説明

2軸ツインスケグ船

【課題】スケグ内部の上昇流の流れでフィンを利用して前進力を得ると共にスケグ内部の流れを整流してプロペラ面に流入する非対称流れを抑制して、プロペラ起振力を低減することができる2軸ツインスケグ船を提供する。
【解決手段】排水量型の2軸ツインスケグ船1Cのスケグ2、2間に、翼弦の方向が船体の前後方向で船体の左右方向に延びるフィン10を、プロペラ4よりも前方で、かつ、プロペラ4の回転軸4cよりも上方のスケグ2、2内の上昇流の流れに対して配置すると共に、前記フィン10を、ストラット11で船底に支持されたT型構造の中央のフィン10と、右舷スケグから左舷スケグまで連通しない前記フィン10、10とで形成し、かつ、前記フィン10の船底との離間距離を翼弦長の20%〜100%にして形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸ツインスケグ船に関し、より詳細には、スケグ内部の上昇流の流れにおいて翼を利用して前進力を得ると共に、スケグ内部の流れを整流してプロペラ面に流入する非対称流れを抑制して、プロペラ起振力を低減することができる2軸ツインスケグ船に関する。
【背景技術】
【0002】
船尾に2つのプロペラを有する2軸船の船尾形状として、プロペラ支持を船体と一体化したスケグにて形成し、スケグ間にトンネル部を有するツインスケグ型の船舶と、プロペラをシャフトブラケットにて支持するシャフトブラケット型の船舶とがある。
【0003】
この2軸ツインスケグ船においては、スケグより外側の流れは、通常の船舶と同様に、船底側から船側に沿って船尾後方に向かって流れるが、このスケグ間の船底が徐々に船尾方向に向かった上昇しているため、スケグ間の内側の流れは、両側をスケグで囲まれたトンネルの中を通ることになり、このスケグ間の内側の流れは、ビルジ渦が少ない上昇流となる。この上昇流は、スケグの内側は外側に比較して垂直壁に近い形状に形成されているため、比較的揃った流れとなり、流速も比較的速い。一方、スケグの外側の流れは船側形状がスケグ内側よりも複雑であるため、流速も遅くなる。
【0004】
そのため、スケグの後端のプロペラ面では、スケグ内側から外側への斜流が発生する。この斜流の影響で、プロペラキャビテーション等の問題が生じる。更に、スケグの内側と外側の流れが大きく異なるため、プロペラに流入する流れの非対称性が顕著となり、ベアリング力などプロペラ起振力に悪影響を与えるという問題がある。
【0005】
このスケグ間の流れとスケグの外側の流れとを考慮して、左右のスケグ部の内外両側に生じる船尾流れをすべて効果に整流すべく、ツインスケグ船の船尾にて、スケグ部の外側と内側の壁面の所要高さ位置に、船尾流れのうちの下降流れを規制するためのフィンを左右方向に張り出すようにそれぞれ設け、且つ上記各スケグ部の内側のフィンの幅が、外側のフィンの幅よりも小さくなるように構成したツインスケグ船の推進性能改善装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このツインスケグ船の推進性能改善装置では、下降流れの規制による船尾流れの整流し、下降流に起因する船尾における圧力損失を回復して船体抵抗を低減し、推進性能の改善を図っているが、ツインスケグ船のスケグ間のトンネル内の上昇流のエネルギーの利用とトンネル内の境界層発達の低減は十分になされていない。また、プロペラの起振力の問題にも触れられていない。
【特許文献1】特開2006−341640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、排水量型の2軸ツインスケグ船において、スケグ内部の上昇流の流れでフィンを利用して前進力を得ると共に、このフィンによりスケグ内部の流れを整流してプロペラ面に流入する非対称流れを抑制して、プロペラ起振力を低減することができる2軸ツインスケグ船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の2軸ツインスケグ船は、排水量型の2軸ツインスケグ船のスケグ間に、翼弦の方向が船体の前後方向で船体の左右方向に延びるフィンを、プロペラよりも前方で、かつ、プロペラの回転軸よりも上方のスケグ内の上昇流の流れに対して配置すると共に、前記フィンを、ストラットで船底に支持されたT型構造の中央のフィンと、右舷スケグから左舷スケグまで連通しない前記フィンとで形成し、かつ、前記フィンの船底との離間距離を翼弦長の20%〜100%にして形成して構成する。
【0009】
このフィンは左右方向、即ちフィンの幅方向に関しては水平方向に配置するのが好ましいが、水平方向に対して傾斜していてもよく、また、前進翼や後退翼の形状をしていてもよい。また、必ずしも左右方向は直線状である必要はなく、船尾方向から見たときに曲面形状や多角形形状等であってもよい。
【0010】
この構成によれば、スケグ内部のビルジ渦が少なく比較的綺麗な上昇流の流れに対して配置されたフィンで安定した揚力を発生させることができるので、この揚力の一部を前進力に利用して推進効率を向上させることができる。
【0011】
また、トンネル傾斜角が大きくなった場合には、トンネルに沿った正の圧力勾配が大きくなり、そのため境界層がより発達し、船尾での圧力回復が悪化するため粘性圧力抵抗が増加するが、フィンにより低減することができる。
【0012】
それに合わせて、このフィンによりスケグ内部の流れを整流して、スケグ間のトンネル部からスケグの外側に回り込む流れを抑制できるので、スケグ後端のプロペラに流入する水流の非対称性な流れを対称的な流れに近づけることができる。その結果、プロペラ起振力を低減することができる。
【0013】
上記の2軸ツインスケグ船において、本発明の参考例として、フィンを右舷スケグから左舷スケグまで連通させて形成し、このフィンを全幅翼で形成すると、スケグ部分でフィンを固定支持できるので、フィンを船底に固定支持するためのストラットが不要になり、抵抗を少なくすることができる。
【0014】
上記の2軸ツインスケグ船において、フィンを船体の前後方向に関して、プロペラよりも前方に配置して構成すると、先進力を得られると共に、よりプロペラ面に対するフィンの整流効果を高めることができる。
【0015】
あるいは、上記の2軸ツインスケグ船において、フィンを船体の前後方向に関して、プロペラよりも後方に配置すると、前進力を得られると共に、船尾の流れを整流することができるので、船尾抵抗を減少することができる。
【0016】
上記の2軸ツインスケグ船において、フィンを複数個配置すると、より適切な場所にフィンを配置することができると共に、1個のフィンの場合よりも、個々のフィンを小さくすることができるので、個々のフィンに作用する力を小さくすることができる。そのため、フィン自体の強度やフィンの支持構造の強度が小さくて済み、構造を単純化できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の2軸ツインスケグ船によれば、スケグ内部の上昇流の流れに対して配置されたフィンにより前進力を得て推進効率を向上させることができる。また、このフィンの整流作用によりプロペラに流入する水流の非対称性を抑制して対称流れに近づけてプロペラ起振力を低減したり、あるいは、フィンの整流作用により船尾流れを整流して船尾部分の抵抗を減少することができる。
【0018】
更に、このフィンを右舷スケグから左舷スケグまで連通させて形成すると、ストラット支持を不要にすることができるので、ストラットで支持する場合よりも、抵抗を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船を示す船尾側から見た図である。
【図2】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船の船尾形状を示す部分側断面図である。
【図3】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船を示す船尾側から見た図である。
【図4】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船の船尾形状を示す部分側断面図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の2軸ツインスケグ船を示す船尾側から見た図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の2軸ツインスケグ船の船尾形状を示す部分側断面図である。
【図7】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船を示す船尾側から見た図である。
【図8】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船の船尾形状を示す部分側断面図である。
【図9】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船を示す船尾側から見た図である。
【図10】本発明の参考となる2軸ツインスケグ船の船尾形状を示す部分側断面図である。
【図11】両端をストラット支持したフィンを備えた2軸ツインスケグ船を示す船尾側から見た図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して本発明に係る2軸ツインスケグ船の実施の形態について説明する。
【0021】
この2軸ツインスケグ船は、排水量型の船舶であり、バルクキャリヤーやタンカーやLNG運搬船などが該当する。
【0022】
図1及び図2に本発明の参考となる2軸ツインスケグ船1Aを示す。この2軸ツインスケグ船1Aは、スケグ2,2の間のトンネル部に、即ち、2軸ツインスケグ船1Aのスケグ2,2間に、翼弦の方向が2軸ツインスケグ船1Aの前後方向で左右方向に延びるフィン10を配置して構成する。つまり、このフィン10は、スケグ2、2の間の全長にわたって幅を略水平方向に延ばした全幅翼のフィンとして形成される。また、翼の配置としては単翼配置となる。
【0023】
このフィン10は、右舷スケグ2から左舷スケグ2まで連通させて形成し、船底3に接続する中央のストラット11で支持している。このフィン10をスケグ2,2に連通させることにより、フィン10のスケグ2側、即ちフィンの端部側のストラットを省くことができる。そのため、ストラットで支持する場合よりも、抵抗を少なくでき、また、水流の回り込みも防止できる。更に、構造が単純化し、また、ストラットが不要な分だけ軽量化ができる。なお、中央のストラット11もフィン10の強度によっては省略することができる。
【0024】
このフィン10の翼弦長は、垂線間長Lppの0.5%〜3.0%とすることが好ましい。この範囲であると、抵抗及び重量が大きくなり過ぎず、効率的に前進力を得ることができる。0.5%より小さいと得られる前進力が小さくなり、また、3.0%より大きいと重量が増加し、得られる前進力とのバランスから不適当となる。また、船底3との離間距離は翼弦長の20%〜100%とすることが好ましい。この範囲であれば、船底3を地面と見立てた地面効果を得ることができ、効率的に推進力を得ることができ、効果的に境界層の発達を低減できる。また、船底3に対する角度、即ち、船底に沿った流れに対する迎角はフィン10の断面形状によって異なるが、通常の翼形の断面形状の場合にはトンネル傾斜角の−20°〜+20°とすることが好ましい。
【0025】
なお、図11に示すように、フィン10を右舷スケグ2から左舷スケグ2まで連通させずに、両側のストラット11で支持することもできるが、この場合には、両側のストラット11の形状や方向を適切なものとすることができれば、プロペラ面における流れをより整流できる。しかし、適切な構成ができないと整流効果が悪化したり、抵抗が増加して得られる前進力が小さくなる。そのため、両側のストラット11で支持する場合には、このストラット11の形状や配置には十分な配慮が必要となる。
【0026】
図3及び図4に本発明の参考となる2軸ツインスケグ船1Bを示す。この2軸ツインスケグ船1Bは、スケグ2,2の間のトンネル部に翼弦の方向が2軸ツインスケグ船1Bの前後方向で左右方向に延びるフィン10を複数,プロペラ4の回転軸4cよりも上方に配置して構成する。つまり、このフィン10は、全幅翼として形成されるが、翼の配置としては多翼配置となる。
【0027】
この構成によれば、スケグ2、2の間の各部分における流れを効率良く利用することができるので、より大きな前進力を得たり、水流の整流効果をより向上させることができる。また、単翼よりも多翼の方が、個々のフィン10を小さくすることができるため、個々のフィン10に作用する力が小さくなる。そのため、個々のフィン10やその支持構造も構造が単純化し強度面でも楽になる。
【0028】
図5及び図6に本発明の実施の形態の2軸ツインスケグ船1Cを示す。この2軸ツインスケグ船1Cは、スケグ2、2の間のトンネル部に、翼弦の方向が2軸ツインスケグ船1Cの前後方向で左右方向に延びるフィン10を複数、プロペラ4の回転軸4cよりも上方に配置して構成する。このフィン10の一部は、スケグ2、2から片持ち支持され、中央のフィン10は、ストラット11で船底3に支持されたT型構造で形成される。これらのフィン10はいずれも、右舷スケグ2から左舷スケグ2まで連通していない。このように、スケグ2、2間の水流や構造的な面を考慮して、T型翼や、片持ち翼や、両側にストラット11を有するU型翼等の有限幅翼で形成してもよい。なお、ストラット11で支持する場合には、このストラット11の抵抗が大きくならないように、ストラット11の形状を流線形形状に形成するのが好ましい。
【0029】
この有限幅翼の構成によれば、少ないフィン10の幅で、スケグ2、2の間の水流の各部分における流れを利用することができるので、より軽量化できる。なお、図5及び図6では有限幅翼のみで形成したが、スケグ2、2間の水流の状態や構造的な面によっては、図1及び図2等のような全幅翼と図5及び図6のような有限幅翼とを混在させてもよい。
【0030】
図7及び図8に本発明の参考となる2軸ツインスケグ船1Dを示す。この2軸ツインスケグ船1Dは、スケグ2、2の間のトンネル部の出口近傍に、翼弦の方向が2軸ツインスケグ船1Dの前後方向で左右方向に延びるフィン10を複数、プロペラ4の回転軸4cよりも上方に配置して構成する。
【0031】
このフィン10は、2軸ツインスケグ船1Dの前後方向に関して、プロペラ4の直前に配置される。この配置により、プロペラ4の面内に流入する水流を整流する効果がより大きくなる。図7及び図8では、支持構造が単純化する全幅翼で形成しているが、船舶の左右方向に関してもプロペラ4の近傍のみに配置する片持ち支持の有限幅翼で形成することもできる。なお、片持ち支持では構造的に強度が足りない場合は、有限幅翼の船体中心側にストラットを設けて支持してもよい。
【0032】
図9及び図10に本発明の参考となる2軸ツインスケグ船1Eを示す。この2軸ツインスケグ船1Eは、船舶の前後方向に関して、スケグ2、2の間のトンネル部を出て、プロペラ4よりも後方の舵5の部分に、翼弦長の方向が2軸ツインスケグ船1Eの前後方向で左右方向に延びるフィン10をプロペラ4の回転軸4よりも上方に配置して構成する。このフィン10は、船尾スポイラーとなり、揚力による前進力を得るという役割と、船尾部分の流れを整流して船尾部分の抵抗を低減するという役割を果たす。
【0033】
上記の構成の2軸ツインスケグ船1A〜1Fによれば、スケグ2、2内部の上昇流の流れに対して配置されたフィン11に揚力を発生させることができるので、この揚力の一部を前進力に利用して推進効率を向上させることができる。また、このフィン11によりスケグ2、2内部の流れを整流して、スケグ2、2間のトンネル部からスケグ2、2の外側に回り込む流れを抑制して、スケグ2後端のプロペラ4に流入する水流の非対称性を抑制して対称流れに近づけることができ、プロペラ起振力を低減することができる。
【0034】
また、上記の2軸ツインスケグ船1A〜1Fは、通常の船舶でも効果があるが、方形係数Cbが0.65〜0.88で、航海速力Vsがフルード数Fn換算で0.12〜0.35の船舶である場合や垂線間長(Lpp)が100m〜350m等の中型船や大きな船舶の場合に特に大きな効果を奏することができる。
【0035】
この方形係数Cbは、船舶の排水容積をVとし、船の垂線間長をLpp、型幅をB、型喫水をdとした時に、Cb=V/(Lpp×B×d)となる無次元の値である。
【0036】
このフルード数Fnは、船速Vs(m/s)に関する無次元表示であり、船の垂線間長をLpp(m),重力加速度をg(m/s2 )とした時に、Fn=Vs/(g×Lpp)1/2 となる無次元の値である。なお、航海速力Vsは、計画速力等と呼ばれることもあるので、ここでも、航海速力の中に計画速力を含むものとする。
【符号の説明】
【0037】
1A,1B,1C,1D,1E,1F 2軸ツインスケグ船
2 スケグ
3 船底
4 プロペラ
4c プロペラの回転軸
5 舵
10 フィン
11 ストラット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水量型の2軸ツインスケグ船のスケグ間に、翼弦の方向が船体の前後方向で船体の左右方向に延びるフィンを、プロペラよりも前方で、かつ、プロペラの回転軸よりも上方のスケグ内の上昇流の流れに対して配置すると共に、前記フィンを、ストラットで船底に支持されたT型構造の中央のフィンと、右舷スケグから左舷スケグまで連通しない前記フィンとで形成し、かつ、前記フィンの船底との離間距離を翼弦長の20%〜100%にして形成した2軸ツインスケグ船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−111488(P2012−111488A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6861(P2012−6861)
【出願日】平成24年1月17日(2012.1.17)
【分割の表示】特願2007−94244(P2007−94244)の分割
【原出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)