説明

2−ジハロアシル−3−アミノアクリル酸誘導体の調製方法

本発明は、酸フッ化物をジアルキルアミノアクリル酸誘導体と反応させることにより、塩酸塩不含の2−ジハロアシル−3−アミノアクリル酸エステルを調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸フッ化物をジアルキルアミノアクリル酸誘導体と反応させることにより、塩酸塩不含の2−ジハロアシル−3−アミノアクリル酸エステルを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)の2−ジハロアシル−3−アミノアクリル酸エステルは、活性殺菌成分の前駆体として作用することができるジハロメチル置換ピラゾリルカルボン酸誘導体を調製するための有益な中間体である(国際公開第03/070705号参照)。
【0003】
Tetrahedron Lett.1996年、37巻、8751−8754頁は、対応するクロロアクロレインを置換アミンと反応させると、トリハロアシル化されたアミノアクリル酸エステルが得られることをすでに開示している。出発材料として必要とされるクロロアクロレインは、ビルスマイヤー反応により、対応するトリハロアセトアセテートから得られる。この方法の1つの不利は、三塩化酸化リンをビルスマイヤー反応において用いなければならないことであり、もう1つは、総体的な収率が、工業スケールで不十分なことである。
【0004】
欧州特許出願公開第1000926(A)号明細書は、トリハロアシルアミノプロペノエートが、トリハロアセトアセテートをジアルキルホルムアミドアセタールと反応させることにより得られることを教示している。ここでの不利は、脱アシル化された化合物が副生成物として生じ、所望の生成物から除去されなければならないことであり、このことがさらなるコスト、および収率の低下につながる。
【0005】
国際公開第03/051820号は、2−パーハロアシル−3−アミノアクリル酸誘導体が、3−アミノアクリル酸エステルをパーハロアルキルカルボン酸無水物と反応させることにより得られ得ることを教示している。しかし、塩化水素が、トリエチルアミンの存在下において、α−水素の存在下で脱離されるので、記載の方法は、ジハロアシル置換アミノアクリル酸誘導体を調製するのには適していない。このように形成されるジハロケテンは、非常に不安定な化合物であり(J.Org.Chem.1968年、33巻、816頁参照)、重合する傾向がある。
【0006】
国際公開第2005/042468号は、2−パーハロアシル−3−アミノアクリル酸誘導体が、有機塩基の存在下で3−アミノアクリル酸エステルを酸ハロゲン化物と反応させることにより得られ得ることを開示している。これらの方法は、濾過、または水の後処理により生成物から除去されなくてはならない、等モル量の塩、例えば塩酸塩を形成する。「塩酸塩」の用語が以下に用いられた場合は、本発明に関して、この用語は、塩基との反応により形成するすべての不純物、例えば塩酸塩、HCl、他の塩を含むこととする。しかし、単に濾過によっては、生成物を、塩酸塩から完全に取り去ることはできないので、一定量の塩酸塩が、生成物中に残存する。多くの場合において、多くの2−パーハロアシル−3−アミノアクリル酸、例えば2,2−ジフルオロアセチル−3−アミノアクリル酸は加水分解感応性であるので、水の後処理も不適切である。
【0007】
さらに、有機塩基の使用は、この方法をより高価にし、さらなる廃棄物をもたらす。
【0008】
しかし、2−パーハロアシル−3−アミノアクリル酸エステルのアルキルヒドラジンとの反応は、HClまたは塩酸塩の存在に起因して、閉環の位置選択性を損なうので、2−パーハロアシル−3−アミノアクリル酸エステルから塩酸塩を完全に除去することは、合成上非常に重要である。例えば、わずかに少量の塩酸塩の存在下でさえ、望まれない位置異性体の5−ハロアルキル−4−カルボン酸−ピラゾールの割合が偏って増大することが観測されている。
【0009】
例えば、米国特許第5498624号明細書は、2−(ジフルオロアセチル)−3−アルコキシアクリレートがプロトン性溶媒中でヒドラジンと反応した場合、3−ジフルオロメチルピラゾール誘導体が得られ得ることを教示している。ここでも、高いパーセンテージの望まれない異性体のピラゾールが形成し、所望の異性体の単離がさらなる低下を引き起こすので、この方法の収率に不満な点が残る。したがって、このような方法の工業的使用は、経済的理由のために殆ど不可能である。
【0010】
アルコキシアクリレートのヒドラジン誘導体との閉環反応は、高いパーセンテージ(88%以下)の望まれない5−ハロアルキル−4−カルボン酸−ピラゾールを形成する(J.Het.Chem.1987年、24巻、693頁参照)。
【0011】
ジハロメチルアルコキシアクリレートは、ジハロアセト酢酸エステルから調製される。ジハロアセト酢酸エステルは市販されておらず、それらの調製は、例えばケテンの使用を必要とするので技術的に厳しい。したがって、この化合物は、経済的に実行可能な方法で調製不可能である。
【0012】
国際公開第03/051820号は、2−パーハロアシル−3−アミノアクリル酸誘導体がヒドラジンと反応し、3−パーハロ置換ピラゾールを生成できることを開示している。非プロトン性溶媒の使用により、望まれない異性体の形成を低減することが可能になるが、非プロトン性溶媒の使用は、本発明のジハロゲン化合物への適用について、なお考慮されるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第03/070705号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1000926(A)号明細書
【特許文献3】国際公開第03/051820号
【特許文献4】国際公開第2005/042468号
【特許文献5】米国特許第5498624号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett.1996年、37巻、8751−8754頁
【非特許文献2】J.Org.Chem.1968年、33巻、816頁
【非特許文献3】J.Het.Chem.1987年、24巻、693頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、上述の塩酸塩不純物を含まない2−ジハロアシル−3−アミノアクリル酸エステルが高い総体的な収率で得られ得る、新規でより経済的に実行可能な方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、式(I)
【0017】
【化1】

(式中、
およびRは、C1−12アルキル基、C5−18アリール、C7−19アルキルアリールおよびC7−19アリールアルキル基から、それぞれ独立して選択され、または
およびRは、それらが結合する窒素原子と一緒になって、O、SおよびSO基から選択される1個または2個のさらなるヘテロ原子を場合によって含有することができる、5から6員環を形成することができ、
Yは、(C=O)OR、CNおよび(C=O)NRから選択され、ここで、R、RおよびRは、C1−12アルキル基、C5−18アリール、C7−19アルキルアリールおよびC7−19アリールアルキル基から、それぞれ独立して選択され、RおよびRは、それらが結合する窒素原子、ならびに/またはC、N、OおよびSから選択されるさらなる原子と一緒になって、C1−6アルキル基により置換され得る5または6員環を形成することができ、
およびXは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素である。)
の2−ジハロアシル−3−アミノアクリル酸誘導体の、
式(II)
【0018】
【化2】

(式中、XおよびXは、それぞれ上記に定義される通りである。)の酸フッ化物を、
式(III)
【0019】
【化3】

(式中、R、RおよびYは、それぞれ上記に定義される通りである。)の3−アミノアクリル酸誘導体と反応させることによる、前記反応は塩基の不存在下で行われることを特徴とする調製方法により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般的な定義
本発明に関して、ハロゲン(X)の用語は、別に定義されなければ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるこれらの元素を含み、フッ素、塩素および臭素を用いるのが好ましく、フッ素および塩素を用いるのが特に好ましい。
【0021】
場合によって置換されている基は、一置換または多置換であることができ、この置換基は、多置換の場合において同一でありまたは異なることができる。
【0022】
1個または複数のハロゲン原子(−X)により置換されているアルキル基は、例えば、トリフルオロメチル(CF)、ジフルオロメチル(CHF)、CFCH、ClCH、CFCCl、CFCHFから選択される。
【0023】
本発明に関して、別に定義されなければ、アルキル基は、直鎖、分岐または環状の飽和炭化水素基である。
【0024】
定義「C−C12アルキル」は、本明細書において定義されるアルキル基のための最も広い範囲を含む。具体的にこの定義は、例えば、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルおよびt−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、1,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、n−ヘプチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシルの意味を含む。
【0025】
本発明に関して、別に定義されなければ、アルケニル基は、少なくとも1個の一不飽和(二重結合)を含有する、直鎖、分岐または環状の炭化水素基である。
【0026】
定義「C−C12アルケニル」は、本明細書において定義されるアルケニル基のための最も広い範囲を含む。具体的にこの定義は、例えば、ビニル、アリル(2−プロペニル)、イソプロペニル(1−メチルエテニル)、ブト−1−エニル(クロチル)、ブト−2−エニル、ブト−3−エニル、ヘキサ−1−エニル、ヘキサ−2−エニル、ヘキサ−3−エニル、ヘキサ−4−エニル、ヘキサ−5−エニル、ヘプト−1−エニル、ヘプト−2−エニル、ヘプト−3−エニル、ヘプト−4−エニル、ヘプト−5−エニル、ヘプト−6−エニル、オクト−1−エニル、オクト−2−エニル、オクト−3−エニル、オクト−4−エニル、オクト−5−エニル、オクト−6−エニル、オクト−7−エニル、ノナ−1−エニル、ノナ−2−エニル、ノナ−3−エニル、ノナ−4−エニル、ノナ−5−エニル、ノナ−6−エニル、ノナ−7−エニル、ノナ−8−エニル、デス−1−エニル、デス−2−エニル、デス−3−エニル、デス−4−エニル、デス−5−エニル、デス−6−エニル、デス−7−エニル、デス−8−エニル、デス−9−エニル、ウンデス−1−エニル、ウンデス−2−エニル、ウンデス−3−エニル、ウンデス−4−エニル、ウンデス−5−エニル、ウンデス−6−エニル、ウンデス−7−エニル、ウンデス−8−エニル、ウンデス−9−エニル、ウンデス−10−エニル、ドデス−1−エニル、ドデス−2−エニル、ドデス−3−エニル、ドデス−4−エニルは、ドデス−5−エニル、ドデス−6−エニル、ドデス−7−エニル、ドデス−8−エニル、ドデス−9−エニル、ドデス−10−エニル、ドデス−11−エニル、ブタ−1,3−ジエニル、ペンタ−1,3−ジエニルの意味を含む。
【0027】
本発明に関して、別に定義されなければ、アルキニル基は、少なくとも1個の二不飽和(三重結合)を含有する、直鎖、分岐または環状の炭化水素基である。
【0028】
定義「C−C12アルキニル」は、本明細書において定義されるアルキニル基のための最も広い範囲を含む。具体的にこの定義は、例えば、エチニル(アセチレニル)、プロプ−1−イニルおよびプロプ−2−イニルの意味を含む。
【0029】
本発明に関して、別に定義されなければ、アリール基は、O、N、PおよびSから選択される1種または2種以上のヘテロ原子を有することができる芳香族炭化水素基である。
【0030】
定義「C5−18アリール」は、5から18個の原子を有するアリール基のために本明細書において定義される最も広い範囲を含む。具体的にこの定義は、例えば、シクロペンタジエニル、フェニル、シクロヘプタトリエニル、シクロオクタテトラエニル、ナフチルおよびアントラセニルの意味を含む。
【0031】
本発明に関して、別に定義されなければ、アリールアルキル基(アラルキル基)は、C1−8アルキレン鎖を有することができる、アリール基により置換されたアルキル基であり、アリール骨格中に、O、N、PおよびSから選択される1種または複数のヘテロ原子を有することができる。
【0032】
定義「C7−19アラルキル基」は、骨格およびアルキレン鎖の中に全部で7から19個の原子を有するアリールアルキル基のために本明細書において定義される最も広い範囲を含む。具体的にこの定義は、例えば、ベンジルおよびフェニルエチルの意味を含む。
【0033】
本発明に関して、別に定義されなければ、アルキルアリール基(アルカリル基)は、C1−8アルキレン鎖を有することができるアルキル基により置換されているアリール基であり、アリール骨格中に、O、N、PおよびSから選択される1種または複数のヘテロ原子を有することができる。
【0034】
定義「C7−19アルキルアリール基」は、骨格およびアルキレン鎖の中に全部で7から19個の原子を有するアルキルアリール基のために本明細書において定義される最も広い範囲を含む。具体的にこの定義は、例えば、トリル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−または3,5−ジメチルフェニルの意味を含む。
【0035】
本発明の化合物は、様々な可能な異性体の形、特に、立体異性体、例えば、EおよびZ、トレオおよびエリトロ、ならびに光学異性体の、しかしまた適切であれば互変異性体の混合物の形で、場合によって存在することができる。EおよびZの両方の異性体、ならびにトレオおよびエリトロの異性体、ならびに光学異性体、これらの異性体の任意の所望の混合物、ならびに可能な互変異性体の形が、開示され特許請求される。
【0036】
塩酸塩不純物を含まない、本発明に係る方法により調製される2−ジハロアシル−3−ジアルキルアミノアクリル酸誘導体は、高い収率および選択性で転化され得ることが見出された(3−ジハロメチル−2H−ピラゾール−4−カルボン酸誘導体の比率<<3−ジハロメチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸誘導体)。反応全体は、概略的な反応スキーム1に従う。
【0037】
【化4】

【0038】
酸フッ化物(II)
本発明に係る方法の実施において出発材料として用いられる酸フッ化物は、式(II)による一般的な表現で定義される。式(II)において、XおよびXの基は、それぞれ独立して、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素であり、好ましくはフッ素、塩素および臭素であり、より好ましくは両方の基はフッ素である。
【0039】
式(II)の酸フッ化物は、既知の合成化学物質であり、例えば、スキームIIIにより、テトラフルオロエチルメチルエーテルからの単純な方法で調製され得る(D.England、J.Org.Chem.1984年、49巻、4007−4008頁)。
【0040】
【化5】

【0041】
ジアルキルアミノアクリル酸誘導体(III)
本発明に係る方法の実施において出発材料として用いられるジアルキルアミノアクリル酸誘導体は、式(III)による一般的な表現で定義される。この式において、
およびRは、C1−12アルキル基、C5−18アリール、C7−19アルキルアリールおよびC7−19アリールアルキル基から、それぞれ独立して選択されることができ、または
およびRは、それらが結合する窒素原子と一緒になって、O、SおよびSO基から選択される1個または2個のさらなるヘテロ原子を場合によって含有することができる、5から6員環を形成することができ、
Yは、カルボン酸エステル基((C=O)OR)、ニトリル基(CN)およびアミド基((C=O)NR)から選択されることができ、ここで、R、RおよびRは、C1−12アルキル基、C5−18アリール、C7−19アルキルアリールおよびC7−19アリールアルキル基から、それぞれ独立して選択され、RおよびRは、それらが結合する窒素原子、ならびに/またはC、N、OおよびSから選択されるさらなる原子と一緒になって、C1−6アルキル基により置換され得る5または6員環を形成することができる。
【0042】
好ましくは、
およびRは、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルから、それぞれ独立して選択されることができ、
およびRは、それらが結合する窒素原子と一緒になって、ピペリジニル環またはピロリジニル環を形成することができ、
Yは、(C=O)ORから選択されることができ、ここで、Rはメチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルから選択される。
【0043】
より好ましくは、
およびRは、それぞれメチルであることができ、
Yは、−(C=O)OCであることができる。
【0044】
式(III)のジアルキルアミノアクリル酸エステルは、既知の合成化学物質であり、市販されている。
【0045】
本発明に係る適切なジアルキルアミノアクリル酸エステルの例は、3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリル酸メチル、3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリル酸エチル、3−(N,N−ジエチルアミノ)アクリル酸エチル、3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリロニトリル、N,N−ジメチル−3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリルアミドおよびN,N−ジエチル−3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリルアミドであり、3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリル酸エチルが特に好ましい。
【0046】
ジアルキルアミノアクリル酸エステルの調製方法は、例えば欧州特許出願公開第0608725(A)号明細書に、先行技術において以前に記述されている。
【0047】
ジアルキルアミノアクリロニトリルの調製方法は、例えばRene他により、in Synthesis(1986年)、(5巻)、419−420頁に、先行技術において記述されている。
【0048】
ジアルキルアミノアクリル酸誘導体は、必要であれば、例えば、蒸留により精製され得る。しかし、これは、本発明の反応に関して一般に必要でない。
【0049】
ジアルキルアミノアクリル酸誘導体(III)の、使用される酸フッ化物(II)に対するモル比は、例えば、0.5から3、好ましくは0.8から2、より好ましくは1.0から1.5であることができる。
【0050】
本発明に係る方法は、有機の希釈剤/溶媒の中で好ましくは行われる。この目的について特に適切な例は、脂肪族、脂環式または芳香族の炭化水素、例えば石油エーテル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはデカリン、およびハロゲン化炭化水素、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタンまたはトリクロロエタンである。トルエン、キシレン、クロロベンゼン、n−ヘキサン、シクロヘキサンまたはメチルシクロヘキサンを用いるのが特に好ましく、トルエン、クロロベンゼン、アセトニトリルまたはキシレン、ニトリル、アミド、エーテルを用いるのが極めて好ましい。
【0051】
本発明に係る方法は、塩基の不存在下で、すなわち全種または複数の塩基を添加することなく行われる。本発明に係る方法に関して、「塩基」は、任意の無機または有機の塩基であることができる。
【0052】
有機塩基の例は、第三級窒素塩基、例えば第三級アミン、置換または非置換のピリジン、および置換または非置換のキノリン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、2−、3−、4−ピコリン、2−メチル−5−エチルピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、キノリン、キナルジン、N,N,N,N−テトラメチルエチルジアミン、N,N−ジメチル−1,4−ジアザシクロヘキサン、N,N−ジエチル−1,4−ジアザシクロヘキサン、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、ジアザビシクロノナン(DBN)およびジアザビシクロウンデカン(DBU)である。
【0053】
無機塩基の例は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸水素塩または炭酸塩、および他の無機水性塩基であり、好ましくは、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび酢酸ナトリウムである。
【0054】
塩の、例えば塩酸塩の形成を防止するために、この方法は、塩基の不存在下で行われる。このことは、より好ましくは、反応混合物中に塩基が存在しないことを意味する。実際に、不純物として存在する微量の塩基は不可避である。したがって、「塩基不含」は、反応混合物中の塩基の割合が、反応混合物を基準として1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下であることを意味する。
【0055】
本発明に係る方法を行う際に、比較的狭い温度範囲内で実施する必要がある。実施温度は、一般に−50から100℃、好ましくは−20℃から+50℃、より好ましくは−10℃から+45℃の温度である。
【0056】
本発明に係る方法は、標準圧力下で一般に行われる。しかし、例えば揮発性のジフルオロアセチルフルオリドが使用される場合に、加圧下で実施することも可能である。これに関して、加圧は、0.1から5bar、好ましくは0.15から4bar、より好ましくは0.2から1barを意味する。
【0057】
反応時間は重要ではなく、バッチサイズに従った比較的広い範囲内で選択され得る。原則として、反応時間は、30分から4時間以下、好ましくは45分から2時間の間の範囲内である。
【0058】
本発明(a)に係る方法の実施において、式(II)の酸フッ化物1molに対して、一般に0.5molから3molの間、好ましくは0.5molから1.5molの間、より好ましくは0.9molから1.0molの間の式(III)のジアルキルアミノアクリル酸誘導体が用いられる。
【0059】
反応が終了した後に、この反応混合物は、さらなる精製をすることなく次の反応段階(ピラゾールの合成)において原則として用いられ得る。HFまたはHF塩が、特にHClまたは対応する塩酸塩と比べて、アルキルヒドラジンによる環化の位置選択性を損なわないことは驚くべきことと思われる。したがって、この方法は、式(I)の3−ジハロメチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸誘導体を中間的に単離することなく、ワンポット反応として行われ得る。
【0060】
反応が塩基の存在下で行われるときでさえ、HF塩の除去は同様に必要ない。したがって、アルキルヒドラジンとの、好ましくはメチルヒドラジンとの反応は、収率を低下させることなく同様に行われ得る。
【0061】
調製例
【実施例1】
【0062】
【化6】

【0063】
ジメチルアミノアクリル酸エチル71.6g(0.5mol)をトルエン150ml中に溶解し、混合物を0℃に冷却する。次いで、0−3℃で30−40分以内に、ジフルオロアセチルフルオリド50g(0.5mol)を、この溶液中に攪拌しつつ導入する。0−3℃で3時間攪拌後に、この混合物を室温まで温める。減圧(10mbar)下で溶媒を完全に除去した後に、2−(ジフルオロアセチル)−3−(ジメチルアミノ)アクリル酸エチル105g(理論の95%)が、98面積%(GC分析)の純度で得られる。
H NMR(CDCN):δ=7.88(s,1H)、6.47、6.61および6.74(t,1H)、4.13−4.19(m,2H)、3.32(s,3H)、2.85(s,3H)、1.25−1.28(t,3H)ppm。
【実施例2】
【0064】
ジメチルアミノアクリル酸エチル71.6g(0.5mol)をトルエン150ml中に溶解し、トリエチルアミン0.5molと混合し、この混合物を0℃に冷却する。次いで、0−3℃で30−40分以内に、ジフルオロアセチルフルオリド50g(0.5mol)を、この溶液中に攪拌しつつ導入する。0−3℃で3時間攪拌後に、この反応混合物を室温まで温める。減圧(10mbar)下で溶媒を完全に除去した後に、2−(ジフルオロアセチル)−3−(ジメチルアミノ)アクリル酸エチル108g(理論の98%)が、98面積%(GC分析)の純度で得られる。
H NMR(CDCN):δ=7.88(s,1H)、6.47、6.61および6.74(t,1H)、4.13−4.19(m,2H)、3.32(s,3H)、2.85(s,3H)、1.25−1.28(t,3H)ppm。
【実施例3】
【0065】
【化7】

【0066】
ジメチルアミノアクリル酸エチル71.6g(0.5mol)をトルエン150ml中に溶解し、ジクロロアセチルフルオリド73.7g(0.5mol)の溶液に0−3℃で攪拌しつつ滴下する。0−3℃で3時間攪拌後に、この反応混合物を室温まで温める。減圧(10mbar)下で溶媒を完全に除去した後に、2−(ジクロロアセチル)−3−(ジメチルアミノ)アクリル酸エチル114g(理論の90%)が得られる(融点71−72℃)。
【実施例4】
【0067】
【化8】

【0068】
ジメチルアミノアクリル酸エチル71.6g(0.5mol)をトルエン150ml中に溶解する。混合物を0℃に冷却後に、0−3℃で30−40分以内に、ジフルオロアセチルフルオリド50g(0.5mol)を、この溶液中に攪拌しつつ導入する。その後に、この混合物を0−3℃で3時間攪拌し、次いで−20℃に冷却する。この温度でメチルヒドラジン26.4gをゆっくりと滴下する。次いで、この混合物を0℃でさらに3時間攪拌し、室温まで温め、最後に20−25℃で1時間攪拌する。
【0069】
水500mlを添加後に、トルエン相を除去し、水相を各回トルエン100mlでさらに2回抽出する。合わせたトルエン相を濃縮した後に、3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸エチル(収率:理論の89%)が、91:9(GC−MS分析)の比率で望まれない異性体[5−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸エチル]を含む混合物中に得られる。ヘキサンで洗浄することにより、望まれない異性体を完全に除去することが可能になる。収率:85%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、
およびRは、C1−12アルキル基、C5−18アリール、C7−19アルキルアリールおよびC7−19アリールアルキル基から、それぞれ独立して選択され、または
およびRは、それらが結合する窒素原子と一緒になって、O、SおよびSO基から選択される1個または2個のさらなるヘテロ原子を場合によって含有することができる、5から6員環を形成することができ、
Yは、(C=O)OR、CNおよび(C=O)NRから選択され、ここで、R、RおよびRは、C1−12アルキル基、C5−18アリール、C7−19アルキルアリールおよびC7−19アリールアルキル基から、それぞれ独立して選択され、RおよびRは、それらが結合する窒素原子、ならびに/またはC、N、OおよびSから選択されるさらなる原子と一緒になって、C1−6アルキル基により置換され得る5または6員環を形成することができ、
およびXは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素である。)
の2−ジハロアシル−3−アミノアクリル酸エステルの、
式(II)
【化2】

(式中、XおよびXは、それぞれ上記に定義される通りである。)の酸フッ化物を、
式(III)
【化3】

(式中、R、RおよびYは、それぞれ上記に定義される通りである。)の3−アミノアクリル酸誘導体と反応させることによる、前記反応は塩基の不存在下で行われることを特徴とする調製方法。
【請求項2】
およびRが、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルから、それぞれ独立して選択され、または
およびRが、それらが結合する窒素原子と一緒になって、ピペリジニル環またはピロリジニル環を形成し、
Yが、(C=O)ORから選択され、ここで、Rは、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルから選択され、
およびXが、フッ素、塩素および臭素から、それぞれ独立して選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
およびRが、それぞれメチルであり、
Yが、(C=O)OCであり、
およびXが、両方ともフッ素である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ジアルキルアミノアクリル酸誘導体が、3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリル酸メチル、3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリル酸エチル、3−(N,N−ジエチルアミノ)アクリル酸エチル、3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリロニトリル、N,N−ジメチル−3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリルアミドおよびN,N−ジエチル−3−(N,N−ジメチルアミノ)アクリルアミドからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
反応が、有機溶媒中で行われることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−540477(P2010−540477A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526189(P2010−526189)
【出願日】平成20年9月13日(2008.9.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007612
【国際公開番号】WO2009/043444
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】