説明

1,4−ブタンジオールの製造方法

【課題】粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを水素化して1,4−ブタンジオールに変換することにより精製して高純度1,4−ブタンジオールを製造する。
【解決手段】ガンマブチロラクトンを0.01〜10重量%含む粗1,4−ブタンジオールを、マグネシウムと周期表の第10族に属する金属元素が担体に担持された固体触媒と接触させて、該ガンマブチロラクトンを1,4−ブタンジオールに変換することにより高純度の1,4−ブタンジオールを得る1,4−ブタンジオールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを水素化して1,4−ブタンジオールに変換することにより高純度1,4−ブタンジオールを得る1,4−ブタンジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4−ブタンジオール(以下、「1,4BG」と略記することがある)は様々な溶剤や誘導体の原料として使用される極めて有用な物質である。
【0003】
従来、1,4BGを工業的に製造する方法は種々開発されており、例えば、アセチレンをホルムアルデヒドと反応させて得られる1,4−ブチンジオールを接触水素化して1,4BG含有組成物を得る方法(特許文献1)、マレイン酸、コハク酸、無水マレイン酸及び/又はフマル酸を原料とし、これらを水素化して1,4BG含有組成物を得る方法(特許文献2)などがあるが、これらの方法で得られる1,4BG含有組成物には、1,4BG以外にもガンマブチロラクトンなどの副生物が含まれる。
【0004】
特許文献3には、このような1,4BG含有組成物から、高純度の1,4BGを得るための蒸留方法として、粗1,4−ブタンジオール生成物を、3つの蒸留塔を用いて蒸留することによりガンマブチロラクトンを分離して、高純度の1,4BGを得る方法が記載されている。この方法によってある程度のガンマブチロラクトンの分離は可能であるが、完全な分離は容易ではなく、少量のガンマブチロラクトンが製品1,4−ブタンジオールに混入することがある。
【0005】
1,4−ブタンジオール中の微量のガンマブチロラクトンを除去する或いはその濃度を低減するには、ガンマブチロラクトンを水素化して1,4−ブタンジオールに変換する方法が考えられる。
【0006】
従来、ガンマブチロラクトンを水素化して1,4−ブタンジオールに変換する方法としては、例えば、銅及び珪素または銅、クロム及びマンガンまたは銅、クロム、マンガン及びバリウムを含む固体触媒の存在下に、ガンマブチロラクトンを気相で接触水素化して1,4BG及びテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記することがある)を製造する方法(特許文献4)や、ルテニウムを必須成分として含み、且つニッケル、コバルト及び亜鉛などからなる混合物金属酸素化触媒を用いて、無水マレイン酸、マレイン酸、無水コハク酸、ガンマブチロラクトン、及びこれらの2種以上の混合物からなる酸素原子含有のC4炭化水素から、1,4−ブタンジオール及びテトラヒドロフランを製造する方法(特許文献5)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭62−4174号公報
【特許文献2】特許2930141号公報
【特許文献3】特表2010−518174号公報
【特許文献4】特開平3−178943号公報
【特許文献5】特公平4−59303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のガンマブチロラクトンの水素化方法のうち、特許文献4に記載の方法は、気相条件下での水素化反応であり、水素化原料を気化するための熱量を多く必要とする。一方で、特許文献5に記載の方法は、貴金属のルテニウムを触媒必須成分とするため、触媒コストが高くなる恐れがある。更に、特許文献4〜5には記載されていないが、特許文献1〜2に記載の方法等で得られる1,4BG含有組成物中のガンマブチロラクトンの水素化を想定した場合、ガンマブチロラクトンに対して1,4BGが過剰に存在する条件下では、ガンマブチロラクトンの水素化で1,4BG以外の1,4BG多量体などの高沸点副生物も多く生成するため、高純度の1,4BGを得るには、工業的に有利な方法とは言えなかった。
【0009】
本発明は、粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを水素化して1,4BGに変換することにより精製して高純度1,4BGを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ガンマブチロラクトンの含有量が0.01〜10重量%の粗1,4−ブタンジオールであれば、これをマグネシウムと周期表の第10族に属する金属元素が担体に担持された固体触媒と接触させることで、高沸点副生物の生成を抑制して、効率よく粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンの水素化を行うことが可能であることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] ガンマブチロラクトンを0.01〜10重量%含む粗1,4−ブタンジオールを、マグネシウムと周期表の第10族に属する金属元素が担体に担持された固体触媒と接触させて、該ガンマブチロラクトンを1,4−ブタンジオールに変換することにより高純度の1,4−ブタンジオールを得ることを特徴とする1,4−ブタンジオールの製造方法。
【0013】
[2] 前記固体触媒中の周期表の第10族に属する金属成分の含有量が5〜80重量%である[1]に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【0014】
[3] 前記固体触媒の担体がシリカであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【0015】
[4] 前記固体触媒が充填された充填層に、前記粗1,4−ブタンジオールを流通させることにより、該粗1,4−ブタンジオールを該固体触媒と接触させることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガンマブチロラクトンを含む粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを効率的に1,4−ブタンジオールに変換して粗1,4−ブタンジオールを精製することができる。即ち、本発明によれば、例えば、粗1,4−ブタンジオールを、固体触媒が充填された充填層に流通させるなどの方法で固体触媒と接触させることにより、高沸点副生物の生成を抑制して粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを工業的有利に水素化して高転化率、高選択率で1,4−ブタンジオールに変換することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
[1,4−ブタンジオールの製造方法]
本発明の1,4−ブタンジオールの製造方法は、ガンマブチロラクトンを0.01〜10重量%含む粗1,4−ブタンジオールを、マグネシウムと周期表の第10族に属する金属元素(以下「10族金属元素」と称す場合がある。)が担体に担持された固体触媒と接触させて、該ガンマブチロラクトンを1,4−ブタンジオールに変換することにより高純度の1,4−ブタンジオールを得ることを特徴とする。
【0019】
<作用機構>
本発明の1,4−ブタンジオールの製造方法は、粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを水素化して1,4−ブタンジオールに変換することにより高純度1,4−ブタンジオールを得る方法であって、以下の(1),(2)の条件を満たすことを特徴とする。
(1) 粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトン含有量が0.01〜10重量%であること
(2) マグネシウムと10族金属元素を担体に担持した固体触媒を用いること
【0020】
上記(1),(2)の条件を採用することにより、高沸副生物の生成を抑制してガンマブチロラクトンを効率的に水素化して高純度1,4−ブタンジオールを製造することができる作用機構の詳細は明らかではないが、以下のように推定される。
【0021】
従来、ガンマブチロラクトンの水素化に際しては、溶媒としてジオキサン、THF、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエンなどが使用されており、1,4−ブタンジオールに含まれるガンマブチロラクトンの水素化は行われていなかった。その理由としては、ガンマブチロラクトンを水素化して1,4−ブタンジオールを得る反応は可逆反応であり、反応系に溶媒として1,4−ブタンジオールが存在すると反応が押し切れず、反応速度が遅いという欠点があることが挙げられる。
また、水素化の固体触媒としては、通常ルイス酸、ブレンステッド酸を触媒成分として含有するものを用いることが知られており、このような固体触媒を用いた場合、水素化で生成した1,4−ブタンジオールや反応系内に存在する1,4−ブタンジオールが高沸点副生物へと変換され消失することがあった。
【0022】
しかし、本発明のように、マグネシウムと10族金属元素を担体に担持した固体触媒を用い、例えば、この固体触媒を充填した充填層への流通方式で粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを水素化することで、このような問題がなくなり、しかも、各種の1,4−ブタンジオール製造工程で得られるガンマブチロラクトンを微量含む1,4BG含有組成物をそのまま水素化することも可能となり、これらの1,4BG含有組成物中の微量のガンマブチロラクトンを容易に1,4BGに変換することが可能となった。
これは、固体触媒中の10族金属元素が触媒活性に優れること、マグネシウム成分が触媒上の酸性分を中和して副反応を抑制すること、によるものと考えられる。特に、水素化反応を触媒充填層流通方式とすることにより、ガンマブチロラクトンについては触媒との接触効率が上がり、その水素化が活性化され、一方で、1,4−ブタンジオールについては多量体化の反応が抑制され、より一層効率的な水素化が行えるものと考えられる。
【0023】
<粗1,4−ブタンジオール>
本発明で水素化に供する粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンの濃度は、0.01重量%以上であり、好ましくは0.1重量%以上であり、特に好ましくは1.0重量%以上である。この量が多くなるほど、本発明の効果は大きくなり、1,4−ブタンジオール製造プロセスにおけるガンマブチロラクトンの分離負荷を軽減できる傾向にある。一方、粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンの濃度は10重量%以下であり、好ましくは7重量%以下であり、特に好ましくは5重量%以下である。この値が小さくなるほど、本発明の水素化反応における圧力、触媒量、反応温度などの負荷を低減できる傾向にある。
【0024】
なお、ガンマブチロラクトンの濃度が上記範囲となる粗1,4−ブタンジオールは、市販の1,4−ブタンジオールにガンマブチロラクトンを混合して調製してもよいが、アセチレンをホルムアルデヒドと反応させて得られる1,4−ブチンジオールを接触水素化して得られる1,4BG含有組成物中には、通常上記濃度範囲のガンマブチロラクトンが存在しているので、この1,4BG含有組成物を粗1,4−ブタンジオールとしてそのまま使用してもよい。また、この1,4BG含有組成物を蒸留等の方法で精製して、ガンマブチロラクトンと1,4BG以外の成分を分離してガンマブチロラクトン濃度に調整して用いてもよい。
【0025】
また、マレイン酸、コハク酸、無水マレイン酸及び/又はフマル酸を原料として、それらを水素化して得られる1,4BG含有組成物にも、通常上記濃度範囲内のガンマブチロラクトンが存在しているので、この1,4BG含有組成物をそのまま粗1,4−ブタンジオールとして使用してもよい。また、この1,4BG含有組成物を蒸留等の方法で精製して、ガンマブチロラクトンと1,4BG以外の成分を分離してガンマブチロラクトン濃度に調整して用いてもよい。
【0026】
更に、これら製法において1,4BG含有組成物からガンマブチロラクトンを蒸留除去してもよく、この蒸留分離の程度により、粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンの量が決定される。
【0027】
なお、水素化に供する粗1,4−ブタンジオールを、市販の1,4−ブタンジオールにガンマブチロラクトンを混合して調製する場合、ガンマブチロラクトンは市販のものを使用することができる。また、無水マレイン酸の水素化、マレイン酸の水素化、無水コハク酸の水素化、コハク酸の水素化、1,4−ブタンジオールの脱水素などにより得られたガンマブチロラクトンを使用してもよい。
【0028】
水素化に供する粗1,4−ブタンジオール中には、その他の成分として、ガンマブチロラクトンと1,4−ブタンジオール以外に、水、ブタノールなどのアルコール、2−ブタノンなどのケトン、ブチルアルデヒドなどのアルデヒド、酢酸などのカルボン酸を含有していても差し支えない。
通常これらの1,4−ブタンジオール以外のその他の成分量は、粗1,4−ブタンジオール中の濃度として5重量%以下が好ましく、更に好ましくは2重量%以下であり、特に好ましくは1重量%以下である。
【0029】
<固体触媒>
本発明における固体触媒は、担体にマグネシウムと10族金属元素、即ちニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)の1種又は2種以上を担持したものである。これら10族金属元素のうち、触媒コストと触媒活性の面でニッケルが最も好ましい。
【0030】
なお、固体触媒中のニッケル等の10族金属元素の形態は、金属単体であっても、酸化ニッケル等の酸化物、水酸化物、その他各種の塩などであっても差し支えない。金属単体に対して酸化物等の比率が高い場合には、反応を開始する前に水素ガスで事前に還元活性化処理を行うなどして、金属単体に変換する処理を行うことも可能であるが、そのまま反応を開始しても差し支えない。即ち、水素化反応系には水素ガスが導入されるため、反応中にこれらの酸化物等は還元されて活性金属元素となる。
マグネシウムについても金属元素そのもので含有されていても、酸化物、水酸化物、その他各種の塩の形態で含有されていても差し支えない。
【0031】
一方、担体としては、シリカや珪藻土等の1種又は2種以上を好ましく用いることができ、特に好ましくはシリカである。
【0032】
固体触媒中の10族金属元素成分含有量(ここで、固体触媒中の10族金属元素成分含有量とは、10族金属元素が金属酸化物等の形態である場合は、その金属酸化物等としての含有量である。)は5重量%以上、80重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは15重量%以上、80重量%以下、特に好ましくは50重量%以上、80重量%以下である。
また、固体触媒中のマグネシウムの含有量(ここで、固体触媒中のマグネシウムの含有量は、マグネシウムが酸化物等の形態である場合は、その酸化物等としての含有量である。)は、0.1重量%以上、20重量%以下が好ましく、更に好ましくは0.5重量%以上、15重量%以下、特に好ましくは1重量%以上、10重量%以下である。
【0033】
一方、固体触媒中の担体の含有量は、5重量%以上、95重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは7重量%以上、80重量%以下、特に好ましくは10重量%以上、60重量%以下である。
【0034】
上記範囲よりもマグネシウム及び10族金属元素成分含有量が少なく、担体含有量が多いと触媒有効成分としての10族金属元素量及び助触媒成分としてのマグネシウム量が不足することにより高い水素化効率を得ることができず、上記範囲よりもマグネシウム及び10族金属元素成分含有量が多く、担体含有量が少なくても、触媒強度低下のために高い水素化効率を得ることができない。
【0035】
本発明における固体触媒は、マグネシウムと10族金属元素を含有していれば、その他の金属元素を含んでいても差し支えない。ただし、本発明で用いる固体触媒は、ルテニウムは含まない。含んでいてもよい他の金属元素としては、例えば、クロム、マンガン、亜鉛、ナトリウム、レニウム、カルシウムなどが挙げられ、特にナトリウムを含有することが好ましい。これらの金属元素も金属元素そのもの、酸化物、水酸化物、その他各種の塩の形態で含有されていても差し支えない。
【0036】
本発明における固体触媒が、ナトリウム等の10族金属元素及びマグネシウム以外の金属成分(ただし、ルテニウムを除く)を含有する場合、固体触媒中のその含有量(ここで、10族金属元素及びマグネシウム以外の金属成分の含有量とは、その他の金属元素が金属酸化物等の形態である場合は、その金属酸化物等としての含有量である。)は、0.1重量%以上、20重量%以下が好ましく、更に好ましくは0.5重量%以上、15重量%以下、特に好ましくは1重量%以上、10重量%以下である。
【0037】
このようなその他の金属成分の併用で、触媒活性の向上を図ることができるが、その含有量が少な過ぎると十分な併用効果を得ることができず、多過ぎると相対的に10族金属元素成分、マグネシウム及び担体の含有量が少なくなって、本発明に係る固体触媒本来の水素化触媒活性、及び選択率が損なわれる恐れがある。特に1,4−ブタンジオールが高沸点副生物へと変換され消失する割合が増加してしまう。
【0038】
なお、固体触媒の形状や大きさには特に制限はなく、粉末状、顆粒状、粒状、更にはペレット状等の成形品であっても良い。また、固体触媒の大きさについても任意であるが、例えばペレット状に成形された固体触媒の場合、直径1〜20mmで、厚さ1〜20mmであることが好ましい。
このような固体触媒は、担体を10属金属塩及びマグネシウム塩の水溶液中に浸漬して金属塩を担持させた後、焼成し、必要に応じて成形するなどの方法で製造することができる。
【0039】
<反応方法>
粗1,4−ブタンジオールを固体触媒に接触させてガンマブチロラクトンを1,4−ブタンジオールに変換する反応方法(固体触媒との接触方法)については特に制限はないが、前述のように、触媒との接触効率の面から、固体触媒が充填された充填層に、粗1,4−ブタンジオールを流通させる触媒充填層流通方式を採用することが好ましい。
【0040】
触媒充填層流通方式における反応形式は固定床、トリクルベッド、多管式など種々の固体触媒による一般的な充填層型の水素化用反応器の全てが使用可能であるが、好ましくは固定床反応器ならびにトリクルベッド反応器のいずれかである。この反応器は一機、あるいは複数機を使用することが可能である。
【0041】
<反応条件>
本発明で水素化を行う際の反応温度は好ましくは0〜200℃、より好ましくは30〜150℃、更に好ましくは40〜120℃の範囲である。この温度が高すぎると、触媒劣化が促進されてしまう。更に高沸副生物の量が増大してしまう。反応温度が低すぎると反応はほとんど進行しない。
【0042】
水素化における水素ガス圧力はゲージ圧力で0.1〜100MPaの範囲、好ましくは0.5〜10MPa、更に好ましくは1〜6MPaの範囲である。この圧力が低すぎると、反応速度が遅く生産性が低下する。圧力が高すぎた場合には反応器の耐圧負荷、コンプレッサー負荷が増大し、建設費が大幅に増加してしまう。
【0043】
また、触媒充填層流通方式において、空塔基準での反応液の滞留時間は、5分以上が好ましく、より好ましくは10分以上であり、特に好ましくは30分以上である。また、100時間以下が好ましく、更に好ましくは50時間以下、特に好ましくは10時間以下である。この滞留時間が短すぎると水素化反応はほとんど進行しない。また、長すぎる場合には触媒充填層が長大となり反応器の設備費増加及び触媒量増加により経済性が大幅に悪化してしまう。
【0044】
上記の空塔基準の滞留時間から求められるように、触媒充填量は1分あたりの導入液流量に対して、5容量倍以上が好ましく、より好ましくは10容量倍以上であり、特に好ましくは30容量倍である。また、6000容量倍以下が好ましく、更に好ましくは3000容量倍以下、特に好ましくは600容量倍以下である。触媒充填量が少なすぎると反応はほとんど進行しない。また、触媒充填量が多すぎた場合には触媒コストが増大して経済性が大幅に悪化してしまう。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、反応生成物の分析は内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより行った。その際、内部標準としてn−ドデカンを使用した。ガスクロマトグラフィーは島津製作所社製GC−14A(カラム:DB−WAX)を用いた。
また、以下の実施例及び比較例で用いた固体触媒I〜VIのうち、固体触媒I〜Vは、いずれも担体に金属成分が担持され、打錠成形によりペレット状(直径1〜5mm、厚さ2〜5mm)に成形されたものであり、その担体の種類及び担持物の種類とその固体触媒中含有量は次の通りである。また、固体触媒VIは、以下の通りラネーニッケルである。
【0046】
【表1】

【0047】
また、実施例1〜5及び比較例1〜3において、固体触媒は流通反応装置の反応器にSUS製フィルター、ガラスビーズ層、固体触媒層、ガラスビーズ層、SUS製フィルターをこの順で設けることにより充填した。
【0048】
[実施例1]
反応器容量120ccの流通反応装置を用い、この反応器に50ccの固体触媒Iを充填して、ガンマブチロラクトンを1.7重量%含有する粗1,4−ブタンジオールの水素化を行った。
水素化の反応条件は、温度100℃、水素ガス圧2.0MPaGとした。また、粗1,4−ブタンジオールの流量は50cc/hとした。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は20.0モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.04重量%であった。
【0049】
[実施例2]
固体触媒として固体触媒IIを用いたこと以外は実施例1と全て同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は7.0モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.23重量%であった。
【0050】
[実施例3]
固体触媒として固体触媒Vを用いた以外は実施例1と全て同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は5.3モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.19重量%であった。
【0051】
[実施例4]
固体触媒として固体触媒Vを用い、反応温度を130℃とした以外は実施例1と全て同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は11.3モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.30重量%であった。
【0052】
[実施例5]
水素ガス圧3.5MPaG、粗1,4−ブタンジオールの流量を17cc/hとした以外は実施例1と全て同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は24.8モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.39重量%であった。
【0053】
[比較例1]
固体触媒として固体触媒IIIを用いた以外は実施例1と全て同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は2.1モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.25重量%であった。
【0054】
[比較例2]
固体触媒として固体触媒IVを用いた以外は実施例1と全て同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は4.1モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.34重量%であった。
【0055】
[比較例3]
固体触媒として固体触媒VIを用いた以外は実施例4と全て同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は20.6モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は1.11重量%であった。
【0056】
[比較例4]
ガンマブチロラクトンを50重量%含有する粗1,4−ブタンジオールを容量100ccのオートクレーブに50g添加し、固体触媒Iを1g用いて回分型の水素化反応を行った。水素化の反応条件は、温度100℃、水素ガス圧力0.9MPaG、反応時間1時間とした。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は2.8モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は0.18重量%であった。
【0057】
[比較例5]
固体触媒として固体触媒IIを用いた以外は全て比較例4と同様に反応を行った。
その結果、ガンマブチロラクトンの1,4−ブタンジオールへの転化率は3.4モル%であり、反応生成液中の高沸副生物の濃度は1.13重量%であった。
【0058】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2より明らかなように、本発明に係るマグネシウムと10族金属元素を担体に担持した固体触媒を用い、触媒充填層流通方式で水素化を行った実施例1〜5では、高沸副生物の生成を抑えて粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトンを効率的に1,4−ブタンジオールに変換することができる。特に、担体としてシリカを用い、マグネシウム及びニッケル担持量の多い固体触媒Iを用いた実施例1,5では、高沸副生物の生成を高度に抑制した上で高い転化率が得られている。
これに対して、ルテニウム担持触媒を用いた比較例2では、ガンマブチロラクトンの転化率も低く、また、高沸副生物の生成量も多い。また、マグネシウムを含有しない固体触媒を用いた場合には、総じてガンマブチロラクトンの転化率に対する高沸副生物の生成量が多い(A/B(×100)の値が大きい)ことが分かる。
実施例1,2とそれぞれ同一の固体触媒を用いて回分式で水素化を行った比較例4,5を対比すると、比較例4,5は、いずれも、粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトン濃度が高く、ガンマブチロラクトンの転化率、高沸副生物生成量ともに、実施例1,2よりも劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマブチロラクトンを0.01〜10重量%含む粗1,4−ブタンジオールを、マグネシウムと周期表の第10族に属する金属元素が担体に担持された固体触媒と接触させて、該ガンマブチロラクトンを1,4−ブタンジオールに変換することにより高純度の1,4−ブタンジオールを得ることを特徴とする1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項2】
前記固体触媒中の周期表の第10族に属する金属成分の含有量が5〜80重量%である請求項1に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項3】
前記固体触媒の担体がシリカであることを特徴とする請求項1又は2に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項4】
前記固体触媒が充填された充填層に、前記粗1,4−ブタンジオールを流通させることにより、該粗1,4−ブタンジオールを該固体触媒と接触させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の1,4−ブタンジオールの製造方法。

【公開番号】特開2013−40169(P2013−40169A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160616(P2012−160616)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】