説明

齲蝕活動性の検査方法

【課題】 口腔内の齲蝕活動性検査法であって、刺激唾液等の唾液を多く含む被検体液を使用しても、正確且つ迅速に歯垢中の微生物の酸産生量を測定できる方法を提供する。
【解決手段】 歯垢、唾液、またはそれらの混合物を含んでなる被検体液を濾材で濾過した後、糖類を含む水溶液を濾材に流し込み、該濾材上に保持された微生物に上記該糖類を含む水溶液を一定時間作用させることで酸を産生させ、該産生した酸の回収液のpHを測定することで、酸産生量を測定する。濾過により唾液を除去することにより、回収液のpH測定を妨害する唾液中の緩衝成分を混入を避け、正確且つ迅速な検査が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の齲蝕活動性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、口腔内に存在するミュータンスレンサ球菌や乳酸桿菌等の齲蝕関連菌が齲蝕発症に深く関わっていることが知られている。
【0003】
食物中に含まれる炭水化物や、唾液中の酵素により炭水化物から生成した糖は、ミュータンスレンサ球菌等の微生物により代謝され酸が生成し、歯垢内のpHが低下する。この結果、歯のエナメル質からミネラル分が唾液中に溶出する(脱灰)。唾液の洗浄作用、緩衝作用により、歯垢中のpHは中性付近に回復するので、唾液中や歯垢中のミネラル分が再び歯面に沈着する(再石灰化)。これら脱灰と再石灰化のバランスが取れている場合、齲蝕は発症しないが、何らかの理由によりバランスが崩れ、脱灰が進行すると齲蝕が発生すると考えられる。
【0004】
齲蝕は、上述のように、歯垢中のミュータンスレンサ球菌等の微生物により産生された酸による歯面の脱灰の結果発生すると考えられる。従って、被験者の歯垢中の微生物による酸産生量を測定することで、齲蝕活動性の判定を行うことができる。
【0005】
歯垢の酸産生量測定法は各種の方法が提案されている。例えば、下野らは、スクロース(炭素源)、トリプトース(窒素源)、アジ化ナトリウム、pH指示薬を含む培地中に、綿棒により採取した歯垢を投入し、37℃にて48時間培養し、培地のpH測定することで(pH指示薬の呈色を目視判定)、歯垢中の微生物の酸産生量を測定する方法を報告している(特許文献1、非特許文献1)。しかし、この方法は、判定まで48時間待たねばならないという欠点を有する。
【0006】
判定に要する時間を短縮するための改良も種々報告されている。例えば、常川らは、生理的浸透圧よりも高い浸透圧を有する水溶液に歯垢を投入しpHを測定することで、30分後に歯垢中の微生物の酸産生を測定する方法を報告している(特許文献2)。また、松本らは、pH指示薬と糖類を含有する吸収性材料に歯垢を塗布することで、5分間後に歯垢中の微生物の産生量を判定する方法を報告している(特許文献3)。
【0007】
これらの方法では、綿棒(特許文献2)または、濾紙、吸い取り紙、紙タオル等で形成した吸水性材料(特許文献3)で歯面を擦ることで歯垢を採取し、酸産生量を測定している。齲蝕を予防するためには、定期的に患者の口腔内全体の齲蝕活動性を判定し、活動性に見合った処置をするという方法が有効であることが知られている。しかし、上述のような歯垢採取法では、特定の部位の歯垢を採取するには問題ないが、全ての歯面をまんべんなく擦り取ることは著しく困難であるため、口腔内全体から歯垢を採取すること、即ち、全歯面に存在する歯垢が均等に混合された検体を採取することは事実上不可能であるため、口腔内全体の歯垢の酸産生量を判定することはできないという問題がある。
【0008】
全歯面の歯垢を採取する方法として、被験者にパラフィンペレット等の咀嚼物を噛ませ、分泌した唾液を吐き出させることにより刺激唾液を採取するという方法ある。該方法は、咀嚼物をかませることにより唾液中に全歯面から歯垢が剥がれ落ち混合されるので、全歯面に存在する歯垢が均等に混合された被検体液を容易に採取することができるという利点を有するので、臨床の場で広く採用されている。また、福島によって報告された方法(非特許文献2)でブラッシング歯垢を採取することによっても、刺激唾液と同様に全歯面から均等に歯垢を採取することができる。該方法は歯ブラシで約1分間全歯面をブラッシングした後、生理食塩水で口を漱ぐことで、歯垢を回収する方法である。これらの方法で採取した被検体液は、特許文献2、3に開示されたように、綿棒等により歯面を擦り歯垢を採取することにより採取された検体に対し、唾液を多く含むという特徴がある。唾液には重炭酸塩等の緩衝成分が含まれている。このため、これらの唾液を多く含む被検体液を使用し酸産生量を検査する場合、歯垢中の微生物により酸が産生されても唾液の緩衝能によりpHの低下が起こり難くなる。このため、微生物に酸を産生させる時間を長くする必要があるので、迅速な判定が困難という問題がある。
【0009】
刺激唾液のような、唾液を多く含む被被検体液を使用した場合も、正確、迅速に歯垢中の微生物の酸産生量を測定できる方法が望まれていた。
【0010】
【非特許文献1】下野勉ら,小児歯科学雑誌,14巻,6−18頁,1976年
【非特許文献2】福島和雄,ミュータンスレンサ球菌の臨床生物学(クイセッテンス出版、花田信弘監修),第1版,62−82頁,2003年
【特許文献1】特開昭50−1589号公報
【特許文献2】特開昭56−96700号公報
【特許文献3】特開2004−205210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、刺激唾液等の唾液を多く含む被検体液を使用した場合も、正確且つ迅速に歯垢中の微生物の酸産生量を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決するために、鋭意検討してきた。その結果、刺激唾液等の唾液を多く含む被検体液を濾材で濾過することで、歯垢と唾液を分離し唾液を除去した後、歯垢に糖類を含む水溶液を一定時間接触させることで歯垢中の微生物が産生した酸を唾液中の緩衝成分に妨害されることなく検出でき、その結果、糖類を含む水溶液を作用させる時間が短縮できることを見出した。そして更に検討を進め、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、歯垢、唾液、またはそれらの混合物を含んでなる被検体液を濾材で濾過後、糖類を含む水溶液を濾材に流し込み、該濾材上に保持された微生物に上記該糖類を含む水溶液を一定時間作用させることで酸を産生させ、該産生した酸の回収液のpHを測定することを特徴とする齲蝕活動性の検査方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の検査方法により、刺激唾液等の唾液を多く含む被検体液を使用した場合も、正確且つ迅速に被験者の齲蝕活動性を判定することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の検査方法では、歯垢、唾液、またはそれらの混合物を採取し、これらを含むことにより、微生物を含有する被検体液を使用する。この被検体液を濾材で濾過することによって、微生物や、該微生物が存在している歯垢を唾液から分離する。濾過により唾液中の緩衝成分が除去され、微生物により産生された酸が感度よく検出できるので、微生物に酸を産生させる時間の短縮が可能になる。このように唾液を除去することで、従来迅速な検査が困難であった刺激唾液のような唾液を多く含有する被検体液を使用した場合も、正確且つ迅速に歯垢中の微生物の産生する酸の量を測定することが可能になる。さらに、微生物や歯垢を濾材上に濃縮することも可能なので、検査に要する時間のさらなる短縮も可能になる。
【0016】
本発明で使用する被検体液は、歯垢、唾液、またはそれらの混合物を含むものであれば制限なく使用できる。通常、口腔内の齲蝕に関係している微生物は歯垢中に存在するので、高感度に齲蝕の可能性を測定するためには、披検体液には歯垢が含有されているのが好ましく、これら歯垢に起因して、披検体液中の歯垢に含まれる微生物濃度が1,000CFU/ml以上であるのが好ましい。また、唾液の影響を受けることなく、微生物により産生された酸を検出する本発明の効果をより顕著に発揮させる観点からは、少なくとも唾液が10質量%以上含まれている液であるのが効果的である。
【0017】
本発明で使用する被検体液の採取方法は、歯垢や唾液が含まれる液が得られる限り特に限定されず、例えば、綿棒または、濾紙、吸い取り紙、紙タオル等で形成した吸水性材料で歯面を擦ることで歯垢を採取し、これを、水、生理食塩水等の緩衝作用を持たない水溶液により希釈して披検体液としても良い。
【0018】
上記歯垢が口腔内全体から効率的に採取でき、齲蝕の活動性を口腔内全体を対象に検査できることから、例えば、被験者にパラフィンペレット、またはガムベース等の咀嚼物を1〜5分程度かませて採取した、刺激唾液を用いるのが好ましい。または、歯ブラシで歯面を一定時間ブラッシングした後、生理食塩水等の水溶液で口を漱ぐことにより採取したブラッシング歯垢の採取液を用いるのが好ましい。刺激唾液、ブラッシング歯垢の採取液は、全歯面からの歯垢が均等に含まれているので、前記したとおり口腔内全体の齲蝕活動性を検査するのに適した被検体液である。また、これらの被検体は、唾液を前記したような多く含むものになるため、本発明の方法による効果が特に顕著に発揮されて好ましい。
披検体液は、上記刺激唾液を用いるのが唾液含量が特に多いという 理由から最も好ましい。
【0019】
これら披検体液の濾過量は、均一な濾過と濾過時間等を考慮すると、濾材1cm当たり0.5〜2mlであるのが一般的である。
【0020】
なお、唾液、歯垢を多く含む被検体液は、粘性が高い、不溶物が多い等の理由により、重力下では濾過速度があまり高くない場合が多い。このような場合には、後述するような手法により、加圧することによって濾過速度を上げ、被検体液の濾過に要する時間を短縮することができる。
【0021】
本発明の検査方法では、上記のような被検体液を濾材を用いて濾過し、被検体液中に存在する微生物を濾材上に保持する。濾材としては、公知の材質からなる膜状、層状の濾材が制限なく使用できる。このような濾材を例示すると、メンブランフィルター、ガラス繊維濾紙、濾紙等が挙げられる。
【0022】
本発明で使用される濾材の孔径は、被検体液中に含まれる微生物の90%以上が保持されることが好ましいが、濾材の孔径が小さすぎると少量の被検体液でも目詰まりをおこす。濾材の好適な孔径を例示すると、0.8〜2μmの範囲である。この範囲より孔径が小さいと濾過可能な被検体液量が少なくなり、この範囲より孔径が大きいと被検体液中の微生物が濾材を通過してしまうため、濾材上に保持される微生物量が少なくなるので、迅速な検査が困難になる。
【0023】
被検体液の濾過は、一般的な濾過の方法に従って実施できる。例えば、図1に示すように、上述の好適な濾材が組み込まれたシリンジフィルターを使用し、シリンジにより加圧することで実施できる。また、例えば、シリンジ内に濾材を固定した濾過装置を作製し、プランジャーを外した状態で該シリンジ内に被検体液を分注し、プランジャーをシリンジに挿入し押して加圧することで濾過することもできる。
【0024】
被検体液を濾過後、水、生理食塩水等の緩衝作用を持たない水溶液を濾過することで濾材中等に僅かに残留する唾液を洗浄しても良い。
【0025】
本発明の齲蝕活動性の検査方法では、次に、上述のような方法によって被検体液を濾過した濾材に糖類を含む水溶液を流し込み、濾材上に保持された微生物と糖類を含む水溶液を一定時間作用させることで微生物に酸を産生させる。本発明の齲蝕活動性の検査方法では、微生物の産生した微量の酸をpHの変化として測定するので、該糖類を含む水溶液は、pH測定を困難にする成分(例えば、緩衝成分、高濃度の酸塩基)が含有されないものを使用することが好ましい。これらの成分が含有されていると、pH変化に必要な酸の量が増えてしまうため、微生物に糖類を含む水溶液を作用させる時間を長くしなければならなくなる。
【0026】
糖類としては、微生物により代謝されて酸が産生されるものであれば特に限定されず使用され、単糖類、二糖類、多糖類の何れも良好に使用できるが、微生物の代謝速度が速いという理由から、単糖類、二糖類を使用することが特に好適である。好適な糖類の具体例として、グルコース、スクロース、マルトース、フルクトース、ラクトース等を挙げることができる。
【0027】
これら糖類を溶解した水溶液を使用するが、糖類の濃度は、少なすぎると微生物の糖類の代謝速度が低いために酸産生速度が低くなり、高すぎても微生物に浸透圧がかかるため、微生物の酸産生速度が低くなり、短時間での齲蝕活動性の判定ができなくなる。糖類の好適な濃度を例示すると、5〜40質量%であり、より好適には5〜20質量%である。
【0028】
糖類を含む水溶液には、濾過の効率を上げる目的で、緩衝能を持たない物質を微生物の酸産生とpH測定を阻害しない濃度で加えることができる。このような添加物を例示すると、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(商品名「トリトンX−100」)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(商品名「ツイーン80」)、エチレングリコール、グリセロール等が挙げられ、好適な濃度範囲を例示すると、0.1〜40重量%である。糖類を含む水溶液はpH4〜8の範囲内であることが好ましく、必要に応じて、希塩酸、希水酸化ナトリウム等によりpHを調整する。
【0029】
濾材上に保持される微生物やその他の不溶物は、濾材の表面だけでなく細孔の内部まで侵入しているため、供給した糖類を含む水溶液は、重力下ではほとんど流下しないのが一般的である。そのため、細孔の内部に保持される微生物までは糖類を含む水溶液が十分に作用し難いため、本発明では、被検体液を濾過した濾材上に糖類を含む水溶液を供給し、加圧して余分量を流下させて排出するのが好ましい。すなわち、上記余分量を排出させた後、濾材に含まれる残余の糖類を含む水溶液と濾材上に保持された微生物を一定時間作用させるのが好ましい。この加圧による濾過も、前記被検体液の該加圧しての濾過と同様な操作方法により実施すればよい。
【0030】
刺激唾液等唾液を多く含む被検体液を使用する場合、被検体液を濾過するだけでは濾材中に唾液中の緩衝成分が残存してしまうおそれもあるが、前述のように糖類を含む水溶液を流下させることで、微生物と糖類を含む水溶液を十分に作用させるだけでなく、唾液中に含まれる緩衝成分を洗浄除去できるので、濾材上の微生物に糖類を含む水溶液を作用させる時間の短縮が可能になる。濾材上の微生物に糖類を十分に作用させ且つ唾液成分を洗浄除去するのに好適な糖類を含む水溶液の濾過量を例示すると、濾材1cm当たり0.5ml以上である。濾材上に糖類を含む水溶液を供給した後、加圧して余分量を排出させるまでの時間は、できるだけ速やかに行うのが好ましい。
【0031】
濾材上の微生物に糖類を含む水溶液を作用させる好適な温度と時間は、10〜50℃、5〜30分の範囲である。
【0032】
上述のようにして微生物に酸を産生させた後、回収用水溶液を濾過することで産生した酸の回収液を調製し、該回収液のpHを測定することで齲蝕活動性を判定する。微生物の産生した酸の量を該回収液のpHの変化として測定するので、回収用水溶液は、pH測定を困難にする成分(例えば、緩衝成分、高濃度の酸塩基)が含有されないpH4〜8の範囲内のものを使用することが好ましい。
【0033】
回収用水溶液には、濾過の効率を上げる目的で緩衝能を持たない物質をpH測定を阻害しない濃度で加えることができる。このような添加物を例示すると、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(商品名「トリトンX−100」)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(商品名「ツイーン80」)、エチレングリコール、グリセロール等が挙げられ、好適な濃度範囲を例示すると、0.1〜40重量%である。
【0034】
回収用水溶液は、糖類を含む水溶液と同じ組成の水溶液を使用しても良い。濾過した歯垢、唾液、またはそれらの混合物に対して回収用水溶液の液量が多すぎると、微生物によって産生された酸が希釈されるため、迅速な判定が不可能になる。披検体液の好適な濾過量は前記したとおりであるが、かかる披検体液の好適な濾過量において、回収用水溶液量の好適な使用の範囲は、0.3〜1mlである。
【0035】
微生物の産生した酸の回収方法の具体例として、糖類を含む水溶液を加圧して濾過する際に、濾材上にはまだ該糖類を含む水溶液が相当量溜まっている程度にしか濾過せず、微生物に、この濾過し残した糖類を含む水溶液を所定時間作用させた後、該残りの糖類を含む水溶液を加圧して濾過して回収する方法を示すことができる。また、別の方法として、糖類を含む水溶液を濾過する際に、該糖類を含む水溶液のうちの濾材に含まれてしまう以外の余分量は排出させ、該濾材に含まれる残余の糖類を含む水溶液と濾材上に保持された微生物を所定時間作用させた後、回収用水溶液を濾過することにより回収液を調製するという方法が挙げられるが、該方法は、操作性が良く検出精度にも優れることから特に好ましい。
【0036】
なお、この回収用水溶液の濾過も、前記した前記被検体液の濾過と同様な方法により操作して実施すればよい。
【0037】
濾材上に保持された微生物の産生した酸の回収液のpHは、従来公知の方法により測定することができる。例えば、pHメーター、pH試験紙等によりpHを測定することができる。
【0038】
pH指示薬を使用すると目視によりpHが判定できるので操作が簡便になる。上述のように調製される微生物により産生される酸の回収液のpHは、微生物量に応じて5.0〜7.5程度になるため、pH指示薬は、この範囲が測定できる公知のものが使用される。このようなpH指示薬を例示すると、ブロモチモールブルー、ブロモクレゾールパープル、クロロフェノールレッド、ブロモキシレンブルー、メチルレッド等が挙げられるが、これらは単独で使用しても良いし、複数のものを組合わせて使用しても良い。
【0039】
pH指示薬は、糖類を含む水溶液、回収用水溶液のどちらか、または両方に添加すればよい。または、回収用水溶液を濾過し酸の回収液を調製した後に、該回収液にpH指示薬を添加してもよい。pH指示薬を使用する場合は、判定時に酸の回収液中のpH指示薬濃度が0.001〜0.3重量%の範囲になるようにすると明確に判定することができ好適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0041】
実施例1[刺激唾液を被検体液とした場合の本発明による齲蝕活動性検査]
(1)被検体液の採取
被験者(A〜D)にパラフィンペレットを5分間噛ませ、刺激唾液をそれぞれ採取し、被検体液とした。
(2)培養法による被検体液中のミュータンスレンサ球菌数の測定
被検体液を適宜希釈して、50μlをミチス・サリバリウス・バシトラシン(以下、「MSB」と表記することもある)固体培地上に添加し、37℃、嫌気条件下、48時間培養した。MSB固体培地上には主としてストレプトコッカス・ミュータンスとストレプトコッカス・ソブリヌスが生育する。生じたコロニー数を数え、希釈倍率を乗じることで被検体中の菌濃度(CFU/ml)を算出した。結果を表1に示した。
(3)濾材を用いた齲蝕活動性検査法による測定
13mmシリンジフィルターGF/B(ガラス繊維濾紙、孔径1μm、有効濾過面積1.3cm、ワットマン社)により(1)で採取した刺激唾液1mlを濾過した。次いで、スクロースをイオン交換水に溶解して調製した10重量%スクロース水溶液を1ml濾過し、残余のスクロース溶液を排出した。シリンジフィルターを37℃で15分間保温した。次いで、1mlの0.003重量%ブロモチモールブルーと10重量%スクロースをイオン交換水に溶解して調製した水溶液(0.1M NaOHでpH7.0に調製)を濾過し、回収液のpHをpHメーターで測定し、回収液の色調を目視で判定した。その結果を表1に併せて示した。
【0042】
ミュータンス菌数が多い場合ほど回収液のpHが低くなり、これらの被検体液によるpHの差はブロモチモールブルー呈色により目視で判別可能であった。これらの結果から、回収液のpHを測定することで齲蝕活動性の評価ができることが分かった。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例2[スクロース濃度の検討]
実施例1で使用した被検体液Eを使用して、スクロース濃度を変化させて回収液のpHを測定した。実施例1(3)と同様の方法にて、刺激唾液をシリンジフィルターで濾過した。0〜50重量%のスクロース水溶液を1ml濾過し、シリンジフィルターを15分間37℃にて保温した。次いで、保温前の濾過に使用したのと同じ濃度のスクロース水溶液を1ml濾過し、濾液のpHを測定した。結果を表2に示した。
【0045】
イオン交換水(スクロース濃度0%)の場合、スクロース水溶液に比べ、回収液のpHは高い値であり、回収液のpH低下は、スクロース代謝の結果であることが確認できた。スクロース濃度が5〜20質量%のときが、最も回収液のpHが低かった。スクロース濃度が20質量%を超えるとスクロース濃度に比例して回収液pHも上昇するが、40質量%スクロースまでは、0重量%スクロースの回収液のpH測定値との差が1以上あり、使用可能であることが確認できた。
【0046】
【表2】

【0047】
比較例1[刺激唾液を被検体液とし、唾液成分を除去せずに実施した齲蝕活動性検査(1)−唾液添加量の検討−]
実施例1で使用した被検体液Eを使用して以下の検討を行った。種々の濃度のスクロース水溶液を0.1〜0.9mlの唾液と混合し、37℃にて15分間保温後、pHをpHメーターにて測定した。その結果を表3に示した。なお、スクロース水溶液と被検体液の混合液のスクロース濃度は10質量%となるように混合した(表3)。
【0048】
刺激唾液から唾液成分を除去せずにスクロースと共に保温しても、濾過により唾液成分を除去した場合に比べ、pHの低下は僅かであった。今回検討した全ての被検体液添加量で同様の結果であり、特に最適な被検体液添加量は確認できなかった。
【0049】
【表3】

【0050】
比較例2[刺激唾液を被検体液とし、唾液成分を除去せずに実施した齲蝕活動性検査(2)]
実施例1で使用した被検体液A〜Eを使用し、以下の検討を行った。刺激唾液0.875mlにイオン交換水、または、80質量%スクロース水溶液0.125mlを添加し(スクロース終濃度0または10重量%)、37℃で15分間保温し、pHをpHメーターで測定した。結果を表4に示した。
【0051】
唾液成分を濾過により除去しない場合には、唾液緩衝能の影響を受け、唾液成分を除去した場合に比べ(表1)pHの低下は少なく、pHと被検体液中のミュータンス菌数との間には相関が認められなかった。
【0052】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本図は、本発明に使用する濾過装置の代表的態様を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・濾過液排出口
2・・・濾材
3・・・濾材収納部
4・・・接続部
5・・・シリンジ外筒
6・・プランジャー
7・・・シリンジ
8・・・シリンジフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯垢、唾液、またはそれらの混合物を含んでなる被検体液を濾材で濾過後、糖類を含む水溶液を濾材に流し込み、該濾材上に保持された微生物に上記該糖類を含む水溶液を一定時間作用させることで酸を産生させ、該産生した酸の回収液のpHを測定することを特徴とする齲蝕活動性の検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の齲蝕活動性の検査方法において、糖類を含む水溶液を濾材に流し込んだ後、加圧により該糖類を含む水溶液の余分量を排出させ、濾材に含まれる残余の糖類を含む水溶液と濾材上に保持された微生物を一定時間作用させることを特徴とする齲蝕活動性の検査方法。
【請求項3】
披検体液が刺激唾液であることを特徴とする請求項1または2に記載の齲蝕活動性の検査方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−248243(P2007−248243A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71530(P2006−71530)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】