説明

2−ケトグルコン酸レダクターゼの生産方法

【課題】微生物の細胞を形質転換し、該形質転換細胞に2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼを大量生産させる方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列を含み、かつ、2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチドに、他の特定のオリゴヌクレオチドを結合させ、PCR反応により増幅させたポリヌクレオチドを、pET−28a(+)ベクターのXbaI、SalIサイト導入して作製したプラスミド、または、さらに該プラスミドに、さらに別の特定のオリゴヌクレオチドを結合させ、PCR反応により変異を導入したプラスミドを大腸菌に導入し、該大腸菌を培養して培養物中に産生されたタンパク質を回収することからなる2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼの生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−ケト−D−グルコン酸(2KGA)からD−グルコン酸への変換を触媒する酵素である2−ケトグルコン酸レダクターゼ(2KGR)を大量に生産する微生物を作成する方法に関し、詳しくは、2KGRをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを用いて作製したプラスミド、該プラスミドを導入して得られた形質転換宿主細胞、および該形質転換宿主細胞である微生物を用いて、該酵素を大量生産させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2KGRの基質となる2KGAは、種々の工業的な用途に用いられており、2KGAの含量を把握することは、工業的製品の品質を評価する上で重要となっている。2KGAは、L−アスコルビン酸(ASA、ビタミンC)の原料となるほか、U.Stottmeisterらは、2KGAが立体選択的、あるいは部分選択的に有機合成が可能な材料であるとして、具体的な化合物の製造ルートを明らかにしている(非特許文献1)。すなわち、2KGAは、メチル化後に、α、β型のピラノースやフラクトースなどの糖類や、6員環アミノ酸を合成することが可能であり、また、2KGAは、カルボヒドラジンとの反応により、水溶性の側鎖を有するトリアジノンの合成や、ニトロフェニルヒドラゾンとの反応から、1,2,4−ベンゾトリアジンやベンズイミダゾールの合成も可能である。さらに2KGAから合成した、ニトロフェニルグリコサイドは、1原子を2環が共有して結合するスピロ化合物、例えばスピロ(1,4−ベンゾチアジン−2,2−ピラン)、スピロ(1,4−ベンゾキサジン−2,2−ピラン)、スピロ(ピロド(3,2−b)(1,4−オキサジン−2,2−ピラン))の原料にもなっている。
【0003】
2KGAの定量に用いられる、効率が良く、特異性が高い酵素である2KGRは、微生物の発酵生産により得られ、使用される微生物としては、主にグルコノバクター・リクエファシエンス IFO 12388、グルコノバクター・サブオキシダンス IFO 12528、アセトバクター・ランセンス IFO 12388やアセトバクター・アセンダンス IFO 3299などがある(非特許文献2)。しかしながら、2KGR生産量は表1に示したように、効率の良い充分な生産量とは言えない。
【0004】
【表1】

【0005】
一方、遺伝子がすでに見出され、グルコノバクター・オキシダンス ATCC 621Hのゲノム(非特許文献3)の中にGOX2187として同定されている5−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ(5KGR)では、エシュリッヒ・コリで、5KGRを過剰発現するよう形質転換が試みられている(非特許文献4)。
【非特許文献1】Stottomeister,U.,Aurich,A.,Wilde,H.,Andersch,J.,Schmidt,s.,Sicker,D.J.Ind.Microbiol.Biotechnol.32:651−664,2005
【非特許文献2】Ameyama,M.,and Adachi,O.Methods in Enzymology.89:203−210,1982
【非特許文献3】Prust,C.,Hoffmeister,M.,Liesegang,H.,Wiezer,A.,Fricke,W.F.,Ehrenreich,A.,Gottschalk,G.and Deppenmeier,U.Nat.Biotechnol.23(2):195−200,2005
【非特許文献4】KLASEN,R.,BRINGER−MEYER,S.,and SAHM,H.J.BACTERIOL.177(10):2637−2643,1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術においては、産業上利用価値の高い2KGAを測定するための酵素である2KGRを効率よく供給する優れた方法がなかった。本発明は、微生物の細胞を形質転換し、該形質転換細胞に2KGRを大量生産させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、部分的に精製された酵素のN末端アミノ酸配列から、2KGRの遺伝子をGOX0417として同定し、GOX0417を含むいくつかのプラスミドを作製し、それらのプラスミドを導入した細胞が、2KGRを大量に発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(7)を提供する。
【0009】
(1)配列番号1で示される塩基配列を含み、かつ、2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ(2KGR)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチド。
【0010】
(2)配列番号1で示される塩基配列において、1若しくは複数の塩基が挿入、付加、欠失若しくは置換された配列であって、かつ、2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ(2KGR)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチド。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に記載のポリヌクレオチドがコードする2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ(2KGR)活性を有するタンパク質を、微生物に生産させる方法において、該ポリヌクレオチドに、(a)に記載のオリゴヌクレオチドを結合させ、PCR反応により増幅させたポリヌクレオチドを、pET−28a(+)ベクターのXbaI、SalIサイト導入して作製したプラスミド、または、該プラスミドに、(b)記載のオリゴヌクレオチドを結合させ、PCR反応により変異を導入したプラスミド。
(a)配列番号3と配列番号4からなるオリゴヌクレオチドプライマー対
(b)配列番号5と配列番号6からなるオリゴヌクレオチドプライマー対
【0012】
(4)上記(3)に記載のプラスミドを含む、形質転換宿主細胞。
【0013】
(5)宿主細胞が大腸菌である、上記(4)に記載の形質転換宿主細胞。
【0014】
(6)2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ(2KGR)活性を有するタンパク質を生産させる方法であって、上記(4)または(5)に記載の形質転換宿主細胞を培養し、該培養物中に産生されたタンパク質を回収することを含む、前記生産方法。
【0015】
(7)2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ(2KGR)活性を有するタンパク質が、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質である、上記(6)に記載の生産方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、2KGRはエシュリッヒ・コリで大量に発現することが可能となり、2KGAの定量に必要な2KGRを効率よく生産させることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
2KGRは、グルコノバクター属菌(例えば、グルコノバクター・リクエファシエンス IFO 12388、グルコノバクター・サブオキシダンス IFO 12528、アセトバクター・ランセンス IFO 12388)を、適切な培地で培養し、その細胞抽出液を精製して粗精製物を得ることができる。2KGRのアミノ酸配列の特定は、以下のような方法で可能である。すなわち、2KGRの粗精製物を、電気泳動で分画して、膜転写を行い、タンパク質部分を切り出して、市販のアミノ酸配列測定機、例えば、プロテインシークエンサーModel PPSQ−21(島津製作所製)を使用して、2KGRのN末端アミノ酸からの配列を解析することができる。
【0018】
解析の結果から、2KGRは、NCBIのアクセッションナンバーNC0006677のグルコノバクター・オキシダンス ATCC 621Hゲノムの中のGOX0417座位がコードする配列(配列番号2)を有することがわかった。
【0019】
GOX0417座位の塩基配列は、配列番号1に示すポリヌクレオチドである。本発明のポリヌクレオチドは、2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ(2KGR)活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、またはその相補配列からなるポリヌクレオチドであり、配列番号1で示される塩基配列において、1若しくは複数の塩基が挿入、付加、欠失若しくは置換された配列も含まれる。
【0020】
本発明のポリヌクレオチドは、上記のもののほか、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしているポリヌクレオチドであっても、本発明の2KGRと実質的に同等の活性を有するタンパク質をコードしているものは、本発明に含まれる。
【0021】
本発明は、2KGR活性を有するタンパク質を微生物で大量に生産させるために、微生物細胞の形質転換を行うものである。形質転換のために、宿主である微生物細胞に導入する方法は、通常当業者が行う方法に準じて行うことができる。すなわち、本発明のポリヌクレオチドを増幅させる手段として、グルコノバクター・オキシダンス ATCC 621Hやグルコノバクター・サブオキシダンス IFO 12528のゲノムDNAを鋳型として、定法に従いPCRを行なう。プライマー対は、本発明のポリヌクレオチドを増幅することのできる組み合わせであればどのような組み合わせのものを用いてもよく、例えば、TTCTAGAGGACGTCGAGGCCGCTTGTG(配列番号3)とTGTCGACGCCGAACAGTTCGTGGCATA(配列番号4)の配列を有するオリゴヌクレオチド対を用いることができる。酵素の特定、DNAの結合やDNAの変異など一般的な分子生物学的手法は、Sambrookらの方法(Sambrook,J.et al Molecular cloning:a laboratory manual,3rd ed,vol.1−3.Cold Spring Harbor Press,New York.(2001))に述べられているように行う。PCR反応は、例えばmGeneAmpPCR System 2400(Perkin Elmer社製)やMyCycler Thermal Cycler(BioRad社製)のような市販の装置で行うことができる。
【0022】
本発明のプラスミドは、本発明のポリヌクレオチドを適当なベクター上に連結することにより得ることができる。ベクターとしては、形質転換する宿主中で2KGRを生産させうるものであれば如何なるものでも用いることができ、市販されているベクターのタイプとしては、M13系、pUC系、pBR系pBluescript系、pHSG系、pET系、pGEM−T等があり、宿主細胞および目的物の生産に適したベクターを選ぶことが好ましい。
【0023】
上記ベクターには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、アンピシリンやカナマイシン等の薬剤に対する抵抗遺伝子等が挙げられる。また、組み換えベクターは、宿主細胞である微生物中で本発明の遺伝子を発現することのできるプロモーター、またはその他の制御配列である、例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等を含むことが望ましい。さらに高い発現レベルを得るために、一度行って得られたPCR産物を、さらに別のベクター、例えばpET−28a(+)ベクター (Novagen社製)のXbaI、SalIサイトにクローニングすることもできる。
【0024】
本発明の形質転換体は、宿主を本発明の組み換えプラスミドで形質転換することにより得られる。宿主としては、2KGRを生産することができるものであれば特に限定されず、例えば、エシュリッヒ・コリDH5α、エシュリッヒ・コリXL1−Blue、エシュリッヒ・コリBL21(DE3)等のエシュリッヒ・コリ属菌やバチルス属菌などの細菌、サッカロミセス属菌やチゴサッカロミセス属菌等の酵母、アスペルギルス属菌等の糸状菌等が挙げられる。形質転換の手法は、宿主により適した方法で行なうことができるが、細菌を用いる場合は、例えば、エレクトロポレーションによる方法(Methods in Enzymolgy.194:182−187,1990)等を用いることができる。
【0025】
本発明の2KGRの製造法は、本発明のポリヌクレオチド配列を組み込んだ宿主細胞である菌体を培養し、得られる培養菌体あるいは培養液から2KGRを回収することにより行うことができる。培地及び培養方法は、宿主の種類と組み換えベクター中の発現制御配列によって適当なものを選べばよい。例えば、宿主がエシュリッヒ・コリBL21であり、発現制御配列がlacプロモーターである場合、IPTGを含有する液体培地で培養することにより本発明の2KGRを効率よく生産させることができる。
【0026】
形質転換した微生物細胞で生産した2KGRの分離・精製法は、通常細胞からの2KGRの分離・精製法と同様に行うことができる。2KGRが菌体内、または菌体表面に生産された場合は、菌体を培地から分離し、その菌体を破砕した後、遠心分離、硫安分画、DEAEセルロースカラム、セラミック ハイドロキシアパタイトカラム、CM−セルロースカラム、Superdex S−200カラム等の各種クロマトグラフィーを行ない、2KGRを回収することができる。また、培養液中に2KGRが生産された場合は、遠心分離・ろ過等により菌体を除去したのち、菌体処理液と同様に、硫安分画や、各種クロマトグラフィー等を用いて2KGRを回収することができる。上記の方法により、純度の高い2KGRを得ることができる。
【0027】
本発明の2KGRの活性測定は、NADPHの存在下、2KGAが還元されて、D−グルコン酸とNADPが生成される方法で行う。340nmにおける吸光度の減少から活性が測定される。2KGRの酵素単位は、1マイクロモルのNADPHを1分間に酸化する量を1単位(U)とすることであり、1mgタンパク質あたりの活性単位を比活性して表している。
【実施例1】
【0028】
<2−ケトグルコン酸レダクターゼ(2KGR)遺伝子のクローニング>
【0029】
グルコノバクター・サブオキシダンス IFO12528の培養
グルコノバクター・サブオキシダンス IFO 12528(グルコノバクター・オキシダンス 621Hと分類学上同等)を、CaCO3を補充したポテト培地(グリセロール20g、グルコース5g、イーストエキス(オリエンタル酵母社製)10g、ポリペプトン10g、ポテトエキス液100mlを水に溶解し1lとした。)で、30℃24時間培養した。細菌の成長は赤色フィルターを備えたクレット比色計(Klett Summerson社製)で測定した。
【0030】
グルコノバクター・サブオキシダンス IFO12528からの2KGRの精製
すべての精製工程は4℃で行った。2KGRは、24時間ポテト培地で培養したグルコノバクター・サブオキシダンス IFO12528細胞から精製した。10mM酢酸ナトリウムバッファー(AcB)pH5.0に再けん濁したあと、フレンチプレス細胞破砕機(アミンコ社製)を2回通過させ、細胞の残渣を9000rpmで10分間遠心分離して除去した。細胞膜画分はさらに40000rpmで90分超遠心分離して除去した。得られた溶液画分に、最終濃度が30%になるように硫酸アンモニウムを加え、一夜放置した。
タンパク質の沈殿物は、4℃、9000rpmで30分間遠心分離して除去した。さらに、溶液画分には、最終濃度が80%になるように硫酸アンモニウムを加え、一夜放置した。沈殿したタンパク質を、4℃、9000rpmで30分間遠心分離して集めた。タンパク質は、1mMのβ―メルカプトエタノールを含む10mMのpH6.0リン酸バッファー(バッファーA)に溶解し、少なくとも3時間ずつ2回透析した。
酵素溶液は、さらに、バッファーAで平衡化したDEAE−セルロースカラムで、NaClの0から0.3Mの濃度勾配のクロマトを行った。活性画分を集め、同じ条件で透析を行った。透析したものは、さらに、バッファーAで平衡化したセラミック ハイドロキシアパタイトカラムでクロマトを行った。活性画分は、カラムを通過した画分に見られた。5mMのβ―メルカプトエタノールを含むpH5.0の10mMAcB(バッファーB)で一夜透析した。沈殿物は9000rpmで10分間遠心分離して除去し、上清は、バッファーBで平衡化したCM−セルロースカラムでクロマトを行った。そこで活性画分はNaClの0から0.3Mの濃度勾配のクロマトで溶出した。活性画分を集め、5mMのβ―メルカプトエタノールを含むpH6.0の10mMリン酸バッファー(バッファーC)で透析した。沈殿物を遠心分離で除去し、酵素溶液は、0.1MのNaClを含むバッファーCで平衡化したSuperdex S−200カラムで、40ml/hrのクロマトを行った。その結果、総タンパク量8340mgの細胞抽出液から比活性14ユニット・mg−1の2KGR粗精製物16mgを得た。
【0031】
2KGRの活性測定
2KGRの活性は、NADPH由来の波長340nmの吸光度の減少を25℃で測定した。反応液1mlに10mM の2KGA(シグマ社製)、100マイクロモルのNADPH、50mMリン酸バッファーを加え、pH6.0とした。酵素1単位(U)は、この条件下で1分間に2KGAの1マイクロモルを触媒する酵素量とした。
【0032】
N末端アミノ酸配列のエレクトロブロッティング法
2KGR粗精製物30μgを使ってSDS−PAGE(SDS polyaclylamide gel electophoresis)を行った。pH11.0のN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸バッファー中、100mAで4時間通電して、N−ポリビニリデン ジフルオライド膜上に転写した。膜は、Coomassie Brilliant Blue G−250で着色し、50%メタノールで洗った。現れたバンド部分を切り出し、プロテインシークエンサーModel PPSQ−21(島津製作所社製)を使ってN末端アミノ酸からの配列を解析した。33kDaのタンパク質はN末端のアミノ酸配列がSSXPDILAIDであり、グルコノバクター・オキシダンス ATCC 621Hゲノムの中のGOX0417座位がコードする配列MSSKPDILTIDとほとんど一致した。
【0033】
PCRによる2KGR遺伝子の増幅とプラスミドpET−GOX0417の作製
グルコノバクター・オキシダンス ATCC 621Hゲノム配列を基にして、GOX0417座位を含む遺伝子断片を増幅できるように2つのプライマー、2KGR−1−Xba(配列番号3:TTCTAGAGGACGTCGAGGCCGCTTGTG)と2KGR−2−Sal(配列番号4:TGTCGACGCCGAACAGTTCGTGGCATA)、を設計した。GeneAmpPCR System 2400(Perkin Elmer社製)やMyCycler Thermal Cycler(BioRad社製)を用いて、反応液25μl中PuReTaq Ready−To−Go PCR beadsキット(Amersham Biosciences社製)を使ったPCRで増幅した。この場合、鋳型DNAとして、グルコノバクター・サブオキシダンス IFO 12528のゲノムDNAを使用した。1066bpsのPCR産物が得られ、pGEM−T Easyベクター(Promega社製)にクローニングした。核酸配列は、ABI PRISM310 DNA sequencer(PE Biosystems社製)を使用し確認した。このプラスミドpGEM−GOX0417を導入したエシュリッヒ・コリDH5αで、2KGR活性は、グルコノバクター菌株の培養液中より20倍量を観察した。さらに、高い発現レベルを得るために、1066bpsのPCR産物をpET−28a(+)ベクター(Novagen社製)のXbaI、SalIサイトにクローニングしプラスミドpET−GOX0417を作製した。pET−GOX0417は、pGEM−GOX0417を導入したエシュリッヒ・コリDH5αと比較して、2KGR活性はわずかに増加することが分かった。このように、遺伝子GOX0417は、2KGRに関する遺伝子として認められた。
【実施例2】
【0034】
<遺伝子GOX0417発現プラスミドの改変>
【0035】
プラスミドpET−GOX0417 M6の作製
GOX0417の発現レベルを改善するために、GOX0417のスタートコドンの7塩基上流のリボソーム結合配列AATGGAをGAAGGAへ変異させた。すなわち、エシュリッヒ・コリDH5αで調製したプラスミドpET−GOX0417を鋳型として、PCR反応液には、pET−GOX0417を10ng、Pfu Turbo buffer、各々200nMのプライマーF−RBS−GOX0417(配列番号5:CTAGCTTGAGCGGAACAGAGAAGGAGAGTTTCATGTCATCC)とプライマーR−RBS−GOX0417(配列番号6:GGATGACATGAAACTCTCCTTCTCTGTTCCGCTCAAGCTAG)、250マイクロモルdNTPと2.5ユニットのPfu Turbo DNAポリメラーゼを加え、全量を50μlとした。プライマーF−RBS−GOX0417とプライマー R−RBS−GOX0417は、GOX0417遺伝子のリボソーム結合配列(AATGGA)をGAAGGAへ変異させるように作製した。PCRの温度サイクルは、以下のように行った。95℃で30秒を1サイクル、その後、95℃で30秒、55℃で1分、68℃で6分30秒を16サイクル行い、すべてのサイクルが終了すると最後は37℃に保った。このPCR反応液に20ユニットの制限酵素DpnIを添加し37℃で1時間反応させ、メチル化されていた鋳型のプラスミドを分解し、新しくPCRで増幅されたメチル化されていないプラスミドのみ残るようにした。この変異したプラスミドは、エシュリッヒ・コリ XL1−Blueの形質転換体から得られ、プラスミドの部分変異は、DNA配列で確認した。pET−GOX0417 M6と名づけられたプラスミド(図1)は、エシュリッヒ・コリBL21(DE3)へ形質転換し、発現を確認した。その発現レベルは、pET−GOX0417で変換したエシュリッヒ・コリBL21(DE3)のものより2倍増加した。GOX0417の発現は、IPTGで5時間もしくはそれ以上誘導することで得られた。細胞抽出物を遠心分離した際の残渣である沈殿区分にも見られた(図2)。発現量は、30℃よりも37℃の方が高かった。
【実施例3】
【0036】
<エシュリッヒ・コリでの2KGRの大量発現と精製>
pET−GOX0417M6を用いたエシュリッヒ・コリBL21(DE3)の形質転換体は、50μg/mlのカナマイシンを含むLB培地で、37℃でクレット比色計での値が100(600nmの吸光度で0.8程度)に到達するまで培養した。そのあと、IPTGを最終濃度が1mMになるように加え、成長が350Klettに到達するまで培養した。細胞を集め2回洗浄した。溶液は、実施例1のグルコノバクター・サブオキシダンス IFO12528から2KGRを精製した方法と同様の方法で、pH7.0の5mMのβ―メルカプトエタノールを含む10mMリン酸バッファーで平衡化したDEAEセルロースカラムを用いたクロマトを行った。活性画分をまとめて集め、上記のバッファーで透析し精製2KGRを得た(図3)。精製の概要は表1に示した。この結果から、2KGRはエシュリッヒ・コリで過剰発現することが分かり、培養溶液から1回のカラムクロマトで大容量を容易に調製できた。
【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のプラスミドを導入した形質転換宿主細胞である微生物を用いることにより、2KGRの大量生産が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】2KGR産生のため構築したプラスミドを示す図である。
【図2】プラスミドpET−GOX0417 M6を導入したエシュリッヒ・コリBL21(DE3)で2KGRを産生させ、分離した細胞抽出液(A)と沈殿物(B)のSDS−PAGEを行った結果を示す図である。
【図3】プラスミドpET−GOX0417 M6を導入したエシュリッヒ・コリBL21(DE3)で2KGRを産生させ、各精製段階において、SDS−PAGEを行った結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示される塩基配列を含み、かつ、2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号1で示される塩基配列において、1若しくは複数の塩基が挿入、付加、欠失若しくは置換された配列であって、かつ、2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、またはその相補配列からなる、ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドがコードする2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質を、微生物に生産させる方法において、該ポリヌクレオチドに、(a)記載のオリゴヌクレオチドを結合させ、PCR反応により増幅させたポリヌクレオチドを、pET−28a(+)ベクターのXbaI、SalIサイト導入して作製したプラスミド、または、該プラスミドに、(b)記載のポリヌクレオチドを結合させ、PCR反応により変異を導入したプラスミド。
(a)配列番号3と配列番号4からなるオリゴヌクレオチドプライマー対
(b)配列番号5と配列番号6からなるオリゴヌクレオチドプライマー対
【請求項4】
請求項3に記載のプラスミドを含む、形質転換宿主細胞。
【請求項5】
宿主細胞が大腸菌である、請求項4に記載の形質転換宿主細胞。
【請求項6】
2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質を生産させる方法であって、請求項4または5に記載の形質転換宿主細胞を培養し、該培養物中に産生されたタンパク質を回収することを含む、前記生産方法。
【請求項7】
2−ケト−D−グルコン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質が、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質である、請求項6に記載の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−212039(P2008−212039A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52716(P2007−52716)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】