説明

(メタ)アクリロニトリルの回収方法

【課題】(メタ)アクリロニトリル回収のための蒸留塔の差圧上昇を抑えて、長期に亘り安定かつ効率的な運転を行う。
【解決手段】(メタ)アクリロニトリルとアセトニトリルと不飽和化合物を含有する混合物から、(メタ)アクリロニトリルを回収する方法であって、該混合物を蒸留塔に導入し、該蒸留塔の塔頂留出液中に(メタ)アクリロニトリルを含有する条件にて蒸留し、該蒸留塔の塔底及び/又は側流からアセトニトリルを抜き出し、更に、該アセトニトリルの抜き出し箇所よりも高位の箇所から不飽和化合物を含む液を抜き出すことを特徴とする(メタ)アクリロニトリルの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリロニトリルの回収方法に係り、特に、(メタ)アクリロニトリルの製造工程から得られる反応生成物から、副生物であるアセトニトリルとシアン化水素とを蒸留塔で蒸留分離して(メタ)アクリロニトリルを回収するに当たり、蒸留塔の差圧の上昇を抑えて、長期に亘り、安定かつ効率的な蒸留精製を行う方法に関する。
なお、本明細書において、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルをいう。
【背景技術】
【0002】
一般に、アクリロニトリルやメタクリロニトリルの製造工程では、アンモ酸化反応が用いられている。
このアンモ酸化による(メタ)アクリロニトリルの製造プロセスにおいては、まず、プロピレンやイソブテンなどの炭化水素と、アンモニアと、空気などの酸素含有ガスとを反応器に導入し、触媒の存在下、アンモ酸化反応させる。なお、アクリロニトリルを製造する際には原料炭化水素としてプロピレンを用い、メタクリロニトリルを製造する際には原料炭化水素としてイソブテンを用いる。このアンモ酸化反応では、目的物の(メタ)アクリロニトリルとともに、アセトニトリル、シアン化水素が副生するため、反応器から得られたアンモ酸化反応ガスには、(メタ)アクリロニトリルだけではなく、アセトニトリルとシアン化水素とが含有されており、また、未反応アンモニアや、その他の軽量ガスも含有されている。
【0003】
従って、まず、得られたアンモ酸化反応ガスをアンモニア吸収塔に送給して硫酸を添加し、アンモニアを硫酸アンモニウムとして除去する。アンモニア吸収塔でアンモニアを除去した分離ガスは、次いで(メタ)アクリロニトリル吸収塔に送給し、塔頂から供給した吸収水で(メタ)アクリロニトリル、シアン化水素等を吸収し、得られた缶出液を(メタ)アクリロニトリル回収塔へ送給する。この(メタ)アクリロニトリル回収塔で、アセトニトリルを分離して(メタ)アクリロニトリルを回収し、(メタ)アクリロニトリル回収塔から得られた(メタ)アクリロニトリルを更に精製塔で精製して製品の(メタ)アクリロニトリルを得る。
【0004】
従来、この(メタ)アクリロニトリル製造プロセスにおける(メタ)アクリロニトリル回収塔での(メタ)アクリロニトリルの回収効率の向上を目的として、種々の提案がなされており、例えば特許文献1には、回収塔でアクリロニトリルが富化された塔頂流と、夾雑物の少ない水からなる傍流と、有機不純物を含む塔底流とを蒸留分離する方法が提案されている。
また、特許文献2には、蒸留塔の塔頂から(メタ)アクリロニトリルとシアン化水素及び少量の水を含む留分を、中段からアセトニトリルを、塔底から水をそれぞれ蒸留分離する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−518353号公報
【特許文献2】特開昭55−104243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の(メタ)アクリロニトリル回収塔では、経時により塔内差圧が上昇し、長期安定運転を継続することが困難であった。
【0007】
この差圧の上昇は、塔内に閉塞物質が蓄積することによるものである。このため、差圧の上昇で運転に支障をきたす場合、或いは、それが予測される場合には、運転を停止して、塔内閉塞物質を取り除く作業が必要となり、この作業のための入手とコストを要するだけでなく、運転を停止することによる生産効率の低下の問題があった。
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、(メタ)アクリロニトリル回収のための蒸留塔の差圧上昇を抑えて、長期に亘り安定かつ効率的な運転を行うことができる(メタ)アクリロニトリルの回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来の(メタ)アクリロニトリル回収塔の塔内差圧上昇の原因は、蒸留塔の中段に重合を引き起こすある種のオレフィン性不飽和化合物が滞留してこれが濃縮され、これが経時により塔内で重合し、この重合物が塔内閉塞物質となって塔内差圧を上昇させること、従って、この不飽和化合物を抜き出すことにより、塔内差圧の上昇を防止することができること、更には、この不飽和化合物は、回収塔のアセトニトリルの抜き出し位置より高い箇所において抜き出し可能であることを見出した。
【0010】
従来において、(メタ)アクリロニトリル回収塔の中段において、アセトニトリルを抜き出すことは行われているが、塔内で重合を引き起こすある種の不飽和化合物の存在、更にはアセトニトリルの抜き出し箇所よりも高い箇所から、これら不飽和化合物を抜き出すこと、即ち、これら不飽和化合物がどのようなものであるか、これが差圧を上昇させる閉塞物質の原因となることや、これら不飽和化合物がアセトニトリルの抜き出し位置よりも高い箇所で濃縮されることについて、全く認識されておらず、これらは本発明者らにより初めて解明されたものである。
【0011】
本発明は、このような知見に基いてなされたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
(1) (メタ)アクリロニトリルとアセトニトリルとそれら以外の不飽和化合物を含有する混合物から、(メタ)アクリロニトリルを回収する方法であって、該混合物を蒸留塔に導入し、該蒸留塔の塔頂留出液中に(メタ)アクリロニトリルを含有する条件にて蒸留し、該蒸留塔の塔底及び/又は側流からアセトニトリルを抜き出し、更に、該アセトニトリルの抜き出し箇所よりも高位の箇所から前記不飽和化合物を含む液を抜き出すことを特徴とする(メタ)アクリロニトリルの回収方法。
【0013】
(2) 前記不飽和化合物を含む液を、前記蒸留塔に導入する前記混合物の量に対して0.04重量%以上の割合で抜き出すことを特徴とする(1)に記載の(メタ)アクリロニトリルの回収方法。
【0014】
(3) 前記不飽和化合物がジエン類であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の(メタ)アクリロニトリルの回収方法。
【0015】
(4) 前記不飽和化合物がブタジエン類であり、前記不飽和化合物を含む液中の前記不飽和化合物濃度が0.01重量%以上であることを特徴とする(3)に記載の(メタ)アクリロニトリルの回収方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物を蒸留塔から効率的に抜き出すことにより、この不飽和化合物が塔内で濃縮されることを防止し、この不飽和化合物の重合による閉塞物質の生成及びそれによる塔内差圧の上昇を確実に防止して、長期に亘り、安定かつ効率的に運転を継続して行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の(メタ)アクリロニトリルの回収方法の実施の形態を示すアクリロニトリル製造工程の系統図である。
【図2】本発明の(メタ)アクリロニトリルの回収方法の他の実施の形態を示すアクリロニトリル回収塔の模式図である。
【図3】本発明の(メタ)アクリロニトリルの回収方法の別の実施の形態を示すアクリロニトリル回収塔の模式図である。
【図4】実施例1〜3及び比較例1における塔内差圧の経時変化を示すグラフである。
【図5】アクリロニトリル回収塔(蒸留塔)からの抜き出し液中のブタジエン類濃度と抜き出し段との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容には特定されない。
【0019】
本発明の(メタ)アクリロニトリルの回収方法は、(メタ)アクリロニトリルとアセトニトリルとそれら以外の(即ち、(メタ)アクリロニトリル及びアセトニトリル以外の)不飽和化合物を含有する混合物から、(メタ)アクリロニトリルを回収する方法であって、該混合物を蒸留塔に導入し、該蒸留塔の塔頂留出液中に(メタ)アクリロニトリルを含有する条件にて蒸留し、該蒸留塔の塔底及び/又は側流からアセトニトリルを抜き出し、更に、該アセトニトリルの抜き出し箇所よりも高位の箇所から前記不飽和化合物を含む液を抜き出すことを特徴とする。
【0020】
即ち、本発明においては、反応工程から送給される(メタ)アクリロニトリル、アセトニトリル、及びそれら以外の不飽和化合物を含有する反応生成物を(メタ)アクリロニトリル回収塔としての蒸留塔に導入し、この蒸留塔において蒸留を行って、(メタ)アクリロニトリル含有留分を塔頂から取り出すと共に、塔底及び/又は側流からアセトニトリルを抜き出し、このアセトニトリル抜き出し箇所よりも高位の箇所(以下、この箇所を「不飽和化合物抜き出し部」と称す場合がある。)において、前記不飽和化合物を含む液を抜き出すものである。
【0021】
この不飽和化合物抜き出し部で抜き出される不飽和化合物とは、主としてブタジエン類(ブタジエンの誘導体、例えばシアノブタジエン)等のジエン類であり、不飽和化合物抜き出し部からの抜き出し液の不飽和化合物以外の成分は大半が水である。この抜き出し液は、系外へ排出されて廃水処理に供される。
【0022】
本発明においては、不飽和化合物抜き出し部からの抜き出し液の塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物濃度が0.01重量%以上、特に0.05重量%以上、とりわけ0.10重量%以上となるように、不飽和化合物抜き出し部の位置や蒸留条件を調整することが好ましい。また、特に前記不飽和化合物はアセトニトリル抜き出し箇所よりも高い箇所に濃縮されるため、この箇所から抜き出すことで、塔内の差圧上昇防止に有効である。抜き出し液中の不飽和化合物濃度は高い程好ましいが、通常この不飽和化合物濃度は濃縮箇所においても、0.20重量%以下である。
【0023】
また、塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物の抜き出し量は、不飽和化合物抜き出し部からの前記不飽和化合物を含む液の抜き出し量が、蒸留塔に導入される前記混合物の量に対して0.04重量%以上とすることが好ましい。この抜き出し液量は、多い程、前記不飽和化合物の塔内濃縮による重合物の生成を防止することができるが、過度に多くても、廃水コストが過大となり、経済的に不利である。従って、不飽和化合物抜き出し部からの抜き出し液量は、蒸留塔に導入される前記混合物の量に対して0.04重量%以上、特に0.10重量%以上で、0.40重量%以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、不飽和化合物の抜き出し部は、アセトニトリル抜き出し箇所よりも高位であって、塔頂よりも低位の蒸留塔側部であれば良く、特に制限はないが、塔内で閉塞物質の原因となる不飽和化合物の濃度が高い箇所から抜き出すことが好ましい。また、通常、(メタ)アクリロニトリル回収のための蒸留塔にあっては、蒸留塔の側部に被蒸留液(即ち、(メタ)アクリロニトリルとアセトニトリルとそれら以外の不飽和化合物を含有する混合物、一般的には、(メタ)アクリロニトリル吸収塔からの(メタ)アクリロニトリル、シアン化水素等を含む缶出液)が、蒸留塔の側部に導入されるため、不飽和化合物抜き出し部は、この導入箇所よりも下位であることが好ましい。
【0025】
不飽和化合物抜き出しは、蒸留塔の蒸留条件に応じて、蒸留塔の側流を抜き出して不飽和化合物含有量を分析し、この不飽和化合物含有量が最も多い箇所から不飽和化合物を含む液を抜き出すように行えば良いが、不飽和化合物の抜き出し部は、例えば、次のように被蒸留液の導入箇所と生成物の抜き出し箇所を設定した蒸留塔の塔底から全塔高の1/4〜2/3の位置であって、下記アセトニトリルの抜き出し箇所よりも全塔高の1/50〜1/2程度の高位であって、下記被蒸留液の導入箇所よりも全塔高の1/50〜2/3程度低位の箇所とすることが好ましい。
・(メタ)アクリロニトリルと水を含む塔頂液の抜き出し:塔頂
・主として水からなる塔底液の抜き出し:塔底
・被蒸留液の導入:塔底から塔高さの1/2〜1/1の位置(但し、塔頂は除く)
・アセトニトリルの抜き出し:塔底から塔高さの1/50〜1/2の位置
【0026】
本発明の(メタ)アクリロニトリルの回収方法は、このように、通常の(メタ)アクリロニトリル製造プロセスにおける(メタ)アクリロニトリル回収塔としての蒸留塔において、アセトニトリルの抜き出し箇所よりも高位の箇所において、塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物を含む液の抜き出しを行うこと以外は、通常の(メタ)アクリロニトリル回収塔の蒸留方法や蒸留条件を採用することができる。
【0027】
以下に、本発明の(メタ)アクリロニトリルの回収方法を、アクリロニトリルの製造プロセスに適用した場合を例示する図1〜3を参照して本発明の実施の形態を説明するが、本発明の(メタ)アクリロニトリルの回収方法は何ら図1〜3の態様に限定されるものではなく、また、本発明方法は、アクリロニトリルに限らず、メタクリロニトリルの回収にも同様に適用することができる。
【0028】
[実施形態1(図1)]
図1は、アクリロニトリルの製造プロセスを示す系統図であり、図1において、プロピレンなどの炭化水素Aと、アンモニアB、空気などの酸素含有ガスCはアクリロニトリル反応器11に送給され、この反応器11内で触媒の存在下、アンモ酸化反応が行われる。アクリロニトリル反応器11からの反応ガスは、次いで、未反応アンモニアを除去するために、アンモニア吸収塔12に送給され、硫酸Eが添加されて、アンモニアが硫酸アンモニウムFとして除去される。
【0029】
アンモニア吸収塔12でアンモニアが除去された分離ガスGは、次いでアクリロニトリル吸収塔13へ送給され、塔頂から供給された吸収水Hでアクリロニトリル、シアン化水素等が吸収され、これらを含む缶出液Iがアクリロニトリル回収塔14へ送給される。
【0030】
このアクリロニトリル回収塔(本発明における蒸留塔)14では、シアン化水素とアセトニトリルを含む混合ガスJを塔の中段から抜き出し、アセトニトリル分離塔18に導入し、アセトニトリル分離塔18で水Rを分離する。分離された水Rは回収塔14に返送され、水が分離されて水含有量が低減された残分は図示しない熱交換器により冷却凝縮され、焼却処分される。
【0031】
また、アセトニトリル回収塔14の塔頂液Kは、目的物であるアクリロニトリルとシアン化水素を含むものであり、脱青酸塔15へ送給されてシアン化水素Lが分離された後、アクリロニトリルを含む缶出液Mは脱水塔16に送給されて脱水処理され、脱水塔16からの脱水缶出液Nは更に精留塔17へ送給されて精製され、製品のアクリロニトリルOが得られる。
【0032】
本発明においては、アセトニトリル回収塔14において、アセトニトリルを含む混合ガスJの抜き出し箇所より高位の箇所において、重合性の高い不飽和化合物を多く含む液Pを抜き出す。
この抜き出し液Pは、好ましくは、前述の不飽和化合物濃度及び抜き出し液量でアクリロニトリル回収塔14から抜き出され、廃水処理に供される。
【0033】
[実施形態2(図2)]
図2は、棚段式アクリロニトリル回収塔(本発明に係る蒸留塔)21を示す模式図であり、アクリロニトリル吸収塔(例えば、図1におけるアクリロニトリル吸収塔13)で得られたアクリロニトリル、シアン化水素、アセトニトリルを含む缶出液Iが導入される。
【0034】
このアクリロニトリル回収塔21では、塔頂から水とアクリロニトリルを含む塔頂流Qを得、この塔頂流Qは復水器22を経て分離器23に送給され、目的物のアクリロニトリル流Qと水流Qとに分離される。
【0035】
また、回収塔21の塔底から1/3程度の高さ位置において、シアン化水素とアセトニトリルとの混合ガスJを抜き出す。また、この混合ガスJの抜き出し位置より更に低い位置から傍流Rを抜き出し、この傍流Rはアクリロニトリル吸収塔へ循環する。また、この傍流Rの抜き出し位置より更に低い位置から傍流Rを抜き出し、この傍流Rは冷却器24で冷却した後、回収塔21の塔頂部に循環する。また、塔底から抜き出した塔底流Rは廃棄処理する。25は再沸器である。
【0036】
本発明においては、このようなアクリロニトリル回収塔21において、アセトニトリルとシアン化水素を含む混合ガスJの抜き出し箇所よりも高位の箇所において、塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物を含む液Pを傍流(側流)として抜き出す。
この抜き出し液Pは、好ましくは、前述の不飽和化合物濃度及び抜き出し液量でアクリロニトリル回収塔21から抜き出され、廃水処理に供される。
【0037】
例えば、後掲の実施例1のように全95段の棚段式アクリロニトリル回収塔21において、アクリロニトリル吸収塔から送給される、アクリロニトリルを約8重量%、シアン化水素を約0.8重量%含む缶出液Iを蒸留分離する場合において、塔底から30段目の棚段位置においてシアン化水素とアセトニトリルを含む混合ガスJを抜き出し、塔底から10段目の棚段位置において傍流Rを抜き出し、塔底から1段目の棚段位置において傍流Rを抜き出し、更に混合ガスJの抜き出し位置よりも高位の箇所、塔底から45段目の棚段位置において、塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物を含む抜き出し液Pを抜き出すことにより、前記不飽和化合物の塔内濃縮、重合による塔内差圧の上昇を効果的に防止することができる。
【0038】
[実施形態3(図3)]
図3は、第1回収塔31と第2回収塔32の2塔の蒸留塔でアクリロニトリルの回収を行うアクリロニトリル回収塔(本発明に係る蒸留塔)を示す模式図であり、アクリロニトリル吸収塔(例えば、図1におけるアクリロニトリル吸収塔13)で得られたアクリロニトリル、シアン化水素、アセトニトリルを含む缶出液Iが第1回収塔31に導入される。
【0039】
この第1回収塔31では塔頂から水とアクリロニトリルを含む塔頂流Qを得、この塔頂流Qは図2の回収塔21におけると同様に、図示しない復水器を経て、分離器で目的物のアクリロニトリル流と水流とに分離される。
【0040】
また、第1回収塔31の塔底からは、水と種々の不純物を含み、アクリロニトリルを殆ど含まない塔底流Sが抜き出され、この塔底流Sは第2回収塔32へ送給される。
【0041】
第2回収塔32の塔頂流Tは復水器33を経て一部Tが第2回収塔32に循環され、残部Tは廃棄物処理される。第2回収塔32の塔底流Uも廃棄物処理される。また、第2回収塔32の傍流V,Vのうち、上段側の傍流Vは図2の回収塔21の傍流Rに相当し、アクリロニトリル吸収塔に循環され、また、下段側の傍流Vは、図2の回収塔21の傍流Rに相当し、冷却器34で冷却された後、第1回収塔31の塔頂に循環される。なお、第2回収塔32の塔頂近傍の高位の傍流Tは第1回収塔31の加熱用の熱源として利用するために第1回収塔31の塔下部に循環される。35,36は再沸器である。
【0042】
本発明においては、このようなアクリロニトリル回収塔のうち、第1回収塔31は、第2回収塔32より上位に位置する塔であり、この第1回収塔31から、傍流(側流)として、塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物を含む液Pを抜き出す。即ち、例えば、70段の第1回収塔31と30段の第2回収塔32とを用いる場合、この第1回収塔31の塔底から棚段位置20段目は、図2に示すアクリロニトリル回収塔21の棚段位置45段目に相当するため、この箇所から前記不飽和化合物を含む液Pを抜き出すことができる。
この抜き出し液Pは、好ましくは、前述の不飽和化合物濃度及び抜き出し液量で第1回収塔31から抜き出され、廃水処理に供される。
【0043】
このように、本発明によれば、アクリロニトリル回収蒸留塔のアセトニトリルを含む液の抜き出し箇所よりも高い箇所から塔内閉塞物質の原因となる不飽和化合物を含む液を抜き出して、前記不飽和化合物の塔内蓄積を防止し、前記不飽和化合物の重合物による塔内差圧の上昇を有効に防止することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0045】
<実施例1>
図2に示すアクリロニトリル回収塔21を用いて、アクリロニトリルの回収を行った。
まず、図示しないアセトニトリル反応器からのアクリロニトリルを約9重量%含む反応ガスをアンモニア吸収塔に送給し、未反応アンモニアを除き、得られた分離ガスをアクリロニトリル吸収塔にて水に吸収させた。
【0046】
次いで、アクリロニトリル吸収塔から得られた缶出液(塔底流)Iを80℃、206T/hrの割合で、段数95段(理論段数:44段)で、塔底〜64段までの直径が3060mm、65段〜塔頂までの直径が2240mmのアクリロニトリル回収塔21の58段目に供給した。この缶出液Iの組成は、アクリロニトリル8重量%、アセトニトリル0.1重量%、シアン化水素0.8重量%、水90.9重量%、その他不純物0.2重量%であった。
【0047】
このアクリロニトリル回収塔21において、それぞれ、以下の箇所から液を抜き出した。抜き出した液の抜き出し箇所及びその温度と抜き出し液量を下記表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、アクリロニトリル回収塔21の塔底から58段目に供給された液の量に対する塔底から45段目(理論段数では、塔底から20段目の位置)からの抜き出し液の量の割合は、0.049重量%であり、塔底から45段目からの抜き出し液中のブタジエン類の濃度は、0.14重量%であった。この条件で49日間運転を継続したが、回収塔21の塔底の圧力上昇は0.023kg/cmであり、回収塔21内の臨時の洗浄や液抜き出し操作を必要とすることなく安定に運転することができた。
【0050】
この運転期間中のアクリロニトリル回収塔21の塔底圧力の経時変化を図4に示した。上記“塔底の圧力上昇”の値については、蒸留塔の運転開始から49日目の塔底圧力(0.6205kg/cm)と1日目の塔底圧力(0.5970kg/cm)との差である。
なお、回収塔において、塔底圧力は、蒸留塔全体の差圧に相当するため、塔底圧力の上昇で、塔全体の差圧上昇をとらえることができる。
【0051】
<実施例2>
実施例1において、塔底から45段目からの抜き出し液量を0.3T/hr(300kg/hr)としたこと以外は同様にして運転を行った。なお、アクリロニトリル回収塔21の塔底から58段目に供給された液の量に対する塔底から45段目からの抜き出し液の量の割合は、0.145重量%であり、塔底から45段目からの抜き出し液中のブタジエン類の濃度は、0.14重量%であった。
【0052】
その結果、運転開始から26日間での塔底の圧力上昇は0.0046kg/cmであり、実施例1より低い圧力上昇であった。また、回収塔21内の臨時の洗浄や液抜き出し操作を必要とすることなく安定に運転することができた。
この運転期間中のアクリロニトリル回収塔21の塔底圧力の経時変化を図4に示した。なお、上記“塔底の圧力上昇”の値については、蒸留塔の運転開始から26日目の塔底圧力(0.6509kg/cm)と1日目の塔底圧力(0.6463kg/cm)との差である。
【0053】
<実施例3>
実施例1において、塔底から45段目からの抜き出し液量を0.4T/hr(400kg/hr)としたこと以外は同様にして運転行った。なお、アクリロニトリル回収塔21の塔底から58段目に供給された液の量に対する塔底から45段目からの抜き出し液の量の割合は、0.194重量%であり、塔底から45段目からの抜き出し液中のブタジエン類の濃度は、0.14重量%であった。
【0054】
その結果、運転開始から66日間での塔底の圧力上昇は0.0015kg/cmであり、実施例1,2より更に低い圧力上昇であった。また、回収塔21内の臨時の洗浄や液抜き出し操作を必要とすることなく安定に運転することができた。この運転期間中のアクリロニトリル回収塔21の塔底圧力の経時変化を図4に示した。なお、上記“塔底の圧力上昇”の値については、蒸留塔の運転開始から66日目の塔底圧力(0.6526kg/cm)と1日目の塔底圧力(0.6511kg/cm)との差である。
【0055】
<比較例1>
図3に示すアクリロニトリル回収塔31、32を用いて、アクリロニトリルの回収を行った。
【0056】
まず、図示しないアクリロニトリル反応器からのアクリロニトリルを約9重量%含む反応ガスをアンモニア吸収塔に送給し、未反応アンモニアを除き、得られた分離ガスをアクリロニトリル吸収塔にて水に吸収させた。
次いで、アクリロニトリル吸収塔から得られた缶出液(塔底流)Iを83℃、65T/hrの割合で、段数70段で、塔底〜39段が直径1830mm、40段〜塔頂が直径1520mmのアクリロニトリル回収塔31の39段目に供給した。この缶出液Iの組成は、アクリロニトリル8重量%、アセトニトリル0.1重量%、シアン化水素0.8重量%、水90.9重量%、その他不純物0.2重量%であった。
【0057】
このアクリロニトリル回収塔31において、塔頂から67℃、4.3T/hr、塔底から109℃、101T/hrの割合で液を抜出した。この条件で52日間運転を継続したが、回収塔31の塔底の圧力上昇は0.071kg/cm上昇した。そこで塔底から20段目からの液抜出しを行ったところ、一時的に圧力上昇は収まったが、40日後に再び圧力が上昇し、運転継続ができなくなった。そのため、運転を停止して塔内の洗浄を行うことが必要となった。なお、上記“塔底の圧力上昇”の値については、蒸留塔の運転開始から52日目の塔底圧力(0.726kg/cm)と1日目の塔底圧力(0.655kg/cm)との差である。
この運転期間中のアクリロニトリル回収塔21の塔底圧力の経時変化を図4に示した。
【0058】
また、本比較例において、圧力が上昇して運転を停止して洗浄を行った際に回収した塔内閉塞物質をIR(赤外線吸収スペクトル)で分析したところ、不飽和化合物(主としてブタジエン類)の重合物であることが確認された。
【0059】
そこで、塔内の閉塞物質の原因となる不飽和化合物の分布を調べるために、回収塔の様々な箇所から傍流を抜き出し、その組成分析を行ったところ、表2及び図5に示すように、塔底から45段目付近の抜き出し液中に、ブタジエン類が多く含有されており、この45段目付近で前記不飽和化合物を抜き出すことが、塔内差圧上昇の防止に有効であることが確認された。
また、上記の実施例1〜3及び比較例1の結果から、この箇所からの抜き出し液量は、100〜400kg/hr(回収塔へ導入する液量に対して0.04〜2.00重量%)、特に400kg/hr(回収塔へ導入する液量に対して0.194重量%)で行うことが、長期安定運転に好適であることが確認された。
【0060】
【表2】

【符号の説明】
【0061】
11 アクリロニトリル反応器
12 アンモニア吸収塔
13 アクリロニトリル吸収塔
14 アクリロニトリル回収塔
15 脱青酸塔
16 脱水塔
17 精留塔
18 アセトニトリル分離塔
21 アクリロニトリル回収塔
22 復水器
23 分離器
24 冷却器
25 再沸器
31 第1回収塔
32 第2回収塔
33 復水器
34 冷却器
35,36 再沸器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロニトリルとアセトニトリルとそれら以外の不飽和化合物を含有する混合物から、(メタ)アクリロニトリルを回収する方法であって、該混合物を蒸留塔に導入し、該蒸留塔の塔頂留出液中に(メタ)アクリロニトリルを含有する条件にて蒸留し、該蒸留塔の塔底及び/又は側流からアセトニトリルを抜き出し、更に、該アセトニトリルの抜き出し箇所よりも高位の箇所から前記不飽和化合物を含む液を抜き出すことを特徴とする(メタ)アクリロニトリルの回収方法。
【請求項2】
前記不飽和化合物を含む液を、前記蒸留塔に導入される前記混合物の量に対して0.04重量%以上の割合で抜き出すことを特徴とする請求項1に記載の(メタ)アクリロニトリルの回収方法。
【請求項3】
前記不飽和化合物がジエン類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の(メタ)アクリロニトリルの回収方法。
【請求項4】
前記不飽和化合物がブタジエン類であり、前記不飽和化合物を含む液中の前記不飽和化合物濃度が0.01重量%以上であることを特徴とする請求項3に記載の(メタ)アクリロニトリルの回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate