説明

2−メチル−1,4−ナフトキノンの製造方法

【解決手段】2−メチルナフタレンと過酸化水素とをカルボン酸溶媒中で反応させ、2−メチル−1,4−ナフトキノンを製造する方法において、
(ア)過酸化水素を事前にカルボン酸溶媒と接触させることにより過カルボン酸を含む混合液を得る工程、及び、(イ)相当直径が1〜10000μmのマイクロ反応器に(ア)工程の混合液及び2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液を流通的に供給して反応させる工程からなることを特徴とする2−メチル−1,4−ナフトキノンの製造方法。
【効果】単位時間あたりの生産効率を飛躍的に向上させ、安定に反応を実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−メチルナフタレンを酸化して、2−メチル−1,4−ナフトキノンを製造する方法に関するものである。2−メチル−1,4−ナフトキノンは、ビタミンK3として知られており、飼料添加剤や止血剤、医薬品中間体などとして有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
一般的に、2−メチル−1,4−ナフトキノンは、2−メチルナフタレンを酸化することで製造されている。工業的には、クロム酸を酸化剤として用いたクロム酸酸化法が主流である。
【0003】
近年では、クロム酸に由来する六価クロムが環境へ悪影響を及ぼすと懸念されているため、クロム酸酸化法に代わる2−メチルナフタレンの酸化法が脚光を浴びている。クロム酸酸化法の代替としては、過酸化水素酸化法や、Ce(IV)を酸化剤に用いた方法、気相酸素酸化法、電解酸化法など、様々な方法が提案されている。なかでも、過酸化水素酸化法は有望と考えられている。過酸化水素は反応後は水になるため、環境に調和した酸化剤として注目されている。
【0004】
過酸化水素を酸化剤として用いた2−メチルナフタレンの酸化法は古くから知られている。特許文献1には、無触媒にて、氷酢酸に溶解した2−メチルナフタレンへ、50℃にて30%過酸化水素水を添加したのち、80℃にて10時間加熱撹拌することで、2−メチル−1,4−ナフトキノンを得る方法が記載されている。また、特許文献2には、無触媒にて、氷酢酸に溶解した2−メチルナフタレンへ、30%過酸化水素水をゆっくりと添加したのち、60〜100℃にて1〜3時間加熱撹拌することで、2−メチル−1,4−ナフトキノンを得る方法が記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの方法では、酸化反応の初期に誘導期が確認されている。誘導期とは、反応基質と反応剤を接触させ加熱を行っても酸化反応がほとんど進行しない期間のことを示す。その結果として反応にはきわめて長い時間を要してしまい、生産効率が悪いという欠点がある。
【0005】
過酸化水素を酸化剤として用いた2−メチルナフタレンの酸化法に、触媒を適用することで生産効率の向上を検討した例も報告されている。特許文献3には、種々の酸触媒または強酸性イオン交換樹脂の存在下にて、酢酸に溶解した2−メチルナフタレンへ、60%過酸化水素水を1時間かけて添加し、50〜90℃にて4〜6時間加熱撹拌することで、2−メチル−1,4−ナフトキノンを得る方法が記載されている。また、特許文献4には、触媒としてパラジウムを置換した強酸性イオン交換樹脂の存在下にて、酢酸に溶解した2−メチルナフタレンへ、60%過酸化水素水を2回に分けて添加し、50〜70℃にて8時間加熱撹拌することで、2−メチル−1,4−ナフトキノンを得る方法が記載されている。また、特許文献5には、触媒としてパラジウム化合物および多量の硫酸の存在下にて、酢酸に溶解した2−メチルナフタレンへ、60%過酸化水素水を15分かけて滴下したのち、50〜80℃にて15〜150分間加熱撹拌することで、2−メチル−1,4−ナフトキノンを得る方法が記載されている。上記の方法でも、酸化触媒と多量の酸触媒とを組み合わせて用いることで生産効率の向上を検討している。
【0006】
しかしながら、これらの方法においても、酸化剤である過酸化水素水はきわめてゆっくりと添加する必要があり、充分な生産効率は得られていない。酸化剤を一度に添加したり、滴下速度を大きくしようとすると、反応熱による過熱のため、酸化剤の分解が激しくなり利用効率が低下してしまうのみならず、爆発や発火を生じる恐れがある。
【0007】
一方、特許文献6には、マイクロ反応器を用いて、芳香族化合物と反応剤を反応させる方法が記載されている。マイクロ反応器とは、マイクロメートルスケール(数μm〜数千μm)の微小空間を有する反応装置を意味する。また、特許文献7、8には、マイクロ反応器を用いて、有機化合物と過酸化物を反応させる方法が記載されている。
【0008】
【特許文献1】米国特許第2373003号明細書
【特許文献2】国際公開特許02/79133号公報
【特許文献3】特開昭53―50147号公報
【特許文献4】特開昭61―227548号公報
【特許文献5】特許3449800号公報
【特許文献6】特表2001―521913号公報
【特許文献7】欧州特許第903174号明細書
【特許文献8】特開平11―171857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、より安全に、かつ、効率良く、2−メチル−1,4−ナフトキノンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、マイクロ反応器を用いれば、過熱を生じることなく、瞬時に酸化剤を混合して、2−メチルナフタレンを酸化できること、ならびに、事前に過酸化水素をカルボン酸溶媒と接触させて過カルボン酸を生成させておけば、反応初期の誘導期を飛躍的に短縮できるうえに、意外にも、酸化剤の分解による気体の発生が少なくできることを見出し、本発明を達成した。
【0011】
すなわち、本発明は、2−メチルナフタレンと過酸化水素とをカルボン酸溶媒中で反応させ、2−メチル−1,4−ナフトキノンを製造する方法において、事前に過酸化水素とカルボン酸溶媒との接触により過カルボン酸を生成させた後に、相当直径が1〜10000μmのマイクロ反応器を用いて、2−メチルナフタレンと反応させることを特徴とする2−メチル−1,4−ナフトキノンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、反応活性種と考えられている過カルボン酸をあらかじめ生成させているため、酸化反応の初期に誘導期がなく、反応に要する時間の短縮が可能である。すなわち、2−メチル−1,4−ナフトキノンの単位時間あたりの生産効率を飛躍的に向上させることができる。
【0013】
また、本発明によれば、事前に過酸化水素とカルボン酸溶媒とを接触させて過カルボン酸へ転化しているため、過酸化水素の分解によるガスの発生を極力少なくできる。したがって、マイクロ反応器内での滞留時間の変動や圧力変動はほとんど確認されず、安定に反応を実施することができる。
【0014】
また、本発明によれば、酸化反応の際に生じる反応熱を効率的に除去できる。したがって、精密な温度制御が可能となり、高温による酸化剤の分解が抑制でき、酸化剤の利用効率を向上できる。2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率又は選択率を向上できる。また、生産時の安全性も向上できる。
【0015】
また、本発明によれば、安全を維持した上で、瞬時に酸化剤を混合することが可能であるため、滴下等に要していた反応時間を短縮することができる。また、従来の滴下法などでは実現困難であった、酸化剤の高濃度状態を実現できるため、反応速度を向上することも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、
(ア)過酸化水素をカルボン酸溶媒と接触させることにより過カルボン酸を含む混合液(酸化剤溶液)を得る工程、及び、
(イ)相当直径が1〜10000μmのマイクロ反応器に(ア)工程の混合液及び2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液を連続的に供給して反応させる工程からなる。
【0017】
本発明の(ア)工程は、カルボン酸に過酸化水素を加えて混合することにより実施される。過酸化水素とカルボン酸溶媒と接触させて、平衡により過カルボン酸を事前に生成させる。カルボン酸と過酸化水素の混合比は、任意に設定できるが、より高濃度の過カルボン酸を生成させるためには、カルボン酸に対する過酸化水素のモル比が2〜15となるように混合する。さらに、過カルボン酸の生成を促進したり、平衡を過カルボン酸側に偏らせるために、硫酸などの酸触媒を添加することが好ましい。
【0018】
(ア)工程の混合操作は、常温で行ってもよいが、より短時間で平衡に達する様に、加熱して行ってもよい。過酸化水素及び過カルボン酸の分解を防止するために、混合時の液温を30〜70℃に保つことが好ましい。硫酸などの酸触媒が添加されている場合には、混合熱及び反応熱の発生が大きいので、熱交換器により混合時の液温過昇を防止し、混合後に昇温することが好ましい。
【0019】
(ア)工程は、カルボン酸と過酸化水素との混合を十分にできる方法であれば、公知のバッチ方式及び流通方式が採用できる。(イ)工程とは別に用意したマイクロ反応器を用いて混合してもよい。用いる過酸化水素は、低濃度品を使用すると過カルボン酸の生成が遅くなってしまい、取り扱いの容易さを考慮すると、30〜60重量%の過酸化水素水溶液が好ましい。また、過カルボン酸の生成を促進するために、無水酢酸などの脱水剤を添加してもよい。
【0020】
本発明の(イ)工程は、相当直径が1〜10000μmのマイクロ反応器に(ア)工程の酸化剤溶液及び2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液を連続的に供給して反応させることにより実施される。
2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液に含まれる2−メチルナフタレン濃度は、1〜6重量%が好ましい。混合液中の平衡状態にある過酸化水素濃度は、3重量%以下が好ましい。また、混合液中の過カルボン酸濃度は、5〜35重量%が好ましい。
【0021】
(イ)工程のマイクロ反応器として、好ましくは、2以上の流入路および1以上の流出路、ならびに、相当直径が1〜10000μm、好適には相当直径が20〜2000μmの微小空間を有する流通式反応器を用いる。また、特に好ましくは、相当直径が1〜10000μm、好適には相当直径が20〜2000μmの微小空間を有する管状反応器を用いる。相当直径とは、マイクロ反応器を反応流体の進行方向に垂直な断面で切断した場合の断面積S、断面周囲長Lにおいて、(4×S/L)で定義される値である。
【0022】
本発明において、用いられるマイクロ反応器の流入路、微小空間、および、流出路の形状に制限はなく、流れ方向に垂直な断面の形状が円形であってもよいし、四角形であってもよい。また、本発明において、用いられるマイクロ反応器の流入路を合流空間の上流で2以上に分岐し、2以上の合流空間を有する反応装置を用いてもよい。本発明において用いられるマイクロ反応器の材質に特に制限はないが、反応溶液に対する耐食性のある材質が使用でき、フッ素樹脂、ステンレス鋼が例示される。
【0023】
また、本発明は、その構成の一つとしてマイクロ静止型混合器を有するマイクロ反応器を用いてもよい。マイクロ静止型混合器とは、マイクロメートルスケール(数μm〜数千μm)の微小空間を有する静止型混合器を意味する。例えば、(ア)工程の酸化剤溶液と2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液とを混合する静的マイクロミキサーに結合した、内径1μm〜10000μmのフッ素樹脂製円管チューブを使用することができる。
【0024】
マイクロ反応器を用いると、酸化反応の際に生じる反応熱を効率的に除去できる。本発明においては、好ましくは、温度制御可能なマイクロ反応器を用いる。温度の制御方法としては、マイクロ反応器を温度制御されたオイルバス等の媒体槽中に浸けてもよいし、マイクロ反応器に電気ヒーターや熱媒流路を取り付けてもよい。本発明において、マイクロ反応器は、40〜130℃の範囲に、好ましくは、70〜100℃の範囲に含まれる設定温度に温度制御される。マイクロ反応器は、好ましくは、温度制御された媒体中に浸漬される。これにより、マイクロ反応器内の反応混合物の温度を前記設定温度から±2℃以内、特に±1℃以内の温度範囲内に制御する。
【0025】
本発明において、カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが用いられる。好ましくは、安価な酢酸が用いられる。また、用いられる溶媒は、適切な脱気処理(溶存している気体が加熱した際に相分離してくる恐れがあるため)や濾過処理(溶媒中の異物がマイクロ反応器の微小流路内に閉塞することを防止するため)を行った後に使用することが好ましい。
【0026】
本発明では、過酸化水素をあらかじめカルボン酸溶媒と接触させ、過カルボン酸を形成したのち、マイクロ反応器の流入路に供給する。例えば、カルボン酸溶媒として酢酸を用いた場合には、下式の平衡反応により、過酢酸を生成させたのちに、マイクロ反応器の流入路に供給する。
H2O2 + CH3COOH = H2O + CH3COOOH
これにより、過酸化水素の分解によるガスの発生を極力少なくできるので、マイクロ反応器内での滞留時間の変動や圧力変動はほとんど確認されず、安定に反応を実施することができる。
【0027】
(ア)工程で得られた過カルボン酸を含む混合液は、一旦中間タンクなどに貯蔵した後に、(イ)工程のマイクロ反応器へ導入しても良いし、(ア)工程と(イ)工程を一続きの連続プロセスとして実施してもよい。2−メチルナフタレン、過酸化水素及びカルボン酸を同時にマイクロ反応器内に送液して、2−メチル−1,4−ナフトキノンを製造しようとした際には、過酸化水素の分解によって気体が発生し、マイクロ流路内部の反応流体は気/液プラグ流になってしまい、滞留時間の変動や圧力変動など反応操作に不安定性を引き起こすため、好ましくない。
【0028】
本発明では、(イ)工程において、混合液中の過カルボン酸の単位時間当たりの供給モル量が、2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液中の2−メチルナフタレンの単位時間当たりの供給モル量に対し2〜6倍とすることが好ましい。また、(イ)工程において、混合液中の過酸化水素の単位時間当たりの供給モル量が、2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液中の2−メチルナフタレンの単位時間当たりの供給モル量に対し1倍以下とすることが好ましい。2−メチルナフタレンに対する過酸化水素の供給モル量比が1倍を超えると、過酸化水素の分解による気泡の発生が顕著となり、反応操作に支障をきたしてしまう。
【0029】
触媒として、酸及び/又は貴金属を使用することができる。酸触媒としては、硫酸、塩酸、リン酸などの鉱酸や、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸、酸性イオン交換樹脂などの固体酸が例示される。貴金属触媒としては、パラジウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、レニウム化合物、ロジウム化合物が例示される。
【0030】
触媒の使用量は、2−メチルナフタレンに対して1/50〜1/1000モル倍量が好ましい。触媒は、溶媒に溶解しても良いし、固体状で使用しても良い。
本発明では、通常、カルボン酸が溶媒となるが、2−メチルナフタレン及び/又は2−メチル−1,4−ナフトキノンが可溶な液体を加えることは差し支えない。
【0031】
本発明によって得られた2−メチル−1,4−ナフトキノンは、従来知られている方法での分離が可能であり、多量の水による析出分離や、有機溶媒による抽出分離、などが適用できる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により制限されるものではない。
過カルボン酸を含む混合液中の平衡状態にある過酸化水素の含有量は、フェロインを指示薬とした硫酸第二セリウム標準液で滴定して求めた。過カルボン酸を含む混合液中の平衡状態にある過カルボン酸の含有量は、ヨードメトリー法により、希硫酸及びヨウ化カリウム共存下にチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定して求めた総過酸化物含有量から、前記求めた過酸化水素の含有量を差し引いて求めた。
【0033】
実施例1
内径が1580μm、長さが4mのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂製チューブ(ジーエルサイエンス(株)製 PFAチューブ)を、流路幅が30μmの静的マイクロミキサー(ドイツ国 IMM社製 Single Mixer)の出口に接続して、マイクロ反応器を作製した。静的マイクロミキサーの2つの入口には、内径が1000μm、長さが1mのステンレス製チューブを接続した。接続部には高速液体クロマトグラフィー用のコネクターを使用したため、簡単に取り付け・取り外しが可能であり、閉塞などのトラブルが生じた際にも容易にチューブを交換できた。また、マイクロ反応器を所定の温度に設定した恒温槽中に浸け、マイクロ反応器からの流出液は直ちに冷却した。
【0034】
2台のシリンジポンプ(米国 Harvard社製 Model 11-IW)を用いて、基質溶液と酸化剤溶液を送液し、上述のマイクロ反応器に導入した。2−メチルナフタレンと過酢酸のモル比を1:3とし、所定の滞留時間となるようにポンプ流量を設定し、70℃に設定したオイルバス中で反応を実施した。なお、基質溶液としては、2−メチルナフタレンを氷酢酸に溶解したのち、触媒として酢酸パラジウムを溶解したもの(2−メチルナフタレンと酢酸と酢酸パラジウムのモル比は1:68:0.007、2−メチルナフタレン含量3.4重量%)を反応器へ供給した。また、酸化剤溶液としては、60%過酸化水素水と氷酢酸と濃硫酸とを事前に混合(混合前の過酸化水素と酢酸と硫酸のモル比は1:1.1:0.5)して調製した平衡過酢酸溶液(平衡後の過酢酸の含量25.5重量%、過酸化水素含量2.6重量%)を使用した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素(過水)のモル比は0.69であった。
【0035】
反応チューブ内の流体の挙動を観察したところ、酸化剤の分解による気体の発生はほとんど確認されなかった。したがって、長時間安定な連続送液を継続することもできた。また、反応チューブ内の液温を測定したところ、反応混合物の温度は恒温槽の設定温度70℃から±1℃以下の温度差範囲にあった。本発明の方法では、反応温度を精密に制御できること、並びに、酸化剤の分解や溶媒の気化による気泡の発生を伴うことなく安定に反応を実施できることが確認された。
【0036】
反応後の混合溶液を、ガラス製容器に一定量はかりとり、多量の冷水を加えて反応を停止(この際に黄色固体が析出)したのち、ベンゼンにて抽出分離を行った。ガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製 GC-17A)を用いて分析したところ、主生成物として2−メチル−1,4−ナフトキノンが得られた。そのほか、副生成物として6−メチル−1,4−ナフトキノンも検出された。残存した2−メチルナフタレンおよび生成した2−メチル−1,4−ナフトキノンを内部標準法にて定量した。結果を表1に示す。滞留時間10分の条件で、2−メチルナフタレンの転化率は97.9%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は53.6%であった。
【0037】
なお、転化率、選択率および収率は、供給した2−メチルナフタレン、残存した2−メチルナフタレン及び生成した2−メチル−1,4−ナフトキノンのモル数から次式で算出した。
転化率(%)={(供給した2−メチルナフタレン)−(残存した2−メチルナフタレン)}/(供給した2−メチルナフタレン)×100
選択率(%)=(生成した2−メチル−1,4−ナフトキノン)/{(供給した2−メチルナフタレン)−(残存した2−メチルナフタレン)}×100
収率(%)=(生成した2−メチル−1,4−ナフトキノン)/(供給した2−メチルナフタレン)×100
【0038】
実施例2
2台のシリンジポンプの流量を上げて滞留時間を4分に短縮した以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例3
内径が1580μm、長さが1mのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂製チューブ(ジーエルサイエンス(株)製PFAチューブ)を、流路幅が30μmの静的マイクロミキサー(ドイツ国 IMM社製 Single Mixer)の出口に接続して、マイクロ反応器を作製した。2台のシリンジポンプの流量設定を変えて滞留時間を2分にした以外は実施例1と同様の操作を実施した。結果を表1に示す。
【0040】
実施例4
2台のシリンジポンプの流量を上げて滞留時間を1分に短縮した以外は実施例3と同様の操作を実施した。結果を表1に示す。
滞留時間を4分、2分、1分と短縮して実施したが、全ての条件で2−メチル−1,4−ナフトキノンの生成が確認されており、誘導期はみられなかった。
【0041】
実施例5
基質溶液として、2−メチルナフタレンを氷酢酸に溶解したのち、触媒として酢酸パラジウムを溶解したもの(2−メチルナフタレンと酢酸と酢酸パラジウムのモル比は1:40:0.007、2−メチルナフタレン含量5.6重量%)を反応器へ供給した。また、酸化剤溶液として、60%過酸化水素水と氷酢酸と濃硫酸とを事前に混合(混合前の過酸化水素と酢酸と硫酸のモル比は1:10:0.5)して調製した平衡過酢酸溶液(平衡後の過酢酸含量10.4重量%、過酸化水素含量0.2重量%)を使用した以外は実施例1と同様の操作を実施した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素のモル比は0.13であった。結果を表1に示す。滞留時間4分の条件で、2−メチルナフタレンの転化率は82.1%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は47.2%であった。
【0042】
実施例6〜8
恒温槽の設定温度を80℃、90℃又は100℃に変えた以外は、実施例5と同様の操作を実施した。結果を表1に示す。
いずれの場合も、反応チュ−ブ内の反応混合物の液温は、恒温槽の設定温度から±1℃以下の温度差範囲にあった。反応チューブ内には微小な気泡の発生は認められたが、支障なく操作を実施することができた。
【0043】
実施例9
2−メチルナフタレンと過酢酸の供給モル比を1:6とし、酸化剤溶液として60%過酸化水素水と氷酢酸と濃硫酸とを事前に混合(混合前の過酸化水素と酢酸と硫酸のモル比は1:5:0.5)して調製した平衡過酢酸溶液(平衡状態での過酢酸の含量14.8重量%,過酸化水素の含量0.5重量%)を使用した以外は実施例5と同様の操作を実施した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素のモル比は0.41であった。結果を表1に示す。滞留時間10分の条件で、2−メチルナフタレンの転化率は100.0%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は54.8%であった。
【0044】
実施例10
2−メチルナフタレンと過酢酸の供給モル比を1:2.5とした以外は実施例1と同様の操作を実施した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素のモル比は0.57であった。結果を表1に示す。滞留時間10分の条件で、2−メチルナフタレンの転化率は87.9%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は51.2%であった。
【0045】
実施例11
2−メチルナフタレンと過酢酸の供給モル比を1:2とした以外は実施例1と同様の操作を実施した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素のモル比は0.46であった。結果を表1に示す。滞留時間10分の条件で、2−メチルナフタレンの転化率は66.8%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は38.9%であった。
【0046】
【表1】

【0047】
比較例1
比較のため、温度計及び撹拌器付き50ml容丸底フラスコを用いて同様の反応を実施した。コンデンサーを連結したガラス製四口丸底フラスコに基質溶液40.0mlを入れ、70℃に設定した恒温槽に浸漬し、撹拌しながら、酸化剤溶液4.2mlを一度に添加した。なお、基質溶液および酸化剤溶液は、実施例1と同様にして調製したものを用いた。
酸化剤溶液を添加した直後に液温度は110℃(溶液の沸点近傍)まで上昇してしまった。過熱による過酢酸の爆発の危険性があるため、即座に反応操作を停止した。
【0048】
比較例2
比較のため、温度計及び撹拌器付き丸底フラスコを用い、酸化剤をゆっくりと滴下することで同様の反応を実施した。コンデンサーを連結したガラス製四口丸底フラスコに基質溶液を入れ、撹拌しながら加熱して液温度を70℃に設定したのち、酸化剤溶液を15分かけて滴下し(2−メチルナフタレンと過酸化水素のモル比は1:3)、撹拌および温度を保持したまま15分間反応を継続した(合計の反応時間は30分)。なお、基質溶液としては、実施例1と同じように調製したものを反応器へ供給した。また、酸化剤溶液としては、60%過酸化水素水と濃硫酸とを事前に混合(混合前の過酸化水素と硫酸のモル比は1:0.5)して調製したものを使用した。
【0049】
酸化剤溶液を15分かけてゆっくりと滴下を行っているにもかかわらず、滴下時には5〜9℃の液温度上昇が確認された。
反応後の混合溶液を、実施例1と同様にガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2−メチルナフタレンの転化率は94.2%、2−メチル−1,4−ナフトキノン収率は55.6%であった。結果を表2に示す。実施例1と比べると、同程度の反応成績を出すのに3倍もの反応時間を要していることがわかる。このことは、実施例1に示したマイクロ反応器の方が、単位時間あたりの2−メチル−1,4−ナフトキノン生産効率が向上していることを示す。
【0050】
比較例3
基質溶液として、2−メチルナフタレンを氷酢酸に溶解したのち、触媒として酢酸パラジウムを溶解したもの(2−メチルナフタレンと酢酸と酢酸パラジウムのモル比は1:70:0.007)を反応器へ供給した。また、酸化剤溶液として、60%過酸化水素水と濃硫酸とを事前に混合したもの(混合前の過酸化水素と硫酸のモル比は1:0.5)を反応器へ供給した。
2−メチルナフタレンと過酸化水素のモル比を1:3とし、それ以外は、実施例1と同様の操作を実施した。滞留時間10分の条件で、同じ実験を3回行った際の転化率、収率、選択率を表2に示す。実施例1と比べると、選択率が低下する傾向が見られた。反応チューブ内の流体の挙動を観察したところ、過酸化水素の分解によって気体が発生し、マイクロ流路内部の反応流体は気/液プラグ流になってしまっていた。そのため,実際の滞留時間には変動が生じており、反応成績の再現性にはバラツキがみられた。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例12(送液装置の改良→高流量化、高圧化)
内径が1580μm、長さが4mのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂製チューブ(ジーエルサイエンス(株)製 PFAチューブ)を、流路幅が30μmの静的マイクロミキサー(ドイツ国 IMM社製 Single Mixer)の出口に接続して、マイクロ反応器を作製した。静的マイクロミキサーの2つの入口には、内径が1000μm、長さが1mのステンレス製チューブを接続した。また、反応器出口には0.69MPaの背圧弁(米国アップチャーチ社製)を取りつけ、気泡の発生を防ぐ工夫をした。
【0053】
2台の高速液体クロマトグラフィー用送液ポンプ(島津製作所(株)製 LC-10Ai,接液部はポリエーテルエーテルケトン樹脂)を用いて、基質溶液と酸化剤溶液を送液し、上述のマイクロ反応器に導入した。2−メチルナフタレンと過酢酸のモル比を1:3とし、滞留時間が30秒となるようにポンプ流量を設定し、70℃に設定したオイルバス中で反応を実施した。なお、基質溶液としては、2−メチルナフタレンを氷酢酸に溶解したのち、触媒として酢酸パラジウムを溶解したもの(2−メチルナフタレンと酢酸と酢酸パラジウムのモル比は1:42.2:0.007、2−メチルナフタレン含量5.3重量%)を反応器へ供給した。また、酸化剤溶液としては、60%過酸化水素水と氷酢酸と濃硫酸とを事前に混合(混合前の過酸化水素と酢酸と硫酸のモル比は1:10:0.5)して調製した平衡過酢酸溶液(平衡後の過酢酸の含量10.3重量%、過酸化水素含量0.2重量%)を使用した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素のモル比は0.13であった。
【0054】
反応チューブ内の流体の挙動を観察したところ、酸化剤の分解による気体の発生は全く確認されなかった。また、反応チューブ内の液温を測定したところ、恒温槽の設定温度70℃から±1℃以下の温度差範囲にあった。
【0055】
反応器出口からの流出液を、事前に冷水を入れておいたガラス製容器に一定量はかりとり、反応を停止(この際に黄色固体が析出)したのち、ベンゼンにて抽出を行った。抽出した有機相をガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製 GC-17A)を用いて分析した。残存した2−メチルナフタレンおよび生成した2−メチル−1,4−ナフトキノンを内部標準法にて定量した。結果を表3に示す。2−メチルナフタレンの転化率は31.8%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は16.9%であった。2−メチル−1,4−ナフトキノンの選択率は53.0%であった。
【0056】
実施例13
恒温槽の設定温度を100℃に変えた以外は、実施例12と同様の操作を実施にした。結果を表3に示す。2−メチルナフタレンの転化率は68.4%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は39.6%であった。2−メチル−1,4−ナフトキノンの選択率は58.0%であった。
【0057】
反応チューブ内の流体の挙動を観察したところ、酸化剤の分解による気体の発生は全く確認されなかった。また、反応チューブ内の液温を測定したところ、恒温槽の設定温度100℃から±1℃以下の温度差範囲にあった。
【0058】
実施例14
反応チューブの長さを20mに変えて滞留時間を2.5分に設定した以外は、実施例12と同様の操作を実施した。結果を表3に示す。2−メチルナフタレンの転化率は72.0%、2−メチル−1,4−ナフトキノンの収率は42.5%であった。2−メチル−1,4−ナフトキノンの選択率は59.0%であった。
【0059】
実施例15(ステンレス製チューブでの検討)
内径が1750μm、長さが1mのステンレス鋼SUS-316製チューブ(スウェージロック(株)製)を、流路幅が30μmの静的マイクロミキサー(ドイツ国 IMM社製 Single Mixer)の出口に接続して、マイクロ反応器を作製した。基質溶液としては、2−メチルナフタレンを氷酢酸に溶解したのち、触媒として酢酸パラジウムを溶解したもの(2−メチルナフタレンと酢酸と酢酸パラジウムのモル比は1:35.0:0.008、2−メチルナフタレン含量6.3重量%)を反応器へ供給した。また、酸化剤溶液としては、60%過酸化水素水と氷酢酸と濃硫酸とを事前に混合(混合前の過酸化水素と酢酸と硫酸のモル比は1:12.5:0.5)して調製した平衡過酢酸溶液(平衡後の過酢酸の含量8.6重量%、過酸化水素含量0.2重量%)を使用した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素のモル比は0.12であった。それ以外は実施例12と同様の操作を実施した。結果を表3に示す。
【0060】
反応チューブ出口から流出する流体は液体であり、酸化剤の分解による気体の発生は全く確認されなかった。
【0061】
実施例16(酢酸パラジウム量を増やしての検討)
基質溶液としては、2−メチルナフタレンを氷酢酸に溶解したのち、触媒として酢酸パラジウムを溶解したもの(2−メチルナフタレンと酢酸と酢酸パラジウムのモル比は1:35.4:0.011、2−メチルナフタレン含量6.3重量%)を反応器へ供給した。また、酸化剤溶液としては、60%過酸化水素水と氷酢酸と濃硫酸とを事前に混合(混合前の過酸化水素と酢酸と硫酸のモル比は1:12.5:0.5)して調製した平衡過酢酸溶液(平衡後の過酢酸の含量8.6重量%、過酸化水素含量0.2重量%)を使用した。マイクロ反応器に導入した時点における反応混合物中の2−メチルナフタレンに対する過酸化水素(過水)のモル比は0.12であった。2台のポンプの流量を変えて滞留時間を10分に設定した。それら以外は実施例12と同様の操作を実施した。結果を表3に示す。
【0062】
実施例17
恒温槽の設定温度を100℃に変え、2台のポンプの流量を変えて滞留時間を30秒に設定した以外は、実施例16と同様の操作を実施にした。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−メチルナフタレンと過酸化水素とをカルボン酸溶媒中で反応させて2−メチル−1,4−ナフトキノンを製造する方法において、
(ア)過酸化水素をカルボン酸と接触させることにより過カルボン酸を含む混合液を得る工程、及び、
(イ)相当直径が1〜10000μmのマイクロ反応器に、(ア)工程の混合液及び2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液を連続的に供給して反応させる工程
からなることを特徴とする2−メチル−1,4−ナフトキノンの製造方法。
【請求項2】
(イ)工程において、マイクロ反応器として、相当直径が20〜2000μmのマイクロ反応器を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(イ)工程において、混合液中の過カルボン酸の単位時間当たりの供給モル量が、2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液中の2−メチルナフタレンの単位時間当たりの供給モル量に対し2〜6倍であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(イ)工程において、混合液中の過酸化水素の単位時間当たりの供給モル量が、2−メチルナフタレンを含むカルボン酸溶液中の2−メチルナフタレンの単位時間当たりの供給モル量に対し1倍以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(イ)工程において、マイクロ反応器が40〜130℃の範囲に含まれる設定温度に温度制御されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(イ)工程において、マイクロ反応器の滞留時間が10分以内に制御されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(イ)工程において、触媒としてパラジウム化合物を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2006−22083(P2006−22083A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345766(P2004−345766)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラムに係る「マイクロ分析・生産システムプロジェクト」」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの。
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】