説明

2焦点プラスチックレンズ

屈折力の異なる台玉と小玉からなる2焦点プラスチックレンズにおいて、小玉部分が突出せず、また台玉と小玉の境界線が見え難いレンズを提供する。小玉を含むレンズ予備部材あるいは小玉成型面となるべき凹部を含むレンズ予備部材のいずれか一方を予め成型し、このレンズ予備部材に別の樹脂を密着硬化させて一体化することにより、レンズ内に小玉が取り入れられて小玉による突出面が形成されないようにする。小玉もしくは小玉を含む成型部分は他の部分を構成する樹脂より高い屈折率の樹脂とする。小玉と台玉の境界面をより目立たないようにするために、境界面に於ける小玉の周縁部の厚さをほぼゼロとしたり、レンズの厚み方向に於ける境界面の一部を曲面としたり、境界面の段差に、着色、艶消し等の反射低減手段を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、2焦点プラスチックレンズに関する。
【背景技術】
2焦点プラスチックレンズは一般的に台玉と小玉を同一樹脂で構成しており、小玉の曲率半径を台玉のそれより小さく設計するとともに、近用の視野を広くするために小玉の直径を大きくすると、レンズの遠用部の面積が小さくなり、遠用の視野が狭くなる。小玉の上部を除去するとそこに段差が生じ、この段差を平面に加工しているために、境目が明瞭に見えることになる。この段差を成形するためのモールドは段差の部分が欠けやすいために取扱いが難しく、また成形加工の際に離型し難いなど加工上の問題が多い。小玉部分の上縁部に段差を設けずにレンズの中に小玉部分を埋め込む先行技術としては、特開昭49−88534号公報に記載のものが挙げられる。この発明では、ガラス製の小玉をレンズの中に埋め込むために、プラスチックレンズを注型成形するシェルの中にガラス製の小さなレンズを支持部材を用いて配置した後、シェル内にレンズ用樹脂モノマーを注入して加熱重合を行い、レンズ内に小玉レンズを固定している。しかし、レンズ内に支持部材が残ることから注型されたレンズの下方部分を切除して用いるようにしている。他に2種のレンズ状の樹脂部材を重ねて複合化して2焦点レンズを製造する方法として、特開昭53−124570号公報、特表平9−511191号公報に記載のものが挙げられるが、いずれも小玉レンズ部が突出した形状を有しているものである。
【発明の開示】
本発明が解決しようとする課題は、小玉部分が突出しない2焦点レンズであって、好ましくは台玉部分と小玉部分との境界線が見え難いレンズを提供することである。
本発明の2焦点プラスチックレンズは、上記の課題を解決するために、小玉を含むレンズ予備部材あるいは小玉となるべき凹部を含むレンズ予備部材のいずれか一方を予め成形し、該レンズ予備部材の小玉又は凹部を形成した面に、別の樹脂を密着硬化させて一体化することによりレンズ内に小玉が取り入れられて、小玉による突出面を生じていないものとする。なお、本明細書における「台玉」とは、上記小玉を含むレンズ予備部材の小玉以外の部分、小玉となるべき凹部を含むレンズ予備部材、及び一体化後のレンズの小玉以外の部分のいずれをも指すものとする。
小玉を含む部分を構成する樹脂は、その屈折率が、これに密着する他の部分を構成する樹脂の屈折率より大きいものとする。
上記レンズにおいて、小玉と台玉との境界面を目立たなくするためには、境界面に於ける小玉の周縁部の厚さを当該台玉の厚さと等しく又はほぼ等しくする(小玉自体の厚さをほぼ0とする)のが好ましい。また、小玉の周縁部の境界面に段差が生じている場合は、その段差の少なくとも一部が曲面で構成されたものとすることもできる。あるいは、小玉上縁部の段差を構成する面に、着色、艶消し、反射防止などの反射光を低減させる性質を付与してもよい。
【図面の簡単な説明】
〔図1〕
(a)〜(c)図はモールドの縦断面図であり、(d)〜(f)図は成形の要領を示す縦断面図であり、(g)及び(h)図は、本発明の2焦点レンズの縦断面図である。各縦断面図は説明のための模式断面図であり、以下同様である。
〔図2〕
別の実施態様を示す縦断面図であり、(a)及び(b)図はモールドを示し、(c)〜(e)図は成形の要領を示す縦断面図であり、(f)図は本実施例の2焦点レンズの縦断面図である。
〔図3〕
小玉を成形する部分のモールドの縦断面図である。
〔図4〕
(a)図は小玉を成形する部分の別の実施態様を示す縦断面図であり、(b)図及び(c)図は段差を曲面で結ぶ例を示す断面図であり、(d)図は小玉の正面図であり、(e)図は従来の小玉部分の断面図である。
〔図5〕
(a)図は凹面側に凸状の小玉成形面を有するモールドの断面図であり、(b)図は予備成型物、(c)図はシェル、(d)図は成形された複合レンズ、(e)図は2焦点レンズをそれぞれ示す断面図である。
〔図6〕
(a)図は凸面側に凸状の小玉成形面を有するモールドの断面図であり、(b)図は予備成型物、(c)図はシェル、(d)図は複合レンズ、(e)図は2焦点レンズをそれぞれ示す断面図である。
【符号の説明】
1,2,3,16,16a,17,21…モールド、4,4a,4b…モールド凹部、
5…テープ、6,10,18,22…シェル、7,11,19,23…空洞部、
8…第一モノマー、9…レンズ予備部材、9a…小玉、
12…第二モノマー、13…台玉、14…複合レンズ、
15…2焦点レンズ、20…レンズ予備部材、20a,20b…小玉、
25…複合レンズ、26…段差、26a,26b…曲面、
30,33,40,43…モールド、31,41…レンズ予備部材、
32,42…小玉成形面、34,44…シェル、35,45…空洞部、
36,46…小玉成形体、37,47…複合レンズ、38,48…小玉、
39,49…2焦点レンズ
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の2焦点レンズは、小玉を含むレンズ予備部材あるいは小玉となるべき凹部を含むレンズ予備部材のいずれか一方を予め成形し、該レンズ予備部材の小玉又は凹部を形成した面に、別の樹脂を密着硬化させて一体化し、レンズ内に小玉を取り入れて小玉による突出面を形成しないことを特徴としており、原則として2種の光学用樹脂を重ねるように密着させたレンズを構成し、密着した部分に小玉を形成するものである。2種のいずれかの樹脂を研削・研磨して度数調整を行い、小玉により突出した部分のない2焦点プラスチックレンズを得ることができる。突出した部分がないので、ハードコート、プライマー等の塗布工程における歩留まりが向上し、使用者もレンズの汚れのふき取りが容易である。眼鏡用レンズには屈折率1.74の高屈折率エピスルフィド樹脂が使用される場合があり、この樹脂は染色できないが、本発明によれば重ね合わされる他の樹脂に易染色性の樹脂を用いることによりレンズ全体として染色することができる。
上記レンズにおいて、小玉を含む部分を構成する樹脂は、その屈折率が、これに密着する他の部分を構成する樹脂の屈折率よりも大きい樹脂で構成する。これにより、小玉の曲率が小さくなることを緩和して所定の加入度を設定できるから、レンズ内に小玉をとり入れるのに好都合である。
本発明のレンズを成形する手順としては、光学成形面に小玉の成形面を有するモールドを用いて、先ず前記小玉の成形面を転写した熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂から成るレンズ予備部材を成形し、次いで該レンズ予備部材の小玉成形面側に別の樹脂を注型して硬化させ、レンズ内部に小玉成形部分をとり入れて突出させない構造とすればよい。
小玉の成形面を有するモールドは、小玉の成形面が凹面又は凸面で構成されたものを使用するが、本発明においては、上記のように重ね合わされる2種の樹脂のうち小玉を屈折率の高い方の樹脂で成形することが条件となっているので、レンズ予備部材が屈折率の高い方の樹脂で成形される場合は、小玉はレンズ予備部材と一体に成形され、レンズ予備部材が屈折率の低い方の樹脂で成形される場合は、小玉の成形面は凹面で成形されるのみで小玉は一体に構成されない。従って別の屈折率の高い樹脂を凹面状の小玉の成形面側に注型して加熱重合し、その過程で凹面に樹脂が密着して一体化されるようにする。
本発明のレンズは、上記のようにレンズ内に小玉をとり入れた構造を有するものであるが、なお小玉と台玉との境界面は視認できるので、これを目立たなくするために、境界面に於ける小玉の周縁部の厚さを当該台玉の厚さと等しく又はほぼ等しくすることが好ましい。また、小玉レンズと台玉との境界面に厚み方向に於ける段差が生じる場合には、その少なくとも一部を曲面で構成することが好ましい。
すなわち、小玉の周縁部の厚さを当該台玉の厚さと等しく又はほぼ等しくする形状は、小玉の曲率が台玉の曲率より小さいため周縁部の厚さが薄くなることを利用するものであるが、従来のレンズにおいても一般的には眼鏡に装着した際の小玉の上縁部以外はその厚さが当該台玉の厚さと等しくなっており、小玉と台玉の境界線は見えにくい構造となっている。しかしながら、従来の2焦点プラスチックレンズの場合は両者を単一樹脂で成形し、小玉の上縁部に段差を設けて小玉の曲率を変えて加入度数を定めており、段差部分を平面で構成するので、境界面が見えやすい構造になっている。本発明では小玉部分に高屈折率樹脂を用いるので小玉の曲率が小さくなることを緩和できるが、段差がレンズの内部に現れるので、この部分を完全な平面ではなく少なくとも一部を曲面で構成することにより、境界面を見えにくくすることができる。しかし、これは累進形状とは異なるものである。
上記境界面を目立たなくするには、より具体的には、小玉の上縁部と台玉の境界面の段差に曲面からなる面取り部を形成したモールドを用いることができる。面取り部分の曲率は0.1〜1.0Rとする。しかしこの部分には度数の飛躍が生じるから幅は極力少なくする。
境界面を目立たなくするためには、本発明のレンズは、小玉上縁部の段差を構成する面に、着色、艶消し、反射防止など反射光を低減させる性質を付与したものとすることもできる。小玉上縁部に生じる段差の面は、小玉が重ね合わされる2種の樹脂の密着面に構成されるので、異なる樹脂の界面となり、透過する光線が反射する性質を有する。この反射光を少なくするか除去するために、上記の反射光を低減させる性質を付与するものである。2焦点レンズが着色レンズの場合は、同系統の着色剤で段差を着色すると段差が見え難くなる。また成形されたレンズ予備部材では、段差部分を砥粒を用いて摩擦し、艶消し面を作成してもよい。またSiOなどの粒径が20〜200nmの微粒子をシリコーン系のカップリング剤に分散させ、これを段差部に塗布して加熱乾燥し、無機微粒子を層状に固定して不均質膜を形成して反射防止機能を付与することもできる。
また、本発明のレンズは、小玉と台玉の色調が異なるものとすることができる。プラスチックレンズの染色は、レンズを構成する樹脂の種類により染色の度合いが異なり、極端な例としてエピスルフィド系の高屈折率樹脂は染色が困難である。従って本発明のレンズ全体を染液に浸漬した場合、小玉と台玉の色調が異なるレンズを提供できる。遠用視の場合は光量が不足しても問題ないが、小玉を通して文字を見る場合は出来るだけ明るい方が好ましいので、染色の度合いを変えることにより使い勝手のよいレンズを得ることもできる。
以上述べたように、本発明の2焦点プラスチックレンズは小玉に高屈折率樹脂を用いてレンズの中に含まれるようにしたので、レンズの表面に段差が無く、ハードコートや反射防止膜の形成が容易になり、汚れの拭き取りも楽になる。また小玉の周縁部の厚みを小玉を形成する台玉の厚さと等しく又はほぼ等しくするか、段差が生じる境界面を平面にせずに曲面で構成した場合、境界面が見え難いので、2焦点レンズを掛けて老けて見えるのを好まない人に好適である。また境界線が見えても段差がない2焦点プラスチックレンズも本発明に従って製造することが出来る。本発明の出願時点における最も高い屈折率はエピスルフィド樹脂の1.737であるが、更に高屈折率の樹脂が出現しても曲率の設計値を変更するだけで本発明は実用化できる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
図1において、(a)及び(b)図は一対のガラスモールドの模式断面図であり、以下、単に断面図と記載する。また曲率半径を単に曲率と記載する。モールド1及び2の成形面の曲率RとRは同じ球面である。曲率Rの面には小玉を成形する曲率Rの凹部4が設けられている。同(c)図は後述する複合レンズの凹面側を成形するモールド3の断面図であり、成形面の曲率はRである。同(d)図はモールド1と2を用いて周縁部をテープ5でシーリングしたシェル6を示している。シェル内部の空洞部7に第一モノマー8を注入して加熱重合し、モールド2を離型して同(e)図に示す小玉9aを含むレンズ予備部材9を得る。このときモールド1にレンズ予備部材9は密着したまである。同(f)図では、モールド1とレンズ予備部材9に対しモールド3を用いて周縁部をテープ5でシーリングし、シェル10を作成する。シェル内部の空洞部11に第二モノマー12を注入し加熱重合したのち、モールド1及び3を離型し、同(g)図に示すように小玉部分を内包した台玉レンズ13とレンズ予備部材9が重合過程で密着した複合レンズ14を得る。この複合レンズは半製品レンズであり、凹面側を適宜に研削と研磨を行い、度数調整や乱視に対応したトーリック面に形成されて2焦点レンズが完成される。
また、この複合レンズ14は、凸面側に研削と研磨を行い、同(h)図に示すように小玉9aのみを密着した2焦点レンズ15とすることが出来る。小玉9aの周縁部9bは厚みが台玉の厚さと等しく、台玉の曲面から突出する高さは0となり、台玉との境界線が見えにくい特徴を有している。
上述した図1(h)を実際の数値を用いて計算した例を説明する。
第一モノマー:MR174、三井化学(株)製、Nd=1.737
第二モノマー:MR6、三井化学(株)製、Nd=1.594
(モールド1の凹面側曲率半径)=200.00(mm)
(台玉と小玉の凸面側曲率半径)=200.00
(小玉の対眼側曲率半径)=下に記載
(台玉の凹面側曲率半径)=100.00
面屈折力D=(Nd−1)/R×1000(mm)
として加入度数と小玉の対眼側曲率半径Rを計算した結果を表1に示す。

【実施例2】
上述した複合レンズの別の形態を次に説明する。図2(a)図は小玉成形面を凹面側に形成したモールド16を示す。台玉を成形する凹面側の曲率はRの球面であり、小玉を成形する曲率Rの凹部4aが設けられている。同(b)図は台玉の凹面側を成形するモールド17を示し、凸面の曲率はRである。これらのモールドを使用して同(c)図に示すようにテープ5で周縁部をシーリングしてシェル18を作成し、空洞部19には、前出の第一モノマー8を注入し、加熱重合した後モールドを離型して、同(d)図に示す小玉20aを含むレンズ予備部材20を得る。次いで同(e)図に示すように予備部材20と該予備部材の凸面側と同じ曲率を凹面側に有するモールド21を用いて周縁部をテープ5でシーリングしてシェル22を作成し、その空洞部23に前出の第二モノマー12を注入して加熱重合し、注型成形体24を重合密着させ、モールド21を離型して同(f)図に示す複合レンズ25を得る。この場合も屈折率が低い第二モノマーの内部に小玉が形成される。凹面側を一点鎖線で示すように研削・研磨し、度数調整と乱視度数及び乱視軸を調整して2焦点レンズを得る。
実施例2における加入度数と小玉の曲率半径は次の通りである。
第一モノマー:MR174、三井化学(株)製、Nd=1.737
第二モノマー:MR6、三井化学(株)製、Nd=1.594
(モールド16の凹面側曲率半径)=368.5(mm)
(台玉の凹面側曲率半径)=150.00
=小玉の対物側曲率半径
面屈折力D=(Nd−1)/R×1000(mm)の関係式により加入度数と小玉の対眼側曲率半径Rを計算した結果を表2に示す。

【実施例3】
実施例1のモノマーでは、屈折率が1.737の高屈折率モノマーを使用したが、屈折率が異なっても同じ目的を達成できる例を説明する。
第一モノマー:MR−7、三井化学(株)製、Nd=1.660
第二モノマー:CR−39、PPG社製、Nd=1.498
但し、これらのモノマーを密着させるためには、先に第二モノマーを重合硬化させ、次いで第一モノマーを注型することが必要となり、モールドとしては図5に示すモールドを使用する。
(モールド30の凹面側曲率半径)=332.5(mm)
モールド33の凹面側曲率半径=332.5(mm)
=小玉の対眼側曲率半径
実施例1と同様にして加入度数と小玉の対眼側曲率半径Rを計算した結果を表3に示す。加入度数の3.00で比較するとRは66.86となっており、実施例1と比較して低い屈折率のモノマーを使用しているが、曲率半径はほぼ同じ値になっている。

【実施例4】
本発明の2焦点レンズは小玉と台玉の境界線を見え難くすることを特徴の一つとしており、図2(a)に示したモールド16の一部を拡大して図3に示した。小玉20aを成形する曲率Rの凹部4aと台玉の成形面が成す境界面(破線で囲まれた部分)では、小玉の突出する厚み(高さ)は0になり、レンズを正面から見ると線になって見える。これは度数の不連続面が生じているためである。従ってこの境界面に曲率rの面取りを行い、境界線をより見え難くする。この場合の曲率rの半径は0.1〜1mmの範囲が好ましく、度数の飛躍する範囲を極力小さくする。
実施例1及び2における小玉は、単にレンズ予備部材の中での小玉の配置要領を示しているものであり、小玉の直径は小さく描かれており、近用部の視野は狭い。視野を広くするために小玉の直径を大きくすると遠用部に小玉の上部が入り込み、遠用部の視野が狭くなる。これを解消するためには、図4(e)に示すように段差26を設けて小玉の上部を削除して遠用部の視野を広くすればよい。この段差26はレンズ正面から見ると幅のある面として見えるが、本発明の2焦点レンズでは屈折率の異なる樹脂の界面であり、透過する光線が反射することになる。
この面を見え難くするためには、図4(a)に示すように幅Pの間を曲率Rより小さい曲率Rで結び、突出する小玉の厚さを台玉の厚さに等しくする。幅Pの部分は度数の飛躍が生じるから1乃至2mmの範囲に留めるのが好ましい。また(b)及び(c)図に示すように、1種又は2種の曲率を連ねた曲面26a、26bを形成して境界面を見え難くすることができる。このレンズを正面から見ると同(d)図のようになっている。小玉の上縁部の境界線は解消するが、幅Pに相当する部分は像に歪みが生じることになる。小玉20bの上縁部を示す線は直線に限らず曲線にすることもできる。
上記の段差26は面を構成し、成形されたレンズ予備部材の転写面は、透過光の反射により段差が明瞭に見えることを述べたが、反射光の量を少なくすることで目立たなくすることもできる。すなわち、反射光を吸収するか、乱反射させればよい。乱反射させるには、例えばモールドの段差26の面を砥粒でマット状に加工し、成形する際にマット面をレンズ予備部材に転写する。またレンズ予備部材を成形した段階で突出した段差26の面に着色してもよい。この方法は、レンズを着色して用いる場合に特に有効であり、段差の面を同じ色調にて着色すると殆ど目立たなくなる。着色材としては染料や塗料が使用できる。また、シリコーン系カップリング剤に粒径が20〜200nmのSiOを分散させた溶液を前記段差の面に塗布し、加熱硬化させると、前記微粒子が段差の面に密に固定され、SiOの不均質膜を形成して光線の反射を防止することができる。
【実施例5】
図5(a)図は凹面側に小玉成形面を凸状に設けたモールド30を示す断面図である。このようなモールドは研磨が困難とされてきたが、研磨技術の進歩により可能になっている。熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂あるいはポリカーボネート樹脂を用いて射出成形法あるいは加圧成形法により、同(b)図に示すレンズ予備部材31を成形し、小玉成形面の凹部32を形成する。該レンズ予備部材の対物面と同じ曲率を凹面側に有するモールド33と、前記レンズ予備部材31の周縁部をテープ5でシーリングし、シェル34を作成する。空洞部35に前出の第一モノマー8(屈折率1.737)を注型し、加熱重合して硬化させ、同(d)図に示す小玉成形体36とレンズ予備部材31が密着した複合レンズ37を得る。該複合レンズは凹面側を研磨して度数調整を行い、完成品レンズにしてもよく、小玉成形体36を研削・研磨して、同(e)図に示すような、小玉38のみを残し、低屈折率熱可塑性樹脂からなる予備成型物31と高屈折率樹脂で形成された小玉が一体に形成された2焦点レンズ39を得てもよい。この2焦点レンズは実施例1に述べたレンズと同じ形状になる。
熱可塑性樹脂を用いたレンズ予備部材にウレタン系あるいはエピスルフィド系の樹脂モノマーを注型する場合、これらの樹脂の界面で白濁することがある。このような場合には、レンズ予備部材にシランカップリング剤で保護膜を形成することができる。成膜するにはディッピング法を用いることができ、シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを種々組み合わせた調合液が適宜使用される。これを、例えば毎分150〜200mmの速度で引き上げ、130℃で10〜20分間加熱硬化させることによって保護膜を形成させると白濁が解消され、2種の樹脂の密着性も向上する。
図6(a)図は凸面側に小玉成形面を凸状に設けたモールド40を示し、これにより同(b)図に示す小玉成形面42を形成したポリカーボネート樹脂から成るレンズ予備部材41を成形する。該レンズ予備部材の凹面側と同じ曲率を凸面側に有するモールド43を用いてシェル44を作成し、空洞部45に前出の第一モノマー8を注型して加熱重合し、モールド43を離型すると、同(e)図に示す小玉成形体46とレンズ予備部材41が一体に形成された複合レンズ47が得られる。この複合レンズの凹面側を研削・研磨すると、凹面側に小玉48を形成した2焦点レンズが得られる。
実施例1、2及び実施例5は、それぞれ小玉を成形する側に高屈折率樹脂を使用し、台玉側にそれより低い屈折率の樹脂を用いているが、実施例5のように、小玉成形面を台玉側に凹状に形成する場合は、屈折率の低い熱可塑性樹脂を用いて射出成形あるいは加圧成形などにより低価格の台玉を形成することが出来る。更に小玉成形面に高屈折率樹脂を注型する場合、小玉成形部分にのみ注型し、加熱重合することも可能であり、更に別途小玉を成形してこれを光学接着剤あるいはモノマーで接着することも可能である。
なお、台玉は、生産される品種により異なるが、設計に際して対物側の曲率半径を適宜定めており、本発明では、完成される複合レンズの対物側と密着面に同じ曲率を使用している。従って、この曲率を有しているレンズ予備部材は台玉である。しかし、概念的には、先に成形される方はモールドの役割を果たすのでこれを台玉と表現している。
但し、本発明はこれらの実施例に限定されず、完成品の対物側曲率と密着面の曲率が異なるものも製品化することができるから、本発明はこのようなレンズをも含むものである。
【産業上の利用可能性】
本発明の2焦点プラスチックレンズは、小玉が突出しておらず、また小玉の境界が目立たないものとすることができるので、取り扱い性と外観に優れた遠近両用眼鏡用レンズとして有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折力のそれぞれ異なる台玉と小玉とからなる2焦点プラスチックレンズであって、
小玉を含むレンズ予備部材あるいは小玉成形面となるべき凹部を含むレンズ予備部材のいずれか一方を予め成形し、該レンズ予備部材の小玉又は小玉成形面となるべき凹部を形成した面に、別の樹脂を密着硬化させて一体化することにより得られる、レンズ内に小玉が取り入れられて小玉による突出面を有さない2焦点プラスチックレンズ。
【請求項2】
小玉を含む部分を構成する樹脂の屈折率が、これに密着する他の部分を構成する樹脂の屈折率より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の2焦点プラスチックレンズ。
【請求項3】
小玉と台玉との境界面を目立たなくするために、境界面に於ける小玉の周縁部の厚さを当該台玉の厚さと等しく又はほぼ等しくしたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の2焦点プラスチックレンズ。
【請求項4】
小玉と台玉との境界面を目立たなくするために、小玉の周縁部の境界面に生じた段差の少なくとも一部が曲面で構成されたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の2焦点プラスチックレンズ。
【請求項5】
小玉の周縁部の境界面に生じた段差を構成する面に、着色、艶消し、及び反射防止のうちのいずれか一種の反射光を低減させる性質を付与したことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の2焦点プラスチックレンズ。
【請求項6】
小玉と台玉の色調が異なることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の2焦点プラスチックレンズ。

【国際公開番号】WO2004/109369
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506860(P2005−506860)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008309
【国際出願日】平成16年6月8日(2004.6.8)
【出願人】(391003750)株式会社アサヒオプティカル (13)
【Fターム(参考)】