説明

2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造方法

【課題】2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造において、発泡を抑制し、工業的スケールで容積効率を向上できる製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属炭酸塩類、11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンおよび有機溶媒を含む混合物中に、前記有機溶媒の還流温度で、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンを加えて、前記11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンと前記2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンとを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症の治療薬として用いられるビス{2−〔2−(4−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル−1−ピペラジニル)エトキシ〕エタノール}モノフマレートは、下記式で示される2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールを原料として合成される。
【0003】
【化1】

【0004】
2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造では、通常、まず、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−(10H)−オンとオキシ塩化リンとの反応によって、下記式(I)
【0005】
【化2】

【0006】
で表される11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(以下、「クロロジベンゾチアゼピン(I)」とも略称する)を得る。
【0007】
次いで、前記クロロジベンゾチアゼピン(I)と、下記式(II)
【0008】
【化3】

【0009】
で表わされる2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジン(以下、「ピペラジン化合物(II)」とも略称する)とを反応させ、製造される。
【0010】
クロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)との反応は、通常、有機溶媒の還流下で行われる。その反応方法として、たとえば特開昭63−8378号公報(特許文献1)、国際公開第2006/117700号パンフレット(特許文献2)、国際公開第2007/020011号パンフレット(特許文献3)、米国特許出願公開第2006/0063927号明細書(特許文献4)に開示された方法などが知られている。
【0011】
特許文献1〜3には、クロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)および溶媒としてキシレンあるいはトルエンの混合物を、溶媒の還流下に反応を行う方法が開示されている。特許文献4には、クロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)、溶媒としてトルエンおよび炭酸カリウムの混合物を、溶媒の還流下に反応を行う方法が開示されている。
【0012】
特許文献1〜3に記載された方法はいずれも、用いるクロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)とを混合し、次いで加熱を行って溶媒のキシレンあるいはトルエンの還流下で反応を行う方法である。
【0013】
また、特許文献4に記載された方法は、クロロジベンゾチアゼピン(I)、ピペラジン化合物(II)および炭酸カリウムを混合した後、溶媒の還流下に加熱して反応を行う方法である。この方法は、クロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)との反応によって副生する塩化水素あるいはピペラジン化合物(II)の塩酸塩などを、炭酸カリウムによって中和する反応方法である。この特許文献4に記載された方法は、特許文献1〜3に記載された方法と比較し反応性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭63−8378号公報
【特許文献2】国際公開第2006/117700号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/020011号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0063927号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された方法は、反応で副生する塩化水素がピペラジン化合物(II)などと反応し、その結果、ピペラジン化合物(II)が不足して反応時間が長くなり、あるいはピペラジン化合物(II)を多く用いる必要がある。
【0016】
また特許文献4に記載された方法は、目的の反応温度に加熱する段階から反応が進行し、炭酸ガスによる発泡と、副生する水分と溶媒による共沸すなわち沸騰とが同時に起こり、発泡が極めて著しくなる。その結果、反応容器の容量を大きくする必要があるなど、工業的スケールにおける容積効率に課題があった。
【0017】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、発泡を抑制でき、工業的スケールでの容積効率を向上できる2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、アルカリ金属炭酸塩類、下記式(I)
【0019】
【化4】

【0020】
で表わされる11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(クロロジベンゾチアゼピン(I))および有機溶媒を含む混合物中に、前記有機溶媒の還流温度で、下記式(II)
【0021】
【化5】

【0022】
で表わされる2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジン(ピペラジン化合物(II))を添加し、前記クロロジベンゾチアゼピン(I)と前記ピペラジン化合物(II)とを反応させる工程を含む、下記式(III)
【0023】
【化6】

【0024】
で表わされる2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造方法である。
【0025】
本発明において、ピペラジン化合物(II)の添加を1〜10時間かけて行うことが好ましい。
【0026】
本発明において、クロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)とは、副生する水分を分離しながら反応させることが好ましい。
【0027】
本発明において、ピペラジン化合物(II)の添加量は、クロロジベンゾチアゼピン(I)に対して1.2〜2.0倍モルであることが好ましい。
【0028】
本発明におけるアルカリ金属炭酸塩類は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0029】
本発明において、アルカリ金属炭酸塩類の使用量が、11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンに対して0.55〜2.0倍モルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造方法によれば、クロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)とを、またはアルカリ金属炭酸塩類とを含む混合物をトルエンまたはキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒の存在下に、そのまま加熱して反応を行う従来の反応方法とは異なり、反応時の発泡を抑制することができ、工業的スケールでの容積効率に優れるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、下記式(III)
【0032】
【化7】

【0033】
で表される2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールを、下記式(I)
【0034】
【化8】

【0035】
で表される11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(クロロジベンゾチアゼピン(I))とアルカリ金属炭酸塩類および有機溶媒を含む混合物を有機溶媒の還流下で、下記式(II)
【0036】
【化9】

【0037】
で表される2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジン(ピペラジン化合物(II))を添加し、クロロジベンゾチアゼピン(I)とピペラジン化合物(II)とを反応させることによって製造する方法である。このような本発明の2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造方法によれば、反応の際の発泡を抑制でき、反応容器の容積効率が改善できる。特に工業的スケールでの容積効率に優れるという効果が奏される。
【0038】
本発明で用いられるクロロジベンゾチアゼピン(I)は、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オンとオキシ塩化リンとの反応によって得られるものであり、その反応条件などについては、特に制限されるものではなく、上述した特許文献1〜4などに記載された公知のいずれかの方法によっても行うことができる。
【0039】
本発明で用いられるアルカリ金属炭酸塩類としては、たとえば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。これらは1種であっても2種以上を使用してもよい。
【0040】
アルカリ金属炭酸塩類の使用量は、用いるアルカリ金属炭酸塩の中和当量によって異なるが、クロロジベンゾチアゼピン(I)1モルに対し、好ましくは0.55〜2.0倍モル、より好ましくは0.6〜1.7倍モルである。アルカリ金属炭酸塩類の使用量がクロロジベンゾチアゼピン(I)1モルに対し、0.55倍モル未満の場合には、反応時間が長くなり、収率の低下を招く虞がある。またアルカリ金属炭酸塩類の使用量がクロロジベンゾチアゼピン(I)1モルに対し、2.0倍モルを超える場合には、アルカリ金属炭酸塩類が過剰となり反応容器へのスケーリングや反応混合物の後処理に際して、アルカリ金属塩類を除くために大量の水を使用する必要がある。
【0041】
クロロジベンゾチアゼピン(I)、アルカリ金属炭酸塩類および有機溶媒を含む混合物に用いられる有機溶媒としては、たとえばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。中でも、経済的(安価)な理由から、トルエンおよびキシレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
前記混合物中における有機溶媒の使用量は、通常、クロロジベンゾチアゼピン(I)に対して4〜15重量倍であり、6〜10重量倍であることが好ましい。前記混合物中における有機溶媒がクロロジベンゾチアゼピン(I)に対して4重量倍未満である場合には、クロロベンゾチアゼピン(I)の結晶が析出したり、水洗工程での分液を悪くするという傾向にあるためであり、また、前記混合物中における有機溶媒がクロロジベンゾチアゼピン(I)に対して15重量倍を超える場合には、量に見合う効果がなく経済的でない。また量が多くなりすぎると、容積効率が悪くなる傾向にあるためである。
【0043】
本発明におけるピペラジン化合物(II)の添加量は、クロロジベンゾチアゼピン(I)1モルに対し、通常1.2〜2.0倍モル、好ましくは1.3〜1.8倍モルである。ピペラジン化合物(II)の添加量がクロロジベンゾチアゼピン(I)1モルに対し1.2倍モル未満の場合には、反応時間が長くなり、収率の低下を招く虞がある。またピペラジン化合物(II)の添加量がクロロジベンゾチアゼピン(I)1モルに対し、2.0倍モルを超える場合には、量に見合う効果がなく、経済的でない。
【0044】
本発明で用いるピペラジン化合物(II)の形態は、ピペラジン化合物(II)単独あるいは有機溶媒に溶解して使用してもよい。ピペラジン化合物(II)は粘性の高い液体であり、有機溶媒を加えると粘性が低下し、作業性を良くする効果がある。
【0045】
ピペラジン化合物(II)の溶解に用いられる有機溶媒としてはクロロジベンゾチアゼピン(I)の製造に用いたトルエン、キシレンなどを用いてもよい。その使用量は、ピペラジン化合物(II)に対し0.2〜0.5重量倍が好ましい。
【0046】
本発明では、前記混合物における有機溶媒の還流温度で、前記混合物にピペラジン化合物(II)を添加する。これによって、急激な反応を防止し、副生する炭酸ガスと、副生する水分と溶媒による共沸、すなわち沸騰発泡を抑制(緩和)できるという利点がある。本発明において、ピペラジン化合物(II)を添加する際の温度は、前記混合物中の有機溶媒がたとえばトルエンである場合には110〜113℃程度であり、キシレンである場合には138〜143℃程度である。
【0047】
本発明においては、反応を行う前に、すなわちピペラジン化合物(II)を添加する前に、クロロジベンゾチアゼピン(I)、アルカリ金属炭酸塩および有機溶媒の混合物に含まれる水分を予め除去するため、脱水を行うことが好ましい。この脱水は、使用する有機溶媒が還流する温度で行う。脱水時間は、0.5〜2時間程度行われる。
【0048】
また本発明において、ピペラジン化合物(II)の添加は、1〜10時間かけて行うことが好ましく、2〜8時間かけて行うことがより好ましい。ピペラジン化合物(II)を添加する時間が1時間未満の場合には、反応が速く進行し発泡が著しくなってしまう傾向にある。また、ピペラジン化合物(II)を添加する時間が10時間を超える場合には、特に発泡などの問題はないが不純物が増加してしまう虞がある。このような時間をかけた添加は、たとえば、上記混合物にピペラジン化合物(II)を滴下することで行うことができる。
【0049】
本発明では、ピペラジン化合物(II)を添加した後、反応を完結させるため、有機溶媒の還流温度で保温を行う。保温時間はピペラジン化合物(II)の添加にかけた時間によって異なるが、通常3〜10時間である。保温時間が3時間未満の場合には、クロロジベンゾチアゼピン(I)が残り、収率が低下してしまう虞があり、また、保温時間が10時間を超える場合には、反応混合物が着色したり、不純物が増加する場合がある。
【0050】
本発明では反応が完結するまで、副生する水分を分離しながら反応を行うことが好ましい。水分の分離にはディーンスターク水分分離器などを使用する。具体的に水分の分離は、ピペラジン化合物(II)を加える段階から保温が終了するまで行う。副生する水分が再び反応混合物内に混入すると沸騰によって急激な発泡が起こる虞がある。
【0051】
上記で得られた反応混合物は、さらに水洗などの処理を行って、ビス{2−〔2−(4−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル−1−ピペラジニル)エトキシ〕エタノール}モノフマレートの製造に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
<製造例1>
(11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造)
温度計、攪拌装置、還流冷却管および滴下装置を備えた反応容器中に、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−(10H)−オン153重量部、トルエン1330重量部、N,N−ジメチルアニリン45.0重量部を仕込み、オキシ塩化リン93.0重量部を攪拌下、室温で約30分間かけて滴下し、次いで、110〜113℃まで加熱昇温した。その後、同温度で7時間保温して反応を終了した。その後、室温まで冷却し、トリエチルアミン54.0重量部を20〜30℃の範囲で約30分間をかけて滴下した。
【0053】
次いで、水458重量部を20〜30℃の範囲で約2時間をかけて滴下し、同温度で60分間攪拌して水層部を分液して除去した。その後、4重量%の炭酸水素ナトリウム水溶液610重量部を加えて20〜30℃の範囲で30分間攪拌し、水層部を除去して11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(クロロジベンゾチアゼピン(I))のトルエン溶液1514重量部を得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの含有量は10.8%であった。
【0054】
<製造例2>
(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンの溶液調製)
容器に2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジン175.0重量部、トルエン53.0重量部を仕込み、室温で攪拌混合をさせ2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジン(ピペラジン化合物(II))のトルエン溶液228.0重量部を得た。
【0055】
<実施例1>
温度計、攪拌装置、還流冷却管、水分分離器および滴下装置を備えた反応容器中に、製造例1で得た11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(クロロジベンゾチアゼピン(I))のトルエン溶液151.4重量部、炭酸水素ナトリウム7.3重量部を仕込んだ。攪拌下にトルエン還流温度まで加熱し、水分を分離しながら加熱還流(107〜112℃)を約1.5時間行い、次いで製造例2で調製した2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジン(ピペラジン化合物(II))のトルエン溶液22.8重量部を加熱還流下(110〜113℃)に水分を分離しながら4時間かけて滴下した。その後同温度で5時間攪拌保温し、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの反応混合物を得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0056】
<実施例2>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、炭酸ナトリウム4.6重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、反応混合物を得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0057】
<実施例3>
実施例1で得た2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンのトルエン溶液の滴下時間を2時間としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、反応混合物を得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0058】
<比較例1>
温度計、攪拌装置、還流冷却管、水分分離器および滴下装置を備えた反応容器中に、製造例1で得た11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(クロロジベンゾチアゼピン(I))のトルエン溶液151.4重量部、炭酸ナトリウム4.6重量部、および製造例2で調製した2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジン(ピペラジン化合物(II))のトルエン溶液22.8重量部仕込んだ。攪拌下にトルエン還流温度まで2時間をかけて加熱し、その後加熱還流下(110〜113℃)に水分を分離しながら6時間攪拌保温し、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの反応混合物を得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0059】
<比較例2>
水分の分離は行わず、反応温度を90〜95℃の範囲内で21時間攪拌保温した以外は比較例1と同様の操作を行い、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの反応混合物を得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0060】
<比較例3>
炭酸ナトリウムを用いずに、還流下(110〜113℃)で20時間攪拌保温した以外は比較例1と同様の操作を行い、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの反応混合物を得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0061】
実施例1〜3および比較例1〜3について、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの反応を行う前の混合物、反応に用いたアルカリ金属炭酸塩の種類、反応に用いたアルカリ金属炭酸塩のモル比、反応に用いた2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンのモル比、反応に用いたピペラジン化合物(II)の仕込温度/時間、反応保温温度/時間、反応時の反応マスに対する発泡の容量割合、反応におけるクロロジベンゾチアゼピン(I)の未反応率を表1にまとめて示す。なお、製造例および実施例の11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの含量および未反応率の測定は高速液体クロマトグラフィー(島津製作所社製:LC10A型)によって測定した。
【0062】
〔純度および不純物含有量の測定 高速液体クロマトグラフィー条件〕
・カラム:C18(5μm、4.6mm×25cm)
・検出波長:250nm
・カラム温度:40℃
・注入量:5μL
・移動相:A液=0.01容量%トリフルオロ酢酸水
B液=アセトニトリル
・移動相グラジエント:B液 25%/15min
25〜100%/30min
100%/5min
・試料調整:試料濃度 0.25%/アセトニトリル
【0063】
【表1】

【0064】
表1中、反応に用いた炭酸塩のモル比およびピペラジン化合物のモル比は、クロロジベンゾチアゼピン(I)1モルに対するモル倍を示す。表1中、反応における最大発泡の割合は、反応混合物の容量に対する容量パーセントを示す。また表1中、未反応率は、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの反応混合物に含まれるクロロジベンゾチアゼピン(I)の面積百分率(%)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の方法によれば、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造において、従来の方法とは異なり、反応での発泡を抑制でき、反応容器の容積効率が改善される。特に工業的スケールでの容積効率に優れ、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造には極めて有利な方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属炭酸塩類、下記式(I)
【化1】

で表わされる11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンおよび有機溶媒を含む混合物中に、前記有機溶媒の還流温度で、下記式(II)
【化2】

で表わされる2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンを添加し、前記11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンと前記2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンとを反応させる工程を含む、下記式(III)
【化3】

で表わされる2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造方法。
【請求項2】
2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンの添加を1〜10時間かけて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンと2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンとを、副生する水分を分離しながら反応させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンの添加量が、11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンに対して1.2〜2.0倍モルである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アルカリ金属炭酸塩類が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アルカリ金属炭酸塩類の使用量が、11−クロロ−ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンに対して0.55〜2.0倍モルである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−46671(P2011−46671A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198462(P2009−198462)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】