説明

1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体およびその製造方法

【課題】加熱による架橋が可能なペンダントフェニルエチニル基を有するポリイミドなどの高分子化合物の製造に用いられる芳香族ジアミンであって、柔軟性に優れた骨格を有し、ポリイミドの易成形性に寄与するとともに高い架橋密度が期待できる芳香族ジアミンを提供すること。
【解決手段】1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体はポリイミド製造に用いることができる。該化合物は、対応するビスフェノキシブロムベンゼンのエチニル化により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化型ポリイミドの合成などに用いられフェニルエチニル基を有する芳香族ジアミン類およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙空間などの過酷な条件下での使用に耐える高耐熱性・高破壊靭性と易成形性とを併せ持つ高分子材料が求められている。かかる高分子材料について、成形時に良好な加工性を保ちつつ、熱硬化により揮発成分を発生させることなく高耐熱性を賦与する方法としては、ポリイミドオリゴマーの末端を4−フェニルエチニルフタル酸無水物に代表される封止剤で封止する方法(特許文献1)、フェニルエチニル基を有する種々の芳香族ジアミンを用いてオリゴマー鎖中にペンダントフェニルエチニル基を導入する方法、さらには末端および鎖中にフェニルエチニル基を同時に導入する方法などが試みられている(非特許文献1)。フェニルエチニル基を有する芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミンに直接またはスペーサを介してフェニルエチニル基を結合させたジアミン(特許文献2)や、トリフルオロエチリデンジアニリン骨格にフェニルエチニルフェニル基を結合させたジアミン(特許文献3)が知られている。後者は前者よりもジアミン骨格が柔軟性に富むことが期待され、従って硬化前のオリゴマーのより高い加工性および硬化後のより高い架橋密度が期待される。
本発明者らは、ペンダントフェニルエチニル基を有する芳香族ジアミンの柔軟性を更に高めることを目的として鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達したのである。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5567800号公報
【非特許文献1】J. G. Smithら;High Performance Polymer 2000, 12, 213-223.
【特許文献2】米国特許第5606014号公報
【特許文献3】米国特許第5344982号公報
【特許文献4】特開昭60−89454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、熱硬化型ポリイミドの合成などに用いられて、フェニルエチニル基を有する新規な芳香族ジアミンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、下記一般式(1)で表される1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体を提供する。
【化1】

式中、R1がアミノ基のときはR2が水素原子であり、R2がアミノ基のときはR1が水素原子である。すなわち、式(1)中の2つのアミノ基はエーテル結合に対して両者ともメタ位に位置するか、または両者ともパラ位に位置している。
【0006】
また、本発明は、前記した1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体を製造する方法であって、
下記の一般式(2)で表される1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子であり、R1がアミノ基のときはR2が水素原子であり、R2がアミノ基のときはR1が水素原子である。)
または下記の一般式(3)で表される1,3−ビス(アシルアミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子であり、R3がアシルアミノ基のときはR4が水素原子であり、R4がアシルアミノ基のときはR3が水素原子である。)のいずれかと、フェニルアセチレンとの薗頭反応触媒存在下でのカップリング反応を含んでいることを特徴とする製造方法を提供する。
【0007】
そして、前記の製造方法に用いる1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体中のハロゲン原子または1,3−ビス(アシルアミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体中のハロゲン原子として、臭素原子を用いたものを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る新規な1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体は、3つの芳香環と2つのエーテル結合の介在により2つのアミノ基間の距離が長いことから、ジアミン骨格が柔軟性に富む。従って、硬化前のオリゴマーは加工性が高くて成形しやすく、硬化後は高い架橋密度が期待できて高耐熱性および機械物性の強靭な高分子化合物を得ることができる。
【0009】
かかる本発明の1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体は、1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体とフェニルアセチレンを原料とし、既知の薗頭カップリング反応によって確実に得ることができる。
【0010】
そして、前記製造方法に用いる原料として1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼン誘導体を用いると、薗頭カップリング反応で汎用される1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−ヨードベンゼン誘導体と比べて、反応効率に遜色がないうえ、工業的に入手しやすく安価で済むという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の最良の実施形態を説明するが、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
本発明に係る1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体は新規化合物であり、その製造方法は特に限定されないが、主鎖分子用原料としての1,3−ビス(3−または4−アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンと、ペンダント分子用原料としてのフェニルアセチレンとの薗頭反応によるカップリングで合成することができる。主鎖分子用原料中のハロゲン原子としては、沃素原子、臭素原子、または塩素原子が適用可能であるが、薗頭反応での使用実績と入手容易性の観点から沃素原子または臭素原子が好適である。
【0012】
前記した主鎖分子用原料の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンは、例えば上記の特許文献4に開示された方法、すなわち1,3,5−トリハロゲノベンゼンと3−アミノフェノールを縮合させる方法により得ることができる。同じく主鎖分子用原料である1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンも、上記特許文献4開示の方法において、3−アミノフェノールの代わりに4−アミノフェノールを用いることにより得ることができる。
また、1,3−ビス(3−または4−アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンは、上記特許文献4開示の方法において、3−アミノフェノールの代わりに3−ニトロフェノールを用いて得られる1,3−ビス(3−ニトロフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンを還元するか、または4−アミノフェノールの代わりに4−ニトロフェノールを用いて得られる1,3−ビス(4−ニトロフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンを還元することによっても得ることができる。
あるいは、1,3−ビス(3−または4−アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンは、上記の1,3−ビス(3−または4−ニトロフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンを薗頭反応によりフェニルアセチレンとカップリングさせて1,3−ビス(3−または4−ニトロフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼンとした後に還元することにより得ることも可能である。
【0013】
本発明で適用される薗頭反応は、触媒の存在下で芳香族ハロゲン化物にフェニルアセチレンをカップリングさせる反応である。この薗頭反応触媒は、一般に、パラジウム錯体などの主触媒と、ホスフィン化合物などからなるリガンドと、ハロゲン化銅などの助触媒とが適宜組み合わされて使用される。但し、本発明はそれらの組み合わせに限定されるものでない。
【0014】
前記のパラジウム錯体としては、例えばビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジブロミド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。前記のハロゲン化銅としては、例えば沃化銅、臭化銅が挙げられる。
【0015】
また、前記のリガンドであるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリターシャリーブチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリ−n−ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィンなどが挙げられる。
【0016】
前記した薗頭反応触媒の添加量は特に規定されないが、具体的に例えば、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリドの添加量がフェニルアセチレンに対し0.1〜0.5mol%である。トリフェニルホスフィンの添加量はビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリドに対し1〜20倍当量である。また、沃化銅の添加量はビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリドに対し1〜10倍当量である。
【0017】
尚、薗頭反応触媒としてはカーボンに担持されたパラジウムも使用できるが、その場合は反応系にマイクロ波を照射しながら反応させる。
【0018】
そして、薗頭反応におけるフェニルアセチレンの使用量は、一般的に、1,3−ビス(3−または4−アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンに対し1〜10倍当量である。
【0019】
薗頭反応で使用される溶媒は、例えばジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアミン系溶媒である。これらのアミン系溶媒に原料が溶解し難い場合は、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒を加えるとよい。薗頭反応におけるアミン系溶媒の使用量は特に規定されないが、常識的には原料全量に対し2〜10倍重量部である。
【0020】
そして、薗頭反応における反応温度は使用する溶媒の種類によるが、50℃〜90℃である。反応圧力は常圧でよく、反応時間は特に制限されない。
【0021】
一方、主鎖分子用原料の1,3−ビス(3−または4−アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼンは、アミノ基をアシル化してアミドにしたものを用いることも可能である。この場合、薗頭反応によるカップリングでフェニルエチニル基を導入した後に、加水分解によりアシル基を除去することによって目的物を得ることができる。前記のアシル化したアミノ基としては、例えばアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ホルミルアミノ基などが挙げられる。このようにアミノ基をアシル化して用いると、中間体の取り出しが容易になり目的物を効率よく得ることができる。
【0022】
[実施例]
引き続き、下記の実施例によって本発明をより詳細に説明する。これらの実施例も本発明の具体例に過ぎず、これらの実施例により本発明が限定されるものでない。
尚、下記の各実施例で得られた中間体や目的物については、融点などの物理的性状を測定し、核磁気共鳴スペクトル分析、赤外分光分析、質量分析で化学構造を同定した。核磁気共鳴スペクトル分析(1H-NMR、13C-NMR)は日本電子製JNM-AL300型を用いて測定した。1H-NMRは共鳴周波数300MHzで、13C-NMRは共鳴周波数75MHzでそれぞれ測定した。測定溶媒は重水素化ジメチルスルホキシドDMSO-d6である。これらの核磁気共鳴スペクトル分析において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、mはマルチプレット、brはbroad、arm.はaromaticの略称である。赤外分光分析(FT-IR)は日本分光製FT/IR−4100型を用いてKBr錠剤法で測定した。質量分析(MS)は日本電子製JMS−600型を用いてEI法で測定した。
【実施例1】
【0023】
「1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン(下記一般式(4))の合成」
【化4】

【0024】
「第1段目(1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼンの合成)」
4−アミノフェノール76.4g(0.700mol)、水酸化ナトリウム28.0g(0.700mol)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)320mL、トルエン40mL、水40mLを反応容器内で窒素気流下135℃まで加熱して4−アミノフェノールを溶解させた。135℃で1時間保温後、ディーンスタークトラップで水50mLを回収した。100℃まで冷却後、DMI320mL、1,3,5−トリブロモベンゼン100g(0.318mol)を加え、160℃で23.5時間、170℃で2時間、175℃で2.5時間反応させた。減圧蒸留でトルエンとDMIを併せて500mL回収し、残液を水1Lにパージした。よく撹拌して静置した後、下層として得られたオイル状の物質に21.7%塩酸730g(4.346mol)を加え、100℃まで加熱後、室温まで冷却した後に吸引濾過した。濾過ケーキを10%食塩水350gで洗浄し乾燥して1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼンの粗塩酸塩142gを得た。この粗塩酸塩に2%イソプロパノール500mLを加え、81℃で0.5時間加熱後、室温まで冷却し濾過して、熱スラリー洗浄とした。この熱スラリー洗浄をさらに1回行い、室温でのスラリー洗浄を1回行って精塩酸塩183.0g・wet(湿潤状態)を得た。精塩酸塩に水1.5L、活性炭5gを加え、50℃で10分間加熱後に濾過し、濾液に30%塩酸350gを滴下して塩酸塩を析出させた。濾過して得た塩酸塩を1Lの水でスラリー化し10%アンモニア水でpHを8に調整した。このスラリー物を濾過して得た濾過ケーキを水500mLで2回浸漬洗浄して乾燥し、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼンを得た。収量66.7g、LC純度96.5%(液体クロマトグラフィで検出)、収率55%、融点106〜107℃。1H-NMR(ppm):6.78(d、arm.H、4H)、6.58(d、arm.H、4H)、6.55(d、arm.H、2H)、6.33(t、arm.H、1H)、5.09(br、-NH2、4H)。13C-NMRにより8本の吸収が存在し、IR分析により1626cm-1及び1575cm-1にアミノ基の吸収を示し、また質量分析により分子量が371であることによって、中間体の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼンであると同定した。
【0025】
「第2段目(薗頭カップリング反応)」
1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼン71.8g(0.187mol)、トリエチルアミン480g、DMF100mLを反応容器に仕込み容器内を窒素置換した。この反応系に沃化銅1.1g、トリフェニルホスフィン5.9g、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド0.9gを加え、室温で10分間攪拌後にフェニルアセチレン24.6g(0.241mol)を加えた。窒素置換後、65℃で24時間さらに75℃で2時間反応させた。攪拌を止めて分液し、下層をトリエチルアミン100mLでスラリー洗浄した。このスラリー洗浄をさらに1回行いトリエチルアミン層(上層)を除いた後、下層にメタノール160gを加えて濾過した。この濾液に水160gを加えて粗結晶68.4gを析出させた。生成した粗結晶を72%メチルセロソルブ水230g、活性炭5gで熱濾過および再結晶の操作を6回繰り返して精製した。析出物を乾燥させて、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼンを得た。収量38.4g、LC純度99.2%、収率52%、融点157.4〜158.4℃。1H-NMR(ppm):7.52(t、arm.H、1H)、7.50(d、arm.H、2H)、7.37(d、arm.H、2H)、6.80(d、arm.H、4H)、6.60(d、arm.H、4H)、6.54(d、arm.H、2H)、6.45(t、arm.H、1H)、5.03(br、-NH2、4H)。13C-NMRにより14本の吸収が存在し、IR分析により1619cm-1、1583cm-1及び1279cm-1にアミノ基の吸収を示し、また質量分析により分子量が392であることによって、目的物の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼンであると同定した。
【実施例2】
【0026】
「1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン(下記一般式(5))の合成」
【化5】

【0027】
「第1段目(1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼンの合成)」
3−アミノフェノール76.4g(0.700mol)、水酸化ナトリウム28.0g(0.700mol)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)320mL、トルエン40mL、水40mLを反応容器内で窒素気流下135℃まで加熱して3−アミノフェノールを溶解させた。135℃で1時間保温後、ディーンスタークトラップで水50mLを回収した。100℃まで冷却後、DMI320mL、1,3,5−トリブロモベンゼン100g(0.318mol)を加え、160℃で22時間、170℃で2時間、175℃で3時間、180℃で1時間反応させた。減圧蒸留でトルエンとDMIを併せて500mL回収し、残液を水1Lにパージした。よく撹拌して静置した後、下層として得られたオイル状の物質に21.7%塩酸730g(4.346mol)、10%食塩水550gを加え、100℃まで加熱後、室温まで冷却して粗結晶の塩酸塩286.0gを得た。この塩酸塩286.0gにイソプロパノール200mLを加え、室温でスラリー洗浄を行った。この室温でのスラリー洗浄を4回、さらに80℃でのスラリー洗浄を1回行って塩酸塩を精製した。精製した塩酸塩171.7g・wetに水2.5Lおよび活性炭10g・wetを加え50℃で加熱溶解した後に濾過した。濾液を10%アンモニア水で中和した後に乾燥させて、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼンを得た。収量60.0g、LC純度97.6%、収率50%。
【0028】
「第2段目(アシル化反応)」
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼン60g(0.158mol)、無水酢酸41g(0.402mol)、酢酸200gを80℃で1.5時間加熱した。反応液を2Lの水にパージして固体を析出させ、室温で濾過した。得られた濾過ケーキを水1Lでスラリー洗浄し、10%アンモニア水でpH7まで中和した後に乾燥させて、1,3−ビス(3−アセトアミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼンを得た。収量72.0g、GC純度94.5%(ガスクロマトグラフィで検出)、収率98%。
【0029】
「第3段目(薗頭カップリング反応)」
1,3−ビス(3−アセトアミノフェノキシ)−5−ブロモベンゼン72.0g(0.158mol)、トリエチルアミン480g、DMF100mLを仕込み窒素置換した。この溶液に沃化銅1.0g、トリフェニルホスフィン5.0g、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド0.7gを加え、室温で10分間攪拌後にフェニルアセチレン20.9g(0.204mol)を加えた。窒素置換後に65℃で23時間、さらに75℃で2時間反応させた。攪拌を止めて分液し、下層をトリエチルアミン200mLでスラリー洗浄した。このスラリー洗浄をさらに2回行い、水500mLを加えて粒状化した。次に、4%塩酸500mLで洗浄し、水500mLで洗浄した後に濾過して、1,3−ビス(3−アセトアミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン109.6g・wetを得た。
【0030】
「第4段目(脱アシル化反応)」
1,3−ビス(3−アセトアミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン109.6g・wet、62.5%硫酸330g、酢酸190g、水580gを101℃で62時間反応させた後、反応液を水1.5Lにパージして結晶を析出させた。室温で濾過し、濾過ケーキを水1.5Lに加えてスラリー化した後、14%アンモニア水でpHを8に調整した。スラリー化物を濾過して得た濾過ケーキに活性炭15g、メチルセロソルブ300gを加えて加熱した後、再度濾過した。濾液に水160gを加えて析出した析出物を濾過し乾燥させて、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼンを得た。収量28.5g、LC純度98.8%、収率46%(第3段および第4段を含めた収率)、融点134.9〜135.7℃、1H-NMR(ppm):7.54(t、arm.H、1H)、7.52(d、arm.H、2H)、7.40(d、arm.H,2H)、7.02(t、arm.H、2H)、6.76(d、arm.H、2H)、6.63(t、arm.H、1H)、6.37(d、arm.H、2H)、6.26(s、arm.H、2H)、6.17(d、arm.H、2H)、5.29(br、-NH2、4H)。13C-NMRにより16本の吸収が存在し、IR分析により1624cm-1、1573cm-1、及び1282cm-1にアミノ基の吸収を示し、また質量分析により分子量が392であることによって、目的物の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼンであると同定した。
【実施例3】
【0031】
「ポリイミドフィルムの作成」
実施例1で得た1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン1.07g(2.72mmol)をNMP11mLに溶解し、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物2.01g(6.82mmol)を加えて室温で1時間反応させた。その後、希釈剤としての1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン1.19g(4.08mmol)を加え、室温で3時間攪拌して得たポリアミド酸溶液をガラス板上に塗布し、60℃で4時間加熱し、次いで減圧下に60℃で12時間乾燥させた。そして、減圧下に150℃で0.5時間、200℃で0.5時間、250℃で1時間加熱してイミド化した後、ガラス板から剥がして未架橋ポリイミドフィルムを得た。この未架橋フィルムを窒素雰囲気中で370℃に1時間、更に430℃に10分間加熱して架橋させ、架橋ポリイミドフィルムを得た。
【0032】
[比較例1]
実施例3で用いた1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼンの代わりに、下記一般式(6)で表わされる1,3−ジアミノ−4−[4−(フェニルエチニル)フェノキシ]ベンゼン0.91g(3.02mmol)を用い、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの使用量を1.11g(3.78mmol)としたこと以外は、実施例3と同様に実験操作をして未架橋フィルムおよび架橋フィルムを得た。
【化6】

【0033】
[比較例2]
実施例3で用いた1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼンの代わりに、比較例1における1,3−ジアミノ−4−[4−(フェニルエチニル)フェノキシ]ベンゼン0.41g(1.36mmol)を用い、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの使用量を1.59g(5.44mmol)としたこと以外は、実施例3と同様に実験操作をして未架橋フィルムおよび架橋フィルムを得た。
【0034】
上記した実施例3、比較例1、および比較例2により得た各フィルムの物性を下記の表1に示す。表1において、全ジアミン中の含有率(mol%)は、フェニルエチニル基を有する芳香族ジアミンとフェニルエチニル基を持たない芳香族ジアミンを含む全体モル数に対するフェニルエチニル基を有する芳香族ジアミンのモル数の割合を示したものである。ガラス転位点Tgは走査型示差熱分析装置(ティー・エイ・インスツルメント社製のDSC−2010型)で測定したものである。架橋後フィルムの伸び(%)は引っ張り試験機(オリエンテック社製のUTM−II−20型)で架橋後フィルムを一定の力で引っ張って伸びた割合を算出したものである。架橋後フィルムの機械物性は前記の伸び試験の測定結果から評価したものである。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、実施例3のポリイミドフィルムは、未架橋の状態では十分な可塑性があり成形性に優れている。架橋後のフィルムはガラス転位点Tgが高耐熱性の目安となる300℃以上(309℃)となるうえ、強靭で16%の伸びを示すなど優れた性質を有している。
それに対し、比較例2,3により得たフィルムはフェニルエチニル基を有するジアミンが単環のジアミンでありアミノ基間の距離が短いために柔軟性に欠ける欠点を有している。すなわち、全ジアミン中に占めるフェニルエチニル基含有ジアミンの含有率(44.4mol%)が実施例3と同程度である比較例1のフィルムは架橋後のガラス転位点Tg(364℃)が高かったが、伸びが小さくて脆く、フィルムとして不適である。一方、比較例2では、フェニルエチニル基含有ジアミンの含有率を比較例1よりも小さくしているが、未架橋のフィルムは実施例3と比べてガラス転位点Tg(260℃)が高くなり、架橋後のフィルムは伸びが大きく強靭であった。しかしながら、架橋後のガラス転位点Tg(285℃)が300℃を下回り、耐熱性が劣っていた。
【0037】
以上の結果より、上記実施例のジアミン成分が架橋後のフィルムのガラス転位点を充分に高めて高耐熱性に寄与しつつ、分子構造由来の柔軟性により従来の硬い構造を有するジアミンと比べてフィルムに優れた性能を与えていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により提供されるフェニルエチニル基を持つ芳香族アミンは、高耐熱性・高破壊靭性と易成形という両特性を併せ持つ高分子化合物用のモノマーとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体
【化1】

(式中、R1がアミノ基のときはR2が水素原子であり、R2がアミノ基のときはR1が水素原子である。)。
【請求項2】
請求項1に記載の1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体を製造する方法であって、
下記の一般式(2)で表される1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子であり、R1がアミノ基のときはR2が水素原子であり、R2がアミノ基のときはR1が水素原子である。)
または下記の一般式(3)で表される1,3−ビス(アシルアミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子であり、R3がアシルアミノ基のときはR4が水素原子であり、R4がアシルアミノ基のときはR3が水素原子である。)
のいずれかと、フェニルアセチレンとの薗頭反応触媒存在下でのカップリング反応を含んでいることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体中のハロゲン原子または1,3−ビス(アシルアミノフェノキシ)−5−ハロゲノベンゼン誘導体中のハロゲン原子が臭素原子であることを特徴とする請求項2に記載の1,3−ビス(アミノフェノキシ)−5−(フェニルエチニル)ベンゼン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2007−297319(P2007−297319A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125800(P2006−125800)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(391029462)和歌山精化工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】