説明

180度ハイブリッド

【課題】180度ハイブリッド回路として優れた特性を有するマジックTを誘電体導波管により小型に構成し、それをプリント配線板上に搭載できるものを提供する。
【解決手段】 信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成され、信号の伝播方向の一端側が2つに分岐されて3つのポートを有するとともに、その分岐部の底面に誘電体が露出するスロット11を具えた誘電体導波管10、先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロット11に間隔を置いて対向するマイクロストリップ14、マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁17で構成されたキャビティ、を具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯やミリ波帯に利用される180度ハイブリッドの構造に関するもので、小型で低背構造の180度ハイブリッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
180度ハイブリッド回路はマイクロ波帯やミリ波帯の信号処理に広く用いられている。導波管回路で実現した180度ハイブリッド回路としては、広帯域な位相特性を実現できるものとしてマジックTと呼ばれる回路が知られている。しかしながら、導波管によるマジックTは立体回路で大型となるため、プリント配線板上に搭載して利用することはできない。
【0003】
一方、導波管を誘電体により小型化した誘電体導波管を用いてマジックTを構成すれば、金属製導波管による回路よりも小型化できる。しかしながら、単純に小型化しただけでは、依然として立体回路のままであり、プリント配線板上に搭載して利用することはできない。これは小型軽量化している最近の通信機器にとって不都合と言える。
【特許文献1】特開平11−68422号公報
【特許文献2】特開2005−20643号公報
【特許文献3】特開2001−156510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、180度ハイブリッド回路として優れた特性を有するマジックTを誘電体導波管により小型に構成し、それをプリント配線板上に搭載できるものを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は誘電体導波管とマイクロストリップを組み合わせることによって上記の課題を解決するものである。すなわち、信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成され、信号の伝播方向の一端側が2つに分岐されて3つのポートを有するとともに、その分岐部の底面に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管、先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向するマイクロストリップ、マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、を具えることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属製導波管で一般的となっている立体回路であるマジックTを誘電体導波管により、小型化し、平面的な低背構造に変形してプリント配線板上に実装できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
誘電体導波管によるH面分岐回路(T分岐またはY分岐)の底面の分岐部にH形のスロットを設ける。このスロットの長手方向が分岐回路の対称面(E面)に対し平行で対称性を維持する形状とする。さらにこのスロットに対し結合が生じるように、プリント配線板上に形成された開放終端のマイクロストリップが間隙を介して近接配置される。
【0008】
上記スロットとマイクロストリップが収容されるようキャビティが形成されるように導体壁が設けられる。周囲の導体壁はマイクロストリップ線路が進入する一部が取り除かれているのみである。結合部のプリント基板周縁にも導体壁が設けられており、プリント基板と誘電体導波管の底面で形成される平行面と共にキャビティを構成する。
【実施例】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。図1から図3は本発明による180度ハイブリッドの基本構造を示すものである。誘電体導波管10により3つのポートを有するH面分岐回路を形成し、その底面にスロット11を形成する。この誘電体導波管分岐回路は、ポート開口部とスロット部を除き、誘電体材料の全面に導体膜を形成したものである。底面のスロット11に対し、実装基板であるプリント配線板13に形成したマイクロストリップ14の開放端に形成したプローブ15と間隙を介して結合させる。この結合部は導体壁17で囲われており、誘電体導波管10の底面の導体とプリント配線板13の底面の導体に上下から挟まれることにより、結合部はキャビティに収容される構造となる。
【0010】
図1に示した誘電体導波管10とプリント配線板13とが組み合わされて図2に示すような180度ハイブリッドが構成される。図1の例では、誘電体導波管10の底面に設けたスロット11はマイクロストリップ14との結合量が大きくなるようにH形にしている。またマイクロストリップ14を開放終端としたプローブ15はインピーダンス整合を取るために先端の線路幅を細くしてあり、図3に示したように誘電体導波管10の底面に収容されるように折り曲げられている。
【0011】
図4、図5は実際の接続構造の構成図である。マイクロストリップ44が形成されているプリント配線板43には接続部の周囲にビアホール48の列が設けられ導体壁の代用となっている。誘電体導波管によるH面分岐はスペーサ49を介して、プリント配線板43上に固定される。スペーサ49は導電性材料を用いた物を用いてもいいが、樹脂材料やプリント配線板材料で作成し内壁に導体をメッキした物を用いることもできる。いずれにせよ、マイクロストリップの開放終端部とスロットの対向部分を導体壁で収容するような形にできれば良い。誘電体導波管の各ポートは特許第4133747号に示されたような「誘電体導波管−マイクロストリップ変換構造」を用いてマイクロストリップに変換し、プリント配線板上に搭載して利用することができる。または、各ポートに誘電体導波管フィルタや誘電体導波管アンテナを接続して用いることも可能である。
【0012】
以下、本発明による180度ハイブリッドの動作について説明する。図6において、Port3とPort4からTE10モードの入力があった場合の動作を説明する。Port3およびPort4からの入力が逆相であった場合、誘電体導波管のPort2の中心を通るE面は電位がゼロとなる電気壁となる。この場合、Port2にはTE10モードが伝搬しなくなる。電気壁であるE面上では電界が直交するため、誘電体導波管分岐部の底面に形成されたスロットはこの直交電界により励振され、スロットに結合しているマイクロストリップにエネルギーが伝搬する。各部の寸法を調整し、インピーダンス整合を取ることにより、Port3とPort4からの入力の合成電力はPort1に出力されることになる。
【0013】
Port3とPort4からの入力が同相であった場合、E面は磁気壁となり電界ベクトルは全てE面と平行になる。この場合、誘電体導波管分岐部底面のスロットを励起する電界が存在しなくなり、マイクロストリップにはエネルギーが伝搬しない。各部の寸法を調整し、インピーダンス整合を取ることにより、Port3とPort4からの入力の合成電力はPort2に出力されることになる。
【0014】
この受動回路には可逆性があるので、入力と出力のポートを入れ替えて考えると、以下のような動作となる。Port1から入力があった場合、Port2には出力が現れず、Port3とPort4に電力が分配されて現れ、その位相は逆相となる。Port2から入力があった場合、Port1には出力が現れず、Port3とPort4に同相で電力が分配されて現れる。
【0015】
高周波電磁界シミュレータにより本発明による構造のSパラメータを計算した結果を示す。この計算において誘電体導波管は比誘電率4.5の材料を用いており、断面寸法は4.5mm×2mmとした。
【0016】
図7はポート1とポート3、4の結合量S31, S41およびポート2とポート3、4の結合量S32, S42を示す。23GHzから29GHzの動作帯域内で-3dBの結合量となっている。図8はポート間のアイソレーションを示す。理想的な動作においては、ポート1とポート2およびポート3とポート4の間には結合が無い。この計算結果では、23GHzから29GHzの周波数範囲において、S21が-29dB以上、S43が-13dB以上となっており、十分なアイソレーションが得られていることが分かる。各ポートのリターンロス特性は図9に示されているとおり、23GHzから29GHzの範囲において、-12dB以上となっている。
【0017】
図10と図11は位相特性の計算結果である。ポート1から入力があつた場合、ポート3とポート4に生じる出力は理想的には反転した状態になる。この構造においては23GHzから29GHzの範囲で、ポート3とポート4の位相差が180度±2度となっている。またポート2から入力があった場合、ポート3とポート4に生じる出力は理想的には位相差がゼロとなるが、この計算結果においては、23GHzから29GHzの範囲において、±2度の位相差となっている。
【0018】
以上、この計算結果が示すとおり、この回路構造は23GHzから29GHzの範囲で良好な180度ハイブリッド回路として動作することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明による180度ハイブリッドは、上記のようにマイクロ波帯やミリ波帯において、特性の良好な180度ハイブリッド回路として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例を示す分解斜視図
【図2】本発明の実施例を示す分解斜視図
【図3】本発明の実施例を示す部分平面図
【図4】本発明の他の実施例を示す分解斜視図
【図5】本発明の他の実施例を示す分解斜視図
【図6】本発明の動作の説明図
【図7】本発明による180度ハイブリッドの特性の説明図
【図8】本発明による180度ハイブリッドの特性の説明図
【図9】本発明による180度ハイブリッドの特性の説明図
【図10】本発明による180度ハイブリッドの特性の説明図
【図11】本発明による180度ハイブリッドの特性の説明図
【符号の説明】
【0021】
10:誘電体導波管
11:スロット
13、43:プリント配線板
14、44:マイクロストリップ
15:プローブ
17:導体壁
48:ビアホール
49:スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成され、信号の伝播方向の一端側が2つに分岐されて3つのポートを有するとともに、その分岐部の底面に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管、
先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向するマイクロストリップ、
マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、
を具えてなる180度ハイブリッド。
【請求項2】
信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成された誘電体導波管にT型またはY型の分岐が形成されたH面分岐回路が構成され、その分岐部の底面に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管、
先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向するマイクロストリップ、
マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、
を具えてなる180度ハイブリッド。
【請求項3】
当該スロットが、その長手方向が分岐回路の対称面に対して平行で対称性を有するH形である請求項1または請求項2記載の180度ハイブリッド。
【請求項4】
当該マイクロストリップはプリント配線板上に設けられており、その周囲を囲む導体膜が裏面のアース導体とビアホール接続されてキャビティが形成される請求項1または請求項2記載の180度ハイブリッド。
【請求項5】
当該マイクロストリップはプリント配線板上に設けられており、マイクロストリップの先端の周囲を囲む導体が裏面のアース導体とビアホール接続されるとともに、誘電体導波管とプリント配線板との間にスロットに対向する位置に空隙を具えた導体板のスペーサが配置されてキャビティが形成される請求項1または請求項2記載の180度ハイブリッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−141645(P2010−141645A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316571(P2008−316571)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)