説明

(メタ)アクリル酸の晶析方法およびその晶析システム

【課題】良好な液透過性を有する結晶を安定的に得ることができる晶析方法およびその晶析システムを目的とする。
【解決手段】伝熱面を介して熱交換を行う冷却器を備えた晶析装置を用い、(メタ)アクリル酸の結晶を含むスラリー液を生成する(メタ)アクリル酸の晶析方法であって、スラリー液温度より高く、かつ、50℃以下である任意の温度を目標温度とし、前記晶析装置が設置された環境の環境温度を前記目標温度の±10℃の範囲内で、かつ、前記環境温度の下限温度をスラリー液温度より高く、前記環境温度の上限温度を50℃以下として管理することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル酸の晶析方法およびその晶析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
晶析装置を用いて精製操作を行う場合、得られた結晶の性状、特に結晶の液透過性は、その後の固液分離性を支配するため非常に重要である。従って、晶析装置を用いた精製工程においては、結晶のより高い液透過性を常時維持できるようにすることが要求される。
結晶の液透過性を支配する因子としては、結晶の平均粒子径および粒子径分布が挙げられる。つまり、できるだけ大きな平均粒子径を持ち、粒子径が小さい領域に粒子径分布を持たない結晶を得ることが肝要である。一般的には、冷却負荷が結晶の粒子径に影響し、急激な冷却を行うと、小さな粒子径の結晶が多数発生するとされている。このため晶析装置においては、この冷却負荷を管理しつつ運転条件がコントロールされる。
冷却負荷の管理方法としては、冷却される液体である被処理流体(スラリー液)の装置内での温度を管理する方法が一般的である。
下記特許文献1には、粗製(メタ)アクリル酸に、第二成分としてメタノール、エタノール、プロパノールまたはブタノールを添加した溶液から(メタ)アクリル酸を晶析させ、析出した結晶と母液を分離することによって、精製された(メタ)アクリル酸を製造する方法が記載されている。
また、下記特許文献2には、外部循環装置やジャケット装置などを備えた冷却器を用い、該冷却器の伝熱面を介して熱交換を行う冷却式晶析法によって結晶を析出させる場合に、伝熱面上に結晶(スケール)が成長して冷却能力が低下していくことを加味して、晶析器の運転条件の変更、冷却器の切り替え、または冷却器の再生処理条件の変更を行う方法が記載されている。
他方、晶析装置からスラリー液を抜き出す際、配管内での詰まりが発生しやすい。この問題に対し、配管外部にトレースを施したり、ジャケット付の配管にする方法が考えられる。
【特許文献1】特許第3559523号公報
【特許文献2】特開2003−126607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の方法では、一定の管理基準に基づいて晶析装置の運転条件をコントロールしているにもかかわらず、得られた結晶の液透過性が大きく低下することがあり、改善が求められている。
特にイソブチレン、第三級ブチルアルコール、メタクロレイン又はイソブチルアルデヒドを、分子状酸素と一段または二段で反応させる接触気相酸化に付して得られる生成物に、抽出や蒸留等の通常の精製手段を施して得られる粗製メタクリル酸から、アルデヒド類等の不純物を除去することを目的に行われる晶析工程においてはこの問題が顕著である。
また、配管内での詰まりの問題に対して、配管にトレースを施した場合でも、外部からの加熱が不均一になり、局部的な加熱不足が生じ、詰まりを誘発することが多い。一方、均一に近い加熱が行えるジャケット付き配管でもフランジ等の接続部においては加熱が不十分にならざるを得ず、抜本的な解決方法とはならない。さらに、不均一な加熱を補うべく、トレース媒体の温度を上げることも考えられるが、(メタ)アクリル酸は易重合性物質であり、抜き出し配管の外側表面温度が50℃を超えるようなトレースを施すと、重合トラブルの危険性が伴うという問題があった。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、良好な液透過性を有する結晶を安定的に得ることができる晶析方法およびその晶析システムを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、晶析装置の冷却負荷には晶析装置から環境への放熱量が大きく影響しているとの知見を得た。晶析装置から環境への放熱を管理するに当たり、冷却される液体であるスラリー液の装置内での温度を管理する従来の方法では、環境温度の変化による晶析装置外への放熱量の増減に対応できず、その結果得られた結晶の液透過性が大きく低下してしまうことを見出した。
本発明者等は、更に鋭意研究を行った結果、晶析装置から環境中に放出される熱量を一定とすることにより、良好な液透過性を有する結晶が安定的に得られることを見出し、本発明に至った。
【0005】
すなわち本発明の晶析方法は、伝熱面を介して熱交換を行う冷却器を備えた晶析装置を用い、(メタ)アクリル酸の結晶を含むスラリー液を生成する(メタ)アクリル酸の晶析方法であって、スラリー液温度より高く、かつ、50℃以下である任意の温度を目標温度とし、前記晶析装置が設置された環境の環境温度を前記目標温度の±10℃の範囲内で、かつ、前記環境温度の下限温度をスラリー液温度より高く、前記環境温度の上限温度を50℃以下として管理することを特徴とする。前記環境温度の下限は(メタ)アクリル酸の結晶析出温度よりも高い温度であることが好ましい。
【0006】
本発明の晶析システムは、伝熱面を介して熱交換を行う冷却器を備えた晶析装置と、前記晶析装置の収容設備とを有する、(メタ)アクリル酸の結晶を含むスラリー液を生成する(メタ)アクリル酸の晶析システムであって、前記収容設備には、スラリー液温度より高く、かつ、50℃以下である任意の温度を目標温度とし、前記晶析装置が設置された環境の環境温度を前記目標温度の±10℃の範囲内で、かつ、前記環境温度の下限温度をスラリー液温度より高く、前記環境温度の上限温度を50℃以下として管理する手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の晶析方法によれば、良好な液透過性を有する結晶を安定的に得ることができる。本発明の晶析システムによれば、良好な液透過性を有する結晶を安定的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態の一例について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の晶析システム10の模式図である。
図1に示すとおり、晶析システム10は、収容設備12内に温度管理手段14、晶析装置20、結晶精製手段50が備えられている。結晶精製手段50は、固液分離装置52と配管54と、連続結晶精製装置60とで構成されている。
粗製(メタ)アクリル酸を含有する液体(以下、原料液という)を供給する原料供給ライン16は、分岐31で配管30、34と接続されている。配管30は晶析装置20の上部に接続されている。
晶析装置20は、晶析槽22を有し、晶析槽22の外側には、中位から底部にかけて、ジャケット24が設置されている。ジャケット24は、配管42によって、熱交換器40と接続されている。そして、ジャケット24が設置された晶析槽22の内面が、伝熱面25となっている。晶析槽22内部には攪拌機26が備えられ、該攪拌機26は動力源28と接続されている。また、晶析槽22の底部には排出口27が設けられ、排出口27には抜き出し配管32が接続されている。該抜き出し配管32は、固液分離装置52と接続されている。
固液分離装置52には配管54と、循環ライン56が接続されている。循環ライン56は分岐35で、循環ライン34、72と接続されている。一方、配管54は連続結晶精製装置60の氷晶供給部63と接続されている。連続結晶精製装置60は、氷晶供給部63と洗浄塔61と塔頂部65とを備え、氷晶供給部63の内部には氷晶供給手段64が備えられ、氷晶供給手段64は、動力源66と接続されている。洗浄塔61の内部には、氷晶供給手段64で洗浄塔61内へ移送された結晶を塔頂部65へ送る、スクリュー62が備えられている。該スクリュー62は動力源68と接続されている。塔頂部65には配管70が接続されている。一方、洗浄塔61の底部には、循環ライン72が接続されている。そして、循環ライン72は分岐35で、循環ライン34、56と接続され、循環ライン34は分岐31で原料供給ライン16、配管30と接続されている。
【0009】
本発明における収容設備12は、外気との接触を防ぎ、晶析装置20と、結晶精製手段50とを収容でき、室内Aと室外Bとを仕切ることができれば特に限定されず、具体的には工場建物等が挙げられる。また、該収容設備12は、外気から完全に隔離されている必要はない。環境温度を管理できるものであれば、給・排気口が設置されていてもよいし、一部開口部を有した部屋でもよい。
【0010】
本発明の温度管理手段14は特に限定されることなく、収容設備12内の環境温度を調節できるものであれば特に限定されることはない。例えば、エアーコンディショナー、ラジエター、温水床暖房等が挙げられるが、好ましくは、加熱・冷却の両機構を有したものを選択するとよい。
【0011】
本発明における晶析装置20は、伝熱面25を介して、晶析槽22内の原料液あるいはスラリー液と熱交換を行い、原料液あるいはスラリー液を所望の温度に冷却できるものであればよく、公知の晶析装置を用いることができる。例えば「化学工学便覧 改訂第六版」丸善株式会社発行、1999年、505〜520頁に記載されている装置を使用できる。特に、攪拌槽と、該攪拌槽の周面に外側から冷却媒体を接触させるための冷却ジャケットとを有する冷却器を備え、該攪拌槽の周面を伝熱面として熱交換により攪拌槽内を冷却する攪拌槽型晶析装置(以下、冷却ジャケットを有する攪拌槽型晶析装置という。)が好適である。また、晶析装置20は、連続式であっても回分式であっても良いが、本発明では原料液から結晶を連続的に晶出させる操作を安定して行うことができるため、特に連続式に好適である。
【0012】
本発明における、結晶と母液とを分離する固液分離装置52は、固体と液体とを分離できる方法であれば特に制限はなく、例えば、ろ過装置、遠心分離装置等の公知の固液分離装置、およびこれらの組み合わせを用いることができる。
固液分離装置52は特に限定されることなく、既存の装置を使用することができる。例えば、「化学工学便覧 改訂第五版」丸善株式会社発行、昭和63年、714〜723頁に記載されている重力ろ過器、加圧ろ過器、真空ろ過器等を挙げることができる。
連続結晶精製装置60は特に限定されることなく、既存の装置を用いることができる。連続結晶精製装置60の具体例としては、例えば「クレハ連続結晶精製装置による有機化合物の精製」清水忠造著、ケミカルエンジニアリング発行、第27巻、第3号(1982年)、第49頁に掲載されているKCP装置等が挙げられる。分離操作の形式は回分式または連続式のいずれでもよい。
【0013】
本発明の(メタ)アクリル酸の晶析方法について、図1を用いて説明する。
まず、温度管理手段14によって、収容設備12の内部Aの温度、すなわち晶析装置20が設置された環境温度を所定の目標温度に設定する。原料液を原料供給ライン16から、配管30を経由して、晶析槽22内に入れる。続いて、攪拌機26により原料液を攪拌する一方、熱交換器40で熱媒体を任意の温度とし、該熱媒体を冷却ジャケット24内に流通させて、晶析槽22の伝熱面25を冷却する。冷却された伝熱面25によって、原料液を冷却し、最終的に、原料液中の(メタ)アクリル酸の結晶が析出し始める温度である、結晶析出温度以下になるように、徐々に冷却する。そして、原料液から(メタ)アクリル酸が析出される。晶析槽22内で、(メタ)アクリル酸が析出されると、析出された結晶と、原料液との混合流体である、スラリー液となる。
晶析槽22の槽内温度が所定温度で安定した後、排出口27から抜き出し配管32へ、前記スラリー液を抜き出す。この際、晶析槽22内のスラリー液を一定範囲の量に維持するように、原料液の供給量を調節する。こうして、原料液から、(メタ)アクリル酸の結晶を連続的に析出させる。次いで、晶析操作を終えたスラリー液は、晶析槽22から、抜き出し配管32によって、固液分離装置52に送られる。固液分離装置52に送られたスラリー液は、スラリー液に含まれる母液と、(メタ)アクリル酸の氷晶(以下、単に氷晶という)に分離される。原料液に添加した第二成分、濃縮された不純物、および析出しなかった(メタ)アクリル酸が含まれる母液は、循環ライン56へと流され、循環ライン34、配管30を経由して、晶析槽22に返送される。一方、氷晶は、配管54に流されて、連続結晶精製装置60の氷晶供給部63へ送られる。氷晶供給部63に送られた氷晶は、氷晶供給手段64により、洗浄塔61へ送られる。洗浄塔61に送られた氷晶は、スクリュー62により塔頂部65へと送られる。この間、氷晶は、スクリュー62によりほぐされながら移送され、その過程でスクリュー62の動きと連動して圧縮開放を繰り返し、発汗作用等により不純物が溶出する。こうして、氷晶は、精製されて(メタ)アクリル酸の結晶となって、塔頂部65に至り、配管70によって次工程へと送られる。他方、溶出した不純物や、溶解した(メタ)アクリル酸を含むスラリー液は、洗浄塔61の下部から、循環ライン72、34、配管30を経由して、晶析槽22へ送られる。
【0014】
本発明における原料液は、晶析操作により精製しようとする(メタ)アクリル酸を含む流体であれば特に制限されない。本明細書において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸および/またはメタクリル酸を言い、粗製(メタ)アクリル酸とは、粗製メタクリル酸および/または粗製アクリル酸を言うものとする。
本発明における原料液として、ACH法で副生するメタクリル酸を抽出や蒸留により分離して得られる粗製メタクリル酸を好適に用いることができる。
また本発明における原料液として、イソブチレン、第三級ブチルアルコール、メタクロレイン又はイソブチルアルデヒドを、一段または二段で分子状酸素と反応させる接触気相酸化に付して得られる反応ガスを、水に吸収させて得られた水溶液から、有機溶剤を用いてメタクリル酸を抽出し、蒸留により有機溶剤及び不揮発分を除去して得られる粗製メタクリル酸を用い、該粗製メタクリル酸からアルデヒド類等の不純物を除去する晶析操作に本発明を適用することが好ましい。
【0015】
原料液中には、重合を防止するために重合防止剤を含んでいても良い。重合防止剤としては、例えばフェノール類、ハイドロキノン類、キノン類、フェノチアジン類、アミン類、N−オキシル類、硝酸化合物類等が挙げられる。フェノール類としては2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール等、ハイドロキノン類としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等、アミン類としては、N,N−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
重合防止剤の濃度は、粗製(メタ)アクリル酸の種類によって決定することが好ましく、例えば、メタクリル酸の場合には、0.5〜1000質量ppm、1〜600質量ppmが好ましく、2〜500質量ppmが特に好ましい。
【0016】
本発明における目標温度とは、温度管理手段14によって調節する目標の温度であって、晶析槽22内のスラリー液温度よりも高く、かつ、50℃以下である任意の温度である。また、本発明における環境温度とは、任意の装置等が設置された環境の雰囲気温度である。例えば、晶析装置20の環境温度とは、晶析装置20が設置された環境の雰囲気温度、すなわち収容設備12内の気温である。
本発明における環境温度は、温度管理手段14によって、目標温度の±10℃の範囲内で管理されており、好ましくは±5℃の範囲内で管理されている。環境温度を上記範囲内とすることで、スラリー液からの放熱量の変化に伴う、スラリー液への冷却負荷の増減を抑制し、常時一定の性状の(メタ)アクリル酸の結晶を得ることができる。
加えて、前記環境温度は、下限温度がスラリー液温度よりも高く、上限温度が50℃以下である。環境温度をスラリー液温度以下にすると、晶析装置20の設置環境に対して、スラリー液からの放熱が起き、スラリー液の冷却負荷を増大させる懸念がある。そして、必要以上にスラリー液の冷却負荷が増大すると、結晶の液透過速度が低下するためである。一方、50℃を超えると、環境温度によって晶析装置20が加熱され、熱媒体による冷却効率が悪くなり、重合トラブルを引き起こす可能性があるためである。
さらに、好ましい環境温度は、環境温度の下限温度が、(メタ)アクリル酸の結晶析出温度よりも高い温度であり、上限は45℃以下である。環境温度を結晶析出温度よりも高くすることで、晶析槽22内のスラリー液が局部的に冷却され、結晶の析出が促進される部分が生じることを防ぐことができる。また、抜き出し配管32内の内壁部における、結晶生成・付着による詰まりを抑制することができる。上限温度を45℃以下とすることで、重合トラブルをより効果的に防止することができる。
【0017】
なお、スラリー液の温度は、原料液中の(メタ)アクリル酸の結晶が析出し始める結晶析出温度以下であれば良く、(メタ)アクリル酸の種類と、作業性等とを勘案して決定することができる。例えば、メタクリル酸(融点15℃)である場合には、操作性の点から、冷却温度を−10〜10℃の範囲内で設定することが好ましい。
【0018】
必要に応じて、(メタ)アクリル酸の結晶析出温度を調整するために、第二成分を添加しても良い。例えば、粗製メタクリル酸を用いる場合、第二成分としてメタクリル酸と固溶体を形成しない、極性有機物質を添加することにより、結晶析出温度を低下させることができる。第二成分としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。また、第二成分の添加量は、粗製メタクリル酸に対して、1〜35質量%の範囲が好ましい。メタクリル酸の融点が15℃であるのに対して、結晶析出温度が−10〜10℃となるように、第二成分の添加量を設定することが好ましい。
【0019】
本発明によれば、スラリー液温度より高く、かつ、50℃以下の任意の温度を目標温度とし、かつ晶析装置の環境温度を前記目標温度の±10℃の範囲内で、かつ、前記環境温度の下限温度をスラリー液温度より高く、前記環境温度の上限温度を50℃以下として管理された環境にて晶析操作を行うため、良好な液透過性を持つ結晶を安定して得ることができる。
本発明は、環境温度の影響を受け易い粗製(メタ)アクリル酸の晶析操作に好適である。すなわち、アクリル酸の融点は12℃、メタクリル酸の融点は15℃であり、上述したように、粗製(メタ)アクリル酸に上記第二成分を添加した後の結晶析出温度は−10〜10℃程度である。融点および結晶析出温度が環境温度と近いと、晶析操作が環境温度の影響を非常に受けやすい。例えば結晶析出温度が8℃であるときに、環境温度が20℃の場合は、加熱サイドとなり冷却不足になりやすく、環境温度が0℃の場合は、放熱サイドとなるので過冷却になりやすい。このように、特に環境温度によって冷却不足から過冷却まで冷却状態が大きく変化しやすい場合には、本発明の方法により環境温度を一定とすることによる、品質安定化の効果が大きい。
また、本発明によれば、環境温度の下限値を結晶析出温度よりも高くすることで、抜き出し配管内内壁部での、(メタ)アクリル酸の結晶生成・付着による詰まりを抑制することができる。
【0020】
上述の実施形態では、結晶精製手段50は連続結晶精製装置60を有しているが、連続結晶精製装置60は、結晶精製手段50に必須ではなく、含まれていなくても良い。
【0021】
上述の実施形態では、晶析装置20と結晶精製手段50とは収容設備12内に設置されているが、晶析装置20だけが収容設備12内に設置されていても良いし、それぞれ別の収容設備内に設置されていても良い。ただし、より安定して良好な液透過性を有する結晶を得るためには、晶析装置20と結晶精製手段50とを同一の収容設備12内に設置することが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
下記の実施例および比較例において、晶析装置としては冷却ジャケットを有する攪拌槽型晶析装置を用いた。冷却媒体としては40質量%エチレングリコール水溶液(比熱:1.1)を用いた。
(結晶の評価方法)
得られた結晶の性状は、以下の方法で得られる液透過速度(K、単位:m/hr)によって評価した。
<液透過速度の算出方法>
(1)内径3cm程度、長さ1m程度のガラス管を垂直に立て、底部に金網をセットする。
(2)晶析装置排出口から得たスラリー液(結晶と母液とからなる)をガラス管の高さ50cm程度まで注ぐ。
(3)ガラス管内の結晶が沈降し、落ち着いたところで結晶層上面位置(H1)にマークする。
(4)H1から2.5cm上方の位置(H3)、および5cm上方の位置(H2)にマークする。
(5)液面がH2からH1まで低下するのに要する時間(T)を測定する。
なお、測定中必要に応じ、ガラス管上部からスラリー液の母液を追加しても構わない。
(6)測定中、液面がH1からH3の高さとなったときの結晶層上面位置(H)をマークする。
(7)得られたデータから下記(I)式を用いて液透過速度(K)を算出する。
【0023】
【数1】

【0024】
ただし、(I)式において、各パラメータは以下の内容を表す。
K[単位:m/hr]:液透過速度、H[単位:m]:結晶層高さ、H1[単位:m]:測定開始時結晶層上面高さ、H2[単位:m]:測定開始時液面高さ、H3[単位:m]:中間液面高さ、T[単位:秒]:測定時間。
なお、H、H1、H2はガラス管底部の金網からの高さとする。
【0025】
(調製例1)
メタクロレインを分子状酸素で接触気相酸化し、得られた反応生成ガスを凝縮し、抽出した後、蒸留することにより粗製メタクリル酸Aを得た。得られた粗製メタクリル酸Aについてガスクロマトグラフィーにより成分分析を行ったところ、表1に示される不純物が含まれていた。
【0026】
(実施例1)
晶析装置に、上記調製例1で得られた粗製メタクリル酸Aを供給速度1800kg/hrで供給するとともに、メタノールを供給速度90kg/hrで供給した。攪拌槽内でこれらの混合溶液を冷却しつつ攪拌することによって結晶を析出させ、該結晶を含むスラリー液を攪拌槽から排出した。この混合液の結晶析出温度は9℃であった。
なお、晶析装置は外部と隔離された室内に設置し、目標温度を22.4℃、±3℃の範囲(以下、管理範囲という)で管理した。環境温度の管理は、エアーコンディショナーを利用した。
得られた結晶の液透過速度(K)を3時間毎に4回測定し、その平均値を表2に示す。表2中の環境温度、攪拌槽内のスラリー液温度、抜き出し配管の詰まり回数は、晶析を行った12時間での測定値である(以下、同様)。
【0027】
(実施例2)
目標温度を18.1℃とし、管理範囲±5℃とした以外は、実施例1と同様にして晶析を行い、液透過速度(K)を得た。得られた液透過速度(K)を表2に示す。
【0028】
(比較例1)
目標温度を25℃とし、管理範囲±15℃としたこと、および晶析槽の抜き出し配管に50℃の温水とレースを設置した以外は、実施例1と同様にして晶析を行い、液透過速度(K)を得た。得られた液透過速度(K)を表2に示す。
【0029】
(比較例2)
晶析装置を室内に設置せず、環境温度の管理を行わなかったこと以外は、比較例1と同様にして晶析を行い、液透過速度(K)を得た。得られた液透過速度(K)を表2に示す。
【0030】
(製造例:スラリー液の結晶精製)
実施例1、2において、晶析槽から排出されるスラリー液を重力ろ過器であるベルトフィルター(製品名、呉羽エンジニアリング社製)で固液分離した後、結晶精製装置であるKCP装置(製品名、呉羽エンジニアリング社製)に連続的に導入して、精製メタクリル酸と母液(メタノールを含むメタクリル酸溶液)に分離した。得られた精製メタクリル酸について、ガスクロマトグラフィーにより成分分析を行った。分析結果を表1に示す。
なお、ベルトフィルター、および、KCP装置は、晶析装置と同じ室内に設置し、同様の環境温度とした。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1に示すとおり、実施例1、2共に、不純物は良好に除去され、純度の高いメタクリル酸の結晶が得られることが判った。
【0034】
表2の結果より、実施例1、2ともに液透過速度(K)は良好であり、環境温度を管理することで、良好な液透過性を持つ結晶が安定して得られることが認められた。また、槽底部からの抜き出し配管における詰まりは発生せず、環境温度を結晶析出温度よりも高く保つことによる詰まりの抑制効果が確認された。
一方、比較例1、2は、実施例1、2同様にスラリー液温度を管理していたにもかかわらず、液透過速度(K)が低かった。さらに、比較例2では、抜き出し配管での詰まりが頻発し、安定な運転が困難な状態であった。環境温度がスラリー液の結晶析出温度よりも低下したために、配管内で結晶が析出したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態である晶析システムを示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
10 晶析システム
12 収容設備
14 温度管理手段
20 晶析装置
25 伝熱面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱面を介して熱交換を行う冷却器を備えた晶析装置を用い、(メタ)アクリル酸の結晶を含むスラリー液を生成する(メタ)アクリル酸の晶析方法であって、スラリー液温度より高く、かつ、50℃以下である任意の温度を目標温度とし、前記晶析装置が設置された環境の環境温度を前記目標温度の±10℃の範囲内で、かつ、前記環境温度の下限温度をスラリー液温度より高く、前記環境温度の上限温度を50℃以下として管理することを特徴とする(メタ)アクリル酸の晶析方法。
【請求項2】
前記環境温度の下限は、(メタ)アクリル酸の結晶析出温度よりも高い温度であることを特徴とする、請求項1に記載の(メタ)アクリル酸の晶析方法。
【請求項3】
伝熱面を介して熱交換を行う冷却器を備えた晶析装置と、前記晶析装置の収容設備とを有する、(メタ)アクリル酸の結晶を含むスラリー液を生成する(メタ)アクリル酸の晶析システムであって、前記収容設備には、スラリー液温度より高く、かつ、50℃以下である任意の温度を目標温度とし、前記晶析装置が設置された環境の環境温度を前記目標温度の±10℃の範囲内で、かつ、前記環境温度の下限温度をスラリー液温度より高く、前記環境温度の上限温度を50℃以下として管理する手段を備えていることを特徴とする(メタ)アクリル酸の晶析システム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−184982(P2009−184982A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27668(P2008−27668)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】