説明

1,1−ジフェニルエチレン誘導体、官能基化ポリマー及び官能基化ポリマーの製造方法

【課題】 ポリマー鎖の生長開始末端や停止末端あるいは内部に、アニオン重合に対して安定な官能基を導入し得る新規な化合物、該化合物を用いて得られた官能基化ポリマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 下記の一般式(I)[RはH、C1〜C6のアルキル基又は式(II)で表されるビニリデン基に対してm−位に結合したアジリジン誘導体残基、R1〜R4はH又はC1〜C6のアルキル基、nは1〜8の整数]で表される1,1−ジフェニルエチレン誘導体、
【化1】


ポリマー鎖の末端及び/又は内部に、前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の前記式(II)で表されるアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマー、及び3種のプロセスにより、該ポリマーを製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1−ジフェニルエチレン誘導体、官能基化ポリマー及び官能基化ポリマーの製造方法に関する。さらに詳しくは、ポリマー鎖の生長開始末端や停止末端あるいは内部に(1−アジリジニル)アルキル基を導入し得る新規な1,1−ジフェニルエチレン誘導体、このものを用いて得られたポリマー鎖の末端や内部に(1−アジリジニル)アルキル基を有する官能基化ポリマー、及びこのものを効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマー鎖の末端や内部に官能基を有するポリマーは、その官能基の反応性や極性、他の官能基との親和性及び相互作用等を利用して、さまざまな用途展開が期待され、従来から種々の官能基をポリマー鎖の末端や内部に導入することが試みられてきた。ポリマー鎖の末端や内部に定量的に官能基を導入する方法としては、リビング重合法と官能基を有する重合開始剤や重合停止剤を組み合わせる方法が知られている。
リビング重合法としては、アニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合、配位アニオン重合、メタセシス重合、イモータル重合、官能基移動重合等が知られているが、特にリビングアニオン重合に関しての研究が多数行われており、適応し得る単量体の種類、リビングポリマーの活性末端の安定性等に関する知見が数多く報告されている。
【0003】
従来、リビングアニオン重合による官能基化ポリマーの製造においては、一般に、官能基を有するアルキルリチウムなどの官能基含有重合開始剤又は官能基を有するハロゲン化アルキルなどの官能基含有重合停止剤、あるいはその両方を用いて末端官能基化ポリマーの製造が行われてきた。
しかしながら、これらの重合開始剤や重合停止剤を用いる方法では、ポリマー鎖の生長開始末端及び/又は停止末端にしか、官能基を導入することができず、また、官能基を有する単量体を用いることで、ある程度はポリマー鎖中の任意の位置に官能基を導入することは可能であるが、官能基の導入位置や導入数を厳密に制御することは困難であった。
【0004】
一方、リビングアニオン重合による官能基化ポリマーの製造においては、重合開始剤として、アルキルリチウムなどの有機アルカリ金属化合物と官能基を有する1,1−ジフェニルエチレン誘導体との付加物を用いる製造方法(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)、あるいはポリスチリルリチウムなどのアニオンリビングポリマーと官能基を有する1,1−ジフェニルエチレン誘導体との反応による製造方法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体は、単独重合性を示さず、アニオン種と定量的に1:1の付加反応生成物を与えることから、ポリマー鎖の生長開始末端や生長停止末端に1,1−ジフェニルアルキル基を定量的に導入することができる利点を有している。
【0005】
また、重合開始剤であるアルキルリチウムや、ポリスチリルリチウムなどのアニオンリビングポリマーと1,1−ジフェニルエチレン誘導体との反応で得られる1,1−ジフェニルアルキルアニオンは、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル、メタクリロニトリルなどのアニオン重合性極性モノマーの重合を開始することが可能であることから、ブロック共重合体型の官能基化ポリマーを製造することができ、ポリマー鎖中の所定の位置に、任意の個数の官能基を導入することができる。
しかしながら、これまでに1,1−ジフェニルエチレン誘導体に導入された官能基としては、フェノール性水酸基、一級アミノ基、カルボキシル基などが知られているが、これらの官能基は、いずれもアニオン重合条件下では活性末端アニオンと反応してしまうため、保護基が必要であって、官能基化ポリマーの製造においては、該保護基を脱離する工程が不可欠であり、反応工程が多くなるという問題があった(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特許第2717587号公報
【特許文献2】特公平7−5649号公報
【特許文献3】特開平4−11605号公報
【非特許文献1】「Makromol.Chem.」第189巻、第777〜789頁(1988年)
【非特許文献2】「Macromolecules」第26巻、第1206〜1212頁(1993年)
【非特許文献3】「Polymer International」第40巻、第79〜86頁(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況下で、ポリマー鎖の生長開始末端や停止末端あるいは内部に、アニオン重合に対して安定な官能基を導入し得る新規な化合物、このものを用いて得られたポリマー鎖の末端や内部に前記官能基を有する官能基化ポリマー及びこのものを効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、一価のアジリジン誘導体残基を有する特定構造の1,1−ジフェニルエチレン誘導体が、文献未載の新規な化合物であって、それ自体は重合能を有さず、かつ前記アジリジン誘導体残基はアニオン重合において安定であること、そして、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を用いることにより、ポリマー鎖の末端や内部に前記アジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)一般式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は式(II)
【0011】
【化2】

【0012】
で表されるビニリデン基に対してm−位に結合した一価のアジリジン誘導体残基、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜8の整数を示す。]で表される1,1−ジフェニルエチレン誘導体、
(2)一般式(I)におけるRが、式(II)で表されるビニリデン基に対してm−位に結合した一価のアジリジン誘導体残基であり、2つのアジリジン誘導体残基は、互いに同一でも異なっていてもよい上記(1)項に記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体、
(3)一般式(I)におけるR1〜R4が、いずれも水素原子である上記(1)又は(2)項に記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体、
(4)ポリマー鎖の末端及び/又は内部に、上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有することを特徴とする官能基化ポリマー、
(5)リビングアニオン重合法で得られたポリマーである上記(4)項に記載の官能基化ポリマー、
(6)上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体と有機アルカリ金属化合物との付加体を重合開始剤とし、アニオン重合可能な単量体Aをリビングアニオン重合することを特徴とする、ポリマー鎖の生長開始末端に、前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーの製造方法、
【0013】
(7)アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体Bをリビングアニオン重合したのち、上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体を反応系に加え、生長末端に付加させることを特徴とする、少なくともポリマー鎖の生長停止末端に、前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーの製造方法、
(8)アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体Bをリビングアニオン重合したのち、上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体を反応系に加え、生長末端に付加させ、次いでこれを重合開始剤として、アニオン重合可能な単量体Aをリビングアニオン重合することを特徴とする、少なくともポリマー鎖の内部に、前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーの製造方法、
【0014】
(9)有機アルカリ金属化合物が、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びtert−ブチルリチウムの中から選ばれる少なくとも一種である上記(6)項に記載の官能基化ポリマーの製造方法、
(10)アニオン重合可能な単量体Aが、ビニルピリジン類、(メタ)アクリル酸エステル類並びに(メタ)アクリロニトリルの中から選ばれる少なくとも一種である上記(6)又は(8)項に記載の官能基化ポリマーの製造方法、及び
(11)アニオン重合可能な単量体Bが、スチレン及びその誘導体並びにジエン系化合物の中から選ばれる少なくとも一種である上記(7)又は(8)項のいずれかに記載の官能基化ポリマーの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリマー鎖の生長開始末端や停止末端あるいは内部の任意な位置に(1−アジリジニル)アルキル基を導入し得る新規な1,1−ジフェニルエチレン誘導体、このものを用いて得られたポリマー鎖の末端や内部に(1−アジリジニル)アルキル基を有する官能基化ポリマー、及びこのものを効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の1,1−ジフェニルエチレン誘導体について説明する。
本発明の1,1−ジフェニルエチレン誘導体は一般式(I)
【0017】
【化3】

【0018】
で表される構造を有する文献未載の新規な化合物である。
前記一般式(I)において、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は式(II)
【0019】
【化4】

【0020】
で表されるビニリデン基に対してm−位に結合した一価のアジリジン誘導体残基、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜8の整数を示す。
前記R及びR1〜R4のうちの炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
Rとしては、m−位に結合した一価のアジリジン誘導体残基が好ましい。この場合、1,1−ジフェニルエチレン誘導体における2つのアジリジン誘導体残基は、互いに同一でも異なっていてもよい。また、合成の容易さ等を考慮するとR2及びR4がいずれも水素原子である場合が好ましく、R1及びR3は水素原子、炭素数1又は2のアルキル基であることが好ましい。特にはR1〜R4のいずれもが水素原子であることが好ましい。さらに、nは2〜4であることが好ましい。
【0021】
本発明の1,1−ジフェニルエチレン誘導体における前記式(II)で表されるアジリジン誘導体残基は、酸やカチオン重合開始剤により容易に開環し、ヨウ化メチルやベンジルブロミドなどのアルキル化剤と反応して四級化され、工業的にも有用な官能基である。さらに、該アジリジン誘導体残基は、アニオン重合条件下において安定であることから、アニオン重合系に存在させる場合に、保護基を必要としない。前記式(II)で表されるアジリジン誘導体残基がこのような性質を有することから、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体は、例えばリビングアニオン重合により得られるポリマー鎖の末端及び/又は内部の任意な位置に、前記式(II)で表されるアジリジン誘導体残基を導入して、官能基化ポリマーを製造するのに好適に用いることができる。
【0022】
具体的には、有機アルカリ金属化合物と当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体との付加体を重合開始剤として、アニオン重合可能な単量体をリビングアニオン重合して、ポリマー鎖の生長開始末端に、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表されるアジリジン誘導体残基を導入することができる。また、アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体をリビングアニオン重合したのち、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を生長末端に付加させることにより、ポリマー鎖の生長停止末端に当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表されるアジリジン誘導体残基を導入することができる。あるいは、アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体をリビングアニオン重合したのち、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を生長末端に付加させ、次いでこれを重合用開始剤として、アニオン重合可能な単量体をリビングアニオン重合することにより、ポリマー鎖の内部の任意の位置に、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表されるアジリジン誘導体残基を導入することができる。
【0023】
次に、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体の製造方法について説明する。
前記一般式(I)において、Rがビニリデン基に対してm−位に結合した式(II)で表されるアジリジン誘導体残基である場合、すなわち一般式(I−a)
【0024】
【化5】

【0025】
(式中、R1〜R4及びnは前記と同じである。)
で表される化合物である場合、例えば以下に示すスキーム1
【0026】
【化6】

【0027】
(式中、R1〜R4及びnは前記と同じである。)
に従って製造することができる。
まず、3−ブロモベンズアルデヒド(a)とエチレングリコール(b)とを反応させて、2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソラン(c)を得る。次いで、2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソラン(c)にマグネシウム(Mg)を反応させて、グリニャール試薬(d)を得たのち、酢酸エチル(AcOEt)を反応させ、さらに酸を加えてジオキソラン環を加水分解させることにより、1,1−ビス(3−ホルミルフェニル)エタノール(e)を得、その後、脱水反応を行い、1,1−ビス(3−ホルミルフェニル)エチレン(f)を生成させる。
次に、上記化合物(f)を還元してホルミル基をメチロール基に変換したのち、臭素化することにより、1,1−ビス(3−ブロモメチルフェニル)エチレン(g)を得る。最後に、この化合物(g)に1−(ω−ヒドロキシアルキル)アジリジン誘導体(h)を反応させることにより、目的の一般式(I−a)で表される化合物を得ることができる。
【0028】
一方、前記一般式(I)において、Rが水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である場合、すなわち一般式(I−b)
【0029】
【化7】

【0030】
(式中、R’は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R1〜R4及びnは前記と同じである。)
で表される化合物である場合、例えば以下に示すスキーム2
【0031】
【化8】

【0032】
(式中、R’、R1〜R4及びnは前記と同じである。)
に従って製造することができる。
まず、3−ブロモベンズアルデヒド(a)とエチレングリコール(b)とを反応させて、2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソラン(c)を得る。次いで、2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソラン(c)にマグネシウムを反応させて、グリニャール試薬を得たのち、アセトフェノン誘導体を反応させ、さらに酸を加えてジオキソラン環を加水分解させることにより、1−(3−ホルミルフェニル)−1−フェニルエタノール(e’)を得る。その後、脱水反応を行い、1−(3−ホルミルフェニル)−1−フェニルエチレン(f’)を生成させる。次に、上記化合物を還元してホルミル基をメチロール基に変換した後、臭素化することにより、1−(3−ブロモメチルフェニル)−1−フェニルエチレン(g’)を得る。最後に、このブロモメチル体(g’)に1−(ω−ヒドロキシアルキル)アジリジン誘導体(h)を反応させることにより、目的の一般式(I−b)で表される化合物を得ることができる。
【0033】
次に、本発明の官能基化ポリマー及びその製造方法について説明する。
本発明の官能基化ポリマーは、ポリマー鎖の末端及び/又は内部に、前記一般式(I)で表される1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有するポリマーであり、この化合物はリビングアニオン重合により得ることができる。
本発明の官能基化ポリマーは、このようにポリマー鎖の末端及び/又は内部に反応性の高いアジリジン誘導体残基を有することから、レジスト材料、コーティング剤、フィルム製膜の分野での架橋剤、主ポリマー、ベース樹脂等の原材料等として、また表面改質剤、塗料、接着剤等の原材料等として広範な応用が期待できる。
本発明の方法によれば、この官能基化ポリマーは、以下に示す3つの態様、すなわち製造方法1、製造方法2及び製造方法3によって製造することができる。
【0034】
[製造方法1]
この製造方法1においては、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体と有機アルカリ金属化合物との付加体を重合開始剤とし、アニオン重合可能な単量体Aをリビングアニオン重合することにより、ポリマー鎖の生長開始末端に、1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーを製造する。
前記有機アルカリ金属化合物としては、例えば、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物、カリウムナフタレン、ナトリウムナフタレン等の金属ナフタレン化合物、ジフェニルメチルリチウム、ジフェニルメチルナトリウム、ジフェニルメチルカリウム、クミルカリウム等を用いることができる。これらの中で、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びtert−ブチルリチウムが好ましく、特にsec−ブチルリチウムが好適である。
【0035】
本発明において、前記有機アルカリ金属化合物と当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体とを反応させて付加体を生成させる際の反応条件に特に制限はないが、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体は、一般に、有機アルカリ金属化合物に対し、等モル以上の割合で使用される。当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体に対する有機アルカリ金属化合物の付加反応を定量的に進行させるために、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を、有機アルカリ金属化合物に対して過剰量で使用することが好ましい。その使用量の上限については特に制限はないが、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体は単独重合性を有していないため、過剰量の1,1−ジフェニルエチレン誘導体は重合系内に残存することになる。したがって、重合後における残存1,1−ジフェニルエチレン誘導体の回収などに伴う生産効率の低下を考慮すると、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体の使用量は、有機アルカリ金属化合物に対し、1.1〜10倍モルが好ましく、特に2〜5倍モルが好ましい。
【0036】
有機アルカリ金属化合物と当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体との反応は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒の種類に特に制限はないが、続いて実施されるリビングアニオン重合における有機溶媒を兼ねることができる点から、一般に、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類などが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
付加反応温度は、通常−100〜50℃、好ましくは−80〜40℃の範囲で選定される。反応時間は、反応温度などに左右され一概に定めることはできないが、通常1分ないし24時間程度、好ましくは10分ないし5時間である。
【0037】
アニオン重合可能な単量体Aとしては、特に制限はなく、例えば;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等のビニルピリジン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンテニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリルを好ましく挙げることができる。また、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン等のビニルケトン類なども用いることができる。
これらの単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
重合条件としては、通常のアニオン重合で採用される重合条件を用いることが可能であるが、重合開始剤及びポリマー鎖末端の活性末端アニオンを失活させないため、重合系内に酸素、二酸化炭素又は水等が混入しない条件で行うことが好ましい。例えば、高真空下または水分をほとんど含まない窒素雰囲気下で、脱気・脱水した溶媒中において、重合開始剤の存在下、前記の単量体を加えてリビングアニオン重合させる。単量体の全量を一度に加えず、徐々に添加しながら重合させてもよい。
前記のアニオン重合可能な単量体を2種類以上組み合わせて重合させることにより、任意の単量体組成の、カルボアニオンを末端に有する共重合体を得ることができる。また、1種類の単量体の重合が終了した後、引き続き他の種類の単量体を順次重合させることにより、任意の単量体組成及び構造を有する、カルボアニオンを末端に有するブロック共重合体(ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはマルチブロック共重合体)を得ることができる。
【0039】
このリビングアニオン重合における前記有機アルカリ金属化合物と1,1−ジフェニルエチレン誘導体との付加体と、前記単量体との使用割合については、該単量体1モルに対し、前記付加体の活性末端アニオン等量として、通常0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.1モルの範囲で用いることが望ましい。
重合温度は、使用する重合開始剤、単量体および溶媒等の種類により異なるが、通常−100〜100℃の範囲が好ましく、−80〜40℃の範囲がより好ましい。重合時間は、使用する重合開始剤、単量体、溶媒、反応温度等により異なるが、通常10分〜10時間の範囲である。重合反応は、バッチ式または連続式のどちらの方法でも行うことができる。
このようにして、リビングアニオン重合により得られたポリマーの生長末端は「リビング」であり、それを失活させるために、通常プロトン供与体あるいはアルキルシリルハライドなどを接触させる。プロトン供与体としては、例えばメタノール、エタノール、フェノールなどのアルコール類が、アルキルシリルハライドとしては、例えばトリメチルシリルクロリドなどが挙げられる。
【0040】
[製造方法2]
この製造方法2においては、アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体Bをリビングアニオン重合したのち、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を反応系に加え、生長末端に付加させることにより、少なくともポリマー鎖の生長末端に、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーを製造する。
前記単量体Bとしては、スチレン、あるいはα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−ブチルスチレン、メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、3−エチル−1−ビフェニルナフタレン、p−N,N−ジメチルアミノスチレンなどのスチレン誘導体;1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、イソプレン等のジエン系化合物を好ましく挙げることができる。これらの単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
この製造方法2におけるアニオン重合開始剤に特に制限はなく、従来、スチレン類やジエン系化合物のリビングアニオン重合において使用されている重合開始剤、例えば有機アルカリ金属化合物などを用いることができる。該有機アルカリ金属化合物としては、前述の製造方法1における説明で、有機アルカリ金属化合物として例示した化合物と同じものを挙げることができる。
リビングアニオン重合方法及び重合条件などは、前述の製造方法1で説明したとおりである。
【0042】
本発明の方法においては、このようにしてリビングアニオン重合により得られたポリマー鎖の生長末端はカルボアニオンであるので、これに当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を付加させる。この場合、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体は、ポリマー鎖の生長末端に対し、1〜2倍モル用いることが好ましい。
このようにして、1,1−ジフェニルエチレン誘導体が付加されたポリマー鎖の生長末端は「リビング」であるので、製造方法1の場合と同様に、プロトン供与体又はアルキルシリルハライドなどを接触させて失活させる。
この製造方法2により、ポリマー鎖の生長停止末端に、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表されるアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーを得ることができる。
【0043】
[製造方法3]
この製造方法3においては、アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体Bをリビングアニオン重合したのち、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を反応系に加え、生長末端に付加させ、次いでこれを重合開始剤として、アニオン重合可能な単量体Aをリビングアニオン重合することにより、少なくともポリマー鎖の内部に、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーを製造する。
この方法においては、アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体Bをリビングアニオン重合したのち、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体を反応系に加え、生長末端に付加させるプロセスまでは、前記製造方法2と同様である。
【0044】
製造方法3においては、このようにしてポリマー鎖の生長末端に当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体が付加したものを、重合開始剤として、アニオン重合可能な単量体Aをさらにリビングアニオン重合する。アニオン重合可能な単量体Aとしては、前述の製造方法1の説明において、単量体Aとして例示した化合物と同じものを挙げることができる。具体的にはビニルピリジン類、(メタ)アクリル酸エステル類及び(メタ)アクリロニトリルが好適である。この単量体Aは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
この単量体Aをリビングアニオン重合して得られたポリマー鎖の生長末端は「リビング」であるので、製造方法1の場合と同様に、プロトン供与体又はアルキルシリルハライドなどを接触させて失活させる。
このようにして、少なくともポリマー鎖の内部に、当該1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表されるアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーを得ることができる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られたポリマーの物性値は、以下に示す方法により求めた。
(1)計算値による数平均分子量
重合開始剤と重合停止剤の末端官能基部分と、モノマー/重合開始剤モル比から算出した分子量の計算値である。
(2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による数平均分子量
下記の装置、カラム、検出器及び示差屈折計を使用し、移動相としてテトラヒドロフランを用い、カラム温度40℃、送液速度1.0mL/minの条件で測定し、標準ポリスチレン又は標準ポリメタクリル酸メチルの数平均分子量を用いて換算した値である。
GPC装置:高速GPC装置「HLC−8020GPC」[東ソー(株)製]
高速カラム:TSK guard column HXL−L、TSK Gel G4000HXL、TSK Gel G3000HXL、TSK Gel G2000HXL[以上、東ソー(株)製、この順で装置に連結]
検出器:紫外可視検出器[東ソー(株)製、検出器波長254nm]
示差屈折計[東ソー(株)製]
(3)1H−NMR測定による数平均分子量
1H−NMR測定から求めた重合開始剤又は重合停止剤の末端官能基部分のピーク面積とポリマーの繰り返し構造単位に含まれる官能基部分のピーク面積の比から算出した分子量の実測値である。
【0047】
(4)分子量分布
上記(2)のGPC法により測定した重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比である。
(5)薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出法(TLC−FID)による末端基導入率
(1−アジリジニル)アルキル基が導入された官能基化ポリマーと分取したホモポリマー[(1−アジリジニル)アルキル基が導入されていないポリマー]それぞれの10mg/mLの溶液(実施例2の場合は酢酸エチル溶液として、実施例3の場合はトルエン溶液として調製)を調製し、この溶液5.0μLを薄層シリカゲルロッド上にスポットし、展開溶媒(実施例2の場合は酢酸エチルにて展開、実施例3の場合はトルエンにて展開)を用いて展開させたのち、ドライヤーで10分間乾燥させた。
その後、この乾燥させた展開ロッドを水素炎で燃焼させながらスキャンし、発生させたイオンを水素炎イオン化検出器(FID:Flameionization detector)で検出し、得られた(1−アジリジニル)アルキル基が導入された官能基化ポリマーとホモポリマーのピーク面積比から末端基導入率を算出した。(1−アジリジニル)アルキル基が導入された官能基化ポリマーのRf値(移動率)は0であったのに対し、ホモポリマーのRf値は0.9であった。
【0048】
実施例1
1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレンの製造
(1)2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソランの合成
2口ナスフラスコに3−ブロモベンズアルデヒド25.01g(135.2mmol)とエチレングリコール15.14g(243.9mmol)、トシル酸−水和物0.12g(0.631mmol)、溶媒であるトルエン160mLを入れ、ディーン−スターク装置を用いて、生成する水を取り除きながら125〜130℃で還流することにより反応を開始させた。その際、反応溶液は淡黄色へと変色した。反応開始から2時間後にNMRにより原料のホルミル基の消失を確認した後に、室温まで放冷して炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)飽和水溶液を加えることにより反応を停止させた。酸性条件下ではジオキソラン環が加水分解してしまうために、系が塩基性であることに注意しながら水で3回洗浄を行い、有機層に無水硫酸マグネシウム(MgSO4)を加え一晩乾燥させた。トルエンを減圧留去した後に水素化カルシウム(CaH2)存在下に減圧蒸留(bp86−88℃/266Pa)を行うことにより、無色透明な2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソラン25.74g(112.4mmol,収率83.1%)を得た。
【0049】
(2)1,1−ビス(3−ホルミルフェニル)エタノールの合成
窒素置換した2口ナスフラスコにMg4.00g(164.5mmol)と溶媒である脱水テトラヒドロフラン(THF)200mLを入れ、室温で撹拌しながら少量の1,2−ジブロモエタンを加えることによりMgを活性化させた。そこに脱水THF30mLで希釈した2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソラン24.73g(108.0mmol)を45分かけて氷浴下で加えた。2−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジオキソランを加えると、反応溶液は黒色から暗緑色に変色した。反応開始後すぐに室温に戻し3時間反応させた後にガスクロマトグラフィー(GC)により原料の消失を確認し、脱水THF10mLで希釈した酢酸エチル5.01g(56.86mmol)を20分かけて氷浴下で加えることにより次の反応を開始させた。反応開始後すぐに室温に戻し一晩撹拌した。反応開始から15時間後にGCで測定してみると原料の残存が確認されたため、更に脱水THF5mLで希釈した酢酸エチル4.51g(51.19mmol)を15分かけて氷浴下で加えた。その3時間後にGCで測定したが結果に変化が見られなかった。次に、氷浴下で2mol/L濃度の塩酸(HCl)水溶液約250mLを加えることにより反応を停止させた。HCl水溶液を加えると反応溶液は暗緑色から黄色に変色した。系が酸性であることを確認した後に、室温で30分撹拌しジオキソラン環を加水分解させた。そしてTHFを減圧留去し、2mol/L濃度のHCl水溶液/エーテル系にて抽出を4回行い、有機層に無水MgSO4を加え一晩乾燥させた。その後エーテルを減圧留去することにより、紅茶色の2,2−ビス(3−ホルミルフェニル)エタノール(粗収量16.76g,65.91mmol,粗収率122%)を得た。この溶液はそのまま次の反応に用いた。
【0050】
(3)1,1−ビス(3−ホルミルフェニル)エチレンの合成
ナスフラスコに1,1−ビス(3−ホルミルフェニル)エタノール16.76g(65.91mmol)とトシル酸一水和物0.36g(1.89mmol)、溶媒であるベンゼン100mLを入れ、還流することにより反応を開始させた。反応開始から7時間後に、更にトシル酸一水和物0.24g(1.26mmol)を加えた。反応開始から16時間後にNaHCO3飽和水溶液を加えることにより反応を停止させた後、有機層と水層とを分け取った。この水層を水(NaHCO3飽和水溶液)/クロロホルム系にて抽出を3回行い、全ての有機層を合わせて無水MgSO4を加え一晩乾燥させた。その後、ベンゼン/クロロホルム混合溶媒を減圧留去して得られた茶褐色液体(粗収量14.43g,粗収率92.7%)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製することにより、淡黄色液体である1,1−ビス(3−ホルミルフェニル)エチレンを得た。
【0051】
(4)1,1−ビス(3−ヒドロキシメチルフェニル)エチレンの合成
ナスフラスコに1,1−ビス(3−ホルミルフェニル)エチレン6.34g(26.83mmol)、溶媒であるエタノール50mLを入れ、氷浴下で撹拌しながら水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)2.29g(60.53mmol)を少しずつ加えることにより反応を開始させた。NaBH4を加えると黄濁色だった液体が白濁色に変色した。反応開始後すぐに室温に戻し5時間撹拌した後にNMRにより原料の消失を確認し、溶媒であるエタノールを減圧留去した。この反応物を水/エーテル系にて抽出を行い、得られた有機層を水で3回洗浄し、得られた水層をエーテルで2回抽出した。その後、全ての有機層を合わせて無水MgSO4を加え一晩乾燥させた。そして、エーテルを減圧留去することにより白色固体である1,1−ビス(3−ヒドロキシメチルフェニル)エチレン(粗収量5.52g,22.97mmol,粗収率86%)を得た。この溶液はそのまま次の反応に用いた。
【0052】
(5)1,1−ビス(3−ブロモメチルフェニル)エチレンの合成
ナスフラスコに1,1−ビス(3−ヒドロキシメチルフェニル)エチレン5.52g(22.97mmol)、溶媒である塩化メチレン40mLを入れ、氷浴下で撹拌しながら臭化リン(PBr3)9.64g(35.61mmol)を少しずつ滴下することにより反応を開始させた。PBr3を加えるとそれまで存在した溶け残りが溶解し、薄黄色の均一溶液になった。反応開始後すぐに室温に戻し2時間撹拌した後に、水を少しずつ加えることにより反応を停止させ、有機層と水層を分け取った。ここで得られた有機層を水/塩化メチレン系にて洗浄を3回行い、得られた水層を水/塩化メチレン系にて抽出を3回行い、全ての有機層を合わせて無水MgSO4を加え一晩乾燥させた。その後、塩化メチレンを減圧留去して得られた粘性液体を、シリカゲルを用いた固体カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=30:1)で精製することにより、1,1−ビス(3−ブロモメチルフェニル)エチレン4.15g(11.33mmol,収率49%)を得た。
【0053】
(6)1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレンの合成
窒素置換した2口ナスフラスコに水素化ナトリウム(NaH)0.63g(26.25mmol)を入れ、脱水ヘキサンによって2回洗浄を行った後に、溶媒である脱水THF30mLを加えた。そこに脱水THF5mLで希釈した1−(2−ヒドロキシルエチル)アジリジン1.49g(17.10mmol)を氷浴下で10分かけて滴下し、1時間撹拌した。その後、脱水THF7.5mLで希釈した1,1−ビス(3−ブロモメチルフェニル)エチレン2.07g(5.65mmol)を氷浴下で20分かけて滴下することにより反応を開始させた。1,1−ビス(3−ブロモメチルフェニル)エチレンを加えると反応溶液は白濁色から黄濁色に変化し、系には臭化ナトリウム(NaBr)の白色固体が生じた。反応開始後すぐに室温に戻し18時間反応させた後にTLCにより原料の消失を確認し、NaHCO3飽和水溶液を加えることにより反応を停止させ、その後NaBrを濾過により取り除きTHFを減圧留去した。更に1.0質量%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液/クロロホルム系にて抽出を3回行い、有機層に無水MgSO4を加え一晩乾燥させた。クロロホルムを減圧留去した後に、ベンゼン溶液からの熱(60℃)をかけながらの凍結乾燥を数回繰り返すことにより精製し、目的物である1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレン[Az2DPE]1.39g(3.67mmol,収率32%)を得た。
更なる精製は行わず、そのまま0.1mol/L程度のTHF溶液に希釈し、ブレークシール中に保存した。その後ジブチルマグネシウム(Bu2Mg)を添加することによる洗浄、sec−ブチルリチウム(sec−BuLi)滴定を適宜行うことによりAz2DPEよりも反応性の高い不純物を反応させて、Az2DPEを精製した。
得られたAz2DPEの1H−NMR及び13C−NMRの測定結果を図1及び図2に示す。図1のチャートにおけるa〜gのピーク、及び図2のチャートにおける1〜12のピークは、それぞれ同図に示す化学式において、同じ記号が付された水素及び炭素に帰属するものである。図1及び図2より、Az2DPEが製造されていることが確認された。
【0054】
実施例2(製造法1による官能基化ポリマーの製造)
ポリマー鎖中への(1−アジリジニル)アルキル基の導入は、パイレックスガラス製反応容器を用いてブレークシール法によるアニオン重合で行った。
ブレークシールによって封じられた試薬類のアンプルを溶接した反応容器を高真空ラインに接続して、高真空下で脱気とベーキングを2回繰り返したのち、反応容器を溶封した。次いで、有機アルカリ金属化合物であるsec−ブチルリチウム0.146mmolを含むヘプタン溶液2.5mL(0.0579mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応容器に有機アルカリ金属化合物を移したのち、−78℃に冷却した。
同じく−78℃に冷却した1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレン0.288mmolを含むテトラヒドロフラン(THF)溶液4.99mL(0.0977mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応溶液に添加して、そのまま−78℃で30分間反応させた。続いて、添加剤である塩化リチウム(LiCl)0.646mmolを含むTHF溶液3.87mL(0.167mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応容器に添加して、そのまま−78℃で10分間反応させ、1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニルエチレン]とsec−ブチルリチウムの付加体からなる重合開始剤を得た。
さらに、−78℃に冷却した単量体である精製メタクリル酸メチル8.55mmolを含むTHF溶液10.1mL(0.847mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応容器に単量体を添加して−78℃で重合を開始した。そのまま−78℃にて60分間重合を行った。
重合終了後、重合停止剤であるメタノール1.22mmolを含むTHF溶液3.47mL(0.353mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応容器に重合停止剤を移し、そのまま−78℃で5分間反応させて重合を停止した。
【0055】
反応終了後、反応容器を開封し、反応容器に脱気した大過剰のメタノールを添加した。得られた反応溶液を多量のヘキサン中に注ぎ込み、再沈殿法により2回精製を行い、未反応化合物などを除去した。再沈殿精製法で得られたポリマーをろ別乾燥させたところ、開始末端に2つの(1−アジリジニル)アルキル基が導入された官能基化ポリメタクリル酸メチル0.86g(収率99%)が得られた。
このようにして得られた官能基化ポリマーをTHFに溶解し(ポリマー濃度;10mg/mL)、標準ポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量と分子量分布を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定した。
また、再沈殿精製法で得られたポリマーを15質量%のポリマー濃度となるようにベンゼンに溶解させ、凍結乾燥を行って精製ポリマー(ポリマー1A)を得た。この精製ポリマーを用い、TLC−FIDで(1−アジリジニル)アルキル基の定量を行ったところ、末端(1−アジリジニル)アルキル基の導入率は99%であり、ポリマーの開始末端に対して定量的に、(1−アジリジニル)アルキル基が導入されていることが明らかとなった。得られた結果を表1及び表2に示す。
また、得られたポリマー1Aについて、1H−NMR及び13C−NMRの測定結果を図3及び図4に示す。図3のチャートにおけるa〜qのピーク、及び図4のチャートにおける1〜21のピークは、それぞれ同図に示す化学式において、同じ記号が付された水素及び炭素に帰属するものである。図3及び図4より、ポリマー1Aが製造されていることが確認された。
また、比較のため、1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレンの代わりに、1,1−ジフェニルエチレン0.211モルを含むTHF溶液2.91mL(0.0725mol/L)を用い、sec−BuLi、塩化リチウム、精製メタクリル酸メチル及びメタノールの量をそれぞれ以下のように変更した以外は、前記と同様にしてポリマー1Bを得、分析を行った。その結果も表1及び表2に併記する。
sec−BuLi;0.0879mmol(ヘプタン溶液2.82mL、0.0312mol/L)
塩化リチウム;0.299mmol(THF溶液2.69mL、0.111mol/L)
メタクリル酸メチル;5.98mmol(THF溶液6.69mL、0.894mol/L)
メタノール;1.97mmol(THF溶液4.37mL、0.451mol/L)
【0056】
実施例3(製造法2による官能基化ポリマーの製造)
ポリマー鎖中への(1−アジリジニル)アルキル基の導入は、リビングポリマー分取用側管を備えたパイレックスガラス製反応容器を用いてブレークシール法によるアニオン重合で行った。
ブレークシールによって封じられた試薬類のアンプルを溶接した反応容器を高真空ラインに接続して、高真空下で脱気とベーキングを2回繰り返したのち、反応容器を溶封した。
次いで、重合開始剤であるsec−ブチルリチウム0.192mmolを含むヘプタン溶液3.32mL(0.0579mol/L)のブレークシールを割り、反応容器に重合開始剤を移したのち、−78℃に冷却した。
同様に、−78℃に冷却した単量体である精製スチレン10.7mmolを含むTHF溶液11.2mL(0.955mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応容器に単量体を添加して−78℃で重合を開始した。そのまま−78℃にて20分間重合を行った。
重合終了後、リビングポリマー分取用側管にポリスチリルリチウムのTHF溶液を分け取った(リビングポリマー溶液の全容量のうち、12vol%を分取した)。次に、予め精製剤であるジブチルマグネシウム0.110mmolを含むTHF溶液2.25mL(0.0491mol/L)と共に混合してアンプルに溶封しておいた1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレン0.340mmolを含むTHF3.61mL(0.0940mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応容器に移し、そのまま−78℃で30分間反応させた。反応終了後、重合停止剤であるメタノール1.14mmolを含むTHF溶液3.24mL(0.353mol/L)が収容されているブレークシールを割り、反応容器に重合停止剤を移し、そのまま−78℃で5分間反応させて重合を停止した。
【0057】
反応終了後、反応容器を開封し、反応容器及び側管に脱気した大過剰のメタノールを添加した。得られた各反応溶液を多量のメタノール中に注ぎ込み、再沈殿法により2回精製を行い、未反応化合物などを除去した。再沈殿精製法で得られたポリマーをろ別乾燥させたところ、停止末端に2つの(1−アジリジニル)アルキル基が導入された官能基化ポリスチレン[ポリマー2A]0.98g(収率99%)、及びポリスチレン[(1−アジリジニル)アルキル基が導入されていないポリマー:ポリマー2B]0.13g(収率99%)が得られた。
このようにして得られた各ポリマーをTHFに溶解し(ポリマー濃度;10mg/mL)、標準ポリスチレン換算の数平均分子量と分子量分布を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定した。
また、再沈殿精製法で得られた各ポリマーを15質量%のポリマー濃度となるようにベンゼンに溶解させ、凍結乾燥を行って精製ポリマーを得た。この精製ポリマーを用い、TLC−FID法で(1−アジリジニル)アルキル基の定量を行ったところ、ポリマー2Aにおける末端(1−アジリジニル)アルキル基の導入率は99%であり、ポリマー鎖の開始末端に対して定量的に、(1−アジリジニル)アルキル基が導入されていることが明らかとなった。結果を表1及び表2に示す。
また、得られたポリマー2Aについて、1H−NMR及び13C−NMRの測定結果を図5及び図6に示す。図5のチャートにおけるa〜oのピーク、及び図6のチャートにおける1〜24のピークは、それぞれ同図に示す化学式において、同じ記号が付された水素及び炭素に帰属するものである。図5及び図6より、ポリマー2Aが製造されていることが確認された。
【0058】
【表1】

(注)
1)sBuLi:sec−ブチルリチウム
2)Az2DPE:1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレン
3)Bu2Mg:ジブチルマグネシウム
4)MMA:メタクリル酸メチル
5)St:スチレン
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の1,1−ジフェニルエチレン誘導体は、ポリマー鎖の生成開始末端や停止末端のみならず、ポリマー鎖中の定められた位置に、(1−アジリジニル)アルキル基を定量的に導入することができ、かつ分子量が制御された分子量分布の狭い官能基化ポリマーを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1の方法で製造した1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレン[Az2DPE]の1H−NMRチャートである。
【図2】実施例1の方法で製造した1,1−ビス[3−[2−(1−アジリジニル)エトキシメチル]フェニル]エチレン[Az2DPE]の13C−NMRチャートである。
【図3】実施例2の方法で製造したポリマー1Aの1H−NMRチャートである。
【図4】実施例2の方法で製造したポリマー1Aの13C−NMRチャートである。
【図5】実施例3の方法で製造したポリマー2Aの1H−NMRチャートである。
【図6】実施例3の方法で製造したポリマー2Aの13C−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は式(II)
【化2】

で表されるビニリデン基に対してm−位に結合した一価のアジリジン誘導体残基、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜8の整数を示す。]で表される1,1−ジフェニルエチレン誘導体。
【請求項2】
一般式(I)におけるRが、式(II)で表されるビニリデン基に対してm−位に結合した一価のアジリジン誘導体残基であり、2つのアジリジン誘導体残基は、互いに同一でも異なっていてもよい請求項1に記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体。
【請求項3】
一般式(I)におけるR1〜R4が、いずれも水素原子である請求項1又は2に記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体。
【請求項4】
ポリマー鎖の末端及び/又は内部に、請求項1〜3のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有することを特徴とする官能基化ポリマー。
【請求項5】
リビングアニオン重合法で得られたポリマーである請求項4に記載の官能基化ポリマー。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体と有機アルカリ金属化合物との付加体を重合開始剤とし、アニオン重合可能な単量体Aをリビングアニオン重合することを特徴とする、ポリマー鎖の生長開始末端に、前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーの製造方法。
【請求項7】
アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体Bをリビングアニオン重合したのち、請求項1〜3のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体を反応系に加え、生長末端に付加させることを特徴とする、少なくともポリマー鎖の生長停止末端に、前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーの製造方法。
【請求項8】
アニオン重合開始剤の存在下、アニオン重合可能な単量体Bをリビングアニオン重合したのち、請求項1〜3のいずれかに記載の1,1−ジフェニルエチレン誘導体を反応系に加え、生長末端に付加させ、次いでこれを重合開始剤として、アニオン重合可能な単量体Aをリビングアニオン重合することを特徴とする、少なくともポリマー鎖の内部に、前記1,1−ジフェニルエチレン誘導体由来の式(II)で表される一価のアジリジン誘導体残基を有する官能基化ポリマーの製造方法。
【請求項9】
有機アルカリ金属化合物が、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びtert−ブチルリチウムの中から選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載の官能基化ポリマーの製造方法。
【請求項10】
アニオン重合可能な単量体Aが、ビニルピリジン類、(メタ)アクリル酸エステル類並びに(メタ)アクリロニトリルの中から選ばれる少なくとも一種である請求項6又は8に記載の官能基化ポリマーの製造方法。
【請求項11】
アニオン重合可能な単量体Bが、スチレン及びその誘導体並びにジエン系化合物の中から選ばれる少なくとも一種である請求項7又は8のいずれかに記載の官能基化ポリマーの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69922(P2006−69922A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252415(P2004−252415)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】