説明

(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの製造方法

【課題】高収率で、発がん性物質などを使用しない実用的な、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを製造する方法を提供する。
【解決手段】(E)−2−ヘキセン酸と(E)−ヘキセノールを、アゾジカルボン酸エステル(ジエチルアゾジカルボキシラートまたはジイソプロピルアゾジカルボキシラートなど)とトリフェニルホスフィンの存在下で反応させ、反応終了後、ジエチルエーテルで希釈し、ろ過を行い、ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層を濃縮後、蒸留またはカラムクロマトグラフィーなどの精製により(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホソヘリカメムシ、イチモンジカメムシ及びカメムシタマゴトリコバチに対して誘引効果を有する化学物質の一つである(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホソヘリカメムシ(学名:Riptortus clavatus)は、日本、中国、韓国および台湾に生息し、大豆、エンドウ、インゲン等のマメ科植物を吸汁摂食することにより害を与える。また、イチモンジカメムシ(学名:Piezodorus hybneri)は日本をはじめ、東アジア、オーストラリアおよびアフリカに生息し、ダイズやアズキなどマメ類に害を与える。一方、カメムシタマゴトリコバチ(学名:Ooencyrtus nezarae)はホソヘリカメムシの天敵であり、ホソヘリカメムシの卵に産卵寄生することによりホソヘリカメムシを防除する働きがある。
【0003】
ホソヘリカメムシやイチモンジカメムシの防除および発生予察には、誘引効果のあるフェロモンを使った手段が有効であることが知られている。(特開平7−206606号公報、特願2007−219241号公報)
【0004】
上記3種の昆虫に対して誘引効果を有する化学物質として(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートがあり、商業的利用価値は非常に高い。
【0005】
(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの合成法は、非特許文献1(Journal of Chemical Ecology、第21巻、第7号、973−985頁、1995年)の976頁に記載されている合成法が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の合成法は、発がん性のベンゼンが使用されているという問題点や、収率が低いという問題点があり、実用的な合成法は未だ知られていない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、高収率で実用的な(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、(E)−2−ヘキセン酸と(E)−ヘキセノールをアゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィン存在下で反応させることで(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを高収率で実用的に製造する方法に想到した。
【0009】
以下、本発明にかかる(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明では、(E)−2−ヘキセン酸と(E)−ヘキセノールを、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィン存在下で反応させることで、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを合成する。エステル化には、一般的に、様々な試薬が利用されるが、本発明者の鋭意研究の結果、試薬として、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィンとの組合せを用いることで、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの異性化を防止し、純度が向上するため、製造効率を大幅に改善できることが分かった。
【0011】
アゾジカルボン酸エステルは、特に制限はないが、安価なことから、ジエチルアゾジカルボキシラートまたは、ジイソプロピルアゾジカルボキシラートが好適に使用できる。
【0012】
反応は、不活性ガス雰囲気下で行なうことが望ましい。反応温度は、−10℃から40℃で、好ましくは0℃から30℃である。
【0013】
溶媒は、反応の進行を妨げるもの以外の溶媒であればいずれのものでも使用でき、具体的にはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トルエン、ジクロロメタン等が好適に使用できる。
【0014】
(E)−2−ヘキセン酸と(E)−ヘキセノールの使用比率は、モル比で1:0.9〜1:2程度とするのが望ましい。アゾジカルボン酸エステルおよびトリフェニルホスフィンの使用比率は、(E)−2−ヘキセン酸に対して若干過剰であることが望ましく、通常モル比で1.05〜1.2当量使用する。
【0015】
反応終了後、ジエチルエーテルで希釈し、セライトろ過を行なう。ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄する。有機層を濃縮後、蒸留またはカラムクロマトグラフィーなどの精製により(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、(E)−2−ヘキセン酸と(E)−ヘキセノールを、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィン存在下で反応させることで、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを高収率で実用的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
(E)−2−ヘキセン酸(2.00g)と(E)−ヘキセノール(2.70g)をフラスコに入れ、テトラヒドロフラン(20ml)を加えた。これをアルゴン雰囲気下0℃に冷却し、トリフェニルホスフィン(4.8g)とジエチルアゾジカルボキシラートの2.2Mトルエン溶液(8.4ml)を加えた。滴下後、反応液をゆっくり室温まで昇温させながら、1時間攪拌した。反応混合液をエーテルで希釈後、ろ過をした。ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(3.37g、収率98%、純度99%)が得られた。
【実施例2】
【0019】
(E)−2−ヘキセン酸(2.00g)と(E)−ヘキセノール(2.70g)をフラスコに入れ、テトラヒドロフラン(20ml)を加えた。これをアルゴン雰囲気下0℃に冷却し、トリフェニルホスフィン(4.8g)とジイソプロピルアゾジカルボキシラートの1.9Mトルエン溶液(9.7ml)を加えた。滴下後、反応液をゆっくり室温まで昇温させながら、1時間攪拌した。反応混合液をエーテルで希釈後、ろ過をした。ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(3.20g、収率93%、純度98%)が得られた。
【実施例3】
【0020】
(E)−2−ヘキセン酸(4.00g)と(E)−ヘキセノール(3.86g)をフラスコに入れ、ジエチルエーテル(25ml)を加えた。これをアルゴン雰囲気下0℃に冷却し、トリフェニルホスフィン(9.66g)とジエチルアゾジカルボキシラートの2.2Mトルエン溶液(17.0ml)を加えた。滴下後、反応液をゆっくり室温まで昇温させながら、1時間攪拌した。反応混合液をエーテルで希釈後、ろ過をした。ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(6.52g、収率95%、純度98%)が得られた。
【実施例4】
【0021】
(E)−2−ヘキセン酸(2.00g)と(E)−ヘキセノール(2.70g)をフラスコに入れ、トルエン(20ml)を加えた。これをアルゴン雰囲気下0℃に冷却し、トリフェニルホスフィン(4.8g)とジエチルアゾジカルボキシラートの2.2Mトルエン溶液(8.4ml)を加えた。滴下後、反応液をゆっくり室温まで昇温させながら、1時間攪拌した。反応混合液をエーテルで希釈後、ろ過をした。ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(3.34g、収率97%、純度98%)が得られた。
【実施例5】
【0022】
(E)−2−ヘキセン酸(2.00g)と(E)−ヘキセノール(2.70g)をフラスコに入れ、ジクロロメタン(20ml)を加えた。これをアルゴン雰囲気下0℃に冷却し、トリフェニルホスフィン(4.8g)とジエチルアゾジカルボキシラートの2.2Mトルエン溶液(8.4ml)を加えた。滴下後、反応液をゆっくり室温まで昇温させながら、1時間攪拌した。反応混合液をエーテルで希釈後、ろ過をした。ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(3.33g、収率97%、純度97%)が得られた。
【0023】
[比較例1]
(E)−2−ヘキセン酸(3.77g)と(E)−ヘキセノール(3.47g)をフラスコに入れ、トルエン(30ml)を加えた。p−トルエンスルホン酸(0.3g)を加え、135℃に加熱した。水分を留去しながら、2時間反応させた。反応混合液を室温まで冷却後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。エーテルで抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(4.34g、収率67%、純度60%)が得られた。
【0024】
[比較例2]
(E)−2−ヘキセン酸(2.00g)と(E)−ヘキセノール(2.00g)をフラスコに入れ、テトラヒドロフラン(20ml)を加えた。これをアルゴン雰囲気下0℃に冷却し、4−ジメチルアミノピリジン(2.3g)と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(3.7g)を加えた。滴下後、反応液をゆっくり室温まで昇温させながら、16時間攪拌した。反応混合液に希塩酸を加えて反応を終了させ、エーテルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(1.06g、収率31%、純度86%)が得られた。
【0025】
[比較例3]
(E)−2−ヘキセン酸(2.00g)と(E)−ヘキセノール(3.50g)をフラスコに入れ、0℃に冷却した。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(2.2ml)を加え、反応液をゆっくり室温まで昇温させながら、1時間攪拌した。その後、40〜50℃の間で2時間攪拌した。反応混合液を室温まで冷却後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。エーテルで抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアート(2.85g、収率83%、純度25%)が得られた。
【0026】
以上の実施例及び比較例より、(E)−2−ヘキセン酸と(E)−ヘキセノールを、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィン存在下で反応させることで、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを高収率で製造でき、また、試薬として、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィンを用いることで、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの異性化が防止され、高純度で製造できることが分かる。すなわち、本発明に係る方法は、高収率かつ高純度で(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを製造できることから、非常に効率のよい製造方法であることが分かる。
【0027】
さらに、本発明に係る方法は、出発原料や試薬にベンゼンなどの発がん性物質を使用しないので、安全で実用的な(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの製造方法であることも分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特開平7−206606号公報
【特許文献2】特願2007−219241号公報
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】Journal of Chemical Ecology、第21巻、第7号、973−985頁、1995年

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(E)−2−ヘキセン酸と(E)−ヘキセノールを、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィン存在下で反応させることで、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートを得ることを特徴とする、(E)−2−ヘキセニル=(E)−2−ヘキセノアートの製造方法。
【請求項2】
前記アゾジカルボン酸エステルがジエチルアゾジカルボキシラートまたは、ジイソプロピルアゾジカルボキシラートであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−153099(P2011−153099A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15779(P2010−15779)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(391020584)富士フレーバー株式会社 (16)
【Fターム(参考)】