説明

1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの異性化

本発明は、1234zc(1,1,3,3−テトラフルオロプロペン)を異性化する方法に関する。本発明はまた、245fa(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン)からトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−1234ze)を合成する方法における副生成物として生成した1,1,3,3−テトラフルオロプロペンを処理する方法であって、1234zcが異性化反応器中で、HFの不存在下で触媒を用いてトランス/シス−1234zeに変換されるか、あるいは別の反応器中または好ましくは245fa脱フッ化水素の同じ反応器中で、HFの存在下で触媒を用いて1234zeおよび/または245faに変換される方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2009年1月16日に出願された米国仮出願第61/145,333号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、ヒドロフルオロカーボン化合物を製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、ヒドロフルオロアルケンの異性化に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、冷媒、発泡剤、溶媒およびガス滅菌のための希釈剤としての利用のために、ヒドロフルオロカーボン類(HFCs)、すなわち、炭素、水素およびフッ素のみを有する化合物を開発すべく世界的努力がなされている。クロロフルオロカーボン類(CFCs)およびヒドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)(両者は地球のオゾン層を潜在的に損なう)とは違って、HFC類は、塩素を含まず、したがって、オゾン層に脅威を与えない。この点で、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−1234ze)は、オゾン層破壊係数(ODP)がゼロでかつ地球温暖化係数(GWP)が低い冷媒、発泡剤、エアゾール噴射剤、溶媒などとして、ならびにまたフッ素化モノマーとして使用される潜在性を有する化合物である。
【0004】
HFO−1234zeを製造する方法は公知である。例えば、米国特許第5,710,352号明細書(特許文献1)には、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)をフッ素化して、HCFO−1233zdおよび少量のHFO−1234zeを形成することが教示されている。米国特許第5,895,825号明細書(特許文献2)には、HCFO−1233zdをフッ素化して、HFO−1234zeを形成することが教示されている。米国特許第6,472,573号明細書(特許文献3)にも、HCFO−1233zdをフッ素化して、HFO−1234zeを形成することが教示されている。米国特許第6,124,510号明細書(特許文献4)には、酸素含有ガスの存在下で強塩基またはクロム系触媒を用いてHFC−245faを脱フッ化水素することによってHFO−1234zeのシスおよびトランス異性体を形成することが教示されている。参照として本明細書に組み込まれる米国特許第7,563,936号明細書(特許文献5)には、注意深く選択された異性化触媒によりシス−1234zeをトランス−1234zeに異性化することが教示されている。参照として本明細書に組み込まれる米国特許第7,485,760号明細書(特許文献6)には、245faからトランス−1234zeを製造する統合プロセスがさらに開示されており、これは、(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを脱フッ化水素し、それにより、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびフッ化水素を含む結果物を生成する工程;(b)工程(a)の結果物からフッ化水素を任意選択で回収する工程;(c)シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部をトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンに異性化する工程;および、(d)トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを回収する工程;を含む。この開示の1つの好ましい実施形態では、245faの脱フッ化水素およびシス−1234zeの異性化は、1つの反応容器中で合わせて行われ、HFが回収された後に、トランス−1234zeが、蒸留塔のオーバーヘッドから精製された生成物として単離され、リボイラー中の重質分として回収された未変換245faおよびシス−1234zeの混合物は、反応器に戻されて再循環される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,710,352号明細書
【特許文献2】米国特許第5,895,825号明細書
【特許文献3】米国特許第6,472,573号明細書
【特許文献4】米国特許第6,124,510号明細書
【特許文献5】米国特許第7,563,936号明細書
【特許文献6】米国特許第7,485,760号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、少量の1,1,3,3−テトラフルオロプロペン(1234zc)もまた、245fa(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン)の脱フッ化水素の間に生じ、重質分中にそのまま残ることを発見した。1234zcがある量まで蓄積すると、それは従来の蒸留法で除去することが困難になる。その未知の毒性および出口のない重質分中での蓄積のために、1234zcは、反応系から除去されなければならない。本出願人は、1234zcを、生成物収量の損失を最小にしながら除去することができる手段の必要性を認めるに至り、効率的で費用効果のある方法で異性化および/またはフッ素化によって、1234zcを有用な生成物(例えば、1234zeおよび245fa)に変換するプロセスを開発した。本発明では、1234zcを1234zeおよび/または245faの少なくとも一方に変換することにより、トランス−1234zeを製造するプロセスにおいて、副生成物として生成した1234zcが有利に処理される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の一態様では、1,1,3,3−テトラフルオロプロペンを含む組成物を、金属ハロゲン化物、ハロゲン化金属酸化物、およびゼロ価の金属または金属合金からなる群から選択される少なくとも1種の異性化触媒と接触させる工程を含み、前記接触させる工程が、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を1,3,3,3−テトラフルオロプロペンに異性化するのに十分な反応温度で行われる、化合物を異性化する方法が提供される。
【0008】
本発明の別の態様では、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法であって、(a)トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,3,3−テトラフルオロプロペン、およびフッ化水素、ならびに未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む生成物流を生成するのに有効な条件下で、第1の反応器中でヒドロフルオロカーボン反応物質を反応させる工程;(b)前記生成したフッ化水素を前記生成物流から任意選択で除去する工程;(c)前記生成物流を蒸留して、前記トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む精製された生成物流、ならびに前記シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペン、および前記未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む第2の流れを生成する工程;(d)前記第2の流れを、金属ハロゲン化物、ハロゲン化金属酸化物、およびゼロ価の金属または金属合金からなる群から選択される少なくとも1種の異性化触媒と接触させる工程であり、前記接触が前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を、異性化した1,3,3,3−テトラフルオロプロペンに異性化するのに十分な反応温度で行われる工程;および、任意選択で(e)前記異性化した1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを前記第1の反応器に再循環させる工程;を含む、前記方法が提供される。
【0009】
本発明の別の態様では、金属ハロゲン化物およびハロゲン化金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で1,1,3,3−テトラフルオロプロペンを含む組成物をフッ化水素と反応させる工程を含み、前記反応させる工程が、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの少なくとも一方を含む反応生成物に変換するのに十分な反応温度で行われる、フッ素化化合物を製造する方法が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の態様では、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法であって、(a)トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,3,3−テトラフルオロプロペンおよびフッ化水素、ならびに未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む生成物流を生成するのに有効な条件下で、第1の反応器中でヒドロフルオロカーボン反応物質を反応させる工程;(b)前記生成したフッ化水素を前記生成物流から任意選択で除去する工程;(c)前記生成物流を蒸留して、前記トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む精製された生成物流、ならびに前記シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペン、および前記未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む第2の流れを生成する工程;および、(d)金属ハロゲン化物およびハロゲン化金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で前記第2の流れをHFと接触させる工程であり、前記接触が前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの少なくとも一方を含む再循環生成物に変換するのに十分な反応温度で行われる工程;を含む、前記方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】1234zc副生成物が、脱フッ化水素反応器に再循環される前に異性化される、本発明の好ましい実施形態によって245faを1234zeに変換するプロセスの概略図である。
【図2】1234zc副生成物が、脱フッ化水素反応器に再循環される前にHFの存在下で異性化および/またはフッ素化される、本発明の好ましい実施形態によって245faを1234zeに変換するプロセスの概略図である。
【図3】1234zc副生成物が、脱フッ化水素反応器に再循環された後に異性化および/またはフッ素化される、本発明の好ましい実施形態によって245faを1234zeに変換するプロセスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、1,1,3,3−テトラフルオロプロペンを異性化する方法、およびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン製造プロセスにおいて1,1,3,3−テトラフルオロプロペンを処理する方法が開示される。好ましい実施形態では、1234zcは、別の異性化反応器中、HFの不存在下で触媒を用いてトランス/シス−1234zeに変換される。別の好ましい実施形態では、1234zcは、別の反応器中、より好ましくは245fa脱フッ化水素の同じ反応器中、HFの存在下で触媒を用いて1234zeおよび/または245faに変換される。
【0013】
A.HFの不存在下での1234zcの異性化
図1を参照すると、本発明によって245faからトランス−1234zeを製造する方法が示される。ここで、本方法は、未反応245fa、シス−1234zeとともに、1234zc副生成物が蒸留塔のリボイラー中の重質分として回収され、次いで、異性化反応器(反応器2)に供給される再循環ループを伴う。異性化反応器(反応器2)で、1234zcは、245fa脱フッ化水素の反応器(反応器1)、好ましくは気相反応器に戻されて再循環される前に、HFの不存在下で異性化触媒を用いてトランス/シス−1234zeに変換される。この1234zcの異性化反応のための触媒の3つの種類が以下に記載される。
【0014】
異性化触媒の第1の種類は、金属ハロゲン化物、好ましくは一価、二価、三価、および四価の金属ハロゲン化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、より好ましくは二価、三価、および四価の金属ハロゲン化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、最も好ましくは三価および四価の金属ハロゲン化物、ならびにそれらの混合物/組合せである。構成要素の金属には、Ti4+、Zr4+、Ce4+、Cr3+、Al3+、Fe3+、Mg2+、Ca2+、Ni2+、Zn2+、Pd2+、Li、Na、K、およびCsが含まれるが、これらに限定されない。構成要素のハロゲンには、F、Cl、Br、およびIが含まれるが、これらに限定されない。触媒は担持されていても、担持されていなくてもよい。
【0015】
触媒の第2の種類は、ハロゲン化金属酸化物、好ましくはハロゲン化された一価、二価、三価、および四価の金属酸化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、より好ましくはハロゲン化された二価、三価、および四価の金属酸化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、最も好ましくはハロゲン化された三価および四価の金属酸化物、ならびにそれらの混合物/組合せである。構成要素の金属には、Ti4+、Zr4+、Ce4+、Cr3+、Al3+、Fe3+、Mg2+、Ca2+、Ni2+、Zn2+、Pd2+、Li、Na、K、およびCsが含まれるが、これらに限定されない。ハロゲン化処理は、従来技術で知られている任意のもの、特にハロゲン化源としてHF、F、HCl、Cl、HBr、Br、HI、およびIを用いるものを含むことができる。触媒は、担持されていても、担持されていなくてもよい。
【0016】
触媒の第3の種類は、中性の、すなわちゼロ価の金属、金属合金およびそれらの混合物である。有用な金属には、Pd、Pt、Rh、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Cr、Mn、および合金または混合物として前記のものの組合せが含まれるが、これらに限定されない。触媒は、担持されていても、担持されていなくてもよい。
【0017】
異性化反応は好ましくは、気相中で行われる。あまり好ましくない実施形態では、液相中でこのような反応を行うことが可能である。
【0018】
1234zcの変換率および1234zeの選択率の望ましいレベルは、反応温度、圧力、および滞留時間などの条件を含む操作パラメータによって影響を受け得る。反応は、1234zcの異性化を行うのに十分な条件で行われる。好ましい触媒による1234zeへの異性化反応の選択率は、約50%以上、より好ましくは約70%以上、最も好ましくは約95%以上である。1234zcの変換率は、好ましくは約10%以上、より好ましくは約50%以上、最も好ましくは約95%以上である。
【0019】
異性化は、所望の変換レベルを得るのに十分な温度で行うことができる。反応温度とは、触媒床中の平均温度をいう。反応温度は、好ましくは約50℃から約400℃、より好ましくは約100℃から約350℃、最も好ましくは約120℃から約300℃の範囲である。
【0020】
圧力は特に重要な反応条件ではないので、異性化は広範な圧力にわたって行うことができる。反応器圧力は、大気圧を超える圧力、大気圧、または真空下(減圧下)であることができる。しかし、好ましい実施形態では、反応は、約1atmから約20atm(約0.1MPaから約2MPa)、より好ましくは約2atmから約6atm(約0.2MPaから約0.6MPa)の範囲にある圧力条件下で行われる。
【0021】
滞留時間は特に重要な反応条件ではないので、異性化は広範な滞留時間にわたって行うことができる。しかし、好ましい実施形態では、滞留時間は、約0.5秒から約600秒、より好ましくは約10秒から約60秒の範囲であり得る。
【0022】
B.HFの存在下での1234zcの異性化および/またはフッ素化
図2を参照すると、245fa、シス−1234ze、および1234zcの混合物は、蒸留塔のリボイラー中の重質分として回収され、HFと一緒に別の反応器(反応器2)中に共供給されて、245fa脱フッ化水素の反応器(反応器1)に戻されて再循環される前に、触媒を用いて1234zcを1234zeおよび/または245faに変換する。ここで、前記底部流の派生物は、反応器1に再循環される。図3では、245fa、シス−1234ze、および1234zcの混合物は、245fa脱フッ化水素の反応器に直接戻されて再循環される、より好ましい別の実施形態が示され、ここで、触媒を用いてHF(この場合、HFは245fa脱フッ素化から生成する)と反応させることによって、1234zcは、1234zeおよび/または245faに変換される。この場合、1234zcの245faまたは1234zeへの変換は、245faの1234zeへの変換において用いられるものと同じか同様の条件(触媒、温度、圧力、および滞留時間)下で行われる。概して、これらの反応パラメータは、図1または図2を用いる実施形態について言及される範囲内である。
【0023】
この1234zc異性化反応のための触媒の2つの種類は、以下のとおり記載される。
【0024】
触媒の第1の種類は、金属ハロゲン化物、好ましくは一価、二価、三価、および四価の金属ハロゲン化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、より好ましくは二価、三価、および四価の金属ハロゲン化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、最も好ましくは三価および四価の金属ハロゲン化物、ならびにそれらの混合物/組合せである。構成要素の金属には、Ti4+、Zr4+、Ce4+、Cr3+、Al3+、Fe3+、Mg2+、Ca2+、Ni2+、Zn2+、Pd2+、Li、Na、K、およびCsが含まれるが、これらに限定されない。構成要素のハロゲンには、F、Cl、Br、およびIが含まれるが、これらに限定されない。触媒は担持されていても、担持されていなくてもよい。
【0025】
触媒の第2の種類は、ハロゲン化金属酸化物、好ましくはハロゲン化された一価、二価、三価、および四価の金属酸化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、より好ましくはハロゲン化された二価、三価、および四価の金属酸化物、ならびにそれらの混合物/組合せ、最も好ましくはハロゲン化された三価および四価の金属酸化物、ならびにそれらの混合物/組合せである。構成要素の金属には、Ti4+、Zr4+、Ce4+、Cr3+、Al3+、Fe3+、Mg2+、Ca2+、Ni2+、Zn2+、Pd2+、Li、Na、K、およびCsが含まれるが、これらに限定されない。ハロゲン化処理は、従来技術で知られている任意のもの、特にハロゲン化源としてHF、F、HCl、Cl、HBr、Br、HI、およびIを用いるものを含むことができる。触媒は、担持されていても、担持されていなくてもよい。
【0026】
異性化および/またはフッ素化反応は好ましくは、気相中で行われる。あまり好ましくない実施形態では、液相中でこのような反応を行うことが可能である。
【0027】
1234zcの変換率、ならびに1234zeおよび/または245faの選択率の望ましいレベルは、反応温度、供給原料組成、圧力、および滞留時間などの条件を含む操作パラメータによって影響を受け得る。反応は、1234zcの異性化および/またはフッ素化を行うのに十分な条件で行われる。好ましい触媒による1234zeおよび/または245faへの異性化および/またはフッ素化反応の選択率は、約50%以上、より好ましくは約70%以上、最も好ましくは約95%以上である。1234zcの変換率は、好ましくは約10%以上、より好ましくは約50%以上、最も好ましくは約95%以上である。
【0028】
異性化および/またはフッ素化は、所望の変換レベルを得るのに十分な温度で行うことができる。反応温度とは、触媒床中の平均温度をいう。反応温度は、好ましくは約100℃から約500℃、より好ましくは約200℃から約400℃、最も好ましくは約250℃から約300℃の範囲である。供給原料中の1234zc対HFの比は、好ましくは1:0.1から1:10000、より好ましくは1:1から1:2000、最も好ましくは1:10から1:1500の範囲である。
【0029】
圧力は特に重要な反応条件ではないので、異性化および/またはフッ素化は広範な圧力にわたって行うことができる。反応器圧力は、大気圧を超える圧力、大気圧、または真空下(減圧下)であることができる。しかし、好ましい実施形態では、反応は、約1atmから約20atm(約0.1MPaから約2MPa)、より好ましくは約2atmから約6atm(約0.2MPaから約0.6MPa)の範囲にある圧力条件下で行われる。
【0030】
滞留時間は特に重要な反応条件ではないので、異性化および/またはフッ素化は広範な滞留時間にわたって行うことができる。しかし、好ましい実施形態では、滞留時間は、約0.5秒から約600秒、より好ましくは約10秒から約60秒の範囲であり得る。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、本発明で開示されるプロセスによって1234zcを1234zeおよび/または245faに変換し得ることを実証するのに役立つ。
【0032】
実施例1:フッ素化Cr触媒によるHFの不存在下での1234zcの異性化
モネル管反応器(Monel tube reactor)(外径1.905cm(0.75インチ)×内径1.587cm(0.625インチ)×長さ58.42cm(23.0インチ))に、20mlの触媒ペレットを装填した。反応器を30.48cm(12インチ)スプリット管炉(split tube furnace)により加熱した。触媒床を通して挿入された多点熱電対を用いて、触媒床の温度を測定した。トランス−1234ze、1234zc、シス−1234ze、および245faの混合物をこの触媒上に12g/時間の流量で通した。反応を0.0kPaゲージ圧(0.0psig)下でおよび供給原料中に含まれる245faに反応が起こらないことを確実にするのに十分低い温度で行った。流出物をオンラインGC(ガスクロマトグラフィー)で分析して、1234zcの変換率および1234zeの選択率を測定した。
【0033】
実施例1で用いた触媒は、フッ素化Cr触媒であった。表1に示されるように、100℃および150℃の両方で、供給原料組成物と比較して、生成物流中のトランス−1234zeおよびシス−1234zeの両方の濃度は増加したが、1234zcの濃度はそれに応じて減少し、245faの濃度はほとんど変化しないままであり、このことは、1234zcの1234zeへの異性化が起こったことを示している。100℃および150℃での1234zcの変換率は、それぞれ58.39%および100.00%であり、1234zeへの選択率は、両温度において100.00%であった。これらの結果は、フッ素化クロミア触媒が、活性であることだけでなく、HFの不存在下で1234zcの1234zeへの異性化に対して選択的であることを示している。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2:フッ素化Cr触媒によるHFの存在下での1234zcの異性化/フッ素化
モネル管反応器(内径5.08cm(2インチ)×長さ91.44cm(36インチ))に、760mlの触媒ペレットを入れた。反応器を砂浴炉により加熱した。触媒床を通して挿入された多点熱電対を用いて、触媒床の温度を測定した。トランス−1234ze、1234zc、シス−1234ze、および245faの混合物をこの触媒上に0.82kg/時間(1.8ポンド/時間)の流量で通した。反応を、35.9kPaゲージ圧(5.2psig)下で、および245faの脱フッ化水素により1234zeおよびHFを生成するのに十分高い温度である250〜280℃で行った。供給原料および流出物の両方をGCにより分析して、反応器の入口および出口における1234zcの濃度を測定した。
【0036】
実施例2で用いた触媒は、フッ素化Cr触媒であった。表2に示されるように、250〜280℃で、1234zcの濃度は、反応器入口におけるよりも反応器出口において平均で33%低く、このことは、HF(これは、245fa脱フッ素化から生成する)と反応させることによって1234zcの1234zeへの異性化および/または1234zcの245faへのフッ素化が起こったことを示している。これらの結果は、1234zcを再循環ループ内に保ち、再循環流における1234zcの蓄積を回避することが可能であることを示している。
【0037】
【表2】

【0038】
このように本発明のいくつかの特定の実施形態を説明してきたが、様々な変更、修正、および改良が当業者に容易に想起される。本開示により明らかにされるとおり、このような変更、修正、および改良は、本明細書で明示的に述べられていないが、本説明の一部であることが意図され、本発明の精神および範囲内であることが意図される。したがって、上記の説明は、ほんの一例であり、限定的なものではない。本発明は単に、以下の特許請求の範囲およびそれへの均等物において定義されるとおりに限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,3,3−テトラフルオロプロペンを含む組成物を、金属ハロゲン化物、ハロゲン化金属酸化物、およびゼロ価の金属または金属合金からなる群から選択される少なくとも1種の異性化触媒と接触させる工程を含み、前記接触させる工程が、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を1,3,3,3−テトラフルオロプロペンに異性化するのに十分な反応温度で行われる、化合物を異性化する方法。
【請求項2】
前記1,3,3,3−テトラフルオロプロペンがトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1,3,3,3−テトラフルオロプロペンがシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、前記接触させる工程の前にシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび/または1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記異性化が、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンについて少なくとも約95%の選択率である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記異性化が、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも約95%を変換する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反応温度が、約120℃から約300℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記圧力が、約2atmから約6atm(約0.2MPaから約0.6MPa)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記滞留時間が、約10秒から約60秒である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法であって、
トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,3,3−テトラフルオロプロペン、フッ化水素、および未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む生成物流を生成するのに有効な条件下で、第1の反応器中でヒドロフルオロカーボンを反応させる工程;
前記生成したフッ化水素を前記生成物流から任意選択で除去する工程;
前記生成物流を蒸留して、前記トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む精製された生成物流、ならびに前記シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペン、および前記未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む第2の流れを生成する工程;
前記第2の流れを、金属ハロゲン化物、ハロゲン化金属酸化物、およびゼロ価の金属または金属合金からなる群から選択される少なくとも1種の異性化触媒と接触させる工程であり、前記接触が前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を、異性化した1,3,3,3−テトラフルオロプロペンに異性化するのに十分な反応温度で行われる工程;および、
前記異性化した1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを前記第1の反応器に任意選択で再循環させる工程;
を含む、前記方法。
【請求項12】
前記ヒドロフルオロカーボンが、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
フッ化水素、ならびに金属ハロゲン化物およびハロゲン化金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で1,1,3,3−テトラフルオロプロペンを含む組成物を反応させる工程を含み、前記反応させる工程が、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの少なくとも一方を含む反応生成物に変換するのに十分な反応温度で行われる、フッ素化化合物を製造する方法。
【請求項14】
前記反応生成物が、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応生成物が1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記反応させる工程が、1,1,3,3−テトラフルオロプロペンおよびフッ化水素を1,1,3,3−テトラフルオロプロペン:フッ化水素の比で約1:10から約1:1500含む反応混合物を形成する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記反応温度が、約250から約300℃である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記反応が気相で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法であって、
トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,3,3−テトラフルオロプロペン、フッ化水素、および未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む反応生成物流を生成するのに有効な条件下で、第1の反応器においてヒドロフルオロカーボン反応物質を脱フッ化水素する工程;
前記生成したフッ化水素を前記生成物流から任意選択で除去する工程;
前記反応生成物流を蒸留して、前記トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む精製された生成物流、ならびに前記シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペン、および前記未変換ヒドロフルオロカーボン反応物質を含む第2の流れを生成する工程;
前記第2の流れ、またはその派生物を前記第1の反応器に再循環させる工程;および、
前記第2の流れを、金属ハロゲン化物およびハロゲン化金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の触媒と接触させる工程であり、前記接触がフッ化水素の存在下でおよび前記1,1,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一部を1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの少なくとも一方に変換するのに十分な反応温度で行われる工程;
を含む、前記方法。
【請求項20】
前記接触させる工程が第2の反応器中で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記接触させる工程が、前記第1の反応器で行われる、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−515215(P2012−515215A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546342(P2011−546342)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/021093
【国際公開番号】WO2010/083349
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】