B)を3〜20重量部、無機充填材(C)及び熱伝導性粒子(D)を合計で15〜40重量部含有させ、溶剤とともに混練し、このスラリーを支持体に塗布し、乾燥した後、得られる樹脂フィルムに、フィルム両表面の微細凹凸が0.2〜2.2μmの表面粗さ(算術平均高さRa)となるようにマット処理加工を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の黒色高放熱性遮光フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜き加工して得られる絞り。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の黒色高放熱性遮光フィルムを打ち抜き加工して得られる羽根材。
【請求項12】
請求項10に記載の放熱性絞り、または、請求項11に記載の放熱性羽根材のいずれかを具備してなる光量調整モジュール。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の黒色高放熱性遮光フィルムの片面、または両面に粘着層を設けてなる遮光テープ。

【公開番号】特開2013−105123(P2013−105123A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250425(P2011−250425)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】