説明

黒鉛化炉および黒鉛の生成方法

【課題】カーボン粉末を効率的に黒鉛化する。
【解決手段】黒鉛化炉は、移動自在に設けられた導電性の分割電極122と、分割電極の下端部122aがカーボン粉末に埋設されると共に、分割電極の上端部がカーボン粉末から露出した状態でカーボン粉末が収容された導電性の坩堝120と、下端部190aが、分割電極の上端部122bと対向するように配置された上方電極棒190と、上端部192aが、坩堝の底部120bと対向するように配置された下方電極棒192と、上方電極棒の下端部が分割電極の上端部に当接し、下方電極棒の上端部が坩堝の底部に当接した状態で、上方電極棒と下方電極棒との間に電圧を印加する電源部132とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン粉末を加熱して黒鉛化する黒鉛化炉および黒鉛の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛(グラファイト)は、潤滑性、導電性、耐熱性、耐薬品性等、工業的に優れた性質を有し、半導体分野、原子力分野、航空・機械分野等、幅広い分野で用いられている。黒鉛は、例えば、カーボン粉末を黒鉛化炉で高温(例えば2000〜3000℃)に加熱して生成される。
【0003】
このような黒鉛化炉として、上部にカーボン粉末の投入口が、下部に黒鉛粉末の回収口が設けられ、投入口と回収口の間のカーボン粉末が通過する領域を水平方向に挟んで、対峙するように複数組の電極を配設し、各組の電極に対し順次タイミングをずらして通電する技術が公開されている(例えば、特許文献1)。また、上方電極棒と下方電極棒とによってカーボン粉末を収容したケースを挟み込み、カーボン粉末を通電加熱する技術も適用できる(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−338512号公報
【特許文献2】特開2005−291515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、黒鉛を生成するには黒鉛化炉でカーボン粉末を例えば2000〜3000℃といった高温に上昇させる必要がある。例えば、上述した特許文献1の技術では、複数組の電極を対峙させカーボン粉末が通過する領域を集中的に加熱して黒鉛化処理を遂行している。しかし、電極の間以外の領域を通過するカーボン粉末は十分に加熱されず黒鉛化されないおそれがあった。さらに、長期間の運用により、黒鉛粉末等が炉内に固着する所謂ブリッジが生じる可能性があった。
【0006】
また、特許文献2の技術でカーボン粉末を黒鉛化する場合、ケースに導電性の発熱体を用いることとなるため、ケースの電気抵抗がカーボン粉末よりも低くなってしまい、カーボン粉末には電流が流れ難くなる。そのため、カーボン粉末は、ジュール熱による直接加熱よりも、主に通電加熱されたケースによる間接的な加熱で昇温されることとなり、カーボン粉末の加熱を効率的に行うことができなかった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、カーボン粉末を効率的に黒鉛化することが可能な黒鉛化炉および黒鉛の生成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の黒鉛化炉は、移動自在に設けられた導電性の分割電極と、分割電極の下端部がカーボン粉末に埋設されると共に、分割電極の上端部がカーボン粉末から露出した状態でカーボン粉末が収容された導電性の坩堝と、下端部が、分割電極の上端部と対向するように配置された上方電極棒と、上端部が、坩堝の底部と対向するように配置された下方電極棒と、上方電極棒の下端部が分割電極の上端部に当接し、下方電極棒の上端部が坩堝の底部に当接した状態で、上方電極棒と下方電極棒との間に電圧を印加する電源部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上方電極棒の下端部と分割電極の上端部とは面接触し、接触するそれぞれの面の面積が異なってもよい。
【0010】
上方電極棒の下端部の面の面積は、分割電極の上端部の面の面積より大きくてもよい。
【0011】
上方電極棒の下端部の面と分割電極の上端部の面とは、半径が等しい凹状の球面と凸状の球面との対で構成されてもよい。
【0012】
上方電極棒、下方電極棒の組み合わせである通電機構が複数配置された通電加熱領域と、坩堝を、通電加熱領域内で複数の通電機構間を順次搬送させる搬送機構と、をさらに備え、電源部は、複数の通電機構それぞれに坩堝が位置しているときに電圧を印加してもよい。
【0013】
搬送機構による坩堝の搬送方向に平行な位置に、坩堝の側面からの放熱を抑制する側面断熱材をさらに備えてもよい。
【0014】
搬送機構による坩堝の搬送方向に平行な位置に、坩堝の上面からの放熱を抑制する上面断熱材をさらに備えてもよい。
【0015】
上記黒鉛化炉は、坩堝の水平位置を固定した状態で、カーボン粉末の収容から黒鉛化まで一括処理するバッチ炉であってもよい。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の黒鉛の生成方法は、分割電極の下端部がカーボン粉末に埋設されると共に、分割電極の上端部がカーボン粉末から露出した状態でカーボン粉末を坩堝に収容し、上方電極棒の下端部を分割電極の上端部に当接させ、下方電極棒の上端部を坩堝の底部に当接させ、上方電極棒と下方電極棒との間に電圧を印加しカーボン粉末を黒鉛化して黒鉛を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、カーボン粉末を効率的に黒鉛化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】連続炉を説明するための説明図である。
【図2】坩堝内に埋設された分割電極の下端部を説明するための説明図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】図1のC−C断面図である。
【図6】分割電極の上端部と上方電極棒の下端部の形状を説明するための説明図である。
【図7】連続炉を用いた黒鉛の生成方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図8】カーボン粉末の温度変化を説明するための説明図である。
【図9】バッチ炉を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
(第1の実施形態:連続炉100)
図1は、第1の実施形態における連続炉100を説明するための説明図である。図1に示すように、連続炉100は、坩堝120と、分割電極122と、搬送機構124と、搬入脱気室126と、搬出脱気室128と、連続処理室130と、電源部132とを備える。
【0021】
坩堝120は、全体が有底円筒形であり、その下端部の外縁は切頭円錐形に形成されている。また、坩堝120は、カーボン粉末を黒鉛化する黒鉛化温度T1(好ましくは、2000〜3000℃、更に好ましくは、2800〜3000℃)に耐える耐熱性と、導電性を有する。本実施形態において、坩堝120は、例えば、電気抵抗が2×10−4〜4×10−4Ω・cmと小さく、非酸化雰囲気で3200℃まで耐えるグラファイトで構成される。
【0022】
分割電極122は、円柱形の電極であり、坩堝120と同様、黒鉛化温度T1に耐える耐熱性と、導電性を有する、例えば、グラファイトで構成される。また、分割電極122は、移動自在に形成され、坩堝120内にカーボン粉末を介して立設することができる。即ち、分割電極122は、起立した状態で、坩堝120内に収容されたカーボン粉末内に分割電極122の下端部が埋設されて、その起立状態が維持されることとなる。
【0023】
本実施形態においては、例えば、ロボットアームが、分割電極122を下端部のみ坩堝120内に位置するように、また、坩堝120には接触しないよう坩堝120の内面から所定間隔離隔させた状態で固定し、カーボン粉末を供給する供給装置が、分割電極122を避けて、坩堝120の開口部からカーボン粉末を流し込む。こうして、坩堝120には、分割電極122の下端部がカーボン粉末に埋設されると共に、分割電極122の上端部がカーボン粉末から露出した状態でカーボン粉末が収容され、分割電極122はカーボン粉末によってその起立状態が維持される。
【0024】
ここでは、坩堝120に、通電加熱処理の対象としてカーボン粉末が収容される例を挙げているが、かかる場合に限定されず、例えば、グラファイト、セラミックス、金属等、通電により内部抵抗で発熱する様々な導電性発熱体の粉末を用いることができる。また、粉末に代えて、カーボン繊維を用いることもできる。
【0025】
図2は、坩堝120内に埋設された分割電極122の下端部122aを説明するための説明図である。図2以降の図面において、カーボン粉末を図中クロスハッチングで示す。本実施形態の分割電極122は、図2(a)に示す鉛直軸Z−Zを中心とする円柱形であり、その下端部122aは、凸状の半球形となっている。また、坩堝120の内面は、円筒形であり、その下端部120aは、凹状の半球形となっている。
【0026】
分割電極122の下端部122aは、凸状の半球形に限らず、例えば、円柱の底面が面取りされた形状(図2(b)に示す)、円柱部分の直径よりも大きく鉛直軸Z−Zに対して軸対称な球形(図2(c)に示す)や扁球、鉛直軸Z−Zに対して対称な円錐形状や切頭円錐形状(図2(d)に示す)等であってもよい。
【0027】
いずれの場合であっても、分割電極122は、後述する電圧印加時においてカーボン粉末内の電流分布が均一になるように、坩堝120の内面に対応する形状となっている。したがって電圧印加時における発熱分布も略均一となり、カーボン粉末全体を効率的に黒鉛化することができる。
【0028】
搬送機構124は、トレー150、フリーローラ152、プッシャー装置154、プラー装置156を含んで構成され、分割電極122の下端部122aがカーボン粉末に埋設された状態でセットされた坩堝120を、搬送方向(図1において右向き)に順次搬送する。したがって、坩堝120は、通電加熱領域内で複数の通電機構間を順次移動することとなる。通電加熱領域および通電機構については後に詳述する。
【0029】
トレー150は、2000〜2500℃に耐える耐熱性を有する、例えば、グラファイト製やセラミックス製の支持板であり、上部に坩堝120が載置される。
【0030】
図3は、図1のA‐A断面図である。図3に示すように、トレー150には貫通孔150aが設けられる。貫通孔150aの内周面にはテーパー加工が施され、坩堝120の下端部における切頭円錐形の傾斜部と嵌合する。かかる構成により、坩堝120がトレー150に対して水平方向に摺動し難くなり、坩堝120の水平位置を安定させることができる。
【0031】
フリーローラ152は、回転体であり、図3に示すように、床面から立設する支柱152aの上端部に設けられたレール上に回転可能に支持される。また、フリーローラ152は、図1に示すように、後述する搬入脱気室126から、連続処理室130、および搬出脱気室128にわたって、搬送方向に沿った2つの列を成すようにそれぞれの列に複数設置され、トレー150を搬送可能に支持する。
【0032】
プッシャー装置154は、搬入脱気室126内のフリーローラ152上に、坩堝120が載置されたトレー150が配置されると、そのトレー150を搬送方向に押進して連続処理室130に搬入する。プラー装置156は、連続処理室130内のフリーローラ152上から、坩堝120が載置されたトレー150を牽引して、搬出脱気室128に搬出する。
【0033】
本実施形態において、プッシャー装置154は、所定時間(タクトタイム)毎に1つのトレー150を連続処理室130に連続して搬入する。そして、先に搬入されていたトレー150は、トレー150が搬入される度に、搬入されたトレー150に押され、搬送方向に水平に移動することとなる。また、プラー装置156は、押し出されるトレー150をプッシャー装置154と同期したタイミングで搬出脱気室128に搬出する。
【0034】
こうして、トレー150に載置された坩堝120は、連続炉100内をタクトタイム毎にトレー150の幅に相当する所定のストローク分、間欠的に、搬送されることとなる。
【0035】
搬入脱気室126は、連続処理室130におけるトレー150の搬送方向の上流側(図1において左側)に、搬出脱気室128は下流側(図1において右側)にそれぞれ設けられ、図示しない雰囲気保持置換装置によって、所定の雰囲気(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ハロゲンガスまたは真空)に保持される。
【0036】
また、搬入脱気室126は、鉛直方向に昇降して開閉する開閉扉126a、126bを有し、開閉扉126a、126bが下降する(閉じる)と搬入脱気室126が気密室となる。同様に、搬出脱気室128は、開閉扉128a、128bを有し、開閉扉128a、128bが下降すると搬出脱気室128が気密室となる。開閉扉126a、126b、128a、128bが上昇する(開く)とトレー150の搬入および搬出ができる。
【0037】
連続処理室130は、搬入脱気室126および搬出脱気室128と連通し、開閉扉126b、128bが下降して閉じると気密室となる。また、連続処理室130は、雰囲気保持置換装置によって、搬入脱気室126および搬出脱気室128と同等の所定の雰囲気に保持される。
【0038】
また、連続処理室130は、図1に示すように、上流側から順に、ヒータ加熱処理を行うヒータ加熱領域A、通電加熱処理を行う通電加熱領域B、冷却処理を行う冷却領域Cに区分される。以下、ヒータ加熱領域Aに設けられた構成要素および通電加熱領域Bに設けられた構成要素を順に説明する。
【0039】
(ヒータ加熱領域A)
図3に示すように、連続処理室130は、ヒータ加熱領域Aにおいて、ヒータ170と、断熱壁172とを備える。
【0040】
ヒータ170は、抵抗加熱ヒータ、ガスヒータ、バーナ等であって、ヒータ加熱領域A全体を加熱する。そして、坩堝120がヒータ加熱領域A内を搬送されている間に、坩堝120内のカーボン粉末は予熱温度T2(例えば、2000〜2300℃)まで加熱される。ここでは、ヒータ170の過渡な消耗を回避すべく、ヒータ170での加熱は、予熱温度T2を超えない範囲で行う。
【0041】
断熱壁172は、断熱性および耐熱性に優れ、図1および図3に示すように、連続処理室130のヒータ加熱領域Aの内周を覆い、ヒータ加熱領域A内から外部への放熱を抑制する。また、断熱壁172は、図1に示すように、通電加熱領域Bまで延伸している。
【0042】
(通電加熱領域B)
図4は、図1のB−B断面図であり、図5は、図1のC−C断面図である。ここでは、理解を容易にするため、図4と図5を用いて典型的な2つの状態を説明する。図4は、通電加熱領域Bに坩堝120が配置された状態を示し、図5は、その配置された坩堝120に対して後述する昇降装置を動作させた状態を示す。
【0043】
図4、図5に示すように、連続処理室130は、通電加熱領域Bにおいて、ヒータ174、通電機構176、昇降装置178、側面断熱材180、上面断熱材182を備える。
【0044】
ヒータ174は、上述したヒータ170と同様、抵抗加熱ヒータ、ガスヒータ、バーナ等であって、通電加熱領域Bを加熱する。ヒータ174の加熱によって、カーボン粉末は予熱温度T2に維持される。
【0045】
通電機構176は、水平位置が等しくなるように鉛直方向に並置した上方電極棒190、下方電極棒192の組み合わせで構成され、通電加熱領域Bにおいて、搬送方向に複数配置されている。通電機構176は、上方電極棒190、下方電極棒192を通じ、タクトタイム毎に順次、坩堝120内のカーボン粉末を通電加熱する。
【0046】
タクトタイムは、例えば、一つの坩堝120当たりの黒鉛の生成量や、単位時間当たりの黒鉛の目標生成総量等に基づいて定まる。ここで、タクトタイム1回分の通電時間ではカーボン粉末を十分に加熱できない場合、本実施形態のように複数(本実施形態においては3つ)の通電機構176を設け、一つの坩堝120に対して複数の通電機構176を用いて複数回通電加熱を施すことで、必要な通電時間(加熱時間)を確保する。
【0047】
上方電極棒190は、分割電極122と同様、黒鉛化温度T1に耐える耐熱性と、導電性を有する、例えば、グラファイト製の円柱形の電極であり、断熱壁172の上部(天井)に設けられた貫通孔172aに挿通され、電源部132と電気的に接続されている。また、上方電極棒190と貫通孔172aとは、両者の間に隙間が形成されることで絶縁されている。
【0048】
ここでトレー150に載置された坩堝120が上方電極棒190の鉛直下方に搬送されると、図4に示すように、上方電極棒190の下端部190aと、坩堝120に収容されたカーボン粉末から露出した分割電極122の上端部122bとが対向することとなる。
【0049】
下方電極棒192は、分割電極122と同様、黒鉛化温度T1に耐える耐熱性と、導電性を有する、例えば、グラファイト製の円柱形の電極であり、断熱壁172の下部(床)に設けられた貫通孔172bに挿通され、電源部132と電気的に接続されている。また、下方電極棒192と貫通孔172bとは、両者の間に隙間が形成されることで絶縁されている。
【0050】
ここで、トレー150に載置された坩堝120が下方電極棒192の鉛直上方に搬送されると、図4に示すように、下方電極棒192の上端部192aと、坩堝120の底部120bとが対向することとなる。
【0051】
昇降装置178は、上方電極棒190を昇降させるためのシリンダ178aと、下方電極棒192を昇降させるためのシリンダ178bと、シリンダ178a、178bを昇降させる油圧ポンプ(図示せず)で構成される。
【0052】
シリンダ178aは、水冷された電極棒板178cを介して上方電極棒190を鉛直下向きに引張し、上方電極棒190の待機位置(図4に示す位置)と、上方電極棒190の下端部190aが分割電極122の上端部122bと当接する当接位置(図5に示す位置)との間で上方電極棒190を昇降させる。
【0053】
シリンダ178bは、水冷電極棒板178dを介して下方電極棒192を鉛直上向きに支持し、下方電極棒192の待機位置(図4に示す位置)と、下方電極棒192の上端部192aが坩堝120の底部120bと当接して坩堝120をトレー150から持ち上げ、坩堝120とトレー150を絶縁状態にする当接位置(図5に示す位置)との間で下方電極棒192を昇降させる。
【0054】
また、シリンダ178a、178bと、連続処理室130との間には、それぞれ絶縁部材178e、178fが挟持され、上方電極棒190および下方電極棒192と、連続処理室130とは電気的に絶縁されている。
【0055】
側面断熱材180は、坩堝120の搬送を妨げないように、搬送機構124による坩堝120の搬送方向に平行な位置に搬送方向に沿って設けられ、坩堝120からの放熱、特に搬送方向に直交した方向への放熱を抑制する。
【0056】
上面断熱材182は、搬送機構124による坩堝120の搬送方向に平行な位置に設けられ、坩堝120からの放熱、特に坩堝120の鉛直上方への放熱を抑制する。
【0057】
かかる側面断熱材180および上面断熱材182を備える構成により、坩堝120からの放熱が抑制され、連続炉100はカーボン粉末を効率的に加熱することができる。本実施形態においては、側面断熱材180と上面断熱材182が一体形成されており、断面L字形状を呈している。側面断熱材180と上面断熱材182とは別体でもよい。
【0058】
電源部132は、例えば、炉内部より低温な位置に配置され、複数の通電機構176それぞれに坩堝120が位置しているときに、ケーブル(図示せず)を介して、上方電極棒190と下方電極棒192との間に電圧を印加する。具体的に、電源部132は、昇降装置178が駆動し、図5に示すように、上方電極棒190の下端部190aが分割電極122の上端部122bに当接し、下方電極棒192の上端部192aが坩堝120の底部120bに当接した状態で、電圧を印加する。こうして、上方電極棒190に接続された分割電極122と、下方電極棒192に接続された坩堝120間に高い電位差が生じ、坩堝120内のカーボン粉末を通電加熱することができる。
【0059】
図6は、分割電極122の上端部122bと上方電極棒190の下端部190aの形状を説明するための説明図である。図6(a)に示した上方電極棒190の下端部190aおよび分割電極122の上端部122bは平面に形成されているので、上方電極棒190の下端部190aと分割電極122の上端部122bとは面接触する。ただし、本実施形態では、接触するそれぞれの面の面積が異なるとする。
【0060】
かかる接触面の面積を異ならせる構成により、上方電極棒190の中心軸と分割電極122の中心軸とが水平方向にずれたとしても、いずれか面積が大きい方の面の範囲内であれば、中心軸がずれる前と同じ接触面積を確保でき、カーボン粉末を安定して発熱させることが可能となる。
【0061】
特に、本実施形態においては、図6(a)に示すように、上方電極棒190の下端部190aの面の面積は、分割電極122の上端部122bの面の面積より大きいとする。
【0062】
このように、上記中心軸のずれに対する安定性を確保するための接触面積について、上方電極棒190の下端部190a側の面の面積を大きくして対応する。こうすることで、分割電極122の上端部122bの面積を、上方電極棒190の下端部190aの面の面積の範囲内で自由に設定することができ、通電量に応じて適切な大きさを選択することが可能となる。
【0063】
さらに、図6(b)に示すように、上方電極棒190の下端部190aの面と分割電極122の上端部122bの面とは、半径が等しい凹状の球面(凹球面)と凸状の球面(凸球面)との対で構成されてもよい。
【0064】
かかる構成により、分割電極122の中心軸が傾いたとしても、上方電極棒190の下端部190aの面と分割電極122の上端部122bの面との面接触が維持されるため、連続炉100は、中心軸が傾く前後でほぼ等しい接触面積を確保でき、カーボン粉末を安定して加熱することが可能となる。
【0065】
また、図6(b)に示すように、上方電極棒190の下端部190aの面を凹状の球面、分割電極122の上端部122bの面を凸状の面とすると、分割電極122の上端部122bの面にカーボン粉末の塊等が降りかかっても球面を摺動して自然と落下する可能性が高くなる。そのため、カーボン粉末の塊等を挟んで、上方電極棒190の下端部190aの面と分割電極122の上端部122bの面の接触面積が小さくなってしまう事態を回避できる。
【0066】
(黒鉛の生成方法)
続いて、連続炉100を用いた黒鉛の生成方法について述べる。上述したように、連続炉100では、タクトタイム毎に所定のストローク分、複数の坩堝120を順次搬送し、複数の坩堝120それぞれに対して順次、黒鉛化処理を施すが、ここでは理解を容易にするため、一つの坩堝120に対する処理の流れについて説明する。
【0067】
図7は、連続炉100を用いた黒鉛の生成方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。図7に示すように、ロボットアームが、分割電極122を下端部のみ坩堝120内に位置するように、また、坩堝120には接触しないよう坩堝120の内面から所定間隔離隔させた状態で固定し、供給装置がカーボン粉末を坩堝120に収容する(S200)。このとき、分割電極122は収容されたカーボン粉末によってその起立状態が維持されるので、ロボットアームによる保持が不要となる。
【0068】
続いて、開閉扉126aが開かれ、搬入脱気室126内のフリーローラ152上に、坩堝120が載置されたトレー150が配置される(S202)。
【0069】
そして、開閉扉126aが閉じられると、雰囲気保持置換装置は、搬入脱気室126が所定の雰囲気となるようにガスの送入や送出を行う(S204)。続いて、開閉扉126bが開かれ、プッシャー装置154がトレー150を押進して連続処理室130に搬入する(S206)。搬入後、開閉扉126bは閉じられる。
【0070】
図8は、坩堝120内のカーボン粉末および黒鉛の温度変化を説明するための説明図である。図8において、横軸は時間を、縦軸は坩堝120内のカーボン粉末および黒鉛の温度を示す。
【0071】
図8に示すように、連続処理室130のヒータ加熱領域Aにおいて、ヒータ170は、搬入されたトレー150に載置された坩堝120内のカーボン粉末を予熱温度T2まで加熱する(S208)。
【0072】
そして、トレー150が通電加熱領域Bに搬送され、坩堝120が一つ目の通電機構176に配置される(S210)。このとき、トレー150に載置された坩堝120を、上方電極棒190の鉛直下方に位置させると、上方電極棒190の下端部190aと、坩堝120に収容されたカーボン粉末から露出した分割電極122の上端部122bとが対向することとなる。また、トレー150に載置された坩堝120を、下方電極棒192の鉛直上方に位置させると、下方電極棒192の上端部192aと、坩堝120の底部120bとが対向することとなる。
【0073】
昇降装置178は、シリンダ178aを下降させ、上方電極棒190の下端部190aを分割電極122の上端部122bに当接させると共に、シリンダ178bを上げ、下方電極棒192の上端部192aを坩堝120の底部120bに当接させ、さらに、シリンダ178bを通じて坩堝120をトレー150から持ち上げる(S212)。
【0074】
電源部132は、上方電極棒190と下方電極棒192との間に電圧を印加する(S214)。そして、所定の電圧印加時間が経過すると、昇降装置178は、シリンダ178aを上げ、シリンダ178bを下降させ、坩堝120をトレー150の上に戻す(S216)。昇降装置178は、上方電極棒190および下方電極棒192をそれぞれ待機位置に戻す。
【0075】
引き続き、トレー150が搬送され、二つ目の通電機構176に位置すると(S218)、一つ目の通電機構176と同様、当接処理ステップS212、電圧印加処理ステップS214、坩堝載置ステップS216が実行される。さらに、トレー150が搬送され、三つ目の通電機構176に位置すると(S220)、一つ目の通電機構176と同様、当接処理ステップS212、電圧印加処理ステップS214、坩堝載置ステップS216が実行される。
【0076】
このように、3つの通電機構176で順次、通電加熱されることで、カーボン粉末は、図8に示すように、黒鉛化温度T1に達する。こうして、カーボン粉末を黒鉛化して黒鉛を生成する。
【0077】
その後、トレー150が搬送され、冷却領域Cにおいて、坩堝120内のカーボン粉末が冷却される(S222)。そして、雰囲気保持置換装置は、搬出脱気室128が所定の雰囲気となるようにガスの送入や送出を行う(S224)。続いて開閉扉128aが開かれると、プラー装置156は、連続処理室130内から、フリーローラ152上に載置された坩堝120を載せたトレー150を牽引して、搬出脱気室128に搬出する(S226)。
【0078】
そして、開閉扉128bが閉じると、開閉扉128aが開き、トレー150ごと坩堝120が搬出脱気室128から搬出され、坩堝120内の黒鉛が回収される(S228)。搬出後、開閉扉128aは閉じられる。
【0079】
このように、本実施形態にかかる黒鉛の生成方法によれば、カーボン粉末を効率的に黒鉛化することが可能となる。
【0080】
上述したように、本実施形態の連続炉100において、複数の通電機構176がカーボン粉末に通電する場合であっても、分割電極122は下端部122aがカーボン粉末に埋設された状態で維持され、通電機構176間を移動する毎に分割電極122が抜き差しされることがない。そのため、搬送機構124は、坩堝120に対する分割電極122の水平位置を厳密に制御する必要がなく、安価な装置で実現できる。
【0081】
また、連続炉100は、ヒータ加熱処理と通電加熱処理を併用することで、通電加熱処理のみ用いる場合に比べて処理時間を短縮できるため、炉長も短縮できイニシャルコストやランニングコストを抑制できる。
【0082】
カーボン粉末を連続して投入し、黒鉛を回収する従来の連続炉と異なり、本実施形態の連続炉100は、黒鉛を連続して排出する機構が不要であるため、ブリッジが発生せず安定して黒鉛を生成可能である。
【0083】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、黒鉛炉として、複数の坩堝120に対して連続して処理を行う連続炉100を例に挙げて説明した。第2の実施形態では、黒鉛炉としてバッチ炉300を例に挙げて説明する。
【0084】
(バッチ炉300)
図9は、バッチ炉300を説明するための説明図である。バッチ炉300は、坩堝120と、分割電極122と、支持部310と、電源部132と、ヒータ370と、断熱壁372と、通電機構376と、昇降装置178とを備え、通電機構376は、上方電極棒190、下方電極棒192の組み合わせである。
【0085】
第1の実施形態の連続炉100の構成要素として既に述べた、坩堝120と、分割電極122と、電源部132と、昇降装置178と、上方電極棒190と、下方電極棒192とは、実質的に機能が同一なので重複説明を省略し、ここでは、構成が相違する支持部310と、ヒータ370と、断熱壁372と、通電機構376を主に説明する。
【0086】
支持部310は、支柱312と、台座314とで構成される。支柱312は、床面から立設し上端部に台座を固接する。台座314は、トレー150と同様、例えば、グラファイト製やセラミックス製の支持板であり、上部に坩堝120が載置されると共に、その貫通孔314aの内周面の一部はテーパー加工が施され、坩堝120の下端部における切頭円錐形の傾斜部と嵌合する。
【0087】
また、第1の実施形態と同様、下方電極棒192の上端部192aが坩堝120の底部120bと当接して坩堝120を台座314から持ち上げられ図9に示す位置となると、坩堝120と台座314とは絶縁状態になる。
【0088】
ヒータ370は、抵抗加熱ヒータ、ガスヒータ、バーナ等であって、坩堝120内のカーボン粉末を予熱温度T2まで加熱し、予熱温度T2で維持する。断熱壁372は、断熱性および耐熱性に優れ、バッチ炉300の内周を覆ってバッチ炉300内部から外部への放熱を抑制する。通電機構376は、連続炉100と異なり複数ではなく一つ配置され、坩堝120内のカーボン粉末に通電加熱する。
【0089】
本実施形態のバッチ炉300は、ヒータ加熱処理、通電加熱処理、冷却処理間で坩堝120を搬送せず、坩堝120の水平位置を固定した状態で、カーボン粉末の収容から黒鉛化まで一括処理する。
【0090】
本実施形態のバッチ炉300においても、カーボン粉末を坩堝120に収容する際、連続炉100と同様、例えば、ロボットアームが、分割電極122を下端部のみ坩堝120内に位置するように、また、坩堝120には接触しないよう坩堝120の内面から所定間隔離隔させた状態で固定し、カーボン粉末を供給する供給装置が、分割電極122を避けて、坩堝120の開口部からカーボン粉末を流し込む。
【0091】
このように、カーボン粉末に埋設する分割電極122を備える構成により、バッチ炉300は、カーボン粉末の密度分布を均一にでき、流れる電流を均一化して通電加熱することが可能となる。
【0092】
また、坩堝120のサイズ変更が必要となった場合、坩堝120と分割電極122との間に挟まれるカーボン粉末の層の厚さを最適にするため、分割電極122も交換する必要がある。このとき、バッチ炉300では、分割電極122は移動自在であるため交換が容易であり、上方電極棒190や下方電極棒192をその都度取り外して交換することなく、迅速にサイズ変更できる。
【0093】
上述したように、第1の実施形態の連続炉100および第2の実施形態のバッチ炉300のいずれの黒鉛化炉においても、電流はカーボン粉末に確実に流れるため、カーボン粉末を効率的に黒鉛化することができる。また、カーボン粉末の収容後、通電が終了するまで、分割電極122はカーボン粉末から抜かれることがないため、黒鉛化炉(連続炉100およびバッチ炉)は、カーボン粉末と分割電極122とが隙間なく密着した状態を維持できる。そのため、黒鉛化炉は、カーボン粉末全体に満遍なく通電することが可能となる。
【0094】
また、上述した実施形態の連続炉100およびバッチ炉300では、分割電極122の下端部122aの表面の任意の点の法線方向における、坩堝120までのカーボン粉末の抵抗値が、下端部122aの表面のいずれの点においてもほとんど等しくできる。そのため、従来と比較して、カーボン粉末に流れる電流が均一化され、効率的に黒鉛化することが可能となる。
【0095】
また、本実施形態では、カーボン粉末の種類、坩堝120内に収容するカーボン粉末のかさ密度に応じて、カーボン粉末を収容する前にロボットアーム等で固定する分割電極122の位置を鉛直方向に調整する。かかる構成により、さらなる電流分布の均一化が可能となる。
【0096】
さらに、通電機構176は、ヒータ174、370によって予熱温度T2まで温められるため、上方電極棒190の下端部190aを分割電極122の上端部122bに当接させる際、および、下方電極棒192の上端部192aを坩堝120の底部120bに当接させる際、分割電極122や坩堝120から熱を奪う事態を回避できる。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0098】
なお、本明細書の黒鉛の生成方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、カーボン粉末を加熱して黒鉛化する黒鉛化炉および黒鉛の生成方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
100 …連続炉
120 …坩堝
120b …坩堝の底部
122 …分割電極
122a …分割電極の下端部
122b …分割電極の上端部
124 …搬送機構
132 …電源部
176 …通電機構
180 …側面断熱材
182 …上面断熱材
190 …上方電極棒
190a …上方電極棒の下端部
192 …下方電極棒
192a …下方電極棒の上端部
300 …バッチ炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動自在に設けられた導電性の分割電極と、
前記分割電極の下端部がカーボン粉末に埋設されると共に、該分割電極の上端部が該カーボン粉末から露出した状態で該カーボン粉末が収容された導電性の坩堝と、
下端部が、前記分割電極の上端部と対向するように配置された上方電極棒と、
上端部が、前記坩堝の底部と対向するように配置された下方電極棒と、
前記上方電極棒の下端部が前記分割電極の上端部に当接し、前記下方電極棒の上端部が前記坩堝の底部に当接した状態で、該上方電極棒と該下方電極棒との間に電圧を印加する電源部と、
を備えることを特徴とする黒鉛化炉。
【請求項2】
前記上方電極棒の下端部と前記分割電極の上端部とは面接触し、接触するそれぞれの面の面積が異なることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛化炉。
【請求項3】
前記上方電極棒の下端部の面の面積は、前記分割電極の上端部の面の面積より大きいことを特徴とする請求項2に記載の黒鉛化炉。
【請求項4】
前記上方電極棒の下端部の面と前記分割電極の上端部の面とは、半径が等しい凹状の球面と凸状の球面との対で構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の黒鉛化炉。
【請求項5】
前記上方電極棒、前記下方電極棒の組み合わせである通電機構が複数配置された通電加熱領域と、
前記坩堝を、前記通電加熱領域内で前記複数の通電機構間を順次搬送させる搬送機構と、
をさらに備え、
前記電源部は、前記複数の通電機構それぞれに前記坩堝が位置しているときに電圧を印加することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の黒鉛化炉。
【請求項6】
前記搬送機構による前記坩堝の搬送方向に平行な位置に、該坩堝の側面からの放熱を抑制する側面断熱材をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の黒鉛化炉。
【請求項7】
前記搬送機構による前記坩堝の搬送方向に平行な位置に、該坩堝の上面からの放熱を抑制する上面断熱材をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の黒鉛化炉。
【請求項8】
前記坩堝の水平位置を固定した状態で、前記カーボン粉末の収容から黒鉛化まで一括処理するバッチ炉であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の黒鉛化炉。
【請求項9】
分割電極の下端部がカーボン粉末に埋設されると共に、該分割電極の上端部が該カーボン粉末から露出した状態で該カーボン粉末を坩堝に収容し、
上方電極棒の下端部を前記分割電極の上端部に当接させ、下方電極棒の上端部を前記坩堝の底部に当接させ、
前記上方電極棒と前記下方電極棒との間に電圧を印加し前記カーボン粉末を黒鉛化して黒鉛を生成することを特徴とする黒鉛の生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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