説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特にレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】下記式(5)で表される化合物にカルボン酸を付加してカルボン酸付加体を製造する酸付加工程と、前記カルボン酸を除去する酸除去工程と、前記カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルをエステル交換させるエステル交換工程と、を順次行う(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環構造を持つ(メタ)アクリル酸エステルは塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用である。中でも、ArFエキシマレーザーリソグラフィーでは照射光に対する透明性を有するレジスト樹脂が探索されており、前記の(メタ)アクリル酸エステルが有力候補となっている。例えば、特許文献1および特許文献2には、5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−(メタ)アクリレートの混合物がレジスト材料としての使用できることが記載されている。
【0003】
また、特許文献3および特許文献4には、5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−(メタ)アクリレートの混合物の製造方法が記載されている。これらの先行文献には、シクロペンタジエンもしくはジシクロペンタジエンの分解物とアクリロニトリルとのディールス・アルダー反応によって得られる、下記式(5)で表される2−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エンを出発原料とした以下に示すような製造方法が記載されている。
【化1】

【0004】
(1)酸触媒を用いて、二重結合へ(メタ)アクリル酸を直接付加する方法
(2)下記式(2)で表されるアルコールを合成し、これを(メタ)アクリル酸でエステル化もしくは(メタ)アクリル酸メチルなどとエステル交換する方法
(3)酸触媒を用いて、酢酸などの低級カルボン酸を二重結合へ付加させ(酸付加)、これを(メタ)アクリル酸メチル等とエステル交換する方法
これらの方法のうち、(1)の方法は反応中、および精製中に重合が起こりやすいという問題点がある。(2)の方法における、アルコールの合成法としては、
・二重結合をエポキシ化し、還元する、
・ハイドロボレーションの後、酸化的に加水分解する、
・ギ酸または酢酸などの低級カルボン酸を付加して加水分解する、
・酢酸第二水銀を付加して還元(オキシマーキュレーション反応、デマーキュレーション反応)する、
といった方法が知られているが、いずれの方法によっても工程が長くなるという問題点があり、(3)の方法が工程数、収率の面から好ましいとされていた。
【0005】
しかしながら、(3)の合成法においても、エステル交換工程の収率が十分高いとはいえないという問題があった。また、過剰の低級カルボン酸が残留した(メタ)アクリレートをレジスト用ポリマーの原料として用いた場合、レジストの安定性や感度に悪影響を及ぼすおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,165,678号明細書
【特許文献2】特開2003−122007号公報
【特許文献3】特開平1−100145号公報
【特許文献4】特開平2−193958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特にレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討した結果、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特に安定性に優れたレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造する方法を見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一の要旨は、下記式(1)で表される化合物にカルボン酸を付加してカルボン酸付加体を製造する酸付加工程と、
前記カルボン酸を除去する酸除去工程と、
前記カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルをエステル交換させるエステル交換工程と、
を順次行う下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
【化2】

【0010】
(式(1)中、AおよびAはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいはAとAとが一緒になって−O−、−S−、または炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、炭素数1〜6のアルコールでエステル化されたカルボキシ基を表す。
式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、AおよびA、R〜Rは式(1)と同義である。)
また、本発明の第二の要旨は、前記酸付加工程において酸触媒を用い前記エステル交換工程の前に、前記酸除去工程後の液を洗浄して前記酸触媒を除去する洗浄工程を行う(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特にレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、前記式(4)で表される(メタ)アクリル酸の製造方法である。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸およびアクリル酸の総称を表す。
【0013】
前記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、
前記式(1)で表される化合物にカルボン酸を付加する工程(酸付加工程)と、前記カルボン酸を減圧除去する工程(酸除去工程)と、
(メタ)アクリル酸エステルとエステル交換させる工程(エステル交換工程)とを順次行って得られる。酸除去工程とエステル交換工程の間に、酸触媒を除去する洗浄工程を経ることが、エステル交換工程での収率および重合防止の点で好ましく、また、得られる(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするレジスト用樹脂の保存安定性の点で好ましい。
【0014】
1.前記式(1)で表される化合物
前記式(1)で表される化合物をレジスト用途に用いる場合は、エッチング耐性の点でAおよびAは、一緒になって炭素数1〜6のアルキレン基となることが好ましく、炭素数1〜2のアルキレン基となることがより好ましい。また、ラインエッジラフネスの点でR〜Rの少なくとも一つがシアノ基であることが好ましい。
【0015】
特に好ましい化合物としては具体的には下記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物が挙げられる。
【化3】

【0016】
前記式(1)で表される化合物は、例えばシクロペンタジエンとジエノフィルとのディールス・アルダー反応によって得られる。たとえば、下記式(5)で表される2−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エンはシクロペンタジエンとアクリロニトリルとのディールス・アルダー反応によって得られる。なお、シクロペンタジエンは、一旦単離してからディールス・アルダー反応に供してもよいし、ジシクロペンタジエンを熱分解後生成するシクロペンタジエンを単離せずそのままディールス・アルダー反応に供してもよい。
【化4】

【0017】
アクリロニトリルとシクロペンタジエンとの環化付加反応は容易に進行するが、必要に応じてルイス酸などの触媒を使用し、無溶媒またはメタノールなどの溶媒中で行うことが好ましい。
【0018】
2.酸付加工程
前記式(1)で表される化合物は、下記の酸付加工程(I)によって前記式(3)で表される化合物(酸付加体)へと変換される。
【化5】

【0019】
(工程(I)中、Rは水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表す。)
酸付加工程で用いるカルボン酸としては、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸が好ましく、ギ酸が特に好ましい。これらのカルボン酸は反応性が高い。また、該カルボン酸は沸点が低いため、酸付加工程後に残留した場合、減圧することで容易に除去することができる。カルボン酸は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0020】
残留したカルボン酸によって、下記の問題が生じるおそれがある。
【0021】
1)加水分解が起こり生成物が下記の化合物などに転換してしまい、収率が低くなる。
2)レジストの安定性に悪影響を及ぼす。
3)次の水洗工程で水相に溶解し、中間体であるエステルを水相に溶かす相溶剤として働き、収率が低下する。
本発明においては酸付加後に残留する過剰なカルボン酸を減圧除去するため、これらの問題は生じない。そのため高収率が達成できる。
【0022】
酸付加工程で用いるカルボン酸の使用量は、前記式(1)で表される化合物1モルに対して、2〜15モルであることが好ましく、3〜8モルであることが更に好ましい。反応が十分に進行させるためには多い方が好ましく、また、反応後の過剰なカルボン酸の除去を安易にするには少ない方が好ましい。反応に際して系へ添加する、式(1)で表される化合物とカルボン酸の量、添加の順序については任意である。
【0023】
酸付加工程は、酸触媒の存在下で行ってもよい。酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素などのルイス酸、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸等のヘテロポリ酸、強酸性イオン交換樹脂などが挙げられ、反応性が高い点から、硫酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、取り扱いが容易であることから、p−トルエンスルホン酸が特に好ましい。酸触媒の使用量は、式(1)で表される化合物1モルに対し、0.03〜0.3モルが好ましく、0.05〜0.25モルが更に好ましい。酸付加反応を十分に進行させるためには多い方が好ましく、また、酸付加反応後の精製を安易にするためには少ない方が好ましい。
【0024】
酸付加工程を行う温度は、50〜150℃であることが好ましく、70〜130℃であることが更に好ましい。酸付加反応を十分に進行させるためには高い方が好ましく、また、副生成物の生成を抑制するためには低い方が好ましい。
【0025】
酸付加工程に使用する溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は、常法によりあらかじめ脱水しておくと高い反応収率が得られるため好ましい。また、収率が良好である点から、無溶媒で酸付加反応を行うことが好ましい。
【0026】
酸付加反応に要する時間は、バッチサイズ、酸触媒、反応条件により異なるが、1〜12時間であることが好ましい。更に好ましくは、2〜8時間である。酸付加反応を十分に進行させるためには長い方が好ましく、また、副生成物の生成を抑制するためには短い方が好ましい。
【0027】
酸付加工程では、重合が起こる場合があるため、重合禁止剤を共存させることが好ましい。重合禁止剤としては、重合を抑制するものであれば特に限定されないが、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、p−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、フェノチアジン、N−ニトロソジフェニルアミン、銅塩、金属銅、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルなどが挙げられる。また、空気あるいは酸素を吹き込みながら反応を行うことも重合抑制に有効である。
【0028】
3.酸除去工程および洗浄工程
酸付加工程終了後は、反応液に残留している未反応のカルボン酸の少なくとも一部、好ましくは実質的に全てを除去しておく必要がある。
【0029】
酸付加工程で用いるカルボン酸は沸点が低いため減圧により除去することが好ましい。通常は、温度40〜100℃、圧力5〜50torr(666.5〜6665Pa)の条件で減圧除去可能である。好ましくは温度50〜70℃、圧力10〜30torr(1333〜3999Pa)である。温度が高く、圧力が低いほど除去の時間が短縮され、温度が低く、圧力が高いほど生成した中間体が散逸しにくい。
【0030】
一方、酸触媒の存在下で酸付加反応を行った場合、反応後に残留した酸触媒は容易に減圧除去できない。
【0031】
このため、水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ水溶液で反応液を水洗あるいは中和水洗して、酸触媒を除去する方法、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ粉末を加え、攪拌の後、中和塩をろ過して酸触媒を除去する方法、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等のアミンを加え、酸触媒を中和する方法等により、酸触媒を除去することができる。中でも、酸触媒の除去が効果的に行える点から、アルカリ水溶液で洗浄し、有機溶媒で抽出する方法が好ましい。抽出に用いる、有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等が挙げられ、抽出効率が高く、溶媒の使用量が少なくできる点から、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテルが好ましく、前記式(3)で表される化合物の純度が高くできる点から、トルエンおよびトルエンと酢酸エチルの混合溶媒が特に好ましい。
【0032】
下記式(2)で表される化合物はこの工程における副生成物として生成する。
【化6】

【0033】
該副生成物は、例えば脱水条件で酸付加反応を行うことにより生成を抑制することができる。また、蒸留、カラムクロマトグラフィー等公知の方法で精製してもよい。ただし、前記式(2)で表される化合物は、次のエステル交換工程において、前記式(4)で表される化合物の原料として用いることができるので、このような生成抑制や低減処置を省略することにより製造コストを下げることもできる。
【0034】
得られた前記式(3)で表される化合物は、蒸留、カラムクロマトグラフィー等公知の方法で精製してもよいし、精製せず、そのまま次の工程に用いてもよい。次の工程での反応性が高くなる点では、蒸留精製することが好ましく、収率が高くなる点では精製を行わないことが好ましい。
【0035】
4.エステル交換工程
本発明において、前記式(4)で表される化合物は、前記酸付加体と式(8)で表される(メタ)アクリル酸エステル1種または2種以上とをエステル交換させるエステル交換反応によって製造する(工程(II))。
【化7】

【0036】
(工程(II)中、R10は任意の置換基である)
10は通常炭素数1〜3のアルキル基、またはアルケニル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基等が挙げられ、反応性が高い点から、メチル基、ビニル基が好ましく、副生成物が少ない点から、イソプロピル基が好ましい。
【0037】
また、前記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上用いる場合は、(メタ)アクリル酸エステルを始めから混合して用いてもよいし、一方を後から添加してもよい。(メタ)アクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸ビニルを併用と反応性が高くなる。(メタ)アクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸ビニルとを併用する場合には、(メタ)アクリル酸メチルに対し、(メタ)アクリル酸ビニルが1質量%以上であることが好ましく、20質量%以下であることが好ましい。更に好ましくは、3質量%以上であり、10質量%以下である。(メタ)アクリル酸ビニルの比率がこれより少ないと副生成物が多くなる場合があり、多いと反応速度が低下する場合がある。
【0038】
前記式(8)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、前記式(3)で表される化合物の合計1モルに対して、2〜15モルであることが好ましい。更に好ましくは、3〜10モルである。前記式(8)で表される(メタ)アクリル酸エステルの比率がこれより少ないと反応が十分に進行しない場合があり、多いとエステル交換反応後の前記式(8)で表される(メタ)アクリル酸エステルの除去に時間がかかる場合がある。
【0039】
エステル交換反応を行う際には、通常、触媒を使用する。触媒は、エステル交換反応を進行させるものであれば、特に限定されないが、例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシチタンなどのテトラアルコキシチタン類、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどのジアルキル錫オキシド類、アルミニウムアルコキシレートおよびアルカリ金属アルコキシレート類が挙げられ、反応性の面からテトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシチタンが好ましく、副生成物が少ない点から、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシド、テトラメトキシチタンが好ましく、反応性が優れ、副反応が少ない点から、テトラメトキシチタンが特に好ましい。また、反応性が優れる点から、テトライソプロポキシチタンが好ましく、さらに、テトライソプロポキシチタンを含む2種以上の触媒を併用すると副生成物が減少するため特に好ましい。併用する触媒としては、テトラメトキシチタン、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドが、副生成物が少なく、好ましく用いることができる。
【0040】
このようなエステル交換触媒の使用量は、少ないと反応が進行しにくく、多いと副生成物が増加し、反応後のエステル交換触媒の溶解が困難である。エステル交換触媒の好ましい使用量は、原料である前記式(3)で表される化合物1モルに対して、0.01〜0.2モルが好ましい。更に好ましくは、0.05〜0.15モルである。エステル交換触媒は、全量を一度に仕込んでもよいし、数回に分けて加える方法を採ってもよい。エステル交換触媒を二種以上用いる場合には、全量を一度に仕込んでもよいし、いずれかのエステル交換触媒を任意のタイミングで加えてもよい。
【0041】
エステル交換反応の反応温度は、50〜150℃であることが好ましい。更に好ましくは80〜130℃である。エステル交換反応を十分に進行させるためには高い方が好ましく、また、副生成物の生成を抑制するためには低い方が好ましい。
【0042】
エステル交換反応の時間は、バッチサイズ、エステル交換触媒、反応条件により異なるが、1〜12時間であることが好ましい。更に好ましくは、2〜8時間である。エステル交換反応を十分に進行させるためには高い方が好ましく、また、副生成物の生成を抑制するためには低い方が好ましい。
【0043】
エステル交換反応の際に、系内の水分が多いと触媒活性が低下したり副生成物が増加したりするため、エステル交換反応を開始する前に系内の水分を除去しておくことが好ましい。水分量としては、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、200ppm以下が更に好ましい。水分を除去する方法としては、特に限定されないが、例えばディーンスタークトラップやデカンター等の装置を用いて、トルエンやメタクリル酸メチル等の高沸点溶剤と共沸させる方法が挙げられる。操作が簡便であることから、洗浄工程で得られた固体または液体の中間体をメタクリル酸メチルに溶解させ、ディーンスタークトラップまたはデカンターを用いて、メタクリル酸メチルを加熱還流させるとともに水を反応系外に除去する方法が好ましい。
【0044】
また、エステル交換反応を行う際には、重合が起こる場合があるため、重合禁止剤を共存させることが好ましい。重合禁止剤としては、重合を抑制するものであれば特に限定されず、酸付加工程で使用するものと同様のものが使用できる。また、空気あるいは酸素を吹き込みながら反応を行うことも有効である。
【0045】
エステル交換反応終了後は、反応液をそのまま濃縮し、蒸留、カラムクロマトグラフィー等で精製してもよいが、精製後にエステル交換触媒が残存する場合があることから、エステル交換触媒を溶解した後に精製することが好ましい。エステル交換触媒の溶解は、必要に応じて反応液を有機溶媒で希釈し、水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ水溶液で反応液を水洗あるいは中和水洗することによって行ってもよいし、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ粉末を加え、攪拌の後、中和塩をろ過することで行ってもよいし、水および塩酸、硫酸等の酸を加え、エステル交換触媒を溶解させることによって行ってもよい。工程が簡略であり、収率が良好であることから、水および酸を加え、エステル交換触媒を溶解させる方法が好ましい。
【0046】
特に、エステル交換触媒として広く用いられるテトラアルコキシチタン類は、水と接触した際に大量の不溶物が発生し、これを溶解するのが困難である。テトラアルコキシチタン類は、一方で、酸と接触させることで不溶物が発生するが、これは水溶性の塩であるため水を加えると溶解する。したがって、本発明において、テトラアルコキシチタン類を溶解するためには、反応液に酸を加えた後に、水を加えて溶解し、溶解することが好ましい。そのために添加する酸としては特に限定されないが、使用量が少なくできる点から、硫酸、硝酸、塩酸等の強酸が好ましく、取り扱いが容易である点から、硫酸が特に好ましい。
【0047】
エステル交換触媒の溶解の際、希釈に用いる有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等が挙げられ、抽出効率が高く、溶媒の使用量が少なくできる点から、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテルが好ましく、収率が良好である点からトルエン、酢酸エチルがより好ましい。
【0048】
得られた前記式(4)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−(メタ)アクリレートの混合物は、カラムクロマトグラフィー、(減圧)蒸留等で精製することが好ましく、溶媒、微量金属等の不純物が低減できる点から、単蒸留、薄膜蒸留等の減圧蒸留によって精製することがより好ましい。蒸留を行う際には、重合が起こる場合があるため、重合禁止剤を共存させることが好ましい。重合禁止剤としては、重合を抑制するものであれば特に限定されず、酸付加工程で使用するものと同様のものが使用できる。また、空気あるいは酸素を吹き込みながら反応を行うことも重合抑制に有効である。
【0049】
本発明の製造方法によって得られる(メタ)アクリル酸エステルの具体例を以下に示す。式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。
【化8】

【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で得られた中間体および生成物はH−NMRにより同定を行った。
【0051】
H−NMRの測定>
日本電子(株)製、GSX−400型FT−NMR(商品名)を用いて、約5質量%の試料の重水素化クロロホルム溶液を直径5mmφの試験管に入れ、測定温度25℃、観測周波数400MHz、シングルパルスモードにて、64回の積算で行った。
【0052】
<ガスクロマトグラフィー>
サンプリングした試料をメタノールに希釈し、J&W Scientific製キャピラリーカラムDB-5を装着したヒューレット・パッカード製ガスクロマトグラフ5890シリーズIIを用いて分析した。
【0053】
<実施例1>
1. 5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物の合成
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた3Lガラス製三口フラスコに、2−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン350.0g(アルドリッチ社製、2.9モル)、ギ酸676.5g(14.7モル)、p−トルエンスルホン酸111.7g(0.59モル)を仕込み、攪拌しながら100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を100℃に保ったまま、3時間反応させた(酸付加工程)。反応終了後、反応液を冷却し60℃、18torr(2399Pa)の条件で未反応のギ酸を除去した(酸除去工程)。その後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン900ml、酢酸エチル900ml、水720mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン/酢酸エチル層を濃縮したところ、下記式(6)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物を含む組成物が407.2g得られた。
【化9】

【0054】
この組成物をサンプリングしガスクロマトグラフィーにより分析したところ、前記式(12)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物が92.5%含まれており、純分換算で前記式(12)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物が2.3モル(収率79%)であることが分かった。
【0055】
2.5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物の合成
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた3Lガラス製三口フラスコに、得られた5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物を含む組成物407.2g、メタクリル酸メチル1233.7g(12.3モル)、テトライソプロポキシチタン70.1g(0.25モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.44gを仕込み、エアーバブリングおよび攪拌を行いながら、100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を100℃に保ったまま、2時間反応させた。(エステル交換工程)反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、生成物の93.5%が5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物であることが確認された。反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル1230mlで希釈し、硫酸160gを加えたところ沈殿が生成した。ここに水1230mlを加えたところ、沈殿は溶解した。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮した。この濃縮液を、減圧蒸留により精製したところ、下記式(7)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物が435.1g(2.12モル、全収率73%)得られた。
【化10】

【0056】
<比較例1>
1. 5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物の合成
実施例1と同様にして酸付加工程を行った後、酸除去工程を行わず反応液を冷却し、トルエン1800ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液720mlを徐々に加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン濃縮したところ、下記式(12)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物を含む組成物が335.4g得られた。この組成物をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、前記式(12)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物が87.5%含まれており、純分換算で前記式(12)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物が1.78モル(収率61%)であることが分かった。
【0057】
2.5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物の合成
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた3Lガラス製三口フラスコに、得られた5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物を含む組成物335.4g、メタクリル酸メチル1015.1g(10.2モル)、テトライソプロポキシチタン56.1g(0.20モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.36gを仕込み、エアーバブリングおよび攪拌を行いながら、100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を100℃に保ったまま、2時間反応させた(エステル交換工程)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、生成物の93.4%が5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物であることが確認された。反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル1010mlで希釈し、硫酸132gを加えたところ沈殿が生成した。ここに水1010mlを加えたところ、沈殿は溶解した。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮した。この濃縮液を、減圧蒸留により精製したところ、下記式(8)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物が264.3g(1.60モル、全収率55%)得られた。
【0058】
本発明の製造方法(実施例1)によれば、5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物を収率良く、製造することができた。しかし、比較例1のように、カルボン酸を減圧除去する工程を行わなかった場合、収率が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルの簡便に収率良く製造する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物にカルボン酸を付加してカルボン酸付加体を製造する酸付加工程と、
前記カルボン酸を除去する酸除去工程と、
前記カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルをエステル交換させるエステル交換工程と、
を順次行う下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】

(式(1)中、AおよびAはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいはAとAとが一緒になって−O−、−S−、または炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、炭素数1〜6のアルコールでエステル化されたカルボキシ基を表す。
式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、AおよびA、R〜Rは式(1)と同義である。)
【請求項2】
前記酸付加工程において酸触媒を用い、前記エステル交換工程の前に、前記酸除去工程後の液を洗浄して前記酸触媒を除去する洗浄工程を行う請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2010−248234(P2010−248234A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153549(P2010−153549)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【分割の表示】特願2004−82847(P2004−82847)の分割
【原出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】