説明

2−アルキルマロン酸化合物の製法

【課題】 本発明の課題は、簡便な方法によって、2-アルキリデンマロン酸化合物から高収率で2-アルキルマロン酸化合物を製造することが出来る、工業的に好適な2-アルキルマロン酸化合物の製法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類、アミド類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中、2-アルキリデンマロン酸化合物を還元反応させることを特徴とする、2-アルキルマロン酸化合物の製法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-アルキリデンマロン酸化合物を還元反応させて、2-アルキルマロン酸化合物を製造する方法に関する。2-アルキルマロン酸化合物は、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、2-アルキルマロン酸化合物を還元反応させて、2-アラルキル又はヘテロアラルキルマロン酸化合物を製造する方法としては、例えば、2-カルボメトキシ-4,4-ジメチルペンテン酸メチルと水素化ホウ素ナトリウムをエタノール中で反応させて、収率62%で2-(2,2-ジメチルマロン酸ジメチルを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、冷却した飽和塩化アンモニウム水溶液を用いて後処理を注意深く行わなければならない上に、抽出溶媒として塩化メチレンを使用しなければならない等、単離操作が煩雑となるという問題があり、2-アルキルマロン酸化合物の工業的な製法としては不利であった。
【非特許文献1】Tetrahedron Asymmetry,4(9),2025(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、簡便な方法によって、2-アルキリデンマロン酸化合物から高収率で2-アルキルマロン酸化合物を製造することが出来る、工業的に好適な2-アルキルマロン酸化合物の製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類、アミド類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中、一般式(1)
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Rは、置換基を有していても良いアルキル基、R及びRは、同一又は異なっていても良く、水素原子又は炭化水素基を示す。)
で示される2-アルキリデンマロン酸化合物を還元反応させることを特徴とする、一般式(2)
【0007】
【化2】

(式中、R、R及びRは、前記と同義である。)
【0008】
で示される2-アルキルマロン酸化合物の製法によって解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、2-アルキリデンマロン酸化合物から2-アルキルマロン酸化合物を高収率で製造することが出来る、工業的に好適な2-アルキルマロン酸化合物の製法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の還元反応において使用する2-アルキリデンマロン酸化合物は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Rは、置換基を有していても良いアルキル基であり、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0011】
前記のアルキル基は、置換基を有していても良い。その置換基としては、炭素原子を介して出来る置換基、酸素原子を介して出来る置換基、窒素原子を介して出来る置換基、硫黄原子を介して出来る置換基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0012】
前記炭素原子を介して出来る置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基等のアルケニル基;キノリル基、ピリジル基、ピロリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の複素環基;フェニル基、トリル基、フルオロフェニル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等のアリール基;アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基、ピバロイル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、トルオイル基等のアシル基(アセタール化されていても良い);カルボキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基;トリフルオロメチル基等のハロゲン化アルキル基;シアノ基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0013】
前記酸素原子を介して出来る置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基、ペンチルオキシル基、ヘキシルオキシル基、ヘプチルオキシル基、ベンジルオキシル基等のアルコキシル基;フェノキシル基、トルイルオキシル基、ナフチルオキシル基等のアリールオキシル基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0014】
前記窒素原子を介して出来る置換基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロへキシルアミノ基、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基等の第一アミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、メチルブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、N-メチル-N-メタンスルホニルアミノ基等の第二アミノ基;モルホリノ基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、ピラゾリジニル基、ピロリジノ基、インドリル基等の複素環式アミノ基;イミノ基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0015】
前記硫黄原子を介して出来る置換基としては、例えば、メルカプト基;チオメトキシル基、チオエトキシル基、チオプロポキシル基等のチオアルコキシル基;チオフェノキシル基、チオトルイルオキシル基、チオナフチルオキシル基等のチオアリールオキシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0016】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
及びRは、同一又は異なっていても良く、水素原子又は炭化水素基を示すが、炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;フェニル基、p-トリル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0018】
本発明の還元反応は、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類、アミド類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で行われるが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2-メチルブタン、2-メチルペンタン、2-メチルへキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類が挙げられるが、好ましくはエーテル類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0019】
前記溶媒の使用量は、2-アルキリデンマロン酸化合物1gに対して、好ましくは0.5〜50g、更に好ましくは2〜20gである。
【0020】
本発明の還元反応では、還元剤を用いることが望ましく、使用される還元剤としては、例えば、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素ホウ素カリウム等の水素化ホウ素アルカリ金属;水素化シアノホウ素ナトリウム、水素化シアノホウ素カリウム等の水素化シアノホウ素アルカリ金属が挙げられるが、好ましくは水素化ホウ素アルカリ金属、更に好ましくは水素化ホウ素ナトリウムが使用される。なお、これらの還元剤は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0021】
本発明において使用する還元剤の使用量は、2-アルキリデンマロン酸化合物1モルに対して、好ましくは0.25〜10モル、更に好ましくは0.9〜5モルである。
【0022】
本発明の還元反応は、例えば、2-アルキリデンマロン酸化合物、還元剤及び脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類、アミド類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは-20〜200℃、更に好ましくは0〜120℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0023】
本発明の脱炭酸反応によって2-アルキルマロン酸化合物が得られるが、これは、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な製法によって単離・精製される。
【実施例】
【0024】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例1(2-シクロヘキシルメチルマロン酸ジエチルの合成)
攪拌装置を備えた内容積100mlのガラス製反応容器に、2-シクロヘキシルメチリデンマロン酸ジエチル10.0g(37.3mmol)及びテトラヒドロフラン25mlを加え、氷浴中で冷却させながら、水素化ホウ素ナトリウム0.79g(19.7mmol)をゆるやかに添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮した後、酢酸エチル及び水を加えて分液した。得られた有機層を減圧下で濃縮し、無色油状物として2-シクロヘキシルメチルマロン酸ジエチル4.29gを得た(単離収率;85.1%)。
2-シクロヘキシルメチルマロン酸ジエチルの物性は以下の通りであった。
【0026】
CI-MS;257(M+1)
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));0.85〜0.96(2H,m)、1.11〜1.24(4H,m)、1.27(6H,t,J=7.2Hz)、1.68〜1.73(5H,m)、1.77〜1.82(2H,m)、3.44(1H,t,J=7.5Hz)、4.19(4H,q,J=7.2Hz)
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、2-アルキリデンマロン酸化合物を還元反応させて、2-アルキルマロン酸化合物を製造する方法に関する。2-アルキルマロン酸化合物は、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類、アミド類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、置換基を有していても良いアルキル基、R及びRは、同一又は異なっていても良く、水素原子又は炭化水素基を示す。)
で示される2-アルキリデンマロン酸化合物を還元反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】

(式中、R、R及びRは、前記と同義である。)
で示される2-アルキルマロン酸化合物の製法。
【請求項2】
還元反応を、還元剤を用いて行う請求項1記載の2-アルキルマロン酸化合物の製法。
【請求項3】
還元剤が、水素化ホウ素アルカリ金属である請求項1記載の2-アルキルマロン酸化合物の製法。

【公開番号】特開2006−347889(P2006−347889A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172050(P2005−172050)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】