説明

2次元液体クロマトグラフィー分析方法および分取用流路切り替えユニット

【課題】2次元液体クロマトグラフィー分析を短時間で行うことができる2次元液体クロマトグラフィー分析方法およびこの分析方法に好適に用いることができる分取用流路切り替えユニットを提供する。
【解決手段】2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、試料の成分を分離、分画する第一の工程と、分画された成分を液体クロマトグラフィー分析する第二の工程とで構成され、第二の工程で、予め得た第一の工程におけるクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時とベースラインへの復帰終了時の情報に基づいて、分画されたそれぞれの成分のうちの1つまたは複数を複数の保持部のいずれかに別々に分取するとともに、分取が完了した保持部の成分を逐次液体クロマトグラフィー分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一のカラムでは試料中の成分を精密に分離して分析することが困難な場合に採用される、液体クロマトグラフィー装置により分離、分画して分取した成分を液体クロマトグラフィー分析する2次元クロマトグラフィー分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは、分析系内に送液される液体を移動相とするとともにカラム充填剤等を固定相として、分析系内に複数の成分を含む試料を導入し、各成分の固定相と移動相の間の分配の差を利用して複数の成分を分離・分析する手法である。
【0003】
ところが、例えば光学異性体を含むアミノ酸を成分として含む試料やラットの尿等の試料は、単一のカラムでは試料に含まれる複数の成分を精密に分離することができず、あるいはまた、分析に長時間を必要とし、能率的で的確な分析を行うことが困難である。
このため、液体クロマトグラフィーにより分離、分画した成分をさらに液体クロマトグラフィー装置を用いて分析する分析方法が広く採用されている。以下、これを2次元液体クロマトグラフィー分析方法という。
【0004】
2次元液体クロマトグラフィー分析方法として、一般的には、1段目の液体クロマトグラフィーで分離、分画した試料中の各成分を一括して採取し、1段目の液体クロマトグラフィーが終了した後に、カラムを入れ替えて2段目の液体クロマトグラフィー分析を行い、あるいはまた、1段目の液体クロマトグラフィーに使用するものとは別の2段目の液体クロマトグラフィー装置で液体クロマトグラフィー分析することが行われている。
ところが、上記のいずれの方法においても、一連の分析が完了するまでには、1段目の液体クロマトグラフィーと2段目の液体クロマトグラフィーを合わせた分析・処理時間が少なくとも必要であり、このとき、元来液体クロマトグラフィーに長時間を要する上記のような試料の分析を行うには多大の時間を必要とすることになる。
なお、1つの液体クロマトグラフィー装置を使って移動相やカラムを入れ替えて2段目の液体クロマトグラフィー分析を行う場合は、正味の分析時間のほかにさらにカラムの入れ替えの段取りのための時間を必要とするとともに、その段取り操作が煩雑となる問題もある。
【0005】
上記の課題に鑑み、本出願人は、2つの液体クロマトグラフィー装置を組み合わせて、上記の2次元液体クロマトグラフィー分析を自動的に行うことができる液体クロマトグラフィーシステムを開発している(例えば特許文献1参照)。
【0006】
この液体クロマトグラフィーシステムは、第一の液体クロマトグラフィー装置で使用される第一のカラムから流出する、分析対象(目的)となる成分(試料)を保持部へ移送する流路と、分析対象となる成分を含まない移動相を系外へ排出する流路を切り替えて試料中の成分を分画する操作と、第二の液体クロマトグラフィー装置で使用される第二のカラムを用いて液体クロマトグラフィー分析するために、分取が完了した保持部に第一の液体クロマトグラフィー装置で用いる移動相とは別の移動相を送入する流路と、分析待機状態の流路を切り替える操作を、1つの六方切り替え弁を自動的に切り替え制御することで実現できるように構成されている。この六方切り替え弁とその制御機構を含めてカラム選択ユニットと称しており、例えば資生堂社製の高圧切替六方バルブ(型番3011)を使用することができる。
また、この液体クロマトグラフィーシステムは、1段目の液体クロマトグラフィーで分離、分画した試料中の各成分を分取できるように、例えばバルコインスツルメンツ社製のカラム選択システム(C5−2000EMTD)を採用することができる。このカラム選択システムは、容積150μLのループを6本接続し、各ループの両端に自動制御可能な制御弁を設けた構造を有する。
この液体クロマトグラフィーシステムによって、2次元液体クロマトグラフィー分析を実質的に全自動で能率的に行うことができる。
【特許文献1】特開2005−3558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記液体クロマトグラフィーシステムは、試料中の各成分の分取が全て終了した後に、分取した各成分を液体クロマトグラフィー分析するものであるため、1つの試料の2次元液体クロマトグラフィー分析をできるだけ短時間で行う観点からは、必ずしも十分ではない。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、2次元液体クロマトグラフィー分析を短時間で行うことができる2次元液体クロマトグラフィー分析方法およびこの分析方法に好適に用いることができる分取用流路切り替えユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、複数の成分を含む試料を第一のカラムを用いて液体クロマトグラフィーにより分離、分画する第一の工程と、分画されたそれぞれの成分を第二のカラムを用いて液体クロマトグラフィー分析する第二の工程とを有する2次元クロマトグラフィー分析方法であって、
該第二の工程で、予め得た該第一の工程におけるクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始とベースラインへの復帰終了の情報に基づいて、該分画されたそれぞれの成分を複数の保持部のいずれかに別々に分取するとともに、分取が完了した保持部の成分を逐次液体クロマトグラフィー分析することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、好ましくは、前記第二の工程で、予め得た前記クロマトグラムでピークが隣り合う2つの成分のうちの先の成分のピークのベースラインへの復帰終了時から後の成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時までの間の時間が、予め得た該先の成分の液体クロマトグラフィー分析所要時間を越えるときの該復帰終了時に、前記第一のカラムから流出する該先の成分を保持部へ移送して分取する流路から該第一の工程の移動相を系外へ排出する流路への切り替えと、分析待機状態で該第二の工程の移動相を保持部をバイパスして該第二のカラムに直接送入する流路から該第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するために分取が完了した保持部に該第二の工程の移動相を送入し、さらに、該保持部から流出する該第二の工程の移動相を該第二のカラムに送入する流路への切り替えを単一の六方切り替え弁で行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、好ましくは、前記復帰終了時から前記立ち上がり開始時までの間の時間から前記切り替えに伴うロス時間を差し引いた時間が前記分析所要時間を越えるときの該復帰終了時時に前記の切り替えを行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る分取用流路切り替えユニットは、複数の成分を含む試料を分離、分画する第一の液体クロマトグラフィー装置の第一のカラムの出口側と、分画した成分を分取する保持部と、該保持部に分取された成分を液体クロマトグラフィー分析する、第二のカラムを有する第二の液体クロマトグラフィー装置の三者に接続して設けられるものであって、
該第一のカラムから流出する該成分を該保持部へ移送して分取する流路および移動相を系外へ排出する流路の切り替えと、該第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するために分取が完了した該保持部に該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を送入し、さらに、該保持部から流出する成分を該第二のカラムに送入する流路および分析待機状態のときに該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を、該保持部をバイパスして該第二のカラムに直接送入する流路の切り替えを行う単一の六方切り替え弁と、
予め得た該第一の液体クロマトグラフィー装置のクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始とベースラインへの復帰終了の情報に基づいて、該六方切り替え弁の切り替え動作を制御する制御部と、
を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る分取用流路切り替えユニットは、好ましくは、前記制御部が、予め得た前記クロマトグラムで隣り合う2つの成分のピークのうちの先の成分のピークのベースラインへの復帰終了時から後の成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時までの間の時間が、予め得た該先の成分の液体クロマトグラフィー分析所要時間を越えるときの該復帰終了時に、前記第一のカラムから流出する該先の成分を保持部へ移送して分取する流路から該成分を含まない移動相を系外へ排出する流路への切り替えと、分析待機状態で前記第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を、保持部をバイパスして該第二のカラムに直接送入する流路から該第二のカラムでクロマトグラフィー分析するために分取が完了した保持部に該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を送入し、さらに、該保持部から流出する該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を該第二のカラムに送入する流路への切り替えを行うように前記六方切り替え弁の切り替え動作を制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る分取用流路切り替えユニットは、好ましくは、前記制御部が、前記復帰終了時から前記立ち上がり開始時までの間の時間から前記切り替えに伴うロス時間を差し引いた時間が前記分析所要時間を越えるときの該復帰終了時時に前記の切り替えを行う前記立ち上がり開始時から前記復帰終了時までの間の時間から前記切り替えに伴うロス時間を差し引いた時間が前記第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するのに必要な時間を越えるときの該復帰終了時に前記の切り替えを行うように前記六方切り替え弁の切り替え動作を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、クロマトグラフィー分析する第二の工程で、予め得た第一の工程におけるクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始とベースラインへの復帰終了の情報に基づいて、分画されたそれぞれの成分を複数の保持部のいずれかに別々に分取するとともに、分取が完了した保持部の成分を逐次液体クロマトグラフィー分析するため、2次元液体クロマトグラフィー分析の1段目の分取処理および2段目の分析の合計時間を従来に比べて短縮することができる。
また、本発明に係る分取用流路切り替えユニットは、複数の成分を含む試料を分離、分画する第一の液体クロマトグラフィー装置の第一のカラムの出口側と、分画した成分を分取する保持部と、保持部に分取された成分を液体クロマトグラフィー分析する、第二のカラムを有する第二の液体クロマトグラフィー装置の三者に接続して設けられるものであって、第一のカラムから流出する成分を保持部へ移送して分取する流路および移動相を系外へ排出する流路の切り替えと、第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するために分取が完了した保持部に第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を送入し、さらに、保持部から流出する成分を第二のカラムに送入する流路および分析待機状態のときに第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を、保持部をバイパスして第二のカラムに直接送入する流路の切り替えを行う単一の六方切り替え弁と、予め得た第一の液体クロマトグラフィー装置のクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始とベースラインへの復帰終了の情報に基づいて、六方切り替え弁の切り替え動作を制御する制御部と、を有するため、上記本発明に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0017】
まず、本実施の形態に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法(2次元液体クロマトグラフィー方法、二次元液体クロマトグラフィー)について、説明する。
本実施の形態に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、複数の成分を含む試料を第一のカラムを用いて液体クロマトグラフィーにより成分ごとに分離、分画する第一の工程と、分画されたそれぞれの成分(試料)を第二のカラムを用いて液体クロマトグラフィー分析する第二の工程とを有するクロマトグラフィー分析方法についてのものである。
本実施の形態に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、上記第二の工程で、予め得た上記第一の工程におけるクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始とベースラインへの復帰終了の情報に基づいて、上記分画されたそれぞれの成分を複数の保持部のいずれかに別々に分取するとともに、分取が完了した保持部の成分を逐次液体クロマトグラフィー分析する。
【0018】
ここで、予め得るクロマトグラムの各成分のピークの情報は、各成分の分離性が良好な場合は、予備試験で得られる試料のものを用いてもよいが、好ましくは、通常の分取処理のときと同様に、含有量の既知の標準物質を配合したものについて試料の処理に用いる装置を使って処理して得られる標準クロマトグラムのピークの情報を用いる。
【0019】
上記本実施の形態係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法によれば、予め得たクロマトグラムの各成分のピークの情報に基づいて、各成分のピークの情報分画した試料を分取する第一の工程が全ての成分について完了するまでの間の全ての分画・分取所要時間のうちの一部の時間帯に分取が終わった成分の分析を平行して行うことができるため、2次元液体クロマトグラフィー分析の1段目の分取処理および2段目の分析の合計時間を従来に比べて短縮することができる。
【0020】
本実施の形態に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法について、さらに詳細に説明する。
本実施の形態に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、例えば図1に示すクロマトグラフィー分析システムを用いて行う。
図1に示すクロマトグラフィー分析システムは、第一の移動相供給部10と、第一の移動相供給部10の第一の移動相を吸引して送出する第一のポンプ12と、試料を注入する試料注入部14と、第一のカラム16と、第一のカラム16を配置するカラムオーブン17と、第一のカラム16で分離、分画された成分を検出する第一の検出器18と、検出データを記録する第一の記録計20と、を備えた、試料を分離、分画するための第一の液体クロマトグラフィー装置を有する。但し、本実施の形態では、標準クロマトグラムのデータを採取するときを除いて、試料を分離、分画する操作を行ううえでは、第一の検出器18および第一の記録計20を省略することができる。
また、クロマトグラフィー分析システムは、第二の移動相供給部22と、第二の移動相供給部22の第二の移動相を吸引して送出する第二のポンプ24と、第二のカラム26と、第二のカラム26を配置するカラムオーブン27と、第二のカラム26で分離、分画された成分を検出する第二の検出器28と、検出データを記録する第二の記録計30と、を備えた、試料中の分画した成分を液体クロマトグラフィーするための第二の液体クロマトグラフィー装置を有する。
【0021】
クロマトグラフィー分析システムは、さらに、上記2つの液体クロマトグラフィー装置の間に本実施の形態に係るカラム選択ユニット(分取用流路切り替えユニット)32と、マルチループユニット(複数の保持部)34を有する。
【0022】
マルチループユニット34を先に説明すると、図2に詳細構成を示すように、マルチループユニット34は、例えば6本のループ(保持部)36を備えるとともに、選択したループ36をカラム選択ユニット32に接続して流路を形成する切り替え手段37a、37bを有する。
これにより、分画した1つの成分または連続する複数の成分を個別にループ36に保持することができる。このループ36は、第一の液体クロマトグラフィー装置における試料注入部14の役割を果たす。
【0023】
つぎに、カラム選択ユニット32は、2つの液体クロマトグラフィー装置およびマルチループユニット34の三者の間で流体の流路を切り替える単一の六方切り替え弁35と、六方切り替え弁35の動作を制御する制御部38で構成される。なお、制御部38は切り替え手段37a、37bの動作も合わせて制御する。但し、これに限らず、例えば、後述する主制御部によって、切り替え手段37a、37bの動作を制御するように構成してもよい。
六方切り替え弁35は、図1では、第一のカラムから流出する成分をループへ移送して分取する流路(六方切り替え弁36の実線部)を形成するとともに、分析待機状態のときに第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相がループをバイパスして第二のカラムに直接送入する流路(六方切り替え弁35の実線部)を形成する、分取モードにある。
これに対して、図3では、六方切り替え弁35は、第一のカラムから流出する、試料中の成分を含まない移動相を系外へ排出する流路(六方切り替え弁35の実線部)を形成するとともに、分取が完了したループ(保持部)に第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を送入し、さらに、ループから流出する成分を第二のカラムに送入する流路(六方切り替え弁35の実線部)を形成する、分析モードにある。
【0024】
制御部38は、予め得た第一の液体クロマトグラフィー装置のクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時とベースラインへの復帰終了時の情報に基づいて、六方切り替え弁35の上記の切り替え動作を制御するように構成する。すなわち、例えば、理想的には、各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時とベースラインへの復帰終了時までの間の時間は、上記分取モードとし、一方、隣り合う2つの成分のピークのベースラインへの復帰終了時からベースラインからの立ち上がり開始時までの間の時間は、上記分析モードとする。但し、この場合、分取、分析条件によっては、隣り合う2つの成分のピークのベースラインへの復帰終了時からベースラインからの立ち上がり開始時までの時間と分析時間がバランスせずに、分取および分析のうちのいずれか一方の処理に支障を来たすことが起こりえる。
したがって、制御部38は、好ましくは、予め得た第一の液体クロマトグラフィー装置で予め得たクロマトグラムで前後に隣り合う2つの成分のピークのうちの先の成分のピークのベースラインへの復帰終了時から後の成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時までの時間が、予め得た該先の成分を第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するのに必要な時間(分析所要時間)を越えるときの先の成分のピークの復帰終了時に、第一のカラムから流出する成分を保持部へ移送して分取する流路から上記成分を含まない試料を系外へ排出する流路への切り替えと、分析待機状態で第一の液体クロマトグラフィー装置の移動相とは別の移動相が保持部をバイパスして第二のカラムに直接送入する流路から該第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するために分取が完了した保持部にその別の移動相を送入し、さらに、保持部から流出する移動相を第二のカラムに送入する流路への切り替えを行うように六方切り替え弁35の切り替え動作を制御するように構成する。
さらに好ましくは、制御部38は、上記ベースラインからの立ち上がり開始時からベースラインへの復帰終了時までの時間から上記切り替えに伴うロス時間を差し引いた時間が上記の分析所要時間を越えるときの上記復帰終了時に前記の切り替えを行うように六方切り替え弁35の切り替え動作を制御するように構成する。ここで、切り替えに伴うロス時間は、第一のカラムから送出される試料が保持部に到達するまでの配管内および六方切り替え弁35内の試料の滞留時間を主とするものであるが、必要に応じて分析の準備時間等の切り替え操作に伴う全てのロス時間を考慮してもよい。
【0025】
本実施の形態に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法は、例えば上記クロマトグラフィー分析システムの図示しない主制御部によって、上記の六方切り替え弁の切り替え動作と第一の液体クロマトグラフィー装置および第二の液体クロマトグラフィー装置の所定の動作を連動させることで、分取工程と分析工程が干渉していずれか一方の工程に支障を与えることなく、全ての試料を分取する時間内で少なくとも一部の試料の分析を行うことができ、分取処理および分析の合計時間を従来のものより短縮することができる。
【実施例】
【0026】
以下に上記のクロマトグラフィー分析システムを用いて2次元液体クロマトグラフィー分析を行った実施例を説明する。
【0027】
第一の液体クロマトグラフィー装置は、以下の仕様のものを用い、また、以下の操作条件とした。
移動相は、THF(テトラハイドロフラン)/TFA(トリフルオロ酢酸)/水=25/0.05/75(v/v)を用いた。ポンプ(移動相送液ポンプ)は、イナートポンプ(NANOSPACE SI-2 3001)を用い、流速を75 µL / minとした。試料注入器は、HTSオートサンプラー(NANOSPACE SI-2 3033)を用いた。また、試料は、バリン(Val)、アロイソロイシン(allo-Ile)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)およびフェニルアラニン(Phe)を、いずれもNBD化されたものを用いた。ここで、NBD化は、NBD−F(4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン)をアミノ酸に反応させて蛍光感度を上昇させる蛍光誘導体化法のひとつをいう。図示しないカラムオーブン(カラム恒温槽)は、NANOSPACE SI-2 3004を用い、40℃に保持した。第一のカラムは、逆相ミクロカラム(株式会社資生堂製Capcell pak C18 MG II 1 mm i.d. X 150 mm)を用いた。検出器は、蛍光検出器(NANOSPACE SI-2 3013 ex.470nm,em530nm)を用いた。
第二の液体クロマトグラフ装置は、以下の仕様のものを用い、また、以下の操作条件とした。
移動相は、10mMのcitric acid(クエン酸)を含むアセトニトリル/メタノール=50/50(v/v)を用いた。ポンプ(移動相送液ポンプ)は、イナートポンプ(NANOSPACE SI-2 3001)を用い、流速を75μL / minとした。試料注入器は、HTSオートサンプラー(NANOSPACE SI-2 3033)を用いた。図示しないカラムオーブン(カラム恒温槽)は、NANOSPACE SI-2 3004を用い、40℃に保持した。第二のカラムは、キラルカラム(キラルテクノロジーズヨーロッパ社製QN-1-AX 4 mm i.d. X 150 mm)を用いた。検出器は、蛍光検出器(NANOSPACE SI-2 3013 ex.470nm,em530nm)を用いた。
【0028】
分取と分析を進行させる、実施例のカラム選択ユニット(分取用流路切り替えユニット)の動作のタイムテーブルを図4に示した。
図4中、Sourceの項のHPVは上記六方切り替え弁を、VICIは上記マルチループユニットの切り替え手段をそれぞれ示す。また、STARTは順次分取された各成分を含む試料を順次分析するときの分析開始を示す。また、Valueの項のPosAは、HPVが上記分析モードの流路構成であることを、PosBは、HPVが上記分取モードの流路構成であることを、それぞれ示す。なお、Pos02、Pos03・・・は、上記切り替え手段が分取試料を保持する保持部を2番目のループ、3番目のループへ順次切り替え、選択された状態にあることを示す。また、図1では、以下に説明するバリン(Val)を保持する1番目のループが選択される初期条件は省略されている。また、バリンの分析所要時間については、予め得た、例えば後述する図6のクロマトグラムで、10分以下であることが確認されている。
システムの初期条件、すなわち、最初に分取されるバリン(Val)のピークのベースラインからの立ち上がり開始時よりバリンを分取する分取モードに入り分取操作開始から25分40秒経ってバリンのピークのベースラインへの復帰が終了する時まで分取モードが継続される。前述したように、バリンの分析所要時間は、25分40秒よりは十分短い。ついで、切り替え操作のロス時間を経過した28分40秒にバリンの分析モードに入る。ついで、バリンの分析終了後は、分取操作開始から43分40秒経過後、すなわち、18分の分取時間を経過した後に再び分取モードに戻る。この分取時間は前述のようにバリンの分析所要時間に比べて十分に長い。このようにして、基本的には、順次分取される成分に応じてこれらの切り替え動作が繰り返される。但し、実施例では、バリン(Val)以外の各成分は、ベースラインからの立ち上がり開始時からベースラインへの復帰終了時までの時間が非常に短いため、分取した後に直ちに分析に移行せずに、分取が続けられ、このとき、複数の成分がそれぞれ異なるループに保持される。そして、上記複数の成分が一括して分析される。なお、アロイソロイシン(allo-Ile)は、ループを有効に使うために、バリン(Val)の分析が完了して空になったループに保持される。
【0029】
クロマトグラフィー分析システムの上記の第一のカラムで予め得られる標準クロマトグラムを図5に示す。また、第二のカラムで得られる各成分のクロマトグラムを図6に示す。図6中、左から順にバリン(Val)、アロイソロイシン(allo-Ile)、イソロイシン(Ile)、ロイシン( Leu)およびフェニルアラニン(Phe)の、それぞれ光学異性体のD体、L体が分離されたクロマトグラムである。
【0030】
実施例によれば、分取操作開始から59分に全成分の分取が完了した後、99分までに全ての成分の分析が完了しており、これは、従来の方法で、全ての成分の分取が完了した後に各成分を順次分析する方法に比べて、バリンの分析所要時間に相当するおよそ10分程度、分取および分析の合計時間が短い。
このとき、図6より明らかなように各成分の分析精度は従来の方法のものと変わらない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施の形態に係る2次元液体クロマトグラフィー分析方法に用いるクロマトグラフィー分析システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1のマルチループユニットの詳細構成を説明するためのものであり、(a)は模式図を、(b)は正面図を、それぞれ示す。
【図3】図1の六方切り替え弁の図1とは異なるモードを説明するためのクロマトグラフィー分析システムの概略構成を示す図である。
【図4】実施例のカラム選択ユニットの動作のタイムテーブルを示す図である。
【図5】実施例で第一のカラムで得られるクロマトグラムの例を示すグラフ図である。
【図6】実施例で第二のカラムで得られる各成分のクロマトグラムを示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0032】
10 第一の移動相供給部
12 第一のポンプ12
14 試料注入部
16 第一のカラム
17、27 カラムオーブン
18 第一の検出器
20 第一の記録計
22 第二の移動相供給部
24 第二のポンプ
26 第二のカラム
28 第二の検出器
30 第二の記録計
32 カラム選択ユニット
34 マルチループユニット
35 六方切り替え弁
36 ループ
37a、37b 切り替え手段
38 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分を含む試料を第一のカラムを用いて液体クロマトグラフィーにより分離、分画する第一の工程と、分画されたそれぞれの成分を第二のカラムを用いて液体クロマトグラフィー分析する第二の工程とを有する2次元クロマトグラフィー分析方法であって、
該第二の工程で、予め得た該第一の工程におけるクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始とベースラインへの復帰終了の情報に基づいて、該分画されたそれぞれの成分を複数の保持部のいずれかに別々に分取するとともに、分取が完了した保持部の成分を逐次液体クロマトグラフィー分析することを特徴とする2次元液体クロマトグラフィー分析方法。
【請求項2】
前記第二の工程で、予め得た前記クロマトグラムでピークが隣り合う2つの成分のうちの先の成分のピークのベースラインへの復帰終了時から後の成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時までの間の時間が、予め得た該先の成分の液体クロマトグラフィー分析所要時間を越えるときの該復帰終了時に、前記第一のカラムから流出する該先の成分を保持部へ移送して分取する流路から該第一の工程の移動相を系外へ排出する流路への切り替えと、分析待機状態で該第二の工程の移動相を保持部をバイパスして該第二のカラムに直接送入する流路から該第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するために分取が完了した保持部に該第二の工程の移動相を送入し、さらに、該保持部から流出する該第二の工程の移動相を該第二のカラムに送入する流路への切り替えを単一の六方切り替え弁で行うことを特徴とする請求項1記載の2次元液体クロマトグラフィー分析方法。
【請求項3】
前記復帰終了時から前記立ち上がり開始時までの間の時間から前記切り替えに伴うロス時間を差し引いた時間が前記分析所要時間を越えるときの該復帰終了時時に前記の切り替えを行うことを特徴とする請求項2記載の2次元液体クロマトグラフィー分析方法。
【請求項4】
複数の成分を含む試料を分離、分画する第一の液体クロマトグラフィー装置の第一のカラムの出口側と、分画した成分を分取する保持部と、該保持部に分取された成分を液体クロマトグラフィー分析する、第二のカラムを有する第二の液体クロマトグラフィー装置の三者に接続して設けられるものであって、
該第一のカラムから流出する該成分を該保持部へ移送して分取する流路および移動相を系外へ排出する流路の切り替えと、該第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するために分取が完了した該保持部に該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を送入し、さらに、該保持部から流出する成分を該第二のカラムに送入する流路および分析待機状態のときに該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を、該保持部をバイパスして該第二のカラムに直接送入する流路の切り替えを行う単一の六方切り替え弁と、
予め得た該第一の液体クロマトグラフィー装置のクロマトグラムの各成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始とベースラインへの復帰終了の情報に基づいて、該六方切り替え弁の切り替え動作を制御する制御部と、
を有することを特徴とする分取用流路切り替えユニット。
【請求項5】
前記制御部が、予め得た前記クロマトグラムで隣り合う2つの成分のピークのうちの先の成分のピークのベースラインへの復帰終了時から後の成分のピークのベースラインからの立ち上がり開始時までの間の時間が、予め得た該先の成分の液体クロマトグラフィー分析所要時間を越えるときの該復帰終了時に、前記第一のカラムから流出する該先の成分を保持部へ移送して分取する流路から該成分を含まない移動相を系外へ排出する流路への切り替えと、分析待機状態で前記第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を、保持部をバイパスして該第二のカラムに直接送入する流路から該第二のカラムでクロマトグラフィー分析するために分取が完了した保持部に該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を送入し、さらに、該保持部から流出する該第二の液体クロマトグラフィー装置の移動相を該第二のカラムに送入する流路への切り替えを行うように前記六方切り替え弁の切り替え動作を制御することを特徴とする請求項4記載の分取用流路切り替えユニット。
【請求項6】
前記制御部が、前記復帰終了時から前記立ち上がり開始時までの間の時間から前記切り替えに伴うロス時間を差し引いた時間が前記分析所要時間を越えるときの該復帰終了時時に前記の切り替えを行う前記立ち上がり開始時から前記復帰終了時までの間の時間から前記切り替えに伴うロス時間を差し引いた時間が前記第二のカラムで液体クロマトグラフィー分析するのに必要な時間を越えるときの該復帰終了時に前記の切り替えを行うように前記六方切り替え弁の切り替え動作を制御することを特徴とする請求項5記載の分取用流路切り替えユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−185558(P2008−185558A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21799(P2007−21799)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)