説明

2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩の製造方法

【課題】 2−メチル−1,4−ナフトキノンと亜硫酸水素塩の反応により、純度の高い2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩を高率で取得する方法を提供する。
【解決手段】 2−メチル−1,4−ナフトキノンの芳香族炭化水素溶液を、亜硫酸水素塩水溶液に滴下し、5〜35℃の温度範囲で反応させ、得られた反応液に無機塩を添加して析出する結晶を分離することを特徴とする2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−メチル−1,4−ナフトキノンと亜硫酸水素塩の反応により、純度の高い2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩を高率で取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−メチル−1,4−ナフトキノンは、メナジオンあるいはビタミンKとして知られており、抗出血剤として有用である。この化合物は、熱や光により変質し易く、また皮膚に対して刺激性があるので、通常は、亜硫酸水素塩の形で保存、流通されており、その亜硫酸水素塩もまた、医薬品や飼料の添加剤として有用である。
【0003】
2−メチル−1,4−ナフトキノンは、工業的には2−メチルナフタレンの酸化によって製造する方法が有利であり、古くから種々の提案がなされている。その多くは、2−メチル−1,4−ナフトキノンの異性体である6−メチルナフトキノンの副生を抑制することやそれを分離除去することを目的とするものである。一方、2−メチル−1,4−ナフトキノンの亜硫酸水素塩の製造に関しては、専らその分離方法に興味が向けられており、反応収率や副生物等に関しては詳細な検討がなされていなかった。
【0004】
例えば、四塩化炭素と水の存在下に2−メチル−1,4−ナフトキノンと亜硫酸水素塩を反応させて、2−メチル−1,4−ナフトキノン亜硫酸水素塩を含有する水相を分離取得する方法は知られている(特許文献1)。この提案によれば、得られた水相からスプレードライ法によって水を除去する方法、あるいは得られた水相にイソプロパノールなどの溶媒を加えて沈殿させる方法などによって2−メチル−1,4−ナフトキノン亜硫酸水素塩を単離している。しかしスプレードライ法では特殊な設備が必要でエネルギー的に高コストとなり、経済的に不利である。また水と混和性の溶媒を添加して晶出させる方法は多量の溶媒が必要であり、コスト的に不利である。
【0005】
またo−キシレンのような反応溶媒の存在下に、2−メチルナフタレンを酸化させて得られた反応混合物にジエンを添加して、溶媒、2−メチル−1,4−ナフトキノン及び副生物である6−メチル−1,4−ナフトキノンのディールス・アルダー付加物からなる混合物を得て、これに亜硫酸水素ナトリウム水溶液を添加し、2−メチル−1,4−ナフトキノン亜硫酸水素ナトリウム塩を水相として取得し、これからアルコール添加による晶析や塩析によって、2−メチル−1,4−ナフトキノン亜硫酸水素ナトリウム塩を単離する方法も知られている(特許文献2)。
【0006】
さらに上記2方法と異なる単離方法を採用すべく、亜硫酸水素ナトリウム水溶液に、2−メチル−1,4−ナフトキノンの酢酸ブチル溶液を添加して、直接2−メチル−1,4−ナフトキノン亜硫酸水素ナトリウムを析出させる方法も提案されている(特許文献3)。この方法では溶液中に目的物のロスが多いため濾液からの回収が必須であり、その方法も提案されているが、工程が煩雑で工業的には問題がある。
【0007】
【特許文献1】米国特許第3657286号明細書
【特許文献2】特公平7−98773号公報
【特許文献3】特開平10−120614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記いずれの提案においても、2−メチル−1,4−ナフトキノンと亜硫酸水素塩水溶液の反応条件についてはあまり注意が払われておらず、専ら反応後の目的物の分離に力点がおかれている。しかるに本発明者の検討によれば、2−メチル−1,4−ナフトキノンと亜硫酸水素アルカリ金属塩水溶液の反応においては、本来目的とする2位に−SOM基(Mはアルカリ金属)が付加した2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩(以下、MSBと略称することがある)のほかに、3位に−SOM基が付加した異性体である2−メチル−1,4−ナフトキノン−3−亜硫酸水素塩(以下、MSB異性体と略称することがある)が生成し、これらの副生及び分離除去が収率及び品質に大きな影響を及ぼすことを見出した。すなわちMSBは比較的容易に亜硫酸水素塩を脱離して2−メチル−1,4−ナフトキノンに戻るのに対し、MSB異性体は亜硫酸水素塩を脱離し難く、したがってその副生及び最終製品への混入はできるだけ少ないことが望まれた。
【0009】
そこで本発明の目的は、2−メチル−1,4−ナフトキノンと亜硫酸水素塩の反応によって、MSB異性体含量の少ないMSBを収率よく取得する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、2−メチル−1,4−ナフトキノンの芳香族炭化水素溶液を、亜硫酸水素塩水溶液に滴下して反応させ、得られた反応液に無機塩を添加して析出する結晶を分離することを特徴とする2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩の製造方法に関する。上記反応は、好ましくは5〜35℃の温度範囲で行なわれる。また反応液に無機塩を添加して2−メチル−1,4−ナフトキノン亜硫酸水素塩結晶を析出させる温度は、好ましくは5〜15℃の範囲である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2−メチル−1,4−ナフトキノンと亜硫酸水素塩の反応によって、MSB異性体含量が少なく、したがって純度の高い2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩を、高い収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において使用される2−メチル−1,4−ナフトキノンは、いかなる製法によって得られたものでもよい。例えば、2−メチルナフタレンを、過酸化水素、有機過酸、第二セリウム塩、クロム酸などの酸化剤により酸化して得られる2−メチル−1,4−ナフトキノンを使用することができる。しかしながら6−メチル−1,4−ナフトキノンのような副生物の生成が少なく、高純度の2−メチル−1,4−ナフトキノンを工業的に有利に製造できるところから、2−メチルナフタレンを、酢酸のような水溶性溶媒を用いて、パラジウム触媒の存在下に過酸化水素又は有機過酸により液相酸化する方法によって製造したものを用いるのが好ましい。この反応の詳細については、例えば本出願人の出願に係る特願2004−431834号明細書に記載されている。
【0013】
本発明の反応においては、2−メチル−1,4−ナフトキノンを芳香族炭化水素溶液にして、亜硫酸水素塩水溶液と反応させる。2−メチル−1,4−ナフトキノンの溶解に使用される芳香族炭化水素溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、あるいはこれらの混合物等などを挙げることができるが、とくにトルエンを使用することが好ましい。また上記芳香族炭化水素溶液としては、2−メチル−1,4−ナフトキノンの濃度が1〜40重量%、とくに1〜30重量%程度のものを使用するのが好ましい。このような2−メチル−1,4−ナフトキノンの芳香族炭化水素溶液は、上記のような反応によって得られる酸化反応混合物から単離した2−メチル−1,4−ナフトキノンを用いて調製することもできるが、2−メチルナフタレンの酸化反応混合物から芳香族炭化水素を用いて抽出し、溶液として分離したものを使用することもできる。
【0014】
本発明において2−メチル−1、4−ナフトキノンと反応させる亜硫酸水素塩としては、例えば亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素カルシウム、亜硫酸水素ジメチルピリジノールなどを使用することができるが、とくに亜硫酸水素アルカリ金属塩、とりわけ亜硫酸水素ナトリウムを使用することが好ましい。亜硫酸水素塩は、2−メチル−1、4−ナフトキノン1モルに対して、通常1〜2モル、好ましくは1〜1.5モルの割合で使用される。亜硫酸水素塩はまた、通常、亜硫酸水素塩濃度が5〜35重量%程度の水溶液の形で反応に用いられる。
【0015】
本発明の反応においては、とくに2−メチル−1、4−ナフトキノンの芳香族炭化水素溶液と亜硫酸水素塩水溶液の接触方法及び反応温度の選定が重要である。すなわち2−メチル−1、4−ナフトキノンの芳香族炭化水素溶液は、亜硫酸塩水溶液中に徐々に添加する方法、すなわち滴下する方法を採用する必要があり、これによりMSB異性体の生成を抑制することができる。反応のスケールによっても若干異なるが、滴下時間は通常1〜3時間程度である。また反応温度は通常5〜35℃、好ましくは10〜30℃であり、これにより充分な反応速度でしかもMSBを高率で生成させることができる。上記温度より反応温度が高くなるとMSB異性体の生成割合が多くなる傾向となり、また上記温度より反応温度が低くなると、反応速度が低下し、また結晶析出により反応液の流動性が低下して分離操作が容易でなくなる。
【0016】
本発明においては、上記反応によって得られた反応液に無機塩を添加して2−メチル−1、4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩結晶を析出させる。すなわち反応液を単に冷却するのみでも2−メチル−1、4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩結晶を析出させることは可能であるが、流動性が低下し、ハンドリングが困難となるのみならず、目的物の回収率も低い。これに対して塩析させることにより、濾過操作が容易な処理液が得られると共に、高い回収率で2−メチル−1、4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩結晶を得ることができる。
【0017】
塩析に使用される無機塩としては、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウムなどを例示することができる。これら無機塩は、2−メチル−1、4−ナフトキノン基準で、0.1〜0.6重量倍、とくに0.2〜0.4重量倍程度使用するのがよい。また塩析により結晶を析出させる温度は、2−メチル−1、4−ナフトキノンの亜硫酸水素塩の回収率やハンドリングの容易性を考慮すると5〜15℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
[実施例1]
還流冷却器、温度測定管及び電磁攪拌機を備えた300mlのガラス反応容器に、35%亜硫酸水素ナトリウム水溶液30.0gを仕込み、内温を30℃に保ちながら、窒素雰囲気下に、2−メチル−1,4−ナフトキノン10.0gを80.0gのトルエンに溶解した溶液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、2.5時間攪拌した。
【0020】
反応終了後、食塩4.0gを添加し、内容物を5℃に冷却した。5℃で1時間保持した後、析出物を濾別し、乾燥して17.0gの2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩を得た(純度95.0%)。これは仕込み2−メチル−1,4−ナフトキノン基準の収率84.4%であった。また濾別した水層中の2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩と併せた反応収率は88.6%であった。また副生する異性体(2−メチル−1,4−ナフトキノン−3−亜硫酸ナトリウム塩)の収率は6.7%であった。
【0021】
[実施例2]
内温を10℃に保ちながら、2−メチル−1,4−ナフトキノンのトルエン溶液を滴下した以外は実施例1と同様に反応を行った。反応終了後、食塩4.0gを添加し、内容物を5℃に冷却した。5℃で1時間保持した後、析出物を濾別し、乾燥して15.3gの2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩を得た(純度96.0%)。これは仕込み2−メチル−1,4−ナフトキノン基準の収率76.6%であった。また濾別した水層中の2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩と併せた反応収率は80.8%であった。また副生する異性体(2−メチル−1,4−ナフトキノン−3−亜硫酸ナトリウム塩)の収率は2.0%であった。
【0022】
[比較例1]
実施例1で使用したガラス反応容器に、2−メチル−1,4−ナフトキノン10.0gと30.0gのトルエンを仕込み、内温を30℃に保ちながら、35%亜硫酸水素ナトリウム水溶液30.0gを1.0時間かけて滴下した。滴下終了後、3.0時間攪拌した。
【0023】
反応終了後、食塩4.0gを添加し、内容物を3℃に冷却した。3℃で0.5時間保持した後、析出物を濾別し、乾燥して16.8gの2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩を得た(純度94.8%)。これは仕込み2−メチル−1,4−ナフトキノン基準の収率83.0%であった。また濾別した水層中の2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩と併せた反応収率は86.8%であった。また副生する異性体(2−メチル−1,4−ナフトキノン−3−亜硫酸ナトリウム塩)の収率は12.7%であった。
【0024】
[比較例2]
実施例1で使用したガラス反応容器に、2−メチル−1,4−ナフトキノン10.0gと17.0gのトルエンを仕込み、内温を40℃に保ちながら、26%亜硫酸水素ナトリウム水溶液38.9gを1.0時間かけて滴下した。滴下終了後、3.0時間攪拌した。
【0025】
反応終了後、内容物を5℃に冷却した。5℃で0.3時間保持した後、析出物を濾別し、乾燥して10.5gの2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩を得た(純度99.4%)。これは仕込み2−メチル−1,4−ナフトキノン基準の収率54.2%であった。また濾別した水層中の2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩と併せた反応収率は81.6%であった。また副生する異性体(2−メチル−1,4−ナフトキノン−3−亜硫酸ナトリウム塩)の収率は10.9%であった。
【0026】
[比較例3]
実施例1で使用したガラス反応容器に、2−メチル−1,4−ナフトキノン6.2gと216gのトルエンを仕込み、内温を25℃に保ちながら、窒素雰囲気下に25%亜硫酸水素ナトリウム水溶液45gを1.0時間かけて滴下した。滴下終了後、2.0時間攪拌した。
【0027】
反応終了後、析出物を25℃で濾別し、乾燥して7.4gの2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩を得た(純度95.0%)。これは仕込み2−メチル−1,4−ナフトキノン基準の収率59.1%であった。また濾別した水層中の2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸ナトリウム塩と併せた反応収率は78.1%であった。また副生する異性体2−メチル−1,4−ナフトキノン−3−亜硫酸ナトリウム塩)の収率は11.7%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−メチル−1,4−ナフトキノンの芳香族炭化水素溶液を、亜硫酸水素塩水溶液に滴下して反応させ、得られた反応液に無機塩を添加して析出する結晶を分離することを特徴とする2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩の製造方法。
【請求項2】
反応を、5〜35℃の温度範囲で行なうことを特徴とする請求項1記載の2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩の製造方法。
【請求項3】
反応液に無機塩を添加して2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩結晶を析出させる温度を5〜15℃とすることを特徴とする請求項1又は2記載の2−メチル−1,4−ナフトキノン−2−亜硫酸水素塩の製造方法。

【公開番号】特開2006−45093(P2006−45093A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226284(P2004−226284)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(398037527)エア・ウォーター・ケミカル株式会社 (15)
【Fターム(参考)】