説明

(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドおよび(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオン酸アルキルエステルの調製方法

本発明は、新規な化合物である式(1)、
【化1】


(式中、アリールAは、置換または非置換の芳香族環を表す)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドと、上記式(1)の化合物の調製方法であって、トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種類のエナンチオマーである(2R,3S)および(2S,3R)体ならびにシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種類のエナンチオマーである(2R,3R)および(2S,3S)体を含み、(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルがエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰にある反応混合物をアンモニアと反応させる方法とに関する。さらに本発明は、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオン酸アルキルエステルの調製方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、式(1)、
【化1】


(式中、アリールAは、置換または非置換の芳香族環であってもよい)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドの調製方法であって、一般式(2)、
【化2】


(式中、Rは、場合により置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、またはアルカリール基であってもよいエステル残基である)で表される、トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種類のエナンチオマーである(2R,3S)および(2S,3R)体ならびにシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種類のエナンチオマーである(2R,3R)および(2S,3S)体を含む反応混合物を、アンモニアと反応させる方法に関する。
【0002】
ゾウ(Zhou)らによるSynth.Commun.、2003年、第33巻、第5号、723〜728頁においては、ラセミ型トランス−3−フェニルグリシド酸エチルエステル(トランス−エポキシドと定義されている)を主生成物であるラセミ型2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオンアミド(ラセミ型フェニルイソセリンアミドと定義されている)にするアンモノリシス反応が開示されている。
【0003】
ジェイコブセン(Jacobsen)らによるJ.Org.Chem.、1992年、第57巻、4320〜4323頁においては、(2R,3R)−3−フェニルグリシド酸エチルをアンモニアで飽和させたエタノール溶液中に溶解させることによる、(2R,3S)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオンアミド((2R,3S)−フェニルイソセリンアミドと定義されている)の調製方法が記載されている。この(2R,3R)−3−フェニルグリシド酸エチルは、シス:トランス比が10:1の3−フェニルグリシド酸エチルを含む混合物((2R,3R)−シス−3−フェニルグリシド酸エチルが95〜97%e.e.)から得られるものである。メタノールから再結晶を行うことにより、ジアステレオマー的に純粋な生成物である(2R,3S)−フェニルイソセリンアミドを単離することができた。
【0004】
これらの方法には、本発明の化合物(1)を許容可能な/比較的高いエナンチオマー(e.e.)およびジアステレオマー(d.e.)的純度で調製する方法は記載されていない。
【0005】
本発明の目的は、式(1)の化合物である(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドを比較的高い収率ならびに比較的高いe.e.およびd.eで調製することにある。
【0006】
本発明によれば、これは、(2R,3S)−トランス−3−アリール−グリシド酸アルキルエステルがエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰にある反応混合物を用いることによって達成することができる。(2R,3S)−トランス−3−アリール−グリシド酸アルキルエステルは、以下に示す式(2a)で表すことができる。
【0007】
意外なことに、光学的に純粋な化合物(1)を、比較的高い収率、d.e.、およびe.eで容易に単離することが可能である。さらなる精製または再結晶をほとんどまたは全く必要としないことは非常に有利である。経済的に魅力的な方法を工業規模で利用できることはさらに有利である。
【0008】
本発明は、式(1)に従う光学活性化合物を医薬の調製における中間体として使用することにも関し、したがって、本発明の構成においては、式(1)に従う化合物を比較的高い立体異性体的純度で調製することを目的とする。
【0009】
本発明はさらに、式(1)に従う新規な化合物である、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドに関する。ここでアリールAは、置換または非置換の芳香族環であってもよく、例えば、フェニル環、すなわち、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオンアミドである。
【0010】
本発明はさらに、式(3)、
【化3】


(式中、Rは、原則として、上のRに定義された任意のアルキルエステル残基であってもよい)に従う、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオン酸アルキルエステルの調製方法に関する。好ましくは、Rは、1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有する置換または非置換のアルキル基である。好ましいR基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソプロピル、イソブチル、tert−ブチル等が挙げられる。
【0011】
アルタナ・ファルマ社(Altana Pharma AG)名義の国際公開第03/003804号パンフレットには、3−フェニルイソセリンエチルエステルのラセミ混合物を光学分割剤としてのL−(+)−酒石酸と反応させることによって、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオン酸エチルエステル((2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステルと定義されている)を調製する方法が記載されている。
【0012】
定義
以下に示す用語は、本発明の記載全体を通して同義で用いられている:3−アリールイソセリンアミドまたは2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリールプロピオンアミド;3−アリールセリンアミドまたは2−アミノ−3−ヒドロキシ−3−アリールプロピオンアミド;シス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルまたはシス−アリールエポキシドまたはシス−3−アリール−グリシド酸エステル;トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルまたはトランス−アリールエポキシドまたはトランス−3−アリール−グリシド酸エステル。
【0013】
以下に示す式(2a)〜(2d)に従う化合物(2)のエナンチオマーを含む反応混合物は、化合物(2)の合成後に必ずしも任意のさらなる精製または分離工程を経ているわけではなく、したがって、化合物(2)のエナンチオマー以外の成分を含んでいる可能性のある粗精製反応混合物である。この反応混合物は、溶媒を含んでいる場合もある。好ましくは、この反応混合物は、以下に示す式(2c)および(2d)に従う化合物(2)のシス型エナンチオマーをごく少量しか含まない。
【0014】
エナンチオマー過剰率e.e.は、エナンチオマーの量の差をエナンチオマー全体の量で割った値(この商に100を掛けて百分率として表してもよい)に等しい。
【0015】
ジアステレオマー過剰率d.e.は、ジアステレオマーの量の差をジアステレオマー全体の量で割った値(この商に100を掛けて百分率として表してもよい)に等しい。
【0016】
発明の詳細な説明
化合物(2)
式(1)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドを調製するための本発明の方法は、化合物(2)を含む反応混合物をアンモニアと反応させることを含み、上記反応混合物は、式(2)のトランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種のエナンチオマーである(2R,3S)および(2S,3R)体ならびにシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種のエナンチオマーである(2R,3R)および(2S,3S)体を含んでおり、上記混合物は、(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルがエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰にある。
【0017】
この方法は、有機溶媒中、好ましくは水溶性溶媒中で適用してもよい。好適な溶媒は、アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)またはエーテル(例えばテトラヒドロフラン等)であろう。この方法は、好ましくは水中、より好ましくは水と溶媒との混合物中、さらに好ましくは水とアルコールとの混合物中で適用される。
【0018】
式(2)に従うトランス−3−アリールグリシド酸のアルキルエステルは2個の不斉中心を有している。n個の不斉中心を有する分子には2個の立体異性体がある。したがって、3−アリールグリシド酸アルキルエステルには4種の立体異性体が考えられ、これらは2つのD、L対として生じ、これらは互いのジアステレオ異性体である。3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2つのジアステレオ異性体の形態はシス型およびトランス型である。トランス型の2種のエナンチオマーは、それぞれ式(2a)および(2b)で示される(2R,3S)および(2S,3R)型の立体配置をとる。シス型の立体配置はそれぞれ式(2c)および(2d)で示される(2R,3R)および(2S,3S)型である。
【化4】

【0019】
好ましくは、本発明の反応混合物は、シス型のエナンチオマー(2c)および(2d)をごく少量しか含まない。
【0020】
式(2)に従う3−アリールグリシド酸アルキルエステルは、場合により、芳香族環A上に1個またはそれ以上の置換基を含んでいてもよい。芳香族環Aは、単または多環であってもよい。この芳香族環は、複素芳香族、例えば、ピリジン、キノリン等であってもよい。該アリールの2−、3−、または4位のうちの1またはそれ以上、好ましくは3−および/または4位、より好ましくは4位に1個またはそれ以上の置換基が存在してもよい。アリール基は、1個の置換基を含んでいてもよいし、2個以上の置換基を含んでいてもよい。1個を超える置換基を含む場合、この置換基は、同一であっても異なっていてもよい。アリール上に2個の置換基がある場合、このアリールは、好ましくは、3−,4−二置換または3−,5−二置換である。アリール上に3個の置換基がある場合、このアリールは、好ましくは、3−,4−,5−三置換である。この置換基は、例えば、ヒドロキシ、1〜6個のC原子を有するアルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ等)、アセトキシR−(C=O)O−、1〜6個のC原子を有するアルキル、ハロゲン、NH、NO、およびニトリルCNから選択してもよい。この置換基がヒドロキシまたはNH基である場合は、本発明の方法が実施される間、当該技術分野において一般に知られている、アシル基、シリル基、オキシカルボニル基(tert−ブチル−オキシカルボニル(BOC)等)等の標準的な保護基を用いることによって上記ヒドロキシまたはNH基を保護してもよい。
【0021】
式(2)中のRは、アルコールから誘導された基であり、エステル残基である。Rは、キラルまたはアキラルな基であってもよい。式(2)中のRは、場合により置換された、アルキル、シクロアルキル(例えば、メンチル、クロロ酢酸メンチル等)、アリール(例えばフェニル)、アラルキル(例えば、ベンジル、フェニルエチル等)、またはアルカリールを表してもよい。好ましくは、Rは、1〜20個のC原子、好ましくは2〜10個のC原子を有する置換または非置換のアルキル基、有利には、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であり、好ましくは、Rは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、またはtert−ブチル、より好ましくはエチルである。
【0022】
本発明の方法によれば、当該反応混合物は、(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルが(2S,3R)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルよりもエナンチオマー過剰にあり、例えば、e.e.が少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、さらに好ましくは少なくとも約70%、最も好ましくは少なくとも約80%である。本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、この反応混合物を光学的に純粋な少量の化合物(1)で種付けすることにより、式(1)の化合物が結晶化するであろう。
【0023】
本発明の方法によれば、この反応混合物は、トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルがシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルよりもジアステレオマー過剰にあり、例えば、d.e.が少なくとも約30%、好ましくは、トランス体が少なくとも約50重量%、より好ましくは少なくとも約70重量%、さらに好ましくは少なくとも約90重量%、最も好ましくは少なくとも約95重量%である。特に好ましくは、この反応混合物は、シス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルを少量しか含まない。この反応混合物はまた、基本的にジアステレオマー的に純粋なトランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルであってもよい。
【0024】
必要とされるトランス型エステルである式(2a)に従う(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの重量に対する式(2c)および(2d)に従うシス型エステルの量は、約3%超であっても、たとえ約5%超であっても、たとえ約10%超であってもよいが、好ましくは約45%未満、より好ましくは約35%未満、さらに好ましくは約25%未満、最も好ましくは約15%未満である。
【0025】
本発明の方法においては、一方のエナンチオマーおよびジアステレオマーが過剰な式(2)に従う3−アリール−グリシド酸アルキルエステルの反応混合物を、好ましくはプロトン性溶媒中、より好ましくは水中でアンモニアと反応させる。好ましくは、アンモニアの濃度は約15〜35重量%、より好ましくは約20〜30重量%、最も好ましくは約22〜25重量%である。
【0026】
この反応は、約0〜75℃の温度、好ましくは約15〜65℃の温度、特に約20〜40℃の温度で実施してもよい。
【0027】
この反応は、大気圧下で実施するかまたは密閉容器内で加圧下に実施してもよい。密閉容器内の場合は、アンモニアの濃度が約35%を超えてもよい。
【0028】
この反応は、例えば、ウッツ(Wuts)らによるTetr,:Asymm.、2000年、第11巻、2117〜2123頁に例示されているような周知の方法に従って実施することができる。
【0029】
この方法を有機溶媒中で実施する場合は、アンモニアは、通常、NH形態にある。この方法を、水の存在下に有機溶媒の存在下または非存在下で実施する場合は、アンモニアはNHとNHOHとの混合物の形態であろう。
【0030】
本発明の方法における反応混合物は、式(2)の3−アリールグリシド酸アルキルエステルの4種のエナンチオマーに加えて、副生成物、例えば化合物(2)の調製時に得られる副生成物を含み得る。反応混合物は、溶媒を含む場合もある。式(1)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドを調製する方法は、例えば、化合物(2)の反応混合物を得るために実施された反応と同じ溶媒中で実施してもよい。
【0031】
一方のエナンチオマーおよびジアステレオマーが過剰な化合物(2)の反応混合物は、例えば、式(2)のトランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種のエナンチオマーである(2R,3S)および(2S,3R)体ならびにシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種のエナンチオマーである(2R,3R)および(2S,3S)体を含む反応混合物を、カンジダ(Candida)属由来、好ましくはカンジダ・アンタークチカ(Candida antarctica)由来の酵素を用いて立体選択的に加水分解することによって調製してもよい。上記酵素的方法は、EP 0 602 740号明細書(参照により本明細書に援用する)より周知である。カンジダ・アンタークチカ由来の酵素は、国際公開第8802775号パンフレットに総括的に記載されている。好ましくは、本発明の主題に従い使用される酵素は、カンジダ・アンタークチカ由来のリパーゼである。このリパーゼは、例えば、組換えDNA技術を介して製造することができる。対象とするリパーゼをコーディングする遺伝子は、宿主微生物、例えば、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)内で異種発現する。この酵素は、例えば、ノボ(NOVO)(ノボザイムズ(Novozymes))から商品名ノボザイムズ(登録商標)SP435およびノボザイムズ(登録商標)SP525として市販されている。
【0032】
式(2a)〜(2d)に従う化合物を含む反応混合物にカンジダ・アンタークチカリパーゼ酵素を適用した場合、この酵素は、トランス−3−フェニルグリシド酸アルキルエステルの(2S,3R)型エナンチオマーを高い選択性でエナンチオ選択的に加水分解し、それにより、(2R,3S)型エステルエナンチオマーを高いe.e.で得ることが可能となる。好ましくは、加水分解された(2S,3R)−トランス−3−アリールグリシド酸は、相を分離することにより水相を介して除去される。残った有機相は、少なくとも加水分解されていない(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルと、場合により2種のシス型エステルと、場合により残留している加水分解されていない(2S,3R)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルとを含んでおり、そしてこれが、化合物(1)を調製する次の工程のための反応混合物を成す。この、一方のエナンチオマーおよびジアステレオマーが過剰な反応混合物を次の工程で用いる前に、酵素的反応を実施した有機溶媒の一部または全部を例えば蒸留によって除去してもよい。
【0033】
本発明の好ましい実施態様によれば、加水分解されていない(2R,3S)−トランス型エステルは反応混合物から分離されず、上記反応混合物は、化合物(1)を調製するための次工程でそのまま使用される。
【0034】
立体選択的加水分解は、好ましくは、水相および有機溶媒を含む有機相を含む2相系で実施される。この種の溶媒は、例えば、水に溶解しないかまたはごくわずかに溶解する、クロロホルム、イソプロピルエーテル、3−ペンタノン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルt−ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソオクタン、酢酸エチル等の溶媒である。意外なことに、本発明による酵素の選択性は選択した溶媒とはほぼ無関係であり、ほとんどの場合は、53%未満の転化率で95%e.e.を超えることが可能である。
【0035】
本発明による加水分解は、室温または高温で実施してもよい。その上限は基質の安定性によって決まり、実際は約80℃である。好ましくは、20〜60℃の温度、特に30〜50℃を用いる。より高温を用いると反応がより速やかに進行するという利点がある。
【0036】
加水分解を行う間は、例えば塩基を添加することにより、pHを5〜10の間の値、好ましくは7〜9の間の値、特に約8に維持する。残留したエステル、すなわち、加水分解されなかったエナンチオマーは、例えばそのエステルが溶解している有機溶媒を分離した後、その溶液からエステルを回収することによって回収することができる。
【0037】
場合により一方のエナンチオマーおよびジアステレオマーが過剰な場合もある化合物(2)の反応混合物を調製するための他の方法を以下にさらに説明する(経路4〜6)。経路4〜6に従う上記方法を式(2a)〜(2d)の4種のエナンチオマーを含む反応混合物を調製するために適用してもよく、この反応混合物は、一方のジアステレオマーが過剰な場合も、一方のエナンチオマーおよびジアステレオマーが過剰な場合も、まったくそうでない場合もある。式(2a)〜(2d)の4種のエナンチオマーを含む市販の反応混合物も利用してもよい。
【0038】
この反応混合物を調製するための一つの方法は、例えば、図式(4)(以下「経路4」と称する)
【化5】


に示すように、(キラル)触媒および酸化手段としての酸素源(例えば、NaOCIまたはtert−ブチルヒドロキシペルオキシド(TBHP))の存在下にオレフィンを(不斉)酸化反応させることによるものであろう。
【0039】
この種の反応は、例えば、C・ボニーニ(C.Bonini)およびG・リーギ(G.Righi)によるTetrahedron、第58巻、(2002年)、4981〜5021頁より周知である。好ましい触媒は、キラルすなわち不斉エポキシ化触媒である。一般に、シス(Z)型の二置換アルケンは、(不斉)エポキシ化触媒の最良の基質である。共役二置換オレフィンの中には、エポキシ化反応の間に異性化を示し、異なる比率のトランスおよびシス−エポキシドを生じるものもある。
【0040】
反応混合物を調製するためのさらなる好適な方法は、図式(5)(以下、「経路5」と称する)
【化6】


に示すように、シー(Shi)および共同研究者によって最近開発された、(キラル)ケトンであるD−フルクトースをベースとする触媒系を用いて、トランス(E)型二置換アルケンを酸化して対応するトランス−エポキシドにすることによるものであろう。このシー反応は、例えば、国際公開第98/15544号パンフレット(参照により本明細書に援用する)に開示されている。
【0041】
当該反応混合物を調製するためのさらなる興味深い経路は、例えば、周知のダルツェン縮合反応を適用することにより、特に、式(6a)、
【化7】


(式中、Aは、上記と同義である)に従う芳香族アルデヒドを、塩基の存在下に、式(6b)、
【化8】


(式中、Xは、Cl、Br、F、またはIであってもよく、Rは、上記と同義であってもよい)に従うα−ハロエステルと反応させることにより、式(2)のトランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種のエナンチオマーである(2R,3S)および(2S,3R)体ならびにシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種のエナンチオマーである(2R,3R)および(2S,3S)体を含む反応混合物を得るものであろう。以下、この反応を「経路6」と称する。
【0042】
意外なことに、経路6を適用した場合に得られる反応混合物は、エナンチオマーのトランス対シス比が非常に好都合な化合物(2)を含んでいる。したがって、この経路6は、経済的に非常に魅力的な方法となる。
【0043】
経路6に従う方法には、任意の有機または無機塩基を使用してもよいが、好ましくは、アミン、アルコキシド、アミド等の有機塩基を使用する。より好ましくは、アルカリ土類金属のアルコキシドMOR(式中、Mはアルカリ土類金属であり、Rは、原則として、上のRに定義した任意のアルキル基であってもよい)を使用する。好ましくは、Mは、Na、K、またはLiから選択され、好ましいアルコキシドは、メトキシド、エトキシド、t−ブトキシド等である。好ましい塩基としては、例えば、NaOEt、NaOMe、KOEt、KOMe、LiOEt、LiOMe等が挙げられ、より好ましい塩基はNaOEtおよびNaOMeである。
【0044】
経路6に従う方法は、好ましくは、溶媒、より好ましくは、アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)、エーテル(テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル等)、場合により芳香族炭化水素(シクロヘキサン、トルエン、キシレン等)、アミド(ジメチルホルムアミド(DMF)等)等の有機溶媒の存在下に実施される。
【0045】
塩基としてアルコキシドが使用され、かつ反応が溶媒の存在下に実施される場合、好ましい溶媒は、対応するアルキルアルコール、すなわちアルコキシドMORと同じR置換基を有するアルキルアルコールROHである。好ましい組合せとしては、例えば、NaOMe/MeOH、NaOEt/EtOH、KOMe/MeOH、KOEt/EtOH、LiOMe/MeOH、LiOEt/EtOH等が挙げられる。最も好ましい組合せはNaOEt/EtOHである。
【0046】
経路6に従う方法は、好ましくは、XがClであり、Rが上記と同義である、式(6b)に従うα−ハロエステル、特にクロロ酢酸のエステルを用いて実施される。Rは、好ましくは、2〜10個のC原子を有する置換または非置換のアルキル基、多くの場合は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは、Rは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、tert−ブチル等である。さらに好ましくは、Rは、メチル(好ましくは、α−クロロ酢酸メチルエステル)またはエチル(好ましくは、α−クロロ酢酸エチルエステル)であり、最も好ましくは、Rはエチルである。その理由は、このようにした場合、意外なことに、好都合なシス:トランス比の化合物(2)が最適な収率で得られるためである。
【0047】
本発明の好ましい実施態様によれば、式(6b)に従うα−ハロエステルには、Rに対応するアルコキシド塩基およびRに対応するアルコールが組み合わせて使用される。
【0048】
本発明の方法に使用してもよい好ましい式(6a)の芳香族アルデヒドは、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド等であり、好ましくはベンズアルデヒドである。
【0049】
一般に、経路6に従う方法においては、試薬は任意の順序で添加してもよい。経路6に従う方法の好ましい適用の仕方は、塩基および芳香族アルデヒド(6a)をまず装入し、次いで、式(6b)のα−ハロエステルを添加するものである。このようにした場合、好ましいシス:トランス比の化合物(2)が最適な収率で得られるであろう。
【0050】
経路6のダルツェン反応は、約−20〜+20℃の温度、好ましくは約−10〜+10℃の温度、特に約−5〜+5℃の温度、最も好ましくは約0℃未満で実施してもよい。このようにすることで、最適な選択性および収率を達成することができる。
【0051】
式(6b)のα−ハロエステル対式(6a)の芳香族アルデヒドの比率は、約0.9〜2、好ましくは約1.0〜1.5、より好ましくは約1.0〜1.2であろう。塩基対式(6a)の芳香族アルデヒドの比率にも同様の数値が適用される。
【0052】
経路6に従う方法から得られる反応混合物は、当業者に周知の方法により、例えば、過剰な塩基を中和した後、水および場合により有機溶媒を抜き出すことによって精製してもよい。
【0053】
化合物(1)
本発明は、式(1)に従う化合物(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミド(ここで、アリールAは上記と同義である)を調製するための方法に関する。
【0054】
本発明の方法により、化合物(1)が、少なくとも約80%e.e.、好ましくは少なくとも約85%e.e.、より好ましくは少なくとも約90%e.e.、さらに好ましくは少なくとも約95%e.e.、最も好ましくは少なくとも約98%e.e.で得られるであろう。
【0055】
本発明の方法により、化合物(1)が、少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、最も好ましくは少なくとも約60%の収率で得られるであろう。
【0056】
本発明を用いると、化合物(1)が、さらなる精製または再結晶をほとんどまたはまったく必要としない許容可能なエナンチオマーおよびジアステレオマー的純度ならびに許容可能な収率(わずかな副生成物)で得られる。しかしながら、必要に応じて、当該技術分野において一般的なさらなる精製工程、例えば、抽出、濾過、再結晶、蒸留、またはクロマトグラフィーを適用してもよい。好適な精製は、例えば、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール等のアルコール)からの再結晶であろう。
【0057】
本発明の好ましい実施態様によれば、アリールAは、化合物(1)および式(2)の反応混合物中においてはフェニル基である。この、2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドの4種の立体異性体および反応中に形成される2−アミノ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオンアミドの4種の立体異性体の好ましい実施態様においては、意外なことに、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオンアミドが結晶化し、したがって、比較的高いd.e.およびe.e.、収率、ならびに純度で容易に単離(例えば濾過により)することができる。
【0058】
化合物3
本発明の方法によれば、次いで、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミド(1)を、比較的高い収率、d.e.、およびe.e.で、上の式(3)(ここで、Rは上記と同義である)の(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオン酸アルキルエステルに変換することができる。
【0059】
このエステル化反応は、例えば、ウッツらによるTetr.:Asymm.、2000年、第11巻、2117〜2123頁に例示されてような周知の方法に従って実施することができる。好ましくは、このエステル化方法は、対応するアルキルアルコールR−OH(Rは上記と同義である)中において、強酸(例えば、塩化水素、硫酸、クロロスルホン酸等)の存在下に、またはエステル化剤(塩化チオニル、塩化オキサリル等)の存在下に実施される。好ましくは、この方法は、塩化水素の存在下に実施される。反応混合物中に使用される有機溶媒は、化合物(1)の調製方法に使用される溶媒と同一であっても異なっていてもよい。この方法を、当業者に周知の条件下で実施してもよい。例えば、対応するアルキルアルコールを溶媒として使用してもよく、塩化チオニルを10℃未満の温度で滴下しても、あるいは溶液中に塩化水素ガスを通気することによってもよい。生成物を、直接または溶媒を好適な溶媒に交換した後に、強酸(好ましくはHCI)の塩として単離してもよい。この生成物は、例えば、pH約9の水/ジクロロメタンで抽出することによって遊離させることができ、有機層から単離することができる。
【0060】
本発明はまた、式(1)および/または(3)に従う光学活性化合物の、医薬の調製における中間体としての使用に関し、したがって、本発明の構成においては、式(1)および(3)に従う化合物を比較的高い立体異性体的純度で調製することを目的とする。
【0061】
本発明の方法によれば、化合物(3)をさらに、イミダゾ[1,2−h][1,7]ナフチリジン−7(8H)−オン,5,6,9,10−テトラヒドロ−8−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2,3−ジメチル−9−フェニル−,(8R,9R)に変換してもよく、次いでこれを、イミダゾ[1,2−h][1,7]ナフチリジン−7(8H)−オン,9,10−ジヒドロ−8−tert−ブチルジメチルシリルオキシ−2,3−ジメチル−9−フェニル−,(8R,9R)に変換してもよい。次いで、後者の化合物を、例えば、国際公開第2004/056362号パンフレットに開示されているように、イミダゾ[1,2−h][1,7]ナフチリジン−7(8H)−オン,9,10−ジヒドロ−8−ヒドロキシ−2,3−ジメチル−9−フェニル−,(8R,9R)に変換してもよい。
【0062】
さらに、イミダゾ[1,2−h][1,7]ナフチリジン−7(8H)−オン,9,10−ジヒドロ−8−ヒドロキシ−2,3−ジメチル−9−フェニル−,(8R,9R)を、医薬成分または医薬活性成分、特に、例えば、酸誘発消化器疾患の治療に好適なアシッドポンプアンタゴニスト(APA)等の化合物、好ましくは、例えば国際公開第03/094967号パンフレットに記載されている(7R,8R,9R)−2,3−ジメチル−8−ヒドロキシ−7−(2−メトキシエトキシ)−9−フェニル−7,8,9,10−テトラヒドロイミダゾ−[1,2−h][1,7]ナフチリジンに変換してもよい。
【0063】
したがって、本発明の方法においては、化合物(3)をさらに、医薬成分または医薬活性成分、特に、例えば、(7R,8R,9R)−2,3−ジメチル−8−ヒドロキシ−7−(2−メトキシエトキシ)−9−フェニル−7,8,9,10−テトラヒドロイミダゾ−[1,2−h][1,7]ナフチリジン等の化合物に変換してもよい。
【0064】
以下に示す実施例を用いて本発明を例示する。
【0065】
実施例1
1.1. 式(2)に従うフェニルグリシド酸エチルの調製
ギ酸エチル(3g)をナトリウムエトキシドのエタノール溶液(400g、20%)に添加した。この混合物を0℃に冷却した。温度を3℃未満に維持しながらベンズアルデヒド(106g)を添加した。次いで、温度を1℃未満に維持しながらクロロ酢酸エチル(130g)を3時間で添加した。この混合物を3時間熟成し、温度を10℃に上昇させた。この混合物を5℃未満に冷却した後、トリエチルアミン(5g)および酢酸(13g)を添加することにより過剰の塩基を中和した。水(500ml)およびトルエン(250ml)を添加し、混合物を35℃に加熱した。これをかき混ぜて熟成した後、水相を分離し、もう一度トルエン(250ml)で抽出した。トルエン層を合一し、減圧下で濃縮して、褐色油状物205gを得た。
GC分析:フェニルグリシド酸エチルのトランス体75%およびシス体2%
トルエン10%
他の成分13%
収率80%
【0066】
1.2. 式(2a)のトランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチルが過剰な式(2)に従う反応混合物の調製
水(250g)および炭酸水素カリウム(42g)をトランス−フェニルグリシド酸エチル205gに添加した。この混合物を26℃に加熱した。リパーゼ酵素ノボザイムズ(登録商標)525を添加し、混合物を10時間撹拌した。これを静置した後、水相(これは、トランス−(2S,3R)−フェニルグリシド酸カリウムを含んでいた)を分離した。水層をもう一度トルエン(250ml)で抽出した。トルエン層を合一し、1μmのフィルタで濾過して酵素を除去した。濾過終了後、トルエン層を減圧下で濃縮し、褐色油状物106gを得た。
GC分析:フェニルグリシド酸エチルのトランス体73%およびシス体3%
トルエン10%
他の成分14%
HPLC分析:トランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチル:86%ee
収率50%
【0067】
1.3. 式(1)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドの調製
トランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチル(86%e.e.)106gをメタノール(150g)と25%アンモニア(450g)との混合物に20℃で添加した。この混合物を2時間(密閉反応器内で)熟成した。ある程度の時間が経過すると、トランス−(2R,3S)−エチル−フェニル−グリシドアミドが結晶化した。温度を1時間で35℃に昇温し、この混合物を16時間熟成した。(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドが結晶化して析出した。これを約3時間で20℃に冷却した後、(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオンアミドを濾取し、エタノールで洗浄した。(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドを40℃以下で真空乾燥し、白色結晶生成物43gを得た。
HPLC:e.e.>99.5%
HPLC:定量>98%
H NMR(DMSO−d6)δ:1.96(bs,2),3.97(m,1),4.05(d,1,J=2.4),5.41(d,1,J=2.5),7.03(bs,2),7.16−7.31(m,5)
収率60%、ベンズアルデヒドからの総括収率23%
【0068】
実施例2
2.1. フェニルグリシド酸エチルの調製
この調製は、実施例1.1.と同じである。
【0069】
2.2. 式(2a)に従うトランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチルが過剰な式(2)に従う反応混合物の調製
水(250g)および炭酸水素カリウム(42g)をトランス−フェニルグリシド酸エチル205gに添加した。この混合物を26℃に加熱した。リパーゼ酵素ノボザイムズ(登録商標)525を添加し、混合物を12時間撹拌した。これを静置した後、水相(これは、トランス−(2S,3R)−フェニルグリシド酸カリウムを含んでいた)を分離した。水層をもう一度トルエン(250ml)で抽出した。トルエン層を合一し、1μmのフィルタで濾過して酵素を除去した。濾過終了後、トルエン層を減圧下で濃縮して、褐色油状物101gを得た。
GC分析:フェニルグリシド酸エチルのトランス体73%およびシス体3%
トルエン10%
他の成分14%
HPLC分析:トランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチル:89%ee
収率48%
【0070】
2.3. 式(1)に従う(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドの調製
トランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチル(89%e.e.)101gをメタノール(150g)と25%アンモニア(450g)との混合物に20℃で添加した。この混合物を2時間(密閉反応器内で)熟成した。ある程度の時間が経過すると、トランス−(2R,3S)−エチル−フェニル−グリシドアミドが結晶化した。温度を1時間で35℃に昇温し、この混合物を16時間熟成した。(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドが結晶化した。これを約3時間で10℃に冷却した後、(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドを濾取し、エタノールで洗浄した。(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドを40℃以下で真空乾燥し、白色結晶生成物41.5gを得た。
HPLC:e.e.>99.5%
HPLC:定量>98%
HNMR(DMSO−d6)δ:1.96(bs,2),3.97(m,1),4.05(d,1,J=2.4),5.41(d,1,J=2.5),7.03(bs,2),7.16−7.31(m,5)
収率61%、ベンズアルデヒドからの総括収率23%
【0071】
実施例3
3.1. 式(2)に従うフェニルグリシド酸エチルの調製
ギ酸エチル(3g)をカリウムエトキシドのエタノール溶液(400g、20%)に添加した。この混合物を0℃に冷却した。温度を3℃未満に維持しながらベンズアルデヒド(106g)を添加した。次いで、温度を1℃未満に維持しながらクロロ酢酸エチル(130g)を3時間で添加した。この混合物を3時間熟成し、温度を10℃に上昇させた。この混合物を5℃未満に冷却した後、トリエチルアミン(5g)および酢酸(13g)を添加することにより過剰の塩基を中和した。水(500ml)およびトルエン(250ml)を添加し、混合物を35℃に加熱した。これをかき混ぜて静置した後、水相を分離し、もう一度トルエン(250ml)で抽出した。トルエン層を合一し、減圧下に濃縮して、褐色油状物205gを得た。
GC分析:フェニルグリシド酸エチルのトランス体77%およびシス体3.8%
トルエン10%
他の成分9%
収率82%
【0072】
3.2. 式(2a)に従うトランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチルが過剰な式(2)に従う反応混合物の調製
水(250g)および炭酸水素カリウム(42g)をトランス−フェニルグリシド酸エチル205gに添加した。この混合物を26℃に加熱した。ノボザイムズ(登録商標)525リパーゼ酵素を混合物に添加し、混合物を8時間撹拌した。これを静置した後、水相(これは、トランス−(2S,3R)−フェニルグリシド酸カリウムを含んでいた)を分離した。水層をもう一度トルエン(250ml)で抽出した。トルエン層を合一し、1μmのフィルタで濾過して酵素を除去した。濾過終了後、トルエン層を減圧濃縮し、褐色油状物106gを得た。
GC分析:フェニルグリシド酸エチルのトランス体75%およびシス体7.3%
トルエン8%
他の成分10%
HPLC分析:トランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチル:84%ee
収率51%
【0073】
3.3. 式(1)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドの調製
トランス−(2R,3S)−フェニルグリシド酸エチル(84%e.e.)106gをメタノール(150g)と25%アンモニア溶液(450g)との混合物に20℃で添加した。この混合物を2時間(密閉容器内で)熟成した。ある程度の時間が経過すると、トランス−(2R,3S)−エチル−フェニル−グリシドアミドが結晶化した。温度を1時間で35℃に昇温し、この混合物を16時間熟成した。(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドが結晶化した。約3時間で20℃に冷却した後、(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドを濾取し、エタノールで洗浄した。(2R,3R)2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミドを40℃以下で真空乾燥し、白色結晶生成物41.6gを得た。
HPLC:e.e.>99.5%
HPLC:定量>98%
HNMR(DMSO−d6)δ:1.96(bs,2),3.97(m,1),4.05(d,1,J=2.4),5.41(d,1,J=2.5),7.03(bs,2),7.16−7.31(m,5)
収率59%、ベンズアルデヒドからの総括収率24%
【0074】
実施例4
式(3)(式中、Rはエチルであり、Aはフェニルである)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオン酸エチルエステルの調製
(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニルプロピオンアミド25gを、エタノール(200g)と塩化チオニル(24g)との混合物に20℃で添加した。この混合物を環流下で熟成した。塩化チオニル(42g)を5時間かけて添加した。10時間熟成して反応を完結させた(転化率98%)。残量が75mlになるまでエタノールを留去した。トルエンを80℃で加えた。混合物を10℃に冷却した。固体を濾取してトルエン100mlで洗浄した。固体を真空乾燥し、白色固体41.7gを得た(生成物と塩化アンモニウムとの混合物)。
HPLC:定量:(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオン酸エチルエステル塩酸塩78%
収率97%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)、
【化1】


(式中、アリールAは、置換または非置換の芳香族環を表す)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドの調製方法であって、一般式(2)、
【化2】


(式中、Rは、場合により置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、またはアルカリール基であってもよいエステル残基である)で表される、トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種類のエナンチオマーである(2R,3S)および(2S,3R)体ならびにシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの2種類のエナンチオマーである(2R,3R)および(2S,3S)体を含み、(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルがエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰にある反応混合物を、アンモニアと反応させる方法。
【請求項2】
前記反応混合物の前記(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルがエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰にあり、e.e.が少なくとも約40%かつd.e.が少なくとも約30%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応混合物の前記(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルがエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰にあり、e.e.が少なくとも約50%かつd.e.が少なくとも約50%である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の、式(1)の(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドの調製方法であって、前記(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルがエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰にある前記反応混合物が、式(2)に従う化合物の4種のエナンチオマーであるトランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの(2R,3S)体および(2S,3R)体ならびにシス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルの(2R,3R)体および(2S,3S)体を含む反応混合物を、カンジダ・アンタークチカ(Candida Antarctica)由来の酵素を用いて立体選択的に加水分解することによって調製される、方法。
【請求項5】
前記(2S,3R)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルが立体選択的に加水分解される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
加水分解されなかった前記(2R,3S)−トランス−3−アリールグリシド酸アルキルエステルが前記反応混合物から分離されない、請求項4〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(2)に従う前記化合物の前記4種のエナンチオマーを含む前記反応混合物が、式(6a)、
【化3】


(式中、Aは、置換または非置換の芳香族環を表す)に従う芳香族アルデヒドを、塩基の存在下に、式(6b)、
【化4】


(式中、Xは、Cl、Br、F、またはIから選択され、Rは、請求項1と同義である)に従うα−ハロエステルと接触させることによって調製される、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記α−ハロエステルが、α−クロロ酢酸メチルエステルまたはα−クロロ酢酸エチルエステルであり、かつ前記塩基が、アルカリ土類金属のアルコキシドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、アルコールの存在下に実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項10】
式(1)、
【化5】


(式中、アリールAは、置換または非置換の芳香族環を表す)に従う、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミド。
【請求項11】
式(1)(式中、アリールAは、フェニル基を表す)に従う、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−フェニル−プロピオンアミド。
【請求項12】
一般式(3)、
【化6】


(式中、Aは、置換または非置換の芳香族環を表し、アルキルRは、1〜10個の炭素原子を有する置換または非置換のアルキル基を表す)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオン酸アルキルエステルの調製方法であって、式(1)に従う(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−アミノ−3−アリール−プロピオンアミドを、強酸またはエステル化剤の存在下に、アルキルアルコールR−OHと接触させる、方法。
【請求項13】
得られた前記化合物(1)または(3)が、それ自体周知の方法によって、さらにイミダゾ[1,2−h][1,7]ナフチリジン−7(8H)−オン,9,10−ジヒドロ−8−ヒドロキシ−2,3−ジメチル−9−フェニル−,(8R,9R)に変換される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
得られた前記化合物が、それ自体周知の方法によって、さらに(7R,8R,9R)−2,3−ジメチル−8−ヒドロキシ−7−(2−メトキシエトキシ)−9−フェニル−7,8,9,10−テトラヒドロイミダゾ−[1,2−h][1,7]ナフチリジンに変換される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によって得られた前記化合物(1)または(3)の、イミダゾ[1,2−h][1,7]ナフチリジン−7(8H)−オン,9,10−ジヒドロ−8−ヒドロキシ−2,3−ジメチル−9−フェニル−,(8R,9R)の調製における使用。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法によって得られた化合物の、(7R,8R,9R)−2,3−ジメチル−8−ヒドロキシ−7−(2−メトキシエトキシ)−9−フェニル−7,8,9,10−テトラヒドロイミダゾ−[1,2−h][1,7]ナフチリジンの調製における使用。

【公表番号】特表2008−507487(P2008−507487A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521909(P2007−521909)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007986
【国際公開番号】WO2006/008170
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】