説明

2重管型メタルハライドランプ

【課題】 2重管型のメタルハライドランプにおいて、封止部のクラックを抑制する。
【解決手段】本発明の2重管型メタルハライドランプは、内部に放電媒体が封入された発光管部11を有する透光性の気密容器1の外側に、少なくとも発光管部11を包囲するように透光性の外管が配設された2重管型メタルハライドランプであり、気密容器1と外管7とは、互いの一部分を溶解することによって接合され、かつ気密容器1の熱膨張係数a1と外管7の熱膨張係数a2との関係は、1.25≦a2/a1≦1.55である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前照灯等に使用される2重管型メタルハライドランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
筒状のガラス管の内部に、一対の電極を有する発光管をガラス管に同軸的に設けるとともに、発光管の両側にリング状の支持部材をそれぞれ設け、ガラス管と支持部材とを溶着することにより、発光管とガラス管とを一体化し、発光管と支持部材との熱膨張係数、およびガラス管と支持部材との熱膨張係数の各々の差は10×10−7/℃以下とする放電ランプの発明がある。すなわち、従来は内部の発光管と、外部のガラス管との接続には、他の部材を用いて行なわれていた。(例えば、特許文献1)
これに対して、現在では、内側の発光管と外側のガラス管を接続する際は、外側のガラス管の端部を内側の気密容器の封止部に、例えばシュリンクシールすることにより、他の部材を介在することなく、強固な一体接続を行なう方法が一般に用いられている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−78596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この他の部材を介在することなく、内外のガラス管を一体的に接続する2重管のメタルハライドランプにおいて、電極等を封着している封止部部分に入るクラックが問題となっている。そこで、このクラックに対して本発明者等が様々な検証を行なった結果、クラックの発生には封止部と外管の熱膨張係数が関係していることを見出し、提案するに至った。
【0005】
なお、上記特許文献1に記載の放電ランプでは、ガラス管と支持部材との間の熱歪によるクラックの記載があるが、本発明のクラックは、内外のガラス管が溶かし込まれるような強固な接続がされた構成のランプにおいて初めて生じる課題であるため、特許文献1とは相違する発明である。
【0006】
本発明は、封止部にクラックが生じにくい2重管型メタルハライドランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の2重管型メタルハライドランプは、内部に放電媒体が封入された発光管部を有する透光性の気密容器の外側に、少なくとも発光管部を包囲するように透光性の外管が配設された2重管型メタルハライドランプにおいて、前記気密容器と前記外管とは、互いの一部分を溶解することによって接合され、かつ前記気密容器の熱膨張係数a1と前記外管の熱膨張係数a2との関係は、1.25≦a2/a1≦1.55であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、2重管型のメタルハライドランプにおいて、封止部のクラックを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
以下に、本発明の実施の形態の2重管型メタルハライドランプについて図面を参照して説明する。図1は、本発明の2重管型メタルハライドランプの第1の実施の形態について説明するための全体図、図2は本発明の気密容器と外管との接合関係について説明するための図である。
【0010】
気密容器1は、例えば、耐火性で透光性の石英ガラス管からなり、管軸の略中央部に位置し、軸方向の形状が略楕円形の発光管部11と、その両端部に位置する板状の封止部121、122とで構成されている。発光管部11の内部には、軸方向の形状が略円筒状の放電空間13が形成されており、放電空間13には、主として金属ハロゲン化物のヨウ化ナトリウム、ヨウ化スカンジウム、ヨウ化亜鉛、および希ガスのキセノンが放電媒体として封入されている。なお、放電空間13の内容積は0.1cc以下とされるが、自動車用として構成する場合には、0.01cc〜0.03ccであるのが望ましい。
【0011】
封入された放電媒体について説明すると、ヨウ化ナトリウムに含有されている金属ナトリウムおよびヨウ化スカンジウムに含有されている金属スカンジウムは、主に発光金属として作用し、ヨウ化亜鉛に含まれている金属亜鉛は、主に水銀に代わるランプ電圧形成媒体として作用する。また、これらの金属ハロゲン化物の他に、セシウムの金属ハロゲン化物やインジウムの金属ハロゲン化物、スズのハロゲン化物等を付加しても構わない。なお、これらの金属は、ハロゲン化物の中で反応性が低いヨウ素と結合されるのが好適であるが、臭素や塩素などの他のハロゲン化物を使用したり、複数のハロゲン化物を組み合わせて使用したりしてもよい。また、希ガスのキセノンは、始動直後の発光効率が高いため、主に始動ガスとして作用する。
【0012】
なお、放電空間13には、本質的に水銀は含まれていない。この「本質的に水銀を含まない」とは、水銀を全く含まないか、または1ccあたり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀量が存在していても許容するという意味である。この量は、従来のショートアーク形の水銀入りメタルハライドランプに封入されていた1ccあたり20〜40mgの水銀量(場合によっては50mg以上封入されることもある)と比較すれば、本実施の形態のメタルハライドランプで許容する2mg未満の水銀量は圧倒的に少なく、本質的に水銀が含まれないと言えるからである。
【0013】
封止部121、122の内部には、例えばモリブデンからなる金属箔21、22が、その平坦面が封止部121、122の平坦面と平行するように封止されている。金属箔21、22の一端には、例えば、酸化トリウムを混合したタングステン金属からなる電極31、32が、溶接によって接続されている。なお、電極31、32は、先端側が基端側よりも大径に形成された段付きの形状となっており、その大径の先端側は、放電空間13内で所定の電極間距離を保って、互いの先端同士が対向するように配置されている。ここで、上記「所定の電極間距離」は、ショートアーク形ランプでは5mm以下、自動車の前照灯に使用する場合はさらに4.2mm程度であるのが望ましい。
【0014】
金属箔21、22の他端には、例えば、モリブデンからなる外部リード線41、42の一端が溶接等により接続されている。外部リード線41、42の他端側は、封止部121、122の外部に延出しており、封止部122の外部方向に延出した外部リード線42には、L字状に形成された給電端子5の一端が接続されている。そして、給電端子5の一部には、外部リード線42部分の電位が影響を与えないように、セラミック等からなる絶縁チューブ6が被覆されている。
【0015】
これらを備えた気密容器1の外側には、筒状の外管7がその長手方向に沿って少なくとも発光管部11、望ましくは気密容器1の大部分を覆うように設けられている。この外管7と気密容器1とは、封止部121、122の管軸方向外側のガラス管部分において、互いの一部分を溶解、接合することによって外管7の両端部分に形成される接合部71、72によって接続されている。なお、この接合部71、72の接合状態は、図面に示すように互いの境界が確認できない程度に、気密容器1のガラスと外管7のガラスがほぼ完全に混ざり合っている状態である。このような接合状態を形成するには、気密容器1と外管7とを接触させたあと、加熱してお互いを融合させればよい。
【0016】
なお、外管7は、石英ガラスにTiO(酸化チタン)、CeO(酸化セリウム)、Al(酸化アルミニウム)、KO(酸化カリウム)、BaO(酸化バリウム)の少なくとも一種、または複数の金属酸化物を添加することにより、透光性かつ紫外線遮断性を有するように形成されている。すなわち、気密容器1と外管7とは、互いに熱膨張係数の異なる材料で構成されており、本発明では気密容器1の熱膨張係数a1、外管7の熱膨張係数a2とすると、a2/a1の関係は、1.25≦a2/a1≦1.55となるように構成されている。この各熱膨張係数の比であるa2/a1の値は、外管7に添加するTiO、CeO、Al、KO、BaOの添加量、添加バランス等を変え、熱膨張係数a2を変化させることで増減させることができる。
【0017】
また、外管7と気密容器1により密閉された空間73は、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガスが封入されたり、真空雰囲気にすることができる。これらの構成にすることにより、寿命特性に影響を与えると考えられている水分を含みにくくすることができる。また、空間73をアルゴン雰囲気や真空のように熱伝導率が低い雰囲気としたときは、発光管部11の温度が高く保たれるため、発光効率を向上させることができる。
【0018】
気密容器1を内部に覆った状態の外管7の封止部121側には、ソケット8が外管7の外周面に取着された固定金属具9により、接続されている。このソケット8の端部には、点灯回路からの電力を供給するための金属端子81がその外周面に沿って形成されており、金属端子81は外部リード線42に給電端子5を介して電気的に接続されている。また、図示していないが、外部リード線41側と電気的に接続される他方の端子は、ソケット8の底部部分に形成されている。
【0019】
これらで構成された2重管型メタルハライドランプは、安定時は約35W、始動時は光束の立ち上がりを早めるために安定時の約2倍の電力の約75Wで点灯される。
【0020】
図3は、図1の2重管型メタルハライドランプの仕様等について説明するための拡大図である。放電空間13の体積は0.03cc、発光管部11の内径Aは2.6mm、外径Bは6.2mm、長手方向の最大長Cは7.8mm、電極間距離Dは4.2mmである。電極31、32の大径部分の直径は0.38mm、小径部分の直径は0.30mm、外部リード線41、42の直径は0.40mmである。発光管部11には、放電媒体として金属ハロゲン化物であるヨウ化スカンジウムが0.23mg、ヨウ化ナトリウムが0.37mg、ヨウ化亜鉛が0.09mg、臭化インジウムが0.001mg、ヨウ化セシウムが0.008mg、希ガスであるキセノンが10atmそれぞれ封入されており、水銀は一切含まれていない。また、空間73には、不活性ガスのアルゴンが0.7atm封入されている。
【0021】
図4は、図3のランプ仕様において、封止部と外管の熱膨張係数の比a2/a1を変化させたときの点灯時の伸び量の差を説明するための図である。ここで、図中の縦軸における+方向は気密容器の方が外管よりも伸びている状態を示し、−方向はその反対の状態を示している。なお、熱膨張係数の比a2/a1は、それぞれのガラスの温度が500℃のときの熱膨張係数で計算したものである。
【0022】
図4から伸び量の差が0であるのは、a2/a1が約1.41のときであり、その前後では、封止部または外管の何れかの方が伸びた状態になることがわかる。なお、封止部と外管の材料が同じ、すなわちa2/a1=1の場合では、外管7に対して気密容器1の方が大きく伸張しており、好適な条件でないこともわかる。
【0023】
上記のように、a2/a1=1が最も良い条件ではなく、封止部121、122と外管7の熱膨張係数に違いがあった方が良い結果になった原因は、点灯時の両者の温度差にある。点灯時に図3のZ地点における外管7部分の温度と発光管部11上部の温度を測定した場合、外管7は550〜650℃、発光管部11上部は900〜1000℃であり、それらの温度差は250℃〜450℃にもなることが確認された。つまり、光束立ち上がりや発光効率を向上させるために高負荷で点灯される水銀を封入しないランプや熱効率を高めるために空間73をアルゴン雰囲気にしたランプでは、点灯時に内外のガラスに大きな温度差が生じやすく、点灯時にはその温度差が原因でズレが生じる結果となったと考えることができる。
【0024】
図5は、日本電球工業会に定められている自動車前照灯用メタルハライドランプの寿命試験条件であるEU120分モードの点滅試験を1500時間行なったときの歪の状態とクラック発生率を説明するための図である。ここで、「歪」は、金属箔21、22等が封着された封止部121、122部分付近に発生したものであり、歪検査器を用いて観測結果をもとに、×(悪)〜◎(良)の評価をしている。ここで、歪検査器とは、観察したいガラス部分の歪み分布によって発生する光路差を検出することで歪を判別する装置であり、鋭敏色抜を利用することで、鋭敏色視野の色調の変化から、圧縮方向、引っ張り方向などの応力やその強さを観測することができる。また、図5におけるランプ試験数はそれぞれ10本である。
【0025】
結果より、a2/a1≦1.2、およびa2/a1≧1.6では封止部121、122に歪が強く発生しており、クラック発生率も高くなっているが、それ以外のa2/a1では、歪が緩和され、それに伴いクラックの発生率も低くなっているのがわかる。したがって、1.25≦a2/a1≦1.55であれば歪およびクラックの発生率を効果的に抑制することができる。また、さらに好適には1.3≦a2/a1≦1.5であるのがよい。
【0026】
ここで、クラックの発生メカニズムを次のように推測する。
【0027】
極端な例として、気密容器1は熱膨張せず、外管7のみが大きく熱膨張する場合を考える。この場合、熱膨張すると、外管7が接合部71、72により気密容器1を無理やり外側に引っ張って広げようとする形になるので、気密容器1には引っ張り応力が加わり、歪が生じる。そして、この歪が強いときには、気密容器1の中で比較的強度が脆い封止部121、122が応力に耐え切れず、クラックが発生したのではないかと考えられる。反対に、外管7は一切熱膨張せず、気密容器1のみが熱膨張した場合でも、熱膨張すると、封止部121、122が接合部71、72により外管7を広げようとする形になるので、気密容器1に歪が生じ、その強さに応じて封止部121、122にクラックが生じることになる。なお、言うまでもないが、気密容器1と外管7とが熱によって均等に伸びる場合には、歪が生じることはないので、クラックは発生しない。
【0028】
したがって、本実施の形態では、2重管型メタルハライドランプにおいて、封止部121、122の熱膨張係数a1と外管7の熱膨張係数a2との関係を、1.25≦a2/a1≦1.55とすることにより、気密容器1の歪を緩和し、封止部121、122にクラックが発生することを抑制できる。
【0029】
また、外管7を、TiO、CeO、Al、KO、BaOのうち少なくとも一種または複数の金属酸化物が添加される構成とすることにより、透過率を低下させることなく、人体に有害な紫外線を遮断する2重管型メタルハライドランプを提供することができる。
【0030】
さらに、気密容器1と外管7との間に形成される空間73を、真空状態またはガスが封入された状態にすることで、空間73に水分を含みにくい構成とできるほか、例えばアルゴンを封入した場合には、発光効率の向上等が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の2重管型メタルハライドランプの第1の実施の形態について説明するための全体図。
【図2】本発明の気密容器と外管との接合関係について説明するための図。
【図3】図1の2重管型メタルハライドランプの仕様の例について説明するための拡大図。
【図4】図3のランプ仕様において、封止部と外管の熱膨張係数の比a2/a1を変化させたとき伸び量の差を説明するための図。
【図5】EU120分モードの点滅試験を1500時間行なったときの歪の状態とクラック発生率を説明するための図。
【符号の説明】
【0032】
1 気密容器
11 発光管部
121、122 封止部
13 放電空間
21、22 金属箔
31、32 電極
41、42 外部リード線
5 給電端子
6 絶縁チューブ
7 外管
71、72 接合部
73 空間
8 ソケット
9 固定金属具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電媒体が封入された発光管部を有する透光性の気密容器の外側に、少なくとも発光管部を包囲するように透光性の外管が配設された2重管型メタルハライドランプにおいて、
前記気密容器と前記外管とは、互いの一部分を溶解することによって接合されており、前記気密容器の熱膨張係数a1と前記外管の熱膨張係数a2との関係が、1.25≦a2/a1≦1.55であることを特徴とする2重管型メタルハライドランプ。
【請求項2】
点灯中の前記発光管部と前記外管との温度差が250℃以上、450℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の2重管型メタルハライドランプ。
【請求項3】
前記放電媒体には、水銀は本質的に含まれていないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の2重管型メタルハライドランプ。
【請求項4】
前記外管には、TiO、CeO、Al、KO、BaOのうち少なくとも一種または複数の金属酸化物が添加されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の2重管型メタルハライドランプ。
【請求項5】
前記気密容器と前記外管との間に形成される空間は、ガスが封入された状態または真空状態であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の2重管型メタルハライドランプ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−344579(P2006−344579A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64386(P2006−64386)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】