説明

2部材の連結構造

【課題】 簡単かつ安価な加工により、孔から軸が抜けるのを防止でき、かつ、軸が軸受部材の長円形の軸受孔内を摺動する際、軸のぶれや本来の向きからの傾きがあった場合でも、軸の摺動に支障がでたり軸受部の破損を起こすことがない部材間摺動装置を提供する。
【解決手段】 座席受体(一方の部材)5の左右の側壁のそれぞれに、長孔7を穿設し、この長孔7に、長円形の軸受孔19を有する合成樹脂材料製の軸受部材18を嵌合し、座席受体5の両側壁間に、背杆(他方の部材)10の左右外側面を対向させ、この背杆10を貫通するように穿設した左右方向の軸孔13と軸受部材18の軸受孔19とに軸9を挿通して、両部材を連結し、軸9の一端に軸径より大径の頭部9aを設け、かつ軸9の他端に、かしめ部23を形成し、このかしめ部23を、軸9と直交する面に対して外方に開くラッパ状にかしめて取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、2部材を、特定の方向に相対移動可能として連結する連結構造、具体的には、一方の部材における左右の側壁のそれぞれに、互いに平行な長孔を穿設し、この長孔に、長円形の軸受孔を有する合成樹脂材料製の軸受部材を嵌合し、前記両側壁間に、他方の部材の左右外側面を対向させ、この他方の構成部材を貫通するように穿設した左右方向の軸孔と前記軸受部材の軸受孔に軸を挿通して、両部材を、長孔の長手方向に相対移動可能として連結した2部材の連結構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の連結構造においては、軸の一端に軸径より大径の頭部を設け、かつ他端に円周方向の溝を形成し、軸を両部材の孔に挿通した後、前記溝にEリングやCリングを係合させることにより、孔から軸が抜けるのを防止するか、または、軸の他端を圧潰して、上記頭部と同様の拡径部を形成し、孔から軸が抜けるのを防止するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述の従来のもののうち、前者の溝にEリングやCリングを係合するものでは、軸の溝加工に高い精度が要求されるばかりか、溝へのリングの係合が面倒であるために、コストアップとなるという問題点がある。
【0004】また、軸が軸受部材の長円形の軸受孔内を摺動する際、軸のぶれや本来の向きからの傾きがあると、前者の場合にはリングに、後者の場合には拡径部に、こじれ方向の負荷が発生し、前者ではリングが外れて軸が抜ける方向に動いたり、また、前者ではリングの外周が、後者では拡径部の外周が、合成樹脂材料製の軸受部材の外側面に食い込んで、軸の摺動に支障がでたり、軸受部の破損を招くという問題点がある。
【0005】本発明は、このような問題点を解決するため、簡単かつ安価な加工により、孔から軸が抜けるのを防止でき、かつ、軸が軸受部材の長円形の軸受孔内を摺動する際、軸のぶれや本来の向きからの傾きがあった場合でも、抜け止め部材の脱落や、軸の摺動に支障がでたり軸受部の破損を起こしたりすることがないようにした2部材の連結構造を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1) 一方の部材における左右の側壁のそれぞれに、互いに平行な長孔を穿設し、この長孔に、長円形の軸受孔を有する合成樹脂材料製の軸受部材を嵌合し、前記両側壁間に、他方の部材の左右外側面を対向させ、この他方の構成部材を貫通するように穿設した左右方向の軸孔と前記軸受部材の軸受孔に軸を挿通して、両部材を、長孔の長手方向に相対移動可能として連結した2部材の連結構造において、前記軸の一端に軸径より大径の頭部を設け、かつ前記軸の他端に、中空状のかしめ部を形成し、このかしめ部を、前記軸と直交する面に対して外方に開くラッパ状にかしめて取り付けたこと。
【0007】(2) 上記(1)項において、かしめ部を、軸と直交する面に対して10〜30度の角度で外方に開くラッパ状としたこと。
【0008】(3) 上記(1)または(2)項において、かしめ部の外径を、軸径より細くしたこと。
【0009】(4) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、一方の構成部材を椅子の座席受体とし、他方の構成部材を椅子の背凭れを支持する背杆としたこと。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明は、一般に、2部材を、長孔とそれを挿通する軸とによって連結するあらゆる機構に用いられるが、ここでは、一実施例として、椅子の座席と背凭れの傾動機構に用いたものをあげて説明する。
【0011】図4は、このような椅子の傾動機構を説明するもので、キャスタ(1)を備えた脚部(2)には、ガススプリングを内蔵した脚柱(3)が固定されており、脚柱(3)の上端には、基枠(4)が取り付けられている。
【0012】図4と、その要部の分解斜視図である図1とに示すように、基枠(4)には、座席受体(5)及び背凭れを支持する背杆(10)が、3つの連結部(A)(B)(C)により連結されている。すなわち、座席受体(5)は、基枠(4)に形成した長孔(6)と座席受体(5)に形成した長孔(7)とに摺動自在に嵌合した前後1対の軸(8)(9)をもって、基枠(4)に支持されている。後部の軸(9)は、背杆(10)の前端に穿設した軸孔(13)(図1参照)を挿通しており、この背杆(10)の中間部に突設した軸(11)は、座席受体(5)の後部両側部に形成した長孔(12)に嵌合している。
【0013】このような長孔と軸とによる連結部の構成は、着座者が背凭れに寄り掛かる時、座席受体(5)を、背凭れ、従って背杆(10)の後方への回動と連動して、後ろに移動しながら後ろに傾く運動をさせるためであり、着座者は、骨盤の近傍(P点)を中心に後ろに無理なく回転する。またこの際、座席の運動中心(Q)は、着座者の足の踝の位置に近ずくので、下腿部が上方に引っ張りあげられることがない。
【0014】図1及び図4に示すように、前述の連結部(B)の長孔(6)は、基枠(4)の左右両側の上縁に形成された傾斜面(14)と、座席受体(5)を挟んで基枠(4)の上面を覆う取付板(15)の下面に形成された傾斜面(16)とにより形成されている。軸(8)には、軸受部材(17)を嵌合させ、この軸受部材(17)の左右両端の上下面を、上下の傾斜面(16)(14)に当接させている。
【0015】連結部(A)では、座席受体(5)の左右の両側壁に穿設した長孔(7)の内側から、合成樹脂材料製の長円形の軸受部材(18)が挿入されている。この軸受部材(18)は、座席受体(5)の長孔(7)と同形で長孔(7)に嵌合する小径部分(18a)(図3参照)と、座席受体(5)の側壁の内側に当接する大径部分(18b)とを有するもので、中央に長円形の軸受孔(19)が穿設されている。
【0016】座席受体(5)の左右の両側壁間で、上述の左右の軸受部材(18)の間には、背杆(10)の左右の両側壁の下部に穿設した軸孔(13)の付近と、この背杆(10)の両側壁間に、基枠(4)の凹部(20)に収容される軸受部材(21)が配置され、背杆(10)の軸孔(13)と軸受部材(18)の軸受孔(19)と軸受部材(21)の軸孔(22)に、軸(9)が挿通されている。
【0017】軸(9)は、図2に示すように、その一方の端部に軸径よりも大きな直径の頭部(9a)を有するとともに、他方の端部には、中空状のかしめ穴(23)が穿設されている。かしめ穴(23)が穿設されている部分、すなわち、かしめ部の外径は若干縮径されて、縮径部分(24)を形成している。
【0018】軸(9)の挿通後、図3に示すように、かしめ穴(23)の比較的薄い壁厚の縮径部分(24)は、へらによってかしめられ、想像線により示すように、軸(8)に直交する垂直面に対して約10〜30度の角度θだけ外側に開くラッパ状に変形させられる。
【0019】連結部(C)においては、座席受体(5)に穿設された長孔(12)に、前述の軸受部材(18)と全く同様な長円形の軸受部材(25)が嵌合されている。この軸受部材(25)にも、軸受孔(19)と同様な軸受孔(26)が穿設されている。
【0020】座席受体(5)の長孔(12)に嵌合させた軸受部材(25)間には、背杆(10)が挿入され、その軸孔(27)が軸受部材(25)の軸受孔(26)に整合され、ここに軸(11)が挿入される。この軸(11)の他端には、図3について詳述したかしめ穴(23)と全く同じかしめ穴及び縮径部分が形成されており、ここを同様にかしめることにより、軸(11)が取り付けられている。
【0021】
【発明の効果】本発明によれば、上記の構成としたことにより、次の効果を発揮する。軸に円周方向の溝を形成し、この溝にEリングやCリングを係合させるような面倒な加工を施すことなく、簡単かつ安価な加工により、孔から軸が抜けるのを、確実に防止することができるとともに、Eリング等を用いた場合のように、軸が長円形の軸受孔内を摺動する際に、Eリング等の切り欠き部が軸受孔に係合して脱落する等のおそれがない。
【0022】請求項2記載の発明のように、かしめ部を、軸と直交する面に対して10〜30度の角度で外方に開くラッパ状にかしめると、軸が軸受孔内を摺動する際、軸のぶれや本来の向きからの傾きがあった場合でも、かしめ部の外周が、合成樹脂材料製の軸受部材の外側面と接触することがないため、かしめ部に、こじれ方向の負荷が発生することがなく、また、軸の摺動に支障がでたり、軸受部材の破損を起こすことがない。
【0023】請求項3記載の発明のように、かしめ部の外径を軸径より細くすると、長円孔と円孔への軸の挿通を容易に行うことができる。
【0024】請求項4記載の発明のように、一方の部材を椅子の座席受体とし、他方の部材を椅子の背杆とすると、部品点数が少なく組み立て容易な椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を備えた椅子の主要部分を分解して示す斜視図である。
【図2】図1に示す2部材の連結用の軸の拡大側面図である。
【図3】座席受体と背杆との連結部分の拡大縦断正面図である。
【図4】本発明を適用した椅子の概略構成図である。
【符号の説明】
(A)(B)(C)連結部
(1)キャスタ
(2)脚部
(3)脚柱
(4)基枠
(5)座席受体(一方の部材)
(6)(7)長孔
(8)(9)軸
(9a)頭部
(10)背杆(他方の部材)
(11)軸
(12)長孔
(13)軸孔
(14)傾斜面
(15)取付板
(16)傾斜面
(17)軸受部材
(18)軸受部材
(18a)小径部分
(18b)大径部分
(19)軸受孔
(20)凹部
(21)軸受部材
(22)軸孔
(23)かしめ穴
(24)縮径部分
(25)軸受部材
(26)軸受孔
(27)軸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一方の部材における左右の側壁のそれぞれに、互いに平行な長孔を穿設し、この長孔に、長円形の軸受孔を有する合成樹脂材料製の軸受部材を嵌合し、前記両側壁間に、他方の部材の左右外側面を対向させ、この他方の構成部材を貫通するように穿設した左右方向の軸孔と前記軸受部材の軸受孔に軸を挿通して、両部材を、長孔の長手方向に相対移動可能として連結した2部材の連結構造において、前記軸の一端に軸径より大径の頭部を設け、かつ前記軸の他端に、中空状のかしめ部を形成し、このかしめ部を、前記軸と直交する面に対して外方に開くラッパ状にかしめて取り付けたことを特徴とする2部材の連結構造。
【請求項2】 かしめ部を、軸と直交する面に対して10〜30度の角度で外方に開くラッパ状としたことを特徴とする請求項1記載の2部材の連結構造。
【請求項3】 かしめ部の外径を、軸径より細くしたことを特徴とする請求項1または2記載の2部材の連結構造。
【請求項4】 一方の構成部材を椅子の座席受体とし、他方の構成部材を椅子の背凭れを支持する背杆としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の2部材の連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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