説明

1液型湿気硬化性樹脂組成物

【課題】貯蔵安定性に優れ、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できる1液型湿気硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)とを含有し、前記ケチミン化合物(B)を、(前記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1液型湿気硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1液型または2液型のポリウレタン系硬化性樹脂組成物は数多く知られている。
1液型としては、例えば、ウレタンプレポリマーと、ケチミン、オキサゾリジン等の潜在性硬化剤とを含有する組成物が挙げられる。この組成物は、大気中の水分により潜在性硬化剤が加水分解して再生されたアミンがウレタンプレポリマーと反応して硬化するものであり無発泡性であるが、貯蔵安定性が悪く、また、適度な可使時間が確保できない場合があるという問題があった。
同様に、ウレタンプレポリマーと、アミン系、酸または酸無水物系等の硬化剤とを使用時に混合する2液型の組成物においても、高温多湿下では可使時間が十分でないという問題があった。
【0003】
これらの問題に対し、本出願人により、特定のウレタンプレポリマーを用いる種々の樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2等参照。)。
具体的には、特許文献1には、「(A)分子内の全てのイソシアネート(NCO)基に第二級炭素または第三級炭素が結合した構造のイソシアネート化合物と、(B)ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるケチミン(C=N)結合を有し、該ケチミン炭素または窒素の少なくとも一方のα位に、分岐炭素または環員炭素が結合した構造のケチミンと、(C)ウレタン化合物で表面処理された炭酸カルシウムとを含有する1液湿気硬化性樹脂組成物。」が記載されている。
また、特許文献2には、「2級または3級脂肪族炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの該イソシアネート基を、窒素原子のα位炭素原子に置換基を有する2級アミンでブロックしてなるブロックウレタンと、アミン系潜在性硬化剤とを含有する1液硬化性樹脂組成物。」が記載されている。
【0004】
ところで、ケチミン化合物は、アミンの第一級アミノ基をケトンでブロックして得られる、ケチミン基(C=N)を有する化合物である。ケチミン化合物は、大気中に存在する水分によりケチミン基が加水分解されて第一級アミノ基を生成する。このケチミン基の加水分解速度は、ケチミン化合物の原料であるケトンのカルボニル基周辺の立体障害により変化することが知られている。
一方、従来のケチミン化合物は、ポリアミンの全ての第一級アミノ基を1種類のケトンでブロックしたものであった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−81307号公報
【特許文献2】特開2003−48949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1種類のケトンでブロックした従来のケチミン化合物は、可使時間が短すぎたり、可使時間が長くても完全に硬化するまでに時間がかかりすぎるという問題があった。また、温度による可使時間の変化が大きいため、常温下では可使時間が適切であっても、高温下では可使時間が短すぎるという問題があった。
【0007】
また、本発明者らは、2種類以上のケチミン化合物を用いることによって適切な可使時間に調整する方法を提案したが、この方法では可使時間を確保できても十分な硬化性が得られない場合がある。
【0008】
したがって、ケチミン化合物を含む1液型湿気硬化性樹脂組成物においては、十分な可使時間と硬化性という相反する特性を両立することは依然として困難であり、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できるものは存在しなかった。
【0009】
そこで、本発明は、貯蔵安定性に優れ、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できる1液型湿気硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、特定の構造を有するウレタンプレポリマーと、特定のケチミン化合物とを特定量含有する組成物が、貯蔵安定性に優れ、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できる1液型湿気硬化性樹脂組成物になることを見出した。
また、本発明者は、特定の構造を有するウレタンプレポリマーと、エポキシ樹脂と、特定のケチミン化合物とを特定量含有する組成物が、貯蔵安定性に優れ、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できる1液型湿気硬化性樹脂組成物になることを見出した。
本発明者は、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、下記(1)〜(12)を提供する。
(1)分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)とを含有し、
前記ケチミン化合物(B)を、(前記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0012】
(2)分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
エポキシ樹脂(C)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)とを含有し、
前記エポキシ樹脂(C)を、前記ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部含有し、
前記ケチミン化合物(B)を、(前記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基および前記エポキシ樹脂(C)中のエポキシ基の合計)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0013】
(3)分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基の加水分解速度が同一であるケチミン化合物(D)とを含有し、
前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)を、(前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)中のケチミン基の合計)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0014】
(4)分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)と、
エポキシ樹脂(C)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基の加水分解速度が同一であるケチミン化合物(D)とを含有し、
前記エポキシ樹脂(C)を、前記ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部含有し、
前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)を、(前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)中のケチミン基の合計)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基および前記エポキシ樹脂(C)中のエポキシ基の合計)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0015】
(5)前記ケチミン化合物(D)が、1種類のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得られるケチミン化合物である上記(3)または(4)に記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0016】
(6)前記ケチミン化合物(B)が、2種以上のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得られるケチミン化合物である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0017】
(7)前記ケチミン化合物(B)が、メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンおよびメチルイソブチルケトンからなる群から選択される少なくとも2種のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得られるケチミン化合物である上記(6)に記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0018】
(8)前記ポリアミンが、第一級アミノ基を2個有するジアミンである上記(5)〜(7)のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0019】
(9)前記ジアミンが、ノルボルナンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンまたは1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンである上記(8)に記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0020】
(10)前記ケチミン化合物(B)が、ケチミン基を2個有するケチミン化合物であって、前記2個のケチミン基の加水分解速度が異なるケチミン化合物である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のケチミン化合物。
【0021】
(11)前記ケチミン化合物(B)が、下記式(1)〜(12)のいずれかで表されるケチミン化合物である上記(1)〜(10)のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【0022】
【化2】

【0023】
(12)前記ウレタンプレポリマー(A)が、トリメチルキシリレンジイソシアネートと、ポリオールとを反応させて得られるウレタンプレポリマーである上記(1)〜(11)のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明の1液型湿気硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れ、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の1液型湿気硬化性樹脂組成物(以下「本発明の組成物」という。)は、分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、ケチミン基を2個以上有し、上記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)とを特定量含有する1液型湿気硬化性樹脂組成物である。
本発明の組成物は、更にエポキシ樹脂(C)を特定量含有しているのが接着性を向上させる観点から好ましい態様の1つである。
また、本発明の組成物は、更にケチミン基を2個以上有し、上記2個以上のケチミン基の加水分解速度が同一であるケチミン化合物(D)を含有しているのが、可使時間および硬化性の調整の観点から好ましい態様の1つである。
次に、本発明の湿気硬化性樹脂組成物に用いるウレタンプレポリマー(A)、ケチミン化合物(B)および(D)ならびにエポキシ樹脂(C)について詳述する。
【0026】
<ウレタンプレポリマー(A)>
本発明の組成物に用いられるウレタンプレポリマー(A)は、ポリオールと過剰のポリイソシアネート(即ち、ヒドロキシ(OH)基に対して過剰のイソシアネート(NCO)基)を反応させて得られる反応生成物のうち、下記式で表されるように、分子内の全てのNCO基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するものである。
このような構造を有することにより、得られる本発明の組成物の貯蔵安定性が良好となり、高温多湿下においても十分な可使時間を確保することができ、また、硬化後の耐熱性および耐水性も良好となる。
【0027】
【化3】

【0028】
上記式中、pは2以上の整数を表し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、O、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい有機基であり、R2は水素原子であってもよい。また、複数のR1およびR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。更に、R2が水素原子である場合においては、R1とR2の一部とが結合して環を形成していてもよい。
【0029】
ここで、上記有機基としては、具体的には、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基等の炭化水素基;O、NおよびSからなる群より選ばれるヘテロ原子を少なくとも1つ有する基(例えば、エーテル、カルボニル、アミド、尿素基(カルバミド基)、ウレタン結合等)を含む有機基等が挙げられ、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基が挙げられる。
【0030】
このようなウレタンプレポリマー(A)を生成するポリイソシアネートとしては、具体的には、例えば、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、H12MDI(水添MDI)、H6TDI(水添TDI)等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でもTMXDIが貯蔵安定性をより向上できる点から好ましい。
【0031】
一方、このようなウレタンプレポリマー(A)を生成するポリオールは、OH基を2個以上有する化合物であれば、その分子量および骨格等は特に限定されず、その具体例としては、低分子多価アルコール類、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、その他のポリオール、およびこれらの混合ポリオール等が挙げられる。
【0032】
低分子多価アルコール類としては、具体的には、例えば、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール、(1,3−または1,4−)ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,5−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール;ソルビトール等の糖類;等が挙げられる。
【0033】
次に、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオールとしては、通常、上記低分子多価アルコール類から導かれるものが用いられるが、本発明においては、更に以下に示す芳香族ジオール類、アミン類、アルカノールアミン類から導かれるものも好適に用いることができる。
ここで、芳香族ジオール類としては、具体的には、例えば、レゾルシン(m−ジヒドロキシベンゼン)、キシリレングリコール、1,4−ベンゼンジメタノール、スチレングリコール、4,4′−ジヒドロキシエチルフェノール;下記に示すようなビスフェノールA構造(4,4′−ジヒドロキシフェニルプロパン)、ビスフェノールF構造(4,4′−ジヒドロキシフェニルメタン)、臭素化ビスフェノールA構造、水添ビスフェノールA構造、ビスフェノールS構造、ビスフェノールAF構造のビスフェノール骨格を有するもの;等が挙げられる。
【0034】
【化4】

【0035】
また、アミン類としては、具体的には、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられ、アルカノールアミン類としては、具体的には、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
【0036】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、上記低分子多価アルコール類、上記芳香族ジオール類、上記アミン類および上記アルカノールアミン類として例示した化合物から選ばれる少なくとも1種に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド(テトラメチレンオキサイド)、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイドおよびスチレンオキサイド等から選ばれる少なくとも1種を付加させて得られるポリオール等が挙げられる。
このようなポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリプロピレントリオール、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、ポリテトラエチレングリコール、ソルビトール系ポリオール等が挙げられる。
【0037】
同様に、ポリエステルポリオールとしては、例えば、上記低分子多価アルコール類、上記芳香族ジオール類、上記アミン類および上記アルカノールアミン類のいずれかと、多塩基性カルボン酸との縮合物(縮合系ポリエステルポリオール);ラクトン系ポリオール;ポリカーボネートポリオール;等が挙げられる。
ここで、上記縮合系ポリエステルポリオールを形成する多塩基性カルボン酸としては、具体的には、例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、他の低分子カルボン酸、オリゴマー酸、ヒマシ油、ヒマシ油とエチレングリコール(もしくはプロピレングリコール)との反応生成物等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
また、上記ラクトン系ポリオールとしては、具体的には、例えば、ε−カプロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、ε−メチル−ε−カプロラクトン等のラクトンを適当な重合開始剤で開環重合させたもので両末端に水酸基を有するものが挙げられる。
【0038】
その他のポリオールとしては、具体的には、例えば、アクリルポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオール等の炭素−炭素結合を主鎖骨格に有するポリマーポリオール;等が挙げられる。
【0039】
本発明においては、以上で例示した種々のポリオールを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の組成物に用いられるウレタンプレポリマー(A)は、上述したように、ポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させることによって得られるもののうち、分子内の全てのNCO基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するものであり、その具体例としては、上記で例示した各種ポリオールと、各種ポリイソシアネートとの組み合わせによるものが挙げられる。
【0041】
本発明においては、ウレタンプレポリマー(A)の製法は特に限定されず、その具体例としては、反応温度を30〜120℃、好ましくは50〜100℃程度とし、常圧下でポリオールとポリイソシアネートとを反応させてウレタンプレポリマーを得る方法等が挙げられる。また、有機スズ化合物、有機ビスマス化合物のようなウレタン化触媒を用いることができる。
【0042】
また、本発明においては、ウレタンプレポリマー(A)の製造において、ポリオールのOH基に対するポリイソシアネートのNCO基の当量比(NCO/OH)は、1.2〜5.0であるのが好ましく、1.5〜3.0であるのがより好ましい。NCO/OHがこの範囲にあると、ポリイソシアネートの残存による発泡や、分子鎖延長に起因するウレタンプレポリマーの粘度増加がなく、本発明の組成物の硬化後の物性が良好となる。
【0043】
<ケチミン化合物(B)>
上記ケチミン化合物(B)は、ケチミン基を2個以上有するケチミン化合物であって、上記2個以上のケチミン基が、加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物である。即ち、ケチミン化合物(B)は、ケチミン基を2個以上有しており、その中に加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基が含まれていればよい。ケチミン化合物(B)としては、例えば、ケチミン基を2個有するケチミン化合物であって、これら2個のケチミン基の加水分解速度が異なっているものが可使時間と硬化性のバランスに優れる点から好適に挙げられる。
【0044】
ケチミン化合物(B)が有する加水分解速度の異なる種類のケチミン基の間では、加水分解されて第一級アミノ基を生成するまでに要する時間に差が生じる。第一級アミノ基の生成に時間差があることによって、十分な可使時間を確保しつつ、可使時間経過後には速やかに硬化させることが可能になり、更に、温度による可使時間の変化が小さくなり、常温下だけでなく高温下でも十分な可使時間を確保できると考えられる。
【0045】
ケチミン化合物(B)は、例えば、2種以上のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得ることができる。2種以上のケトンでブロックすることによって、異なる加水分解速度をもったケチミン基が得られる。
【0046】
上記ケトンとしては、例えば、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジエチルケトン(DEK)、エチルブチルケトン(EBK)、エチルプロピルケトン(EPK)、ジプロピルケトン(DPK)等が挙げられる。これらのケトンから2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
ケトンの組み合わせは、特に限定されないが、好ましい組み合わせとしては、MIPKと、DIBK、MIBK、DEK、EBK、EPKおよびDPKのうちの1種との組み合わせ;DIBKと、MIBK、DEK、EBK、EPKおよびDPKのうちの1種との組み合わせ;MIBKと、DEK、EBK、EPKおよびDPKのうちの1種との組み合わせ;DEKと、EBK、EPKおよびDPKのうちの1種との組み合わせ;EBKと、EPKまたはDPKとの組み合わせ;が挙げられる。
特に、MIPK、DIBKおよびMIBKからなる群から選択される少なくとも2種のケトンを用いるのが、可使時間と硬化性のバランスに優れる点からより好ましい。
【0048】
上記ポリアミンは、第一級アミノ基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、1,2−ジアミノプロパン、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、サンテクノケミカル社製のジェファーミンEDR148に代表されるポリエーテル骨格のジアミン、デュポン・ジャパン社製のMPMD等の脂肪族ポリアミン;イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1−シクロヘキシルアミノ−3−アミノプロパン、3−アミノメチル−3,3,5−トリメチル−シクロヘキシルアミン、三井化学社製のNBDAに代表されるノルボルナン骨格のジアミン;メタキシリレンジアミン:ポリアミドの分子末端にアミノ基を有するポリアミドアミン;等が挙げられる。
上記ポリアミンとしては、ジアミンが好ましい。特に、ノルボルナンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンが、貯蔵安定性と硬化性のバランスに優れるという点からより好ましい。
【0049】
ケチミン化合物(B)としては、具体的には、下記式(1)〜(12)のいずれかで表されるケチミン化合物が好適に挙げられる。
【0050】
【化5】

【0051】
ケチミン化合物(B)の製造は、特に限定されないが、例えば、2種以上のケトンを用いる点以外は公知のケチミン化合物の製造方法と同様に行うことができる。
ケチミン化合物(B)の製造方法としては、具体的には、例えば、ポリアミンと、2種以上のケトンと、トルエンと、酢酸をフラスコに入れ、生成する水を共沸により除きながら反応を行った後、定法(例えば、高速液体クロマトグラフィ、減圧下で3〜5回の分留等)により単離して、ケチミン化合物(B)を得る方法(一段法)が、工程が少なくコスト面で有利な点から好適に挙げられる。また、ポリアミンと、1種類のケトンと、トルエンと、酢酸をフラスコに入れ、生成する水を共沸により除きながら反応を行い、ポリアミンの半量をケチミン化させた後、別の種類のケトンを加えて、生成する水を共沸により除きながら反応を行い、上記ポリアミンの残りの半量をケチミン化させた後、上記と同様に単離して、ケチミン化合物(B)を得る方法(二段法)が、収率が高い点から好適に挙げられる。
本発明のケチミン化合物は、単離せずに混合物のまま樹脂の潜在性硬化剤として使用することもできる。
【0052】
本発明の組成物は、上述したケチミン化合物(B)を含有するため、貯蔵安定性に優れ、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できる1液型湿気硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0053】
本発明の組成物は、ケチミン化合物(B)を、(前記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基)で表される当量比が0.5〜2、好ましくは0.7〜1.5となるように含有する。
また、本発明の組成物が後述するエポキシ樹脂(C)を含有する場合には、本発明の組成物は、ケチミン化合物(B)を、(前記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基および前記エポキシ樹脂(C)中のエポキシ基の合計)で表される当量比が0.5〜2、好ましくは0.7〜1.5となるように含有する。
【0054】
<ケチミン化合物(D)>
本発明の組成物は、更に、ケチミン基を2個以上有し、上記2個以上のケチミン基の加水分解速度が同一であるケチミン化合物(D)を含有するのが好ましい態様の1つである。上述したケチミン化合物(B)とケチミン化合物(D)とを併用することにより、可使時間と硬化性とをより適切な範囲に調整することができる。
ケチミン化合物(D)としては、例えば、1種類のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得られるケチミン化合物が挙げられる。
【0055】
ケチミン化合物(D)の原料であるケトンは、特に限定されず、例えば、ケチミン化合物(B)で挙げたものを用いることができる。
【0056】
また、ケチミン化合物(D)の原料であるポリアミンは、特に限定されず、例えば、ケチミン化合物(B)の説明で挙げたものを用いることができる。
【0057】
ケチミン化合物(D)の製造は、特に限定されず、公知のケチミン化合物の製造方法と同様に行うことができる。
具体的には、例えば、ポリアミンと、1種類のケトンと、トルエンと、酢酸をフラスコに入れ、生成する水を共沸により除きながら反応を行った後、定法(例えば、高速液体クロマトグラフィ等)により単離して、ケチミン化合物(D)を得ることができる。
ケチミン化合物(D)は、単離せずに混合物のまま使用することもできる。
【0058】
本発明の組成物は、ケチミン化合物(D)を含有する場合、ケチミン化合物(B)およびケチミン化合物(D)を、(ケチミン化合物(B)およびケチミン化合物(D)中のケチミン基の合計)/(ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基)で表される当量比が0.5〜2、好ましくは0.7〜1.5となるように含有する。
【0059】
また、本発明の組成物が後述するエポキシ樹脂(C)を含有する場合には、本発明の組成物は、ケチミン化合物(B)およびケチミン化合物(D)を、(ケチミン化合物(B)およびケチミン化合物(D)中のケチミン基の合計)/(ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基およびエポキシ樹脂(C)中のエポキシ基の合計)で表される当量比が0.5〜2、好ましくは0.7〜1.5となるように含有する。
【0060】
また、本発明の組成物は、上記ケチミン化合物(D)を含有する場合、上記ケチミン化合物(B)および上記ケチミン化合物(D)の含有比率は特に限定されないが、(上記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(上記ケチミン化合物(D)中のケチミン基)で表される当量比が0.1以上となるのが好ましく、0.4以上となるのがより好ましい。この範囲であると可使時間と硬化性のバランスに優れる。
【0061】
<エポキシ樹脂(C)>
本発明の組成物は、更に、エポキシ樹脂(C)を含有するのが接着性に優れる点から好ましい態様の1つである。
エポキシ樹脂(C)は、1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物からなる樹脂であれば特に限定されず、一般的に、エポキシ当量が90〜2000のものである。
このようなエポキシ樹脂(C)としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、具体的には、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物や、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、更にナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型、三官能型、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
下記式で表されるN,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;
【0062】
【化6】

【0063】
下記式で表されるトリシクロ〔5,2,1,02,6〕デカン環を有するエポキシ化合物、具体的には、例えば、ジシクロペンタジエンとメタクレゾール等のクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる公知の製造方法によって得ることができるエポキシ化合物;
【0064】
【化7】


式中、mは、0〜15の整数を表す。
【0065】
脂環型エポキシ樹脂;東レチオコール社製のフレップ10に代表されるエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂;ポリブタジエン、液状ポリアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
上記で例示した各種エポキシ樹脂のうち、骨格に芳香環を有するエポキシ樹脂を用いるのが、得られる組成物の物性(例えば、引張強度等)および接着性がより良好となる点から好ましい。
また、このようなエポキシ樹脂(C)としては、ADEKA社製のEP4100Eや、ジャパンエポキシレジン社製のエピコート828、エピコート807、エピコート806、エピコート154、エピコート630等の市販品を用いることができる。
【0067】
本発明の組成物は、エポキシ樹脂(C)を含有する場合、エポキシ樹脂(C)を、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部、好ましくは1〜90質量部含有するものである。エポキシ樹脂(C)の含有量がこの範囲であると、得られる本発明の組成物がウレタンプレポリマー(A)に由来する柔軟性を有しながら、エポキシ樹脂(C)に由来する接着性および引張強度を付与できるため好ましい。
【0068】
本発明の組成物は、作業性調整の観点から、上記ケチミン化合物の加水分解触媒を含有するのが好ましい態様の1つである。
本発明の組成物に所望により用いられる加水分解触媒は、特に限定されず、その具体例としては、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸等のカルボン酸類;ポリリン酸、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート等のリン酸類;ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート等の有機金属類;等が挙げられる。
【0069】
本発明においては、このような加水分解触媒の含有量は、上記ケチミン化合物(B)および所望により添加される上記ケチミン化合物(D)の合計100質量部に対して0.01〜20質量部であるのが好ましく、0.05〜10質量部であるのがより好ましい。
【0070】
本発明の組成物は、シランカップリング剤を含有するのが好ましい態様の1つである。
本発明の組成物に所望により用いられるシランカップリング剤は、特に限定されず、その具体例としては、ビニルシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、イソシアネートシラン、ケチミンシランもしくはこれらの混合物もしくは反応物、または、これらとポリイソシアネートとの反応により得られる化合物等が挙げられる。
【0071】
ビニルシランとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリス−(2−メトキシエトキシ)ビニルシラン等が挙げられる。
エポキシシランとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
メタクリルシランとしては、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
イソシアネートシランとしては、例えば、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
ケチミンシランとしては、例えば、ケチミン化プロピルトリメトキシシラン、ケチミン化プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0072】
本発明においては、このようなシランカップリング剤の含有量は、上記ウレタンプレポリマー(A)および所望により添加される上記エポキシ樹脂(C)の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましい。シランカップリン剤の含有量がこの範囲であれば、本発明の組成物をシーリング材として用いた際の接着性がより良好となる点から好ましい。
【0073】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記各種成分以外に、必要に応じて、各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、安定剤、分散剤、溶剤が挙げられる。
【0074】
充填剤としては、例えば、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;けいそう土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、特開平9−263708号公報に記載の表面処理炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;カーボンブラック等の有機または無機充填剤;これらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル処理物、脂肪酸エステルウレタン化合物処理物が挙げられる。
【0075】
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0076】
難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
接着性付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。
安定剤としては、例えば、脂肪酸シリルエステル、脂肪酸アミドトリメチルシリル化合物等が挙げられる。
上記の各添加剤は適宜、組み合わせて用いることができる。
【0077】
上記のような各成分から本発明の組成物を製造する方法は、特に限定されないが、上述したウレタンプレポリマー(A)およびケチミン化合物(B)ならびに所望により添加するエポキシ樹脂(C)、ケチミン化合物(D)および各種添加剤を、ロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機等により混合する方法が挙げられる。
【0078】
本発明の組成物は、湿気硬化型であり、1液型の組成物として使用することができる。
また、本発明の組成物は、湿気にさらすと、ケチミン化合物の加水分解により生起するアミン化合物により硬化反応が進行するが、適宜水分を供給して、硬化反応を進行させることもできる。
【0079】
本発明の組成物は、以上のような特性を有することから、外壁のパネルとパネルまたはタイルとの間や窓のサッシとガラスの間等に使用される建築用シーリング材、コンクリートやモルタル中の構造用接着剤、ひび割れ注入材等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.ケチミン化合物の合成
(合成例5)
ヘキサメチレンジアミン(試薬、和光純薬工業社製)580g、メチルイソプロピルケトン(試薬、和光純薬工業社製)645g、ジイソブチルケトン(試薬、和光純薬工業社製)1065g、トルエン(試薬、和光純薬工業社製、以下同じ)710g、および酢酸(試薬、和光純薬工業社製、以下同じ)1.65gをフラスコに入れ、生成する水を共沸により除きながら120℃で15時間反応を続けた。次に、150℃、5mmHg下で減圧蒸留をしてトルエン、残留ケトン等を除いた。更に、5mmHg下で170℃まで昇温した。トルエン等を含めた初留が1600gを上回ったところから温度を190℃とし、目的の化合物の収集を行った。更にこの操作を4回繰り返し目的の化合物の精製を行い、最終的にケチミンEを200g得た。精製の目安は、初留は仕込み質量の10%、本留80%、残留分10%とした。
得られたケチミンEについて、ガスクロマトグラフ質量分析計(QP2010、島津製作所社製、以下同じ)を用いて質量分析を行い、上記式(4)で表される化合物が生成されたことを確認した。図1は、式(4)で表される化合物の質量スペクトルを示す図である。
【0081】
(合成例1、2、6、9、10、13および14)
ポリアミンおよびケトンとして、下記第1表に示すポリアミン、ケトン1およびケトン2を合成例1と同じモル比で使用した以外は上述した合成例5と同様の方法により、ケチミンA、B、F、I、J、MおよびNを合成し、上記式(1)、(3)、(6)、(7)、(9)、(10)および(12)のいずれかで表される化合物の生成を確認した。
【0082】
(合成例3、4、7、8、11、12、15および16)
第1表に示すポリアミンと、ケトン1とをモル比(ポリアミン/ケトン1)が1/2となるように、共沸溶媒として用いるトルエンとともにフラスコに添加し、生成する水を共沸により除きながら120℃で8時間反応させて、ケチミンC、D、G、H、K、L、OおよびPを合成した。得られたケチミンについて、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて質量分析を行い、下記式(13)〜(20)のいずれかで表される化合物が生成されたことを確認した。
【0083】
【化8】

【0084】
【表1】

【0085】
上記式第1表中の各成分は下記のとおりである。
・MIPK:メチルイソプロピルケトン、試薬、和光純薬工業社製
・DIBK:ジイソブチルケトン、試薬、和光純薬工業社製
・MIBK:メチルイソブチルケトン、試薬、和光純薬工業社製
・NBDA:ノルボルナンジアミン、試薬、三井化学社製
・HMDA:ヘキサメチレンジアミン、試薬、和光純薬工業社製
・MXDA:メタキシリレンジアミン、試薬、和光純薬工業社製
・1,3−BAC:1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、試薬、和光純薬工業社製
【0086】
2.1液型湿気硬化性樹脂組成物の調製と評価
(実施例1〜48および比較例1〜32)
下記第2表に示す各成分を、第2表に示す割合(質量部)で、撹拌機を用いて混合し、第2表に示される各組成物を得た。
得られた各組成物について、下記に示す方法により、可使時間、貯蔵安定性および硬化性を評価した。
結果を第2表に示す。なお、第2表中、ケチミンの量は当量で示されている。
【0087】
(可使時間)
調製直後の各組成物を20℃、55%RHまたは40℃、55%RH環境下に置いた後、組成物表面にポリエチレンフィルムを接触させて、組成物の付着がなくなるまでの時間を計測した。
なお、表1中の表記は、例えば「3h30」は可使時間が3時間30分であったことを示す。また、「>12h」は、可使時間が12時間超であったことを示す。
【0088】
(貯蔵安定性)
調製直後の各組成物を密閉容器に入れ、20℃で1日放置したもの(貯蔵前)と、調製直後の各組成物を密閉容器に入れ、40℃で10日間放置した後、更に、20℃で1日放置したもの(貯蔵後)について、粘度の比(増粘率)を調べた。
増粘率(%)は、上記の各組成物について、20℃、55%RHの恒温室でBS型粘度計(No.7ローター)を用いて、回転速度1rpmで粘度(Pa・s)を計測し、下記式より求めた。
【0089】
増粘率(%)=[(貯蔵後の粘度)/(貯蔵前の粘度)]×100
【0090】
(硬化性)
2枚のモルタル板(50mm×50mm×10mm)を準備し、組成物を一方のモルタル板の表面に2mm厚で塗布した。次に、他方のモルタル板を貼り合わせて、側面にはみ出た組成物をかき取った後、20℃、55%RH環境下で7日間または20℃、55%RH環境下で28日間養生して試験片を作製した。
20℃、55%RHの恒温室にて、得られた試験片について、引張試験機(AGS−10kNG、島津製作所社製)を用いて引張速度5mm/分で剥離試験を行い、接着強度を測定した。
また、測定された接着強度から下記式により「塗布7日後の強度発現率(%)」を算出した。
【0091】
塗布7日後の強度発現率(%)=[(塗布7日後の接着強度)/(塗布28日後の接着強度)]×100
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
上記第2表中の各成分は下記のとおりである。
・TMXDIプレポリマー:数平均分子量3,000の3官能PPG(エクセノール3030、旭硝子社製)と、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI、日本サイテックインダストリーズ社製)とを、NCO/OH=2.0となる当量比で混合し、スズ触媒の存在下、窒素気流中、80℃で8時間反応させて得られたウレタンプレポリマー(イソシアネート基含有量:3.4質量%)
・TDIプレポリマー:数平均分子量3,000の3官能PPG(エクセノール3030、旭硝子社製)と、トリレンジイソシアネート(TDI、三井化学ポリウレタン社製)とを、NCO/OH=2.0となる当量比で混合し、スズ触媒の存在下、窒素気流中、80℃で8時間反応させて得られたウレタンプレポリマー(イソシアネート基含有量:3.6質量%)
・エポキシ樹脂:EP−4100E、ADEKA社製
・フィラー:炭酸カルシウム、シーレッツ200、丸尾カルシウム社製
・シランカップリング剤:KBM−403、信越化学工業社製
【0101】
上記第2表に示す結果から明らかなように、実施例1〜48は、貯蔵安定性に優れ、常温および高温で十分な可使時間を確保でき、可使時間経過後には速やかに硬化できる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、式(4)で表される化合物の質量スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)とを含有し、
前記ケチミン化合物(B)を、(前記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
エポキシ樹脂(C)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)とを含有し、
前記エポキシ樹脂(C)を、前記ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部含有し、
前記ケチミン化合物(B)を、(前記ケチミン化合物(B)中のケチミン基)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基および前記エポキシ樹脂(C)中のエポキシ基の合計)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基の加水分解速度が同一であるケチミン化合物(D)とを含有し、
前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)を、(前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)中のケチミン基の合計)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
分子内の全てのイソシアネート基が第二級炭素または芳香環を含まない第三級炭素に結合した構造を有するウレタンプレポリマー(A)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基が加水分解速度の異なる2種以上のケチミン基を含むケチミン化合物(B)と、
エポキシ樹脂(C)と、
ケチミン基を2個以上有し、前記2個以上のケチミン基の加水分解速度が同一であるケチミン化合物(D)とを含有し、
前記エポキシ樹脂(C)を、前記ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して0.5〜100質量部含有し、
前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)を、(前記ケチミン化合物(B)および前記ケチミン化合物(D)中のケチミン基の合計)/(前記ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基および前記エポキシ樹脂(C)中のエポキシ基の合計)で表される当量比が0.5〜2となるように含有する、1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ケチミン化合物(D)が、1種類のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得られるケチミン化合物である請求項3または4に記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ケチミン化合物(B)が、2種以上のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得られるケチミン化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ケチミン化合物(B)が、メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトンおよびメチルイソブチルケトンからなる群から選択される少なくとも2種のケトンと、第一級アミノ基を2個以上有するポリアミンとを反応させて得られるケチミン化合物である請求項6に記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミンが、第一級アミノ基を2個有するジアミンである請求項5〜7のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記ジアミンが、ノルボルナンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンまたは1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンである請求項8に記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記ケチミン化合物(B)が、ケチミン基を2個有するケチミン化合物であって、前記2個のケチミン基の加水分解速度が異なるケチミン化合物である請求項1〜9のいずれかに記載のケチミン化合物。
【請求項11】
前記ケチミン化合物(B)が、下記式(1)〜(12)のいずれかで表されるケチミン化合物である請求項1〜10のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。
【化1】

【請求項12】
前記ウレタンプレポリマー(A)が、トリメチルキシリレンジイソシアネートと、ポリオールとを反応させて得られるウレタンプレポリマーである請求項1〜11のいずれかに記載の1液型湿気硬化性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274172(P2008−274172A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121704(P2007−121704)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】