説明

+C板および−A板の光学特性を有する混合セルロースエステルフィルム

本発明は、低ヒドロキシル量および特定の可塑剤を有する混合セルロースエステルから形成されているフィルムに関する。これらのフィルムは、+C板、−A板、および2軸Nz挙動を示すことができ、これらは該フィルムを光学用途、例えば保護フィルムおよび補償フィルムとしての液晶ディスプレイ(LCD)における使用に対して特に好適にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、低ヒドロキシル量および特定の可塑剤を有する混合セルロースエステルから形成されているフィルムに関する。これらのフィルムは、+C板、−A板、および二軸Nz挙動を示すことができ、これらは該フィルムを光学用途、例えば保護フィルムおよび補償フィルムとしての液晶ディスプレイ(LCD)における使用に対して特に好適にする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
セルロースエステル,例えばセルローストリアセテート(CTA)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、およびセルロースアセテートブチレート(CAB)は液晶ディスプレイ(LCD)産業による多様なフィルムにおいて用いられている。最も特筆すべきなのはこれらの保護フィルムおよび補償フィルムとしての、偏光シートとの組合せでの使用である。これらのフィルムは、典型的には溶媒キャスト、次いで配向したヨウ化ポリビニルアルコール(PVOH)偏光フィルムの表面のいずれかへの積層によって形成され、スクラッチおよび水分の進入からPVOH層を保護し、一方ではまた構造的な剛直さを増大させる。代替として、補償フィルムの場合のように、これらは偏光子を重ねたものと積層でき、または偏光子と液晶層との間に含ませることができる。セルロースエステルは、他の物質に対して多くの性能の利点を有する。これはディスプレイフィルム,例えばシクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリイミド等における使用で見られる。しかし、光学的な複屈折性の要求は、近年、しばしば後者の物質を代わりに用いることを決定付ける。
【0003】
保護的な役割を与えることに加えて、これらのフィルムはまた、LCDのコントラスト比、広い視野角、および色シフト性能を改善する役割を果たす。LCDにおいて用いる、交差した偏光子の典型的な組については、対角線に沿った顕著な光漏失が存在する。これは悪いコントラスト比を招来する(特に、視野角が増大するに従って)。種々の組合せの光学フィルムが、この光漏失を補正または「補償」するために使用できることが公知である。これらのフィルムは、特定の明確に定義された複屈折率(またはレタデーション)(これは用いる液晶セルの種類に大きく左右される)を有さなければならない。液晶セル自体がまた、補正しなければならない特定程度の不所望の光学レタデーションを有するからである。これらの補償フィルムの幾つかは、他よりも形成が容易である。よって、性能とコストとの間で妥協がしばしばなされている。また、補償フィルムおよび保護フィルムの殆どは溶媒キャストによって形成されるが、溶融押出しによってより多くのフィルムを形成することへの圧力が存在する。
【0004】
補償フィルムおよび光学フィルムは、複屈折率(これは屈折率nに関する)によって一般的に定量される。屈折率は典型的には、ポリマーについては一般的には1.4〜1.8の範囲であり、そしてセルロースエステルについては約1.46〜1.50である。既知物質について、屈折率が高いほど、これを通って伝播する光の速度が遅くなる。
【0005】
非配向の等方性物質について、屈折率は、入射光波長の偏光状態に関わらず同じである。物質が配向するようになると、または異方性になると、屈折率は物質の方向に依存するようになる。本発明の目的のために、nx、ny、およびnz(これらは機械方向(MD)、横方向(TD)、および厚み方向にそれぞれ対応する)と特定される問題の3つの屈折率が存在する。物質がより異方性(例えばこれを延伸することにより)になると、任意の2つの屈折率の間の差が増大するようになる。この差を「複屈折」という。
【0006】
物質方向の多くの組合せ(これから選択すべきもの)が存在するため、複屈折の対応する異なる値が存在する。最も一般的な2つ、すなわち面内複屈折Δeおよび厚み複屈折Δthは:
(1a)Δe=nx−ny
(1b)Δth=nz−(nx+ny)/2
と定義される。
【0007】
複屈折Δeは、MD方向とTD方向との間の相対的な面内配向の指標であり、無次元である。これに対し、Δthは、平均面内配向に対する厚み方向の配向の指標を与える。
【0008】
光学フィルムを特徴付けるためにしばしば用いられる別の用語は、光学レタデーション(R)である。Rは、単純に複屈折に問題のフィルムの厚み(d)を乗じたものである。よって、
(2a)Re=Δed=(nx−ny)d
(2b)Rth=Δthd=[nz−(nx+ny)/2]d
である。
【0009】
レタデーションは、2つの直交する光学波の間の相対的な位相シフトの直接の指標であり、そして典型的にはナノメートル(nm)単位で報告される。Rthの定義は、何人かの著者によって、特に符号(+/−)に関して異なることに留意されたい。
【0010】
物質の複屈折/レタデーション挙動もまた異なることが公知である。例えば、殆どの物質は、延伸される場合、より高い屈折率を延伸方向に沿って示し、そしてより低い屈折率を延伸と直角に示すようになる。これは分子レベルに従うからであり、屈折率は、典型的には、ポリマー鎖の軸に沿って、より高く、そして該鎖と直角に、より低い。これらの物質は一般的に「正に複屈折」と称し、そして最も標準的なポリマー(例えば全ての市販のセルロースエステル)を代表する。
【0011】
別の有用なパラメータは「固有複屈折」であり、これは物質の特性であり、そして、物質が全ての鎖で一方向に完全に配列して完全に延伸された場合に生じることになる複屈折の指標である。
【0012】
物質の、2つの他の大幅に稀な分類が存在する。すなわち、「負の複屈折」および「ゼロ複屈折」である。負の複屈折のポリマーは、延伸方向に対して垂直で(平行方向に対し)、より高い屈折率を示し、よってまた、負の固有複屈折率を有する。特定のスチレン化合物およびアクリル化合物は、そのより嵩高な側鎖に起因して、負の複屈折の挙動を有することが公知である。これに対し、ゼロ複屈折は、特別な場合であり、そして延伸で複屈折を示さず、よってゼロ固有複屈折を有する物質を代表する。このような物質は、光学用途に対して理想的である。これらは加工中に、何らの光学的なレタデーションまたは歪みを示すことなく成形、延伸、または他には加圧できるからである。このような物質もまた極めて稀である。
【0013】
LCDにおいて用いる実際の補償フィルムは、種々の形状をとることができる。例えば二軸フィルム(全3つの屈折率が異なり、そして2つの光学軸が存在する)、および一軸フィルム(1つのみの光学軸を有し、3つの屈折率のうち2つが同じである)が挙げられる。他の分類の補償フィルム(光学軸が、フィルムの厚みを通じて捩れまたは傾いているもの)(例えばディスコチックフィルム)もまた存在する。しかし、本発明を理解することに対するこれらの重要性はより小さい。重要な点は、形成できる補償フィルムの種類が、ポリマーの複屈折率の特徴(すなわち正または負)によって制限されていることである。
【0014】
一軸フィルムの場合において、
(3a) nx>ny=nz
のような屈折率を有するフィルムは、「+A」板とされる。これらのフィルムにおいて、フィルムのx方向は高い屈折率を有し、一方yおよび厚みの方向は、ほぼ等しい大きさである(そしてnxよりも小さい)。この種類のフィルムはまた、x方向に沿った光学軸を有する正の一軸結晶構造という。このようなフィルムは、正に複屈折の物質を、例えばフィルムドラフターを用いて、一軸延伸することによって形成するのが容易である。
【0015】
これに対し、「−A」板一軸フィルムは、
(3b) nx<ny=nz
と定義され、x軸の屈折率は他の方向(これらはほぼ等しい)よりも低い。−A板を形成するための最も一般的な方法は、負の複屈折のポリマーを延伸すること、または代替として、負に複屈折の液晶ポリマーを、分子が好ましい方向で並ぶように、表面上にコートすることである。
【0016】
別の分類の一軸光学フィルムはC板(これはまた「+C」または「−C」であることができる)である。C板とA板との間の違いは、前者では、特異な屈折率(または光学軸)が、フィルムの面内ではなく厚み方向にあることである。よって
(4a)nz>ny=nx(“+C”板)
(4b)nz<ny=nx(“−C”板)
である。
【0017】
C板は、x方向およびy方向における相対的な延伸が一定に保持される場合に二軸延伸することによって形成できる。代替として、これらは圧縮形成によって形成できる。初期には等方性である正の固有複屈折の物質を圧縮または等二軸延伸することにより、−C板がもたらされる。有効な配向方向がフィルムの面内にあるからである。逆に、+C板は、負の固有複屈折の物質で形成された初期には等方性のフィルムを圧縮または等二軸延伸することにより形成できる。二軸延伸の場合、配向レベルをMD方向またはTD方向において同じに保たない場合には、物質はもはや真のC板ではなく、2つの光学軸を有する二軸フィルムである。
【0018】
C板を製造するための第3の、そしてより一般的な選択肢は、フィルムの溶媒キャストの間に形成する応力の利点を呈する。引張応力がフィルムの面内で生じ、これはキャスティングベルトによって与えられる拘束に起因する(本来的に等二軸である)。これらは、鎖をフィルムの面内に配列させ、−Cまたは+Cのフィルムを、正および負の固有複屈折の物質のそれぞれについてもたらす傾向がある。ディスプレイにおいて使用する殆どのセルロースエステルフィルムは溶媒キャストされ、そして全てが本質的に正の複屈折であるため、溶媒キャストセルロースエステルは通常−C板のみを形成することが明らかである。これらのフィルムはまた、一軸延伸されて+A板を形成できる(初期のキャストしたままでのレタデーションは極めて低いと推測される)が、+C板または−A板をセルロースエステルで形成する能力は極めて制限されている。
【0019】
一軸板の他に、二軸配向したフィルムを用いることができる。二軸フィルムは、種々の手法,例えば単純に主たる方向における3つの屈折率を(これらの主たる軸の方向に沿って)挙げることで、定量化する。代替として、二軸フィルムは、しばしば、パラメータNzで定量化し、ここでNzは、
(5) Nz=(nx−nz)/(nx−ny
と定義される。
【0020】
Nzは、面内複屈折に対する有効な面外複屈折の指標であり、そして典型的には、フィルムを交差した偏光子の対についての補償フィルムとして使用する場合に、約0.5となるように選択する。Nz=1である場合、この二軸フィルムは+A板または−A板のいずれかに変換する。延伸条件を最適化することにより、特定のNz値の二軸フィルムをセルロース系+C板から得ることができる。
【0021】
補償フィルムが光漏失を適切に排除するように、これらは、特定の手法で、使用する液晶セルの種類に応じて組合せなければならない。例えば、Fundamentals of Liquid Crystal Displays(D.K.YangおよびS.T.Wu,Wiley,New Jersey,2006,pp208−237)は、IPS(面内スイッチング)、ねじれネマチック(TN)およびVA(垂直配列)型のセルのために一軸板の組合せ(二軸板もまた有効であるが数学的により複雑である)を用いて補償する種々の手法を記載する。IPSセルの場合において、+C板、続いて+A板が記載されている(+A、続いて+Cも記載されている)。交差した偏光子の間にサンドイッチされる場合、これらのフィルムは光漏失を有効に補正する。別の種類の構造は、+A板を−A板とともに使用するものであり、これは+A/+Cの組合せよりも対称な視野角性能を与える。米国特許第5,138,474号は、TNおよび超ねじれネマチック(STN)セルについて、+Aおよび−Aのフィルムを補償物とともに使用すること(ここで+Aフィルムはポリカーボネートの延伸により形成され、−A板は負の複屈折のポリスチレンの延伸により形成される)を記載する。
【0022】
VA補償フィルムは同様であるが、液晶層自体が+C構造(計算に入れなければならないもの)として作用する(セルが典型的により「中性」であるIPS系とは異なる)。最終結果は、+Aフィルムを−Cフィルムと併用することが必要であることである。この構造は、正の複屈折の物質のみで形成できる。しかし、3層補償物が+A、−Aおよび−Cのフィルムからなる場合に改善された性能が示される。これは繰り返すが負の複屈折の物質を−A層について必要とする。上記の構造は、可能な多くの組合せの僅かなものに過ぎず、そして正および負の複屈折の重要性を示す意味のみであることに留意されたい。他の補償物(例えば二軸フィルムおよびねじれフィルム)もまた、負の固有複屈折を有することによる利益を得ることができる可能性がある。
【0023】
溶媒キャストセルローストリアセテートフィルムについてのRth値は、約−20〜−70nmの範囲であるが、混合エステル系では、約−20〜−300nmの範囲(含まれるセルロースエステルの種類(これはその固有複屈折を決定する)、キャスティングベルト上に残す時間(これはフィルム内の残留応力を制御する)ならびに使用する偏光子および添加剤の種類に応じ)であることを我々は観測した。「混合エステル」により、我々は、1つより多いエステル型を有するセルロースエステル,例えばセルロースアセテートプロピオネート(CAP)またはセルロースアセテートブチレート(CAB)等を意味することを留意されたい。レタデーション添加剤または阻害剤を溶媒ドープに添加して、キャストしたままでのレタデーションの上昇または低下を助けることはかなり一般的である。−C板におけるレタデーションの量はまた、二軸延伸もしくは圧縮によって向上できる。他のフィルム(例えば+A板)を、後続の一軸延伸によって形成できる(−Cフィルムのレタデーションは初期には低いと推測される)。
【0024】
しかし注目すべきは、−Aおよび+Cの補償板が、セルロースエステルでは、これらの正の複屈折の性質で容易に形成できないことである。よって、他のより低コスト(または性能がより乏しい)の物質を代わりに使用しなければならない。
【0025】
近年、+C板挙動を有する市販のフィルムが、後述の重合プロセスで、ネマチック液晶コーティングを用いて製造されている。しかし、コーティングプロセスおよび液晶物質は、極めて高価であり、そして所望の特性を実現するために、フィルムをコートする追加のプロセスステップを必要とする。セルロースエステルおよび添加剤を基にした、高い+C挙動を示す市販のフィルムは存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
よって、当該分野では、液晶物質を用いず、そして追加のコーティングステップを必要としない、+C板挙動を示すフィルムに対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
発明の要約
驚くべきことに、低ヒドロキシルセルロースエステルおよび特定の可塑剤を溶媒キャストプロセスにおいて用いることによって高+C板フィルムを製造できることを見出した。−A板挙動を有するフィルムは、セルロース+C板フィルムを特定の延伸条件で一軸延伸することによって製造できる。所望のNz値を有するフィルムもまた、セルロース+C板フィルムを特定の延伸条件で二軸延伸することによって製造できる。+C板および−A板の両者を別個に用いて偏光子の光漏失を補償でき、またはIPSモード液晶ディスプレイにおいて一緒に用いることができる。
【0028】
一態様において、本発明は、
(a)(i)少なくとも1つのアセチル基および少なくとも1つの非アセチル基、
(ii)水酸基の置換度に対する非アセチル基の置換度の比10以上、ならびに
(iii)非アセチル置換度1.1〜1.75、
を有する混合セルロースエステル;ならびに
(b)キシリトールペンタアセテート(XPA)、キシリトールペンタプロピオネート(XPP)、アラビトールペンタプロピオネート(APP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、コハク酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル、およびアジピン酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル、から選択される可塑剤、
を含む組成物から形成されているフィルムを提供する。該フィルムは、フィルム厚み80μm以下および光波長633nmで測定したときの、厚み方向での光学レタデーション値(Rth)+50〜+130nmを有する、フィルムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本発明に従い、
(a)(i)少なくとも1つのアセチル基および少なくとも1つの非アセチル基、
(ii)水酸基の置換度に対する非アセチル基の置換度の比10以上、ならびに
(iii)非アセチル置換度1.1〜1.75、
を有する混合セルロースエステル;ならびに
(b)キシリトールペンタアセテート(XPA)、キシリトールペンタプロピオネート(XPP)、アラビトールペンタプロピオネート(APP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、コハク酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル、およびアジピン酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル、から選択される可塑剤、
を含む組成物から形成されているフィルムであって、
該フィルムが、フィルム厚み80μm以下および光波長633nmで測定したときの、厚み方向での光学レタデーション値(Rth)+50〜+130nmを有する、フィルムを提供する。
【0030】
一態様において、フィルムは、Rth値+50〜+115nmの範囲を有する。別の態様において、フィルムはRth値+70〜+115nmの範囲を有する。他のRth値の範囲もまた、これらの一般的な範囲内で、本発明の範囲内であることが意図される。
【0031】
本発明に係るフィルムの厚みは用途に応じて変えることができる。一般的に、LCD用途のために、例えば、フィルム厚みは40〜100μmの範囲であることができる。
【0032】
本発明のセルロースエステルは、少なくとも2つのエステル種,例えばアセチル、プロピオニル、および/またはブチリルを含有するが、長鎖基もまた使用できる。混合セルロースエステルは、水酸基の置換度に対する非アセチル基(たとえばプロピオニルおよび/またはブチリル)の置換度の比10以上、例えば10〜200を有する。混合セルロースエステルはまた、非アセチルエステル(例えばプロピオニル(Pr)基とブチリル(Bu)基との合計)置換度0.5超、例えば1.1〜1.75を有する。
【0033】
本発明の一態様において、アセチルは、主たるエステル形成性基である。別の態様において、混合セルロースエステルは、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)である。別の態様において、混合セルロースエステルは、セルロースアセテートブチレート(CAB)である。別の態様において、混合セルロースエステルはセルロースアセテートプロピオネートブチレート(CAPB)である。別の態様において、セルロースエステルは、CAP、CAB、およびCAPBから選択される2種以上のエステルのブレンド物である。別の態様において、セルロースエステルは、アセテート、および、4個より多い炭素原子を有する酸鎖の少なくとも1種のエステル残基(例えばペンタノイルまたはヘキサノイル等)の混合セルロースエステルである。このような高級酸鎖エステル残基としては、これらに限定するものではないが、例えば、5,6,7,8,9,10,11,および12個の炭素原子を有する酸鎖エステルを挙げることができる。これらとしては、12個より多い炭素原子を有する酸鎖エステルも挙げることができる。本発明の別の態様において、4個より多い炭素原子を有する酸鎖の少なくとも1つのエステル残基を含む混合セルロースアセテートエステルは、プロピオニル基および/またはブチリル基を含むこともできる。
【0034】
一態様において、本発明の混合セルロースエステルは、総置換度(DS)2.8〜3を有する(すなわち、ヒドロキシルDSは0〜0.2の間である)。別の態様において、総置換度は2.83〜2.98であり、そして更に別の態様において、総置換度は2.85〜2.95である。
【0035】
本発明に係る可塑剤は、キシリトールペンタアセテート(XPA)、キシリトールペンタプロピオネート(XPP)、アラビトールペンタプロピオネート(APP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、コハク酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル,例えばResoflex R−804、およびアジピン酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル,例えばResoflex R−296、から選択される。
【0036】
組成物中の可塑剤の量は、用いる特定の偏光子、用いるアニール条件、および所望のRthのレベルに応じて変えることができる。一般的には、可塑剤は、組成物中に、混合セルロースエステルおよび可塑剤の総質量基準で2.5〜25質量%の範囲で存在できる。可塑剤はまた、組成物中に、10〜25質量%の範囲の量で存在できる。可塑剤はまた、組成物中に、10〜20質量%の範囲の量で存在できる。可塑剤はまた、組成物中に、10〜15質量%の範囲の量で存在できる。
【0037】
可塑剤に加え、本発明の組成物は、添加剤,例えば安定剤、UV吸収剤、耐ブロッキング剤、スリップ剤、潤滑剤、ピニング剤、染料、顔料、レタデーション調整剤、艶消し剤、型離型剤等も含有できる。
【0038】
本発明の組成物は、種々の方法,例えば溶液キャストによってフィルムに形成できる。
【0039】
溶媒キャスト設備としては、キャスティングベルト、ロール、またはドラムが挙げられる。
【0040】
キャスト後、フィルムを乾燥およびアニール(強制換気オーブン内で10分間100℃にて)できる。100℃でのアニール後、フィルムを次いでより高温(例えば120℃、130℃、140℃、または150℃)にて最大20分間アニールできる。アニールプロセスの主な目的は、キャストプロセスによるフィルム中に残留する場合がある残存溶媒の拡散を増大させることである。しかし、アニールの追加の利益は、キャストプロセス中に生じた残留応力の緩和である。フィルムがキャスト基材に接着するに従って、溶媒が開放表面に蒸発し、フィルム内の内部応力が生じる。これらの応力は、材料特性、溶媒混合物、基材への接着、および溶媒蒸発速度に左右される。キャストの方法および速度は、より高い応力、より高い複屈折、およびより高いレタデーションを招来する可能性がある。これらのプロセス誘導性の応力を緩和することは、寸法安定性および低いレタデーション、+C型フィルムのために望ましい。
【0041】
これらのアニールの時間および温度は、用いるキャスト方法に応じて変えることができる。例えば、工場で、連続溶媒キャストラインをバッチプロセスの代わりに用いる場合、より低いアニール温度およびより短い時間を用いることができる。
【0042】
所望であれば、フィルムをMD方向に、例えば、従来のドラフティングまたは組合せの圧縮/ドローイング型のドラフターによって延伸できる。TDの延伸は、典型的にはテンタリングによって実施する。同様に、MDおよびTDの延伸の組合せを、所望であれば用いることができる。延伸は、通常、特定の複屈折を、使用(例えば補償フィルムにおいて)するフィルムに与えるように適用する。実際の延伸の条件および構成は、当該分野で周知である。例えば、複数方向でのフィルム延伸は、可能な設備に応じて同時または逐次であることができる。殆どの延伸操作は、延伸比1.1〜5X(1つ以上の方向で)を含む(しかしこれは物質によって変えることができる)。更に、殆どの延伸はまた、後アニーリングまたは「熱セット」ステップを物質の更なる状態調整のために含む。
【0043】
フィルムは、当該分野で周知の方法で後処理(例えばコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等)できる。フィルムはまた、一般的には鹸化して、後続のPVOH偏光層との良好な接着を確保する。
【0044】
液晶ディスプレイ用途のために、フィルムは、最終的に他のフィルムおよび構造と組合せて液晶デバイス全体を形成する。用いるプロセスの例としては、ラミネーションおよび/またはコーティングが挙げられる。これらの構造は、当業者に一般的に公知であり、そして本発明のフィルムを種々の形状(特定の製造元の仕様および液晶セルの種類に応じて)で使用できることが理解される。
【0045】
本発明を以下の実施例によって更に説明できるが、これらの例は例示の目的のみで含まれており、本発明の範囲の限定を意図しないことを理解すべきである。
【0046】

測定手順
混合セルロースエステルの置換度(DS)は、1HNMRによって、JEOL Model 600 NMR分光計(600MHzで操作)を用いて評価した。サンプル管サイズは5mm、サンプル温度は80℃であった。パルス遅延は5秒であり、64スキャンを各実験について得た。
【0047】
アセチルおよびプロピオニルの質量パーセントは、加水分解GC法によって評価した。この方法において、約1gのエステルを計量瓶中に計り入れ、そして減圧オーブン内で105℃にて少なくとも30分間乾燥させた。次いで、0.500(±0.001)gのサンプルを250mLのErlenmeyerフラスコ内に計り入れた。次いで、このフラスコに、9.16gイソ吉草酸(純度99%)の2000mLのピリジン中の溶液50mLを添加した。この混合物を還流まで約10分間加熱し、その後30mLのメタン酸カリウム水酸化物溶液を添加した。混合物を、次いで、還流で約10分間加熱した。次いで混合物を撹拌しながら20分間冷やし、その後、3mLの濃塩酸を添加した。混合物を5分間撹拌し、次いで5分間沈降させた。約3mLの溶液を、遠心分離管に移し、そして約5分間遠心分離した。溶液をGC(スプリット注入およびフレームイオン化検出器)によって、25M×0.53mm溶融シリカカラム(1ミクロンFFAP相を有する)で分析した。アシルの質量パーセントを下記式:
Ci=((Fi*Ai)/Fs*As))*R(100)
式中:Ci=I(アシル基)の濃度
Fi=成分についての相対応答因子
Fs=イソ吉草酸についての相対応答因子
Ai=成分Iの面積
As=イソ吉草酸の面積
R=(イソ吉草酸のグラム)/(サンプルのg)
に従って算出した。
【0048】
インヘレント粘度(IV)は、60/40(wt/wt)のフェノール/テトラクロロエタンの混合物中、濃度0.5g/100mlのレジンを用い、25℃にて評価した。
【0049】
フィルムの光学レタデーションReおよびRthは、Woollam偏光解析器M−2000Vを用いて波長633nmで測定した。
【0050】
混合セルロースエステル調製手順
本発明に係り、そして下記例において用いる混合セルロースエステルは、下記手順によって調製できる。
【0051】
金属ラボブレンダー内でセルロースを毛羽立てる(fluff)。毛羽立てたセルロースを以下の4つの前処理ステップのうち1つに従って処理する。
【0052】
前処理A:毛羽立てたセルロースを、酢酸とプロピオン酸との混合物中に浸す。
【0053】
前処理B:毛羽立てたセルロースを水に約1時間浸す。湿潤パルプを4回酢酸でろ過および洗浄して酢酸湿潤パルプを得る。
【0054】
前処理C:毛羽立てたセルロースを水に約1時間浸す。湿潤パルプを4回プロピオン酸でろ過および洗浄して、プロピオン酸湿潤パルプを得る。
【0055】
前処理D:毛羽立てたセルロースを水に約1時間浸す。湿潤パルプを3回酢酸で、および3回プロピオン酸で、ろ過および洗浄して、プロピオン湿潤パルプを得る。
【0056】
上記前処理の1つによる酸湿潤パルプを反応ケトル内に入れ、そして酢酸またはプロピオン酸を添加する。反応物を15℃に冷却し、そして10℃の無水酢酸、無水プロピオン酸、および硫酸の溶液を添加する。初期の発熱の後、反応混合物を約25℃で30分間保持し、次いで反応混合物を60℃に加熱する。混合物がドープ出しされ、ドープの適切な粘度が得られた時点で、酢酸および水の50〜60℃の溶液を添加する。混合物を30分間撹拌し、次いで、酢酸マグネシウム四水和物の、酢酸および水の溶液を添加する。反応混合物を下記に示す方法のうち1つによって沈殿させる。
【0057】
沈殿方法A:水を添加して応混合物を沈殿させる。得られるスラリーを水で1時間ろ過および洗浄し、次いで沈殿物を60℃の強制換気オーブン内で乾燥させて、セルロースアセテートプロピオネートを得る。
【0058】
沈殿方法B:10%酢酸を添加して反応混合物を沈殿させ、次いで水を添加して沈殿物を硬化させる。得られるスラリーを水で約4時間ろ過および洗浄する。沈殿物を60℃の強制換気オーブン内で乾燥させて、セルロースアセテートプロピオネートを得る。
【0059】
溶媒キャスト手順
フィルムの溶媒キャストは下記手順に従って行った。まず、24グラムの固形分(レジン+可塑剤)を176グラムの85/14/1質量%の、塩化メチレン/メタノール/n−ブタノールの溶媒混合物に添加した。24グラムの固形分は、10質量%、12.5質量%、15質量%、または20質量%の可塑剤を含有していた。混合物をシールし、ローラー上に置き、そして24時間混合して、均一なドープを得た。混合後、ドープをガラス板上にドクターブレードを用いてキャストして、所望の厚みを有するフィルムを得た。
【0060】
キャストはドラフト内で、50%に制御した相対湿度で行ったが、これはフィルムがキャストされた時点に応じて若干の変動が見出された。
【0061】
キャスト後、フィルムおよびガラスを、1時間、カバーパン下で乾燥させた(溶媒蒸発量を最小化するために)。この初期の乾燥の後、フィルムをガラスから剥がし、そして強制換気オーブン内で10分間100℃にてアニールした。100℃でのアニール後、フィルムをより高い温度(120℃、130℃、140℃、または150℃のいずれか)で20分間アニールした。
【0062】
例1
フィルムは下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.09,アセチルDS=1.46,プロピオニルDS=1.45)
可塑剤:Resoflex 804
可塑剤レベル:総固形分の10,12.5,15,および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0063】
種々のアニール温度および可塑剤(PZ)濃度での各フィルムの光学レタデーション値Rthを、表1に報告する。各フィルムの厚みは80μmであった。
【0064】
【表1】

【0065】
例2
フィルムは、下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.09,アセチルDS=1.46,プロピオニルDS=1.45)
可塑剤:キシリトールペンタアセテート(XPA)
可塑剤レベル:総固形分の10,12.5,15,および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0066】
種々のアニール温度および可塑剤(PZ)濃度での各フィルムの光学レタデーション値Rthを、表2に報告する。各フィルムの厚みは80μmであった。
【0067】
【表2】

【0068】
例3
フィルムは、下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.09,アセチルDS=1.46,プロピオニルDS=1.45)
可塑剤:キシリトールペンタプロピオネート(XPP)
可塑剤レベル:総固形分の10,12.5,15,および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0069】
種々のアニール温度および可塑剤(PZ)濃度での各フィルムの光学レタデーション値Rthを、表3に報告する。各フィルムの厚みは80μmであった。
【0070】
【表3】

【0071】
例4
フィルムは、下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.09,アセチルDS=1.46,プロピオニルDS=1.45)
可塑剤:アラビトールペンタプロピオネート(APP)
可塑剤レベル:総固形分の10,12.5,15,および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0072】
種々のアニール温度および可塑剤(PZ)濃度での各フィルムの光学レタデーション値Rthを、表4に報告する。各フィルムの厚みは80μmであった。
【0073】
【表4】

【0074】
例5
フィルムは、下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.06,アセチルDS=1.50,プロピオニルDS=1.44)
可塑剤:トリフェニルホスフェート(TPP)
可塑剤レベル:総固形分の10および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0075】
種々のアニール温度および可塑剤(PZ)濃度での各フィルムの光学レタデーション値Rthを、表5に報告する。各フィルムの厚みは80μmであった。
【0076】
【表5】

【0077】
例6
フィルムは、下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.06,アセチルDS=1.50,プロピオニルDS=1.44)
可塑剤:Resoflex 296
可塑剤レベル:総固形分の10および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0078】
種々のアニール温度および可塑剤(PZ)濃度での各フィルムの光学レタデーション値Rthを、表6に報告する。各フィルムの厚みは80μmであった。
【0079】
【表6】

【0080】
例7
全てのフィルムを130℃でアニールしたことを除いて、フィルムは、下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.09,アセチルDS=1.46,プロピオニルDS=1.45)
可塑剤:キシリトールペンタアセテート(XPA)
可塑剤レベル:総固形分の10,12.5,15および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0081】
種々の厚みおよび可塑剤(PZ)濃度での各フィルムの光学レタデーション値Rthを、表7に報告する。
【0082】
【表7】

【0083】
例8
フィルムは、下記の明細で、上記の溶媒キャスト手順を用いて調製した。
総固形分:24g
セルロースエステル:低ヒドロキシルCAP
(ヒドロキシルDS=0.09,アセチルDS=1.46,プロピオニルDS=1.45)
可塑剤:XPAおよびXPP
可塑剤レベル:総固形分の15および20wt%
総溶媒:176g
塩化メチレン:149.6g
メタノール:24.64g
n−ブタノール:1.76g
【0084】
これらのフィルムをキャストした後、これらを165℃で種々の延伸比にて一軸延伸した。延伸されたフィルムの殆どは二軸Nzフィルムの特性を有する。1組のフィルムは−A板に近い光学特性、すなわちRth=−Re/2を有する。これらの延伸フィルムのRe、Rth、および厚みを測定した。結果を表8に示す。
【0085】
【表8】

【0086】
本発明を、その好ましい態様を特に参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の精神および範囲の中で変形および変更をなすことが可能であることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)少なくとも1つのアセチル基および少なくとも1つの非アセチル基、
(ii)水酸基の置換度に対する非アセチル基の置換度の比10以上、ならびに
(iii)非アセチル置換度1.1〜1.75、
を有する混合セルロースエステル;ならびに
(b)キシリトールペンタアセテート(XPA)、キシリトールペンタプロピオネート(XPP)、アラビトールペンタプロピオネート(APP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、コハク酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル、およびアジピン酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステル、から選択される可塑剤、
を含む組成物から形成されているフィルムであって、
該フィルムが、フィルム厚み80μm以下および光波長633nmで測定したときの、厚み方向での光学レタデーション値(Rth)+50〜+130nmを有する、フィルム。
【請求項2】
可塑剤がXPAである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
可塑剤がXPPである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
可塑剤がAPPである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
可塑剤がTPPである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
可塑剤が、コハク酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステルである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
可塑剤が、アジピン酸残基とジエチレングリコール残基とを含むポリエステルである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
th値が+70〜+115nmの範囲である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】
混合セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネートである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項10】
延伸されている、請求項1に記載のフィルム。
【請求項11】
−A板光学特性を有する、請求項9に記載のフィルム。
【請求項12】
溶液キャストされている、請求項1に記載のフィルム。

【公表番号】特表2012−519219(P2012−519219A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552021(P2011−552021)
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/000372
【国際公開番号】WO2010/098816
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】