説明

2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システム

【課題】2サイクルディーゼルエンジンに供給されるシリンダ油を回収して浄化し、再利用可能とする循環システムを提供する。
【解決手段】2サイクルディーゼルエンジン1に供給されるシリンダ油をランタンスペース14から回収して貯蔵する回収タンク22と、遠心分離器24及び/又はフィルター装置25を連結し、貯蔵したシリンダ油を遠心分離器及び/又はフィルター装置を通して循環することによりシリンダ油を浄化するための浄化タンク23と、浄化したシリンダ油を貯蔵するための供給タンク20と、を備えることにより、シリンダ油を浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とするシリンダ油循環システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油の循環システム及びこれを使用した浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等で使用されるクロスヘッド型2サイクルディーゼルエンジンは、クランクケース内の各部の潤滑のために給油されるシステム油とは別に、シリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のためにシリンダ油が供給される。シリンダ油は、シリンダ油を貯蔵する供給タンクから供給され、シリンダライナに設けられた注油ノズルを通りエンジン内に注入される。エンジン内に供給されたシリンダ油は、その全てがエンジン内に残存して潤滑に供されるわけではなく、燃料と共に燃焼したり、ピストンリングの往復運動によりシリンダライナの内壁面から下方に設置されるランタンスペースに掻き落とされる。
【0003】
掻き落とされたシリンダ油には、エンジン内部の摩耗により生じた金属粉や燃料が燃焼して発生したカーボン等の不純物が多量に含まれており、再利用することは困難であるため、ランタンスペースに連通して設けられた排油管から排出され、ドレン油として廃棄される。したがって、供給タンクには、燃焼やドレン油として廃棄したシリンダ油の減少分として、常に新たなシリンダ油を補充する必要がある。
【0004】
しかしながら、船舶等に用いられるエンジンは出力が大きく大型であり、ドレン油として廃棄するシリンダ油の量は多いため、コストの高騰を招くばかりでなく、環境破壊をも招来する危険性がある。
【0005】
このため、シリンダ油のエンジンへの供給量を必要最小限に減らすため、エンジンの作動時のシリンダー内の圧力を計測して供給するシリンダ油の量を調整するシリンダ潤滑方法(特許文献1)、ピストンの往復運動に伴いシリンダ油を供給する注油方法(特許文献2)、及びシリンダライナの温度やドレン油の鉄分濃度をセンサによって感知し、温度や鉄分濃度が閾値を越える場合にシリンダ油を供給するシリンダ潤滑方法(特許文献3)等が開発されてきた。
【0006】
しかしながら、これらの方法では、シリンダ油の供給量を減らして、廃棄するドレン油の量を減少させることができるとしても、排出されたシリンダ油を再利用するものではなく、廃棄によるシリンダ油の無駄を完全に解消するものではない。また、過度にシリンダ油の供給量を減らした場合には、エンジンの破損や故障を招くなどの危険性が残るものであった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−213322号公報
【特許文献2】特開2006−241989号公報
【特許文献3】特開2011−21480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、2サイクルディーゼルエンジンのシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために供給されるシリンダ油を、シリンダライナの下方に設置されたランタンスペースから回収して浄化し、これをシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のためのシリンダ油として再利用するための2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油の循環システム及び浄化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者らが検討を行った結果、2サイクルディーゼルエンジンのシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために供給タンクから供給されるシリンダ油を、シリンダライナの下方に設置されたランタンスペースから回収して回収タンクに貯蔵し、該回収タンクに貯蔵されたシリンダ油を浄化タンクに移送して貯蔵し、シリンダ油を浄化タンクと遠心分離器又はフィルター装置との間で循環させることにより浄化し、浄化したシリンダ油をエンジンに供給するための供給タンクに移送することにより、ランタンスペースから回収したシリンダ油を効率的に浄化でき、再利用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、2サイクルディーゼルエンジンのシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために供給タンクから供給されるシリンダ油を、シリンダライナの下方に設置されたランタンスペースから回収して貯蔵するための回収タンクと、該回収タンクに連結し、回収タンクから移送されるシリンダ油を貯蔵するとともに、遠心分離器及び/又はフィルター装置を連結し、貯蔵したシリンダ油を遠心分離器及び/又はフィルター装置を通して循環することによりシリンダ油を浄化するための浄化タンクと、該浄化タンクに連結し、浄化タンクから移送されるシリンダ油をエンジンに供給するために貯蔵するための供給タンクと、を備えることにより、ランタンスペースから回収したシリンダ油を浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システムである。
【0011】
さらに本発明は、浄化タンクに遠心分離器を連結し浄化タンクと遠心分離器の間でシリンダ油を循環させる第1の循環回路を形成するとともに、第1の循環回路とは別に、浄化タンクと前記遠心分離器との間にフィルター装置を連結しシリンダ油を浄化タンクからフィルター装置と遠心分離器を経て浄化タンクに戻す第2の循環回路を形成することにより、第1の循環回路によるシリンダ油の第1の浄化処理と第2の循環回路によるシリンダ油の第2の浄化処理とを同時又は連続して行うことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システムである。
【0012】
さらに本発明は、フィルター装置が、シリンダ油を平行に配置された多数の薄い紙の間に流過させることによりシリンダ油に含まれる不純物を紙の表面に付着させて除去するフィルター装置であることを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システムである。
【0013】
さらに本発明は、排気管に付着したシリンダ油を回収タンクに回収し、ランタンスペースから回収したシリンダ油とともに浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システムである。
【0014】
また本発明は、2サイクルディーゼルエンジンのシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために供給タンクから供給されるシリンダ油を、シリンダライナの下方に設置されたランタンスペースから回収して回収タンクに貯蔵し、該回収タンクに貯蔵されたシリンダ油を浄化タンクに移送して貯蔵するとともに、シリンダ油を浄化タンクと該浄化タンクに連結した遠心分離器及び/又はフィルター装置との間で循環させることにより浄化し、浄化したシリンダ油をエンジンに供給するための供給タンクに移送して貯蔵することにより、ランタンスペースから回収したシリンダ油を浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法である。
【0015】
さらに本発明は、浄化タンクと遠心分離器を連結し浄化タンクと遠心分離器の間でシリンダ油を循環させる第1の循環回路を形成するとともに、第1の循環回路とは別に、浄化タンクと前記遠心分離器との間にフィルター装置を連結しシリンダ油を浄化タンクからフィルター装置と遠心分離器を経て浄化タンクに戻す第2の循環回路を形成することにより、第1の循環回路によるシリンダ油の第1の浄化処理と第2の循環回路によるシリンダ油の第2の浄化処理とを同時又は連続して行うことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法である。
【0016】
さらに本発明は、フィルター装置が、シリンダ油を平行に配置された多数の薄い紙の間に流過させることによりシリンダ油に含まれる不純物を紙の表面に付着させて除去するフィルター装置であることを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法である。
【0017】
さらに本発明は、排気管に付着したシリンダ油を回収タンクに回収し、ランタンスペースから回収したシリンダ油とともに浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリンダ油循環システムあるいはシリンダ油浄化方法によれば、回収したシリンダ油を新油と同等にまで浄化することができ、潤滑油として再び利用することができるため、ランタンスペースに掻き落とされたシリンダ油を回収し、これを浄化して再びシリンダ油として利用するというサイクルを繰り返し行うことができ、シリンダ油を無駄に廃棄することなく、コストを大幅に削減することができる。
【0019】
また、シリンダ油を無駄に廃棄することがないため、シリンダ油の供給量を制限する必要がなく、シリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために、十分な量のシリンダ油を供給できるため、シリンダ油不足によるエンジンの破損や故障を発生させる危険性がない。
【0020】
さらに、回収したシリンダ油を効率的に浄化処理して再利用できるため、例えば、船舶の航行などエンジンの稼働中にも浄化処理を行い、廃油を出すことなく運航を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システムを示す概念図
【図2】クロスヘッド型2サイクルディーゼルエンジンの構造を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面にしたがって説明する。
【0023】
本発明は、2サイクルディーゼルエンジン(1)のシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために供給タンク(20)から供給されるシリンダ油(19)を、シリンダライナの下方に設置されたランタンスペース(14)から回収して回収タンク(22)に貯蔵し、該回収タンクに貯蔵されたシリンダ油を浄化タンク(23)に移送して、シリンダ油を浄化タンク(23)と遠心分離器(24)及び/又はフィルター装置(25)との間で循環させることにより浄化し、浄化したシリンダ油をエンジンに供給するための供給タンク(20)に移送して貯蔵することにより、ランタンスペースから回収したシリンダ油を浄化して再利用可能としたことを特徴とするものである(図1)。
【0024】
図2は、船舶用クロスヘッド型2サイクルディーゼルエンジンの一例を示すものである。ピストン(2)及びピストン(2)に外挿嵌着されたピストンリング(3)はシリンダライナ(4)の内部を上下に往復摺動するようになっている。また、ピストン(2)の下端から延出するピストン棒(5)は連接棒(6)の上端にあるクロスヘッド(7)に回動自在に連結しており、連接棒(6)の下端部は、クランク軸(8)における偏心したアーム部(8a)先端に回動自在に取り付けられている。そしてピストン(2)の上下の往復摺動は、ピストン棒(5)、クロスヘッド(7)、連接棒(6)を介してクランク軸(8)の回転運動に変換され出力される。
【0025】
シリンダライナ(4)は、シリンダジャケット(9)に固定され、クランクケース(10)の上部に設置される。シリンダライナ(4)の上部には、排気ガスを排出するための排気弁(11)を内蔵したシリンダカバー(12)が取り付けられている。
【0026】
クランクケース(10)内の各部位に給油される潤滑油にはシステム油(18)が使用される。システム油はシリンダ油と異なり繰り返し使用されるもので、所定期間使用した後に交換される。
【0027】
シリンダジャケット(9)の底部はピストンスタッフィングボックス(13)により、ピストン棒(5)を摺動可能にシールし、ピストン(2)の往復運動により掻き落とされたシリンダ油を溜めるランタンスペース(14)を形成している。ピストン(2)が下降するとシリンダジャケット(9)の側面にある吸気口(15)からランタンスペース(14)に取り入れた空気を掃気孔(16)を通してシリンダライナ(4)内に吸気し、ピストン(2)の上昇により燃料とともに圧縮して燃焼させる。燃焼により生じた排気ガスは排気弁(11)を通り排気管(27)に排出される。
【0028】
シリンダライナ(4)には注油ノズル(17)が設けられており、シリンダライナ(4)とピストンリング(3)との潤滑のためのシリンダ油(19)が供給タンク(20)から送り込まれるようになっている。
【0029】
注油ノズル(17)から供給されたシリンダ油は、燃料と共に燃焼したり、ピストン(2)の往復運動によりランタンスペース(14)に掻き落とされる。掻き落とされたシリンダ油は、エンジン内部の摩耗により生じた金属粉や燃料が燃焼した後に発生したカーボン等を多量に含んでおり、再利用することは困難であるため、従来は、ランタンスペース(14)に連通して設けられた排油管(21)から排出され、ドレン油として廃棄されていた。また、エンジン内に供給されたシリンダ油の一部は、排気ガスとともに排気弁(11)を通り、排気管(27)に付着するが、このような排気管(27)に付着したシリンダ油も従来は廃棄していた。そして、燃焼やドレン油として廃棄されたシリンダ油の減少分は、新たなシリンダ油を供給タンク(20)に注入することにより補充していた。
【0030】
本発明は、ランタンスペース(14)に掻き落とされたシリンダ油を廃棄する無駄をなくし、シリンダ油をランタンスペースから回収して効率的に浄化し、再びシリンダ油として利用するものである。
【0031】
図1に示すように、ランタンスペース(14)から回収したシリンダ油(19)は、回収タンク(22)に貯蔵される。シリンダ油の回収は、ランタンスペースに連通して設けられた排油管(21)を利用することができる。回収タンク(22)は、これに連結する浄化タンク(23)において貯蔵されたシリンダ油の浄化処理が完了するまでの間、ランタンスペース(14)に連続的に掻き落とされるシリンダ油を回収して一旦貯蔵するものであり、浄化タンク(23)の浄化処理が完了し浄化タンク内のシリンダ油が供給タンク(20)に移送された後、回収タンク(22)内のシリンダ油は浄化タンク(23)に移送される。したがって、回収タンク(22)は、浄化タンク(23)のシリンダ油が浄化処理される間、ランタンスペース(14)に溜まるシリンダ油を回収し十分に収容できる容積が必要である。
【0032】
また、エンジン内に供給されたシリンダ油の一部は、排気ガスとともに排気弁(11)を通り、排気管(27)に付着する(図2)。このような排気管(27)に付着したシリンダ油は、従来は廃棄していたが、回収タンク(22)に回収することにより、ランタンスペース(14)から回収したシリンダ油(19)とともに、浄化され再利用することが可能となる(図1)。
【0033】
回収タンク(22)に貯蔵されたシリンダ油(19)は、回収タンク(22)に連結された浄化タンク(23)に移送される。浄化タンク(23)は、シリンダ油(19)を貯蔵するとともに、浄化タンク(23)に連結した遠心分離器(24)、あるいはフィルター装置(25)との間で、シリンダ油を循環させることにより、シリンダ油に含有される金属粉やカーボン等の不純物を取り除き、シリンダ油を浄化するためのものである。
【0034】
浄化タンク(23)には遠心分離器(24)を連結し、浄化タンクと遠心分離器の間でシリンダ油を循環させる第1の循環回路(A)を形成する。また、第1の循環回路とは別に、浄化タンク(23)と前記遠心分離器(24)との間にフィルタ装置(25)を連結し、シリンダ油(19)を浄化タンク(23)からフィルタ装置(25)と遠心分離器(24)を経て浄化タンク(23)に戻す第2の循環回路(B)を形成する。このような循環回路を形成することにより、第1の循環回路(A)によるシリンダ油の第1の浄化処理と第2の循環回路(B)によるシリンダ油の第2の浄化処理とを同時あるいは連続して行うことができる。
【0035】
遠心分離器(24)は、シリンダ油に含有される10μm以上の比較的大きい不純物を除去することを目的とするものである。また、フィルタ装置(25)は、シリンダ油の精密濾過を目的とするものであり、例えば、薄い紙を多数積層したフィルターエレメントを利用する精密濾過装置を使用して、シリンダ油中に混入するエンジンの摩耗による生じた金属粉や燃料の燃焼により発生したカーボン等の微小粒子をブラウン運動を利用して紙の繊維に付着させて除去することが好ましい。かかる精密濾過装置は、特開平11−257038号公報に開示されており、ティッシュペーパーのような薄い紙を多数積層したフィルターエレメントを含み、紙の積層間隙にシリンダ油を流過させ、シリンダ油中に含有される金属粉やカーボン等の不純物を微小粒子のブラウン運動により紙の繊維に付着させて除去するようにしたものであり、1μm以上の不純物を効果的に除去することが可能である。
【0036】
フィルターエレメントは、長尺の紙をトイレットペーパー状に巻回した構造であっても、円板状に切断した紙を多数積層したものであっても良い。かかる精密濾過手段での濾過は、シリンダ油に混入する不純物が、ブラウン運動により油中を移動し、紙の繊維に付着することにより達成される。従って、不純物の濾過を効果的に達成するには、油中において不純物が十分なブラウン運動を発揮できる状態であることが要求される。本発明者の実験と試験の結果、油中において不純物が十分なブラウン運動を発揮するためには、油中に存在する不純物濃度が0.5%以下であることが判明した。これよりも不溶解分の割合が多いと、油中における不純物のブラウン運動が低下し、エンジンの内壁等に付着した不純物の油中への移動が減少するとともに、油中に存在している不純物の移動量も減少し、紙の繊維への付着量が少なくなり、濾過効率が低下する。
【0037】
したがって、浄化タンク(23)内のシリンダ油に含まれる不純物の濃度が高い場合には、まず第1の循環回路(A)によるシリンダ油の第1の浄化処理を行い、つぎに第2の循環回路(B)によるシリンダ油の第2の浄化処理を行えば、遠心分離器により大きな不純物が先に除去されているため、フィルタの目詰まりすることが少なくすることができ、不純物の除去効率が高めることができる。
【0038】
一方、浄化タンク内のシリンダ油に含まれる不純物の濃度が低い場合には、第1の循環回路(A)による第1の浄化処理と第2の循環回路(B)による第2の浄化処理とを同時に並行して行うことができ、シリンダ油を効率的に浄化処理することができる。
【0039】
フィルタ装置(25)を浄化タンク(23)と遠心分離器(24)との間に接続し第2の循環回路(B)を形成するが、かかる遠心分離器(24)は第1の循環回路(A)に使用するものである。すなわち第1の浄化処理と第2の浄化処理に使用する遠心分離器は共通のものを使用する。このように省スペース化された循環回路を形成することにより、船舶内の限られたスペースにも浄化システムを組み入れることができ、船舶の航行などエンジンの稼働中にも浄化処理を行いながら運航することができる。
【0040】
回収したシリンダ油は、燃料の燃焼により発生した水分が混入しており、潤滑性能が低下している。このため、浄化タンク(23)は、約110〜120℃に加温し、内部のシリンダ油を加熱することにより含有される水分を蒸発させ潤滑性能を回復させることが好ましい。
【0041】
燃焼により消失したシリンダ油の減少分は、新たなシリンダ油(26)を浄化タンク(23)に注入することにより補充し、タンク内の浄化されたシリンダ油(19)と撹拌混合し均質化して使用することができる。
【0042】
浄化された浄化タンク(23)内のシリンダ油(19)は、浄化タンクに連結した供給タンク(20)に移送され貯蔵される。供給タンク(20)に貯蔵されたシリンダ油は、注油ノズル(17)から再びシリンダライナ(4)とピストンリング(3)との間の潤滑のためにエンジン内に注入される。
【0043】
供給タンク(20)に移送が完了した浄化タンク(23)には、回収タンク(22)からシリンダ油が移送され、再びシリンダ油の浄化処理が行われる。このように、回収タンク(22)、浄化タンク(23)、及び供給タンク(20)を連結し、シリンダ油(19)を順次移送することにより、各タンクごとにシリンダ油の回収、浄化、供給の工程を段階的に繰り返して行うことができるため、エンジンを稼働しながら効率的な浄化処理を行うことが可能となる。
【0044】
ポンプ(P)は、シリンダ油をタンク間で移送するために配管の途中に配置されるものであり、図1はその一例を示すものであるが、シリンダ油の移送が円滑に行えるものであれば特に限定されるものではなく、移送管の長さや太さ等によって適宜ポンプの配置を調整すればよい。
【実施例】
【0045】
本発明のシリンダ油循環システムによる、シリンダー油を浄化処理する効果をシェル四球式摩擦試験(ASTM D 2783)により評価した。
【0046】
摩擦試験は、直径が1/2インチの三個の鋼球を固定した試料容器に潤滑油を入れる。そして、三個の固定球それぞれ接触するように、一個の回転球を上方から押し付ける。回転球には所定の荷重を加えながら所定の速度で回転させ、回転球が融着(焼き付き)が生じたときの加重(融着加重)を求める。したがって、融着加重の値が大きいほど、エンジンにおける焼き付きが生じにくく、潤滑油としての機能がすぐれる。
【0047】
評価するシリンダ油は、未使用のシリンダ油(新油)と、本発明のシリンダ油循環システムにより浄化処理したシリンダ油(浄化タンク(23)内で遠心分離器(24)とフィルタ装置(25)で12時間処理した再生油)と、再生油に新油を加えた混合油(再生油30%、新油70%)とし、それぞれの試験油について融着加重を測定した。再生油は、図1中、浄化タンク(23)から採取したものであり、混合油は、供給タンク(20)において再生油に新油を加えたものである。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、新油、再生油、混合油は、いずれも融着加重に差異は認められず、再生油は新油と同等の潤滑能を有することが確認できた。このことから、シリンダ油循環システムの浄化タンク(23)および供給タンク(20)内のシリンダ油は、新油と同等に浄化され、潤滑油として再びシリンダー内に注入可能であることが確認できた。
【0050】
以上のとおり、本発明のシリンダ油循環システムによれば、回収したシリンダ油を新油と同等にまで浄化することができ、シリンダ油として再利用することができるため、廃油を出すことなくエンジンを継続して稼働することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
A 第1の循環回路(第1の浄化処理)
B 第2の循環回路(第2の浄化処理)
P ポンプ
1 2サイクルディーゼルエンジン
2 ピストン
3 ピストンリング
4 シリンダライナ
5 ピストン棒
6 連接棒
7 クロスヘッド
8 クランク軸
8a アーム部
9 シリンダジャケット
10 クランクケース
11 排気弁
12 シリンダカバー
13 ピストンスタッフィングボックス
14 ランタンスペース
15 吸気口
16 掃気孔
17 注油ノズル
18 システム油
19 シリンダ油
20 供給タンク
21 排油管
22 回収タンク
23 浄化タンク
24 遠心分離器
25 フィルター装置
26 新しいシリンダ油
27 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2サイクルディーゼルエンジンのシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために供給タンクから供給されるシリンダ油を、シリンダライナの下方に設置されたランタンスペースから回収して貯蔵するための回収タンクと、該回収タンクに連結し、回収タンクから移送されるシリンダ油を貯蔵するとともに、遠心分離器及び/又はフィルター装置を連結し、貯蔵したシリンダ油を遠心分離器及び/又はフィルター装置を通して循環することによりシリンダ油を浄化するための浄化タンクと、該浄化タンクに連結し、浄化タンクから移送されるシリンダ油をエンジンに供給するために貯蔵する供給タンクと、を備えることにより、ランタンスペースから回収したシリンダ油を浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システム。
【請求項2】
浄化タンクに遠心分離器を連結し浄化タンクと遠心分離器の間でシリンダ油を循環させる第1の循環回路を形成するとともに、第1の循環回路とは別に、浄化タンクと前記遠心分離器との間にフィルター装置を連結しシリンダ油を浄化タンクからフィルター装置と遠心分離器を経て浄化タンクに戻す第2の循環回路を形成することにより、第1の循環回路によるシリンダ油の第1の浄化処理と第2の循環回路によるシリンダ油の第2の浄化処理とを同時又は連続して行うことを特徴とする請求項1記載の2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システム。
【請求項3】
フィルター装置が、シリンダ油を平行に配置された多数の薄い紙の間に流過させることによりシリンダ油に含まれる不純物を紙の表面に付着させて除去するフィルター装置であることを特徴とする請求項1又は2記載の2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システム。
【請求項4】
排気管に付着したシリンダ油を回収タンクに回収し、ランタンスペースから回収したシリンダ油とともに浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油循環システム。
【請求項5】
2サイクルディーゼルエンジンのシリンダライナとピストンリングとの間の潤滑のために供給タンクから供給されるシリンダ油を、シリンダライナの下方に設置されたランタンスペースから回収して回収タンクに貯蔵し、該回収タンクに貯蔵されたシリンダ油を浄化タンクに移送して貯蔵するとともに、シリンダ油を浄化タンクと該浄化タンクに連結した遠心分離器及び/又はフィルター装置との間で循環させることにより浄化し、浄化したシリンダ油をエンジンに供給するための供給タンクに移送して貯蔵することにより、ランタンスペースから回収したシリンダ油を浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法。
【請求項6】
浄化タンクと遠心分離器を連結し浄化タンクと遠心分離器の間でシリンダ油を循環させる第1の循環回路を形成するとともに、第1の循環回路とは別に、浄化タンクと前記遠心分離器との間にフィルター装置を連結しシリンダ油を浄化タンクからフィルター装置と遠心分離器を経て浄化タンクに戻す第2の循環回路を形成することにより、第1の循環回路によるシリンダ油の第1の浄化処理と第2の循環回路によるシリンダ油の第2の浄化処理とを同時又は連続して行うことを特徴とする請求項5記載の2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法。
【請求項7】
フィルター装置が、シリンダ油を平行に配置された多数の薄い紙の間に流過させることによりシリンダ油に含まれる不純物を紙の表面に付着させて除去するフィルター装置であることを特徴とする請求項5又は6記載の2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法。
【請求項8】
排気管に付着したシリンダ油を回収タンクに回収し、ランタンスペースから回収したシリンダ油とともに浄化してエンジン内に再供給可能としたことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の2サイクルディーゼルエンジンのシリンダ油浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−64401(P2013−64401A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186446(P2012−186446)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(591057670)株式会社住本科学研究所 (3)
【出願人】(511212572)株式会社 グローバルローエンロー (1)
【Fターム(参考)】